Coolier - 新生・東方創想話

びょーき屋さん

2009/01/21 23:10:11
最終更新
サイズ
23.11KB
ページ数
1
閲覧数
636
評価数
8/34
POINT
1860
Rate
10.77

分類タグ


 姐さん返り咲き! 星熊勇儀、グランプリ獲得


 第616回 ミス・地底グランプリの投票結果が、1月25日に発表された。
 見事、今年度のグランプリを勝ち取ったのは、星熊勇儀氏。
 前年、前々年度グランプリの古明地さとり氏を下し、二年ぶりの返り咲きとなった。
 表彰式でのインタビューで、賞金の使い道を尋ねたところ、
「そりゃあ飲みに使うさ。もちろん今日は全部私の奢りだ、にゃはは」と笑顔で語った。

 勇儀氏をよく知るP氏に、彼女の勝因について尋ねたところ、
「あいつは、妖怪だろうが怨霊だろうが関係ないからねえ。皆から、いや、私を除く、皆から好かれるに決まってるじゃないの。全く、妬ましいったらありゃしない」とコメントした。
 分け隔てなく接する勇儀氏の姿勢が、勝利をもたらしたようだ。

 なお、今回の順位は以下のようになった。
 第一位 星熊勇儀 得票数 121
 ……



「いたいた、キスメ! 探してたよ? どこ行ってたか心配で心配で」
「う、うん。ごめんね? あの、これを貰いに……。ヤマメちゃんも見る?」
「下手にうろついて、変なのに囲まれてるんじゃないかと……。うん? それ、なに?」

 桶から伸びる細い手には、新聞のようなものが握られていた。

「はい、これ。ヤマメちゃんの分。号外記事だよ、号外記事」
「号外? 一体何のだろう」

 キスメから渡されて読んでみると、一面にはでかでかと「姐さん返り咲き!」とあった。
 何やら、今年も地底妖怪の人気投票があったらしい。
 出場の登録をして、ステージ発表があってだとか、そういうものじゃないから性質が悪い。
 地底に住む女は皆投票枠に設定されて、いつの間にか順位だのが決まっているのだ。

「毎回思うけれど、こういうのってあんまり好きじゃないかな。勝手に値踏みされてるみたいで」
「でも、知ってる子が上のほうにいたりして、見るの面白いかなって。ヤマメちゃんだって去年……」
「ま、まあ確かにそうだけど……」

 地底の明るい人気者で通っているせいか、前はそこそこ良い位置に付くことができたのだ。
 何だかんだでちょっぴり嬉しかったけど、相変わらずキスメがランキングのどん底に居たのを覚えてる。
 一緒に飲みに連れていったら、愚痴を小一時間聞かされたんだっけ。

「キスメはもう見たの?」
「ううん、まだ。ヤマメちゃんと一緒に見ようと思って。一人で見るの、何だか怖いもん」
「分かるなあ。まあ、見ていこっか」

 第四位 キスメ 得票数 72

 コメント 

 内気な子で可愛いです。
 地底に貴重なツインテール分!
 前、桶の中身みたら鼻血吹いた。
 飲みっぷりがいい。
 運びたい。
 焼きたい。
 ……

「……え?」
「あ、すご……。どうしよ、私!」

 焦るなヤマメ。負けるなヤマメ。落ち着いて自分の順位を確認するのよ。
 目線を下にスクロール。文字列が流れていって……。
 あれえ、おかしなところに自分の名前があった気がするぞう。
 もう一度、一番上に戻っていって、下にスクロールして確認を……。

「あ、あれ……? あれ、どうして? 嘘?」
「その、ヤマメちゃん、あんまり気を落とさないで……」

 キスメが遥か彼方に見える。
 最早彼女には、手を伸ばしても届かない位置に行ってしまった。
 スパイダーウーマッなんて所詮は流行りだったのね。
 キスメの声に我を取り戻すと、彼女の純粋な眼差しが私を捉えていた。
 その可愛い顔してババンバンで票を稼いだと言うのね。なんて恐ろしい子!

「キ、キスメの裏切り者ー!」
「あ、ちょ! ヤマメちゃん!?」

 何だか居たたまれなくなって、私は駆け出してしまったのであった。



 サングラスに、野球帽。そして顔の半分を覆うマスク。

「ふふふ、完璧ね。誰も地下の妖怪とは思うまい」

 地下が駄目なら地上に行けばいいじゃないと考えて、やってきましたはるばると。
 洞窟に比べて地上はずっと寒く、蜘蛛の私には厳しい環境であった。
 人目を盗んで地下から出たことがあったため、地上体験は初めてではない。  しかし、地底には見られない、草木だとか青空だとかはやっぱり新鮮だった。
 ふらふらと歩いているうちに、何やら賑やかな音が耳に飛び込んできた。
 行くあてもないのだ、そっちに行ってみようか。

 着いたのは集落地のようなところで、古風な民家が立ち並んでいる。
 楽しげな曲の発生源へ歩いていくと、文字通りの「人」だかりに行き着いた。
 よく見ると、妖怪らしい者もちらほら混ざっている。
 人間と妖怪ってうまく共存しているのだろうか。
 あるいは、音楽の前では皆、友なのだとかという原理が働いているのだろうか。
 ともかく、立ち見客の後ろの方で、ゆっくりと聞かせてもらうことにした。
 突貫で造ったらしいステージの上では、幽霊のような子が三人、個性的な演奏を鳴り響かせていた。

「人形の地位を上げませんかー!? 是非投票は私にー!」

 人妖が集まっていることを良いことに、何やら宣伝が聞こえてきた。
 可愛らしいブロンドの、小さな女の子がてくてくと歩いてきて、ビラを渡された。

「へえ、地上でもやるんだ、人気投票」

 自分にとっては好都合。地底でのリベンジを果たすチャンスではないか。
 ただ、ここから知名度をあげるとなると、いささか厳しいものがある。
 元から地上で人気の高そうな者、まさに今ステージの上にいるような子達には、太刀打ちできるはずもない。
 どうすればいいのだろうか。

「今のが新曲でした。私が仕入れた、毛玉が脱皮する音をうまく入れてみたよ!」
「次が最後の曲だけど、皆を思いっきりハッピーにしてみせるよ!」
「それではお聞きください。プリズムリバー楽団でした」

 華やかだな、と思った。
 次から次へと押し寄せてくる音の波が、彼女らを引き立たせている。
 しかし、プリズムリバーの演奏ということで、これだけの集客ができるということは……。

「個性、かな……」

 おそらくは、楽器という武器を持っているのは、この楽団ぐらいのものなのだろう。
 だからこそ、他の人よりも浮き立ち、自然と目をひくのだろう。
 さらに、楽団としての個性だけでなく、彼女ら三人にもそれぞれ違った良さが表れている。
 そのお陰で個々の魅力が、より浮きだっているように見えた。

「なら、私だって!」

 自分にしかない武器を使えば、地上でも人気になれるはずだ。
 そうなると自分ができることは、あれしかない。
 待っていろ地上もんめ。ここで、そこそこの人気を得てみせる!



「お、いらっしゃい」
「こんにちは、回診にやってきましたー」
「こんな小屋、あったかしら?」

 入ってきたのは二人連れ。一人はうさ耳、一人は銀髪おさげ。
 回診ってどういうことだろう。ここは病院ではないぞ。

「見ない顔ね……。あなたはこんなところで何をしているの?」
「ああ、実はここ、びょーき屋さん。最近できたばっかりなの」

 そう、びょーき屋さん、それが私の答えだった。
 病気にする能力なんて、あまり使いたくは無かった。
 けれど、自分にはこれしか無かった。
 集落から外れた森の近くに、突貫工事で建てたのだ。
 最初は、需要がないと思っていたが、「けーね先生の授業を本気でさぼりたい」とか、「暇だし苦しい思いをしたい」とかいう理由で、そこそこの客がやって来た。
 でも、こんなので本当に人気になれるのだろうか。不安で仕方ない。

「そちらこそ回診というと、どういうことを?」
「ああ、私達は、ただの薬売りなの。それで時々、こちらの師匠。師匠自らが来て、皆の健康状態をチェックしているの」

 紹介にあわせて、にこやかに、こくこくと頷く師匠らしき方。
 何だか怖い、明らかに只者でないオーラを出している。
 白とかピンクのナース服じゃないもの。赤と青のコントラストが凄まじい服だもの。
 その上で北斗七星なんかが、ちかちか光ってるもん。怪しすぎる。
 でも、病気の主である私は、医者が天敵である。私が怖がるのも、無理はないか。

「でも、びょーき屋って面白いわね……。もしかして売ってくれるの? 病気を」
「もちろん。風邪からエボラまで、何でもしてあげるわよ。死なれるとこっちも困るから、ほどほどだけどね」
「ふうん……。ねえ優曇華、これって好都合だと思わない?」
「……と、言いますと?」
「彼女がどんな病気をかけることができたとしても、私はそれを全て治療できる」

 目の前で宣言されると何だか悔しいなあ。
 それにしても大した自信だ。それが本当なら、私の能力が全否定されるではないか。
 そんな自信家の赤青女医が、兎っ子の両肩を押して、一歩前に出させた。

「うまく利用すれば、良い宣伝効果になると思わない? 優曇華」
「ちょ! 師匠! まさか私を病気に!? こんな怪しい奴に!?」
「ひーひー言ってるところを皆に見せたら、私が出てくる。あっという間に、ほらもう元気」
「うう、分かりましたよ。直ぐに治してくれるなら構いません。で、何の病気にするんです?」
「じゃあ泌尿器系の……」
「駄目! それは駄目ですって! 無理無理!」
「私の薬が信じられなくなったの!? ひどい!」
「ちが! 師匠、そうではなくて……。もっとこう、そう! インフルエンザとか!」
「内科系の病気にしたら座薬にするけど、それでもいいかしら?」
「し、ししょう……。お願いです、勘弁してください!」

 私を放っておいて、何だこの漫才は。楽しそうにしやがって。
 結局、議論の末、優曇華は泌尿器系でも内科系でもない、皮膚病にしてあげた。
 「皮膚病だと分かりやすくて宣伝になるわ」と言っていたけれど、本当にあの女医、大丈夫なのかなあ。
 でも大衆の前で座薬という事態だけは防げた。あの兎も安心した顔を浮かべていた。
 あれ、でも良く考えたら塗り薬というのも……。



「ありがとう、機会があれば、また来るわ」
「うーん、何と言えばいいのか……。まあ、ありがとうございます」
「はい、こちらこそ、どうもありがとう」

 薬売りの二人を見ていると、彼女達は人気なんだろうな、と思った。
 皆を見て回るから、知名度は保障される。
 さらに、病気を治してくれるってだけで、普通の者は良く思うはずだ。
 私の商売でもうまくいけば、多くの者から好印象を持たれるに違いない。
 そう思うと、少し自信がでてきた。



「いらっしゃ……」
「紫もやしを! 三百年間! ひーひー言わせたい!」
「待って待って! 他人を病気にするのはNGだって、お客さん!」

 びっくりした。
 店にやって来るなり、鬼の形相でカウンターを叩いてきたんだもの。
 息を荒げて顔を近づけられて、椅子から転げ落ちそうになった。
 彼女の両肩についている人形が、慌ててなだめていた。

「そうよね、さすがにそれは駄目よね」

 津波が一瞬にしてさざ波に変わった。すぐにクールな声で返答した。
 よく見ると美人だな、と思った。落ち着いているとき限定ではあるが。
 可愛らしいとか、くりくりしてるとか、そういう子が地底にも地上にも多い。
 そんな中、何だか大人っぽい雰囲気を持っていて、どきどきしてしまう。
 すらっとした足から、透き通ったブロンドの髪まで、何だか羨ましい。
 あ、ブロンドは自分もか。でもさらさらしてそうでいいなあ。

「評判になってたから来てみたの。月兎だろうが天人だろうが、病気にできるってね」
「そんなことになってたんだ……。ちょっと嬉しいかな」

 店を建てた本来の目的は、地上で知名度を上げることだ。
 彼女の発言からすると、自分の作戦がうまく行っていることが実感できる。
 心の中でガッツポーズ。

「でも、お客さんの希望には答えられなかったね。お帰りなさいな」
「さっきのは冗談よ。私を病気にするのなら、いいのよね?」
「冗談なのかなあ……。もちろん、本人なら大丈夫だよ」

 冗談にしては演技が良すぎると思うんだけどな。
 般若がクレオパトラにモーフィングする瞬間を見てしまったもの。
 
「軽い風邪でいいんだけど。二日分、お願いできるかしら」
「ふうん……。何か、ずる休みでもしたいことでも?」
「まさか。……妖怪ってのは気まぐれなもんだからね」
「私も気まぐれで熱病にしちゃおっかなー」

 私の冗談に、彼女が穏やかに微笑んだ。
 でもどこか、憂いを感じさせるなあ。これが美女ってもんか。
 見てると段々悔しくなってきた。さっさと病気にしてやろう。



「前はよく、風邪ひきさんになっててね」

 彼女の帰り際、ぽつんと呟かれた。
 「前は」といっても、何の前なのかよく分からない。
 気になるけれど、お客のプライバシーを根掘り葉掘り聞くのはよくない。
 こういうときは、耳を傾けるだけでいいものだ。

「でももう、ひきたくてもひけなくなっちゃったからね。風邪」

 そう言われると、何だか自分も、風邪になっていいかなと思えてしまう。
 変なところで需要があるもんだなあ、病気。

「明日から、ちょっとした時間旅行ができるわ。ありがとう」
「いえいえこちらこそ、ありがとうございましたー」

 店のドアを閉める動作まで、お姉さんだった。
 自分もあんな風になったら、もっと人気になるかなあ。
 そういえば彼女の声だけは、どこかで聞いたことがあったような。



 地上の人気投票の締め切りが、一週間後に迫っていた。
 地底の妖怪という身柄上、そして商売上、こそこそとした店なのは相変わらずだ。
 しかし口コミで、じわじわと評判ができているのは確実である。
 ただ、店の人気と自分の人気は、ノットイコール。それだけが心配だ。
 それも、開票日が来れば分かるはず。

「いらっしゃい……?」

 今までと種類の違う客がやってきた。
 店に入るなり、もじもじと俯くばかりで、会話ができない。
 緑のショートから伸びている、触角らしきものは垂れ下がるばかり。
 ひょっとしたらこの子、蟲仲間なのだろうか。
 蟲っ娘か。可愛いねえ。うじうじしてると食べちゃうぞー。

「えーっと、お客さん?」
「……あ、えと、その……」

 この恥ずかしがりっぷりときたら、桶から引きずり出したキスメのそれ以上だ。
 何かを言おうと、息を大きく吸い込んでは、力なく吐き出してはと繰り返すばかり。
 いいねえ。内気な子はいいねえ。糸でひっぱってリードしてあげたい。
 でも、このままじゃ埒が明かない。
 コーヒーでも用意して、話しやすい雰囲気にしようか。

「あ、角砂糖は十個で、お願いします」

 そこはしっかり自己主張するのね。



「ありがとうございます、わざわざ……」

 砂糖がどろっどろに溶けたホットコーヒーを、彼女に差し出した。
 ようやく緊張がほぐれたようで、顔が前を向くようになった。
 これでようやくコミュニケーション可能だ。

「で、今日はどうしたの? えらく、話しにくそうにしてるけど?」
「えと、ここなら、病気のスペシャリストがいるって聞いたから……」

 ただの評判からスペシャリストに格上げ。段々良くなっていくなあ。
 だけどこれ、本当に人気と関係あるのかなあ。やっぱり心配。

「それでその……わ、わた……こ……」
「えっとー? こ?」

 あー、また始まった。顔が瞬時に完熟トマトと化してしまった。
 触角がぷるぷる震えてて、何だか可愛らしい。
 これで振り出しに戻ったかなと思っていたら。

「私を! 恋の病にしてください!」
「んぐっ! グエッホ! ぐ……ゲッホ!」

 コーヒー吹いちゃいけない! そう思ってたらコーヒーむせた。
 いけない、これ熱いって。息できないよ。
 風邪になりたいって、さっきちょっとでも思ったけど、取り消し。
 咳ってこんなにひどいのね。そりゃ忌み嫌われるわ、私の能力。

「あ、あれ!? 大丈夫です!?」
「ぐぇ……その商品は当店では取り扱いしておりません」
「だ、だって病気のスペシャリストって!」
「まあ、落ち着いて。まずは理由でも話してよ」

 恋の病か。いいなあ、そういうのも操れたら、たちまちに人気者になれそうだ。
 でもこれは自分の能力というより、古明地んとこの妹さんの分野のはず。
 餅は餅屋で、私は生憎、餅屋ではなかった。
 でも、相談相手ぐらいには、なれるだろう。

「えっと、まず……。私、こんなだから男の子に間違われやすくって」
「うーん。まあ確かに、分かるっちゃあ分かるかな?」

 先の客に比べて、女の魅力というかフェロモンが欠如しているのは明らかだった。
 でも気にするほどかと言われれば、そうでもないと思う。
 蟲同士だから、雌雄の判別が他の者達より分かるからなのだろう。

「それであの、ある薬師に聞いたんです。女にしてくださいって。そういう薬くださいって」
「それはまた勇気あるなあ……」
「そうしたら言われたんです。『あなたにとっての特効薬は、恋ね』って」
「恋は女を美しくするって、確かに言うね」
「そうしたら、病気専門店があるからそこに行って、恋の病にしてもらえって……」

 あ、あれ……? この薬師って一度ここに来たことがあるような。
 何て無茶振りをしてくれたんだ。評判があがると期待もあがるのね。
 応えられないってこんな期待。
 でも、彼女の悩みには答えられると思う。
 彼女、何処からどう見ても、既に女の子ではないか。

「いいんじゃないの? そのままで」
「え?」
「気づいてないかもしれないけれど、今のお客さん、結構可愛いよん?」
「へ? いや、えっと……ご冗談を」
「女の子はね。もっと女の子らしくありたいって思うもんよ。あなた、十分女の子してる」

 最後に言った「女の子」には、思春期真っ盛りという言葉を付け足したい。
 若いっていいのう。こういう純粋さも、人気の秘訣なのかな。

「今のままでいいの。もし恋を知りたけりゃ、時間が解決してくれるし。そんなもんよ」

 私の話をぼーっと聞いていたかと思うと、彼女は照れくさそうに笑いながら、頭をかいた。

「そんな、もんなのかな」
「うん、そんなもん」

 彼女は悩みが吹っ切れたのか、帰るときまで笑顔を絶やさなかった。
 キスメも、こういう純情路線で人気を得たのかなあ……。
 


 地上での人気投票結果が、とうとう発表された。
 朝から鴉天狗がせわしなく新聞をばら撒いている。
 トップを飾ったのは、メルラン・プリズムリバー。
 彼女の熱狂的なファンクラブによるものが大きいとか。
 寒空から落ちてきた新聞を一つ手にとって、店内に戻った。
 いつも結果を見るのは、緊張してしまう。
 
「あ、載ってる……!」

 まず、それに驚いた。びょーき屋の店主として、投票枠になっていた。
 そして次に、その名前を発見したところに驚いた。
 所謂、ランキング欄の四角の、丁度中ほどに書かれてあるのだ。
 既に地上の中堅クラスの仲間入り。
 地上に来たばかりであるのに、そこそこの人気が得られていたのだ。

「良かった。うん。良かった」

 しかしどうしてだろう。人気者になろうと、ずっと思って行動していたはずなのに。
 いざ結果として表れると、人気があっても、何でもないことのように感じられた。
 こじんまりとした、薄暗い店内で、私は「贅沢になったかな」と思った。
 嬉しかったのは、名前を見たその一瞬だけだったのだ。

「いらっしゃい……」
「あー、高熱が出るようなの。一日でいい」

 テンション低いなあ。私も今、そうだけれど。
 店に来るなり「この冬めが、レティめが」と何やらぶつぶつ呟いている。
 朱色の帽子にレーズン乗っけてるし。いや、かろうじてブドウ?

「何か嫌なことでもあったの? お客さん」
「冬なんて毎日が厄日よ。あと私、客だけど神様。穣子様。そこんとこよろしく」
「はあ、穣子様……。で、今日はどうしたの? 神様も病気になりたい時があって?」
「姉ちゃんがね。冬だからって構ってくれない」

 えらい可愛い神様だな。構ってほしいからって病気になりたいのか。
 でも姉妹そろって鬱になっているのは、想像したくない光景だ。
 看病するほうも、されるほうも愚痴愚痴言ってるのだろうか。

「枯葉姉におじや作らせてやる、ふふ、ふふふ」
「でも何だかんだで楽しそうだね」

 仲睦まじい姉妹だことで。
 そういう家族、ちょっと欲しかったかも。

「そういえばあなた、見ない顔ね。どうしてまた、こんな商売を?」
「ま、こんな能力でも皆の役に立てればいいかなーと」
「嘘だねえ。嘘つきはいやだねえ。神様はお見通しよん。顔に出てる」

 神通力だかさとりだか分からないが、見破られたか。でも仕方ないかな。
 せっかくの願いが叶ったというのに、つまらない気持ちになっているのだ。
 そういう変な気持ちを持っていたら、顔に出るのも当たり前だ。
 
「どうよ、ここは私に、ぱーっと打ち明けてみな?」
「むう、分かったよ。ええっと……」

 どこから話せばいいのか分からない。だから、思い切って、出来る限り昔のところから話すことにした。

 今からずっとずっと昔から、人気というものに憧れていた。
 自分は土蜘蛛で、それも病気を操る程度の能力なんかを持っていた。
 当然、これといった友達もできずにいた。
 それで、落ち込んでは、性格は暗くなる一方。
 暗くなっては、より一層、周りから逃げられてという繰り返しだった。
 なんだか、人気者が幸せそうで、羨ましかった。

 今の地底に入った頃が、私の転機だった。
 皆が皆、揃いも揃って忌み嫌われた存在なのだ。
 ここならもっと、楽しくできるのではないか、良い仲間に恵まれるのではないかと思ったのだ。
 チャンスを活かそうと思って、自分を変えようとした。
 まずは自分と同じような、内気な子に積極的に話しかけた。
 嫌がられるといけないから、自分の能力を無闇に使わないようにした。
 結果、それなりにうまくいって、仲間もできた。今では地底の明るい人気者だ。

 でも、その人気者という称号が怪しくなって、地上に飛び出してしまった。
 そうして、開き直って能力を使ったら、それなりの人気が得られて……。

「無限ループじゃない、私!?」
「なるほどね、人気ねえ……」

 人気が出ても嬉しくなかったのは、それが廃れると分かってしまっていたからだ。
 もし地上でうまくいったとしても、結局飽きられて、別の場所に行くことになる。
 最後には行き場所がなくなってしまう。

「でも、どうしたらいいのか、私にはまだ……」
「うん、それはね、お嬢ちゃん。あなたは一つ、勘違いしてるからだと思うな」

 勘違い。どういうことだろうか。
 今まで生きててずっと、何か間違ったことでもしていたのだろうか。

「あなたが欲しいのは、人気なんかじゃない」
「人気じゃない……? でも私は、それを何とかしようってずっと思ってて!」
「違う。あなたが欲しいのは、愛さ!」

 ……愛? 愛を唱えるなんて、宗教を間違えてるんじゃないか。
 愛だなんて、人気の構成物質なんじゃないのか。
 人気が無ければ、周りは皆、見向きもしてくれないのに!

「人気なんてのに捕らわれちゃ駄目さ。その新聞、貸してみな」

 机の上にあった、地上の人気投票の号外をひったくられる。
 そういえば穣子という名前が、一覧にあった気がする。
 嫌な予感がする。彼女は確か……。

「見てご覧。私にはたった十二票さ。むしろ去年よりあがってるがね」
「やめてよ、そんなのを自慢されたって困る!」
「でもね。私は幸せなんだよ。人気なんかなくたって、ずっと幸せさ」
「どうして!? 人気が無いっていうことは、嫌われ……」

 途中まで言って、自分の過ちに気がついた。
 十二票であっても、一票であっても、これは好感を持った者に対する投票である。
 その数字は、嫌われていることを、示さない。
 そうなると、地底のときの、あの結果発表だって……。
 でも、しょうがないじゃないか。
 嫌われたくなくて、一生懸命だったんだから。

「あんまり昔がひどかったのかな。それで、どうも過剰に愛を欲しがった結果だろうね」
「そう、みたいだね……」
「やっぱり皆から好かれてないと、不安?」
「不安、だからこんな地上まで来ちゃったんだよ」

 変に反発してしまうけれど、もう、彼女に耳を傾けることしかできなかった。
 それは自分でも、自分の間違いに、段々と気がついてきていたから。

「私はこう思うの。私の姉さんも、お百姓さんも、ひょっとしたら穣子フアンも、きっと私を良く思ってる。だから、私はね、それでもう十分。十二分よ」

 その時、初めて目の前の神様が神様らしく見えた。
 手の平をあわせて、目を細めて微笑んだ穣子様。
 すごく、幸せそうだなと思った。

「でもあなたにも、いるんじゃないの? そういう子が、せめて一人くらい」
「……いる、ね。確かにいるよ」
「じゃあ、その子、大切にしてあげないとね。愛は量より質よ」

 ああ、自分は。たった一人の友達を大切にすることができなかった。
 人気という量に捕らわれていたせいで、彼女を放っておいてしまった。

「ありがとう、自分の中ですっきりした」
「そう、良かった。ああ、冬に他人の役に立てるなんて、珍しいわあ」
「穣子様の仕事が終わったら、これで店仕舞いにするよ。その子、地底にいるもんで」
「そっか。うん、良かったら、地上にまた来てね。それなりにあなたの能力、重宝されてるわよ」

 幸せ者ではないか。行き場所がないどころか、どこに行っても歓迎されるなんて。
 でもまずは、キスメに会わないといけない。いや、会いたくて仕方が無い。
 穣子様を見送った後、板張りの簡素な店をそのままに、地底に向かうことにした。
 ひょっとしたらまた、ここに来ることがあるかもしれないから。



 久々の地底は、ぽかぽかと暖かかった。時折吹く風が、妙に心地よかった。
 キスメを探そうと思ったら、洞窟に入ってすぐのところに、見覚えの有る桶があった。
 ひょっとしたら、自分を待っててくれていたのだろうか。申し訳ないのと同時に、嬉しく思えた。
 こんこんと桶をノックすると、ちょっぴり懐かしい顔が、ひょっこりと出てきた。

「あ、ヤマメちゃん! やっと帰ってきた……。心配したよ?」
「ごめん、ほんとにごめん、キスメ! 一人にさせてて悪かったよ」
「あ、そんないいって! 顔を上げてよ。気にしてないから大丈夫だよ」
「そう、良かった。でもちょっとは気にしてほしい、かも」
「むう……。だけど寂しかったよ、全然帰ってこないんだもん」
「うん、ごめんよ。……それと、会って早々、何だけどさ」
「ん? なになに?」
「ちょっとしたお願いがあって、ね」

 謝ったら、キスメにこれを直ぐに言いたかった。
 いざとなると、中々言いにくい。これじゃ何時かの蟲っ娘ではないか。
 一度大きく息を吸って、覚悟を決める。

「あの、これからも、ずっと友達でいてほしいなって……。こんな私だけれど、ね」

 洞穴内で、やけに自分の声が響いて聞こえた。
 拒絶されることも、ひょっとしたらあるかもしれない。
 そんな考えが一瞬、頭をよぎった。
 でも、キスメはずっと、嬉しそうに私の言葉を聴いていた。

「……うん、私からもお願いするよ」

 全身の緊張が解けて、安堵と喜びに昇華された。
 人気なんかにこだわらなくても、この子はちゃんと応えてくれるではないか。
 何でもないようだけど、それが今の私にとって、最もありがたいものだ。
 あんまりキスメが愛らしくて、桶を抱いて回っちゃう。

「ああ、良かったあ! ありがとう、ありがとうだよキスメ!」
「あ、ちょっと! どうしたの? 今日のヤマメちゃん、ちょっと変だよ?」
「いや、何だか嬉しくって。うん。ああ、よろしくね、キスメ!」
「あ、うん。こちらこそよろしくだよ」
「そうだ、去年の今頃に、一緒に行ったお店があるじゃない。今からそこで、飲まない?」
「ん、いいねー。ヤマメちゃんと飲むなんて久しぶりで、楽しみだよ」
「そうと分かればレッツゴーだよ!」
「おー! ヤマメちゃん、今日は潰しちゃうから、覚悟してねー」

 今日も地底は平和だ、お酒がうまい。
 何も不安がることなんてないじゃないか。私にはキスメがついていてくれるもの。
 人気依存症候群という私の病は、この日にようやく、完治した。
 
不人気キャラに愛の手を!

自分の好きなネタで書くことができて、楽しかったです。
人によっては苦手なネタが含まれているのがちょっと心配ではありますが。

これで創想話5作目。まだまだ新人ですが、ちょくちょくとがんばっていきますよー。
飛び入り魚
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1170簡易評価
3.90煉獄削除
キスメが可愛い。
というか、桶を覗いて鼻血を出したって……いったいその中はどうなって……。
ヤマメの病気にする力を面白く使った作品でしたね。
ただ面白いだけじゃなくて、穣子たちとの真面目な会話とか
ちょっとした話とかがとても良かったと思いますよ。
面白かったです。
5.70名前が無い程度の能力削除
王道と言えるお話で、面白かったです。
特に穣子が良いキャラでしたw
ただちょっと疑問に思ったのが、人気投票のこと。
能力が原因で恐れられているという原作設定のさとりが2年連続で1位になっていたり、
逆に能力の為だけでも地上で人気がありそうな穣子が最下位だったりするのが不思議で。
些細なことかもしれませんが、その辺りの理由も書いてほしかったです。
6.無評価飛び入り魚削除
>>5
レスありがとうございます。
さとりについては、あくまで地底の人気投票であるということで、
ペット勢力という固定票の存在を妄想しておりました。

穣子様については、人里とはいえ土地はそこまで広くないため、お百姓さんの人数がさして多くないだろうということに加え、
農業の神様である神奈子様というライバルが現れたためということを妄想しておりました。
特にこちらは考えるばかりで結局盛り込むことができなくて、自分としても残念です。

いずれにせよ、私の描写不足が原因であると思います。
ご指摘ありがとうございます。
うまくまとめらる技量を身につけるよう、精進して参ります。
22.90名前が無い程度の能力削除
本当の人気投票では
メルランもキスメもヤマメも壮絶なことになってることが、涙を誘う

びょーき屋って発想もよかったし、皆良い性格でほのぼのしましたよw
24.90名前が無い程度の能力削除
よし、慧音先生の授業を休んだ君。
ちょっと頭突きされなさい。
25.100名前が無い程度の能力削除
すげー! いいヤマメだー!
ヤマメちゃんの人気をあげるために、私も頑張ります!(何を?)

しかしヤマメ話を抜きにしても、話の雰囲気というか『和み』が実に素晴らしいっす。
元気をいただきました。ありがとう!
30.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
あと永琳・・・w
31.70名前が無い程度の能力削除
ふむ
35.80名前が無い程度の能力削除
割ときちんとした商売になってて予想外だった(相談所みたいになってっけど)