昔々、何処かの世界の小さな村に、銀色の髪を持つ少女がいました。
その少女はとある悩みを抱えていました。
少女には友達がいなかったのです。
何故なら、少女は不思議な力をもっていたからです。
その力を持った少女を不気味に思った人々は、少女を避けていたのです。
故に少女はずっと一人でした。
しかし、少女も寂しい想いをしながらも、その事実を受け入れていました。
何故なら、少女は母親にこう言われていたからです。
その力は神様がくれた贈り物です。大事にしなさい、と。
幼い少女は、母親のその言いつけを信じました。
この力は神様の贈り物。友達ができないのはその代償だ、と。
少女はずっと友達を作らず暮らしてきました。
そしてその事に疑問も持たずに、母親と幸せに暮らしてきました。
そんなある日、少女の住む村に沢山の大人がやってきました。
大人たちは村の一番偉い人と何か話しています。
少女もその様子を家の中から覗いていました。
すると話を終えた大人たちは、少女の家にやってきて母親に言いました。
母親は大人たちに必死に何かを言っています。
しかし大人たちは、そんな母親の言葉に耳を貸さず、何かを叫びながら母親を殴り倒しました。
少女は母親に近寄ろうとしました。
しかし大人たちは、少女の腕を掴み言いました。
さぁ行くぞ、悪魔め。
少女は何の事かわかりませんでした。
自分の力は神様がくれた物、悪魔なんて言われる覚えはない。
しかし、大人たちは少女を殴り倒して言いました。
黙れ悪魔。
此処で死ぬか悪魔。
さぁ着いて来い悪魔。
こうして、少女は大人たちに何処かへ連れて行かれました。
大丈夫、私には神様がついている。
だからすぐに帰ってこれる。
そう信じて。
しかし、その少女の想いは神様には届くことはありませんでした。
少女が連れて来られたのは、とても大きくて冷たい施設でした。
そこで少女は乱暴に檻に入れられました。
何をするんだ。
ここは何処だ。
母親はどうなったんだ。
少女は檻の中で叫びます。
しかし、少女が叫ぶたび、檻を揺らすたび、大人がやってきて少女を殴り倒しました。
そして大人はそのたびに言いました。
静かにしろ悪魔。
少女は、自分が悪魔であるなどとは思っていません。
だから少女はその言いつけを無視して何度も叫びました。
そしてその度に大人に殴られました。
檻は狭く、どうやっても開きませんでした。
少女は能力を使って脱出を図りましたが、少女の能力を持ってしても、檻を破ることはできませんでした。
次の日、少女は檻から出され、何処かへ連れて行かれました。
そしてナイフを持たされ、言われました。
これから此処に連れて来る人間をそれで刺せ。
少女は何故そんな事をしなくてはならないのか聞きました。
しかし、大人は答えませんでした。そして代わりに言いました。
母親に会いたくないのか。
私達の言う事を聞いていればいずれ会わせてやる。
少女はその言葉を信じました。
そして、縛られて泣き叫ぶ人間を、その銀色に光るナイフで刺しました。
少女は心が痛みました。
何故人をナイフで刺さなければならないのか。
しかし少女は何回も人間を刺しました。
その人間が動かなくなるまで刺しました。
すると大人たちは、褒めながら少女に飴玉をくれました。
しかし少女はその飴玉を美味しく感じませんでした。
心に残るモヤモヤが、飴玉の味を苦くしていました。
そしてまた大人たちは少女に人間を刺させました。
少女は大人たちの言葉を信じてひたすら刺しました。
その度に、少女の心にモヤモヤが残りました。
刺すたびに貰える飴玉は、その度に不味くなっていきました。
そして何人か刺した後、少女はまた檻に入れられました。
そして次の日、また少女は檻から出され同じ事をやらされました。
しばらくの間そんな生活が続きました。
日が経つに連れ、少女は人を刺すことに抵抗を感じなくなっていきました。
心にモヤモヤが残らなくなりました。
段々少ない回数で人間を動かないようにできるようになりました。
しかし貰える飴玉は完全に味がなくなりました。
そんなある日、彼女は別な場所に連れて行かれました。
またしてもナイフを渡し、大人は言います。
今度はナイフを投げて的に当てろ。
少女は何故そんな事をするのか聞きました。
そして何時になったら母親に会わせてくれるんだ。
しかし大人は答えません。
代わりに言いました。
もっと頑張ればいずれ会わせてやる。
少女は頑なにその言葉を信じ、ナイフを投げました。
的に当てるたび、大人は褒めてくれました。
しかし一度も当てられなかった場合、大人は容赦なく少女を殴りました。
殴られるのが嫌な少女は頑張って的にナイフを当てました。
何日も繰り返すうちに、段々上手に当てられるようになりました。
そして全てのナイフを的に当てられるようになった時、大人たちはまたしても少女を別の場所に連れて行きました。
少女が言いつけた事をきちんとできるようになるたび、何処かへ連れて行きました。
そしてそこでまた新しい言いつけを与えました。
少女はその度に聞きました。
何時になったら母親に会えるのか。
大人はその度に言いました。
これが出来るようになったらな。
少女はその言葉だけを信じて、日々大人たちのいいつけを達成していきました。
それから数年が経ちました。
今日も少女は大人たちに言われた事をし続けます。
今回の言いつけは、能力を使って狼を倒すこと。
少女は狼が放たれたその瞬間に、狼をナイフで滅多刺しにしました。
大人たちは驚きの声をあげました。
そして少女に言いました。
今日でお前は一人前だ。
その分なら化け物相手でも渡り合えるだろう。
ご褒美に母親に会わせてやろう。
少女は心の中で喜びました。
遂に母親に会えるのです。
夢にまで見た母親に会えるのです。
そして、約束通り大人たちは少女の前に母親を連れてきてくれました。
手足を縛った状態で。
少女は何故こんな事をするのか聞きました。
しかしやはり大人たちは答えません。
そして代わりに言いました。
そのナイフで母親を刺せ。
少女は驚きました。
何を言っているんだ。そんな事ができるか。
少女は大人たちの言葉を頑なに拒否しました。
大人たちに殴られようと、悪魔と言われようと、拒否し続けました。
何をされても言いつけを守らない少女に、大人たちはついに怒りました。
少女のナイフを取り上げ、そのナイフで母親を刺したのです。
母親の胸元から血が吹き出ます。
少女は叫びました。母親を助けようとしました。
しかし、少女が母親を抱きかかえた時には、母親はもう動かなくなっていました。
呆然とする少女に、大人たちは罵声を浴びせました。
この役に立たない悪魔め。
死んでしまえ。
しかし少女は、大人たちの言葉を無視しました。
代わりに、母親の傍に落ちていたナイフを持ち、言いました。
許さない。
ゼッタイニユルサナイ。
次の瞬間、悲鳴が上がりました。
大人の一人の声です。
大人たちが一斉にそちらを見ると、大人の一人が喉から血を出して倒れていました。
次にもう一人から悲鳴が上がりました。
そしてまた、別な一人が。
次々に悲鳴があがりました。
その間、少女の姿は何処にもありませんでした。
やがて悲鳴が聞こえなくなりました。
赤くなった部屋に、少女は一人立っていました。
そして、何故こんな事になったのか考えました。
大人たちは自分の力を目当てに自分を攫った。
そしてその結果、母親は死んだ。
自分のせいだ。この力のせいで。
神様がくれたこの力のせいで。
いや、こんなの神様の力じゃない。
大人たちの言うとおり悪魔の力だ。
自分のせいで母親は死んだ。
もう死んでしまいたい。
そうだ。
悪魔ならこんな悪魔の力を持つ自分を殺してくれるんじゃないかな。
強い悪魔を探しに行こう。
そして私を殺してもらおう。
こうして、少女は悪魔を刈る悪魔ハンターになりました。
自分を殺してくれる悪魔を探すために。
悪魔ハンターになった少女は世界中を巡りました。
旅をしながら実力を磨きました。
より強い悪魔に殺して欲しかったからです。
そんなある日、少女は不思議な館を見つけました。
窓の少ない、紅い館です。
近くの住民に話を聞くと、そこには悪魔が住んでいるとのこと。
少女は嬉々として館に向かいました。
館には門番が居ましたが、少女の力を持ってすれば門番など意味を持ちません。
館に侵入した少女は悪魔を探しました。
意外なことに、悪魔は自ら少女の前に姿を現しました。
早速少女は戦いを挑みます。
力を使い、ナイフを投げ、少女は全力で戦いました。
しかし、少女は簡単に敗れました。
まるで、予め結果が決められていたかのように、あっさりと負けました。
しかし敗れた少女は満足そうでした。
あぁ、この悪魔なら自分を殺すのに相応しい。
悪魔の力も終わりを迎える時が来た。
少女はそう確信しました。
しかし、運命はそれを許しませんでした。
悪魔は少女を介抱して、言いました。
私の物になりなさい。
少女は戸惑いました。何を言っているんだこの悪魔は。
悪魔はそんな少女を無視して、少女に新しい名前を名乗るように命じます。
新しい名前を聞いた瞬間、少女は、何故かその命令に逆らえなくなりました。
まるで、運命を弄られているかのように。
こうして、少女は新しい名前を受け入れ、その悪魔の物になりました。
一人の悪魔ハンターは死に、一人の従者が誕生したのです。
それからしばらくが経ちました。
少女は従者の中でも特に偉い立場を確立していました。
様々な人々との交流もあり、少女は少しずつ変わっていきました。
少女はそれなりに幸せな日々を送っていました。
そんなある日、少女は買い物の途中で、見覚えのある物を見かけました。
しかし、少女はそれが何かよく思い出せません。
それは、飴玉でした。甘い甘い飴玉。子供が舐めるような、とても甘い飴玉。
少女は、その飴玉がとても気になりました。
気になってしょうがなかったので、主人に無断でその飴玉を買ってしまいました。
その晩、少女はその飴玉を舐めてみました。
しかし、その飴玉はちっとも甘くありませんでした。
それどころか、凄く苦い味でした。
瞬間、少女は酷い頭痛に襲われました。
頭が割れそうな酷い頭痛です。
やがて頭痛に耐え切れなく、少女は倒れてしまいました。
心配した悪魔は医者を呼びました。
医者によると、少女は瞬間的な極度のストレスで倒れたとの事です。
放っておけば治る。しかしストレスの原因を取り除かないと、何時また倒れるかわからないとのことです。
悪魔は悩みました。
少女のストレスの原因に思い当たるものがなかったからです。
そこで悪魔は、親友の魔女に相談をしました。
すると魔女は、ある提案をしました。
この夢を覗く魔法と、悪夢を見る薬で少女のストレスの原因を探る、と。
悪魔は早速その方法を試してみました。
悪魔達が見た少女の悪夢。
それは、とても暗い施設で、少女の母親が汚い大人に殺される夢でした。
夢の中で、少女は何度も飴玉を舐めていました。
その飴玉は、少女の部屋に落ちていた飴玉と同じものだったのです。
少女が悪魔ハンターになった過去を見た悪魔は、自分を恥じました。
この少女は悪魔を殺す事を良しとしている。
その欲望を抑えて無理矢理運命を変えたのは他でもない悪魔自身でした。
少女は、昔を飴玉を舐めたことで昔を思い出したのです。
悪魔を殺す。その欲望も一緒に。
少女は運命を変えられたことで、その欲望を忘れていたのです。
しかし、彼女は思い出してしまったのです。
悪魔は、一つの結論を出します。
やがて眼を覚ました少女を、館の外に連れ出しました。
そして、言ったのです。
あの時の続きをしましょう。○○。
悪魔は、少女を昔の名で呼びました。
すると少女はその瞬間、悪魔へ攻撃する事に何一つ抵抗を持たなくなりました。
まるで、少女の運命が元の悪魔ハンターに戻ったかのように……。
こうして、少女は数年の時を得て、悪魔への再戦を挑みました。
悪魔もそれに応えます。
しかし、今度はあの時のように、少女があっさり負けることはありませんでした。
それはまるで、あの時と違い、悪魔が運命を弄るのをやめたかのように……。
魔女は館から少女と悪魔の戦いを見守ります。
その隣には、何時かの悪魔の妹もいました。
悪魔の妹は魔女に問います。
大丈夫なの?
魔女は応えました。
その結論はあの少女が決めること。
悪魔の妹は何の事だかわかりませんでした。
今の少女は悪魔ハンターです。悪魔を仕留めるか、自分が死ぬまで止まることはありません。
しかし魔女は言いました。
この館で過ごした日々が彼女をどう変えたか。
其れほど頭が良くない悪魔の妹は、やはりその意味が良くわかりませんでした。
そんな事を言っている内に、少女と悪魔の戦いは佳境を迎えていました。
状況は、少女の優勢でした。
悪魔は銀のナイフで壁に羽を縫いとめられ、動けなくなっていました。
少女は、ナイフを構えて悪魔に挑みかかります。
数年越しの闘いに決着がつこうとしているのです。
しかし、悪魔の妹は見ました。
挑みかかる少女の顔が、あまりにも悲しい顔をしている事に。
館にナイフの金属音が響きました。
悪魔の妹は眼を瞑りました。
見たくなかったのです
姉がナイフで刺されている様子を。
しかし、恐る恐る眼を開いた悪魔の妹が見た物は、まったく違うものでした。
少女の持っているナイフは、確かに刺さっていました。
悪魔の顔を掠めて、館の壁に、深々と。
悪魔は言いました。
それが貴方の答えね。
少女は答えました。
はい、お嬢様。
少女は、悪魔の羽に刺さっていたナイフを抜き取りました。
そして悪魔に深いお辞儀をして、謝罪の言葉を述べました。
失礼しました。ご迷惑をお掛けしました。
しかし悪魔は答えず、言いました。
それよりもさっさと仕事に戻りなさい。
悪魔は、少女をかつて与えた新しい名で呼びました。
しかし、あの時と違い、少女に心境の変化は訪れません。
何故なら、少女は既に心から悪魔の物になったからです。
この館での日々が、彼女の心を変えていたのです。
悪魔ハンターから、完全で瀟洒な従者へと。
運命など弄らず、心から従者になったのです。
悪魔と運命を共にすることを望んだのです。
この館の家族やこの世界の仲間達と暮らすことを望んだのです。
少女は悪魔との戦いの中でそれに気がついたのです。
悪魔を殺す事に、心の底から抵抗する自分を見つけたのです。
この日々を壊してしまうことを拒んだのです。
もう少女は迷いません。
晴れて少女は自由の身です。
過去の呪縛、苦い飴玉から逃げ出すことができたのです。
そして再認識しました。
母親の言っていた事は正しかった、と。
これは悪魔の力ではない。神様がくれた贈り物だ。
この日々を自分にくれた素晴らしい贈り物だ。
少女はもう迷いません。
新しい名を改めて受け入れます。
しかしあの時のような運命の操作は行われていません。
何故なら、その必要が無いから。
何故なら、それが少女の運命だから。
何故なら、これが彼女の望んだ世界だから。
何故なら、これが彼女の世界だから。
終わり
その少女はとある悩みを抱えていました。
少女には友達がいなかったのです。
何故なら、少女は不思議な力をもっていたからです。
その力を持った少女を不気味に思った人々は、少女を避けていたのです。
故に少女はずっと一人でした。
しかし、少女も寂しい想いをしながらも、その事実を受け入れていました。
何故なら、少女は母親にこう言われていたからです。
その力は神様がくれた贈り物です。大事にしなさい、と。
幼い少女は、母親のその言いつけを信じました。
この力は神様の贈り物。友達ができないのはその代償だ、と。
少女はずっと友達を作らず暮らしてきました。
そしてその事に疑問も持たずに、母親と幸せに暮らしてきました。
そんなある日、少女の住む村に沢山の大人がやってきました。
大人たちは村の一番偉い人と何か話しています。
少女もその様子を家の中から覗いていました。
すると話を終えた大人たちは、少女の家にやってきて母親に言いました。
母親は大人たちに必死に何かを言っています。
しかし大人たちは、そんな母親の言葉に耳を貸さず、何かを叫びながら母親を殴り倒しました。
少女は母親に近寄ろうとしました。
しかし大人たちは、少女の腕を掴み言いました。
さぁ行くぞ、悪魔め。
少女は何の事かわかりませんでした。
自分の力は神様がくれた物、悪魔なんて言われる覚えはない。
しかし、大人たちは少女を殴り倒して言いました。
黙れ悪魔。
此処で死ぬか悪魔。
さぁ着いて来い悪魔。
こうして、少女は大人たちに何処かへ連れて行かれました。
大丈夫、私には神様がついている。
だからすぐに帰ってこれる。
そう信じて。
しかし、その少女の想いは神様には届くことはありませんでした。
少女が連れて来られたのは、とても大きくて冷たい施設でした。
そこで少女は乱暴に檻に入れられました。
何をするんだ。
ここは何処だ。
母親はどうなったんだ。
少女は檻の中で叫びます。
しかし、少女が叫ぶたび、檻を揺らすたび、大人がやってきて少女を殴り倒しました。
そして大人はそのたびに言いました。
静かにしろ悪魔。
少女は、自分が悪魔であるなどとは思っていません。
だから少女はその言いつけを無視して何度も叫びました。
そしてその度に大人に殴られました。
檻は狭く、どうやっても開きませんでした。
少女は能力を使って脱出を図りましたが、少女の能力を持ってしても、檻を破ることはできませんでした。
次の日、少女は檻から出され、何処かへ連れて行かれました。
そしてナイフを持たされ、言われました。
これから此処に連れて来る人間をそれで刺せ。
少女は何故そんな事をしなくてはならないのか聞きました。
しかし、大人は答えませんでした。そして代わりに言いました。
母親に会いたくないのか。
私達の言う事を聞いていればいずれ会わせてやる。
少女はその言葉を信じました。
そして、縛られて泣き叫ぶ人間を、その銀色に光るナイフで刺しました。
少女は心が痛みました。
何故人をナイフで刺さなければならないのか。
しかし少女は何回も人間を刺しました。
その人間が動かなくなるまで刺しました。
すると大人たちは、褒めながら少女に飴玉をくれました。
しかし少女はその飴玉を美味しく感じませんでした。
心に残るモヤモヤが、飴玉の味を苦くしていました。
そしてまた大人たちは少女に人間を刺させました。
少女は大人たちの言葉を信じてひたすら刺しました。
その度に、少女の心にモヤモヤが残りました。
刺すたびに貰える飴玉は、その度に不味くなっていきました。
そして何人か刺した後、少女はまた檻に入れられました。
そして次の日、また少女は檻から出され同じ事をやらされました。
しばらくの間そんな生活が続きました。
日が経つに連れ、少女は人を刺すことに抵抗を感じなくなっていきました。
心にモヤモヤが残らなくなりました。
段々少ない回数で人間を動かないようにできるようになりました。
しかし貰える飴玉は完全に味がなくなりました。
そんなある日、彼女は別な場所に連れて行かれました。
またしてもナイフを渡し、大人は言います。
今度はナイフを投げて的に当てろ。
少女は何故そんな事をするのか聞きました。
そして何時になったら母親に会わせてくれるんだ。
しかし大人は答えません。
代わりに言いました。
もっと頑張ればいずれ会わせてやる。
少女は頑なにその言葉を信じ、ナイフを投げました。
的に当てるたび、大人は褒めてくれました。
しかし一度も当てられなかった場合、大人は容赦なく少女を殴りました。
殴られるのが嫌な少女は頑張って的にナイフを当てました。
何日も繰り返すうちに、段々上手に当てられるようになりました。
そして全てのナイフを的に当てられるようになった時、大人たちはまたしても少女を別の場所に連れて行きました。
少女が言いつけた事をきちんとできるようになるたび、何処かへ連れて行きました。
そしてそこでまた新しい言いつけを与えました。
少女はその度に聞きました。
何時になったら母親に会えるのか。
大人はその度に言いました。
これが出来るようになったらな。
少女はその言葉だけを信じて、日々大人たちのいいつけを達成していきました。
それから数年が経ちました。
今日も少女は大人たちに言われた事をし続けます。
今回の言いつけは、能力を使って狼を倒すこと。
少女は狼が放たれたその瞬間に、狼をナイフで滅多刺しにしました。
大人たちは驚きの声をあげました。
そして少女に言いました。
今日でお前は一人前だ。
その分なら化け物相手でも渡り合えるだろう。
ご褒美に母親に会わせてやろう。
少女は心の中で喜びました。
遂に母親に会えるのです。
夢にまで見た母親に会えるのです。
そして、約束通り大人たちは少女の前に母親を連れてきてくれました。
手足を縛った状態で。
少女は何故こんな事をするのか聞きました。
しかしやはり大人たちは答えません。
そして代わりに言いました。
そのナイフで母親を刺せ。
少女は驚きました。
何を言っているんだ。そんな事ができるか。
少女は大人たちの言葉を頑なに拒否しました。
大人たちに殴られようと、悪魔と言われようと、拒否し続けました。
何をされても言いつけを守らない少女に、大人たちはついに怒りました。
少女のナイフを取り上げ、そのナイフで母親を刺したのです。
母親の胸元から血が吹き出ます。
少女は叫びました。母親を助けようとしました。
しかし、少女が母親を抱きかかえた時には、母親はもう動かなくなっていました。
呆然とする少女に、大人たちは罵声を浴びせました。
この役に立たない悪魔め。
死んでしまえ。
しかし少女は、大人たちの言葉を無視しました。
代わりに、母親の傍に落ちていたナイフを持ち、言いました。
許さない。
ゼッタイニユルサナイ。
次の瞬間、悲鳴が上がりました。
大人の一人の声です。
大人たちが一斉にそちらを見ると、大人の一人が喉から血を出して倒れていました。
次にもう一人から悲鳴が上がりました。
そしてまた、別な一人が。
次々に悲鳴があがりました。
その間、少女の姿は何処にもありませんでした。
やがて悲鳴が聞こえなくなりました。
赤くなった部屋に、少女は一人立っていました。
そして、何故こんな事になったのか考えました。
大人たちは自分の力を目当てに自分を攫った。
そしてその結果、母親は死んだ。
自分のせいだ。この力のせいで。
神様がくれたこの力のせいで。
いや、こんなの神様の力じゃない。
大人たちの言うとおり悪魔の力だ。
自分のせいで母親は死んだ。
もう死んでしまいたい。
そうだ。
悪魔ならこんな悪魔の力を持つ自分を殺してくれるんじゃないかな。
強い悪魔を探しに行こう。
そして私を殺してもらおう。
こうして、少女は悪魔を刈る悪魔ハンターになりました。
自分を殺してくれる悪魔を探すために。
悪魔ハンターになった少女は世界中を巡りました。
旅をしながら実力を磨きました。
より強い悪魔に殺して欲しかったからです。
そんなある日、少女は不思議な館を見つけました。
窓の少ない、紅い館です。
近くの住民に話を聞くと、そこには悪魔が住んでいるとのこと。
少女は嬉々として館に向かいました。
館には門番が居ましたが、少女の力を持ってすれば門番など意味を持ちません。
館に侵入した少女は悪魔を探しました。
意外なことに、悪魔は自ら少女の前に姿を現しました。
早速少女は戦いを挑みます。
力を使い、ナイフを投げ、少女は全力で戦いました。
しかし、少女は簡単に敗れました。
まるで、予め結果が決められていたかのように、あっさりと負けました。
しかし敗れた少女は満足そうでした。
あぁ、この悪魔なら自分を殺すのに相応しい。
悪魔の力も終わりを迎える時が来た。
少女はそう確信しました。
しかし、運命はそれを許しませんでした。
悪魔は少女を介抱して、言いました。
私の物になりなさい。
少女は戸惑いました。何を言っているんだこの悪魔は。
悪魔はそんな少女を無視して、少女に新しい名前を名乗るように命じます。
新しい名前を聞いた瞬間、少女は、何故かその命令に逆らえなくなりました。
まるで、運命を弄られているかのように。
こうして、少女は新しい名前を受け入れ、その悪魔の物になりました。
一人の悪魔ハンターは死に、一人の従者が誕生したのです。
それからしばらくが経ちました。
少女は従者の中でも特に偉い立場を確立していました。
様々な人々との交流もあり、少女は少しずつ変わっていきました。
少女はそれなりに幸せな日々を送っていました。
そんなある日、少女は買い物の途中で、見覚えのある物を見かけました。
しかし、少女はそれが何かよく思い出せません。
それは、飴玉でした。甘い甘い飴玉。子供が舐めるような、とても甘い飴玉。
少女は、その飴玉がとても気になりました。
気になってしょうがなかったので、主人に無断でその飴玉を買ってしまいました。
その晩、少女はその飴玉を舐めてみました。
しかし、その飴玉はちっとも甘くありませんでした。
それどころか、凄く苦い味でした。
瞬間、少女は酷い頭痛に襲われました。
頭が割れそうな酷い頭痛です。
やがて頭痛に耐え切れなく、少女は倒れてしまいました。
心配した悪魔は医者を呼びました。
医者によると、少女は瞬間的な極度のストレスで倒れたとの事です。
放っておけば治る。しかしストレスの原因を取り除かないと、何時また倒れるかわからないとのことです。
悪魔は悩みました。
少女のストレスの原因に思い当たるものがなかったからです。
そこで悪魔は、親友の魔女に相談をしました。
すると魔女は、ある提案をしました。
この夢を覗く魔法と、悪夢を見る薬で少女のストレスの原因を探る、と。
悪魔は早速その方法を試してみました。
悪魔達が見た少女の悪夢。
それは、とても暗い施設で、少女の母親が汚い大人に殺される夢でした。
夢の中で、少女は何度も飴玉を舐めていました。
その飴玉は、少女の部屋に落ちていた飴玉と同じものだったのです。
少女が悪魔ハンターになった過去を見た悪魔は、自分を恥じました。
この少女は悪魔を殺す事を良しとしている。
その欲望を抑えて無理矢理運命を変えたのは他でもない悪魔自身でした。
少女は、昔を飴玉を舐めたことで昔を思い出したのです。
悪魔を殺す。その欲望も一緒に。
少女は運命を変えられたことで、その欲望を忘れていたのです。
しかし、彼女は思い出してしまったのです。
悪魔は、一つの結論を出します。
やがて眼を覚ました少女を、館の外に連れ出しました。
そして、言ったのです。
あの時の続きをしましょう。○○。
悪魔は、少女を昔の名で呼びました。
すると少女はその瞬間、悪魔へ攻撃する事に何一つ抵抗を持たなくなりました。
まるで、少女の運命が元の悪魔ハンターに戻ったかのように……。
こうして、少女は数年の時を得て、悪魔への再戦を挑みました。
悪魔もそれに応えます。
しかし、今度はあの時のように、少女があっさり負けることはありませんでした。
それはまるで、あの時と違い、悪魔が運命を弄るのをやめたかのように……。
魔女は館から少女と悪魔の戦いを見守ります。
その隣には、何時かの悪魔の妹もいました。
悪魔の妹は魔女に問います。
大丈夫なの?
魔女は応えました。
その結論はあの少女が決めること。
悪魔の妹は何の事だかわかりませんでした。
今の少女は悪魔ハンターです。悪魔を仕留めるか、自分が死ぬまで止まることはありません。
しかし魔女は言いました。
この館で過ごした日々が彼女をどう変えたか。
其れほど頭が良くない悪魔の妹は、やはりその意味が良くわかりませんでした。
そんな事を言っている内に、少女と悪魔の戦いは佳境を迎えていました。
状況は、少女の優勢でした。
悪魔は銀のナイフで壁に羽を縫いとめられ、動けなくなっていました。
少女は、ナイフを構えて悪魔に挑みかかります。
数年越しの闘いに決着がつこうとしているのです。
しかし、悪魔の妹は見ました。
挑みかかる少女の顔が、あまりにも悲しい顔をしている事に。
館にナイフの金属音が響きました。
悪魔の妹は眼を瞑りました。
見たくなかったのです
姉がナイフで刺されている様子を。
しかし、恐る恐る眼を開いた悪魔の妹が見た物は、まったく違うものでした。
少女の持っているナイフは、確かに刺さっていました。
悪魔の顔を掠めて、館の壁に、深々と。
悪魔は言いました。
それが貴方の答えね。
少女は答えました。
はい、お嬢様。
少女は、悪魔の羽に刺さっていたナイフを抜き取りました。
そして悪魔に深いお辞儀をして、謝罪の言葉を述べました。
失礼しました。ご迷惑をお掛けしました。
しかし悪魔は答えず、言いました。
それよりもさっさと仕事に戻りなさい。
悪魔は、少女をかつて与えた新しい名で呼びました。
しかし、あの時と違い、少女に心境の変化は訪れません。
何故なら、少女は既に心から悪魔の物になったからです。
この館での日々が、彼女の心を変えていたのです。
悪魔ハンターから、完全で瀟洒な従者へと。
運命など弄らず、心から従者になったのです。
悪魔と運命を共にすることを望んだのです。
この館の家族やこの世界の仲間達と暮らすことを望んだのです。
少女は悪魔との戦いの中でそれに気がついたのです。
悪魔を殺す事に、心の底から抵抗する自分を見つけたのです。
この日々を壊してしまうことを拒んだのです。
もう少女は迷いません。
晴れて少女は自由の身です。
過去の呪縛、苦い飴玉から逃げ出すことができたのです。
そして再認識しました。
母親の言っていた事は正しかった、と。
これは悪魔の力ではない。神様がくれた贈り物だ。
この日々を自分にくれた素晴らしい贈り物だ。
少女はもう迷いません。
新しい名を改めて受け入れます。
しかしあの時のような運命の操作は行われていません。
何故なら、その必要が無いから。
何故なら、それが少女の運命だから。
何故なら、これが彼女の望んだ世界だから。
何故なら、これが彼女の世界だから。
終わり
ちょっと何かが足りない感じも私にはありました。
面白くないというわけではないのですけど
一味足りないというような感じです。