Coolier - 新生・東方創想話

退治屋 妹紅

2009/01/17 17:18:30
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 それは、妹紅がまだ輝夜を追って各地を放浪していた時のこと――






 炎に包まれた妖怪がけたたましい悲鳴を上げて倒れる。
 ぶすぶすと煙を上げ、燃えカスとなっていくそれを呆然とした様子で見ていた人々はやがて、わっと歓声を上げて喜びあった。
「やった! 助かった! あ、ありがとうございます!」
 ひとしきり喜んだ後にはっとした様子で言われ、灰となって崩れる妖怪の前でじっと立ち尽くしていた女性は溜息混じりに振り返った。
「ああ」
 得意そうにするでもなく、ただそっけなく言い放つ。

 ここは人も少ない山道。突然妖怪に襲われて逃げ惑う人々を救ったのは、白く長い髪をしたまだあどけないと言っても差し支えない女性であった。
 奇妙な女性である。
 特徴的な白い髪は他人の注意を引かずにはいられない。その髪の色のおかげで一見老婆のようにも見えるが、顔立ちを見ると驚くほど若いことが窺える。まだ十代後半といったところか。
 着ている物は赤のもんぺで、それには何やらお札がぺたぺたと貼り付けられていた。

「あ……あの」
 助けられた村人たちの中から一人の少女がその奇妙な娘に駆け寄る。まだ十歳程の童女であった。
 いきなり炎を使ってみせたこの女性に他の村人たちは怯えたのか、遠巻きに礼を言うだけであったのだが、この童女は臆する事もなく嬉しそうに駆けて来る。後ろで母親らしき女が慌てた様子で呼びかけるが、興奮した童女の耳には入っていないようだ。
 妹紅の側まで来ると愛嬌のある万遍の笑みを浮かべ、
「ありがとうございます!」
「……ああ」
 あまりに底の無い笑顔をされたので白髪の女も少々拍子抜けした様子だ。
「あの、あたしは八重と申します。よければお名前を教えていただけませんか?」
 まだ小さいというのにやたらと折り目正しい娘だ。
 それが可笑しく、白髪の女も思わず薄く笑みを浮かべて短く名乗る。
「藤原妹紅」
「藤原妹紅さん! 苗字があるなんてすごいです!」
 目をまん丸と輝かせ感心した様子でぱちんと手を叩く八重。苗字があるというのはまさに身分が高い者の証拠であった。
 そんな反応を示すこの少女を見て、妹紅は若干顔を曇らせてしまう。ちゃんと名を名乗るのは礼儀だと思っているが、名乗るたびにこう感心されてはやりにくい。
 やはり偽名を使うか? 
 何度か考えることであったが、結局今まで本名で通している。ひょっとしたら輝夜の方から自分に接触してくるかも、という一抹の希望もあった。その可能性は限りなくも何も零だろうが。
 黙っている妹紅に、八重がおずおずといった様子で手を合わせたまま下から覗き込んでくる。
「あの、やっぱり退治屋さんなんですか?」
 これも何度も聞かれてきたことである。
 それに妹紅は決まってこう答える。
「違う。退治屋じゃない」

 退治屋はある程度身分のある者が行う場合が多い。苗字があるのは身分の高い証拠である。
 それに退治屋は奇人変人が多い。彼女のその長く白い髪、まだ若い少女という奇妙な出で立ちは、退治屋と言われれば誰しもが納得する容姿であった。
 とどめは炎の能力である。劫火の火炎によって妖怪をたちどころに滅する白髪の少女を見て、一体誰が退治屋と思わないだろう。

 否定され、八重は少々しゅんとした様子で「そうなんですか……」と短く呟いた。
 退治屋に夢でも抱いていたのだろうか。
 人間達の命を脅かす存在である妖怪を、秘術をもって鮮やかに滅する退治屋は確かに人々の憧れの的である。
 しかし妹紅は退治屋などになった覚えはない。
 多額の報酬を要求し横柄な態度で一般人を見下す退治屋というものを、妹紅はかつて貴族の家で暮らしていた時や長い旅の中で嫌ほど見ている。
 妹紅は退治屋が嫌いだし、それで生計を立てる気にもならなかった。

「じゃあな」
 別に報酬を要求するでもなく立ち去ろうとする妹紅。そんな彼女にその場の人々は驚いていたが、
「お待ちください!」
 行こうとする妹紅を慌てて引き止めたのは助けた村人の一人、一向の代表らしき年老いた男性であった。
 お礼をしたいと申し出るのか、もしくはこんな出で立ちをしているので、「ではあんたは妖怪ではないのか」などとまた因縁でも付けられるのか、と小さく溜息をついた妹紅。
 しかし老人は震える体で勢いよく頭を下げた。
「お願いです。どうか我々と村までおいでくださいませんか。お礼もしたいですし……」
 どうやらお礼をしたいようだ。若干ほっとしつつも、しかし妹紅はいつものように、
「急いでるんだ。礼ならいらないよ。あんたらを助けたのはたまたまだ」
 礼がいらないと言う妹紅に驚く村人達。
 老人も驚いていたが、尚も再びしわがれた声で、
「お願いがあるのです! 我々の村は妖怪に襲われているのです」
「なに……?」
 どうやら妹紅を招きたいのはただお礼がしたいだけではないらしい。

 聞くと、村は数ヶ月前から妖怪、それも竜に度々襲撃されているとのこと。村の近くに寝床を作り居座った竜は強大な力を持っており、口からは炎を吐き大きな翼で空を飛びまわる。村人たちは為す術もなくただ喰われているだけであった。
 そしてとうとう退治屋を雇おう、ということで村の男達が期待を背負って都会へ出かけて行ったのだが、帰ってくるはずの日を過ぎても一向に戻らない。そこで様子を見に向かったところ、先ほどの妖怪に出くわしたのだ。

「このままでは村人は一人残らず喰い尽されてしまいます。どうかお願いです、我らの村をお救いください」
 そして一同揃って深々と頭を下げる。このまま土下座でもしてしまいそうだ。
「…………」
 困った表情で頭をぼりぼり掻き、頭を下げる人々を見ていた妹紅はやがて大きく溜息をついて、
「分かったよ」
 そう言うと、途端に村人一同は輝いた顔を上げてくる。
「ありがとうございます!」
「ああ」
 妹紅は疲れた表情で小さく息を吐いた。自分のその性格が嫌になる時があるか、と言われたら是と答えざるを得ない。
「ありがとうございます」
 しかし八重がとことこと自分の近くに寄ってきて、屈託の無い子供特有の笑顔を向けてくると――
「…………」
 まあいいか。
 妹紅は心の中で静かに嘆息した。












  ◇◇◇


 村は山間の只中にあった。
 他の村との通り道にあるわけでもなく、滅多に人が訪れなさそうで確かに妖怪にとっては格好の餌場だな、と妹紅は納得する。
 時刻はもう夜であった。村の家々にも明かりが灯っており、そして相当数の家の明かり
が無いのも目に入る。
「…………」
 おそらくあそこの家の者は喰われたのだろう。明かりの無い家の多さを見て、その深刻さに妹紅は厳しく目を細める。

 村を歩いていると一向に気づいた一人の男が駆け寄ってきた。
「おーい。一体どうした? 退治屋を呼びに行った奴らは?」
 先頭を歩いていた老人が小さく頷くと、
「うむ。それなんじゃが、偶然会ったこの方に退治を依頼したのじゃ」
 そう言って恭しく隣の妹紅を示す。
 白い髪をした少女を男は目を丸くして驚きと共にまじまじと見つめた。普通ならこんな少女で不安になるだろうが、白い髪という特異な出で立ちと相まって、そのあどけなさは逆に神秘性を持たせる結果となっている。
 男も思わず間の抜けた声で、
「あ。退治屋さん、か」
「退治屋じゃない」
 しかし妹紅は憮然とした様子ではっきりと否定する。
「へ? 違う?」
「とっても強いんだよ!」
 首をかしげる男に八重がぴょんぴょん跳ねて訴える。
「ま、まあとにかく村長の家に行きましょう」
 話がこじれるのを嫌がったのか、老人はさっさと話に割り込み、妹紅は村の外れの方、村を一望できる小さな丘の上にある大きな村長の家へと連れて行かれた。






 村長だという初老の男は、老人が連れてきた妹紅を最初怪訝な表情で見ていたが、妹紅とは別の部屋で老人からどんな説明をされたのやら、再び妹紅の前に姿を現した時には万遍の笑みを浮かべて歓迎の意を表した。
「いやあ大層お強いのだとか。おかげでこの村も救われます」
「別に……さっさと倒して帰るよ」
「そう焦らずとも。食事を振舞いますので、今日のところはゆっくりと休んで明日の決戦に備えていただく、ということで……」
「……そうかい」
 妹紅としてはあまり大々的に歓迎されるのは性に合ってないのでできればよしてほしかったが、こういうのは無理に断るのも後が悪い。せめて報酬は気持ち程度しか受け取るまいと思い、夕食をご馳走になることにした。



「……なのになんでこうなるかね」
 心底呆れた様子で溜息をつく妹紅の前には、色もとりどりの豪華な食事が机狭しと盛り付けられている。
 村中が集まっているんじゃないかというくらいの人数が村中央の集会所の中にひしめいており、奇妙な容姿の退治役を揃いも揃って物珍しそうに眺めていた。
「どうぞ遠慮なくお食べください。皆あなたには感謝しているのです」
「……はあ」
 あまりの歓迎ぶりに半ば諦めつつも辟易してしまう。
「妹紅さん、いっぱい食べてくださいね」
 見ると八重が側に立って微笑んでいた。
 勝手に側にいることもそうだが、何より下の名前で呼んでいることに村長は慌てた。
「これ! 藤原様とお呼びしないか!」
 それには流石に妹紅も我慢がならなかった。
「いや様付けはやめてくれ。そして妹紅でいい」
「やったあ! 妹紅さん、この茄子うちの畑で取れた物なんですよ」
 そう言って嬉しそうに茄子の漬物を指差してくると、村長が後ろで小さく溜息をつくのが聞こえた。
「へえ……」
 妹紅はその漬物を一切れ取ってぼりぼり食べると、
「うまい」
 途端に八重は万遍の笑顔を咲かせた。思わず妹紅も笑いがこぼれてしまうくらい愛らしい笑顔。
 どうやら懐かれてしまったようだ。
 助けた上、目の前で妖怪を滅ぼして見せたのがそんなに嬉しかったのか、まるで物語の英雄を見るかのような目つきで妹紅を嬉しそうに見つめている。
(うう……)
 そんなあどけない子供の視線になんだか恥ずかしくなった妹紅は、机の上に並べられた料理へと視線を落とすことにした。
 腹も減っている。他の料理に手をつけようかと思った。
その時であった。

「あっ!」
 料理を持ってきた女中の手が滑り、妹紅の側に皿が割れる音が響く。
「っ!」
 破片が妹紅の手の甲を鋭く掠めると血がじわりと滲み出た。
(まずい!)
 慌ててその傷を隠す妹紅。
「何をやっているんだ!」
 村長が顔を真っ赤にし、慌てる女中を厳しく怒鳴りつけた。
「す、すみませんすみません!」
「ええい……誰か治療箱を! 申し訳ありません。この村には医者がいないもので……」
 慌てふためいて必死に何度も頭を下げる女中を放っておき、村長は申し訳無さそうに妹紅に向き直った。
「……いや、いいんだ」
 手の甲を隠したまま険しい表情で応じる妹紅。その頬を一筋の汗が流れる。
 そんな妹紅を見て、やはり気を悪くしたのではないかと村長は益々不安に駆られる。
 すぐに他の女中が治療箱を持ってくると、妹紅に傷を見せるよう求めてきた。
「っ…………」
 苦々しい様子で傷を隠していた妹紅だったが、慌てる女中は半ば強引に妹紅の腕を取るとその傷口を衆目に晒した。
 そして――

「――傷が無い!」
 驚きと共にそれを口にする。
 見ると確かに妹紅の手の甲の傷は既に消えていた。

 不老不死。
 かつて蓬莱の薬を飲んだ末に得た力である。力というより呪いに近いが。

 集まった村人たちがざわざわとしながら妹紅を見る。
 刺さるような視線を感じた妹紅は険しい表情で手を振り払うと、無言のまま手の甲に付いた血をもう片方の手で拭い取った。
 村長はぶるぶる震えていると、やがて妹紅を厳しい顔つきで見やり、押し殺した声で問いかけてくる。その目には疑惑の色が濃く張り付いていた。
「あなたは……まさか妖怪ですかな」
「妖怪!」
 妖怪と聞いて村人たちから悲鳴のような声が上がる。
 これまでこの再生を見られる度に何度か言われてきたことである。
 無駄だとは思いつつ妹紅は静かに首を振る。
「違う」
「ではどうして傷が消えるのです」
 村長の声は硬い。
 分かっていた。こんな対応をされるということは。
 妖怪との対決で傷を負ったり、時には一回死んだりした後、妹紅の傷が一瞬で回復していく様子を見た人は大抵気味悪がって逃げてしまう。
 この村長の反応も無理ないことであった。
「……そういう体質なのさ」
「…………」
 そんなことで誤魔化せるわけもなく、やがて村長は苦々しい表情でぶるぶると震えながら声を絞り出した。
「……出て行ってくだされ」
「…………」
 妹紅は無言で立ち上がった。隣の八重が呆気に取られた様子で妹紅を見ているが、妹紅が彼女を見ることはなかった。
 村人たちがしんとして見守る中、出て行く前に妹紅は村長に向かって、
「今から山へ出て行くのも無茶ってものだ。村の外れで一晩明かさせてもらうよ」
 村長はじっと妹紅のことを睨んでいたが、下手に断って暴れられたら困るとでも思ったのか、
「……いいでしょう。明日朝一番で出て行ってもらいます」
「ああ」
 妹紅が静かに出口に向かって歩くと、村人たちは慌てて左右に割れて道を空けた。
「…………」
 眉一つ動かさずその様子を見ていた妹紅は、やがてそのまま集会所を出て行った。

 去ったすぐ後、
「妖怪か」
「化け物だろう」
「誰だあんなのを連れてきたのは」
などという話し声が妹紅の耳を掠める。
「……ふう」
 妹紅はやれやれといった具合で呆れ混じりに小さく首を振ると、村の外れへと疲れた足取りで歩いて行った。





 妹紅の去った集会所では人々が混乱気味に怒鳴りあっていた。
「誰だ! あんな得体の知れない奴を連れてきたのは!」
「い、いや、確かにわしらを救ってくれたのじゃ……」
「そう見せかけていただけじゃないのか! うまく取り入って俺達を喰い尽そうって魂胆だったとか」
「そもそも見た目もおかしいぞ。何であんな色が抜けたような白色の髪なんだ」
「これ以上犠牲が増えていたらどうする気だったんだ!」

 男達が喚き散らし、女達がひそひそと囁きあう中、八重はぼーっとした様子で妹紅のことを思い出していた。
「…………」
 自分達を助けてくれた妹紅。漬物をうまいと言ってくれた。気さくで悪い人には見えなかった。
 傷が一瞬で消える。それは確かに自分も目にした怪奇である。
(でも、だからって……)

 一人の男が集会所に飛び込んできたのはそんな時だった。
「お、おい! 戻ってきた! 退治屋を呼びに行った男達が戻ってきたぞ!」
「――!」
 一瞬でその場が静まり返り、皆はまじまじと男を見やる。
 村長が恐る恐るといった様子で、
「そ、それは本当か……?」
「ああ。退治屋も一緒だ」
 歓声にも似たどよめきが生まれる。
「一時はどうなることかと……」
「あの女を追い出して正解だったな」
「あいつ、退治屋でもなかったんだろ?」
「早くお迎えの準備をするんだ!」
 村人が口々に勝手なことを呟く中、八重は一人沈んだ様子で肩を落としていた。












 ◇◇◇


「ぎはははははは! まあ俺様の手にかかれば妖怪なんざ赤子と一緒だぜえ」
 集会所に案内されて来た退治屋はそう言って下品に笑った。
 こちらも妹紅に負けず劣らず奇妙な男であった。男というより少年に近く、まだ二十にもなっていないだろう。髪はぬるりと不気味に輝く赤色で短く切り纏められている。派手で豪華そうな袴をだらしなく着崩し、腕や首には黒い数珠をいくつも巻きつけている。
「あなた様のような高名な退治屋様においでいただき、誠にありがたい限りで……」
 頭を下げながら恭しく話す村長を退治屋の少年はつまらなそうに見やり、
「別にあんたらのはした報酬目当てで来たわけじゃねえよ。竜がいるって言うから来てやったんだ。デマだったらぶち殺すぞ」
 村長は慌ててぶんぶんと首を振り、
「い、いえあれは確かに竜でして。今まで村人が五十人も喰われていまして……」
「ふうん」
 今まで何人が犠牲になったかなど全く興味が無い様子で鼻を鳴らすと、大仰に溜息一つつき、
「ま。竜の一匹や二匹、この最強の退治屋、鬼島亜門様の相手じゃないけどな」
「は、はい。鬼島様のお名前は諸国万度に知れ渡っておりまして……」
「あのさあ」
 亜門という名の退治屋の少年はさっきから路上の石でも見るような目つきで村長を見やり、
「いつまでこのむさいオッサンの顔見てなきゃいけないわけ? もっと若い子いないのかよ」
「……は、はい! 申し訳ございません!」
 自分の子ほども歳の離れた少年相手に慌てた様子の村長は、女中たちを呼び寄せて酌をするよう言いつけた。
「ぎはははは! 精々俺様の機嫌を損ねないように気い使うこったあ。……料理だってよお」
 そう言って亜門は茄子の漬物が乗った皿を手に取ると、自分の横まで持ち上げ――
「あ!」
 八重が目を見開く中、皿をひっくり返して全て床に落とした。
「こんな辛気臭い庶民のもん食わせんな、っての」
 目に涙を溜めてぶるぶる震える八重。一方の村長は恐縮しきった様子で、
「も、申し訳ございません。なにぶん貧しい村なもので……」
「ぎはははは! まあ別に期待なんざしてなかったけどさあ。にしてもお前ら運が良かったぜえ? こんなド田舎までわざわざ来る退治屋なんて俺様くらいしかいねえからよお」
 するとその場の村人達は押し黙り、顔は一様に微妙な表情へと変わった。
「………………」
 様子のおかしい村人たちに亜門は「んー?」と首をかしげる。
「なんだよ」
 側の女中に突き刺すような視線を飛ばすと、彼女は慌てた様子で、
「あ……いえ」
「さっさと言えよ。殺されてえのか」
「は、はい。その……偶然会ったという退治屋みたいな女の人がさっきまで来ていたのですが……」
「はあ?」
 亜門が機嫌悪そうにしたので、睨まれた女中は一層顔面蒼白になって、
「い、いえ、それが、傷が一瞬で治るような奇怪な人だったので、妖怪ではないかということで出て行ってもらったのですが……」
「傷が治る?」
「は、はい」
「ふうん……」
 亜門は何か考え込むようにどこか目をやっていたが、やがて小さく首を振って、
「ま、退治屋とか言って取り入ろうとする妖怪もいるから、追い出したのは正解だぜ?」
「そ、そうでしたか、やっぱり」
「ほら酒だ酒! もっと注いじゃってくれよ!」









 村の外れ。集会所の喧騒が嘘のように静かな場所で、ぼろ屋の外壁に背をついて妹紅は空を見上げていた。
 曇った空には月も出てなく、やはりこれから山道を行くのは難しいことをうかがわせた。
「ふう……」
 胸の中のものを吐き出すように大きく溜息をつく。
 別に慣れたものである、このような体験は。だから今更どうということもない。
 それより今は空を見る。

 月の無い夜は足元も見えないが、月が出ていたら出ていたで忌々しい気持ちに駆られてしまう。
 蓬莱山輝夜。
 身分の低い家の者でありながら、父の求婚を蹴って家に泥を塗った女。
 彼女は月から来たという噂だが、果たして本当かどうか。
 それでも月と聞くと気持ちが落ち着かない。月明かりを浴びるとあの女に見下ろされているようで、わざわざ影になる道を歩いたりもする。
 そしてそんなくだらないことに気を使う自分こそ嫌になる。
 蓬莱の薬を飲んで不老不死となった身だが、途方も無い人生を考えたとき、輝夜を討つのはその上での最早生きがいになっているのかもしれない。本当は家に泥を塗られたことなどどうでもいいのではないか。あの父に父らしいことなどしてもらった覚えがない。それでも父というだけで認めてほしいものなのか、自分は。とうに死んでいるというのに。
 しかし輝夜を追うことだけを考えていれば、余計なことを考えずに済む。永遠を考えずに済む。

 弱いな、私は。

「はは……」
 自嘲気味に小さく笑い声を洩らす。
 とそこで、腹がやたら大きく空腹を訴えた。
「う……」
 そういえば茄子の漬物しか食べていなかった。食料も尽きていたし、そもそも飯にありつくためにも妖怪退治を引き受けたのもあった。
 別に食べなくても死にはしないが、力は出ないし極限の空腹感はまさに地獄そのもの。できれば避けたい状態だ。
「ふう……」
 諦め気味に溜息をつくと、あまり体を動かさないように横になってさっさと寝ようとする。
 そんな時だった。

「あ。妹紅さん、こんなところに」
 八重がひょこりとやって来た。手には何やら風呂敷を持っている。
 臆する事もなく近づいてくる彼女を見て、呆気に取られた妹紅は眉をひそめ、
「八重……?」
 八重はそのまま妹紅の隣に来て座る。
「こっそり来ちゃいました」
 ばつが悪そうにくすりと笑って風呂敷包みを差し出す。
「……いいのか? 私のところになんか来て」
 そう言いつつも風呂敷を受け取り妹紅は呟く。
「これは……?」
「食べ物です。お腹空いてるかも、って思って」
「…………」
 じっと自分を見つめてくる妹紅を見て八重は不思議そうに首をかしげる。
「なんです?」
「……私が怖くないのか?」
 すると八重はにこりと笑って、
「あたしを助けてくれましたから」
「…………」
 妹紅は溜息をついて風呂敷包みを開けると、どうやら先ほどのご馳走の中から取ってきたようだ。見覚えのある料理に目を細める。

「うまい」
 入っていた茄子の漬物を食べ、妹紅は小さく呟く。
「…………」
 八重は一瞬悲しそうな表情をしたがやがて笑顔を浮かべ、
「茄子の漬物いっぱい入れときましたからね」
 確かに持ってきた食べ物の三分の一くらいは茄子の漬物だった。
「…………」
 いや文句は言わないが。


「八重」
「? はい」
 しばらく八重と一緒に食事を取っていた妹紅はおもむろに切り出した。
「どうして私の傷が治ったのか教えてやる」
「――! は、はい」
 八重が緊張気味に居住まいを正すと、妹紅は溜息一つついてその言葉を口にした。
「私は不老不死の人間なんだ」

 八重は無言だった。
 見ると、彼女はその大きな目を更に見開いて妹紅を見つめている。そんな八重がなんだか可愛らしくて妹紅は少し笑ってしまい、
「昔蓬莱の薬を飲んでしまってな。それ以来この体だ。もう二百年以上生きている。これからも永遠に生き続けるだろうな」
「…………」
 八重は呆然とした様子でまじまじと妹紅と目を合わせている。
「こんな話、信じられないか?」
 言われ、目の前の少女は次の瞬間にはその目を輝かせて首をぶるぶる勢いよく振り、
「す……すごいです! 蓬莱の薬って、あのおとぎ話の輝夜姫のですよね! どうして飲んだんですか? どうやって飲んだんですか? 輝夜姫とは知り合いなんですか?」
「お、おい」
「あたし妹紅さんのお話もっと聞きたいです! お願いです、妹紅さん」
「…………」
 参ったな、とばかりに妹紅は頭を掻く。怖がったり疑ったりするかと思ったが、なにやら興味津々だ。

 たまに八重のような人間がいる。自分の異形の力を知ってなお近づいてくる者が。
 時にはそんな彼らに助けられたこともあるし、短い間だが一緒に旅をしたこともあった。しかし自分は彼らとずっと一緒にはいられない。いつかは失う時が来る。だから妹紅は自分から彼らと距離を取ってしまう。失う辛さが怖いから。そしてそんな自分を心底臆病だと自嘲してしまうのだ。

「……はー。分かったよ話すよ。あのにっくき輝夜の悪行とかな」
「え? 輝夜姫が悪?」
「そうだ。あいつはひどい奴でな……」

 それから妹紅は父が輝夜に求婚したこと、無理難題をふっかけられたこと、それに家の私財を投じて探しに行って結局見つけられなかったこと、輝夜がどこかへ行ってしまったこと、輝夜が残したという壷を奪って中の液体を飲んでしまったこと、それ以来不老不死となり諸国を渡り歩いて輝夜を探していること、などをなるべく面白く聞けるように手振りを加えて話してやった。
 八重は紙芝居に集まる子供のように目を輝かせてじっと聞き入っていた。

「輝夜姫ってそんなに酷い人だったんですか……貢がせるだけ貢がせておいて、自分は家でずっとごろごろしてるなんて……」
「それだけじゃない。求婚してきた男は五人みたいに言われてるけど、本当は百人はいたんだ」
「そんなに!」
「しかも妻子持ちにばかり色目を使っていてな。おかげで都の夫婦仲は最悪。駆け込み寺はいつも超満員さ。あいつは男女関係を壊すのが趣味なんだ」
「ゆ……許せないです。輝夜姫がかわいそうだなんて思っていた自分が情けないです」
「もしあいつを見つけても絶対に近づくなよ。男以外は塵のように扱う奴だからな」
「はい!」
 多少の脚色はありつつ、妹紅は自分の身の上話を大方話し終わった。そして八重はより一層この不死の少女への関心を強めるのだった。


「そうだ。その竜がいるっていう巣を教えてくれないか?」
「え?」
 八重が首をかしげる中、妹紅は溜息混じりに薄く笑って、
「明日の朝、その竜を退治しに行くよ」
「――!」
 お節介だとは思ったが放っておくわけにもいかないので、勝手に竜を倒して村を去ろうと思っていた。
 八重は心底嬉しそうにぱあっと顔を晴れ渡らせていたが、次の瞬間にはしゅんと悲しそうに顔を落とす。
 その表情の落差を面白いと思いつつも、妹紅は不思議に首をかしげた。
「……さっき退治屋さんが来たんです」
 妹紅は意外そうに、
「退治屋が? 呼びに行った村人が無事に戻って来たのか」
「はい。お父さんも帰ってきて良かったです」
「ああ……」
 妹紅が助けた一向の中にこんな少女がいたことに何かおかしいと思っていたが、成程父親が心配で母と共に一向に加わっていたのか。
「でもなんだかあの退治屋さんは偉そうな人です」
「退治屋なんてそんなもんだ」
「でも妹紅さんはいい人ですよ」
「……私は退治屋じゃない」
「そうでしたね」
 ばつが悪そうに八重が小さく笑うと、つられて妹紅も笑顔になってしまう。
「まあ、退治屋が来たなら大丈夫かもな」
 すると八重は途端に気を落とした様子で、
「……帰っちゃうんですか?」
「そういう話だし、明日の朝にでもな」
「……あ、あの!」
 八重がずいと妹紅に詰め寄ると、眼前に迫られた妹紅は思わず身を引きそうになってしまった。
「明日の朝ご飯も持ってきます」
「いや、いいって」
「持ってきますから待っててください!」
「…………」
 妹紅はやれやれといった具合で溜息をつき、
「分かったよ」
 途端に八重の顔がぱあっと晴れる。
(この笑顔には勝てないな)
 妹紅は内心苦笑した。

「それじゃあおやすみなさい」
「おやすみ」
 千切れるくらい必死に手を振り、八重は夜道へと危なげない足取りで走って行った。
 途端の静寂。
「……はあ」
 騒がしい娘だった。
 しかし先ほどまでの嫌な感じはもう消え去っている。
 妹紅はやれやれと薄い笑みを浮かべながらそっと目を閉じた。











 ◇◇◇


 翌日の早朝。雨は降らないようだが、厚い雲が太陽の光を完全に遮っており、とても朝とは思えない暗さだった。

「こ……ここです」
「ふうん」
 退治屋亜門は村人に案内され、村外れにある崖を乱暴に彫られてできた洞窟の前へとやって来た。
 縦横二丈はある大きなもので、確かに大きな妖怪が入っていても不思議ではない。
 日の光がほとんど入らない中は全くの暗闇になっており、明かり無しでは歩く事もままならないだろう。
「ま、ちゃっちゃと退治してくるからさあ。金用意して待っとけよ」
「は、はい」
 村人から灯籠をひったくるように取ると、亜門は妖気渦巻く洞窟へと臆することなく歩いて行った。
 闇の中に消える退治屋を、村人たちは拝むように固唾を飲んで見守ったという。



 洞窟の中は迷路のようになっているわけでもなく、ただ一直線にでこぼこした広い道が続いていた。どこまでも続く常闇が広がり、灯籠をかざしているのだが一寸先も見えない。
(ふうん……一本道、ね。迷わせようともしていない、か。余程自信のあるやつだな)
 今までの妖怪退治の経験から、亜門は冷静に敵のことを分析する。
 洞窟の壁には爪で引っ掻いたような跡が無数についており、歩く者を不安にせずにはいられない。どうやら縄張りを表しているようだ。鈍い人間でも危険な場所だと分かる。
 それでも亜門はなんという風もなしにさっさと進んで行く。その足取りに淀みは無い。

 しばらくそうやって歩いていた後、一段と開けた場所へとやって来た。どうやらここが巣のようだ。
 足音を忍ばせて来たわけでもないので、とうに相手に自分の存在は知られているだろう。そもそも隠れる気も無かった。
 亜門は灯籠を掲げて、
「やっほー竜とやら。会いに来てやったぜ?」
 どこかにこやかさも漂わせてそう言うと、懐から札を取り出して宙に放った。
 途端、その札から煌々とした光が生まれる。
 広い部屋を瞬く間に明るく照らし、中に息づくモノを明かりの元へと引きずり出す。
「こいつは……」
 闇から浮かび上がったそれを見て、亜門は思わず目を見開いて驚きを見せる。

 それはまさしく竜であった。
 身の丈一丈、尻尾を含めると一丈六尺といったところか。中型の竜だ。四本足に翼が生えており、体の色は全体として暗い青。金色の双眸でやって来た退治屋を厳しく睨んでいる。

 睡眠を妨害された竜は無数の牙が並ぶ口を開け、機嫌悪く呻るように言葉を紡ぐ。
「ぐううう……なんだ貴様は」
 亜門はしばしその竜を眺めていると――

 にいぃ

 口の端を限界まで吊り上げ、目を見開いて心底嬉しそうに竜を見やった。
「ぎはははは! 田舎もん共が竜だ竜だって言うもんだから眉唾もんだったけど、成程ほんとに竜じゃねえか! ぎはははははは!」
 嬉しそうに笑う亜門に竜が訝しげに目を細める。
「貴様……退治屋か」
「ぎはははは! こんな辺鄙なド田舎で思わぬ収穫だぜえ! ぎははははははははははは!」
「ぬうう……」
 全く質問に答えようとしない亜門に業を煮やしたのか、竜はその存在を鼓舞するかのように大きく翼を開いた。洞窟の一室に風が巻き起こる。
「我は竜なるぞ! この下等生物が!」
 そして竜は亜門に向かって口を開いた。
 口内が赤く輝いたかと思ったら、次の瞬間にはそこから赤く光る火の玉が吐き出される。
 豪快な爆発音と共に、火の玉は寸分違わず亜門に直撃した。
「ふん……」
 火だるまとなったそれを満足げに見下す竜。
 しかし次の瞬間、その金色の目が驚愕で見開かれた。
「――なっ!」
「ぎはははは! いきなり攻撃なんて元気がいいねえ。ますます気に入った!」
 煙の中から笑い声を上げながら出てきたのはとぐろを巻いた巨大な百足だった。どうやら亜門の体をすっぽりと覆っているようだ。
 そして巨大百足が気味の悪いぞろぞろとした動きでどくと、中から傷一つ無い亜門が万遍の笑みと共に姿を現す。
「妖怪……だと……?」
「ぎはははは! どうしたどうしたそんな阿呆みたいな顔しちゃってさあ。驚いた? この『千本百足』ちゃんの甲殻は千度の熱でも傷一つつかない特別製でねえ」
「き……さま、一体……」
「ぎはは」
 亜門は驚愕の表情を浮かべる竜に向かって心底楽しそうな笑いを浮かべながら、
「俺様は鬼島亜門。『百妖遣いの亜門』たあ俺のことだ」
 亜門は目の前に腕を掲げると、その腕に巻き付いていた黒い数珠の一粒に五芒星が浮かび上がる。
 次の瞬間、珠の中から一匹の妖怪が飛び出してきた。
「シギギギギギ」
 何かを擦り合わせるような不気味な鳴き声を上げるそれは巨大な蜘蛛だった。竜と同じくらいの体長をしており、足の先端に毒が仕込まれているのか、その部分だけ不気味に青い色をしている。そしてその蜘蛛の額には目立つように濃い五芒星が刻まれていた。
 それを竜は苦々しい表情で見やる。
「く……妖怪の身で人の手に落ちるとは……」
「ぎはははは! やっちまいな『青足蜘蛛』!」
 聞いた者が耳を塞ぎたくなるような奇声を上げて巨大蜘蛛は竜へと襲い掛かる。
「ちい……こんな低能な妖怪ごときでえ!」
 竜は蜘蛛に向かって火炎弾を立て続けに発射する。
 しかし蜘蛛は俊敏な動きでそれをかわすと、大きく跳躍して天井へとべったりと張り付き、その尻から糸を竜目掛けて発射した。
「くっ!」
 避けきれず粘着質の糸が翼に絡まる。
「この雑魚があ!」
 苛立った声を上げると共に、天井の蜘蛛目掛けて火炎弾を連発した。
 しかし蜘蛛はまたもそれらを機敏な動きでかわしてのけると、火炎弾が着弾した天井からばらばらと土がこぼれて落ち、洞窟全体がぐらぐらと揺れる。
「おいおい、あんまり洞窟を壊してくれるなよ?」
「くっ!」
 高みの見物を決め込んでいる亜門を竜は憎たらしげに睨むが、亜門の側には百足が控えているし、蜘蛛から注意を離している隙は無い。
 そうこうしている間にも、地上に降りた蜘蛛は竜目掛けて大量の糸を噴出させる。
「この……!」
 迫り来る糸目掛けて火炎弾を放った。糸の発射中は身動きが取れないと見越してのことであり、糸ごと蜘蛛を焼き落とそうというのだ。
 しかし、
「――なっ!」
 焼き切るどころか、糸に当たった火炎弾は一瞬で霧散してしまった。
「ぎはははは!」
 途端に亜門が馬鹿にしたように腹を抱えて笑い転げる。
「その糸は耐火性に優れていてねえ! 焼き切れると踏んだ馬鹿の度肝を抜いてやれる特別製さあ!」
「くっ!」
 糸の束が竜を直撃するとそれは何重にも折り重なり、とうとう首だけ残して竜を縛り付けた。
「ぐうう!」
 横倒しになった竜は何とか脱出を試みようとするが、どれだけ力を込めてもまるでびくともしない。
「ぎはははは! 無駄無駄。力で破ろうとしても無駄なんだよ」
 がさがさとした気味の悪い動きで蜘蛛が近づくと、竜に覆いかぶさって足の先端を槍のようにして突きつけた。
「くっ……」
「大丈夫だぜえ? 寝るだけだ。おやすみー」
 勝ち誇ったような小ばかにしたような声を上げる亜門。
 しかし次の瞬間――
「シギィイイイイイ!」
 蜘蛛が悲鳴を上げて竜から離れた。
「なに!?」
 驚きと共に亜門が見ると、なんと蜘蛛の糸の中から竜の腕が突き出ていた。
 その鋭い爪をもって蜘蛛の糸と蜘蛛本体を貫いたらしく、緑色の血が腕から滴り落ちている。
「ぐううう……」
 その上竜が体に万力を込めると、やがて糸は千切れてばらばらとなり、地面にばさばさと折り重なって落ちた。そして一息、
「ふう……」
「な……なにい?」
 亜門が驚愕で顔を歪ませる中、竜は蜘蛛をきっと睨みつけた。
 腹をぶち抜かれてのたうつ蜘蛛はどうやら糸を出せなくなったようだ。動きも鈍い。
「虫けらがあ!」
 苛立った竜は容赦なく火炎弾を浴びせた。
「シギイイィイイイ!」
 悲鳴のような呻き声を上げて炎上した大蜘蛛は、やがてその体を灰と化して崩れて落ちる。

 それを満足そうに見ていた竜は、いまだ驚きの表情を崩さない亜門を得意げに見下ろした。
「人間風情が。竜に太刀打ちできると思ったか」
「…………」
 俯いて肩をぶるぶる震わせる亜門。口から苦しげな声まで洩らす。
「……ぎぎ」
 しかし次の瞬間――

「ぎはははははははははははははははははははははははははあ!」

 広い洞窟にその奇妙で下品な笑い声が高く響いた。
「いいねえ、いいねえ! ますます気に入ったよ! お前最高だ! ぎははははは!」
 竜が訝しげに目を細めて、
「絶望の余り狂ったか、人間」
「ぎはははははははは! ばーか! 落ち込むのはてめえだよ!」
「何?」
 怪訝な表情をする竜の目の前で、亜門は再び手を掲げた。その腕には無数の数珠が巻きついていて……
「まさか!」
「その『まさか』だよ!」
 亜門が言葉を吐き出すと共に珠に次々と五芒星が宿っていく。
 そして次の瞬間、先ほどの大蜘蛛のように妖怪たちがそこから飛び出してきた。

 とぐろを巻く蛇女、全体的に丸い体躯の巨大鼠、斑模様の大蛙、大柄な牛男、無数の蟲の集合体、角の生えた大亀……

 大量の妖怪たちが所狭しと竜の眼前を埋め尽くす。
「な……」
 愕然と、竜はそれらを見てただ打ち震える。
「ぎははははあ! あれ? もしかして『勝った!』とか思っちゃった? ごめんねえー。俺様ってば最強の退治屋様だからさあ。ああそうだ、ついでにいい物見せてやるよ」
 亜門は首に掛けている一際大きな珠を示した。
 すると――

 ずるり

 そんな音と共に、そこから一際大きな何かが這い出てくる。
「――な!」
 竜は愕然とした様子でそれを見上げる。
「グウウウウウウ」
 野太い呻り声と共に出てきたのは巨大な竜であった。
 その体躯は驚きで打ち震える竜を一回りも二回りも上回り、狭い天井に窮屈そうに体を曲げて小さき竜を見下ろす。
「き、きさま……」
「ぎはははは!」
「――く!」
 竜は自分より遥かに大きな竜に向かって訴えるように叫ぶ。
「同胞よ! なぜ人間ごときに味方するのだ! 誇りを忘れたか!」
「…………」
 巨大な竜が答えないでいると、亜門はにやけた笑みを浮かべて、
「なんか言ってやれよ」
 促され頷くと、巨大竜はおもむろに牙だらけの口を開く。
「お前も大人しく亜門様に従うのだ。それこそが至上となるだろう」
「――!」
 小さき竜はぶるぶると震え、
「がああああああ!」
 声にもならない雄叫びを上げて妖怪の群れへと突撃した。






 洞窟の前で待機していた数人の村人たちは、物陰に隠れながら暗い竪穴の中を心配そうに見やっていた。
「さ、さっきから音がどんどん響いて……あの退治屋は大丈夫なのか」
「うう……退治屋なんて呼ばなければよかったかもしれん。怒り狂った竜が襲ってくるかもしれんぞ」
「そんな!」
 不安そうに顔を見合わせる男達。
 そして――
「……?」
 洞窟の中から轟く音がぴたりと止み、しんと静まり返った。






 無数の妖怪によって地面に押さえつけられ、小さき竜は忌々しげに自分を見下ろす亜門を見やった。
「ぐうう……無駄だ。貴様の配下になどならんぞ」
「ぎはははは!」
 狂ったように笑いながら竜を見下すように眺めていた亜門は、
「ま、ちゃっちゃと済ませちまうかあ」
 竜の額に手を押し当てた。
「な、何を……」
「ぎはははは! 俺様『百妖を操る程度の能力』を持っていてねえ。ああ、『程度』って言ったって『余程』の力だぜ? こうして念じれば……」
 すると、竜を中心とした地面に巨大な五芒星が浮き上がった。竜が愕然とする中、五芒星は次第に収束してくる。
「や、やめろおお!」
 危険を察知して暴れるが、周りの妖怪に押さえつけられて腕一本満足に動かせない。
「ぎはははは! さーお前も俺様の素敵な下僕に成り果てちまいなあ!」
「がああああああ!」
 暴れる竜の下、五芒星はあっという間に収束しきって姿を消した。

「ふう。終わり、っとお」
 一仕事終えた後のようにぽっと溜息をつき竜の額からおもむろに手を離すと、そこには他の妖怪たちのように鈍い色の五芒星が刻まれていた。
「さーよろしく新入りちゃん」

 ぐおおおおお

 そんな慟哭とも歓喜の雄叫びとも取れる竜の鳴き声が、暗く巨大な洞窟に大きく鳴り響いた。











 ◇◇◇


「だ、誰か出てくるぞ!」
 洞窟の前で待機していた村人たちは、何か大きな足音が洞窟の中から響いてくるのを聞いて一斉に身を隠した。
 竜でも出てこようものなら一目散に逃げるしかない。
 一同が見守る中、しかし洞窟の中から姿を現したのは亜門だった。

「よっ」
 にこやかに片手を上げて挨拶をしてくる。
 村人たちは途端に安心した様子で駆け寄るが、その足が途中でがくりと止まった。
「な、な、な……」
 驚きで言葉を詰まらせる。
なぜなら亜門の後ろから、散々村を襲ったあの竜が顔を出したからだ。
「ひいい!」
 一斉に逃げ惑う村人たち。亜門は頭をがりがり掻いて呆れ気味に、
「おいおいおい。たいじょーぶだって。手なずけてやったからさあ」
 村人達はぴたりと足を止め、恐る恐るといった様子で物陰から竜を見やる。
「て、手なずけ、た……?」
「そー。ほれ。お手」
 亜門が差し出した手に竜は恭しく片手を突き出して乗せて見せた。
「おお……」
 村人たちから歓声にも似たどよめきが生まれる。
 すると、村長が皆を代表するかのようにおずおずと進み出てきた。
「お、鬼島様……その、素晴らしいお手並みです。百妖遣いとの噂は、その、真のものでした」
「ふん。当たり前だろう?」
 満足そうに胸を張る亜門。そんな彼と後ろの竜に怯えながら村長は、
「鬼島様……その、お願いがあるのですが……」
「なんだよ」
「で、できれば退治していただけると、我らとしても安心できると言いますか……」
「ああん?」
 亜門は片目を吊り上げて乱暴に村長を睨むと、村長は怯えた様子でぶるりと震えた。
 それを鼻で笑いながらも口調は乱暴に、
「なんだあ? 文句あんなら今からこいつ解放しようか?」
 それを望むかのように竜が一声大きく鳴いてみせる。
「ひい!」
 慌てた村人たちが再び身を隠した。
 村長は慌てて首を振り、
「い、いえ。滅相もございません」
「ぎははははあ。てめーら凡人共が俺様に意見できるとでも思ったかよ。身の程を知れってんだよ。…………ん?」
 見ると、隣の竜が亜門に向かって何やら訴えている。
 それに耳を傾け、
「ふん。ふんふん」
 大仰に頷いている亜門を見て、村人たちは首をかしげる。
「あ……あの、その竜はなんと……?」
 村長がおずおずと聞くと、亜門は何でもないことのように笑顔で、
「ああ、こいつさあ。腹減ってるからお前ら食べたいんだって」
「――!」
 その場の全員が後ずさる。
 村長が心底慌てた様子で、
「は、早く鎮めてやってください!」
「んー」
 すると亜門は首を右に左にかしげ、
「そーだなー新入りだし。ちょっとここらで腹ごしらえさせてくかあ」
「は?」
 そう言った村長の上半身は、次の瞬間無くなった。竜が噛み切ったのだ。
血が飛ぶ。それは亜門の髪に付着すると、髪の赤と混じり合って全く見分けがつかなくなる。
 亜門は呆れた様子で髪に付いた血を拭った。
「あーあ。また髪の色が濃くなっちまうぜ」
 これまで幾多の血で赤く染まった髪を整える。
 村人たちが唖然とした様子で見守る中、竜はばりぼりと人肉を貪り、血を飲み干す。
 そして、ぶっという音と共に村長だった人の骨を吐き出した。
「あ……あ……」
 一拍の後。
 村人たちはようやく甲高い悲鳴を上げた。
「わああああああああああ!」
 弾かれたように一斉に逃げ惑う。
「ふー」
 それをやれやれといった疲れた様子で見ていた亜門は、
「いーや、面倒だし。おい、好きに暴れまわっていいぞ」
 呼びかけられ、竜は歓喜の声を上げると村へ向かって飛び立っていく。
 風でなびいた髪を直しながら、亜門はにやにやと下品な笑みを浮かべて竜を見送っていた。






「八重。何してるの?」
 母に呼び止められ、八重はぎくりとした様子で立ち止まると、慌てて朝食の入った風呂敷を後ろ手に隠した。そして目を泳がせて、
「な、なんでもない」
 母は首をかしげていたが、
「今退治屋さんが竜退治してるところだから外に出ちゃだめよ。暴れた竜が村に来たらどうするの」
「だ、大丈夫だよ。それに…………妹紅さんもいるし」
 母は困ったように大きく溜息をついた。
「あの人のことは忘れなさい。妖怪かもしれないのよ?」
「そんなことない!」
 八重は涙を滲ませて、
「お母さんだって妹紅さんに助けられたじゃない!」
「……妖怪でないとしても、普通の人じゃないわ。忘れなさい」
 一瞬言葉を詰まらせた母に、八重はいやいやと首を振って、
「礼儀正しくしなさい、って言ったのはお母さんじゃない! 助けられたのに追い出すなんて、あんまりだよ!」
 そして八重は勢いよく外へと飛び出していった。
「八重!」
 母の言葉を振り切り、涙を飛ばしながら村の外れへと通りを駆けて行く。


 竜が村上空に到着したのはそんな時だった。


「お、おい……」
 村に残った人達がざわめきながら滞空する竜を指差して眺める。八重は竜に背を向ける形で走っているので気づかない。
 自分を見上げる村人達を蟻のように見下ろしながら、竜は気分良さげに小さく呻る。
「ぐるるる……」
 亜門の配下となったが、竜の心持は極めて爽快だった。むしろ新しい世界が開けたと言って良い。亜門に仕える事を考えると至上の喜びを感じ、そうすることに疑問も抱かない。
 なぜもっと早く彼に仕えなかったのかという苛立ちさえ覚える。抵抗していたさっきまでの自分が馬鹿のようだ。これからはもっと彼に仕えよう。もっと亜門様に貢献しよう。
 しかし今は、
「この蟻共を、根絶やしにしてくれる!」
 竜は村に向かって無数の巨大な火炎弾を放った。


















(……あれ?)
 八重は自分が倒れていることに素直に驚いた。
 いつの間に倒れたのだろうか。つい今まで走っていたというのに。
「? ??」
 周囲の音が何だか遠くに聞こえる。
 腕を使って体を起こす。
 体は軽かった。
 そして立ち上がると、がしゃりという音と共に思わず倒れそうになる。
「……?」
 不思議に思いながらも姿勢を整える。
 なんだか頭がぼーっとする。
 熱でも出た時のように思考が追いつかない。
(……あ、そうだ。朝ご飯を妹紅さんに届けないと)
 それははっきりと分かっていた。
「――?」
 そして風呂敷を持っていない自分に気づく。
 見ると、風呂敷と共に中身が路上にぶちまけられていた。
(大変!)
 急いでかき集める。
 どこかおかしい。
 なんだか視界が狭い気がするし、物の奥行きがうまく掴めない。
 おかげで砂が多く風呂敷に入ったが、そんなことにも八重は何やら気が回らなかった。
 ようやくあらかた集めると再び風呂敷を持ち、村外れにある妹紅の所まで急ぐことにする。
 走ると何やらがちゃがちゃという音がするし、何度か転びそうになる。
「? ??」
 不思議に思いながらも、今は妹紅に朝食を届けることしか頭に無い。
 村外れへの道を、八重はよたよたしながらも急ぐ事にした。








 八重が持ってくると言っていたので朝食を待っていた妹紅は、爆発音を聞きつけ咄嗟に立ち上がった。
(この音は……!)
 ぼろ屋の裏から飛び出し、村の方を見ると――
「あれは!」
 村の上空を竜が飛びまわっている。
 誰かを食べるわけでもなく、ただ殺すためだけに火炎弾を断続的に吐き出す。
「く……」
 妹紅は苦々しい表情でそれを見やる。
(退治屋とやらは何をやっている? 失敗したのか?)
 自分には関係が無い。所詮自分を気味悪がって追い出したような連中である。
「くそっ!」
 しかし放っておくという選択肢は元から無かった。八重もあそこにいる。
 妹紅は舌打ちすると共に村の中心へ向かって全力で走り出した。

 その途中だった。

 前方から誰かが不安定な足取りで駆けてくる。
「あれは……」
 遠くからでも八重だと分かった。
(良かった、あの子が無事で)
 安堵して足を速めると、妹紅は呼びかけようとして、
「おーい! や――」

 近づいてくる八重を見て、
 表情が固まって、
 声が固まって、
 足を止めて、
 呆然と、
 ただ唖然と、
 妹紅を見つけて嬉しそうに微笑むような八重をただじっと見つめると、
 震える体で、
 震える声で、
 震える視界で彼女を捉え、

「や……え……?」
 名前を呼ぶ以外、何もできなかった。



「あ、妹紅さん。遅くなってしまってすみません。でも茄子の漬物いっぱい持ってきたんですよ? 沢山召し上がってくださいね」
 妹紅の側までふらふらとした足取りでなんとか辿り着いた八重は、普段と変わらない声で、いつものはきはきとした礼儀正しい調子で、あの無垢で無邪気な愛嬌のある万遍の笑顔で風呂敷を元気良く差し出す。

 その右目は、眼球が飛び出てぶらんとぶら下がっている。
 その左足は、肉が消し飛び骨だけになって歩くたびにがしゃがしゃと音が鳴る。
 頭の一部が消し飛び、頭蓋骨に空いた穴からは脳の一部がこぼれ落ちていた。


「あ……ああ……あ……」
 呻き声を上げながら目を見開き、がたがた打ち震える妹紅を八重は不思議そうに眺める。その普段と変わらない大きなくりくりとした左目で妹紅を見やる。
「どうしたんですか? 妹紅さん」
「な……う……」
「……?」
 八重は風呂敷を押し付けるように突き出す。
「あ…………」
 すると妹紅は八重を見つめたまま震えながらも、ゆっくりとそれを掴んだ。
「いっぱい食べてくださ――い――ね」
 受け取ってくれたのを満足そうに見て笑顔を浮かべると、力尽きたかのように八重はその場に崩れ落ちた。
「八重!」
 咄嗟に抱きとめると、さっきまでの元気が嘘のように八重の体からはがくんと力が抜けていた。
「あ……あれ、なんだろ。体、が……動かなく、て」
「八重、お前……」
 呆然としていた妹紅の目からようやく涙がこぼれた。
 ぼろぼろと落ちていくそれは八重の焼け焦げた頬を濡らす。
 すると八重は不思議そうに僅かに首をかしげ、
「あ……あれ、も、こう、さん……泣いてる……んです、か……?」
「……ああ……見えない、のか?」
「あれ……なんだか、見えない、です……」
 妹紅はそっと八重の目を手で覆った。ぶらぶらと揺れる右目のぐにゃりとした感触もするが気にはならない。
「私が……目を、覆っているからな……」
 八重がくすりと笑うのが口の動きで分かった。
「なあんだ……それじゃあ、見えない、わけです……なんで、泣いてるん……です、か……? そんな、に、うち、の、茄子……おいしいです、か……?」
 妹紅は地面に落ちた風呂敷を見やると、震える手でその中の茄子の漬物を拾い、砂にまみれたそれを一気に口に入れる。
 じゃりじゃりとした食感。しかし妹紅は噛み締める。
「ああ……うまいよ……」
「そ……かあ……よ、か…………た……うっ」
 途端、八重の表情が苦しくなる。
「う……げほ、うえっ、げほ、っぐ」
 妹紅は涙を抑えて必死に呼びかける。
「八重? 苦しいのか?」
「は……はは……」
 それでも笑う八重を見て、妹紅はまた泣きそうになるのを必死に抑える。
「なんだか……段々、苦しくなって、きました……」
「……そうか」
 誰が見ても分かる。もう八重は助からない。
 自分は死なないのに。自分の無限の命の一つだけでも与えられたらどんなにか良いだろう。
 もどかしさに血が出るほど歯を噛み締める。

「…………」
 やがて妹紅は自身の炎の力を練り上げ始めると、穏やかに、安心させるように、八重に優しく呼びかける。
「少し、眠ろうな……家まで、届けてやるから……」
 すると、八重はほっとした様子で微笑んだ。
「あ……すみま、せん……なんだか……疲れ、ちゃって……」
「いいんだ。何も、心配しなくていい」
「あ……家に……お母、さん……いるんです、けど……」
「ああ」
「妹紅、さん……は、いい、退治、屋、さん……だって、言って、あげて、くだ、さい……」
「私は……」
 言いかけて、つぐんだ。
 そして見えないことは分かっていたが笑顔になって、
「ああ。私は一流の退治屋だからな」
 ほっと、満足そうに八重が微笑むのが分かった。
 その顔が再び苦悶で満ちる。
「う……ああ、あぐ」
「八重!……八重、もう、おやすみ……」
「あ……はい、おやすみ、な、さい……」

 妹紅から高温の炎が迸る。あまりの高熱に周囲の空間が歪み、辺り一体に陽炎が浮き上がる。
 紅い炎は八重を抱き包むように広がり、痛いと感じる間もなく瞬時にして彼女の体を灰に帰す。
 その最中、見えないはずの八重の目蓋に、荘厳に構える美しい不死鳥の姿が映し出された。

 ありがとうございます

 灰となって崩れるその一瞬、八重の声が聞こえた気がした。





 強い熱を発生させた影響か、風が吹き、腕の中の八重の亡骸が散り散りになって空へと飛んでいく。
「………………」
 その様子をじっと見ていた妹紅はやがて村の方を見る。
 上空では竜がいまだに暴れまわり、逃げ惑う人々目掛けて火炎弾を吐き出していた。
「…………」
 そして妹紅は歩き出した。地獄と化した竜の村へ。
 妹紅が一歩歩くごとに地面が焼け、ひび割れて黒く焦げる。
 妹紅が体を揺らすたびに、熱気で周囲の空間がぐにゃりと歪む。
 そして彼女の双眸は、煮えたぎるように紅く激しく揺れていた。






「がはははあ! 逃げ惑え蟻共!」
 好き勝手に火炎弾をばら撒き、地上に舞い降りては村人を貪り食っていた竜は、一人の女の村人が逃げていくのを見つけた。
「がはははっ!」
 その女性の近くにわざと外した火炎弾を吐き出すと、衝撃で悲鳴を上げつつその人は面白いように吹き飛んだ。
「はははははは!」
 それを可笑しそうに見ていた竜は、喰ってやろうとその女性の前に降り立つ。
「う……ひ、ひい!」
 なんとか起き上がった女性は目の前の竜を見ると、顔面蒼白でがたがたと打ち震えた。
 そんな彼女に竜がにい、と笑い、
「どこを喰ってほしい?」
 残酷にもそんなことを聞く。しかし女性は答える事などできず、ただ震えることしかできない様子だ。
「ひ、ひい!」
「ふん」
 竜は詰まらなそうに目の前の下等生物を見下すと、大口を開けて女性へと喰らいつく。

 その時、轟音は響いた。

 竜の体が真横に飛んで消える。
「がああ!」
 飛んだのではなく弾き飛ばされたのだと分かった者は、果たしてこの場にはいなかった。
 竜はそのまま民家に激突し、がらがらと瓦礫の中にその身を埋める。
「え……」
 震える体でその様子を見ていた女性に、

「おい」

 後ろから声を掛ける者がいた。
 慌てて振り向くと、女性ははっと息を呑んで一人の少女を見た。
 長く白い髪をしているが、その容姿はまだあどけないと言ってもいいくらい若い。
 全身から吹き出る紅く輝く炎は感情を表すかのように燃え上がり、うねり、一つの形を作ってはまた崩れる。
 あまりの美しさにどこか気品か神々しさまで感じた女性は、しばしその少女に見とれていた。まるで自分は夢でも見ているかのようだ。
「おい」
 その少女が呼びかけ、女性は我に返る。
「は、はい」
 しかしまだ夢見心地で答えていると、
「さっさと逃げろ」
 神々しさとは裏腹にやけに荒っぽい口調で言われ、なんとか現実に戻った女性は慌てた様子で逃げて行った。

「…………」
 劫火をたたえて竜の激突した瓦礫を見ていた妹紅は、突然そこから飛び出してきた竜を特に驚くでもなく見つめていた。
 上空に飛び上がり、呻きながら竜は炎を纏った妹紅を睨む。
「なんだ、貴様はあ!」
「藤原妹紅」
「なんだと?」
 退治屋に憧れて死んでいった少女を思い出し、妹紅ははっきりと口にした。


「退治屋だ」


 竜は憎たらしげに妹紅を見やる。
「退治屋だと……? 亜門様以外に来ていたというのか」
 その名を聞いて妹紅の眉がぴくりと上がる。
「……聞いた名だな。ほとんど悪名だったがな。『百妖の亜門』。妖怪を操る退治屋。……お前、その亜門の下僕か」
「ふん。たったさっきからな」
「……成程な。そういうことか」
 妹紅は表情を変えずに軽く頷くと、
「その亜門はなぜお前を放っておいている」
「……答える必要も無い」
「そうか。じゃあ本人に聞くとしよう」
 とそこで、竜が「がはははは」と人を見下すような下品な笑いを浮かべた。
「会えると思ったか? お前はここで……死ぬんだよ!」
 竜が口から火炎弾を放つと、それは寸分違わず妹紅に直撃した。
「ふん」
 火だるまになった妹紅を見て満足そうに鼻で息を吐く竜。
 しかし――
「ああそうだ、言い忘れた」
 さっきより勢いを増した炎を平然と纏っている妹紅を見て、竜の目が驚愕で見開かれる。
「私なあ」
「な……貴様……」
「最高に……気分が悪いんだよ!」
 次の瞬間、妹紅が光った。
 と思った瞬間、竜は落下を始めた。
 いくら翼を動かしても上へ飛べない。
「なっ!」
 見ると、自分の片翼がぼろぼろに消滅している。
 自分の翼を妹紅の炎のレーザーが撃ち抜いたのだと、竜が気づく事も無かった。
「がああ!」
 とうとう地面に激突した竜に、間髪入れず灼熱の炎が叩きつけられる。
「うがあああああ!」
 鱗が剥がれ、じゅうじゅうと肉が焼ける音がする。
 噴き出した血は一瞬で蒸発し、目は真っ先に焼け爛れてどろりと溶けるとそれもすぐに蒸発して消えた。
 羽がぼろぼろと崩れ骨だけとなってみすぼらしい形と化す。
「が……馬鹿、な……」
 もはや立つこともできない竜は焼け焦げた地面に横たわり、目が見えないので側に立つ妹紅の気配を同じくぼろぼろの耳で感じ取った。
「ひ……!」
 そして恥も外見も無く無様に命乞いをする。
「た……助けてくれ……も、もう飛べない。目も、見えない。人を喰うこともできないんだ。だから……」
 妹紅は無言だった。
 じっと無様な姿に成り果てた竜を見下ろすと、
「はは」
 そして、笑い出す。
「はは、あはははははははははははははははははははは!」
「ひ……」
 竜は怯えた。
 そして分かった。知っていた。この笑いの意味するものを。
 いつも自分が浮かべていた、絶対的な上位でもって、全くをもって助けるつもりなどない、残酷で残忍な笑い。
 もはや竜は絶望で呻くしかない。
「あ、亜門さまあ! お助けください!」
「くたばりやがれえええええええ!」
 ごう、と風がなびくような音が鳴り、空気が震える。妹紅の叩き付けた灼熱の劫火は竜の体を一瞬で骨だけに蒸発させ、更には一片の欠片も残さないかのように、その骨すらも溶かして焼いて消滅させた。
 劫火は吹き荒れ、巻き上がり、村の一角から巨大な火柱となって立ち上った。


「………………」
 跡形も無くなった竜のいた場所を見下ろしていた妹紅。その瞳に喜びの色は無い。
 仇を取ったところであの子が喜ぶはずもない。そんなことは分かっていた。
 大きく溜息をつく。

 その時だった。



「てめえ……」
 赤い髪の少年が道の真ん中で妹紅をまさしく鬼のような形相で睨んでいた。
 妹紅はその、自分と外見上は同い年くらいの少年を見て目を細める。
「お前、鬼島亜門か」
「………………」
 亜門は俯いてぶるぶると震えていると、やがてばっと顔を上げて妹紅を見やる。その顔は怒気に満ちていた。
「てめええ! 俺様の折角の新入り下僕を! なんてことしやがる! 竜は貴重品なんだぞてめえ! 俺様がどれだけ捜し求めたと思ってんだ!」
「聞きたいことがある」
 亜門の言うことは全く無視し、妹紅は厳しい口調で声を掛ける。
「あの竜を村に放ったのはお前か」
「あー?」
 すると亜門は途端につまらなそうに頭をぼりぼり掻いて、
「だったらなんだよ」
「なぜそんなことをした」
「なぜ?」
 亜門は大仰に、人の神経を逆なでするように肩をすくめて、
「餌だよ、餌。腹空かせた下僕の餌。下僕に餌やるのは当然のことだろ? 新入りだから美味いもん喰わせてやろうと思ってなあ」
 妹紅は眉一つ動かさずに、
「そうか」
 激烈なまでの殺気を飛ばすと、それをびりびりと感じながらしかし亜門は涼しげな表情で、
「へー、なんだ。俺様とやり合おうってのか? 俺様は七大貴族の一つ、鬼島家の次男坊だぜ? 手え出しゃどうなるか分かってんのか?」
「関係無いな」
 妹紅の表情は変わらない。ただ滅ぼすべき敵を睨みつけ拳を握り締める。
「……ふー」
 亜門はやれやれといった具合で首を振ると、
「まあいいや。なんにせよ俺様に敵うわきゃねえ。ほれ、一応名乗ってやるよ。俺様は最強の退治屋、鬼島亜門。『百妖の亜門』たあまさしく」
「藤原妹紅。退治屋だ」
 名乗りに割り込まれ不満そうな顔をした亜門であったが、妹紅の名を聞いて首をかしげた。
「藤原妹紅……? お前、『不死者藤原』、か?」
「さあな」
「……へえー」
 亜門は興味深そうに顎に手をあて妹紅を見やる。
「二百年前から存在する幻の存在。妖怪とも仙人とも言われるその少女は、炎を操り傷はたちどころに治ってしまう。不死鳥の人の姿とも言われていた、が……」
 一拍の後、亜門は吐き捨てるように笑い声を飛ばす。
「まさかただの退治屋だったとはなあ。それとも噂に便乗してるだけです、ってオチか? ぎはははは! 傷が治るってのはどういう仕掛けだ? 教えてくれよ」
 妹紅は答えず無言でじっと亜門を睨む。
「……ふー。まーいいや」
 溜息をついて亜門が両腕を突き出すと、その腕に巻きつけられた数珠がじゃらりと音を立てて揺れる。
「死んじまいなあ!」
 途端、数珠から無数の妖怪たちが躍り出てきた。
 それは蛇女に大蛙、牛男などで、妹紅の眼前を所狭しと埋め尽くす。
「…………」
 黙ったままの妹紅を見て、亜門はまたも「ぎははは!」と下品に笑う。
「どーしたどーした! 絶望で言葉も出ないか? 教えてやるよ。俺様は『百妖を操る程度の能力』を持つ存在にして鬼島家のまさしく鬼才、『百妖の亜門』たあ俺のことだ!」
「………………」
 あくまで反応の無い妹紅に嫌気が差したのか亜門は溜息をつくと、しっしと追い払うような仕草で宙を払った。
「あーもーいいや。つまんねえ。『な、なに!』とか『あの亜門様!?』とか言いやがれってんだ。おいお前ら。やっちまえ」
 待っていたとばかりに妖怪達は妹紅に殺到した。
 そして次の瞬間、一際素早く妹紅に迫った蛇女はその下半身にあたる蛇の部分であっという間に妹紅を頭から丸呑みにしてしまう。
「あー……」
 亜門がつまらなそうに頭をぼりぼり掻く。
「なんだよ竜を殺った奴だってんだから期待してたのに。下僕たちの準備運動にもなりゃしねえ。おいお前ら、後は村の奴らを好きに……」
 次の瞬間、大きな爆発音と共に蛇女の体が内部から爆発した。
「…………」
 ばらばらと蛇女の体が千切れるその様子を呆然と見つめていた亜門は、炎を纏ってじっとこちらを睨む妹紅を確認した。無傷である。
「ぎ……」
 それを見た亜門はぶるぶると肩を震わせ、
「ぎははははははははは! いーねえ! いーよお前、さいこーだ! 『大蛇女』を体ん中から吹っ飛ばすなんてさいっっっこーにイってやがる! ぎはははははは!」
 次の瞬間、止まっていた妖怪たちが一斉に妹紅目掛けて襲い掛かる。
 間近に迫った牛男が斧を振り下ろすと、しかし妹紅に達する前に溶けて消えた。
 妹紅が手の平を牛男に向けると、そこから炎のレーザーが発射されてその体の中心を撃ち抜いた。それは更に後ろの数匹の妖怪までも巻き込み、亜門に向かって高速で迫る。
「おっとお」
 数珠から這い出た巨大百足がそれを阻むと、亜門はにたりと下品な笑みをこびり付かせて、
「無駄だぜ? こいつの甲殻は千度の炎も防ぐんだからなあ」
「……そうかい」
 妹紅は自分に襲い掛かる妖怪たちに向き直った。
 迂闊に近づけないと踏んだ異形たちは酸や毒液を妹紅に向けて飛ばし始めた。
 しかしそれこそ妹紅の炎に触れると一瞬で蒸発してしまう。
「はあ!」
 掛け声一つ、妹紅の手の平から灼熱が生まれ、周囲の妖怪達を焼き尽くしにかかる。
「エギイイイイイイイ!」
 身の毛もよだつ妖怪達の叫び声が高く村に響いた。
「おいおい、ったく……」
 いとも簡単に焼き尽くされる妖怪達を見ていた亜門は、溜息混じりに首に掛かった数珠を一つ手に取ると、
「出て来い、『岩石吽形』」
 亜門の前に身の丈二丈はある石男が現れた。
「あの女を引き千切って来い」
「ゴヴヴヴヴヴ」
 石を擦り合わせるような呻き声を上げ石男は妹紅へと突進する。
「っ!」
 眼前の妖怪達を跳ね飛ばしながら向かって来た石男。その長い手を伸ばしてくる。
 以外に俊敏な動きだったが妹紅はそれを避け、石男に炎を浴びせる。
 しかし、
「――!」
 炎は硬い石によって弾かれた。僅かに表面が焼け焦げただけである。
「くっ!」
 更に伸ばしてきた腕を避け、咄嗟に亜門に向かって炎を叩きつける。
「ぎははは!」
 しかし巨大百足によってそれも阻まれた。
「何度やったって無駄なんだよお! さっさとハラワタぶちまけなあ!」
「ちいっ!」
 石男が伸ばしてくる手を避けつつ何度か灼熱の炎をぶつけていくが、何度やっても表面が黒く焦げるだけで石男の動きに淀みは無い。
「ぎはははは! 無駄だって言ってんだろ? 土に炎は相性最悪だろうが!」
「くっ」
 敵の攻撃を避けながら考える。どうすればこいつを倒せるかを。
 炎をぶつけても効果は無い。ならば通常は術者を狙うのが定石だが、当の術者には硬い守りがついていて突破は困難。
 ならば普通は逃げるものだがそれは駄目だ。こいつは避難している村人を襲わせるだろう。見過ごすわけにはいかない。八重のような者をもう出さないためにも。
「はあっ!」
 妹紅から一際大きな炎が放たれると、それは一気に石男の全身を包み込んで燃え上がる。
 しかし――
「ゴヴヴヴヴヴ」
 炎を振り切り、石男はその身を真っ黒にしてなお動きに鈍りは無い。
「ぎははははは! いくらやっても『こんがり吽形ちゃん』が出来上がるだけで意味無いぜえ!」
「ちいっ!」
 石男の拳をぎりぎりで避けるとなんとか距離を取る。
 炎は土に効かない。小太刀は持ってきていないし、そもそも刃が通るような相手ではない。
 炎が効かないならどうすれば……
「――あ」
 とそこで、妹紅は間の抜けた声を出す。
 土に炎は効果が無い。
 確かにそうだ。
 なぜそんなことに気づかなかったのか。
 そうなのだ。

 とその時、妹紅の体を石男がその岩の腕で掴み上げた。
 勝利を確信した亜門が一際大きな笑い声を上げる。
「ぎはははは! とうとう捕まっちまったなあ! さー『岩石吽形』! そのまま押し潰して――」
「はは」
「……うん?」
 見ると、掴まれた妹紅が笑っている。
「ははははははは!」
 亜門は訝しげに、
「なんだあ? これから死ぬもんだからイカレちまったか?」
「ははははははははは!」
 ひとしきり笑った妹紅は、天を見上げて微笑み呟く。
「そうだ、土に効くのは風だった」
「ああ?」
 亜門がそう言うのが早いか、妹紅の体から膨大な熱が炎と共に噴き出した。
「っ! 『千本百足』!」
 呼びかけに応じ、亜門の体を巨大百足が取り巻く。
 しかし、
「はあ?」
 妹紅から迸る炎は亜門へは向かわなかった。それは暗い曇天に達するまでに天高く立ち上る。
 亜門は呆気にとられた様子で、
「…………ナニヤッテンノ? 意味分かんねーんだけど。狼煙のつもりですか? ぎははははは! あんまり笑わせてくれんなよ!」
 亜門が笑っている内に、変化は起きた。

 風が、
 雲を巻き込み、ぐるぐると回り始める。
 そよ風程度だったそれはあっという間に突風と言えるほどにまで成長し、家の屋根を飛ばして地面の土を剥がし始める。
「な、なんだあ!?」
 亜門は突然風が発生したことにわけも分からず、飛ばされないように巨大百足にしがみ付く。
「あの女、風を!?」
 妹紅が放射する熱を急激に強めたり弱めたりと繰り返す事で強烈な風を呼び込んでいるのだが、それが分からない亜門はまるで妹紅が風遣いでもあるかのように勘違いしてしまう。

 とうとう風は局地的な竜巻を形成し、石男とついでに周りの妖怪達も巻き込んで空へと飲み込んでいく。
 その最中――
「ゴヴヴヴヴヴ」
 風に弱い石男の体がぼろぼろと崩れ瞬く間に竜巻に巻き上げられていくと、とうとう塵となったそれに妹紅は一人落下しながら呟く。
「悪いな」
 石男から解放された妹紅は地面へと落ちていく。
 そして――

 ドン

 と勢いよく地面へと着地すると、ゆらりと立ち上がって亜門を見やる。
 直後、竜巻が消えて解放された妖怪達が上空から、それこそ雨のように妹紅の背後の地面に揃って激しく叩き付けられると、声を上げることもできず残らず絶命してしまった。


「……っく! てめえよくも……」
 憎たらしげに妹紅を睨むと、そんな亜門に近づきながら妹紅は涼しい表情で、
「どうした。もうあの阿呆みたいな笑い声は終いか」
 決して逃がしはしないとばかりに殺気をぴりぴりと発して一歩一歩と歩を進める。
「…………」
 そんな妹紅を見ていた亜門はやがて、
「……ぎぎ」
 そして次の瞬間には、
「ぎぎははははははははははははははははは!」
 高らかに笑い転げ始める。
 妹紅が眉をひそめていると、
「ぎははははあ! 残念でしたあ! これで終わりと思った? 思っちゃったあ? 甘い甘い。奥の手ってのは最期まで取っとくもんなんだぜえ?」
 亜門は首に掛かっている一際大きな珠を掲げた。
「出て来い! 『獄烙竜』!」
 そして――

 ズルリ

 そんな音と共に、珠から巨大な竜が這い出てきた。
 形としては先ほど倒した竜とよく似ている。
 しかしその体表は血の色よりも濃い赤で、体長も五丈はあろうかという巨躯である。
 目は銀色、無数の牙が並び、翼膜は赤い血管が透けてどくどくと流れるのが見える。
 四本足の竜にしては最大級とも言える巨大竜であった。それが今、妹紅の前にぞろりとそびえ立つ。

「ぎははははは! こいつの吐く炎は二千度を超えるんだぜえ! 一夜にして町一つ滅ぼすまさに竜の中の竜! そこらの退治屋が束になってかかっても敵いっこない俺様の最強の僕だあ!」
 巨大竜は眼前に立ち尽くす妹紅を塵でも見るような目つきで見やると、おもむろにその大きな口を開く。
「なんだ。我の相手はこんなちんけな小娘か。腹の足しにもならん」
「…………」
 妹紅は厳しい目つきで巨大竜を見やる。
 今まで何度か竜を滅ぼしたことはあるが、ここまで大きいのは初めてだった。
 亜門が巨大竜に呼びかける。
「気い付けろ。そいつ風も使ってくるぞ」
「風、か。ふん。我には炎も風も効かん。その身、焼き尽くしてくれよう」
「ちっ」
 先手必勝。舌打ち一つして妹紅は劫火を発生させると巨大竜目掛けて叩き付けた。
 しかし、

「なっ!」
 炎は竜の体にあたると弾けて消え、それを見た亜門が途端に笑い転げる。
「ぎはははは! 無駄無駄あ! こいつの体温以下の炎が効くわけねえだろうがあ!」
「くっ!」
 妹紅は苦悶の表情を浮かべると、今度は炎のレーザーを発生させた。
 それは竜の腹へと直撃し――

「――!」
 妹紅は又も驚愕で目を見開いた。当たったはずの場所には傷一つ無かったからだ。
「ぎはははは! 無駄だって言ってんだろうが! さーそろそろお寝んねのお時間ですよー。『獄烙竜』!」
「はい。亜門様」
 巨大竜が口を開き、、その口内が赤く輝いていくのを見て妹紅も自身に力を練りこんでいく。
 そして――
「ばああ!」
 竜のどら声と共に極めて高温の業火が妹紅目掛けて吐き出される。あまりの熱に辺り一帯の気温が一気に上昇し、炎が近くを掠めると建物は溶けて崩れた。
「あああ!」
 妹紅も力を振り絞って劫火を放つ。
 二つの炎は空中で激突した。
 接触面から大量の火花が散り、曇った空を地面から照らし出す。
 膨大な熱量がぶつかり合い、その影響で周囲の気温は更に上昇した。

「ぐ! ううう……」
 押し合いになれば妹紅の不利は明らかであった。
 ぐいぐいと地獄の業火は妹紅に迫る。
「ぎはははは! 諦めちまいなあ! お前は頑張ったよ。よくやった! 称えてやる! だから大人しく死ねっての。暑くて敵わねえんだわ」
「く……何故、だ……」
 必死に炎を発しながら妹紅は呻るように声を絞り出す。
「ああ?」
「何故、人をそう簡単に殺せる」
「はあ? なあに言ってんだお前」
「答えろ!」
「…………ふー」
 亜門はわざとらしく大仰に溜息をついて、
「ほんとお前何言ってんだ? 苗字あるってことはお前もいいとこの生まれなんだろ? だったら分かるだろうよ。そこらの庶民なんざただの道具。俺様みたいな貴族にはした金渡すためのせっこい道具なんだよ。そんな蟻共を殺すのなんざそこらの石ころ蹴飛ばすのとおんなじさあ。そうだろ?」
 妹紅はぎりぎりと歯を噛み締め、
「違う!」
 妹紅から放たれる炎の威力が強まった。圧倒的に押されていた炎のせめぎ合いを僅かにぐいと押し上げる。
「同じだ。同じなんだよ。貴族も、庶民も」
 妹紅の脳裏にこれまで一緒に生きた人達が浮かんでいく。貴族の生まれであった自分は輝夜を追って諸国を放浪していくうち、多くの庶民たちの世話になった。時にはそんな人たちと一緒に旅をすることもあった。
 だから分かっている。貴族であろうと庶民であろうと、何が変わるわけでもないのだと。
「同じ人間で、同じような考えを持っていて、同じように生きている。違うのは決められた身分だけだ!」
「……はあ?」
 亜門はわけが分からないといった具合で手をひらひらと振って見せ、
「なあに言ってんだよ。貴族と言やあ庶民とは違う生き物だぜ? お前、理解ふのーって奴?」
 妹紅と亜門の外見上は同い年くらいだが、実際に生きた年数は段違いだ。妹紅は百年以上。亜門は外見相応。経験が圧倒的に違う。
 だから貴族として生まれ、当然のことのように教えられている貴族の優位性を否定することなど今の亜門にできるはずもなかった。
「ほらほらほら。馬鹿なこと言ってないでさっさと死んじまえよ!」
 亜門の声にあわせるかのように竜の業火が一段と強くなると、妹紅は苦しげな表情で足を踏ん張って必死に耐えた。
「く……うう!」
「ぎはははは! それじゃあ、ま」
 亜門はにたりと下品な笑みを張り付かせ――

「さよなら、だ」
 とうとう竜の業火は妹紅の劫火を押し切った。
 それは渦を巻くように妹紅を取り巻き、その身を焼き尽くそうと一斉に殺到する。
「あああああ!」
 身を焼く痛みに悲鳴を上げ、あっという間に妹紅の体は灰となって崩れ落ちた。
 後には無数の札が貼られた服だけが残される。
 それを見て亜門は薄く笑い、
「火払いの札、か。服だけ残っちゃ意味ねえよなあ。ぎはははは!」










 どれだけ焼き尽くされようとも、体が灰になろうとも、不老不死の妹紅は死ななかった。
 やがて体も再生されるだろう。
 しかし妹紅は、
――勝てない。
 最早灰となった状態で尚考えた。
 敵の火力は自分のそれを遥かに上回っている。何度生き返ろうとも結果は同じであろう。
 自分の力も尽きかけている。そうなればもう後は捕らえられるか、でなければ逃げるかしかない。
――無理、か。
 自分の無力を噛み締め諦めかけた、その時だった。

 風が吹いた。

 それはどこか遠くに霧散していた誰かの体だった灰を集め、妹紅の体であった灰と混じり合う。
 そして――


――妹紅さん

 聞いたことのある少女の声がした。
 自分を救ってくれた妹紅に嬉しそうに茄子の漬物を届けてくれた、あの少女の声。
 妹紅ははっとなって必死にその名を呼んだ。

――八重!

――妹紅さん

――八重、どこにいる

――いますよ。妹紅さんの側に

――八重……すまない

――なぜ謝るんです?

――……お前の仇を、討ってやれなかった

 ころころと笑う声が聞こえた。

――いいんです。あたし、妹紅さんにそこまで思っていただけただけで十分です

――しかし……

――妹紅さんは優しい退治屋さんです。そんな人に最期を看取って頂けて、本当に嬉しい限りです

――…………

――それに、あたし知ってるんです

――?

――妹紅さんには不死鳥が宿ってるんです

――不死鳥?

――はい。とっても綺麗で強い不死鳥が。だから妹紅さんが負けるわけがありません

――そんなもの私には……

――……じゃあ妹紅さん、教えて差し上げます

――?


――あたしが見た不死鳥の姿を

 途端、何かの羽ばたく音が聞こえた。
 そして何も見えないはずの妹紅の視界に巨大な不死鳥が現れる。

――これは!

 その姿は全て炎で作られながらも、羽の一枚一枚まで複雑で綺麗な模様が描かれていた。
 羽ばたく度に金色に輝く火の粉が舞い、踊るように空中で弾けて飛び交う。
 鳴き声は美しく、聞いただけで心の奥まで澄み渡る様であった。



――見ていただけましたか?

 再び八重の声が聞こえる。

――……ああ

――大丈夫です、妹紅さんなら。だって妹紅さんは、

 そこで、八重のあの無垢で無邪気で愛嬌のある笑顔が見えた気がした。

――あたしの、最高の退治屋さんですから






「ああああああああああああああああ!」
 妹紅は吼えた。それは消えていった誰かへ、自分の存在を確かに示すためのものであった。

「っな!」
 巨大竜を引き連れ村を破壊させようとしていた亜門は驚愕の表情で振り返った。
 そこには全くの無傷で立ち尽くし、曇天に向かって声高に叫ぶ妹紅の姿がある。
「馬鹿な、確かに死んだはずだ!」
 愚かな退治屋の少年に妹紅はしかし、何も答えなかった。
 亜門を厳しく睨みつけ、ただ自身の炎を金色に輝くまでに高めていく。
「――く! 『獄烙竜』!」
「はっ!」
 巨大竜が再び妹紅の前に立ちはだかる。
「もう一度灰になるまで焼き尽くせ!」
「命のままに」
 竜の口から業火が迸り、あっと間に妹紅の体を飲み込むと、その様子を見ていた亜門はやがて――
「……ぎは…………ぎはははははは! なんだなんだ! 威勢よく出てきちゃった割には呆気無さ過ぎじゃねえか。復活したように見えたのはどんな仕掛け? 聞き忘れてたなあまあ今となっちゃあ――」
 その表情がぴたりと固まる。
 竜も驚愕で目を見開く。
 炎が引いたその中から妹紅がその姿を現したからだ。
 再び灰となって復活したのではなく、そもそも焼けてもいない。全くの無傷で亜門をじっと睨み立ち尽くしている。
「ぎ……ぎは……」
 亜門は呻くように呟いていると、やがて理解する。
 炎が効かないのは、それを上回る熱を持っているから――
「ば、馬鹿な。二千度だぞ」
 亜門はここで初めて心の底から震えた。
「ぐうう……人間風情がああ!」
 炎が効かないことに業を煮やしたのか、巨大竜がその大きな爪を妹紅目掛けて振り下ろした。
 しかし――

「があああ!」
 妹紅に触れる直前。膨大な炎の圧力によって阻まれ、押し返されたその手はぼろぼろに鱗が焼け爛れ反り返っていた。爪は全て剥がれ落ち、無残にも血が吹き出ては流れ落ちる。
「ご、『獄烙竜』!」
 叫ぶ亜門の前で、変化は起こった。

 妹紅の体を取り巻く炎がその色を金色に変える。
 形まで変わり、それはまさしく―――――

一匹の巨大な鳥を紡ぎ出した。

 火の鳥は全身を炎で作られながらも美しく、羽の一本一本までも複雑な模様が華麗に描かれている。
 羽ばたく度に金色の火の粉が舞い、それらは空中で弾けて自由に飛び交う。
 そして、

――――――。

 誰もが聞き惚れるであろう美しい声で、一声高らかに鳴いてみせた。
 竜も、亜門でさえも思わずその姿に見とれ、その声に聞き惚れてしまう。
 更にはその不死鳥を従え、こちらを真っ直ぐに睨みつけてくる退治屋の少女。
 白く長い髪をした、どこか気品や神々しさまで放つ不思議な少女。
 その姿に、亜門は生まれて初めて、衝撃的なまでに心を打たれた。
「な……あ……」
 亜門はただ震えた。
 感動に、恐怖に、歓喜に、驚愕に。
 そして妹紅は片手を前に指し示す。亜門に向けて指を指す。それはまるで天人が静かに地上を滅ぼす命令を下す時のような、神話の一部のように神秘的で壊滅的な光景であった。
「あ……」
 亜門が間の抜けた声を上げる中、不死鳥は翼を大きく羽ばたかせて突撃した。
 羽を動かす度に金色の火の粉が降り注ぎ、触れたものを瞬く間に溶かしつくす。
「あ、亜門様あ!」
 巨大竜が亜門の前に立ちふさがると、不死鳥向けて口から業火を勢いよく吐き出す。
 しかしそれは不死鳥に触れることもできずに眼前で霧散した。
「っく!」
 とうとう竜は自らの体をもって止めようと、両腕を突き出して受け止める体制を取った。
 そして、不死鳥は竜を包み込むように羽を広げる。
 それはゆったりとしていて、まるでわが子を抱くような優しい抱擁であった。
 次の瞬間――
「――――!」
 竜が声にならない断末魔のような悲鳴を上げるとその体は瞬時に焼け上がり、あまつさえ溶けて蒸発までして灰となることもできずに崩れて消える。
 かつて一国を滅ぼすとまで言われた巨大竜は、たったの一瞬でこの世から消滅した。

 その竜のいた場所で止まっていた不死鳥は、やがて亜門向けて突撃し始めた。
ぼうっとそれを見ていた亜門は、ほとんど眼前まで迫ったその美しい火の鳥を見てようやく我に返り、
「うあああ! せ、『千本百足』!」
 一瞬で巨大百足がとぐろを巻き亜門の姿を覆い隠した直後、不死鳥がその上に覆いかぶさる。
 ばたばたと羽ばたき、一声鳴くと、そこから金色に輝く烈火の火柱が空高く立ち上る。
 それは雲すら容易に撃ち抜き、ぽっかりと開いた雲の穴から太陽が明るく大地を照らし出した。

 不死鳥は姿を消した。
 後には丸焦げになった巨大百足の残骸が残されており、風が吹くとその百足はぼろりと灰となって崩れ落ちて行く。
 しかし――

「がああ! あちい! あちいよ糞! 糞がああ!」
 亜門は百足の残骸の中から這い出てきた。生きていた。しかし無残な姿である。
 服は焼け焦げ、綺麗に整えていた髪は燃えて散り散りになっている。
 肌も全身黒く煤け、大きな火傷もあちこちに見られるそれは、もう退治屋としての威厳も何も存在しなかった。
 それでも生きていられたのは、巨大百足の体と自身で持っていた守りの札の効果であった。それも全てが焼け落ちてしまったが。
「糞! なんだってんだ、あんなんありかよ! 反則だ、くそが!」
 その時にはもう妹紅は動いていた。
 もう炎を出す力は残っていない。だから走った。亜門目掛けて全力で。
「――!」
 こちらに駆けて来る妹紅を見て、亜門は心の底から恐怖を表した。
 体ががたがたと震え上がり、恐れおののいて変な呻き声を出してしまう。怯んだ体は一歩も動けない。
「や、やめ――」
 その亜門の顔面を、妹紅の渾身の力を乗せた拳が打ち抜いた。
「がぺ」
 奇妙な悲鳴を上げながら地面を二転三転と転がっていく。
「うぐええ」
そしてようやく止まった時、亜門は呆然と手で顔を押さえて震えていた。
 亜門は最初自分が何をされたのか分かっていなかった。生まれて一度たりとも殴られたことなどなかったのだ。
 軽い混乱状態が彼を襲うが、実感は後れてやってきた痛みと共に否が応でも沸いてくる。
「あ、あぢいいいい! 焼ける! 顔が! 鼻があああ!」
 多量の熱を帯びた妹紅の拳は亜門の顔を無残にも焼け焦がしていた。鼻は完全にへし折れ、そこからは血がだらだらと止まることなく流れ落ちる。
 ぼろぼろと情けなく涙を零し、亜門は体を起こして妹紅を睨む。
「てめえ! 一体何しやがっ――」
 何か言いかけたその亜門の腹を、妹紅は思い切り蹴りつけた。
「ふぐっ」
 またも情けない声を出して転がっていく。
 そして更にこちらに向かってくる妹紅を見て、地面に横たわる亜門は人生で初めての予感を覚えた。


――殺される。

「あああああくんなああああああああ!」
 そして僅かに残った珠を掲げると、
「――!」
 咄嗟に身構える妹紅。
 しかしその珠から出てきた怪鳥は、瞬時に亜門の体を掴むと一気に空高く舞い上がった。
「ぜえ、ぜえ……」
 そして亜門は肩で息をつきながら空より妹紅のことを見やり、
「ぎ……」
 一拍の後、
「ぎははははは!」
 あろうことか、笑い出した。
「ぎははははは! お前! お前、最悪で! 最低で!………………最高だぜえぎはははは! お前にはまた会う! 絶対になあ! それまで覚えてやがれ、この亜門様の名前をなあ!」
 そんな捨て台詞を残し、ずたぼろの亜門は怪鳥に掴まれたまま彼方へと飛び去っていった。

「…………」
 その様子を妹紅はただ無言で見つめていたが、やがて今度は後ろを振り返る。
 八重はさっきまで自分と同じ場所にいたはずなのだ。
 雲にぽっかり空いた穴から太陽が照明のように照らすそこには、しかし何も無い。灰の欠片すら見当たらない。
 あの時の八重との会話は幻だったのだろうか。
「……幻? いや……」
 妹紅は手を胸に押し当て目を閉じる。
 ドクンドクンという音の中、あの不死鳥の艶やかな声が微かに聞こえる。

 目を閉じたまま静かに微笑むと、妹紅はじっとその声に聞き入っていたという。



 この日、フェニックスとも言われる炎の不死鳥が妹紅の中で誕生した。それは一人の幼い少女のおかげだと、妹紅は長い人生の中でも決して忘れず、後に東方の地にて語って聞かせることになる。


 そんな自分が住み着くことになる土地があろうとは露にも思わず、妹紅は宿敵輝夜を探すために再び歩き出す。
 一人ではない。
 彼女の中には一匹の艶やかな鳥が激しく、しかし優しい炎を煌々とたたえて息づいている。
 それは一声、

―――――。

 美しい声を上げ、高らかに鳴くのだという。












  ◇◇◇



 炎に包まれた妖怪がやかましい悲鳴を上げて倒れる。
 ぶすぶすと煙を上げ、燃えカスとなっていくそれを呆然とした様子で見ていた人々は、やがて歓声を上げて喜びあった。
「やった! あ、ありがとうございます!」
 言われ、灰となって崩れる妖怪の前でじっと立ち尽くしていた女性は溜息混じりに振り返った。
「ああ」
 そっけなく言い放つ。

 ここは人も少ない山道。突然妖怪に襲われて逃げ惑う人々を救ったのは、白く長い髪をした女性であった。
 白い髪だというのにまだ若い奇妙な娘である。
 着ている物は赤のもんぺで、それにはお札がぺたぺた貼り付けられていた。それは火払いのお札なのだと果たして気づく者はここにはいない。
「あ……あの」
 人々の中から一人の少女がその奇妙な娘に駆け寄ると、やがて万遍の笑みを浮かべて、
「ありがとうございます!」
「ああ」
 女性も笑顔で応じた。
 するとその少女はおずおずといった様子で、
「あの、良ろしければお名前を……その、やっぱり退治屋さんなんですか?」
 何度も聞かれてきたことである。
 このような奇妙な容姿に加えて炎の力を持っていればそう思われても仕方がない。

 その質問に女性は困った顔をするでもなく、
「名は藤原妹紅」
 優しく気さくな微笑みを浮かべて答えた。


「退治屋だ」


                       了
読んでいただきありがとうございます。

妹紅が各地を放浪していた時にこんなことがあったとしたら、と色々妄想してこの作品を書きました。

でもなんだか色々とやり過ぎた感もあります。

書き方に関しては色々と試行錯誤の最中なのですが、一文が長すぎると感じるでしょうか。ちょっと文の統合を試してみました。

感想、批判等ありましたらよろしくお願いします。
yamamo
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コメント



0.1700簡易評価
3.100煉獄削除
こんな過去の話もあったのかもしれないですよね……。
八重という少女が死んでしまったのは悲しいですけど
妹紅へのきっかけになったことにグッきました。
ちょっと悲しく、また良い話でした。
7.70名前が無い程度の能力削除
幾らなんでも「藤原姓」は名乗らないんじゃないかなぁ…ちょっと知名度が高すぎます。

普通になのっても「偽貴族」扱いが関の山かと。
10.80名前が無い程度の能力削除
妹紅って妹紅自身が自分で自分につけた名前だから本名じゃなくて偽名なのでは??たしかに藤原は本名でしょうけど・・・
内容は面白かったです。
11.10名前が無い程度の能力削除
オリキャラがとにかく気持ち悪い、ストーリー上で生かしておく理由も判らない。
妖怪達も村人達もただ虐殺されるためだけに存在させられている。
どうでもいいことばかり時代考証も無視して細かく決めてるのに話自体はチープで凡百、見所が無い。
12.100名前が無い程度の能力削除
いいなー、つえーもこたん。
でも途中のオリキャラのグロ描写は別になくてもよかったのでは....。
14.100名前が無い程度の能力削除
王道的な感じだが逆にそれがいい
15.100名前が無い程度の能力削除
オリキャラが良い味だしてた!GJ
17.100名前が無い程度の能力削除
妹紅の過去に泣いた...
18.70名前が無い程度の能力削除
亜門が生き残ったのは先の構想があるのかないのか
あるのか?
19.100名前が無い程度の能力削除
yamamoさんの書く妹紅はどれもかっこいですね。
文の長さはこれぐらいが丁度いいと思いますよ。
20.90名前が無い程度の能力削除
いやー、面白かったです。ただ、八重の怪我の描写がグロかったので注意書きが欲しいところですね。
続きに期待。
24.80名前が無い程度の能力削除
妹紅がかっこよすぎです。

続きを期待してもいいですか?
亜門の息の根は止めて欲しいと思いました。
27.100名前が無い程度の能力削除
すばらしいです。
28.100名前が無い程度の能力削除
凄い力手に入れて生き返って亜門を倒した、めでたしめでたし

そんな話に簡単にしなかったので100点です、面白かった、見事。
31.100名前が無い程度の能力削除
一言、カッコイイ!
32.80名前が無い程度の能力削除
もこたんかっこいいのはいいんだけれど、「二千度」を強調してるのがやや萎えで-20点とさせていただきます。
過去の話であるならばその当時にはありえなかった単位を使うのはちょっとアレかな…
41.100名前が無い程度の能力削除
もこたんのバトルシーンはなんか、読んでるこっちまで熱くなりますね!

あと一つ気になったのが、蓬莱の薬って丸薬じゃなかったっけ…?