(注)
この文章には歴史の真実が含まれます。教科書に書いてある事と違うじゃん、許せない、と、そう思う方は読まないで下さい。
て言うかそうでない人も読まないで下さい。誰一人として読まないで下さい。
先ず最初に見えたのはそんな一文であった。
お昼休みに入った首都の某大学。学生達の喧騒も遠い寂れた研究棟の一室。大事な用があるからお昼になったら来る様に、教授からそう言い付けられて来てみれば、部屋には誰も居らず綺麗に片付けられた机のど真ん中に、これ見よがしに赤ペンで丸と秘の字とを書かれた紙の束。
さてこれどうしたもんかなあ。呼び出しを喰らった学生、黒い帽子を小脇に抱えた少女が疲れた顔で溜め息を吐く。もう一人、金髪の日本人離れした容姿の少女も、困った笑い顔で首を傾げる。
やがて二人は同様の結論へと達した。ここは一つ、意を決して読んでやろうじゃあないか。
「行こっか」
「そうね。早くしないと食堂が混んで大変だし」
読んだ。空気を。二人笑い合いながら踵を返す。
「っておいおいっ」
がたりと大きな音。小さな部屋の中に突然現れた三番目の少女。セーラー、と言っても女学生のそれでなく元である水兵に近い物を身に着けている。どうも彼女、机の蔭に隠れて様子を窺っていた様だった。
「空気を読め、空気をっ」
両手を広げ唾を飛ばしながら訴えかけてくるセーラーの少女に、帽子を持った少女が同じ様な勢いで以って反論を投げ付ける。
「読んだ上での選択ですよっ。どうせ碌な事じゃあないって、そんな空気をっ」
「いや、それはまあ」
あっさりとセーラーの少女はその気勢を殺がれて後じさる。確かにその通り。それは彼女もようく理解してる。だから反論が出来ない。それも仕様がない。彼女もまた、教授の巻き起こす面倒の被害者なのだから。
「て言うか先生は何処かしら」
どうせ近くでこっちの反応を観察してる違いない。そう思って金髪の少女が、教授の助手であるセーラーの少女に訊ねた。
「見てるぜ。別の部屋。こっちには隠しカメラを仕掛けて」
「学校の施設にそんな事して良いのかしら」
「学会の常識にも、それどころか銃刀法や非核三原則にすらも縛られない人だからな。学内なんて狭く小さな社会での決まり事なんか守る筈も無い」
帽子の少女のツッコミをさらりと受け流すセーラーの少女。教授との付き合いももう長い。常識人からのツッコミごときにあれこれの手間も遅れも見せはしない。人間諦めを知れば大概の事は出来る様になるものだ。そう、諦めさえ知れば。
「とにかく頼むっ。読むだけ読んでやってくれ。原稿として出版社に持ち込む前に、なるたけ多くの感想を聞いときたいそうなんだ」
両の掌を合わせてセーラーの少女は頭を下げた。
「どうする?」
「まあ、読むだけなら、ねえ」
頭を下げられる方の二人、流石にここ迄をされて無下にすると言うのもどうも後味が悪い。て言うか本にする気なのか。
まさか読んだところで、いきなり爆発する訳でも人外の美少女が降ってくる訳でも異世界に飛ばされてイケメン集団と世界を救う旅に出る事になる訳でもなし、それならば。
今度こそ意を決して少女二人は、読むなの禁を施されたその紙束に手を出した。
序
あれはとても熱い夏の日の事であった。
私は、西京区は大枝の沓掛町に在る秦野弥三郎氏の家を訪ねていた。秦野氏の家は数百年以上の歴史を持つと言う非常に古い家柄であり、その家に先祖代々から伝わる文書の鑑定をお願いしたい、そう依頼をされて来たのだった。
大江山騒動始末事(おおえやまそうどうしまつのこと)。
見せられた文章その物は江戸後期に書かれた物であったが、中の文章は初代の頃から伝えられている話を書き写してあるものだと言う。そしてその内容を読み解いた時の興奮と衝撃を、私は今でもはっきりと思い起こす事が出来る。
正直に言おう。私としてはこの文章を本当に世に出しても良いものなのかどうか、未だにその是非を判断しかねている。それほど迄にこの内容は刺激的で、そして挑戦的なのである。今まで当然の事として人々の常識となっていた歴史を根本から覆して過去のものとしてしまう、言うなれば真実の歴史だったのである。
それでも敢えて私はこれを本として出版する道を選んだ。真実は隠されるべきものではない。それを世の多くの人々の目にしていただく、それこそが天より受けた私の使命と感じ、そうして筆を取ったのだ。
次項より始まる物語は文書の内容をほぼそのままに、一部わかり易い様に筆者の解説も加えて現代語へと訳したものである。
貴方が若し今己の知る世界こそが全てと信じたいのであれば、ここから先へは進まずに本を閉じて貴方の知る日常へと戻る事を奨める。
しかし若し貴方が真実を求めるのであれば、その強き心と共に躊躇わず本書を読み進んでいって欲しい。
繰り返す。これはフィクションではない。真実の歴史なのである。
“ヘイアンキャピタル異邦人 序章”
今は昔の物語。人ならざる者共が夜の世界を跋扈していた時代。
都の大路では今、五人の逞しき男達が、人々を恐怖のどん底へと叩き落した悪鬼を成敗せんと旅立つところであった。
鬼の名は酒呑童子。丹波との国境(くにざかい)に在る大江山を拠点とし、配下の鬼達共に度々都に下りては貴族の美しき姫君ばかりをかどわかしていた。
「どうかお気をつけて」
「頑張って下さい!」
「必ずや、必ずや生きてお戻りに……」
口々に言っては手を振る人々に男達は笑顔で応える。
「姫達を悪鬼共の手から救い出し、必ずここへ帰って来ます!」
◆
「覚悟しな、人に仇なす鬼共め!」
魑魅魍魎の溢れる夜の妖怪の山を登り、ついに悪鬼達と対面した五人。松明の明かりが鬼の異形と男達の雄姿を照らし出す。これが最後の決戦だ。刀を握る手に力が籠もる。
「へえ。このご時世に真正面から挑んで来る人間とは」
面白い。二本の巨大な角が生えた真っ赤な顔から突風の様な息吹きを吐き出し、ゆっくりと一匹の鬼が立ち上がった。
「夜の山は妖の世界。そこに人が立ち入ったその意味。
理解はしてるか、覚悟は有るか」
男達の背中を緊張が走り抜ける。人々の話に聞く通りのその容貌、彼奴こそが酒呑童子に相違無い。
「いざ、尋常にっ」
五人のリーダーである男が足を踏み出そうとしたその矢先。
「待ちな」
それを制する一つの影。
「ここは俺に任せてもらうぜ」
「綱か」
「四天王最強の男がいきなりとはな」
「ふっ、これでは私達の出番は来そうにありませんね」
仲間たちの声を受け、綱と呼ばれた男は鬼の前に歩み出る。
「俺は時に神に感謝する事がある。奴が敵ではなかった事をな!」
リーダーのその言葉を戦いを認めるものとして受け取り、綱は手にした刀を大上段に振りかぶった。
「見るがいい、我が鬼切の力を!」
白刃一閃、全身全霊を以って振り下ろされたその刀は――!
◆
「何それ」
あっさりと酒呑童子に受け止められていました。しかも鬼が刃を摘むのは左手の薬指と小指。怪力もそうですがとても器用です。実際自分でやってみようとすれば判ります。力がどうとか言う以前に非常に難しいです。
「ほいな」
鬼が左手を振るいました。それと同時、目の前に居た筈の人間、その姿が一瞬にして消え失せました。
慌てて背後を見遣る仲間の男達。その視界の遥か先、夜空の彼方に飛んで行く男の姿が見えました。唖然として固まる残り四人の人間達。
て言うか戦いの最中に敵にお尻を見せたまま固まるとか大した余裕です。これではいつ掘られても文句は言えません。死ぬにはいい日です。
(やばいっ)
リーダー格の男が心中で叫びました。
(何これマジで洒落んなんないってっ)
男の名は原頼光。
たった今お星様になったのは渡部綱。残る三人はそれぞれ阪田金時、浦部季武、薄井貞光。
彼等は都でも名高いゴーストスイーパーのチーム。
それを騙るいわゆる山師の類でした。
リーダーの男は山村の貧しい家の生まれ。
「俺はこんな田舎で埋もれてる人間じゃねえ。都会に出て一発当てるんだ!」
そう考えて家を飛び出したものの、現代ならまだしも当時は都の大路でも平気で餓死者や病人が転がってる様な時代です。他所から来た身分の無い人間がまともに就ける仕事なんてある筈も無く。
けれども、まともでないものであれば。
当時は今と違って情報伝達の手段と言えば基本は口伝え、最上等で文書の遣り取りと言う限定二択。その内容精度たるや現代とはまるで比較にならないお粗末さです。伝わるのは遅いし、範囲も狭いし、内容も嘘と真が混じって何が何とも判らぬ有様。
言うなれば伝説と真実との間に何の境界も無い時代だったのです。
男はそこに目を付けました。
同じ様な境遇の仲間を集め、安物改造のコスプレで身なりを誤魔化し、噂で聞いた英雄の名を騙って自分に適当な名前を付け、でもまんまだと万が一本人と会った場合に怖いからちょっとだけ変え、そうしてその武勇伝を自分の物として都を練り歩きました。
元々常人よりかは僅かに上と言う程度の腕を持ち、その上なかなかの口達者。山で捕まえてきた虎鶫を閉じ込めた小箱を都の方々に配置し、そこから漏れる鳴き声を妖怪のものと吹聴して回った後、退治してやると言って密かに箱を回収するといった、自作自演の小細工を弄したりもしました。
そうした甲斐もあっていつしか彼等の名は本物、及び類似した逸話を持つ様々な英雄達の名声とごっちゃになり、行く先々で酒だ女だと豪遊を繰り返せる身分になったのでした。無類の女好きでもある男にとって、この生活は正に夢の様なものでした。
因みに何故、名を騙る対象としてゴーストスイーパーを選んだのか。
それは、妖怪退治という仕事ならば偽装がし易い、と、そういう理由からでした。
今とは比べ物にならない程に夜が暗い時代とはいえ、それでも都と言う人間の手で作られた巨大な世界。陰陽師の存在もあり、そこでは野や山に比べれば妖怪の存在も大分薄いものとなってしまっていたのです。
そんなものだから妖怪退治の武勇伝偽装もやり易い。先の虎鶫の件の様に端から自演自作で済ませたり、若し本当に何かが出ても、適当に何処かへ行って適当な動物の死体をそれらしく工作して見せて回る。災厄が治まらない様であれば、奴め復活しやがったのか、などと格好の良い科白を行ってまた何処かに出掛けて以下繰り返し。
今回の鬼退治もそんなノリでした。
取り敢えずは鬼の本拠とされる大江山に出向き様子を見る。そこで本物の鬼が居れば勿論戦ったりなんかせずに下山して、また適当な工作物を見繕って帰っても良いし、また或いは今回は相手が相手なので、瀕死の風を装って都に戻り、力及ばず申し訳ない、と同情を引いても良い。そんな腹積りでした。
ところが、です。
魑魅魍魎どもの目に付かぬ様びくびくしながら登った夜の山、そうして見付けたのは少女二人。聞いた話では四天王がどうとか言っていたので最低でも四人は居る筈が何故か二人。しかも少女。て言うか一方は幼女。
頭から生える立派な角を見る限りどうも鬼には違いない様ですが、それにしてもこれは。
(やった! これは勝てる!)
喜び勇んで鬼の真正面、格好の良い科白を吐きながら挑んでみれば。
「ふふん。綱は我ら四天王の中でも小物中の小物」
「っておおぃ!?」
ちょいと前まで最強とか言っていたのがこの扱い。少年漫画のバトル物も真っ青の強さインフレ。一足早く走馬灯の世界に突入しかけていたリーダーも思わずツッコミを入れてしまいます。
ぶっちゃけ敵は本物の鬼です。少女だろうが幼女だろうが鬼なのです。並よりかは増し程度の人間がどうこう出来るレベルの相手ではありません。それを綱君が身を犠牲にして証明してくれたというのに、何故だか四天王残り三人はまだやる気の様です。
ああ、彼等は英雄の名を騙る内に自分が本物だと錯覚してしまったのでしょうか。
「何でも良いからさあ、来るならさっさと来なよー。三人一遍でも良いから」
て言うかでないと楽しめそうにない。そう言って幼女は手にした巨大な瓢箪を口に当てて逆しまにします。
「ふふ。私達も舐められたものです」
「てめえは唯一最大の勝機を失ったあ!」
「何故なら我ら三人には究極の合体技が有るのだからな」
「いやちょっと待てお前ら!?」
必死に声を上げるリーダーですが、現実と妄想がごっちゃになった三人は止まりません。
摺り足で慎重に歩を進めつつ、刃物を持った男三人が幼女を取り囲みました。字面にすると非常にやばい感じです。絵を想像してみても犯罪臭がもの凄いです。
「愚かな、我らにこの陣形を許すとは」
「幾らてめえが強くても一度に防げる攻撃は一つ!」
「なれば私達三人の同時攻撃、必ず二つは当たるが道理なのですっ」
そうして男達は三角形の中心に居る幼女に向けて一斉に手にした刃物を振り下ろしました。
これが人間同士の話なら鬱展開もいいとこです。
人間同士なら。
「防げないんならさ」
三つの剣先は幼女の頭に。
「防がなきゃ良いじゃん」
ただ乗っかっているだけでした。刺さっても斬れてもいません。ただ上に乗っているだけ。
幼女は身動き一つせずにその頭で同時三斬撃を受け止めたのです。でも輪切りにはなりません。傷一つありません。涙一粒流しません。泣くなお前は男の子とかそう言った感じです。女の子だけどそうなんです。女もそうなんです。見てるだけじゃ始まりません。
「んじゃ次はこっちから」
という訳で敵の攻撃を見終え、今度は幼女が動き出しました。左の中指を曲げてその先端を親指で抑えます。所謂でこピンの形です。
「ほいっ」
掛け声と共に大きな音一つ。
その音一つだけで。
「今日は」
「引き分けに」
「しといてやるぜえええ!?」
四天王のその他三人は綱君と同じく夜空のお星様になりました。聞こえた音は只一つだけだったのに。
一撃で大の大人三人を同時に吹き飛ばせるだけの威力を持っていたか、はたまた一音の間に三撃を打ち込む超音速の技であったのか。いずれにせよ人間技ではありません。て言うか人間じゃありません。
「んじゃま、残りは」
「きゃひっ!?」
詰まらなさそうな顔で幼女が視線を向けてきました。
可愛いらしい美幼女が寂しげな顔を向けてきた。こんな状況、大人の男であるならば紳士的態度を装って声をかけ何処かに連れて行ってあげて楽しい事をして遊んであげて然るべき状況です。
それなのに男はまるで、夏場のバカンスで背後から首筋に冷たい缶ジュースを当てられたバカップル片割れみたいに情け無い声を出して固まってしまっています。何て腑抜けた姿なのでしょう。彼は男の男たる部分を何処かに忘れてきてしまったのでしょうか。
いえ、そうではありません。これも仕方の無い事なのです。
何故なら彼に幼女趣味は無いからです。大の女好きではありますが子供には手を出しません。こんな昔の世に在りながら、今の社会に出してもまるで恥ずかしくない、とても話の判る奴です。決して付いてない訳ではありません。
あとついでに、種族としての戦闘能力そのものが違い過ぎます。本物の英雄や高位の陰陽師なら話も別でしょうが、彼の実力は並やや上程度のもの。武器も安物の刀一本。言うなれば猟銃一丁でエイリアンの前に立ってしまった農夫さんみたいなものです。どうにも出来ません。
彼は生きながらにして蛇に呑まれる蛙の気持ちを理解したと思いました。
「ちょっと萃香、待ちなって」
その時、それまで黙って事を眺めていたもう一方の鬼が、男達に酒呑童子と思われていた幼女に向けて声をかけました。萃香と呼ばれたその幼女、くるりと男に背を向けて仲間の声に応えます。
戦闘中に敵に背を向けるとはこれ好機!
などと、男には微塵もそうは思えませんでした。
下手に茶々入れたら死なす。
そんな言葉が無言のオーラとなって立ち上るその後姿。まるで背中に鬼の顔が見えるかの様な勢いです。実際鬼ですし。
「何よ勇儀」
幼女の声に応えて、手にした大杯を地に置きやおら立ち上がる、勇儀と呼ばれたもう一方の鬼。
袖も千切れたボロボロの服を纏っている幼女とは違い、着ているのはそこそこに上等そうな薄い青色の着物一枚。頭に生える角も、幼女の少し曲がった二本とと違って真っ直ぐ一本が額から。
(っでかい)
男は無言のまま唾を呑みました。背の低い幼女と並んで立っているせいもありましょうが、勇儀という鬼の背はかなり高く見えました。この当時の日本男性の身長は今と比べてずっと低いものなんですから、彼女の背丈は男以上のものでした。
チビッ娘幼女ですらあれだけの力があったのです。それより更にでかい身体の鬼が出てきたというのであれば、男の運命はもう……。
(何というでかいおっぱいかッッ……!)
男の頭に有ったのは自分の運命への絶望ではなく、刺激された男性としての本能的なあれやこれやでした。
幼女よりかはまともな服を着ているとはいえそれでも薄手の物が一枚、しかもサイズが合わないせいなのか、それとも酒に火照った身体を冷ます為か、肩を大きくはだけさせてその豊かな二つの膨らみをこぼれさせんばかりにしています。
英雄を騙り多くの女性と遊び歩いた彼でさえ、これ程の大きさをついぞ見た事はありませんでした。
明らかに日本人離れしたそのサイズ。漫画に出てくる「ジャポンのボーイはステイツと違ってシャイでプリティーデーッス!」とか言ってそうな米利堅女子並。日本人離れどころか現実離れしています。流石は人外。て言うか「わたしのなまえ is はなこ.これ is a ペン」とか言う日本人もたまには漫画に出てきてほしいと思います。
兎も角、現在の外人モデルさんとも真っ向から張り合えそうなそのボリューム。男にとってこれは、正に未知との遭遇でした。
「せっかく久し振りに人間が勝負を挑んできたっていうのに」
生物的本能と男性的本能、砕いて言えば死への恐怖とおっぱいへの欲情、二つの本能の間で固まった男を余所に幼女と巨乳は話を進めます。
「萃香だけで全部喰っちゃうってのは、そりゃ流石に酷くないかねえ」
「ん。
ああ、まあ確かに」
少々呆けた顔と声とで頭を掻いてから、でも、と幼女は言葉を続けます。
「こいつら全然面白くないけど、それでも良いの」
「萃香が吹っ飛ばした奴ら、確か四天王とか言ってたじゃない。で、残るはその四天王とはまた別のもう一人。
って事はつまり、こいつは四天王を纏める、その上の一番強い奴って事じゃないか」
「そんなもんかねえ」
「そんなもんなの、普通は。うち位よ、一応は頭領はってる奴が四天王も兼任してるとこなんて」
「いや、絶対他にもあると思うけどなあ」
納得のいかない顔で幼女が首を捻ります。まあ確かに、現在ではトップが四天王の一人を兼任している組織とかも在りますしね。
それでも話は纏まりました。幼女は下がり、代わりに巨乳が男の前に歩み出てきました。
「んじゃあ、勝負といこうか」
仁王立ちになって声を張り上げる巨乳の前で。
「触るに済ますか揉むまでいくか、それともここは勇気を持ってす、す、す、す」
男は視線を泳がせながらハアハア何かしら小声で呟き続けるのみで、心ここに在らずといった感じです。いい年こいた大人がこれではまるで、修学旅行先の旅館で近くのコンビニで買ってきた青年漫画誌のグラビアを見て騒いでる友達を余所に部屋の端っこで中途半端に目をチラチラさせてるシャイというかぶっちゃけムッツリの中学三年生男子です。
「ちょっと、ちゃんと聞いてるの」
僅かにトーンを下げた巨乳の声。
「えひゃうスンマセン口はやっぱ使いません!?」
少年漫画誌に必ず一つは在るちょいエロ担当漫画を一心不乱に読んでいたら突然背後から姉に声を掛けられた。そんな感じの甲高く情け無い声を出して男は両手や頭を何度も振ってみせます。
「やれやれ、こんなんで本当に大丈夫かねえ」
こんな様子じゃまともな勝負も期待できそうにない。頭に手を当てて心配そうな顔で溜息をつき、それから巨乳は先ほど地面に置いた大杯を拾い上げて言いました。
「勝負の最中、ここから一滴でも酒がこぼれたら私の負けで良いよ」
「んなっ」
驚き顔の男を楽しそうな表情で見詰めながら、更に巨乳は右足を高く上げます。
「あとついでに、左のかかと以外、私の身体のどっかが地面に付いてもお前の勝ちだ」
鬼と人間とはいえ、見た目のみで言えば少女と大人の男。それがここ迄の言われ様。
男は口を閉め目を細めて、鼻息も荒く血走った視線を投げ付けます。
「よしよし。良い目も出来るじゃあないか」
満足げに巨乳は頷きました。
(太ももっ。白くってすべすべしてそうな太ももっ。て言うかマジこれちょっとヤバいって見えそう見えそう!?)
男は血走った視線でハアハア息を荒げます。高く上げられた巨乳の右足は、着物の隙間から飛び出しその美しい素肌を露にしていました。しかもこの当時の日本にドロワーズだとかズロースなんて無粋な物が存在する筈もありません。つまり見えそうなんです。これはもう誘ってるとしか思えない勢いです。
金髪の巨乳美少女と松明の明かりのみが照らす夜の山、二人っきりでこんな状況。男の集中力は未だかつてない程に研ぎ澄まされていきました。据え膳食わぬは男の恥なのです。
あともう一人幼女が居たような気もしましたがそれは忘れました。
「おっとととと」
そんな男の目の前で、流石に片足ではバランスも巧く取れないのか、巨乳の身体がぐらぐらと左右に揺れました。ついでに、時代的に当然ブラなんてものを着けてる訳も無いその大きな胸も揺れて動きます。
これはチャンスです。
鬼の豊満な肉体に向けて飛び込むには今が最大の好機。
「隙――」
「すき、がどうしたって」
隙あり。絶好のチャンス。叫び声を上げて走り出そうとしたその瞬間、男の耳元、背後から声がかけられました。
「す、すきっ、す」
「だから、すきが何さ」
声を聞く度に男の背中、男性の欲望に押しやられていた生物的本能、絶対的強者を前にした恐怖と絶望の心が甦ってきます。
目の前、ほんの一瞬前まで確かに見えていた筈の鬼の姿は煙の様に消え失せ、代わりにその声が背後から聞こえてくるのです。
「すき、す、すう」
「だから何」
口が巧く回りません。身体が動きません。って言うか下手に動けば即タマを取られる、それが泣きたい位に理解できてしまっているので動かせません。ついでに緊張と恐怖のせいで頭も回ってくれません。回るのは只々走馬灯のみです。
『夜の山は獣や化け物の世界だ。危ないから絶対入んなよ』
思い返される里の父親。それに向かって心で詫びます。ごめんね父ちゃん、判ってたのに。
『また呑み過ぎちゃってえ。頼光様って結構調子に乗り易い所がありますよねえ』
都に残してきた女の子達の顔が次々と流れては消えていきます。嗚呼、格好付けてる心算で得意になって大事な事を全部置き去りにしちゃった結果がこれだよ。
「すっすっすきっすすきっす」
「あー。もう良いわ」
音楽に詳しい訳でもないのにカラオケで格好つけてラップ曲を選んで滑った。そんな有様でスキスキ繰り返す男に気を殺がれたのでしょうか。疲れた溜息を一つ、鬼はその拳に僅かの力を込め。
「好きッス惚れましたマジ付き合って下さい――ッッ!!」
夜の山に男の絶叫が木霊しました。
それと同時。
「あっ」
蚊帳の外で一人酒を呑んでいた幼女が驚きの声を上げました。
彼女の視線が向けられる先、男の背後に居る巨乳が、両足を地に付け腕からも力が抜けてだらりと下ろした、そんな格好で固まっていました。当然手にしていた大杯も地に落ちてしまっています。
「あっちゃー」
幼女が顔に手を当てて嘆きます。
一方男の側。
無我夢中で叫んだその直後、唐突に背後から受けていたプレッシャーを感じなくなっていました。これは何事か、そう恐る恐る振り向いてみれば。
「そんな、さあ。そんな事、いきなり言われても、さあ」
どうにも落ち着かない様子で両の人差し指同士をくねくねと絡めさせている巨乳の姿。
「あっ、あのう」
「ああでもっ。勝負には負けちゃったんだし、お願いを一つ、聞かなきゃならないしっ」
訳も判らぬまま声をかけた男。その言葉を途中でちょん切る大きな声。それから巨乳は男に視線を移し、酒のせいか何なのか、僅かに紅く染まった頬を見せて言いました。
「今後とも宜しくね。お前さんっ」
◆
「さあ、助けに参りましたよ姫君達っ」
僅かな明かりのみが照らす薄暗い洞窟の中、凛とした男の声が響き渡りました。
洞窟の中で塞ぎ込んでいた女達が、一斉に顔を上げて声のする方に目を遣りました。暗くてよくは判りませんが、それはどうやら立派な鎧兜を纏った逞しき男に思えました。
「ああ、貴方様は」
姫の一人が訊ねます。
「頼光と申す者。姫達を助ける為、こうして馳せ参じました」
頼光。その名を聞いて姫達の間にざわめきが広がります。
「貴方があの源頼光様でいらっしゃいますか!」
「はいっ、頼光です」
「ああ。源頼光様。私もお会いするのは初めてですわっ」
「はいっ、頼光ですっ」
姓は口にせず名ばかりを殊更に強調し、それから頼光は周囲を見回します。どうやらその身に傷を付けている者は居ない様です。ひい、ふう、みい、よう。人数も都で聞いた通り、一人も欠けてはいません。
「どうやらご無事の様で」
安堵の息を吐く頼光の前、しかし姫達は表情を暗くしてうつむいてしまいました。
「あの大きな方の鬼は、言っても酌をさせる程度でまだ良かったのですが……」
やがて、一人の姫が語り始めます。
「あの小さな鬼っ。彼女ったらもう、何かにつけては酔っ払ったせいだなんだと言って嫌らしい視線で見つめてきたり足がもつれたと言って抱き着いてきたりゲヘゲヘ下品に笑いながら手を這わせてきたり舌を這わせてきたり更にはああもうああっもうっ!」
「ちょ、落ち着いて下さい姫よっ」
「これが落ち着いていられましょうか!? 未婚の身である私達を生きながらにして摘み食いにするかの様なその行いっ。
この身はもはや穢れて」
「大丈夫ですっ」
姫の言葉に自分の声を被せ、そうして頼光は姫の両手を握り、その目を真っ直ぐに見詰めながら言いました。
「大丈夫です。貴女は少しも穢れてなどいませんよ」
姫の潤んだ大きな瞳に、男の精悍な顔が滲んで映ります。
「貴女はとても美しい。もし良ければ私と」
「おおっい。こっちの準備は出来たわよー」
突然に洞窟の外から聞こえてきた大きな声。途端、姫達の身体は緊張に強張りました。
聞こえた声が鬼のものだったからです。
「頼光様、これは一体」
自分達をこうして助けに来てくれたという事は、当然その前に立ちはだかる鬼も退治したという事なのだろう。そう思っていた所に今の声。不安げに見詰めてくる姫達の視線を前に、男は慌てて首を振ってみせました。
「いえいえ、これはその。
いくら鬼が相手とはいえ無益な殺生は避けるに越した事は無い。そこで奴らには私の力を見せ付けて降参させ、そうして子分にしたのですよぅはっはっはっ」
両手を腰に当て胸を反らして男は笑います。
但し声だけは出来る限りに小さくして。
「さっさとしなっての。聞こえてないのー?」
「ああはいスンマセン伊吹様すぐに行きますんでもうちょっとお待ちをっ」
再びの、今度は少々の苛立ちを含んだ大声。慌てて振り返りこれまた大きな声で返事をする頼光。
「頼光、様?」
背中に刺さる姫達の視線。
努めてそれは意識しない様にし、こほんと咳き一つ、そうして男は姫達に向き直りました。
「これから姫達には山を下りてもらいます。都までは鬼の配下である妖怪達を護衛に付けさせますので」
男の言葉に、また姫達の間に動揺が広がりました。
「妖怪と一緒だなんて、そんな恐ろしい……」
「落ち着いて下さい。これなら下山するまでに他の妖怪達に手を出される事もありませんし、また野盗に襲われても安心なのです。ですから」
「その様な事は頼光様が一緒に居て下さればそれで」
姫の疑問は当然のものです。鬼をも降参させる頼光さえいれば、妖怪も盗賊も何も怖れる必要など無い筈。それなのにわざわざ。
「いえまあ、それはその。
あれですよ、ほら。鬼達がまた悪さをしないよう、私は暫く山に留まって指導監督をする必要がどうとかそんな感じの、まあ」
また男は小声になってしまいます。
どうにもはっきりしないその態度、姫達も不安の色を隠せません。とは言え男がここまで助けに来てくれたのは事実。その言う事に従っていれば間違いも無いのだろう。そう己を納得させて、姫達を頼光を置いて山を下りる事となりました。
◆
「あーああ。勿体無い」
一時の騒ぎも過ぎ去って元の静寂が戻った夜の山。不満に頬を膨らませた赤ら顔の幼女が、手にした瓢箪を地面に叩き付けて愚痴を漏らします。
「ま、良いじゃないか」
対照的に巨乳の方、こちらは随分と爽やかな笑顔です。
「人を攫う。それを助けに来た奴と勝負する。そうして負けたら、素直に攫った人間を返す。
それが鬼と人間との間での約束だろう」
「そりゃそうだけどさあ。
あーあ。せっかく綺麗どこばっかり厳選して連れて来たのになあ。なのにさあ、あのねーちゃんら、ちょおっと服の上から腰触ったり、あと首筋舐めた程度でキャーキャー言っちゃって大した事も出来なくってさあ。ったく、これからが本番ってとこだったのに」
「我慢しな。鬼が約束を破る事は絶対に無いんだ。
それに」
そこまで言って巨乳は、豪快な姉御の表情を瞬時に年頃の乙女のそれへと変えて、この場に只一人居る人間の男に視線を移しました。
「それに、お前さんの頼みだもの。ねえ」
「ひょひゃいっ!?」
一人静かに、なるたけ女同士の話の輪に関わらないよう最大限空気を薄くして出来ればこのままどっかに流れて消え去りたいなーとか、そんな感じで隅っこに丸くなっていた男に巨乳から声がかけられました。思わず高くて間抜けな声も出ます。て言うかこういう声は可愛い女性や男の子が出す分にはとてもゾクゾクするのですが、大の男に出されても今一刺激されません。ぶっちゃけキモいです。
「お前さんにさあ、あんなこと言われちゃあ、ねえ」
「そそそそそッスよ! 星熊様みたいなお美しい方が既にいらっしゃるんスから、それ以外の女なんて居ても意味無いッス! いやほんとっ」
音飛びの激しいCDみたいな面白い喋り方をする男と、その前で頬を染めた少女らしい表情で身をくねらせる巨乳。
「ったく。勇儀は真っ直ぐって言うか、純情が過ぎるからなあ」
まともな経験が皆無だからあっさりと。不信の様を隠さぬ声色で幼女が溜息をつきます。彼女にとってこの状況は面白くありません。納得もいきません。
「にしてもお前さん。星熊様だなんて、そんな他人行儀な呼び方しなくてもお」
「いやいやいやいやっ。それ言ったらほら、星熊様だって」
「そりゃ、ね? だって、まだ正式に夫婦になる前なんだし、それなのに殿方に対して直接名前で呼ぶだなんて恥ずかしくって……」
「そッスよね!? 僕も同感ッス! 男女の交際ってのはやっぱこう節度を守って清く正しく慎ましくってのが王道ッスもんねっ」
紅く染まった巨乳の顔、けれどその隣、男の顔は見事に真っ青。彼の目の前には酒の入った杯があります。いくらか口も付けています。それでも真っ青。
別に下戸という訳ではありません。単純に生きた心地がしないのです。
人気の無い夜の山。自分に惚れている、この当時の日本では絶対にあり得ない乳レベルの人外美少女。ついでに男のストライクゾーン外ではありますが、腋を全開にした、ツンデレ風味に見えなくもない人外美幼女も居ます。ギャルゲを地で行く展開です。ここだけ見ればとても羨ましい限りです。人外っていうのがポイントですよね。
ただ問題なのは、彼我の戦闘力の差が極端にあり過ぎる、そういう事なのです。落ち着いて状況を楽しむ余裕なぞまるでありません。
例えるならば、猟銃一丁しか持っていない農夫が「私の戦闘力は五十三万です」宣言をされた様な心境です。悪夢を通り越してシュールなギャグです。
今でこそこうしてギャルゲシチュエーションに在りますが、ほんの僅かでも相手を怒らせればRPGの絶対勝利不可イベントバトル的状況に突入、そのままホラーゲームのバッドエンドを経由して皆の心の中で生き続ける羽目になるのは確実です。
「って言うかさ、呼び名がどうとか言う以前」
幼女の声に男の背中がビクリと跳ねます。
苦し紛れに飛び出した叫びが嘘みたいに見事に嵌ってデレ期へ突入した巨乳。彼女はまだ良いのですが、未だツンモードの幼女、こちらは要注意です。見た目は幼女でも力は鬼。夜空のお星様になった綱君達の雄姿を男は決して忘れてはいません。
「私らちゃんとした自己紹介もまだじゃない。ほら、まずはあんたから」
「は、はいっ」
下手を言えば何がどうなるかは判りません。男は、ここは慎重に、言葉を選んで。
「頼光です。人間です。趣味は散歩です。宜しくお願いします」
ごく無難な挨拶をしました。ウケ狙いとかそういう事は微塵も考えません。学校でのクラス替え直後の自己紹介なんかであれば、ウケ狙って滑った所で恥ずかしいだけで死にはしません。でも今の男の場合、滑ったら死にます。例えでも何でもなく、文字通りの意味で。
「何それ、もうちょっと空気読んで気の利いたこと言いなさいよー」
男の気を知ってか知らずか、酔っ払い幼女が野次を飛ばしてきます。そんなこと言われても男には命よりもウケを選ぶ様な芸人根性は持ち合わせていません。
「いや、すんません。ほんと、僕ってばあんま特徴とか特技とか無いんで、ほんと、すんません」
「何かあるでしょー? 実は腹に一物抱えてますとかー、この後にあっと驚く騙まし討ち的展開を企んでますとかー」
「なななな何を仰るんスか!? そんな僕はこれでも清く正しく慎ましい事で結構知られたもんでしてっ」
「大丈夫だって。絶対に怒ったりなんかしないからお姉さんにだけこっそり話してみ?」
「スンマセンそういう科白は握り締めた拳を固まった心と共に優しく溶かしてからでお願いしますっ!?」
男と幼女が丁々発止の遣り取りを繰り広げるその最中、ああっ、と巨乳が声を上げて手を叩きました。
「頼光って確か、ヤマメだったかあの娘の友達だったかが負けたっていう」
ヤマメ。唐突に出てきた知らない誰かの名前に首を傾げる男。それを見て巨乳が言葉を続けます。
「ヤマメっていうのは妖怪よ。土蜘蛛」
土蜘蛛。これは男にも判りました。鬼の顔をした巨大な蜘蛛で、人間を捕らえて食べると伝えられる怖ろしい化け物です。
「あの娘らも人間からすれば充分強いのにさ。それを倒すだなんて」
流石は私の惚れた男。そんな事を言っている巨乳を余所に。
「こいつが土蜘蛛を負かした? 本当かねえ」
猜疑の目を向けてくる幼女。
当然、男にそんな大それた事が出来る筈もありません。恐らくは本物の英雄が残した逸話なのでしょう。
「ちょっとヤマメ呼んでくるか」
「いやいや待って下さい!?」
言って立ち上がりかけた幼女を必死の形相の男が涙交じりの声で留めます。
「何。呼ばれたらまずい事情でも有るわけ?」
「いえいえそんな! ただこんな夜中にいきなり呼び出されたらヤマメさんもご迷惑なんじゃないかなーって、そんだけッス!」
「こんな夜中って、夜中こそ我ら妖怪の時間なんだけど」
「いやでもほらっ!? こんな大した用でもないのにわざわざヤマメさんにご足労願うのも申し訳ないと言いますか個人の自由な時間は尊重されて然るべきと言いますか人が増えると話がごちゃごちゃして纏まらなくなるから勘弁してほしいと言いますかっ」
幼女が気にしてるのは男が源か原か、本物か偽者かという事ではなく、この人間が巨乳に取り入って騙まし討ちでも狙っているのではないかと、そういう事なのです。なのでこの場で土蜘蛛が呼ばれ男が本物の英雄でない事がばれても、それだけでは特に何の意味もありません。
とは言えこの極限状況下でそこまで頭も回りません。涙と鼻水を垂らしながらすがってくる男。そんな顔を見て、幼女も土蜘蛛を呼び出す事は止めにしました。彼女にとっても土蜘蛛の件は、単純にちょっと興味が涌いただけで特に重要でもない話だったからです。
それでも男のこの態度、幼女は疑心の視線をより強くします。
「それじゃまっ、次は私ね」
少し重くなりかけた空気を、巨乳の元気の良い声が吹き飛ばしました。
「星熊勇儀。山の四天王で、力の勇儀って呼ばれる事もあるわ」
改めて宜しくね。そう言って笑う巨乳の次、未だ険しい目付きのままで今度は幼女の自己紹介です。
「同じく四天王の伊吹萃香。あんたら人間の言う酒呑童子ってのは、まあ大体は私の事」
「大体、って」
幼女の言い回しに、男が疑問の色を含んだ声を投げました。
「ああ、それはね」
応えるのは巨乳の明るい声です。
「そもそもさ、酒呑童子って鬼は私らの中には居ないのよ」
巨乳や幼女を含む鬼の四天王は、姫を攫う為に度々山を下りては都にその姿を現していました。が、その圧倒的な力の前に、遭遇した人間達の殆どは慌てふためいて逃げ回るばかり。鬼がどんな容姿か、何人居るのか、そうした事さえまともに把握する余裕もありません。
結果、鬼達に関する情報の多くが、真実と憶測の混じったあやふやなものとなってしまっていたのです。
現代でも良くある誤報の類ですね。火事場の最中で冷静に実況できる人間なんて今も昔もそうそう居やしません。
「でさ、私らっていっつも酒を手放さないでいるもんだからさ、そん様子を見て多分、人間の方で名付けたんでしょう。酒呑童子って。
で、うちでも一番の大酒呑みって言ったら萃香だから」
一応はこいつが酒呑童子で鬼の頭領。そう言って幼女を指差し巨乳は笑います。
「そう、なんスか。
で、その、あと、四天王って仰ってましたけど、残りのお二方は」
こんな怪物がまだあと二人も出てきたら洒落にならない。びくびくしながら男が訊ねます。何故なに君としてとても良い仕事っぷりでもあります。
「あいつらは他の山へ山登りに行ってるよー」
「山登り、ッスか」
幼女の返答、そこに含まれる意外にもどこかのんびりとした響き。山登りが趣味の鬼、結構可愛い気もする。そんな事を考える男。
「ああ、またいつか四人揃っての山登りがしたいもんだねえ」
そんな男には目もくれず、夜空を眺めながら懐かしむ様に幼女は続けます。
「そうだねえ。八ヶ岳に行った、あれが四人揃った最後の山登りだしねえ」
巨乳も感慨深げに言葉を繋げます。
星々のまたたく夜の空を見上げながら、遠い日の記憶に思いをはせる二人の少女。か弱い人間である男の目にとってもその光景は、何故だかとても、怖れるべき凶暴な鬼の姿には思えず、年相応の、何処か儚さすら感じる少女時代の美しさを。
「八ヶ岳かあ。あれは確かに最高の喧嘩だった。勇儀、あの時ちょっとやばかったよね」
「そうねえ。死ぬのを意識したのはあれが最初で最後だよ」
突然、何だか物騒な単語が飛び出してきました。
「あ、あの。喧嘩とか死ぬとか聞こえた気がしたんスけど、山登りって」
「ん。ああ」
昔を思い出して機嫌も直ったか、疑心の色を無くした気軽い声で幼女が返事をします。
「山登りってのは強い妖怪の居る山に行って、そこで山を賭けて勝負をするって事」
可憐にも思えた少女達は特攻の鬼女でした。レディースの人達だって特服脱いでちゃんとしたメイクをすれば普通の女の子なんです。眉を剃ってるとか髪を染めてるなんてのは娑婆の娘でもよくある話ですし。
「勇儀は真っ直ぐ過ぎてからめ手に弱いしねえ。河童の作る変な道具に見事に嵌って」
「天狗達もさ、あんだけ数が多いくせにその一々が実力者揃い。本当、あの喧嘩は楽しかった」
見た目は少女。言い換えれば少女なのは見た目だけ。その事を改めて思い知る男。
「って。ごめんねえ、お前さんの前でこんな話。恥ずかしい……」
固まってしまった男の前で、昔のやんちゃが彼氏にばれてしまった元不良少女の様にして頬を染める巨乳。
男は巧くフォローを入れる事も出来ずに曖昧な笑顔みたいなものを見せるだけ。敵が判っちゃくれない大人の社会とかいうのであれば兎も角、天狗だの河童だのの妖怪軍団相手に大立ち回りをやっていたなんて過去話、聞かされたところで一般の人間のレベルではフォローもツッコミも入れられません。
「何言ってんのよ勇儀ってば。本気出せば一発で山崩せる様な奴が恥ずかしいだ何だって」
同じ鬼である幼女は、普段見せない巨乳の乙女っぷりに容赦無いツッコミを入れます。
「って山!?」
一発山崩し。流石に男も黙っていられずツッコミです。流石にそりゃ言い過ぎだろ、と。
て言うか言い過ぎであって下さい。これ以上はもう、ほんと勘弁して下さい。男はもういっぱいいっぱいなのでした。
「うん、山」
けれどそんな願いも空しく、幼女は男の言葉にあっさりと首肯しました。
「勇儀が本気の手加減無しで殴ったら、大江山なんて一発でぺちゃんこになるって。都だって一晩あれば更地にするのも余裕」
嘘か真か。もしこれが真実ならば鬼の戦力は戦略兵器並。普通の人間では矢だの鉄砲だの持って来たところでどうにもならない圧倒的レベル差です。
どうか酔っ払いの戯言であってくれ。刀一本しか持たぬ男は心で念じ続けます。
「やーねえ、萃香ったら!」
巨乳がそんな事を言ったその途端。
「のわわっ」
地面が揺れました。男が慌てて立ち上がります。すわこれ地震でも起こったのか、そう思って辺りを見回してみれば。
「そんなこと言って、山を崩せるのは萃香も一緒じゃないのー」
そんな事を口走りながら照れ隠しの笑いを浮かべる巨乳の右拳、その振り下ろされた先の地面がひび割れ窪んでいました。
高い木の上から鉄球を落としたってこうはならないのではないか。そんな風に思えるその異様。山を崩せるかどうかは兎も角、この一撃を人間が喰らったら日本のコンシューマーゲームでは差し替えを喰らうレベルの素敵な光景が飛び散るのは必至です。
「一発じゃ無理よ。全力出しても最低五発は必要。力じゃ勇儀にゃ負けるわ」
「そうね。萃香はどっちかって言うと術者って感じだし。力より特殊能力」
何という事でしょう。大の大人四人を軽く吹き飛ばし、嘘か真か五発で山を崩すという幼女。そんな彼女が術者タイプ。
素手で四桁ダメージ叩き出す様な奴が魔法使いキャラとか、人間の常識でそんな事は普通あり得ませんが。その辺りは流石に鬼。
「い、伊吹様みたいな小さなお方がそこ迄って、いや凄いなー、憧れちゃうなー」
異界常識が語られるその空間。何とか鬼の機嫌だけは損ねない様にと、一般常識しか持たない人間の男は無難な言葉のみを選びます。専門家同士の議論に、中途半端な知識の一般人が下手に口を挟めないのと一緒ですね。
「そりゃ萃香は強いさ。何せこいつの父方の祖父さんは、かの有名な八岐大蛇なんだから」
ヤマタノオロチ。またとんでもない名前が飛び出してきました。神話に伝えられる、八つの谷、八つの峰にまたがる程の巨躯を持つと言われる大怪獣です。
何気ない一言だった心算が、また鬼の強大さを思い知る結果になってしまった男。文字通り藪から蛇です。事態は悪化する一方です。希望の要素一つすら見えてはきません。
「いや、うちの祖父さんが八岐大蛇って、そりゃ母親とか周りの奴らがそう言ってたってだけの話で本当かどうかは判らんよ?」
人生の最大ピンチ記録を絶賛更新中の男の前、しかし僅かに良い話が聞こえてきました。流石に神話の大怪獣とかは無しの方向でいけそうです。そうですよね。等身大の最強怪人でも英雄(ヒーロー)ではない普通の人間にはどうしようもないのに、そこに加えて巨大怪獣とかまで出てきたら、もうロボを出すか遠く輝く夜空の星に願うかしかなくなってしまうのですから。
「詳しい事は知らないのよ。うちの父親、私が生まれる前に死んじゃってるし」
「そ、うなんスか……」
これはまずい話をしてしまった。男は後悔しました。鬼とはいえども親子の情はあるのでしょう。しかも見た目は童女、それなのにこんな辛い話をさせてしまって。
「人間共に騙し討ち喰らって」
「そ、そうなんス、か」
これはまずい話をしてしまった。男は後悔しました。せっかく昔語りで気軽になりかけていた幼女の纏う空気、それがまた一気に重く刺々しいものになってしまいました。それは見事な藪蛇でございます。
「て言うかさ、確か祖父さんも親父さんも大酒呑みが原因で負けたんでしょ? それでも萃香、餓鬼の時分から酒を手放さないっていうんだから、それもまた凄いわよね」
「だからこそ、よ。祖父さん達の正確な敗因は酒に呑まれて泥酔した事。だからこうして鍛えてるんじゃあないのさ」
巨乳のツッコミに幼女の返答。
て言うかその返答自体が人間の常識からすれば立派にツッコミ所なのですが、ここ、夜の山は妖怪の世界。通じるのも妖怪の常識のみ。
異邦人である男は、肩身を狭くして愛想笑いを浮かべる以外にやる事もありませんでした。大して親しくもない親類のおっさん達の飲み会に強引に誘われた気分です。早く帰りたい。
でも、あの乳は文句無しに本気で凄い。
◆
所変わってここは人間の世界。頼光が大江山から姫達を救い出し、数日の過ぎた都。
「では行って来る」
その片隅に在る小さな屋敷。そこから今、一人の初老の男性が旅立とうとしていました。彼は不比等といい、名の有る官人でした。
「お父様、本当に行ってしまわれるのですか」
まだ十になるかならないかといった感じの、黒いおかっぱ髪の童女。心配そうな顔で不比等の事を見詰めています。
彼女の名は妹紅。不比等が高齢になってからの子供でありました。この屋敷は、様々な事情で余りおおっぴらには出来ぬ娘の為に不比等が用意した物でした。
「絶対に止めておいた方が良いと思いますけどね。妖怪の山なんて、行ったところが食われてさよならがオチですよ?」
妹紅のすぐ後ろ、疲れた顔で溜め息をつく一人の少女。年の頃は十代半ばといったところ。この時代の、貴族の家に居る様な女性としては珍しくその髪を短く切って整えています。
「止めてくれるな、阿礼君」
少女の名は阿礼。この屋敷で舎人として仕えていました。とは言え彼女は、一度見たものは忘れないとまで言われるほどの驚異的な記憶力の持ち主で、不比等の覚えも良く妹紅の教育係の様なものも任され、どちらかと言えば、今で言う所の住み込みの書生さんに近い立場でした。
そんな阿礼に向けて、何処か芝居がかった大仰な身振りで不比等は首を振ってみせます。
「漢(おとこ)にはな、やらねばならん時があるのだ」
助平親父の言い訳としては平凡すぎて面白味も無い。格好付けるおっさんに白い視線を突き刺しつつ、阿礼は心の中で毒を吐きました。
そう、このいい歳したおっさん、不比等は大層な好色だったのです。
この当時、身分の高い男性が複数の女性と関係を持つ、その程度の事は当然とされていました。そんな世の中で、それでも、求婚を断られた女性に何度も何度も言い寄り、挙句に結婚条件として無理難題を押し付けられ、それを解決する為に妖怪の山と言われる大江山に特攻をかける。そこ迄をやってしまえる馬鹿親父は立派に変態さんとして周囲から認識されていました。
事の起こりは、ある日突然都に現れた、輝夜と呼ばれる美しい姫でありました。
彼女はその出自も不明ながら、見る目麗しきは名立たる貴族の姫君達がまるで霞んでしまう、まるでこの世の存在とは思えぬ程のもの。当然、ピンからキリまでの多種多様の男達が輝夜にプロポーズをしました。
けれども輝夜は、その悉くを跳ね除けました。老いも若きも、貧乏も金持ちも、下級官人も大権力者も、細身もマッチョも、SもMも、全てです。
そんなパーフェクトツンな彼女の前、それでも不比等を含めた五人の漢達が残りました。その粘り強さたるや、現代社会ならごくナチュラルに通報されて半径何メートルがどうとか言い渡されるのが当然といったしつこさです。
流石のツンキャラ輝夜も根負けしたか、或いは身の危険を感じたからか。彼女は五人の漢達にとある難題を投げかけ、それをクリアした者の求婚に応じる、そう約束しました。
その難題とは、伝説に謳われる宝物を、自らの手で以って探し出して持って来い。そういう内容でした。
これを聞いた時、世の殆どの人が思いました。
嗚呼、何て巧く出来た断りの文句なのだろう、と。
伝説の宝なんて物は現実には存在しない、在ったとしても入手が極端に困難だからこそ伝説と呼ばれるのです。ビデオゲームで言う所のSランクレアアイテム、いえ、プログラム中には存在するけれども実際には入手不可な没アイテムみたいな物なのです。それを持って来れば結婚してやる、などというのは、ほぼイコールで「良いお友達でいましょう」という意味です。
それでもゲームなら、チートを使う事で入手できる場合もあります。実際、仏の御石の鉢を要求された漢は、普通の鉢をそれと偽って輝夜の前に出しました。
けれども彼女の目は誤魔化せず。砕けぬ石を持って来た筈の漢の意志は見事に玉砕して果てました。
不比等も初めは己に出された難題、蓬莱の玉の枝を、職人でも雇って偽装させようかと、そう考えていました。けれども上記の一件を見てその方針は撤回。
振り出しに戻ったプロジェクト。途方に暮れる不比等の耳に、しかしある噂話が飛び込んできました。
曰く、源頼光が鬼を調伏し、大江山をその支配下に置いた、と。
「そうか! 鬼の宝物にならば蓬莱の玉の枝も!」
何がが「そうか!」なのか、普通の人間には理解できません。色にやられた脳味噌は正常な思考のステップを、歩道橋を渡る元気の良い小学生男子並に二段三段飛び越して進んでしまうものなのです。
まあ、恐らくは、鬼は珍しい宝を持っている、そして頼光が山を制した今なら、その宝を分けてもらうのも容易。そう考えたのでしょうか。
けれどもその思考、第一段階からして致命的に間違っています。
鬼が宝を持っている、というのは、そう言われている、というだけの話であって確証はありません。例え持っていたとして、その中に目当ての蓬莱の玉の枝が在るかどうかも判りません。て言うか普通に考えればそんな都合良く話が進む筈もありません。
しかも向かう先は妖怪の山。
そんな分の悪い賭けを、けれども不比等は「漢なら!」の一言で実行に移す決意を固めました。
「本当に、本っ当に止めた方が良いですってば」
制止の言葉を振り切って、欲望のままに化け物の住処に突入する。死亡フラグとしては古典的とすら言えるものです。
もう何度目かも判らない溜め息をつく阿礼。そんな彼女の手に不比等は一枚の手紙を握らせました。そうしてその耳元で小さく囁きます。
「もし万が一の事があった時には、阿礼君、これを開いて読んでほしい」
ご丁寧に追加の死亡フラグまで立ててから、心配顔の妹紅ともう色々諦めた阿礼とに見送られ、意気揚々と不比等は屋敷を後にしました。
◆
さて話は人の世から移って、また人ならざる世へ。
と言っても大江山ではありません。
人ならざる、とは言ってもかつては人だった者達が集まる場所。地獄です。
「と言う訳で四季様。暫しの間、お暇を頂きたく」
一人の男が閻魔様に向かって頭を下げていました。
「篁はいっつも頑張ってくれているし、お休みをあげるのは別に構わないんだけど」
四季と呼ばれたその閻魔様。服装こそ重々しいものの、見た目はまるで十代の少女です。
そんな彼女の言葉に応え、タカムラと呼ばれた男が顔を上げました。真っ白な髪と髭、深く刻まれた皺。顔だけを見れば明らかに老人ですが、真っ直ぐ伸びた背筋と中々に立派なその体格、そうしたもののお蔭でかなり若くも見えます。背も高い。結構なイケメン爺さんです。
「そのお言葉、了承の意と取って宜しいでしょうか」
声にも強い意志を感じられ、どうも地獄には不釣合いな生気を見せ付けています。
それもその筈、彼、小野塚篁は幽霊でも亡霊でもない、生きた人間でした。
彼は地上の、人間の世界で役人を務める身でありながら、その能力と生真面目な性格を買われ、日の半分は地獄に下りて閻魔様の仕事をサポートする役割を任されていました。とても信じられないレベルの働き者です。
因みに小野塚篁というのは地獄用の名前です。本名はまたちょっとだけ違います。健全誌と坊ちゃん嬢ちゃんお断り雑誌とではペンネームを使い分ける漫画家さんみたいなものですね。よくある話です。
「大江山ねえ。止めた方が良いと思うけど。
篁、頭は良いし仕事ぶりも真面目だけど、荒事の方はからっきし駄目なんだし」
「なればこそ、今この機会を逃す訳にはいかぬのです」
どうにも乗り気でない閻魔様の前、しかし篁は凛とした声で己の意を主張します。
鬼共のはびこる大江山、それが頼光という人間によって制された。そんな噂は篁の耳にも入ってきました。
そこで彼は考えました。今なら山に立ち入り、鬼の持っていると言われる様々な秘宝を手に入れるも容易なのではないか、と。
ぶっちゃけ、発想が後先を考えないエロ親父と同レベルです。
けれどもその先、目標とするものはまるで違っていました。
(鬼共の秘宝、その力を以ってこの世の妖怪全てを駆逐してくれよう……!)
篁は正義の人でした。そして、とても頑固で真面目な人でもありました。自分より上の相手でも気に入らなければ平気で喧嘩を売っちゃえる、そんな人でした。
纏めて言ってしまえばつまり、彼は行き過ぎた正義の人でもありました。人間が強大な力を持つ妖怪に怯えて暮らす、そんな世界に我慢が出来ず、いつかは妖怪をこの世から追い出してやろう、そんな事を企むちょっぴり危険思想な人でありました。
「ま、良いわ」
杓を手にして軽く溜め息一つ。諦めた様に閻魔様は言いました。
「貴方に暫しの休暇を与えます。その間の行動についてはこちらに報告の必要はありません」
まあ、良い薬にもなるだろう。閻魔様は杓で口を隠し小さく呟きました。
◆
「あ、祖父ちゃん」
都の東に在るお寺、地獄に通じるそのお寺の井戸から顔を出した篁に、唐突に女性の声がかけられました。
「こ、小町」
篁が驚きの声をあげます。未明の薄暗い寺の庭、それでもその声その顔、間違え様もありません。
篁を出迎えたのは孫娘の小町でした。
「どうしてここへ」
驚きと、それから半ば戒めの色を含んだ篁の言葉。未だ明け切らぬ中を女子一人でここまで来た、それもありますが、それだけではありません。
彼女、小町の姿は、公には晒せぬものであったからなのです。
小町はその顔こそ美しけれど、身長がとても高いという特徴がありました。長身の篁と並んでも僅かに低いという位。当時の男性に比べればはっきり高い。しかも自分の事を、あたい、なんて言う。いわゆる姐御肌キャラでした。
今の世であればかなりの需要を誇るでしょうが、そこは悲しいかな文化の違い、当時の、貴族の男性からすれば彼女の特徴はマイナスポイントになってしまいます。
それを不憫に思った篁は、ある日に孫娘との面会を望む男子が現れた際、小町本人は御簾の奥に隠して決して顔は明かさず、声は雇った人間に代わりをさせる、その様にして凌いだのです。
しかし篁が雇ったこの声優さん。彼女が問題でした。
その声が余りにも可愛すぎたのです。現代で言うならば北陸系癒しボイスやツンデレのちびっ娘や京アニ主人公レベルとも互角に張り合えるレベルの声を持っていたのです。
得てして人というものは、隠されたものに対して大きな期待を抱きがちなもの。しかも声は文句無しの美少女ボイス。
あまり孫娘を公に晒したくない。そんな篁の思惑とは裏腹に小町の評判は瞬く間に広がっていき、ついには当代一の美女と呼ばれる迄に至ってしまったのでした。
ここまで無駄に話が大きくなってしまうと、本物を出そうにも出せなくなってしまうものです。
因みに小町本人は「ラーメン美味いってばよ!」とか言うのが似合いそうな情熱の純情乙女声でした。
「どうしてって、そりゃ祖父ちゃんが」
詰問口調の祖父に向け、けれども少しも引かずに小町は応えます。
「祖父ちゃんが大江山に行くなんて聞いたから。やめた方が良いって」
家人に漏らしたのが孫にまで伝わったか。僅かに顔をしかめる篁でしたが、しかしその決意は揺るぎません。
「安心なさい小町。正義を為す事を怖れていては、世界の夜明けはいつまで経っても訪れないのですから」
元々半分があの世に浸かった人生。先もそれほど長くもないだろうに、何でわざわざこんな無茶。
そんな孫娘の心配にピントはずれの答えを返し、昇る朝日と共に篁の心に在る正義の炎は熱く燃え盛っていくのでした。
◆
「ああ、お母様……」
暗い森の中を一人の青年が歩いていました。
辺りに人の気配はありません。獣の気配すら感じません。空を見上げます。風に揺られて不気味に蠢く木々の間、真ん丸いお月様が覗いて見えます。
青年が足を止めました。
背後に何かの気配がしたのです。けれども人ではない。獣……とも僅かに違う?
判らない。けれども何かが居る。青年の身体が緊張に固まります。
瞬間、辺りが眩い光に包まれました。驚き青年が後ろを振り返ると。
「あっ」
彼の目の前、真っ赤な光の玉が。
◆
飛び起きた。全身は汗でぐっしょり。慌てて周囲を見回す。
漏れる安堵の息。聞こえてくる小鳥の囀り。間違いなくここは自分の部屋の中。どうも、悪い夢を見ていた様です。
「それにしても」
今の夢が私のものなのか僕のものなのか。
「お客様がお見えになりました」
部屋の外から声が聞こえました。どうにも纏まらない考えは取り敢えず後回し。今行きます、そう一言を返し、彼女はゆっくりと立ち上がりました。
◆
「お待たせいたしました。不比等様、篁様」
客人である二人の男を前に、青年は丁寧に頭を下げます。
「僕が晴明です」
彼は若年ながら都でも一二を争う評判の陰陽師でした。
意気揚々と屋敷を発った不比等。とは言え彼も馬鹿ではありません。
幾ら平定が為されたからといってそこは妖怪の山、普通の人間である不比等が一人で挑戦するにはどうも難易度が高い。けれども輝夜の出した条件に「自分の手で以って」とある以上、大勢の兵をぞろぞろ連れて行けば、それは他人の力を頼りにしてる、そう後で難癖も付けられかねません。
連れて行くならこっそり少人数。そうして少数精鋭ならば対人戦専門の普通の兵より、人外の法に通じた妖怪退治の専門家に頼むのが一番。
篁もまた同じ様な考えでした。晴明の屋敷で偶々顔を合わせたおっさんと爺さん。その最終目標こそ違えど当面の目的と選んだ手段の合致した二人は、こうして一緒に晴明の元へと現れたのです。
「やめておいた方が、良いと思うんですけどねえ」
依頼内容を聞いて、晴明は思ったままの事を口にします。けれどもそんな制止の言葉、不比等も篁もとっくに聞き飽きています。そんな事で止まれる訳がありません。危ない二人は止まらないのです。
「そうは言わずに頼むよ晴明君! この儂の愛を成就させる為にっ!」
「そうですよ晴明君。君の様に若く力の有る青年が正義を為す事を怖れてどうするんですっ」
「篁殿の言う通りじゃ! 愛こそ正義、愛こそが世界を救うんじゃぞっ」
「不比等殿は良い事を言う。そう、我等には世界を救う使命がある。妖怪の脅威という暗黒に覆われた世を、あるべき正しい姿に戻すという使命が!」
「晴明君も判るじゃろ? 晴明君も漢じゃろ? 漢なら惚れた女性の我侭には命を賭けてでも付き合うのが正義と言うかむしろその我侭に振り回される事に快感を感じてこそ一人前と言うかっああもうああもうっ! 判るじゃろ、漢なら判るじゃろっ!?」
「そうです正義です! この世は正義によって支配されるのがあるべき正しい姿なのです! 我らがこれから向かうはその為の聖戦っ。そう、全ては世界の意志なのですよっ!?」
道理を無視してパワーのみで美青年に無理を押し付けてくる暑苦しい男二人。鼻息が荒いです。唾も飛んできます。て言うか顔が近いです。見る人によっては結構美味しいシチュエーションです。
「判った、判りましたからお二人とも落ち着いてっ」
堪らず吐いたその言葉。勢い込んでいたおっさんと爺さんがピタリと止まりました。
「今、判ったと言ったな、晴明君」
「判ったというのは了承の意ですよね、晴明君」
「えっ」
今時であればギャグ漫画に出てくる押し売りだって使いやしない。て言うか押し売り自体が最近の漫画には登場しない。そんな強引な論理展開で迷惑男二人組は可愛そうな陰陽師一人をパーティーに引きずり込む事に成功しました。
「え。ちょっ、その」
「さてさて、早速山登りと行こうかのう」
「ですね。善は急げと言いますし。良い言葉だ」
◆
「ほらほらお前さん、遠慮せずにもっと呑みなって」
舞台は再び大江山。二匹の鬼と一人の人間が繰り広げる夜の宴会です。
「ちょ、まっ。星熊様、僕ちょっと、本気で……」
真っ赤な顔の幼女と巨乳。対照的に男は真っ青です。生命の危険に瀕しているせいです。
とは言えそれは、下手に鬼を怒らせたら死ねるとか、そんな回りくどい話ではありません。もっと判り易く今目の前にある危機なのです。
「おらおらライコー。鬼の嫁の癖してもうへばるとか情けないぞー?」
「いや、っつか伊吹様、僕のが嫁なんスか……」
男が山に来てからもう数日。その間毎日、昼となく夜となくの宴会が続けられていました。
鬼達は大層な大酒呑みですが、幼女の手にする瓢箪、それは不思議な事に幾らでも無限にお酒が涌いて出てくるのです。巨乳は銅鑼の様にでっかい杯を満たして一気に飲み下し、幼女に至っては瓢箪に直接口をつけてぐびぐびと喉を鳴らします。
そんな鬼の宴会の中、ただ一人の人間。
彼は先輩に無理矢理飲み会に呼び出された下戸の様、真っ赤を通り越した真っ青の顔になってぶるぶる震えていました。呑めない人に無理に呑ませるのは命に関わるので決してやってはいけません。て言うか男は別に下戸でもない、それどころか結構酒には自信もあったのですが、どうにも周囲のレベルが高過ぎます。少年野球常勝チームのエースで四番が、いきなり大リーグに連れ込まれたところで何も出来やしないのです。
「すんません、ちょっと、気分転換にその辺歩いてきます」
よろよろと頼り無い様子で男が立ち上がりました。
「ちょっとお前さん、大丈夫かい」
「だいじょぶッス。星熊様、だいじょぶッスから、ちょっと、一人で、その辺を散歩に」
一緒に立ち上がりかけた巨乳の前で男が力無く手を振ります。
一人で大丈夫とは言うもののどうにもふらふらとしたその様子、しかもここは夜の山、下手に歩き回れば谷底にでも落ちて軽い怪我でもするかも知れない。巨乳は心配になります。因みに谷底で軽傷なのは鬼基準。人間だったら良くて大怪我普通はお陀仏です。山中の村とかに行くと今でも、明かりもガードレールも無い道を外れて数メートル行ったらいきなり崖とか結構ざらにあるので注意しましょう。
「だったらさあ。天狗でも呼んでこいつに付けたげれば良いじゃん」
巨乳と男の遣り取りに幼女が口を挟んできました。
「そっか。そうね。
て言うか我らの眷属になったっていうのに、そう言えば天狗の一人も付けないままっていうんじゃあ格好も付かないしねえ」
巨乳も納得の表情で手を打ちます。
て言うか男は一人で歩きたいと、そう言っているのですから、天狗を付けるだ何だという話ではどうにも論点がずれている気がしなくもありません。けれども男は何一つ申し立てはせず、あれよあれよと巨乳と幼女の話は進んでいきます。
明らかに立場の差があるメンバーが集まった席に於いて、力無い少数派の意見なんてものは言ったところで意味なんてないものなんです。世の中シビアなもんなんです。
て言うか下手うって怒らせて無駄に命を危険に晒したくない。
「んじゃま」
幼女が握り拳を高く掲げました。それから。
「ひょわ!?」
また男が情けない声をあげてへたり込みました。幼女がその拳を大地に叩き付けたと同時、物凄い音と共に地面が揺れたのです。
しかもそれだけではありません。
「っちょ噴火!? マジやばいッスこれ逃げな!?」
火の玉です。真っ赤に燃え盛る大きな火の玉一つ。そんな物が幼女の拳が打ち込まれた先の地面から噴き出し夜空に飛び上がったのです。
そんな光景を目にし抜けた腰で這いずる男の背中に向け、呆れた顔で幼女が溜め息をつきました。
「この程度の燐火術で一々驚かれてもねえ」
と、その時です。
「お待たせしましたーっ!」
元気の良い、けれどどこか焦った風でもある大声が空から降ってきました。
そうして降りて来たのは団扇を手にした一人の美少女。年の頃は十の前後といった所でしょう。丈の短い着物から覗くすらりと細く綺麗な脚が見事です。世に出れば男たちの視線を釘付けにするのは必至の美脚です。
「あれ? こんな子供?」
見た目で言えば自分も大した差でもない、と言うかほぼ同じ年頃の幼女が、飛んで来た美少女を前に小首を傾げます。
「いえいえいえっ! 申し訳ありませんっ。あの、他の天狗達はちょっと今立て込んでおりまして、それでワタクシの様な若輩者が」
「ああ、いや別に」
何度も何度も、それこそ人間である男の目からすれば残像が見える程のスピードで頭を下げる美少女。それを前にして、ちょっと困った笑い顔で鬼の幼女が手を振ります。
「文句を言った訳じゃないんだ。て言うか急に呼び出しかけたのはこっちなんだし、なのに人選にまであれこれ言う気は無いよ」
「そうそう。それにさ、子供とはいえこの短時間で八ヶ岳から飛んで来られるんだ。充分だよ。それだけの事が出来る子なら」
巨乳もそう言ってフォローを入れます。
と、そこに。
「って、八ヶ岳から今飛んで来たって」
男が声をあげました。良いツッコミです。良い驚き方です。何故なに君としてもとても良い仕事です。
「うん。今の燐火、あれが合図。河童が何か、遠くの見える筒みたいな道具でこっちを見ててくれてるらしくってさ。
大きいの一つ上げて、それが天狗一人をこっちに寄越してって意味」
鬼の幼女の説明を前に、男は気の利いた返事も出来ずに大口開けて固まったままです。
まあ、人間である男が驚くのも当然なのですが。
八ヶ岳から大江山までは直線距離にして約二百八十キロメートル。新幹線がその道のりの全部をトンネルにして全速力で真っ直ぐ突っ走っても一時間はかかるでしょう。それを僅か数秒です。長野から北陸、琵琶湖を経由して京都まで新幹線を繋げようとしてる人達とかもう涙目になっちゃいます。
凄いです。格好良いです。天狗こそがあらゆる妖怪の中で最も力ある種族なのです。
「そっ、そう言えば自己紹介がまだでした」
間抜け面の人間は取り敢えず放っておいて、爪先から頭の天辺まで真っ直ぐ整ったとても綺麗な気を付けの姿勢を見せる美少女。礼儀正しくて好感が持てますね。
「はじめましてっ。私っ、鴉天狗の射命丸文と申しますっ。先日鴉から成ったばかりの未熟者ではありますが、どうぞっ宜しくお願いしますっ」
元気良く自己紹介をし、それから九十度腰を折り曲げてお辞儀をする美少女。
「私は鬼の四天王、伊吹萃香」
「同じく星熊勇儀。
で、こっちが」
幼女、巨乳の自己紹介。続いて話が未だ固まったままの男に向けられました。
「私の良い人」
「は?」
巨乳の言葉を聞いて、美少女は口に手を当てて思わず可愛らしい声を漏らしてしまいます。
「人間、ですよね」
「人間よ」
「星熊様の良い方、なんですか」
「はは、照れちゃうねえ」
「人間ですよね」
「そうだって」
美少女は男の阿呆顔をまじまじと見詰めます。
人間です。それも普通の人間です。英雄や陰陽師の様な覇気も霊気もまるで感じられません。
とは言え、巨乳がそうだと言うならそうなんでしょう。戦闘力を自在に操れるタイプの人間なのかも知れない。美少女はそう自分を納得させます。
「でさ、あんたにはこの人の付き人をお願いしたいんだ」
「はい?」
美少女はその大きくて愛らしい瞳をまん丸にしてしまいました。
八ヶ岳に住む彼女達天狗は、鬼の四天王との激戦に僅か力及ばず惜敗し、そうして子分の様な立場になっています。ですから、彼女が鬼の眷属の下で付き人、と言うか付き鴉になる事それ自体は特におかしな話でもありません。
ただ、目の前のこの男。どうにも情け無い空気ばかりが感じられます。それなのに。
彼女にだってプライドがあるのです。何だかどうにも納得がいきません。
とは言え。
「はいっ、判りましたっ」
正しく真っ直ぐな姿勢、凛とした声で美少女は応えました。彼女は組織に属する者です。どうしてもの理由が無い限りは上の命令に背きはしないのです。
未だ歳若いながらこの態度、とても立派なものと言えましょう。
◆
「あの、さあ。俺、一人で大丈夫だから、君戻って良いよ?」
「そうは参りません。貴方様をしっかりお守りするよう、そう星熊様から言い付かっているのですから」
宴席から離れた夜の山。何だか迷惑そうな顔でだらだら歩いている男と、松明を左手に持ち男のすぐ横に付いて飛ぶ美少女。
こんな美少女と夜の山道で二人っきり。健全な男ならそれ相応の反応を見せて然るべき場面。それなのに男のこの態度。彼はもしや何かの病気にかかっているのでしょうか。あるいはそういう趣味なのでしょうか。
違います。
少女は確かにとても愛らしいのですが、ちょっぴり見た目の歳が若すぎたのです。男のストライクゾーンをぎりぎりで外れていたのです。男は米利堅の球審とは違い、その辺りはかなりきっちりかっちりするタイプの人間でした。今の世に出しても恥ずかしくない奴です。手を出す幼女の次元は二までで抑えておきましょう。写真はアウトです。人形なら三もセーフです。フィギュアと聞いて真っ先に人形を思い浮かべる迄に訓練されたらその時が世俗と袂を分かつ機会です。
あとついでに、この時の男が、早い話が逃げを企んでいたという事情もありました。
圧倒的な種族間戦闘能力差。会話で少しでも選択肢を誤ればそれまで立てたフラグ全てをへし折って即行バッドエンド。余りの高難易度に胃がきりきり痛みます。
そうして精神的に疲労している所に連日の宴会。これがまたきつい。相手を怒らせる以前の話、何の悪気も無い鬼を前にこのままでは身体がもちません。酒量が尋常ではありません。勇気を持ってNoと言えれば良いのですが、ヘタレの男にはそれも適いません。
巨乳は惜しい。ほんとに惜しい。まだ触ってもいないんだ。
けれども。
命もまた惜しい。
そこで男は宴席を離れ一人で散歩、そのままばっくれようと考えたのです。
それなのにこうして美少女一人ご同伴。男は溜め息をつきました。何て自分は運が悪いんだ、と。
まあ、そもそもはぶっちゃけ全部自業自得だったりするんですがね。
「それにしても凄いですよねえ」
黙ってしまった男の傍ら、美少女がぽつりとこぼしました。
「凄いって、何が」
「頼光様ですよ」
何だか良く判ってない顔の男の前で美少女は続けます。
「人間なのにあんなに星熊様に気に入られて。
私なんか天狗なのに、まだ未熟だから力も無いし、お蔭でこうして面倒な用を押し付けられるし」
「面倒って」
「あっ」
慌てて美少女は両手で口を隠し周囲を見渡します。
「いや、伊吹様や星熊様には内緒ですよ?」
そうして小声で話し始めました。
「上の方は、やっぱり鬼が苦手なんですよ」
四天王に敗北しその軍門に降った八ヶ岳。今でこそ鬼は大江山に移り一応の自由は戻ってきたものの、それでも今回の様に何かあれば呼び出しをくらって用を言い付けられる。天狗達からすれば厄介な上司みたいなものです。或いは卒業したのにちょくちょく顔を出してくる鬱陶しい体育会系のOGです。
「意外と世知辛いんだなあ、妖怪も」
「意外と世知辛いんですよ、妖怪も」
今回もそうです。立て込んでいる、なんていうのは体の良い嘘。他の天狗達は面倒を嫌い、そうして成ったばかりで立場の低いこの美少女が半ば無理矢理に鬼の元へと派遣される事になったのです。ああ、なんて可愛そうなのでしょう。見る目麗しく性格も清らかな少女が何か無闇矢っ鱈に不幸を背負わされるのは昔っからのお約束なのです。世界の名作達がそれを証明しています。
「記事のネタになるから良いじゃないかって、皆はそう言うんですけど」
「記事?」
「ああ、はい。
身の回りに起こった出来事を文章に纏め、それを皆に見せて回って出来を競うって、そんなのが天狗の間で流行ってるんです。
ただ、まあ」
美少女は言葉を濁します。
天狗の間で流行っているこの遊び、しかし未だ若輩の彼女はそれを楽しいものとは思えませんでした。
一々方々を飛び回って取材するなんて疲れるし、長い文章を書くなんて面倒だし、その上それを他人に見せて回るなんて恥ずかしくてとても出来やしない。
そう考えていたのです。
ですから彼女にとっては今回の派遣は本当に只の面倒事。こうして愚痴の一つや二つもこぼしたくなります。
「あーあ。私ももっと力があればなあ」
そうすれば面倒を押し付けられてもはっきり断れるのに。軽く嘆きながら、美少女は空いている右手で腰に差してある団扇を抜きました。
「元が鴉だから速さだけには自信があるけど、他はこうしてちょっとした突風を起こせる程度だし」
言って手にした団扇を軽く振るいました。
途端。
「あれ」
目の前に居た筈の男の姿が一瞬にして消え失せました。驚いて辺りを見回します。
「な、にが、一体」
声が聞こえました。遥か前方からです。美少女は慌てて飛び出しました。
「あの、一体どうされたんですか」
美少女の目の前、男は一本の木の根元で何故か逆様になっていました。一体いつから人間は足を使うのを止めて頭で歩く様になったのでしょう。頭を使うという言葉の意味を勘違いしているのでしょうか。
美少女は首を傾げます。今巻き起こした風。松明の火を消さない様にと、力を込めた心算はまるでありませんでした。イメージ的には魔法使いがひのきのぼうで殴った程度のもの。それなのに。
「あの、もしかして」
「ばばばば馬鹿あ言っちゃいけないよ!?」
慌てて立ち上がる男。また音飛びが激しい事になっています。光学ドライブのレンズクリーニングは定期的をお奨めします。
「あれだよ? 今のは、ほら、ね? 哀しい顔した子猫ちゃんに笑顔を取り戻してあげようとちょっぴり愉快な道化を演じただけであってねっ。結構雰囲気出てたっしょ? かなりそれっぽい感じが出てたっしょ!?」
必至の形相でばたばた騒ぎ立てる男には応えず、何も言わぬまま美少女は松明を地に突き刺し、両手で以って団扇を構えます。未熟者ながらも出せる分の力、今度はそれをはっきりと籠めて。
「へ?」
男の頭上、何かの砕ける音が聞こえました。
つられて視線を上に向けます。見えたのは。
「ちょ」
見えたのは、真ん中からへし折られた木の上半分が小規模の竜巻に乗って空を舞う姿。
「落ちろ」
美少女が手にした団扇を振り下ろしました。同時。
「ぬわっ!?」
男の目の前、地面に叩きつけられる木の半身。重く激しい音と共にその身は砕け、無残な姿を晒しています。
「さて、ここで問題です」
花が咲いたと形容するに相応しい満面の笑顔、そんなもので以って美少女が男の顔を覗き込みました。顔が近いです。可愛らしい小さな唇から漏れる吐息がかかってきます。ちょっと顔を突き出せばキスも出来るかもしれません。
「この大きくてかたーい木と、それから人間の身体。はてさて、より重く頑丈なのはどちらの方でしょうか?」
「どうぞワタクシの事は犬とお呼び下さい」
男は大地に向かってキスをしました。それは見事な土下座でごさいます。
「取り敢えずは星熊様達にご報告にぃ」
「っちょ待って下さい射命丸さんっ!?」
踵を返した美少女の腰に男が泣いてすがりました。十歳前後の可愛らしい女の子に背中から抱き着いて顔中涙と鼻水でぐちゃぐちゃにするいい年こいた男。世が世なら新聞テレビ欄の裏側、その隅っこでこっそり名前デビューが果たせそうな勢いの光景です。
「えー、でもー、私ぃ、鬼の方々にはやっぱ逆らえないしぃ?」
「そこを何とか射命丸さん! 聞きますからっ、何でも言うこと聞きますから!」
巨乳はそもそも男の腕っ節にやられたのではありません。なのでこの件を報告されたところで、そりゃ幼女の猜疑心は高まるでしょうが、かと言って急に極端に立場が悪くなる訳でもないのです。
が、いっぱいいっぱいの男はそれに気付きません。一人空回ってどんどんドツボに嵌っていきます。
「言うこと聞く? 何でも? って言うかこれだと私が脅してるみたいで何だか嫌な奴っぽい感じ?」
「いや僕ってば可愛い女の子に命令されるのが大好きなもんでしてよってこれは飽く迄も自発的な行為であって射命丸さんが気に病む必要なんてハイもう一切なしッスから!」
「そう。それじゃあ」
言って美少女は右の履物を脱ぎました。
何も無い空中、そこでまるで椅子にでも座っているかの様、脚を組み、四つんばいになっている男の目の前にその白く綺麗な素足を晒しました。
「舐めて、もらえる?」
人外とはいえ見た目は子供、それが足を舐めろと命令してくる。こんな屈辱的状況、男にだってプライドはあります。
「巫山戯んなよ! この餓鬼、大人を挑発するとどういう事になるかその身に徹底的に教え込んでやらあっ!」
などとコンビニでビニールをしてある雑誌でよく見る展開になったりもせず。
「そっスよねー僕ぁ犬ッスもんねー犬ったら舐めるのがやっぱ基本ッスもんねー!」
男にだってプライドはあります。けれども、プライドという名の一時の勢いに身を任せてその後の人生全てを投げ捨てられるほど彼は若くもなければ老いてもいませんでした。
全力の愛想笑いで美少女の素足に両手を添えます。
「いいわよ、気持ち悪い」
けれども美少女は足を引っ込めました。代わりに投げ付けるのは侮蔑の視線です。
「そッスかー気持ち悪いッスかーこりゃ参ったなーあっはっは」
「あれえ? 何かちょっと文句とか言いたげぇ?」
「何言ってるッスか。そんな文句とか全然」
「言いたい事も言えないこんな世の中で君は満足?」
「満足ッスよー現状に満足するのが幸福な人生への第一歩ッスからー!」
プライドはあります。けれども無視します。
目の前の美少女は未熟者の天狗。鬼にはまるで頭が上がりません。
けれどもそれは鬼が相手の話。LV50の魔王だろうがLV99の大魔王だろうが、LV2の村人にとっては何ら変わりないのです。どっちにしろ敵わない。相手にならない。
「あー、何か喉が乾いたなー」
唐突に、明後日の方向に目を遣りながら美少女が呟きました。
「あっはい今すぐ星熊様達の所に行って」
地に刺さっていた松明を抜き取り走りかけた男の背中、けれども美少女が留めます。
「あ、ごめーん。私まだ子供だしお酒とかって苦手なのよねえ」
「それじゃあ近くの沢にでも行って」
「お茶が飲みたいなー、美味しいお茶」
「お茶、って」
そんなこと言われても。男は困ってしまいます。
彼が山に来てここ数日、鬼達は昼も夜も、その生活の中で口にする液体は酒の完全一択。普通、日本酒を飲み過ぎると逆に水が欲しくなるものなのですが、そんな人間の常識なんぞはお構い無しに鬼達は酒以外の飲み物を一切口にしません。水が無いなら酒を呑めば良いじゃないとか真顔で言い出しそうな勢いです。確かに人はパンのみでは生きられませんが酒のみでも普通に身体を壊すんです。人間関係とか家庭も壊れるんです。
兎に角、そんな彼女達がお茶なんて気の利いた物を持っているとはとても思えません。
「あら。都に下りれば良いじゃない」
気軽な声で美少女は言いました。
「都って。まあ、確かに」
「十数える間に行って帰って来られなかったら楽しいお仕置きが待ってるわよ?」
「っておい!?」
思わず男のツッコミが入ります。天狗基準でものを考えられては堪りません。それなのにお仕置きだなんだと。
一桁と二桁の境界に居る美少女からお仕置き。人によっては正装+正座で厳かに待ちわびて然るべきものなのですが、残念な事に男にそっちの趣味はありません。
「幾ら何でもそれは」
「ほーしーぐーまーさーまー」
「オイッス了解ッスちょいとお待ちをーっ!」
転げ落ちる様にして男は夜の山を下りていきました。
付き人が来たと思えば即行でこちらがパシリに転落。自業自得の身分を忘れて男は世を嘆きます。
ああ、一体俺が何をしたって言うんだ。
けれどもすぐに彼は気付くのです。今の状況、これは。
◆
「っつうか、これって」
山の口ももう目前。そこまで下りてきて男は、ふと気付いた様に誰も居ない夜の中で独り言を漏らしました。
「今ならこれ、逃げられるんじゃ」
男は気付きました。目の前に立ち上がった生還フラグの存在に。
今の自分は一人だけ。天狗の美少女も付いてきてはいない。これなら。
「でも追っ手が……。
いや、待てよ」
追っ手の危険が一瞬頭をよぎりましたが、しかしここで冷静に考えてみます。
幼女の方の鬼、彼女は男を疑っている様子でした。聞いた話では彼女の父親は人間に騙まし討ちを受けて負けたそうですし、先祖とされる八岐大蛇もまた、神話の上では策に嵌り酒を呑まされ泥酔した所を討たれたと言います。ならば人間である男を、巨乳に取り入って騙まし討ちでも企んでるいるのではないか、そう幼女が警戒するのも当然でしょう。
で、そんな怪しい人間がこうして姿を消したとなれば。
厄介者が居なくなったと喜びこそすれ、わざわざ追っ手を差し向けてまで連れ戻しを図るとも思えません。巨乳や、下僕に逃げられた形の天狗美少女はもしかしたら追って来るかも知れませんが、運が良ければ幼女がそれを留めてくれる可能性もありそうです。
取り敢えず夜の山、妖怪の世界に異邦人として居座り続けるよりかは遥かに生存確率が高そうに思えました。
あのとんでもない鬼乳、あれだけは本っ当に心の底から勿体無く思えるのですが。
「何でわざわざこんな夜中に山登りせにゃならんのじゃ」
突然、山の口から声が聞こえてきました。男性の声。人間か、はたまた妖怪か。男は身構えます。
「仕方が無いですよ」
また声。今度も、少し高くて細い感じではありますが、恐らく男。先の声より若いのでしょう。どうやら、相手は一人ではない様です。
「大江山に限らず妖怪の山っていうのは、普通の人間が誤って異界に迷い込まない様、夜に登らねば『妖怪の山』には入れない、つまりは昼に登っても『普通の山』にしか入れない、そういう術がかけられているのが殆どなんです」
「ほう。晴明君は随分詳しいんですね」
「えっ。
や、その、昔お世話になった方がそういう結界術に長けていて、まあ、その関係ってだけで別にっ」
声の主はどうやら三人。話し振りからしてどうも妖怪ではない。人間の様です。
「お。あそこに何か居るみたいじゃぞ」
向こうも男に気が付いた様です。
互いの顔が視認できる位置にまで近付いてきました。
男は刀を構えます。
「こんな夜中に山を登ろうとは、お前ら一体何者だっ!」
機先を制して叫び声を上げました。こういった場では、とにかく先手を取って場の主導権を握るのが重要なのです。
目論見は成功。三人組みの内、初老のおっさんとえらい体格の良い爺さんは見事に固まってしまいました。
けれども。
「こんな夜中に山から下りてくる貴方の方こそ何者です? 見たところ人間なのに」
あと一人、美しい顔立ちの青年は僅かの動揺も見せず真っ直ぐに言葉を返してきました。
「山から下りてきた、人間?」
青年の言葉を聴いて、爺さんの肩がぴくりと跳ねました。
「もしや君が、頼光君、なのか」
「ん? ああ、そうだが」
男の答。それを聞いて。
「いよっしゃー! これにて我が愛成就じゃ結婚結婚んんんっ!?」
「やりました正義です今世界の夜明けは我らの目の前にい――ッ!!」
むさ苦しいおっさん爺さんが男に向かって飛び付きました。
「何だお前らっつか髭が痛いっての髭ひげヒゲええええ!?」
人によってはそれなりに美味しい光景でございました。
◆
「とまぁ、そういう訳なんです」
少し困った笑い顔で、青年、晴明は話を終えました。
「鬼の秘宝を分けてもらいたい、か」
そう言って男は、大分落ち付いた様子の暑苦しい男二人を交互に眺めます。
「不比等のおっさんが欲しいのは蓬莱の玉の枝。で、篁の爺さんが欲しいのは何か取り敢えず攻撃力の高い物、と」
「そうじゃそうじゃ! それさえあれば儂は誰の目をはばかる事もなく公然と輝夜との夫婦の営みに突入できるんじゃっ」
「いや、はばかれよ」
「私は贅沢は言いません。心得の無い者でも簡単に扱えて一撃で数万からなる妖怪軍団を灰燼に帰す威力があって且つ使用後に後遺症とか何とかそういうのが一切出ないような物であれば何でも」
「うん、て言うかその一切って言葉に説得力を感じる」
クリスマスを目前にした未就学児の如きキラキラとした視線を向けられ、さてこれどうしたものか、男は困り果ててしまいました。
鬼の秘宝、なんて言いますが、ここまで鬼達と一緒に居て、珍しい物といえば幼女が手にする無限に酒の涌く瓢箪くらいのものです。彼女らの生活は、酒の量を除けば意外に質素。取り敢えず、蓬莱の何ちゃらとかいう物は目にした事も聞いた事もありません。
篁の言う何か攻撃力の高い物。これもとんと思い当たる節がありません。て言うか鬼自身が下手すれば山をも崩しかねないという力を持っているんですから、その上でわざわざ高威力の武器を持つ必要性が見当たりません。素手で殴っても9999ダメージでカンストになるのなら、そこに伝説の武器を追加しても出せるダメージは9999で変わりがないのですから。
まあ、強いて言えば鬼それ自体が規格外に強力な武器、とは言えましょうか。未熟者という美少女天狗でも充分な破壊力。
とは言え彼女らが、妖怪退治を謳う篁に協力することはあり得ません。て言うかわざわざ山登ってそんな事お願いしに行くなら、この場で喉を掻っ切った方が余計に歩く手間を省ける分、よっぽど楽ってえものです。
そもそもそれ以前。
「参ったなあ」
男は今、山を出て逃げようか、そう考えていた所だったのです。下手に声をかけず隠れてやり過ごせば良かった。男は後悔しました。
そんな男の苦悩を読み取ったか、晴明が少し遠慮がちに口を開きました。
「あの、もしご迷惑なようでしたら無理には」
「そうは言わずに頼むよ頼光君! この儂の愛を成就させる為にっ!」
「そうですよ頼光君。君の様に若く力のある青年が正義を為す事を恐れてどうするんですっ」
けれどもその言葉を鼻息荒いおっさんと爺さんが打ち消して吼えます。
「判るじゃろ? 世の中愛じゃろ? 君も男ならその辺よくよーっく判るじゃろ!?」
「人は正義を為すのが世の真理。そうしてそんな人々を導く者こそが英雄と呼ばれる者。そう、私は、君は、英雄になるのですっ!」
「あれじゃぞ考えてみろ! これでお鬼のお宝を持って都に凱旋してみ? 道の両脇でもう大勢の女子達が黄色い声で騒ぎまくって!」
「英雄の帰還! 人々は知るのです! 誰が世界を導くに相応しいかというその事をっ!」
「今一番の抱かれたい男確定じゃぞ!? よりどりみどりで朝から晩までじゃぞ!? 大丈夫、儂はこう見えてまだまだ若いし頼光君に至ってはもっと若いっ! だから大丈夫! 差別とかもう一切しないしっ!!」
「闇は晴れ世界は光へと包まれるのです! 新たなる理想郷、その頂こそ我らに相応しい! これはシンリなのです! 神の理と描いて神理! そうっ我らは新(神)世界の神となるのですよおフゥーハハハハハハ――ッ!?」
何かおかしな茸がいい感じに嵌ってしまった。そんな勢いで男二人は夜の山に吼え声を響かせます。
「ちょ!? お二人とも落ち着いてっ」
晴明のそんな言葉も、妄想と現実の境界を突っ切って走り抜けるおっさんと爺さんには届きません。妖怪の潜むこの世界でここまで堂々とした欲望の振り撒きっぷり。死亡フラグとしてこの上ありません。
とは言え。
晴明は男の方を向きます。彼さえ断ってくれればこの馬鹿げた夜の冒険も打ち切りに出来るのです。次回クライマックスで俺達の戦いはこれからだと笑い合いながら暖かい我が家へと帰る事が出来るのです。
「頼光様、このお二人の言う事はどうか気になさらずに、嫌なら嫌とそうはっきり言っていただければっ」
「悪くは、ないよなあ」
低く呟く男の声。
『頼光様って結構調子に乗り易い所がありますよねえ』
男の脳味噌の端っこでそんな声が聞こえます。が。
「朝も夜も恋焦がれてええ!?」
「只それだけ出来れば英雄なんですよほおおお!?」
世の中には二種類の人間が居ます。
一つは、何か美味しい話が飛び込んで来た時、訝しんで尻込みしてチャンスを駄目にする人間。
一つは、何か美味しい話が飛び込んで来た時、熟慮もせず飛び付いて人生を駄目にする人間。
「いよっしゃあああっ」
男は後者でした。
「皆ぁ付いて来いーっ!」
「ヘイヘイヘイッ!」
「俺にぃ付いて来いーっ!」
「ヘイヘイヘイッ!」
熱病に罹った結果血流に異常が起きて脳味噌に行く分が足りなくなって正常な判断力を失ってしまったかの様な阿呆、略して熱血状態に突入したかしまし男三人組と、そんな異状の中で哀れにも冷静な判断力と常識を保ったままで取り残されてしまった青年一人。
確かに在った筈の生存フラグをばきばきにへし折り、こうして男だらけの四人パーティーが結成されたのでした。
彼らがその後どうなったのか。それは次のお話で。
今宵はこれまでにしとうございます。
◆
◆
「まあ、あれですね」
帽子を小脇に抱えた少女が、深く、本っ当に深く長い溜め息をついた。
「教授の専門は物理だったと思うのに何で古文書の鑑定に呼び出されたのかなんていうのは、放射性物質による年代測定があーだこーだと無理矢理に理屈つけて納得もしましょう。
古文書そのままの解読とか言いながら筆者の解説が完全にごっちゃになってるっていうのも、読み手に判り易くとかそういうものだと強引かつ寛大に捉えもしましょう。
がっ」
帽子の少女は手にした紙束を机に叩き付けた。
「時代設定が明らかにおかしな事になってるじゃないですか!?
鵺の話とか似た名前の別の人のだし、って言うかそれ以前に登場人物の活躍年代に最大で約三百年位の差があるんですけどっ!
教授って江戸時代以前は全部ひっくるめて昔とか言っちゃうタイプの人なんですか!?」
「その矛盾こそが真の歴史たる所以。って言うか織田信長や近藤勇が出てこない分良いと思いなさい。
だってさ」
今この部屋に筆者である教授は居ない。代わりに応えるのは助手であるセーラーの少女。
「いやでもっ。竹取物語に関する人物に至ってはそもそも平あ」
中途半端に途切れたその言葉。金髪の少女がその手で以って口を覆ったのだ。
何するのよ。帽子の少女は視線のみで相棒に非難の意思を投げかける。
金髪の少女は黙ったまま、ゆっくりとその指をセーラーの少女に指して向けた。
「私にだって……ツッコミきれない事ぐらい……ある……」
顔を背け、呻く様にして低い声を押し出すセーラーの少女。
その顔が隠れる直前、清らかな滴が一粒見えた気がしたものだから、帽子の少女もそれ以上の何も口にする事は出来なかった。
“続くっ!”
面白いのかなぁ…っていうちょっと自分には解らない感じでした。
おっぱいだの何だのちょっとしつこい気もしますけど。
自分の評価としては可もなく不可もなくといった感じですね。
キャラ描写は良いと思います。続き待ってます。
つまり自由(フリーダム)に歴史を捏造したらそれは真実なんだ! ΩΩΩ<ナンダッテー!?
とにかく純情派レディース乙女の星熊様は真実。
それを踏みにじって死亡フラグを立てるか、はたして別ルートはあるのか、続きが気になります。
『MOTTO!MOTTO!』とおっぱいの描写を求める、そんな私はくりからママンが大好きっ!(関係無い)
次回もおっぱい楽しみにしてるから!
…………出来れば萃×勇書いて頂けたらなぁと思ったりしたのですがまぁ無理な話。