湖のほとりには大きな桜がある。
春になると美しく花を付け、人々に親しまれている。
花が落ち完全な葉桜となった今日、桜の下には三人が集まっていた。
諏訪子と神奈子と5,6歳の少女である。
少女は青い巫女装束を着ている。
「何でお墓が無いの?」
少女が声を上げた。
「ここがお墓なんだよ。早苗お祖母ちゃんは、墓を作らないでいいって言ったんだ。だから、この下に埋まっている」
神奈子が答える。
「ふうん」
「風祝だったんだよ。お前と同じで」
「前も聞いたよ」
諏訪子は音を立てながら、ナッツアイスを頬張っていた。
「手を合わせよう。それだけで大丈夫だ。他には何もいらない。ほら、お前もアイスなんか食ってないで。口から出せ」
「そうだよ」
「だって、暑いんだもん」
少女に促されたこともあり、諏訪子はすっかり小さくなったアイスを口から出した。
舌はチョコレート色に染まっている。
「じゃあ、みんなで手を合わせよう」
神奈子の合図で、全員が手を合わせた。
諏訪子は手に持っているアイスを、また口の中に入れた。
端から見れば、桜を拝んでいるようにしか見えないだろう。
長い沈黙の後、少女が口を開いた。
「早苗お祖母ちゃんに通じたかな」
「ああ、通じたろう。お前は賢いな」
神奈子が言うと、少女は首を傾げた。
「早苗も神様になったのさ」
諏訪子が目を細めて、アイスを味わいながら言った。
神奈子は少女の頭を撫でた。
「神奈子様」
少女の声に反応した諏訪子が神奈子を見た。
諏訪子は無表情に聞いた。
「お前、泣いてるのか?」
「いや、泣いてない」
「もう、行こうや」
神奈子は諏訪子に背中を向けた。
丁度、湖を向く形になる。
「もう少しだけ待ってくれ」
諏訪子も少女は何も言わなかった。
諏訪子は待っていたが、神奈子はいつまでも動こうとしない。
少女の顔にも不安が表れてきた。
諏訪子の咥えていたアイスがすっかり無くなってしまった。
「おい」
諏訪子はそう言って、桜の根元に進んだ。
二人の視線が諏訪子に集中する。
諏訪子は汗を拭うと口からアイスの棒を取り出し、桜の根元に突き刺した。
「早苗の墓」
二人はきょとんとした。
「不謹慎な」
「酷いよ、諏訪子様」
神奈子の口から勢いよく息が漏れた。
諏訪子は照れて、「えへへ」と笑った。
あははははは。
わははははは。
ケロケロケロケロ。
「馬鹿野郎」
神奈子は湖に向かって、思い切り諏訪子の背中を蹴り上げた。
この時の諏訪子の行動は面白半分だったのか、それとも神奈子を励まそうとした善意から出たものなのか未だに定かではないが、私はおそらく前者寄り、それも計画的な犯行ではないかと睨んでいる。
伏線はあるものの、オチがとてもわかりにくかったのでこの点数で。
伝えたいことが分かり辛いと感じました。
少しわかりづらいところが多かった気もするけれど、この二柱の会話は好きなのでこの点数で。
余談ですが、某アーティストの墓には木の棒が一本刺さってるだけって話を思い出しました。
それはともかく、しんみりとした笑いをありがとうございます^^
何というか、雰囲気の作り方がとても巧いと感じました。
飾り気の無い地の文、少女と二柱の会話。そこから情景がはっきりとした絵として目に浮かぶような。
しんみりするけれど悲しいというのとはまた違う、とても良いお話でした!
短いけど、良かった。