※若干文花帖のネタバレを含みます。人によってはご注意を。
「うーむ……暇ねぇ……。」
一人言を呟きながら、私は空をぶらぶらと飛んでいる。
天気は快晴。良い天気なのに何もすることがないとは、なんとももったいない気持ちにさせられる。
「何かしら事件があれば取材できるのだけれど、相変わらず平和な世界だわ……。」
と、また一人言をつぶやいた。
<射命丸文の休日>
私、射命丸文は今、非常に暇を持て余している。
いつもなら新聞記者として事件を追い、一通り取材して帰宅すれば
すぐに新聞の記事作成にとりかかるのだが、今日は特に平和で何も事件らしい事件は起こっていない。
やるべきことは一応あることにはある。それは文花帖の未完成シーンの撮影だ。
しかし今はどうもやる気が出ない。だから他に事件があればと出かけたのだが、目立つ事件もなく……。
なので「暇」といっても間違いではないのだ。
「仕方ない、今日は休暇ということで……博麗神社にでも遊びに行きますか!」
博麗神社には巫女の博麗霊夢がいる。
あの人間とは話していて退屈しないから、きっと良い暇つぶしになるはず……。
思い立ったが吉日。飛行速度を急加速させ、私は博麗神社へと向かった。
数分もかからないうちに博麗神社に到着した。
私は幻想郷最速の鴉天狗!着いたと思ったなら、その時既に着いているのです!
……とまぁ自慢はおいといて……はてさて巫女さんはどちらかしら?
地上に降り、神社を見渡すと縁側でお茶を飲んでる巫女と白黒の魔女を見つけたので声をかけた。
「こんにちわ、霊夢に魔理沙。今日は良い天気ね。」
「げっ! こりゃまた厄介なのが現れたぜ……。」
「あら、文じゃない。まーたろくでもない取材をしに来たの?」
この二人は若干呆れた表情をしながらそう言ってきた。
「失礼な! 今日は遊びに来ただけよ! まったく二人とも、私を厄介者扱いして……。」
その通りだろ、と魔理沙に突っ込まれながらも、霊夢からお茶をもらい二人の隣に座った。
霊夢の話を聞くに、魔理沙も暇だったらしくここに遊びに来たとのこと。
基本的に幻想郷の住人には暇人が多い。だからこうして遊びに来る人妖も多いのだろう。
神社に妖怪が出入りするというのは本来おかしい話なのだが……。
「……にしてもあの手帳をなくしたのは痛いぜ。珍しいもん見つけたと思ってワクワクしながら帰宅してたのに……。」
「まぁまぁ……いい加減諦めなさいな。その愚痴はもう10回は聞いたわ。」
「だって持ってたのにいつの間にかなくなってたんだぜ? 不可思議すぎる!」
魔理沙がしかめっ面になりながら愚痴を言い、霊夢はいい加減しつこいといった様子でなだめる。
ん……?手帳?拾った?……まさか……。
私はもしやと思いながらおもむろに「その」手帳を取り出し、魔理沙に見せた。
「えーと……魔理沙、あなたの言う『手帳』とは、もしかしてこのことかしら……?」
「あーっ! それだ!! ……なんだ、あの気味の悪い手帳はお前のだったのか。」
「『……なんだ』……じゃないですよ! なに人の所有物を勝手に自分のにしようとしてたんですか!」
「それが嫌なら名前でも書いて誰のか分かりやすくするんだったな。……どっちみち渡すつもりはなかったが。」
魔理沙が笑いながら嫌味を言う。
まったくこの魔法使いは……。呆れてものも言えないとはまさにこのことだ。
私は早めにこの手帳が手元に戻ってきて本当に良かったと安堵した。
え? 魔理沙の手元にあった手帳をどうやって取り戻したのかって?
それは私の優秀な道具である鴉が頑張ってくれたのですよ。
え? どうやってもばれるだろって?
あやや……そこら辺はご想像にお任せということで……。
「しっかし、そんな大切なものなの? その手帳。」
「霊夢、その質問は愚問よ。新聞記者の私にとって、これはとても重要なものなの。あなたたちにはわからないでしょうけど……。」
そう、この手帳は今まで取材してきた事件に関する膨大なネタやメモを綴った、とても大切なもの。
なくしたと気づいた時は本気で焦ったものだ。
一日かからず鴉がとり戻してきてくれたので、しつこいようだが本当に安堵した。
「魔理沙が言うには、その手帳には妖怪と弾幕を撮影した写真ばかりがあるって言ってたわね。」
「そうそう、おまけに妙なメモ書きもあったんだぜ。」
「ええ、その通り。最近まで妖怪と弾幕に関して取材と撮影をしまくってたんだから! ……一部人間もいたけどね。」
私は無駄に胸張って答えた。
これらの取材にどれだけ苦労したことか……。そう考えると胸も張りたくなる。
良い機会だから取材することがどれほど大変か、この二人に教えてみるのも悪くない。
私の苦労を知れば、少しは私のことを見直すだろう。
「良い機会だし、特別に私の手帖、『文花帖』を二人に見せてあげましょう。」
「嫌だぜ。私はあらかた中身見たし、霊夢だって……ほら? 興味なさそうな顔してるだろ?
というか、そんだけネタがあるなら記事の一つや二つできるだろ。さっさと帰って新聞でも作ったらどうなんだ? 」
「……まだ撮影成功してないものもあるの。記事にするなら完璧にネタが集まり切ってじゃないと読者に失礼ってものよ。
どうせあなたたち暇なんでしょう? だったら暇つぶしにはもってこいだと思うんだけど? 」
やれやれ、と魔理沙がため息をつく。霊夢もまぁ確かに暇だしね、とまんざらでもない様子。
ようし、それでは、と私は解説を始めた。
十数分後……
「【水&火符「フロギスティックレイン」】! 仕組みを理解するまでは苦労したスペルだった……。
パチュリーには呆れられながらも何度も頼んで再撮影させてもらったわ。」
「妖夢さんのスペルには思わずカメラ叩きつけたくなってねぇ……よく我慢したわ私。」
「【化猫「橙」】は最初の突撃で有無言わさず轢かれたのは私だけじゃないはず。 」
「レミリアさんのスペルは、ネーミングはともかくとして、とんでもなく強力なものばかりで苦戦したわ……。」
私は印象に残ったシーンを次々と説明していった。
途中からは霊夢も魔理沙も興味を持って楽しんでくれたのがうれしかった。
ふとしていると魔理沙が尋ねてきた。
「なぁ文。撮影が成功したシーンには『済』って刻印してあるようだが、
なんで輝夜の【新難題 「金閣寺の一枚天井」】にだけ『済』がないんだ?」
「……えーと……輝夜さんのあのスペルはあまりに難易度が高すぎて、実はまだ完成してないのよ……。」
「なんだ、レベル8という明記してる割には限界来るのが早いんじゃないの?」
「霊夢!! あなたは一度、あの気合い避け祭りを体験するべきだわ……!!」
思わず当時のことを思い出し、興奮してしまった。
実を言うと、文花帖更新にやる気が出ないのはこれが原因なのだ。
(ラスト2枚が鬼門すぎるのよねぇ……。)
「私のマスタースパークならどんな高密度弾幕でも無駄無駄だぜ! 」
「だからボムは使えないんだってば……。弾幕撮影するのに消しちゃったら本末転倒じゃない!」
「確かに。……魔理沙……あんたってば、なんでもパワーで解決できると思ったら大間違いよ?」
「私は文じゃないから問題ないぜ。……というか、私がカメラ持って弾幕撮影してたらシュールだろ?」
私と霊夢は、カメラ持って必死に弾幕と妖怪を撮影する魔理沙を想像し、そのシュールさに思わず笑い出してしまった。
「アッハハハハ! た、確かにシュールね……!
やっぱりなんだかんだいって、そういう姿は文が一番似合ってるかもね。」
「ハァー……。笑いすぎてお腹がよじれそう……プククク。」
「言いだしたのは私だが、そこまで笑われるとなんだか腹立つな……。いい加減笑うのやめろぉーー!!」
その後も私はいくつかのシーンについて語り続けた。
しかし楽しい時間というのは過ぎるのが早いものだ。
ふと空を見ると、もう太陽が沈みきる寸前であることに気づく。
「あやや、もうこんな時間。……楽しい一時というのは終わるのが早いものね。」
「あんたの言う暇つぶしにはなったから良かったじゃない。」
「ええ。……ところでどうだった? 私の『文花帖』の話。」
「まぁまぁだったぜ。予想に反してそれなりに楽しめたって感じだな。」
「これで私の苦労が少しは理解できたでしょ? 新聞を作るというのは大変なことなのよ!」
「まぁね。あんたもやっぱり変人だってことはよく分かったわ。」
「少しでも理解してくれたなら光栄ね。……暗くなってきたし、今日はこの辺でおいとまさせてもらうわ。それじゃね。」
二人に別れの挨拶をして、再び私は空へと飛翔する。暗くなる前に帰宅しないと……。
それにしても……あの様子だと、二人とも私を見直したってことはなさそうね……。
今となってはどうでもよくなったけど、代わりに今日は久々に良い羽休めができたわ。
文花帖の話をすることで、諦めかけていた未完成のシーンの撮影に対する気持ちが再燃してきたし……。
久々に燃えてきましたよ! 幻想のブン屋の名に懸けて必ずや撮影を全て終わらせて、最高の記事にしてみせます!!
そう自分に気合いを入れつつ、再び私は幻想の空を駆け抜けたのであった。
<完>