このお話は『もしも』の設定を使っています。ご注意下さい。
紅に染まる世界。それは例えるなら小さな紛れ無き水溜りに延々と流れ続けてゆく甘美な血液。
陰鬱とした紅蓮の霧が大地を包む。その浸食は留まるところを知らず、幻想郷の頭上に燦然と輝く傲慢な太陽でさえも遮ってしまった。
喜ぶがいい、陰に宵闇に這い回る妖人達よ。これは我ら闇夜の覇者の大いなる饗宴。
恐れ平伏すがいい、陽に日輪に縋る人間達よ。これらは我ら暗影の僕の高貴なる反攻。
窓の外に映る紅の世界に、私は笑みを零さずにはいられない。昂ぶる感情が抑えられない。
「お嬢様、随分と機嫌がよろしいご様子で」
「ククッ…機嫌がよろしいかどうか、か。そんなことは聞くまでもないだろう、咲夜。
私は今、この胸から湧き出る感情を表現する言葉すら思いつかないよ」
「それは重畳。結構なことでございますわ」
窓から館周辺の景色を眺めている私に、従者である咲夜がそんな愚問を口にする。
この紅魔館の主である私、レミリア・スカーレットは彼女の言葉を下らない質問だとばかりに一蹴し、視線を窓の外に向け直す。
この不可思議な紅霧が原因で、間違いなく幻想郷は大パニックに陥っていることだろう。
人々の生きていくためには不可欠となる太陽の光は遮られ、日夜問わず生きとし生ける全ての者に纏わりつく血のように赤い霧。
頭に思い浮かぶは不安に怯える弱き人間共の姿。彼らは体も心も脆弱過ぎる。このような異変が二日、三日と続けば精神が持つまい。
外の光景を見ては、そんな幻想郷の変わり果てた姿を頭に描かずにはいられない。
そんな私に、咲夜は今の気分を訊ねてくるのだ。本当、馬鹿らしいまでの愚問だ。
この紅に染まる今の世界を見て、機嫌がいいかどうかだと? 本当に下らない。そんなもの、答えは決まっているではないか。
(私の今の気分なんて最低以外の何ものでもないに決まってるじゃない!もしかして分かった上で言ってるのかこの馬鹿メイド!)
そう、私の気分は本当に最悪だった。
あまりに最低過ぎて、もう本当、虚勢で笑うしか出来ないくらいに。
私はレミリア。レミリア・スカーレット。
五百と幾許を生きた吸血鬼にして、妖怪や妖精といった人外のモノが棲む紅魔館の当主を務めている。
多くの従者を従え、この館の主として君臨し、スカーレット・デビルと人々に畏怖される永遠の紅い月。
そんなカリスマと皆に謳われる私だが、実は私には誰にも話せない一つの秘密がある。
それは決して誰にも聞かせることなど出来はしない。腹心である咲夜にも、親友であるパチェにも、
ましてや実の妹であるフランにだって話すことが出来ないたった一つの秘密。
それはいたって簡単なこと。だけど、私はその秘密を可能ならば墓まで持っていこうと思う。では、今は誰も聞いていないので少しだけその秘密を語ろうと思う。
紅魔館の主として、畏怖の対象として恐れ敬われているこの私、レミリア・スカーレット。
――実は私、この館の誰よりも弱かったりする。
言葉だけを聞けば、さてはて、それは一体どういう意味だと思い悩む人もいるかもしれない。
しかし安心してほしい。私が語った言葉の意味は、そのままストレートに、愚直なまでに真っ直ぐに受け取って貰って構わない。
そう、私は弱いのだ。妖怪としての実力どころか、並の人間にだってケンカに勝てはしないだろう。
恐らくデコピン一発で泣いてしまう自信がある。妖精相手でも勝算を見出せはしない。それが私の大事な大事な秘密だ。
吸血鬼なのに何故、と考える人もいるかもしれない。しかし、そんなことは私が知りたいくらいだ。むしろ教えて下さいお願いしますと土下座しても良い。
私は父も母も純血の吸血鬼、それも父に至ってはブラド・ツェペシュという超スーパーデラックスサラブレッドの血統を
受け継いだエリートもエリート、吸血鬼の中の吸血鬼、いわゆる吸血鬼120パーセントのもとに生まれている。
今は亡き父は、たった一人で人妖の屍の山を築きあげ、その上で優雅に血のワインを嗜んでいた、なんて逸話の残るほど強い吸血鬼だったし、
今は亡き母も、彼女の命を奪わんと教会から派遣された聖騎士団を三部隊ほど壊滅させたとの噂である。
そんな素晴らし過ぎる両親の長女として生まれた私なのだが、出来ることと言ったら、まあ、精々空を飛べるくらい。終わり。
…本当に、冗談じゃなくて。しかも五分も飛んだら疲労で次の日は全身が筋肉痛になる有様。いや、本当に冗談じゃなくて。
鋼鉄をも布切れのように引き千切ると恐れられる吸血鬼の力。でも私は自分の部屋にある椅子より重い物なんて持てやしない。
一夜にして世界中を駆けると謳われる吸血鬼の翼。でも私は以前全速力で空を飛んでいたとき、スズメにも簡単に追い抜かれた。
ここまで言うと流石に理解してくれただろうとは思うが、一応念押しとしてもう一度だけ言っておく。
――私は弱い。吸血鬼なのに、本当に誰よりもよわっちいのだ。
そんな私が何故紅魔館の主などを務めているのか不思議な人もいるだろう。
それはまあ、話せば長くなるのだけれど、まず簡単に言うと理由は二つ。
一つは、この館の前の主であった父の長女が私だから。もう一つは、この私が誰よりも弱いという秘密を
当然皆が知らないから。…うん、ごめんなさい。全然長くもなんともなかったわね。
そういう訳で、母が死に、父が死んだと同時に、気づけば私がそのまま紅魔館の主に据えられてしまったという訳だ。
正直ふざけるなと思った。だって私には、紅魔館の主になどなるつもりは微塵もなかった。
紅魔館の主なんて物騒なものには血気盛んな妹のフランがなれば良いと思っていたし(今も思っているが)、
もうご存じの通り、自分でも哀れに思うくらい脆弱な私にそんなものは務まる訳がないからだ。
そして、何よりも大きな理由なのだけれど、このレミリア・スカーレットには夢がある。それは紅魔館なんて物騒な場所を離れ、小さなケーキ屋さんを開くことだ。
木陰の多い森の中に一軒家を建て、そこで私は自分のお店を開くことが夢だった。
毎日せっせとケーキを作り、お客さんに美味しいと言ってもらい、充実しつつも穏やかな時を過ごすのだ。
そして何時の日か素敵な人と巡り会い、恋に落ち、子を生し、幸せな家庭を作る。
そんな私の些細な夢を、こともあろうか実の父は見事にブレイクしてくれやがった。死ぬ間際に私とフラン、従者達を
呼びつけてたった一言、『次の主はレミリアに譲る』。その時は本当、死ねと思った。いや、その後すぐに死んだんだけど。
そういう訳で、私はこんな脆弱な身でありながら紅魔館の主として過ごすことになったのだけれど、
運が良いのか悪いのか、この数十年間、私は命の危険というものに冒されたことはない。
紅魔館の主となった時点で、正直今世の命は諦めていたのだが、私は一度たりとも誰かと命のやり取りをすることはなかった。
私が主であることに不満を持つ部下が、いつか必ず私の命を狙ってくる…そんな事を主になったばかりの頃はよく考えていたのだが、期待を裏切り、一度たりとて無かった。
どうやら部下達は私=前主の娘=弱い訳がないと変に勘違いをしてくれているらしい。本当、部下が馬鹿かつ野心のない奴ばかりで助かっている。
次に外から私の命を狙ってくる輩がいるのでは…そんな心配も、あっけなく裏切られることになる。
何故ならウチの門番を務めている妖怪がとても優秀で、彼女は一度もそんな不埒な輩を門の中に通したことがない。
まあ、そんなこんなで、何とが紅魔館の主としてえっさほいさと奇跡的に寿命を永らえてきた私だが、
そんな私の幸運の星、ラッキースターもとうとう終焉を迎える時がきたらしい。それが最初、冒頭の話に戻るという訳だ。
私達が居る世界、幻想郷を覆う紅の霧。これが私の命に終止符を打つ最低最悪の根源なのである。
先に言っておこう。この霧を生じさせたのは勿論私なんかではない。というか、こんな凄い事出来ない。
私に出来るのは、前述した通り空を飛ぶだけなのだ。魔法弾の一つも放てやしない私が、こんな幻想郷中を覆い尽くすような大魔術など行使出来る訳がない。
では一体誰がこんなことをしたのか。それは現在この館の地下室でぐっすりと気持ちよく眠りこけて下さっているであろう我が妹、フランドール・スカーレットである。
先に言っておくけれど、フランは私とは違い、純粋な紛うことなき吸血鬼だ。
力は大木を薙ぎ倒す程に強く、空を駆ける速度は天狗にも劣らない。体在する魔力は底を知ることなく、その魔術は万物をも焼きつくす。
私とフランは吸血鬼として比較するならスッポンと月、鶏と大鷲、メダカとシロナガスクジラ。
自分で言ってて悲しくなるが、本当にそれくらいの差があるのだから仕方がない。
まあ、そんな吸血鬼として優秀な馬鹿妹が何をトチ狂ったのか、紅の霧を幻想郷中にこれでもかと発生させたのである。
その霧は紅魔館内部から周辺へ、湖を越えて人里へ、そして気付けば幻想郷の全ての大地を覆い尽くしたのである。
そう、これはフランの起こした異変。私は何も関係無い。無罪。無実。ノータッチなのだ。
それなのに何故か従者達は口を揃えて『お嬢様の仕業ですね。流石です、お嬢様』など言ってくるのだ。
私がそれを否定したところで誰も信じようとしない。あまりに頭にきたので、フランのところに直接出向いて問い質しても
馬鹿妹の口から出るのは『お姉さまそんなことしたんだ!すごーい!尊敬しちゃうなー』などという気持ちが微塵も籠ってない棒読み台詞。
それを見て私は確信したわ。こいつはこの紅霧を私のせいにしたがってる、ってね。
何を言ってもフランは私とまともに取り合わず、かといって霧を引っ込めることもないし。数時間ほど頑張って止めるよう
言ったのだけど、聞く耳なんか持ちやしない。で、分かったのよ。コイツは私がどういう行動に出るか楽しんでるんだと。
そうなるとほら、私にはどうしようもないじゃない。だって私、メチャクチャ弱いし。フラン、メチャクチャ強いし。
口論から喧嘩に発展して、掴み合いなんかになったりしたら、私死ぬし。冗談無しに死ぬし。命終わっちゃうし。
仕方ないから地下から出てきて、どうしようもないから、部下達にふんぞり返ってやったわ。『この紅霧騒ぎは私がやった!』ってね。
まあ、その時は『妹のしでかした悪戯だもの、姉として少しくらいは庇ってあげないとね』と思ったのよ。思っちゃったのよ。
どうせフランの奴も数日くらいで飽きるだろうしって甘い考えも少なからずあったわ。あの娘飽きっぽいところあるしって。
もうね、その時の私を殴りたい。殴り殺したい。少しでも思っちゃった私を撲殺したい。これでもかって。これでもかって。
…そう、それはフランの馬鹿が紅霧を出して二日目の夜だったわ。
私が寝室でベッドにのんびりと横になって読書を楽しんでいたとき、いきなりベッドの横に変な空間の割れ目みたいなのが出来たのよ。
何事かと思ったら、そこから出てきたのよ。お化け?違う違う、もっとヤバいシロモノよ。それはもう銀河ギリギリぶっちぎりに危険な奴よ。
そこから出てきたのは金髪の綺麗な女でね。そいつ、ハッキリ言って常識外、規格外なくらいの妖力を有してたのよ。
美鈴?パチェ?咲夜?フラン?そんなレベルじゃないわ。あれは存在してるだけで化け物だって分かるレベルだったのよ。
それで、その空間の割れ目から出てきた女が私に向って笑いながらこう言うのよ。
『こんばんは、吸血鬼のお嬢さん。お休みの最中にごめんなさいね。
貴女に少しお話があるのだけれど…お時間のほうは良いかしら?』
もうね、何というか、ふざけるなと。お時間の方は良いかしら、とか言いながら有無を言わせるつもりないだろって。
そこで私が『だが断る』なんて言ったものなら、その瞬間、私の首は胴体とサヨナラしてたわね。グッバイマイボディ!みたいな。
もう本当、その女の笑顔が怖くて怖くて。もう怖いわ泣きたいわ逃げたいわ布団の中にもぐって現実逃避したいわ。
でもほら、一応私って紅魔館の主じゃない?本当に一応なんだけど、頭に(嘘)ってつけてもいいけど、最弱だけど主じゃない?
だから、一応形だけでも頑張ってみようと思って、その女を睨みながら言い返してやったのよ。身体は滅茶苦茶震えてたけど。
『こんな素敵な夜に無粋な女ね。レディの部屋に入るときの礼儀がまるでなっていない。
それではダンスパートナーを探す時にさぞや苦労するだろうな』
『あら?貴女は私のような女は嫌い?
たった一人の女…そうね、この紅霧というロマンチックな演出を幻想郷に描いて下さった貴女を探す為、
寝る間も惜しんで一心不乱にこの世界を探し回った一途な女は』
もうね、キモイ。人の軽口を三倍にして返すこの女がキモイ。キモイ以上に怖い。超怖い。金髪の女怖い。
でね、その女の口ぶりからして、どうも幻想郷を騒がしている紅霧を出してる奴を探していたと。そしてそれが私だと。
はっ!とんだ的外れだわ!味噌スープで顔洗って出直してこいや!…なーんて、そう言いたかったんだけど、
口にした瞬間絶対に私の首が胴体と(以下略)。だから私はビクビクしながらも必死に言葉を続けたのよ。
『嫌いだね。加えて気に食わない。
お前の存在は私の部屋の空気を澱ませる。愛しき紅月に群雲が掛っている内に疾く消えうせるがいい』
ちなみに今の言葉を翻訳すると『ごめんなさい。私はゴミです。クズです。私が悪かったので帰って下さると嬉しいです』よ。
素直に言葉に出来ないのはあれよ。私がツンデレだからよ。今はツンツンな部分が強いけど、根気強くアタックすれば…なんて下らないこと考えてた訳よ。そうしたら、
『フフッ、吸血鬼風情がよく吠える。
お前達がこの幻想郷に訪れたとき、二度と私に牙を立てられないよう、念入りに躾けたつもりだったのだけれど』
なんて、訳の分からないことを言い出した訳。本当、何のことか私はサッパリだったわね。
幻想郷を訪れたとき?それって一体何十年前の話よ。幻想郷に来たのは、お父様達が勝手にやったことだし、そんな昔の話をされても正直困る。
そもそも、その頃の私はずっと地下に閉じ込められてたもの。ああ、理由?ちょっとした悪性の流行病に罹っちゃってね。
まあ流行病っていうか、インフルエンザ。吸血鬼がインフルエンザて。冗談みたいだけど、勿論それは冗談じゃない。
私はそのとき軽く五回ほど三途の川を渡りかけたわ。相当な悪性だったのよ。
それで、私のインフルエンザが他の奴らに感染しないようにって隔離されてた訳。あのときは寂しかったわね。話し相手がぬいぐるみだけだったもの。
その後、流行病が治って、外に出てみたら館がボロボロになってたり、部下達が随分減ってたり、
お父様が死にかけたりしてたけど…まあ、今この話は関係無いわね。そんな訳で目の前の女の言ってることがサッパリ理解出来なかった訳よ。
だから私考えた。必死に考えて、ようやく答えにたどり着いたの。この目の前の女は、妖力は強いけど頭がとても可哀そうな人なんだって。
多分妄想癖っていうのかしら。そういう持病を抱え込んでるのよ。そう思うと、何だか優しい気持ちになれてね。そうしたら、想像が少し膨らんじゃって。
きっと目の前の女は、休日とかは一人壁に向かって話しかけてるわねとか、
きっと深夜ラジオを聴くのが趣味で、リスナーのネタ募集みたいなコーナーの為に毎日葉書を投函してたりするのね、とか。
そんなことばかり考えてたら、思わず口元が緩んじゃったのよ。だって仕方ないじゃない?目の前の女、凄く可愛い可哀そう(新語)だったんだもん。
そうしたら、目の前の女が訝しげな表情を浮かべて『何が面白いのかしら?』って訊くのよ。
いや、面白いでしょ。目の前で強そうにしてる女が趣味は壁トークと深夜ラジオって。だからつい口を滑らせちゃって。
『愉快、実に愉快よ。こんな愉快なことは久しぶりだもの。
お前もなかなかどうして役者ね。その完全なまでの仮面が滑稽過ぎて笑いが抑えられない』
いや、だって本当、こんな完璧超人美女みたいな女が、休日壁に向かって『ねえ私のことどう思う?嫌い?好き?』とか
独り言話してるのを想像したらねえ?そんな強烈なギャップが可笑しくて、我慢出来る訳ないじゃない。
私がククッと笑みを零しているのを、その女はじっと眺めていたかと思うと、何故か急にその女も笑い出したのよ。
いや、本当にキモイ。一人勝手に笑ってた私が言うのもなんだけど、唐突に笑いだしたその女は本気でキモかったわ。
だって、笑い方が『フフ…フフフッ…アハハハハッ』だったのよ?何その悪の三段笑い。今時誰もそんな笑い方しないわよ。
そして笑い終えたかと思うと、私にむかって『今代の吸血鬼は随分と面白いわ』なんて言い出すのよ。
そりゃ面白いでしょうよ。一体この世界の何処に力は無い、魔法も使えない、人間に負ける吸血鬼が居るって言うのよ。
…って、ここに居るわね。ああど畜生、青い空なんか嫌いだわ。いや、吸血鬼なんだから当たり前なんだけど。
それで、ムスッとしてる私に、その女は笑みを零しながらまた訳の分からないことを言い出した訳よ。
『そうね、私も下らない仮面は脱ぎ棄てるとしましょうか。
今日来たのは先ほども言った通り、貴女が起こしている紅霧についてのお話』
『何だ?まさか紅霧を今すぐ止めろとでも言うつもりか?』
そんなこと私に言わないでよと言いたい。というか私じゃなくてフランに直接言えよ畜生と言いたい。
だって何度も言うけれど、紅霧の犯人は私じゃなくて、あのお馬鹿でチッチキチーな妹であって。私は何の関係も無いじゃない。
と、なると、今私がこうして目の前の恐ろしく(妖力が高い)可哀そう(頭が)な金髪女に絡まれてるのは全部アイツが原因じゃない。
シット!どうしてお姉様がアンタの気まぐれの代償を払わないといけないのよ。私の大切な読書の時間を返せコノヤロウ。
だからまあ、さりげなく、遠回しに迷惑なら迷惑と言ってくれって感じで訊いたのよ。もしコイツが『紅霧を止めなさい』って言えば
私は一秒でフランを突き出して『美しいブロンドお姉様、犯人はこの馬鹿です』って証言するつもりだったもの。
だって私、何も関係無いし。ほら、私まだ死にたくないし。まだ500年しか生きてない、好きな人の一人も作ってないのに死ねますかコノヤロウ。
え?何?さっきお前『妹のしでかした悪戯は姉が庇ってあげないと』って言ったじゃないかって?そんなコトはどうでもよかろうなのよ。
フランは私と違って強い娘だもの。きっとこのお姉さんと殺し合ってもしぶとく生き残れる筈よ。私は指先一つでダウンされるでしょうけど。
そういう訳で、この女を地下に案内する気満々だったんだけど、やっぱりこの女は頭が可哀そうな人らしく、
私の質問に対してネジが五、六本は平気で飛んでるんじゃないかって返事をくれやがったのよ。
『最初はそのつもりだったのだけれど…フフッ、少しばかり気が変わったわ。
ねえ、貴女。この幻想郷中を覆う紅霧、こんなことをしでかして下さった理由を教えて頂けるかしら?
この霧は人妖の気分こそ害させるものの、別段命を奪ったりするものではない。
確かに長期に渡れば、作物や気候に甚大なダメージを残すでしょうけれど…ね」
理由?紅霧を出した理由?だからそんなのは全部フランに訊けって言ってんでしょうが。私が知る訳ないじゃない。
そう口にしようと思ったんだけど、フランの奴、結局私に理由を教えてくれなかったのよね。
姉である私が教えてもらえないのに、初対面であるこの女をフランのところに連れていったところで、口を割るかと言えばNOだろう。
でもまあ、私なりにあの娘の考えを推測するならば…
『理由などありはしないだろうよ。敢えて理由をつけるなら、退屈だったから程度だろうね』
『あらあらまあまあ、それはそれは。
成程、この紅霧は貴女にとって唯の暇潰し以外の何モノでもないということね。フフッ』
いや私じゃなくてフランなんだけどね。一応あの娘の気持ち(おそらく当たってる)を代弁してあげただけなんだけどね。
というかさっきからこの人私の言動を見て笑い過ぎなんだけど。何かしら、もしかして本当に(頭が)ヤバい人なんじゃないかしら。
さっきから人を観察するようなねちっこい視線を投げかけてくるし…もしかしてこの女はレズビアンでペドフィリアなんて言うんじゃないでしょうね。
もしそうであったら私は有無を言わさずフランを差し出して自分の貞操を守る為に逃げる。紅魔館?そんなものは滅ぼされてしまえ。
身の危険を感じ始めた私に、ペド女(勝手に決定)は、言うに事欠いてトンデモナイことを言い始めたの。
『面白い、実に貴女は面白いわね。良いわ吸血鬼、私は貴女に興味を抱いた。
それに、そうね…折角貴女が用意してくれた舞台だもの。私も一枚ばかりその喜劇に噛ませて貰うとしましょう』
このペド女、言うに事欠いて私に興味を持ったなんて言い出しやがった。
ちょっと待て。いや本当に待って下さい。勘弁して下さい。何で私?どうして私?私が一体何をしたと言うの?
こんな化物女にターゲットロックオンされたりしたら、私の純潔なんて三秒持たずにグッデイグッバイマイフレンズじゃない。
いかん。いかんですよコレは。私は必死に頭をフル回転させながら、何とか可哀そう系ペド女の興味を逸らそうと画策する。
そうよ、大体コイツのターゲットは私じゃなくてフランじゃない。幸い(?)なことに、フランの容姿、外見は私とそっくり。
しかも私より小悪魔っぽいから、ペド女には垂涎ものだろう。さようならフラン、私の為にペド女の雌奴隷になりなさい。
貴女がいなくても大丈夫。私は一人、森の小さなケーキ屋さんとして第二の人生を歩み始めるから。
『興味を示す対象が違うだろう?私は所詮この物語の脇役に過ぎない。お前が真に興味を抱く少女の演じる、な』
『…驚いた。まさかそこまで見抜かれていたなんてね。
怖いわね…吸血鬼としての傲岸さも驕りも見えず、舞台の裏で絡み合う運命の糸を容易く見抜くその両眼』
怖いのはアンタの方よ。いきなり夜中にズカズカ人の部屋に入ってきて、いつの間にやら貞操のピンチってぶっちゃけ有得ない。
とにかくまあ、どうやら目の前の女の興味はフランの方に向けることが出来たらしい。あとはフランを梱包して
女に素敵な楽園の雌奴隷として差し出すだけだ。さようなら、フラン。聞こえていたら己の我儘さを呪うと良いわ。
よし、謝罪終わり。あとやるべきことは、フランの受け渡しの日付を聞いておかないとね。
大切な妹(生贄)にとって一生に一度の晴れ舞台だもの。姉として、妹の門出を祝ってあげないといけないわ。
『具体的な時は?どうせ近いうちにやってくるのだろう?』
『明日の夜には動くでしょうね。その時は適当に相手をしてあげて頂戴な』
嫌。絶対嫌。私が相手したくないからフランを差し出すんでしょうが。
それにしても明日の夜とは随分と性急ね。そんなにフランと早くベッドでにゃんにゃんしたいのかしら。おお、キモイキモイ。
まあ、別に私が犠牲になるわけじゃないし、別に良いんだけどね。それじゃ、フランを袋詰めにしたり色々明日は忙しそうね。
『ならば準備をしないとな。熱烈な歓迎の用意は必要かしら?』
『貴女達にとっては遊ぶ程度で構わないわ。ご存じの通り、まだ先代から代替わりしたばかりで経験が浅いのよ。
才能は過去の巫女の誰よりもあるのだけれど…ね。貴女の引き起こした紅霧事件が初めて臨む異変なのよ、あの娘は』
はて、何だか訳の分からない単語が飛び出してきた。巫女に異変とは何のことかしら。
あれかしら、フランに巫女服を着せてにゃんにゃんしたいって事かしら。…うわ、流石の私も正直引くわ。
まあでも、愛の形は千差万別。それで二人が幸せなら私は祝ってやるべきなんでしょうね。私は勘弁だけど。
『これは霊夢にとって最高の練習舞台。あの娘はいずれ、この幻想郷で様々な異変を解決してゆかねばならない身。
そういう意味では、貴女が紅霧を起こしてくれたのは本当に僥倖だったわ。
命さえ奪わなければ、貴女は霊夢を相手に思う存分暇潰しを楽しんで貰えば良い。霊夢が貴女に勝ったとき、その時に紅霧を止めて貰えれば、ね』
…あれかな。久しぶりに壁じゃない有機生命体と会話が出来たから、舞い上がって妄想話垂れ流ししてるのかしら。
正直、目の前の女が一体何を話しているのかサッパリ分からなかったけれど、まあ折角テンションが上がってるところに
水を差すのも悪いしね。私も水差し野郎って言われたくないし。どうやら私は完全にターゲットから外れてくれたみたいだし。
というかそろそろいい加減帰ってほしい。私は夜行性だから別に眠たい訳じゃないんだけど、かといっていつまでも
頭の不憫な女の妄想話に付き合うほどお人好しじゃない。本当、これだから無駄に強いキモイ奴って性質が悪いのよね。
私も幻想郷共通言語を飛び越えて何処か未開の星の言語でも使っているかのような妄想話を
耳にするより、さっきまで読んでた本、シルバーニアンファミリーの続きが読みたいのよ。一体何処まで読んだっけ?
コウ・ウサギ少尉がラビッタンローズに着いたところだったかしら。ああもう、続きが気になって気になって仕方ないじゃない。
そんな私の空気をやっっっっっっと(強調)読んでくれたのか、目の前のペド女は満足そうな表情を浮かべて別れを切り出したのよ。
『さて…名残惜しいのだけど、そろそろ私は失礼するわ。
本当なら、貴女と酒でも酌み交わしながら共に一晩語り明かしたいところだけどね』
断固拒否。そういうのはフランと好きなだけやって頂戴。フランを手に入れたというのに、
私にまだ食指を伸ばそうとするなんてどれだけお盛んなのよ。もしかしてあれ?姉妹丼に興味のあるお年頃?本当、これだから変態って嫌なのよ。
そんな気持ちを抑えていると、ペド女は来たときのように空間に亀裂を生じさせその中へ消えていったわ。
そして、その去り際に一言。『明日この館を訪れる博麗の巫女をよろしくね』とだけ言い残して。
それを聞いて私は理解したわ。来るのは他ならぬ貴女でしょうに、それをわざわざ巫女って言い直すとは…それはつまり、巫女服を着てペド女が来るってことだと。
フランを迎えに来るのに自分まで巫女服を着てくるとかどんだけーって。自分もコスプレってどんだけーって。
本当、変態って始末に負えないわと思いながら、私は読みかけだった本に手を伸ばした訳。あー、やっぱウサギ少尉は格好良いなー。
――で、私があのペド変態妄想頭可哀そう女…ごめんなさい、それ全部、完全に私の勘違いでした。
金髪女の言っていた言葉の意味を理解したのが、次の日の朝。
室内には、本を読み耽っているパチェと、やることもなくボーっとして椅子に座ってた私。そして、私の後ろに控えているメイド長の咲夜。
ほら、特に会話も無かったからさ、話題提起のつもりで昨日の女の事を話そうと思ったのよ。変態女が来たって。
大体自分で巫女って。あの純洋風な容貌で巫女って。笑えるじゃない。だから私は皮肉交じりで、昨日あの女が言ってた事を二人の前で言ったのよ。
『今夜、この紅魔館に博麗の巫女が来るわ』
そしてそのペド巫女はフランをテイクアウトするんですって、プフー!…って感じで続けようとしたんだけど、続けられなかった。
だって、私が博麗の巫女って言葉を口にした瞬間、パチェと咲夜が凄い目で私を見つめてきたんだもん。正直怖かった。
そして二人で『やっぱり当然来るわよね』とか『ええ、これだけ幻想郷中を騒がせたのですから、動いて当然でしょう』とか
ぼそぼそと小声で話してる訳。何?あの変態ペド女ってそんなに有名なの?ってその時は思ってたのよ。
で、二人の話を横で興味無い振りをしながら耳を傾けてると、それはまあ、とんでもない事実を知ってしまったというか。
何でも博麗の巫女というのは、この幻想郷で異変が起こった際に、それを解決することを生業としている人間を言うらしい。
そして、解決の為ならば、どんなに強い妖怪が相手であってもボッコボコにしてきたとか。その話を聞いて、私は思ったね。何その反則超人って。
人間が妖怪をフルボッコって世の中を舐めてるとしか思えないわ。この世の中はあまりにも不公平過ぎる。
こちとら吸血鬼なのに、妖精の一匹にも勝てやしないというのに。五分空を飛んだだけで全身筋肉痛なのに。
話を戻しましょうか。それで、二人の話と昨日の女の話をまとめると、
何でもその妖怪ハンターが今夜、『私を』狙ってくるそうだ。理由は唯一つ、『私が』紅霧なんて迷惑なものを幻想郷中に散布してしまったから。
いやいやいや、ちょっと待ちなさいと。本当に待って下さいと。だからそれは私じゃなくて傍迷惑な馬鹿妹のせいだって。
いや、それ以前にそんな妖怪をぶっ飛ばすような化け物(人間)が私のところに来るですって?冗談じゃない。
こちとら今までずっと紅魔館に引き籠って、奇跡的に生を永らえてきたというのに、
そんな妖怪退治専門家みたいなハンターが私の前にやってきてみなさい。迷わず三秒で成仏する自信があるわよ。
いくらなんでもこれは拙い。拙過ぎる。今までの低レベルな妖怪(私から見れば遥かに超高レベル)の妖怪が
門番にあしらわれてきたのとは訳が違う。言うなれば私の命が危険。危険報知メーターが余裕でレッドゾーン振り切ってる。
つまり、正体は未だに良く分からないけど昨日の女が言ってたことは、
『フランを貰いに今夜会いに来ます』じゃなくて『お前の命を狙って博麗の巫女が今夜来るぞ』って事だった訳。
オー、ジーザス。一体話の何処をどう聞き間違えればこんな擦れ違いが生まれるのかしら。
フランの貞操なんて微塵も関係無いじゃない。誰よペド女の妄想とか勝手なこと言ってた奴は。
そんな訳で、今夜どうにも命の終りが確定したらしい私は、冒頭の通り、笑うしか出来ないといった悲惨な状態に
陥った訳である。丸。ああ、もう本当に笑うしかないわ。駄目だこりゃ、次(来世)逝ってみよう!って感じよね。
そんな乾いた笑いしか出てこない私に、背後に控える咲夜は感嘆の声を含ませながら、
「しかし、流石はお嬢様ですわ。
博麗の巫女が今宵訪れる事を既に察知しているとは、これも運命を操るお力ですか?」
とか、本気なのか冗談なのか理解に苦しむ発言をして下さった。
いや、知ってるも何も、昨日変な女から聞いたこと言っただけだし。運命とか見えないし。操れないし。
というか、今更なんだけど、私の持つ力を紅魔館の住人達は『運命を操る程度の能力』だと思い込んでる。
当然私はそんな力を持ってる訳もなく、これまた小さな誤解がどんどん勝手に膨らんでいっただけなのだけれど。
そうね、原因は確か結構昔の話。紅魔館の大広間で行われたパーティーの席、パチェと酒を飲んでた時に、
パチェが唐突に『貴女って時々ゾクっとするくらい、勘が当たる時があるわよね』なんて言ってきたのよ。
その時は私も酒を飲んでて気分が良くてね。ついつい冗談で『私には運命を読む力があるからね。造作もない事よ』なんて大ホラ吹いちゃって。
まあ、ほら、どうせすぐに『つまらない冗談ね』なんて突っ込みが入るだろうと、期待してたのに、パチェったら
酔っ払いの戯言を真に受けちゃったらしく、『それじゃ、明日はどのような事が起こるのかしら?』なんて私にトスを回してきたのよ。
仕方ないから私も適当な事を言っておけばいいかなって思っちゃって。
つい『そうだな…明日は外に出ない方がいいな。激しい地震が起こるだろうからね』なんて言っちゃった訳よ。
まあ次の日になったら忘れてるか、何も起こらずに『レミィの大嘘つき。期待して損したわ』なんて突っ込みが入るんだろうなって軽い気持ちで思ってた。
そうしたらね、起きちゃったのよ。大地震が。次の日に。それも怪我人を沢山出すくらいの。
瓢箪から駒っていうか、ワインボトルから金銀パールっていうか。しかも性質の悪い事に、そのことをパチェがみんなに言いふらしちゃったみたいで。
それからというもの、紅魔館の連中は私が運命を見ることが出来る、なんて勘違いしちゃった訳。
何度も否定したんだけど、誰も聞く耳を持ちやしない。まあ、そういう理由で私は運命の申し子なんて呼ばれるようになったんだけど…本当、下らない冗談なんか言わなければ良かった。
だからまあ、咲夜も例に漏れず、私の力=運命の方程式を信じてるのよね。本当、みんな馬鹿ばっかりよ。
「愚問よ、咲夜。レミィにとって、そんなことは造作もない事だもの。
どうせレミィにとっては全ての事象がお遊びに過ぎないのだから。この紅霧も博麗の巫女も、ね」
私の気持ちを勝手に代弁するのは親友のパチェ。しかも私の気持ちを見事に微塵も読み取れてらっしゃらない。
お遊びですって?こちとら命掛ってるのよ?生と死の境界に立ってるのよ?デッド・オア・アライブなのよ?
そんな私の何処に遊ぶ余裕があるというのか。ふざけないでよこの紫もやし。まあ、私はパチェ以上にもやしなんだけど。
「そうですね、パチュリー様。万物はお嬢様の掌の上で転がされているだけに過ぎませんでした」
いや、転がすって何を。私が掌の上で転がすことが出来るのは大好きなブラッド・キャンディーくらいだけど。
本当、相も変わらず咲夜の思考回路はネジが吹き飛びまくってる。これは一体何処に修理を頼めば良いのかしら。
…っと、そうね。ここでちょっとこの娘、咲夜について紹介しておきましょう。
彼女の名は十六夜咲夜。この紅魔館のメイド長にして、私の忠実な従者。種族は人間。
もともとこの娘は紅魔館の前に捨てられていたのを、私が拾って育てたの。その理由?それは勿論、私より下のカーストが欲しかったからよ。
だって私、紅魔館の中で最弱じゃない?主なのに。だからふと思ったの。『私より弱い奴がいれば、少しは心が晴れるかも』って。
だから人間である咲夜を拾って、それはもう手塩に粗塩を刷り込んで大切に大切に育てたわ。
この娘が大きくなるまで片時も離れずに、傍で常に『私より弱く育ちなさい、私より弱く育ちなさい』って念じながら。
…まあ、その結果は御覧の通り。見事に私の期待を裏切ってくれやがって、今では人間なのに、
門番やパチェよりも強いなんてふざけた成長を遂げてくれやがったわ。そのうえ、時間を止める力まで持ってるし。ああ妬ましい妬ましい。
そういう訳で私の『十六夜咲夜育成計画』は見事に失敗に終わってしまったの。
しかも始末に悪いのが、私が咲夜にこれでもかって愛情をかけて育ててしまったせいで、咲夜が私に対し、
異常なまでの尊敬の眼差しと呆れるほどの忠誠心を向けてくれるようになってしまったこと。
もう何ていうか、人をまるで創造神か新世界の神か何かと勘違いしてるんじゃないかってくらい、私に良くしてくれるの。
多分、咲夜に『命をくれるかしら』って聞いたら、即座にその場で自分の首を落とすわね。間違いないわ。
まあ、そんな風に慕われるのは悪くないのだけど、最近はちょっと度が過ぎる。咲夜のかけるプレッシャーで胃が痛い。
ちなみに永遠の紅い月とか、スカーレット・デビルとか私の二つ名を考え広めた元凶は咲夜だから。
私は一度も自分から他人にそんな事言ってないから。そんな恥ずかしい二つ名なんて要らないから。中二病か。
つまり何が言いたいかと言うと、咲夜は私に夢見過ぎ。多分私の正体(超最弱)を知れば、ショックのあまり自殺しちゃうかもしれない。
そんな咲夜の夢を大事にする為に、一応頑張って偉そうな主ぶったりしてるんだけど…今回ばかりはちょっと勘弁して下さい。
咲夜の中の私(妄想像)なら、巫女の一匹や二匹簡単に屠るんでしょうけど、
空を飛ぶしか出来ない私に一体何が出来るというのよ。命は一つしかないのよ、大切にさせなさいよ。
「それでレミィ、どうするの。博麗の巫女が今夜この館に来るのなら、迎え撃つ準備をした方が良いんじゃないの?
まあ、レミィが一人で巫女と遊びたいと言うのなら、私は傍観に徹するけれど」
「冗談。咲夜、貴女はお客様をこの館で迎え撃つ準備をなさい」
だから巫女と一人で向かい合ったりしたら、三秒で殺されるっつってんでしょうが、このダラズ。
私は(かなり真剣に)咲夜に指示を出し、咲夜は畏まりましたとばかりに頷き、まるで瞬間移動でもしたかのように室内から消え去った。多分時間を止めて移動したんだろう。
しかし、これで少しは気が紛れる。何しろ紅魔館の連中が総出で相手にするんだもの。
いくら相手が化け物巫女とはいえ、簡単には抜けられないでしょう。そして諦めてくれたらいいなあ、とか思ったり。
そんな私の心の動きに気づいたのか、パチェは私の方を見つめて
「レミィも大変ね。本当は自分一人で迎え撃って遊びたいでしょうに、紅魔館の主という立場がそれを許さない。
咲夜に無理を言って頼んでみたら?まあ、あの娘は貴女が一人で巫女と相対することなんて絶対了承しないでしょうけれど」
楽しそうに笑いながらそんなことを言いやがりました。だから一人で向かい合ったら(以下略)。
むしろ今の私は紅魔館の主という立場を最高に喜んでるわよ。ビバ権力、ビバ王権主義。
これであの馬鹿な真似をしでかしてくれた何処ぞの妹さえいなければ、何の問題も無かったんだけどね。本当、嫌になるわ。
軽く息をつき、私は踵を返して部屋の外へと向かう。不思議そうな表情を浮かべるパチェに、私は告げる。
「一刻ほど眠るわ。何かあったら起こして頂戴」
「分かったわ。それじゃ、おやすみなさい、レミィ」
そうだ、眠ろう。眠って現実逃避をしよう。目が覚めたら、これは夢だったってオチが待ってるかもしれない。
あ、それと相当紹介が遅れたんだけど、さっきまで私と話してたのはパチェ。パチュリー・ノーレッジ。私の親友。
ちなみに彼女と親友になった理由が、私がインフルエンザで寝込んでる横のベッドで、喘息で生死の境を彷徨っていたから。
美しきは弱者同士の友情ね。あとで彼女が相当な力を持つ魔法使いを知って、『私を裏切ったのね』と一人枕を濡らしたのは秘密だけど。
「…げ」
私が自分の部屋、マイルームにある愛しきベッドを目指して館の廊下を歩いていると、
向こうから正直顔を合わせたくもない奴が笑顔を浮かべて近づいてきた。まあ、ぶっちゃけ言うと私の妹ね。
私が命の危険にまで晒されてるその元凶であり、紅霧なんぞを幻想郷に広めて下さった張本人。
もし私に力があったら、多分細切れになるくらいまで引き裂いても物足りないくらいね。本当、何もかもコイツのせいでコイツのせいで。
「御機嫌よう、お姉様。嫌ですわ、私の顔を見るなりそんな不機嫌そうな表情をされて」
「…不機嫌にもなるわ。一体誰のせいでこんなに頭を痛めてると思ってるのよ」
「あら、妹の我儘や勝手をも寛容に受け止めてこそ私の愛するお姉様でしょう」
本当、一度絞め殺してやろうかと思う。いや、殺せないけど。逆に殺されるけど。
言うに事欠いてそんな戯けたことを抜かしやがりますかそうですか。一体どの口が言うんだ、ええコノヤロウ。
「私とて受け止められる我儘にも限度というものがあるの。
本当…面倒事ばかり引き起こしてくれて、一体どうするつもりなのよ」
「これは不思議な事をおっしゃいますのね。この幻想郷中を騒がせている『紅霧』は『お姉様が』引き起こしたのでしょう?
だからこそ巫女はお姉様を目指してこの館にやってくるんだもの」
「ええ、そうね。残念ながら今となっては完全にそうなってしまったわね。…誰かさんのせいで」
私の嫌味にも表情を崩さず、ただただ笑みを湛えるフラン。あーもう!こいつムカつく!!
フランは昔からそうだったわ。何時だってこいつは何かをやらかしては、私に責任を押し付けてくるのだ。
以前に庭に思いっきり魔力を放出して巨大なクレーターを作った時も、私のせいにしてくれたし、
以前に従者を十人ほど滅多殺しにして殺し散らかした時も、私のせいにしてくれたし。
前者のときは、私の気まぐれな行動ってことで処理したし、後者のときはそいつらが私の命を狙っていたと適当にでっち上げて皆に説明した。
もう本当に色々とごめんなさいと謝りたかったわ。特に後者。ごめんなさい、何の罪もない従者達。
貴方達は立派だったわ、スカーレット家の為に、見事に散っていったと言っても過言ではないもの。
まあ他にもフランがやらかして私が隠ぺいしたことは沢山あるんだけど、今回のモノはちょっと拙過ぎる。
いくらなんでも幻想郷中を巻き込むような悪戯を考えるか普通。呆れる私に、フランは相も変わらず人の癇に障るようなことを言ってくれるではないか。
「何にせよ、幻想郷中を巻き込んでしまったんですもの。
お姉様には『紅魔館の主』として、相応の対応をとって頂かないとね」
「よく言う。何だったら紅魔館の主の座を貴女に与えてあげても良いのよ。
私の妹である貴女にならその資格は充分にあると思うのだけれど?」
「御冗談を。私にお姉様の後釜だなんて荷が重過ぎますわ」
私の提案にフランは大層面白そうに愉悦を零して断わりを入れる。ああもう!本当に憎たらしい笑顔ね!
そう、フランは私が主になってから十数年間、ずっとそうだった。私が何とか紅魔館の主の座をフランに
譲ろう(押し付けようの間違い)と、何度もそれとなく話を振るのだが、この娘は少しも頷こうとしない。
本当に興味がないのか、ただ私が主として毎日疲れる姿を楽しんでるだけなのかは分からないが、
一つだけ確かなのは、フランが紅魔館の主になる気は微塵もないということ。
しかもこの娘は何故か紅魔館の地下深くに部屋を作り、そこで寝食を過ごしている。姉である自分が言うのもなんだが、少しばかり変な娘なのだ。
そんな変な生活ばかりしてるから、紅魔館の従者や妖精達には、フランは変わり者というか、
忌避される存在と相成っている。何でも紅魔館の地下には悪魔が棲んでいるだの、主の妹は気が触れている狂気の娘だの。
まあ確かにフランは吸血鬼だから地下に悪魔が棲んでいるって表現には違いないし、
気が触れていると思われても仕方のない行動を(私に対して)やってるけど。もっとエスカレートした話になると、
私ことレミリア・スカーレットが狂気に囚われたフランを地下に幽閉しているなんて話まである。
いやいやいや、そんなこと出来る訳がないだろうと。そもそも私がフランを閉じ込めるなんて出来る訳がないのだ。
だってフラン滅茶苦茶強いし。お父様とお母様の才能全部受け継いでるし。私、空しか飛べないし。
本当、話せば話すほど、どうして私が紅魔館の主なんかをやってるのか理解に苦しむ。それもこれも変な遺言を残した馬鹿親父…もとい、お父様のせいだ。
あのときアイツが…じゃなくてお父様が素直に『紅魔館の次の主はフランドールとする』って言えば良かったのよ。
そうすれば私も、こんな血生臭い館にサヨナラして、一人森の奥でケーキ屋さんを開業できたのに。長子相続制なんて消え去ればいいのよ。
「…とにかく、今回の件は私が片づけておくから。
今夜が終われば、ちゃんと紅霧を止めるのよ。どうせ今止めろと言ってもきかないんでしょうから」
「はあい、分かりました。少々不満は残りますけど」
「残さなくて結構よ。はぁ…それじゃ私は部屋に戻るから」
私は大きく溜息をつき、フランに別れの言葉を切り出してさっさと足を進め始める。
馬鹿妹のせいでとんだ時間をくってしまったわ。私の貴重な睡眠時間が少なくなってしまったじゃない。
時は金よりも重いのよ。タイムイズマネーなのよ。というか早く私に現実逃避をさせて下さいお願いします。
「…咲夜、いるんでしょう?夜の帳が下りる前に、準備してほしいものがあるの。まずは染髪剤と、それから…」
背後からフランが何かボソボソと話してる声が聞こえたけれど無視無視。
私の眠りは何人たりとて邪魔出来はしないのよ。ああ、うん、今のはちょっと大きい事言い過ぎたわ。反省反省。
眠れない。目が冴えてちっとも眠れない。
自分の部屋に戻って、ベッドの上に寝転がったは良いけれど、肝心の睡魔はちっとも襲ってくれやしない。
それもまあ当然よね。だって考え直してもみれば、『貴女今夜凄く強い人に殺されます』って言われて
スヤスヤと心安らかに眠れる訳がないのよ。死の運命が数時間後に待ってるのに、呑気に眠れる訳がないじゃない。
ちなみに、私が先ほどから巫女に殺される、殺されると言っているのは決して大袈裟な表現などではない。
巫女と私が相対せば、私は確実に殺されるだろう。こう言いきれる理由は唯一つ、スペルカードルールが原因。
ちなみにスペルカードルールの説明は省略させて貰うわ。だって私、やったことないから説明なんて出来る訳がないもの。
私視点の説明をすれば、空中でタイマンを張り、これでもかってくらいに魔弾を互いに打ち合うといった殺戮ゲーム。
ちなみに言っておくと、先に言った通り、私は魔弾なんて出せない。ましてやスペルカードなんて持ってないし作れない。
今までは弾幕勝負なんてやる機会がなかったから別に良かったんだけど、今回ばかりは話は別。
恐らくというか、その巫女は十中八九私に弾幕勝負を挑んでくるだろう。でも私に出来るのはやっぱり空を飛ぶことだけ。
しかも移動速度は泣きたいくらいに遅いし、飛行時間も5分飛ぶのが精いっぱい。
そんな私が弾幕勝負なんてゲームに勝てる訳がない。ましてや私はパチェをも凌ぐクイーンオブ貧弱。
魔弾なんて喰らってしまえば間違いなく一撃で昇天確実だ。だからこそ私は声を大にして断言してるのだ。私は今夜死ぬ、と。
いや、でも私も頑張って以前はスペルカードを作ろうとしてた頃もあったのよ。でも出来ないものは出来ない訳で。
名前だけは考えてるんだけどね。『不夜城レッド』とか『全世界ナイトメア』とか、凄く格好良い名前をね。
あ、余談なんだけど、咲夜の名前って私が付けてあげたのよ。十六夜咲夜、良い名前でしょう?
でも本当はあの娘の名前をシュトルテハイム・ラインバッハ三世にしたかったんだけど、パチェが猛反対してね。
それで敢無く次案だった咲夜になった訳。ごめんね咲夜、自分の意見を押し通せなかった意志の弱い私を許して。
話を戻すわね。そんな訳で私はスペルカード勝負なんて出来ない。だから死は確実。
私に出来ることといったら、今夜巫女が私の所に来ないように、紅魔館のみんなに期待することだけ。
もし今夜、私の前に巫女が現れるようなことがあったら…ああ、考えたくもないわ。どうして500年しか生きていない私が、こんな身空で死ななきゃいけないのか。
もう本当、こんなことならさっさと紅魔館を出て行って、ケーキ屋を開くんだった…
「…って、そうよ!!何も私がわざわざ律儀に紅魔館にいる必要なんてないじゃない!!」
ベッドから顔をあげ、絶叫する私。そうよ、どうして気付かなかったのか。
巫女が私の命を狙っていると言うのに、それをどうして馬鹿正直に真正面から受け止めないといけないのか。
己の死刑執行を正座して待つ馬鹿など誰もいないように、私も自身の死神をここで待つ必要などないのだ。
今からでも全然遅くない。紅魔館の主の座なんかさっさと捨てて、新しい人生の第一歩を踏み出すのよ。
きっと今日私が居なくなれば、他の連中は巫女に殺されたんだと勘違いするでしょうし、
主の座だってフランがなる筈。フランには少しばかり迷惑をかけるけれど、そもそも紅霧の原因は他ならぬフランなのだから仕方ない。
そうだ。紅魔館の事は全部フランに押し付けて、私は旅に出よう。この幻想郷の大地で、新たな第一歩を踏み出すのよ。
そして何時の日かケーキ屋さんを開き、大好きな人と幸せな家庭を作るの。そして子供に今度こそシュトルテハイム・ラインバッハ三世と名付けよう。
そうと決まれば善は急げ。私は慌てて自分専用のリュックサックを持ち出し、その中に必要最低限の荷物を詰め込んでゆく。
ちなみにそのリュックは、大きな猫を模っていて、咲夜が私の為に作ってくれたこの世で唯一つのリュックだ。
右足の肉球を押すと猫の鳴き声が聞こえると素敵仕様。本当、咲夜は良い仕事をしてくれるわね。
旅立ちに必要な室内のモノ、とりあえず夜眠るのに一人じゃ寂しいから人形を持っていくでしょう。
そして私の大好きなブラッド・キャンディーに、そうそう、お気に入りのマグカップとカップも必要ね。
これで最低限のモノはOK。あとは食料として血液を…オーマイガット、これ以上荷物が入らないじゃない。
まあ、あれよね。人間の血なんて人里に出ればいくらでも飲めるわよね。献血お願いしますって言えば分けてくれるわよね。
そう自分を言い聞かせ、私はリュックを背負い、日傘を片手に窓の外へ身を投げ出す。
そしてゆっくりと落下。ただでさえ飛行するのは疲れるのに、荷物を背負ってるから余計にツライ。
こんなことなら荷物を少し減らすんだったと思いながら、私は庭に着地する。
ここで『どうして飛行したまま紅魔館の外へ出ていかないんだ?』と思ってる人がいるかもしれないから、答えておくわね。
実は紅魔館の敷地内には結界のような術式が張ってあって、門以外の場所から出入りが出来ないようになっているの。
これはお父様が残した魔術らしいのだけど、まあ、これのおかげで今まで相当助かってきてる。
だって、この魔術があるということは、来客者は絶対に門を通り抜けないと敷地内に入れないと言うこと。それはつまり…
「あれ?お嬢様じゃないですか。こんにちは」
彼女、この紅魔館の門番こと紅美鈴と戦わなければいけないということだからだ。
門の前まで足を進めた私に気づいたのか、美鈴は人懐っこい笑みを浮かべて私に話しかけてきた。
私も笑みを浮かべ、美鈴に言葉を返す。
「こんにちは、という時間帯には少し遅いかもしれないけれど」
「あ、それもそうですね。もうお昼御飯を食べてから随分時間も経っちゃいましたし」
あははと微笑みながら私の下らない揚げ足取りにもちゃんと答えてくれる美鈴。うん、やっぱり良いわねこの娘は。
この娘の名前は紅美鈴。この紅魔館の門番として、お父様が生きていた頃から務めてくれているのだけれど、
私はこの娘のことを結構気に入っていたりする。何ていうか、あんまり強そうじゃないよわっちい空気…もとい、親しみやすい空気を纏っているから。
所謂癒し系ってやつかしら?咲夜も小さい頃はそんな感じだったんだけど、最近は真面目さばかり目がついてすっかり遠い世界の住人になってしまったのよね。
美鈴は堅苦しいところが一切ないから、リラックス出来るのだ。これで私より弱かったら最高だったのだけれど、現実はそんなに甘くはない。いや、強くて助かってるから甘いのかしら。
普段はぽけーっとして居眠りなんか日常茶飯事にやってる美鈴だけど、戦闘となると正直ヤバい。本気で強い。
短期決戦でこそ咲夜には劣るけれど、長期戦や防衛戦においては彼女の右に出る者はいないってくらい強い。
だからこそ、紅魔館の門番なんて物騒な役職を務められるんだろうけど。でも、これに勝てる咲夜って本気でヤバくない?
本当、どこをどう育て間違ってあんな完璧超人になってしまったのかしら。ああ、全く妬ましい妬ましい。
「しかし門番が居眠りをしていないとは珍しい。今日は雨の代わりに槍でも降ってくるのかしら?」
「お、お嬢様~。流石にそれは酷いですよお…いくら私でも、今日という日ばかりは居眠りなんてしないです」
ぷんぷんと怒りながら、美鈴は必死に否定する。本当、からかいやすいわねえこの娘は。
しかし、なんでも今日は警備に力を入れてるらしい。それも普段は絶対居眠りしてる筈の美鈴が。はて、今日は何があったかしら?
「安心して下さい、お嬢様。たとえ博麗の巫女が相手でも、私は一歩足りともこの門を越えさせはしませんから。
たとえ命尽きようとも、お嬢様の為にこの場所を死守してみせます」
真剣な表情で語る美鈴に言葉に、ようやく私は気付く。そうだったわ、巫女が私を殺しに来るんじゃない。
そもそもその為にリュックまで用意して脱走しようとしてたのに、目的を忘れるなんて私ったらうっかり…じゃなくて!
ちょっと美鈴の発言に気にかかることがあった。命を懸けると言ったの、この娘?いやいやいや、それは幾らなんでも大袈裟というか。
「恐らく博麗の巫女は私が今まで闘ってきた妖怪達とは比較にならない強さなのでしょう。
だけど、私は一歩足りとも引きません。例えスペルカードルールを破ったとしても、お嬢様には指一本触れさせませんから」
ああ、美鈴の言葉が痛い。痛すぎるわ。なんていうか、心に突き刺さる。
だって私、今から紅魔館から逃げるもの。美鈴が守ろうとしている先には、実は誰もいないんだもの。私、紅魔館に居ませんよ?
それなのに命を懸けるだなんて…これは拙い。というか、これで美鈴が死んだりしたら、正直寝覚めが悪過ぎる。
なんとかこの娘のやる気というか、考え方を変えさせないと…とりあえず美鈴はアホの子だから適当に言い包めて、と。
「…ねえ門番。お前は何か勘違いをしていないか?」
「勘違い、ですか?」
「ええ、そうよ。私は貴女の主、それは間違いないかしら?」
「は、はいっ!私の主はレミリア・スカーレットお嬢様をおいて他にはいません!」
よし、上手く乗ってきた。私はコホンと咳払いを一つして、言葉を続けて紡いでゆく。
勿論その間神様に祈るのを忘れない。どうか作戦が上手く決まりますように上手く決まりますように、と。
表情は偉そうな自信満々な顔を作って、視線を少し苛立たし気な感じで…よし完璧!
「ならば問うが、私はお前如きに守ってもらわねば、それこそ命を捨ててまで体を張ってもらわねば
巫女にどうこうされてしまうような弱き存在だとでも言うつもりか?お前の主はそんなに下らない存在だったのか?」
「え…?い、いえ…そんな…」
ごめんなさい、されます。それこそ美鈴に命を張ってもらわないとどうこうされる以前に死んじゃいます。そんな主です。
だけど私のペテン…もとい説得に美鈴は動揺し始めている。よし!手応えは充分にある!あとは無理矢理捻じ込むのみ!
「良いか門番、間違えてくれるな。私はお前に命を捨てろとも、この館を死守とも命令した覚えはない。
そんな下らない勝手手前な自己判断で命を落としてみろ。私はお前を地獄の果てまで追いかけ、それこそ死よりも辛い罰を与えてやる」
「お、お嬢様…」
「私がお前に命じたことは唯一つ、来客が紅魔館の門を潜るに相応しいかどうかを見極めることだけ。
少しは考えなさい。その来客が、お前の命を奪ったなどと私が知れば、そいつは私にとって客のままでいられるか?
間違いなく私は頭に血が上り、そいつを八つ裂きにしても飽き足りない程の憎悪の念に駆られるだろう。
自分の大切な所有物を奪われて、笑顔でいられるほど私は優しくはないからな」
よしよしよし、美鈴の目が潤んできてる。美鈴がこういう感情系の説得に弱い事は百も承知なのよ。
これは押し切れる。私はそう確信し、美鈴に背中を向けて、館の方へと足を踏み出し、そして止めの一言。
「――私の楽しみをどうか奪ってくれるなよ、紅美鈴。
この門前でお前と顔を突き合わせ、下らない雑談に興じることも、私の大切な日常なのだから」
決まった。これ以上ないくらい決まった。私の手応えに応えるように背後から美鈴の詰まった声の返事が聞こえる。
きっと美鈴は感動のあまり泣いてるのだろう。嘘の言葉を並べて美鈴を泣かせてしまったことに罪悪感は覚えるが、
美鈴が死ぬよりは何倍もマシだ。咲夜もそうだけど、この館の住人は主への忠誠心がちょっと大き過ぎる。
普通のご主人様だったらそれもありかな、とは思うけど、ご主人様が他ならぬ私だからねえ…
ちょっとくらいは減らしても良いんじゃないかなって私は思う訳よ。プレッシャーとか凄いし。胃が痛いし。
まあ何はともあれ、私は従者の命を一つ救ったのだ。嘘ばかりは並べ立てたが、良い事をしたと思い込めば問題無し。
これで安心して私も紅魔館から出ていけるというものね。ああ、本当に良かった良かった…
「…って、館に戻ってきてどうするのよ馬鹿ああああああ!!!!!」
演出を重んじるあまり、美鈴に別れを告げて、気づけば紅魔館の中にまで戻ってきてしまっていた。
あんな恥ずかしい台詞を並べ立てた手前、流石に今からまた美鈴の前に姿を現すのも…ううう、馬鹿馬鹿、私の馬鹿。
結局私はもう一度美鈴の前に向かう勇気が持てず、すごすごと部屋まで引き返した。私、何の為に門前まで行ったのかしら…
夜の闇が幻想郷を包む時刻。私は半分魂の抜けた状態で、大広間の玉座に腰を下ろしていた。
十九回。それが先ほどまで私が紅魔館から必死で脱走を試み、失敗に終わった回数。
美鈴と別れた後、一度部屋に戻って作戦を練り直し、時間をおいて部屋を出た私を待っていたのは最早妨害としか思えない出会いの数々。
窓の外へ出たところで7回咲夜に、2回妖精メイドに見つかって誤魔化しながら部屋に逃げ帰った。
これは駄目だと思い、廊下から大回りして外に出ようとしたところで、4回咲夜に、3回パチェに、2回フランに見つかって誤魔化しながら部屋に逃げ帰った。
仕方ないので、紅魔館のテラスから外に飛び降りようとしたところ、やっぱり咲夜に見つかった。
そんなこんなで必死に脱走を試みていたら、気づけば外は暗くなり、とうとう巫女が紅魔館にいつ訪れてもおかしくない時間帯になってしまったという訳。
つまるところ、紅魔館のみんなが巫女を追い返してくれない限り、私の人生\(^o^)/終了確定。
私が明日の朝日を拝む為には、みんなの勝利を願うほかにないのだ。いや、朝日拝むと灰になっちゃうけどね。
いやでも待てよと私はふと思う。もしかしたら、巫女が急に都合が悪くなり、今日は来れなくなった、なんて可能性も無くは無い筈だ。
もしそうなれば最高だ。口約束とはいえ、フランには『紅霧を出すのは今日まで』という約束を取り付けた。
あとは、私得意の口先であの小悪魔を上手く丸め込められれば…
「――お嬢様、どうやらとうとう来客がお越しのようですわ。現在、美鈴がその迎撃に当たっています」
はい終了。終わった。私の儚い希望が即座に消えた。
背後に控える咲夜の報告に、私は『そう』とだけ答え、それ以上は言葉を紡がない。いや、本当に自分の死が間近に感じられるようになってきたわ。
何ていうか、死神の鎌を喉元に突き付けられた気分っていうのかしら。本当、全身が恐怖で震えて仕方がない。
そんな私に気づいたのか、咲夜は笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。
「お嬢様、ご自分で巫女のお相手をなさりたいお気持は分かりますが、どうか御自重下さいますよう。
いくらお嬢様がお強いとはいえ、もしもの事がございます。仮にお嬢様のお美しいお顔に傷でもつけられたならば、
私達従者共は全員腹を掻っ捌いてお詫び申し上げねばなりません故」
いやいやいや、誰が化物ハンターなんかを直接相手したいなんて言ったのよ。
私今めっちゃ全身が震えてるじゃない。恐怖に打ち震える生まれたての小鹿じゃない。
それともあれか?咲夜にはこの震えが武者震いに見えるというの?歓喜に打ち震えてるように見えるというの?
頼むから眼科行きなさい眼科。良い病院紹介してあげるから。しかし、腹を掻っ捌いてお詫びって…貴女、一体何に影響受けて育ったのよ、本当。
「…そんなこと、お前に言われずとも理解っているよ。
私のことなど気にかけなくとも良いわ。私がお前に求めるのは結果だけ。
十六夜咲夜、貴女は今宵、私の望む結果を導いてくれるのかしら?」
「愚問ですわ、お嬢様。主の期待に応えられぬ従者など決して従者足りえない。
そんな屑は狗の餌にでもしてしまった方がまだ利用価値があるというもの」
怖っ!咲夜の台詞怖っ!いや、正直そこまでの回答は期待してなかったんだけど…
でも、裏を返せば実に頼りになる台詞よね。今のはつまり、『私は絶対巫女を防いでみせます』ってことだもの。
流石は咲夜、お母さんはこんな時の為に貴女を大事に大事に育ててきたのよ。がんばれ咲夜!いけいけ咲夜!
こんなに強く育ってくれて、母さん嬉しいわ。え、強く育ったことを後悔してただろですって?そんなことはどうでも(以下略)。
まあ、そんな咲夜には悪いけれど、冷静になって考えればこの娘の出番なんてないかもしれないわね。
だって、巫女が相対している相手は、この紅魔館が誇る鉄壁の門番こと紅美鈴だもの。
さっきは寝覚めが悪くなるから無理はするなって言ったけれど、美鈴くらいのレベルなら、手を抜いたところで
人間に勝てる訳がないもの。あー、心配して損したわ。そうよ、美鈴に勝てる人間なんてこの世に存在する訳…
「…お嬢様、私に何か?」
…あー、居たよ。居ましたよ。超身近なところに居ましたよ、美鈴に勝てる人間が。
本当、さっきから咲夜は人の心に冷や水をぶっかけてくれるわね。何か私に恨みでもあるのかしら、ぷんぷん。
まあ咲夜は別格として、並の妖怪とは一線を画してる美鈴だもの。人間の巫女なんてちょちょいのちょいで…
「――お嬢様、どうやら門が突破されたようです」
やられちゃってるよ!ちょちょいのちょいでやられちゃってるじゃない!どういうことよ美鈴!?
確かに無理はするなとは言ったけど、もうちょっと頑張りなさいよ!どうしてそこで諦めるのよ!貴女はやれば出来る娘でしょう!?
あー、拙い。非常に拙い。ちょっとばかり軽く三途の川が見えてきた。船の上で死神が居眠りしてるの見えたもの。
今まで一度足りとも突破されたことのなかった門を抜けられたことで、正直私も段々諦めの境地になってきたわ。
…って、駄目!駄目よレミリア!貴女は一体何を諦めようとしてるのよ。まだ慌てるような時間じゃないわ。
美鈴が抜かれたのは確かだけれど、私には最強のカードが残っているもの。それは美鈴すらも倒してみせる最強メイド。
私は笑い(頑張って必死に作り笑いしました)、咲夜に言葉を投げかける。発破をかけることで、少しでも勝率を高めようと。
「さて、門番が突破された訳だが…咲夜、主の期待に応えるのが従者だったかしら。
私の寵愛を受けし従者か、はたまた唯の狗の餌に過ぎぬのか。貴女の導き出す解答を楽しみにしているわ」
「お任せ下さい。必ずや満点以上の解答を結果で示してみせましょう」
私の嗾けた言葉にも動じず、ただただ柔らかく微笑んでみせる咲夜。
素敵よ咲夜。もし貴女が男だったら母さん正直惚れそう。今の貴女となら一緒にケーキ屋を営んで幸せな家庭を築いても良いわ。
そうよそうよ、考えてもみれば咲夜に勝てる奴なんている訳がないのよ。
だってこの娘、時間止められるのよ?超絶チートな能力者なのよ?しかも相手は人間なのよ?勝てる訳がないじゃない。
咲夜に勝つには、きっと相手も時を止め返したり出来ないと無駄無駄無駄に決まってる。
当然、そんな反則と指を差されて罵倒されてもおかしくない芸当は咲夜以外に出来る筈もなく。
私は笑みを零し、咲夜に見えないように小さく拳を握り締める。そうよ、このジョーカーがある限り、私に敗北の二文字はないのよ。愛してるわ、咲夜。
「…どうやらパチュリー様もやられてしまったようですわね。それではお嬢様、私も客人を出迎えて参ります」
「フフッ、この紅魔館の門を初めて突破した大切な賓客だ。せいぜい丁重に持て成してあげなさい」
私の言葉に頷き、室内から姿を消す咲夜。貴女の実力をみせてあげなさい咲夜!咲夜の『さ』の字は流石の『さ』!
咲夜が向かったとなると、これで私の出番は終了ね。咲夜の事だもの、適当に巫女をボコボコにして
紅魔館の外にでも放り捨てるでしょうし。私のすべきことは、ここで咲夜という私の勇者様の帰りを待つだけ。
そうね、今日は頑張った咲夜の為に私も一肌脱いであげるとしましょう。巫女と戦い終えて疲れ切った咲夜に、
ご褒美として紅茶を用意してあげましょう。言わば頑張った咲夜へのご褒美。どうせならスイーツも用意してあげましょうか。
ふふん、こう見えて私はお菓子作りにはちょっとした自信があるのよ。お菓子作りに定評のあるレミリアとでも呼んで頂戴な。
でもまあ、今から私がお菓子を作り始めると時間が掛っちゃうから、咲夜には缶に残ってるクッキーくらいで我慢してもらいましょう。
そうと決まれば行動は早い方が良いわね。咲夜のことだもの、あまりに圧倒的過ぎて、早々に決着をつけてしまっているかもしれないわ。
そうすると、咲夜を無駄に待たせちゃうことになるし。ああ、そんな気配りも出来る私はなんて素敵なご主人様なのかしら。我ながら最高過ぎる。
私は今、神様という存在を最高に信仰しているわ。私の下に十六夜咲夜という最高の娘を授けてくれた運命の神様にね。
という訳で、私は大広間からキッチンの方へと足を向けて部屋から出て行った。
そういえばさっき、咲夜はパチェがどうこう言ってた気がするけど気のせいよね。図書館で本を読んでるパチェが巫女となんて遭遇する筈がないし。
神様なんか嫌い。死ね。死ね死ね死ね死ね死んでしまえ。私は来世でも生涯無神論者をつき通すことをここに宣言するわ。
紅茶とクッキーをトレイに載せて、大広間に戻ってきた私が目にしたのは、宙に浮かんで周囲をきょろきょろと観察している巫女の姿。
というかね、これだけは訊かせて。咲夜は一体どうしたのよ。何で巫女がこの部屋にいるのよ。咲夜がボッコボコにしたんじゃなかったの。
…分ってる。本当は分かってるのよ。咲夜がこの場に居らず、あの巫女がこの場に居るという事が何を指すのかくらい。
つまるところ、あの巫女は咲夜に勝ち、咲夜はあの巫女に負けたということ。
もうね、勘弁してほしい。何であの咲夜に勝てるのよ。咲夜に勝てる人間がなんで存在するのよ。馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの?
貴女が人間なんて呼称するのもおこがましいわ。今度から妖怪の一種で『ミコ』って種族で登録されなさいよ。
さて、そんな文句を言ってても当然何も解決しない訳で。私の目の前に付きつけられるは確実な死。現実となってきた死の形。
――そうね、逃げましょう。うん、まだ向こうも私がこの紅霧事件の犯人だとは知らない筈(何度も言うけれど本当の犯人はフラン)。
どうせ巫女もこの化物屋敷である紅魔館の主がこんな幼女みたいな形をした奴だなんて知らない筈。
むしろ思いもしない筈。とりあえず、部屋から荷物を取って、如何にも『私は無関係者なただの幼女です』みたいな
感じで堂々と紅魔館から出て行けば案外ばれないんじゃないかしら?仮に巫女に捕まっても、
ただの幼女の振りをして『うー!うー!』なんて言ってれば、気にせず放置してくれるんじゃないかしら。
よし、それでいこう。その作戦に全てを懸けよう。私は生きる。生きてケーキ屋になって愛する人(まだ未定)と添い遂げるのよ。
という訳で一旦部屋に戻る為、トレイを床に置いて回れ右をしようとした刹那――
「――そろそろ姿を見せても良いんじゃない?お嬢さん?」
空に浮いてる巫女がそんな台詞を口にして下さいました。アイヤー、紅魔館の主がお嬢さんって巫女にばれてるネ。
ガッデム!ええい、何処の誰よ自分達の主がお嬢さんだなんて大事なことをばらした馬鹿は!
間違っても美鈴やパチェや咲夜じゃないとは思うけど…ええい、ともかくそいつのせいで作戦が台無しよ!馬鹿!
となると、今更部屋に戻っても無意味。どうせすぐに追いつかれて捕まるわ。
…だったら、取るべき方法はあと一つか。私の最大の武器にして、か弱いこの身をここまで生き延びさせた最高の技術。それは勿論『ハッタリ』よ!!
私はパタパタと空を飛び、巫女の前に現れる…というのに、巫女ったら、登場した私に背中を向けっぱなし。
これはあれかしら。お前如き雑魚な存在に向ける顔はねえって奴かしら。だったらさっさとそのまま帰って欲しい。
というか、そもそも咲夜が頑張ってくれれば、私もこうして命の危険を曝してまで頑張らなくても良かったのに。
ああもう、咲夜の馬鹿。馬鹿馬鹿馬鹿。何が満点以上の解答よ。こんなの赤点以下の留年確定よっ。
「やっぱり人間って使えないわね」
私の声に驚いたのか、巫女は即座に振り返り、私に向って護符を付きつける。いや、怖いって。危ないって。
というか、巫女ったら驚き過ぎ。何よその顔。まるで今私の存在に気付きました的な表情を浮かべちゃってる。
私、こういうワザとらしい態度って大嫌いなのよね。きっとこいつは『え?居たの?存在感薄いから気付かなかった~』
的な苛めを私にやろうとしてるのね。何て陰湿な巫女なのかしら。私みたいな弱いなりにも日々頑張って
日向を歩いてる吸血鬼に向ってなんて酷い事をするのよ。いや、日向を歩くと死んじゃうけどね、私。
「…さっきのメイドは人間だったのか」
巫女の言葉に同情する私。そうよね、誰が見たって咲夜は人間とは思えないわよね。強過ぎるもの、あの娘。
でも、咲夜を倒したコイツが言う科白じゃないと思う。ちょっとイラっとしたので、私は少しばかりからかってやることにした。
「貴女、殺人犯ね」
「一人までなら大量殺人犯じゃないから大丈夫よ」
怖っ。何こいつ、発想が危険思想過ぎるわよ。本当に人間かしら?
しかもニヤニヤと笑いながら言ってるし。というか思うんだけど、何でコイツや咲夜が人間で私が吸血鬼なのよ。
二人に比べたら、私の方が絶対人間らしいと思うわ。一人までなら殺してOKって…駄目だこいつ、早くなんとかしないと…
「で?」
「そうそう、迷惑なの。あんたが」
迷惑って…私の一体何処が迷惑だと言うのだろう。
少なくとも私は一人までなら殺していいなんて非人道的なモラルを持ち合わせてもいないし、実行したこともない。
500年間を私はなんとか生き延びる為に、それこそ引き籠り倦怠ライフを送ってきたのよ。
むしろ私ほど迷惑をかけなかった妖怪なんて他にいないんじゃないかとさえ思うわ。
少なくとも目の前の殺人巫女に比べたら、私は自信を持ってお天道様に顔向け出来るわよ。まあ実際にお天道様に(以下略)。
「短絡ね。しかも理由が分からない」
「とにかく、ここから出ていってくれる?」
出て行けと。人の館に土足で上がり込んで出てきた台詞はここから出て行けと。何このDQN。
ちょっと巫女のお母さん、この娘に一体どんな教育をしてきたのよ。ハッキリ言って私、かつてこれほどまでに最低な人間を見たことがないんだけど。
こんな娘じゃいくら容姿が良くても嫁の貰い手がいないでしょうに。ああもうヤダヤダ。
力がある上に心根が最低なんて私が一番嫌いなタイプだわ。本当、神様って不公平過ぎる。
私がこの巫女くらい力を持っていたなら、お仕置きとしてこの娘を矯正してあげたのに。
まあ、それはさて置き。巫女の言う通り、別に出て行っても構わないんだけど…どうせ紅霧事件の原因はフランだし。
でもこんな常識知らずの女の言葉に従ってみすみす逃してくれると思わない。だってそうでしょう?
『金を寄こせ』とナイフを突き付けられ、金を差し出したら許して貰える訳じゃないでしょう?次に相手が狙うのは目撃者の始末よ。
ちなみに今、金を渡せば許して貰えるだろと思った人はとても恵まれた世界に居るのね。ここは幻想郷、警察や刑法なんて存在しないモヒカンヒャッハーな世界。
強者に優しく弱者に厳しい世界で弱者が出来ることは、他人に頼るのではなく自らの足で立ち上がることなの。あ、今私凄く良い事言ったわ。
「ここは、私の城よ?出ていくのは貴女だわ」
「この世から出てってほしいのよ」
前略、あの世にいるお母様へ。レミリアは今日、物凄く衝撃的な言葉を聞きました。
今私の目の前にいる巫女はずかずかと他人の館に押し入り、私に向ってこの世から出て行けとのたまうのです。
私は今日、世界の広さを知りました。世界にはこんなに最低な人間が存在するのですね。レミリアはびっくりです。
この世界にはレミリアの知らないことがまだまだ沢山です…というか、この娘、もしかして本当に頭がヤバいんじゃ…
そんなのを相手に何時までも問答してても仕方がない。そう判断し、私はこの手に残された最後の手段に打って出る。
先ほども述べた通り、私に残された武器は500年という月日をかけて鍛え抜かれた『ハッタリ』だけ。
つまり私の作戦はこうよ。私がとても強い強い妖怪だと勘違いさせる→巫女ビビる→私、巫女を見逃す→完全勝利。
…まあ、正直勝算がほとんど無いんじゃないかとは薄々感じてる。だってこの娘、明らかに話が通じそうにないんだもん。
ヤンキー相手にハッタリかましても逆切れされる未来しかない。かといって、私に残された手はそれだけ。
巫女を騙して逃げかえらせれば私の勝ち。それ以外は私の死を持ってゲームセットというなんとも理不尽なゲーム。
ああもう、どれもこれもみんなみんなフランのせいだ。もし失敗して殺されたら、絶対に化けて出てやるんだから。
覚悟を決め、私の一世一代の舞台劇が幕を開ける。見せてあげるわ!私が500年間で築き上げた美しきハッタリの世界を!
「しょうがないわね。今、お腹いっぱいだけど…」
まずは軽いジャブで開幕を飾る。人間に限らず、生物が恐怖を感じるのは対象が捕食者であると認識したとき。
目の前の頭のよろしくない巫女に、自然界の食物連鎖において、私(吸血鬼)が巫女(人間)より上位であることを示す。
これで普通の人間なら少しは動じてくれる筈なんだけど…
「護衛にあのメイドを雇っていたんでしょ?そんな、箱入りお嬢様なんて一撃よ!」
駄目だこの巫女、全然妖怪(捕食者)に恐怖を微塵も感じてない。
しかも私にとって実に痛いところを突いてくる。うん、まさにその通りです。
護衛じゃないけれど、咲夜や美鈴のおかげで私は今を生きているほどの超がつくほど箱入りお嬢様です。
箱入りというかむしろ引き籠りお嬢様です。だけど、当然それを巫女に気づかれる訳にはいかない。
表情を取り繕ったままで、私は淡々と巫女の言葉を否定する。いや、ウソを並べるだけなんだけど。
「咲夜は優秀な掃除係。おかげで、首一つ落ちてないわ」
ここで並べ立てた二つのうち前者のハッタリは、咲夜を知る相手だからこそ響くハッタリ。
あれだけ化け物染みた強さを持つ咲夜が、目の前の奴にとっては掃除係でしかないと嘯くことで、
私の実力はその更に遥か高みに位置してると勘違いさせる。彼女のメイド姿もその信憑性を増加させる効果を持つ。
そして、後者のハッタリは、私の実力に直接作用するハッタリ。首が落ちていないのは、咲夜が片づけたということ。
それはつまり、この大広間で過去に何人もの人間の首が刎ねられたという事実に基づいているに他ならない言葉に聞こえるだろう。
そして、その首を刎ねたのは一体誰か。今までの話の流れからそんなものは考えるまでもない。
案の定、私の言葉が効果を生み始めたのか、巫女は眉を顰め、私にこんな疑問を投げかける。
「…貴女は強いの?」
ここで『勿論』などと口にするのはNG。相手が私に疑問を口にしだしたというのは、私の正体が掴めていないということ。
人は自分の知らない、理解出来ないものに出くわしたとき、その対象に恐怖を抱く。人は未知に対し、好奇心と共に恐怖を感じる。
だからこそ、人は知りたがる。知って、安心を得ようとする。目の前の巫女も、その例に漏れず、私という存在を測ろうと必死に暗中を掻き分けている。
ここで私がするべきは、その闇を更に広げてあげること。不知という暗部を拡大することで、人は心に更に怯えを抱くのだから。
「さあね。あんまり外に出して貰えないの。私が日光に弱いから」
「…なかなかできるわね」
予定通り、巫女は私の実力を測り損ねた。私自身ではなく、巫女は私の背後に生まれた虚構の巨人に視線を向けてしまったのだ。
巫女の言葉に、私は心の中でガッツポーズをとらずにはいられない。流石私。伊達に500年もハッタリを続けてきた訳じゃないわね。
私に残された仕事は、ここまで順調に積み上げてきた積み木に対し、最後の仕上げを施すだけ。
レミリア・スカーレットという彼女の空想に生きる化け物に、私自身が直接色彩をつけてあげるのだ。
論理も要らない、小細工も必要ない。最後に重要なのは、『生きた』私の言葉。私自身が巫女に向ける、純粋なまでの『殺意』。
「こんなにも月が紅いから――本気で殺すわよ」
王手。チェックメイト。これはもう完璧に捻じ込んだ。
初手から投了まで一切の無駄を省いた一世一代の大ハッタリ。普通の人間なら恐怖のあまり精神を
どうにかしてしまうかもしれない程の手応え。…そうね、相手が『普通の人間』だったらね。目の前の巫女、普通の人間じゃなかったのよね。
私のハッタリを聞き、巫女は笑っていた。正直気持ち悪いんだけど、私に向って巫女は笑みを零していた。
しかもゆっくりと私に手に持ってた御札をまた私に向け直してる。何よ、少しも怖がってないみたいじゃない。
どうやらこの巫女はあれらしい。『おめえ強えな。オラ、ワクワクしてくっぞ』の人らしい。正直さっさと自分の星にでも帰って欲しい。
…って、そんな冗談を言ってる場合じゃなくて。私の最大の武器である『ハッタリ』が通じなかったということは、
それはつまり、私の命の灯も試合終了ということ。諦めても諦めなくてもそこで試合終了。まあ、最初から予感はしてたけどね。
私は大きく溜息をつき、この世に別れを告げる準備をする。どうせ数秒後にはこの身体を巫女の弾幕が貫くんだもの。
別にそれくらいのことはしたって構わないでしょう。ああ畜生、本当は死にたくないのに。
とりあえず美鈴、パチェ、咲夜、先に逝ってしまう弱い私を許して。こんな弱い親友、ご主人様で本当にごめんね。
それとフラン、お前は迷わず地獄に堕ちろ。最後の最後まで、しかも姉を死に追いやるような真似までしてくれて。
…まあ、お姉様は心が広いからね。謝罪の言葉はあの世で受け付けるとしましょう。地獄でのんびり待っててあげるから、せいぜいゆっくり幻想郷ライフを謳歌しなさい。
そして私の代わりに紅魔館の主としての心労を死ぬまで背負うといいわ。ばーかばーか。それがお姉様に悪戯ばかりした罰よ。
「こんなにも月が紅いのに」
巫女の言葉に、私はそっと瞳を閉じる。さあこい。いつでもこい。本当は嫌だけど。死にたくないけど。
弾幕が私の身体を貫くまで残り少し。せめて最後の時まで私は私らしく欲望を垂れ流すとしましょう。
ああもう一度でいいからケーキ屋さんになりたかった素敵な人と結婚したかった温かい家庭を作りたかった
静かに余生を過ごしたかった子供にシュトルテハイム・ラインバッハ三世と名前をつけてあげたかった
シルバーニアンファミリーを完結するまで読みたかったもう少しくらい紅魔館で過ごしてあげてもよかった
もっと美鈴やパチェや咲夜と一緒に過ごしたかったもっとフランの憎たらしいけど誰よりも可愛い笑顔を傍で見ていたかった――!!
「楽しい夜になりそうね!!」「永い夜になりそうね!!」
ああ死んだこれ死んだ間違いなく死んださようなら私の人生儚くも短い(吸血鬼基準)人生だったわ。
そんなことを考えていたとき、私の耳に飛び込んできたのは二人分の声。――はて、二人分?
一人は分かる。それは間違いなく私の目の前に居る巫女のもの。ではもう一人は一体誰か。
恐る恐る目を開いた私の視界に移ったのは、スペルカードを展開し合う二人。一人は巫女、そしてもう一人は…私?
私の目の前で激しいスペルカードを展開するのは一人の少女。ただ、その服装は今の私と何ら変わらない全く同じもの。
それはまるで鏡映し。いえ、鏡に映らない吸血鬼である私が言うのもなんだけど、その表現がピッタリだった。
装いから髪の色、容貌の全てが私と何一つ変わらない。けれど、その人物の正体を、私はすぐに気付く事が出来た。
それは、彼女の背中から生える吸血鬼の羽。私のような蝙蝠の羽ではなく、それは飛行という機能からは大きく掛け離れた異質な翼。
その羽に釣り下がった宝玉は妖しく煌き、視る者全てを魅了する輝きを持つ。そのような羽を持つ人物を、私は知っていた。それは私のたった一人の――
「――フラン!?」
フランドール・スカーレット。私にいつもいつもこの上なく迷惑ばかりかけてくれる、だけど私にとっては誰よりも可愛い大切な妹。
その時の私は何一つ現状が理解出来ずにいた。どうしてフランがここに居るのか。
いえ、どうしてフランは私と同じ格好、それこそ髪を染めてまでしているのか。一体どうして。
けれど、私に許された考える時間はそこまでだった。スペルカードを放つ中、フランは私の方を見てニコリと微笑み、そして
「へ?」
私の襟首を徐に掴み
「ふ、フラン?貴女、一体何を…って、きゃあああああああああ!!!!!!!」
私を力の限り、というか全力で床へと叩きつけて下さった。
突然の行動に、私は当然受け身なんか取れる筈もなく…ごめんなさい、どうせ分かってても受け身なんて取れません。
床に衝突すると同時に意識を混濁させ、そしてゆっくりと気絶してしまった。
世界がぐるぐると回るなか、そんな訳も分からないぶっ壊れた思考の中で、最後に見たのはフランの笑顔。
そのときフランは私にむかってたった一言。『――お疲れ様、私の大好きなお姉様』。そんな一言を呟いていたような気がした。
私がその後、目を覚ましたのは自分の部屋のベッドの上だった。
そして、自分の右腕と左足に巻かれた包帯、全身の激痛によって、あの光景が夢でなかったことを知ったわ。
結論から言うと、巫女がやってきたあの日から、私が目を覚ますまで丸三日ほど経過していた。
私が目を覚ましたとき、傍には咲夜が居た。なんでも私が目を覚ますまで、ずっと傍に居てくれたらしい。
その割には寝不足や疲労を咲夜からあまり感じられないけど。気のせいかしら。
目を覚ました私は、開口一番咲夜に巫女のことを尋ねかけた。何でも巫女との弾幕勝負に私は負け、
私が気を失ったと同時に幻想郷を包む紅霧は綺麗サッパリ収まったらしい。これは全部咲夜の証言そのまんま。
勿論、そんな訳がない。咲夜は知らないだろうけれど、私は弾幕勝負どころか弾幕の一発も打てやしないし、
そもそも巫女と戦ってすらいない。これは一体どういう訳かと少し考えたところで、すぐに答えに辿り着く。勿論フランよ。
巫女と対峙ししているなか、何故かあの娘は私と同じ服、同じ髪の色に染め、間に割って入ってきた。
そのフラン直々に地面に叩きつけられ気絶した為、私は記憶にないのだけれど、フランが私の代わりに巫女と弾幕勝負をしたのだろう。
それで、フランはその時私の格好をしていたから、その勝負をしていた巫女はフランを私だと勘違いをしたに違いない。
咲夜達が駆け付ける前に巫女との勝負に負けたフランは、気絶した私を放置してさっさと姿を消したのだろう。
そして、約束通り紅霧を止め、巫女も満足して帰っていったと。何その結末。結局私は無駄に怖い目にあって気絶してただけじゃない。
しかも、咲夜の話を聞く限り、私の右腕と左足は見事なまでに折れて下さってるらしい。
いや、普通の吸血鬼だったら自己再生とか出来るんだけど、私出来ないから。だって私最弱だし。というか再生出来ないことに咲夜も少しは不審がりなさいよ。
その事を遠回しに聞いたら、『魔力を相当消費してしまっているのでしょう』なんて答えが返ってきた。
…本当、咲夜って私のことになると勘が鈍いというか何というか。まあ、折角向こうが理由を考えてくれたのだから、その案に乗るとしましょう。
そして、咲夜と入れ替わるように室内に入ってきたのは他ならぬ全ての元凶、我が妹フラン。
久し振り(三日ぶり)に見るフランはいつもの小悪魔なフランだが、心なしか眼の下に隈が出来ていたりした。
あまり眠ってないのかしら?どうせ漫画読んだりゴロゴロしてたりしてただけなんでしょうけど。
嬉しそうにニコニコとしながら開口一番『ご機嫌は如何?お姉様』なんて聞いてきたからね。
とりあえず拳骨をくれてあげたわ。貧弱な私の拳だから全然痛くないんでしょうけど一応ね。お姉様として妹の教育は大事だものね。
頭を押さえて不満そうな顔をするフランに、私は問い詰めたのよ。一体どうして紅霧なんか発生させたのかって。
もう全部終わった事だし、今なら話してくれるかなってなんとなく思った訳よ。そしたらフランの奴、
『博麗の巫女っていう奴と遊んでみたかったから』
なんて素敵な回答をくれたのよ。とりあえず拳骨もう一発入れておいたわ。痛くもなんともないでしょうけど。
何でもフランの奴、何処からかこの幻想郷に問題が起こると、博麗の巫女というとんでもない人間が
異変解決に乗り出すという情報を何処からか仕入れてきたらしい。それで、そいつと遊びたいから紅霧を幻想郷中に発生させたという。
だから、巫女が私の前に対峙した時、私と無理矢理入れ替わって心行くまで弾幕を楽しんだということだ。
『あの時は不意打ちしてごめんなさい』って少しも悪びれることもなく反省の弁を紡がれたけど、
私にしてみれば本当に九死に一生を得たのだから何も責めない。フランの不意打ちが弾幕とかじゃなくて本当に良かった。
それで、どうして私の格好をしていたのかと尋ねると、『あとあと巫女に紅霧事件の責任追及をされたくないから』とのこと。
つまりこの我儘お姫様は、巫女と遊びたい→だけど異変を自分自身で起こすのは後々面倒なことになる→だったら
全部お姉様のせいにしてしまえば良いじゃないという戯けた三段論法で今回の騒動に至ったらしい。とりあえずもう一発殴っておいた私は全然悪くないわ。
このフランの計画は100パーセント成功と言っていい結果となったわ。紅魔館の部下達はおろか、
巫女も金髪女(後で知ったのだけれど、この女は幻想郷を管理するとても偉い妖怪らしい)も、今回の事件を私、
レミリア・スカーレットが引き起こしたものだと断定していた。フランのフの字も二人の口からは紡がれることはなかった。
おまけに言えば、館中を滅茶苦茶にしてくれた巫女との弾幕勝負も、これまたやっぱり私がやったことになっていて、
その激しい戦いの爪痕をみて部下達が『流石はお嬢様』などと酷い勘違いをしていたりした。いや、私気絶してただけなんだってば。
また、この一件のせいで私の悪名は幻想郷中に見事に広まって下さりやがった。
どれくらいかというと、この幻想郷においてレミリア・スカーレットの名を知らぬ者はいないってレベル。いや冗談じゃなくて。
何でも妖怪達の間では幻想郷のパワーバランスの一角を担う悪魔などと恐れられているとか。いや、私人間の子供にも負ける自信あるんだけど。
そんな訳で、私の命が懸った(真剣)紅霧異変は一応の解決を迎えたわ。
幻想郷におけるレミリア・スカーレットという吸血鬼の名声と、全治二か月という長きに渡る治療生活を私に残して。
それからあっという間に時間は流れ、一年と少しの月日が流れた秋の夜。
私は一人、部屋に籠って黙々と読書に興じていた。緩やかに、そして怠惰に流れる時間が私にとっては何よりも心地よい時間なのよ。
こんな風に以前にも増してグドグドな私だけど、実はあの紅霧異変を経験して少しばかり変わったことがある。
あの紅霧異変以来、私は博麗の巫女のところに何度も何度も足を運んでいるわ。その巫女――霊夢と仲良くなる為に。
どうしてと思う人もいるでしょう。まあ、ハッキリ言うと自分の命の為よ。ええ自分の身を守る為よ。それ以外にあるもんですか。
紅霧異変で巫女と対峙した時に私は悟ったの。吸血鬼なのに並の人間よりも貧弱な私が
この幻想郷を生きていく為には、もっともっと強い味方が必要だって。
勿論それは紅魔館の連中が頼りないと言ってる訳じゃないわ。咲夜は強いし美鈴は頼りになるしパチェは博識よ。
だけど、その三人をもってしても、博麗の巫女である霊夢には勝てなかった。あれは三人をたった一人で一蹴したわ。
もう分かってるだろうけれど、博麗の巫女は反則なのチートなのペンは剣よりも強しなの。最後のは関係無いけど。
どんな妖怪をも倒してみせる博麗の巫女。だから、最強であるあの娘と仲良くしておけば、私の幻想郷における生存率はグッと高まるのよ。
…卑怯だと思う?汚いと思う?だったら一度あなたも幻想郷で紅魔館の主として祭り上げられてみなさいよ!
あの紅霧異変以来、最強の一角とか永遠の幼き紅い月だとか言われて宴会の度に弾幕勝負を持ちかけられるのよ!?
その度に得意のハッタリでかわしているけど、こんなんじゃいつ私の命を狙う輩が現れるか分かったもんじゃないわよ。
もしそいつが霊夢みたいに強かったらどうするのよ。その時の為に、私は今、自分が出来ることを精一杯頑張るの。
この幻想郷で味方をより作る為に、引き籠りの私が頑張って毎回宴会に参加しているし、
春雪異変のときだって頑張って良いイメージを作る為に異変解決に乗り出した(咲夜を派遣して自分は館に引き籠ってただけだけど)し。
私は紅霧異変の時に誓ったの。もう二度と自分の命を危険に曝すような真似はしないって。だって死にたくないもの。
何時の日かケーキ屋さんの夢を、幸せな家庭を築く夢を実現させるときまで、私は死ねないのよ。
だから私は今日も館に引き籠るの。もう二度と危険な目になんてあわないように、厄介事に巻き込まれないように――
「――お嬢様。既にお気づきかと思われますが、この何処までも続く夜。恐らく異変かと思われます。そこで…」
何処までも安全に、誰よりも平凡かつ平穏な幸せを手に入れるの。
そう、何をどう間違ったとしても、決して異変解決なんかに参加しないよう、誰よりも弱い私は大切な今を生きていくのよ。
…そういうことにさせて頂戴、咲夜。それが私、レミリア・スカーレットの生きる道。これが貴女のご主人様なの。
だから冗談よね?今しがた私の耳に入った言葉はただのお茶目かつフランクなジョークなのよね?
私を異変に連れ出すだなんて嘘よね?『お嬢様とご一緒ならば、このような異変などすぐに解決出来ましょう』ですって?
だったらいい!異変なんか解決しなくて良いから!巫女に任せてればいいから!私、霊夢とマブダチだからあの娘に頼めば…って無視!?
お願い止めて!私を抱き抱えて持ってかないで!行くなら一人で行って!ていうかむしろ私足手まといになるだけだから!五分以上空飛べないから!
ちょ、ちょっと咲夜!お願いだから私の話を聞いて頂戴!!も…もう怖いのも痛いのも嫌ーーーーーーーー!!!!!
紅魔館は悪魔の棲む館。この館の住人はみんな嘘をつきます。
妖怪も魔女も人間も吸血鬼も。この館の住人は誰もが平然と嘘をつきます。
だけどそのことを怒る人は誰一人として存在しません。誰もが嘘に腹を立てず、楽しく笑って過ごしています。
みんなは嘘を怒りません。それはきっと、彼女達のつく嘘がとても優しい嘘だからなのでしょう。
この館のご主人様の事が、みんなみんな大好きだから。
だから彼女達はいつまでも優しい嘘をつき続けるのです。
Exステージはどうなったんだろう
しかし、フランドール様はかっこいいな。
導入部から引き込まれてあっと言う間に読了。
100点では足りないくらい楽しませてもらいました。
お父ちゃんは知っていたんだね
虚勢を張るレミリアかわいいよレミリア
小さなケーキ屋を営んでウフフしているお嬢様かわいいよお嬢様を幻視した瞬間どうでもよくなった。
あと、純粋にお母さんやってるお嬢様と、
お母さんを守るために魔人級に強くなった咲夜さんを想像するだけでいくらでもいける。
紅魔館の皆が秘密を全部知っててやってたら相当食えない方々且つレミリアお嬢様大好きっ娘とか思ってニヤニヤしました。
しかしこのレミリアお嬢様は幻想郷史上最萌の総受けさんとして(主にラスボスEXボスの方々)求愛されそうな気がしますぜ(それは貴様の願望だろうが)
レミリアお嬢様がいつか小さな森のケーキ屋さんを開店する事が出来ます様心から願っておりまするがそんなもんはこの幻想郷においては雀の涙程も価値が無いですかそうですか……orz
シリーズ化、などと恐れ多い事は申しませんが出来る事ならあと一話、もう一話だけ読んで見たいと思うのです(無理難題をほざいてんじゃねぇ)
>「何とが紅魔館」→「何とか」ではないかと。
ドタバタと巻き込まれて結局はあんな結果だったけど
また巻き込まれると……。
面白かったです。
何でだろう?
それはそうと紫とレミリアの会話部分になぜかエン○ェル伝説っぽさを感じて懐かしく思いました。
ノリに任せるだけじゃなく、考えられた言葉遊び+ノリの良さは驚くばかり。
さすがにゃおさんだぜ!
いつかその夢がかなうと・・・かなう日は来ないな。うん。
>シュトルテハイム・ラインバッハ三世
幻想水滸伝とは懐かしい
この作品は悪意が無くとても気持ち良く読めました。
シルバーニアンとコウ・ウサギ少尉が妙に印象深いです。ニンジン嫌いの彼が…
あと、永夜でおぜう様抜きの紅魔組はマゾすぎる><
このレミリアは弱くてへたれだけど、それでも間違いなくカリスマでした。
自分の弱さを知っていながら、(半ば勢いとはいえ)フランや美鈴のために、逃げないことを選べるお嬢様だからこそ、みんなついていこうと思えるんだろうな。素敵な関係です。
まさに発想の転換。神のごとき思考よ。
あとレミリアはかわいい係だと思います。カリスマお嬢様も好きだがヘタレもいい。ぶっちゃけどうでもいい。レミリアかわいい。
レミリアかわいい。レミリアかわ(以下ループ)
逃げる時に見つかりまくったのは、バレていたからなのね。
こういうヘボいキャラ大好きw
しかしよく口が回るお嬢様だ。生き残るために必死に話術を鍛えたんでしょうねえ。
あれだけ迷惑かけられてるにも関わらず、フランのこともちゃんと愛してるって点も非常に素晴らしかったのです。
最初の導入部分から、最後まで一気に読みきってしまいました。
この設定を考えられる発想力とそれを書ききれる筆力に羨望が止まりません。
この設定を使って永夜抄をどう描いてくれるか今から楽しみです。
てか知ってて永夜異変に誘う咲夜さんはちょっとSですよね。
ごちそうさまでした。
妄想が止まりませんw
このれみりゃには是非ともケーキ屋になってもらいたい。
そしてれみりゃに給仕してもらうんだ!
……あれ?
素敵なSSありがとうございます。次回作があればうれしいです。
お父様の決断は正しかったと思います。
とりあえずこの永夜の咲夜さんは親子?二人っきりのお出かけ(デート)のためならEXも一人で突破できそうな気がする
しかも最初から最後まで楽しく描ききった作者様に
スタンディング・オーべイションを!
何の彼の言いながら、みんなが大好きで、
そのみんなの為になら従容として死をも受け入れるレミリアさま。
間違いなくあなたは主だ!
でも、レミリアさま‥
> ええ自分の身を守る為よ。それ以外にあるもんですか。
この表現って世間一般ではツンデレとしか認識してもらえないと思います♪
まいりました。
でもやっぱり個人的にこの設定は好きでないかも
ケーキ屋レミリア可愛いw
こんな紅魔館も素敵ですね!力がないのを知られててこれだけ皆に慕われるとはまさにカリスマ。
多分フランが異変を起こしたのも本当はレミリアの為ですよね。レミリア愛されてるなあ。
永夜抄、咲夜さん一人はつらいと聞くが個人的にアリス一人の方がつらい・・・
良いものを読ませていただきました。
その圧倒的カリスマっぷりに鼻血が出るぜ。
こんな可愛いお嬢様が主なら、そりゃ紅魔館の住人全員そろって心酔しちゃうさ!
ケーキ屋で微笑んでるレミリアを想像したら俺の理性がブレイクしかけた
最初から最後まで引き込まれるように読むことが出来ました。 こんなお嬢様も可愛くて素敵ですね!
二次創作の醍醐味を見せ付けてくれた作品でした。
……なんですかこのカリスマは!!
レミリアと霊夢さんの会話は笑いっぱなしでしたw
あなたの前の作品、全部読みました。
是非、またあの変態連中の話を読みたいです!
レミリアと霊夢の会話が原作そのままなのに、違和感なくへたれにとけこんでるのが上手い。
フランが咲夜に染髪剤を用意するように言ってるところで、
もしかして2人にはばれてるのかなと思ったら全員にばれてたとはw
最後の永夜異変をどう切り抜けたのか気になる。
咲夜さん、わかってるのにレミリア連れ出すなんてひどすぎるよw
スキスキ美鈴の紅魔館とはまた違った暖かい紅魔館がステキでした
とうとう本当は運命なんか操れない雑魚吸血鬼なんだよ説まで
美鈴の場合は紅魔館一の強キャラだよ!まで上昇しているのに、まるで反比例しているようだwww
話は面白かったんですが、鋭いお嬢様の方が好きなので、好みでこの点数です。
本当に面白かったです
「貧弱の女王」ならば「クイーンオブ貧弱」ですね。
ぜひ続編を見てみたい。
しかし、みんなヘタレミリアに気が付いているとしたら、パチュリーが一番鬼畜だったりwww
>十九回。それが先ほどまで私が紅魔館から必死で脱走を試み、失敗に終わった回数。
>美鈴と別れた後、一度部屋に戻って作戦を練り直し、時間をおいて部屋を出た私を待っていたのは最早妨害としか思えない出会いの数々。
こういう所とかw
いや、周りがなんだかんだでいい人ばっかだから、ある意味めぐまれてるのか?
セリフは原作通り、内容は『超』もしもの話なのに、会話が上手く噛み合っているからすごいです。
こんな話を書けるにゃおさんの文章力&発想力が妬ましい!
強いお嬢様が大好きですが、こんなヘタレミリアもいいなぁw
お母さんを守るために誰よりも強くなったんだなあとか思うとなんか胸に来ますね
これは良い紅魔館www
カメレオンとか好きだったので。
へたれみりあが可愛すぎw
それにしてもやっぱり霊夢怖いマジ怖い
「いらっしゃいませ~」
ってやってるレミリアさまが浮かんできた
でもそんな日は来ないんだろうなw
最初からHP1、でこピン一発でピチューンww
しかし面白かったww
是非続編をwww
会話が尋常じゃないほど面白いっすw
はったりっていいなぁ。
はったりだけで生き抜いてるキャラはあんまり好きじゃなかったけど、このおぜうさまは許せる。不思議!
会話がきちんとカリスマなのに、ものすごいヘタレっていうのが面白すぎましたw
にしても萃夢とか永夜とか緋想の時はどうやって切り抜けたんだろう……
ただ、パチュリーさんかわいそうです。
喘息なのに地下に隔離されてインフルエンザのレミリアの横のベッドとは。
会話と地の文のギャップに吹いて、最後の締めに感動した。
本当にあなたの作品の締めが好みすぎて困るw
ヘタレミリアシリーズ化してみませんか?
めっちゃこれ面白いなぁ
こんなのまたよみたい
萃夢想や緋想天は実はフランが出てたのですね
れみりゃがかなりウケぽww
読み直すと更におもしろいですねw
何気に「運命を操る程度の能力」が120%発揮されている件について。
適当に言って大地震予言したり、人間育てて超チート級パーフェクトメイドにしちゃったり、
しかもセリフだけならカリスマ全開wwwww
なるほど、彼女こそ紅魔館の主の座に相応しい。
でもだからって咲夜さん、永夜異変に連れてっちゃらめぇ!!
れみりあ死んじゃうwwwww
ペンウッドもめちゃくちゃかっこよかったし、おぜうさまもきっと最期はかっこいいんだろうな
にんじん嫌いなのにウサギとはwww
最後の館の愛情にじーんと
やはりお嬢様は愛されていればいいと思います
そう言っていいのは美鈴だけだよ紅魔館
おぜうさまと美鈴以外サドばっかだよ紅魔館
いやでも、曲者だらけの幻想郷で虚勢だけで館の主を演じ続けられるおぜうさまは本気ですごいよ紅魔館!
やっぱりにゃおさんの作品は最高だわ
美鈴がでてきて美鈴があqwせdrftgyふじこlpな状態になるっていう小説はなかなかないですしー
100点以外つけられないとw
叙述トリックの示唆ですよね?w この「物語」のレミリアの記述自体が大嘘で、
真の強者だからこそ、二重に相手を騙しているということへの。
いくら周りがフォローするといっても、出来すぎですもんね。
この「手」で敵も部下も篭絡していく腹黒なお嬢様が見えるようで、面白いです。
しかし・・・頭の回転は速い。
ある意味大物ですな。
ぜひ続編が見たいです。
この話の咲夜とかフラン視点の物語など
目を覚ますまでずっと傍に居たフランとか、愛のあふれる良い紅魔館でした。
知らぬは本人ばかり…w
まぁ皆能力じゃなくて、レミリア本人を好いてるってことですな
でもそれが成立するのも、みんな主人のことが大好きだ、という前提があってこそですね。
いやはや可愛いレミリアでした。
可愛かったです、もう。
これはいいwwwへたれみりゃww
昔好きだったマンガを思い出して懐かしさを感じてしまいました。
結局、紅霧異変はレミリアの名を幻想郷中に鳴り響かせる為にフランが仕組んだってことなんですよね?
だとすると、地震が起きたのも偶然じゃなくてパチュリーの仕業だったりして。
みんなレミリアのことを思ってやってるんだろうけど、本人にとってはいい迷惑なんでしょうねw
まあゲームの方ではボコられちゃうわけですが(自分が)、こんな紅魔郷があってもいい、こんなお嬢様もステキだなぁ、と。
素敵な作品をどうも有難う御座いました。
めっちゃおもしろかったです
それだけで100点。
しかし分かってて永夜異変に連れ出すとはなんて鬼畜ww
弱いしハッタリばかりだけどなんとも部下想いの主じゃないですか!
なんだか微笑ましく、そして感動しました。
でも2回目読んだときはレミリアが美鈴に背を向けたときに
咲夜さんお手製ネコリュックが美鈴を向くのを想像して爆笑しましたw
最後の数行ですれ違い紅魔館があっという間にハートフル紅魔館に!
コメに無粋なのが一人いたけど気にしないで。
勘違いギャグで進み最後にハートフル!素敵w
一週間前から続編を読んでいましたがサーバーが落ちてるのかなぁ
ちょっとしたネタなどの笑い要素もさることながら、涙腺崩壊不可避の胸熱展開にずっと惹き付けられてもう私は作者さんの虜です(笑)
今後も応援してます!!