Coolier - 新生・東方創想話

てんれい

2009/01/09 01:19:30
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「ちょっと。寒いんだけど」

「知るか」

間髪を入れぬツッコミ。うん、今日も冴えている。
待て、こんなものに冴えてどうする。
お、セルフツッコミ。
さすがにセルフツッコミはまずいわ。友達いないみたいだし。

そんなことを考えていると、

「変な顔になってるよ」

言われた。

「叩き出されたいのね」

「いやいや、外寒いし。せっかく私の神社に来たんだから」

「いやいや、あんたのじゃないし。あんた以外にも私の神社やら私の分社やら五月蠅い奴らがいるのに」

これ以上迷惑な奴が増えても困る。
ちなみにそろそろ夜も深まってきて、寒いのは事実だ。本当に叩き出す気があるわけではない。

「それで、話は変わるけど」

「何よ」

「寒いんだけど」

「それ話戻しただけだから。変えてないから」

前言撤回、叩き出してやる。まったく面倒な奴だ。
その面倒な奴は、あはは、と笑い声をあげて

「普段の霊夢は本当に面白いわー」

そんなことをのたまった。

「普段じゃない私って何よ」

「んー、異変の時」

「何か違うのかしら」

「んー、何も考えなくなる、かな」

「物凄い微妙なんだけど、それ」

「悪いことじゃないのよ」

少し機嫌を悪くしかけたところで気組みを外された。
催促にならない程度の眼差しを送る。こいつにはこれで十分だ。

「公事には公利ありて私忌なし。余計な考えは必要は時に落とし穴となる」

わかった振りをしようかとも思ったが、そんなことをしても何にもならないので素直に聞くことにした。

「どういうこと?」

「あんた本当に浅学ね……。まあいいわ、知っているだけで実践しない私よりは良いから」

「貶されてんだか褒められてんだか」

「褒めてるんだから喜びなさい。それで、公事はおおやけのこと。公の仕事という感じね」

うむ、それぐらいならわかる。何で小難しい言い方をわざわざするのだろう。
口には出さないがそんなことを考えつつ小さく頷く。

「公利は公の利益、私忌は……そうね、私的な感情、とでも言い換えれば良いかしら」

「それで、全体の意味は?」

「公的な仕事をするときは、私情を挟まず、公の利益を考えるべきだ、ってこと」

「へー」

「良さげな物があればついでに盗ってこようとか考えてはいけない」

幻想郷広しといえどもそんなことを考える奴は少ない。
少ないどころか、皆ある人間の顔しか思い浮かばないに違いない。

「なるほど」

「だから、異変解決の時に何も考えず勘に頼って動くのは正解よ」

「はぐれ天人の癖にまともなこと言うのね」

「はぐれ言うな。というか、あんたもはぐれ巫女じゃない」

「私のどこがはぐれ巫女なのか説明しなさいよ」

「神も碌に祀らず、参拝客も碌に来ず、異変解決を生業にする巫女のどこがはぐれじゃないのか説明しなさいよ」

む、これは苦しい。
あーうーなどと呻くこともできないので平静を装いながら苦慮するという芸当を、自分ではやっているつもりだった。
だったのだが、それなのに、ふと目が合ったところで、天子がニヤッとしやがった。
ちくしょう、わかってやがる。

「じゃあ、はぐれ者同士仲良くしましょうか」

「好きにしなさいよ」

「お、いいことを聞いた。霊夢を好きにしていいなんて」

「とりあえず速やかにこの神社から住ね!」

「おお、こわいこわい」

「……」

どうも振り回されっぱなしなのが癪に触って、不意に言葉が途切れる。
天子も特に気にするでもなく静寂を受け入れる。
寒さで張り詰めた空気は息の音でさえ響かせるかのようで、
一定のリズムを刻みながら時間だけが流れる。

呼吸のリズムに意識を合わせていると、頭がぼうっとしてくる。
ぼやけた頭に思考を漂わせて、目の前にいる奴のことを考える。

天子。初めて会った時はガキみたいな奴だと思った。
実は結構年をとっていたらしい。
馴染んでくると地が出てきたのか少し大人しくなった。
しばしば天界から降りてきてはうちの神社に泊っていく。
神社の再建後、必要最小限のものしか揃えていないために一つしかない布団を取り合っては仕方なく一緒に眠ったり。
降りてきて何をしているかといえば、人妖問わず弾幕ごっこに興じ、忠言を残して帰っていくとか。

そういえば、私も何か言われたような……曲……

「……曲芸?」

「曲全だと思うけど」

「あーそれそれ。って心でも読んだの!?」

「何か焦点定まらない感じでこっち見ながら『曲芸?』とか言われたらわかるわよ」

「普通はそれだけじゃわからないって」

「一応これでも天人やってますから」

「ふーん」

「それに、もしあんな目しながら私以外のこと考えてたんだったら、あんた詐欺師になれるわ」

「ちょっ、どんな目よ」

「これであと十年は戦えるわ、って感じの目。可愛かったー」

「か、かわい……」

顔に赤みが差していくのが自分でもわかる。
思っていることをストレートに表現するのは天子の良いところだけど、言われた方はたまったもんじゃない。
赤くなった顔を見せてやる義理もないのでここは退散することにする。

「まったく…・・・。馬鹿なこと言ってないで、そろそろ寝る準備するわよ。どうせ泊ってくんでしょ」

「いいね、今日の霊夢は話が早い」

「あんたの布団はないわよ」

「ここは私の神社、神社のものは私のものよ。布団がないのはあなた」

「馬鹿言ってないで頭下げれば入れてあげないこともないけど」

「宜しくお願いします」

惚れ惚れするほどきれいに三つ指つきやがった。

結局二人で布団を運んだ。
暗黙の了解で私が左で天子が右。中央の枕を分け合うのは少々面倒だが仕方がない。
お互い眠りに入るのは早い、おやすみを言い合ってから寝息を立てるまで、そう時間はかからなかった。



翌朝、毎度のことであるが首が痛くなって目が覚める。
そんなとき、ぼやけた視界に天子の左腕が見えるのだ。
今ある枕を押しやって、引っ張り上げた新しい枕に頭を乗せる。
朝の空気に冷やされた耳が彼女に暖められて、私は再び眠りに落ちてゆく。

ああ、二度寝って、幸せ……。
霊夢は普段は年相応に女の子。
天子は普段は年相応に女の子(?)。

脳内で二人に会話させてたらこんな風になったので書きとめてみました。
勢いあまって初投稿です。よろしくお願いします。

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guardi
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コメント



0.2170簡易評価
15.100名前が無い程度の能力削除
この天子は良いなぁ。彼女の霊夢観もグッド
この二人なら良い関係築いていけそう
もっと貴方の創る二人の物語を読んでみたいです
22.100名前が無い程度の能力削除
これは良い天霊
天子の知的さやフランクさがよく描けてると思います
26.70名前が無い程度の能力削除
天子攻め……これはアリだ!
最初から最後まで押せ押せモードなのもいいものです。
古典引用大好きな天子がちゃんと再現されている作品は珍しいですよねえ。
27.100名前が無い程度の能力削除
天子かわいいよ天子
28.100名前が無い程度の能力削除
この発想は無かった
31.100名前が無い程度の能力削除
てんれい……これは素晴らしい
天子の腕枕で眠る霊夢、絵になるなあ
34.100名前が無い程度の能力削除
いいわぁ
39.100名前が無い程度の能力削除
俺の中でてんれいが始まりました。
48.80名前が無い程度の能力削除
てんれい…自分の中で何かが始まった。

後、浅学は自分に使う言葉ですよ
55.100名前が無い程度の能力削除
イイネ