ジジ、ジ。
「感度良好。あ~、あ~。音声クリーン。OK。後はテロップね。……よし、と」
『レポーター 烏天狗 射命丸文』
「はい、こんにちは。年が明けて今年もやってまいりました恒例の行事。この番組は、隙間と天狗と河童の技術により、皆様方の夢の中へ強制配信させていただいております。よしなに。さて、あちらをご覧ください。本日この博麗神社では幻想郷を代表する勢力の殆どが集結しています。これから始まる会議では彼女たちが熱く議論を重ねることで、幻想郷の様々な事柄に決着をつけようというのです。何を隠そう、私も参加者の一人なんですよ。記者として取材に徹したくはあるのですが、以後はカメラを預けて一参加者として発言しますので、よろしくおねがいします」
襖の開け放たれた間には、大きなちゃぶ台を囲み、様々な人物が座している。文は誰とも無しに言い放つとカメラを渡し、奥の間へと足を踏み入れる。最後の一人が部屋に入ったのを確認すると、海鮮家族の長ポジションに座っている慧音が声をかけた。
『司会者 人里代表 ぼくらのけーね先生』
「射命丸文、お前で最後だ。これで呼びかけに応じた者は皆集ったわけだな。……って何だコレは?」
自分の紹介文が流れて驚く慧音の隣に座りながら文はケラケラと笑う。
「ヤですねぇ。テロップですよ。テロップ。いくら幻想郷を代表するお方々勢ぞろいとはいえ知らない人には誰が誰だかわかりませんからね。最初の一回だけは流させてもらいますので、お気になさらず。最初は年齢も表示しようかと思ったんですけれど、その……」
そういって文はチラリと自分の正面を見やる。
『永遠亭代表 年齢不詳 八意永琳』
「……何かしら?」
八意永琳である! 私の知能指数は、と今にも言い出しそうな威圧感で文に微笑みかける永琳。
「いえ、何でもありません」
16,777,215、もとい、カンストやべえ。とは口が裂けてもいえない文なのであった。冷や汗をかいている文の右手、珍しく外出している一週間少女が嘲笑する。
『紅魔館代表代理 喘息は絶滅しろ パチュリー・ノーレッジ』
「……貴女、代表参加ではないのね。お山の天狗は沈黙と言うことで良いのかしら?」
『紅魔館代表代理 可憐で純情? 十六夜咲夜』
「ちょっと無責任すぎますわ。幻想郷を構成する一勢力としては」
咲夜はおみかんの皮を八つ裂きにしつつ、皮の中に秘められたる甘い果実を隣に座るパチュリーの前に積んでいく。もちろん、白い筋は全て取り除いてある。
「そういう紅魔のお二方も、主のレミリア嬢はどうしたんですかね~?」
パチュリーの前に積まれていたおみかんを一つ頂戴すると文が言い返す。
「愚問。今は昼間よ」
パチュリーはおみかんを一房、頬張ると落ち着き払って言い放つ。天狗の無責任さを追及すると室内はそうだそうだ、いや、それは違うと喧騒に包まれる。
「静かに! 今日は誰かの揚げ足を取るために集まったわけでもないだろう? この会議は、今、幻想郷に起きている事柄について、真剣に論議し、打開策を見つけることにこそある!」
慧音が声を張り上げるとざわめきは途端に静まり、皆、神妙な面立ちになる。
幾度と無く繰り返された戦いが、再び始まるのだ。
◇ ◇ ◇
「よし、まずは主催者挨拶」
慧音の反対側に座っていた人物が立ち上がり、挨拶をする。紅白という目出度い出で立ちをしているが、この企画の黒幕であるという事実は動かしようが無かった。
『主催者 自称楽園の素敵な巫女さん 博麗霊夢』
「みんな元気に生きてる? 私です。スペルカードルールにも飽きてきちゃったので、今度はこうやって暮らしの疑問や謎やついでに異変を解明しようと思います。頑張ってね。決して紫の所で見たテレビとやらの所為ではないのであしからず。んじゃ、後よろしく」
自分の出番はもう終わったのよと言わんばかりに正座し、熱いお茶を啜る。
「……ま、まぁ、そういうことだ。続いてルール説明」
「ぉ、私の出番ですね? 良いでしょう、一参加者で烏天狗の私がルール説明しちゃいましょう。この議論式決闘法のルールを。ルール、と言っても会議ですから、論議するのが最低限の条件です。勿論暴力沙汰は禁止、会議ですからね。皆さんはガッツの続く限り発言してください。提示された議題に対して決め手の一言を発したお方がこの会議のMVPです。主催者である霊夢さんからご褒美が貰えちゃいます。ちなみに前回のMVPはフラワーマスター風見幽香さん。『弾幕は何なのぜ?』と言う議題に『それってもしかして……高校野球じゃない?』という発言で見事MVPをゲット!ご褒美は一年分のお賽銭でした。ああ、今回も参加していらっしゃいますね。感想を一言お願いします」
『植物代表 東京ドーム14杯分 風見幽香』
「和同開珎4枚で何をしろというのかしら……?」
くの字に折れ曲がった硬貨がカラコロと音を立ててちゃぶ台の上に転がる。ドコと無く額に青筋が浮かんでいるようだ。
「はい、ありがとうございました。実に素敵な感想でした。高校野球、良いですねぇ」
「うむ。額に汗流し、損得勘定も打算も無く、勝利を貪欲に求め、敗北すれば砂を持ち帰る。良いものだアレは。私も月の姫と戦ったとき、彼女の灰を少しだけかき集めて小瓶にいれたりしてな……」
腕組みしながらうんうんと慧音が語る。すると、パチュリーの正面に座っていた永琳が慧音に話しかけた。
「青春の思い出、ですね。……トコロで上白沢。最近うちの姫さまが円形脱毛症に悩んでおられるのですが……」
「知らん」
ぴゅるりらーと口笛混じりに慧音が即答した。
「この前なんか、ねぇ、えーりん。蓬莱のヤク、頭に塗ったらふさふさかしらね……。なんて遠い目をしながら三面鏡の前で仰ってたので、す、が!」
「知らん」
ぴゅるりらりん。
「そこに直りなさい半人前の半獣畜生が……姫様のケを返しなさい! リリースキューティクル!!!」
「半人前の半獣じゃあ4分の1じゃないか。残念ながら私はクォーターじゃなくてハーフなんでね」
口の端をククっとつり上げ、帽子の位置をくいっと直して慧音がお茶目に言う。
「マヨネーズか貴様!!!」
『善人代表 お前等全員死刑 四季映姫ヤマザナドゥ』
「お黙りなさい!!!!」
ピシャリ。
「大体……、議長まで一緒になって何ですか!! 様々なことに白黒つける為に召集した会議でしょう? ならば、皆で意見を出し合って論議すべきです。 真剣に! 本気に!」
慧音の隣に座っていた四季映姫が二人を一喝した。
「あ、あぁ。すまなかった」
「こちらこそ、ごめんなさい。よく考えてみればどうでも良いことでした。ええ、ホントにどうでもいい」
慧音と永琳は堅く手を結び合ったのだった。
「分かればよろしい。ホラ、会議、続けましょう」
◇ ◇ ◇
「まずはこの映像を見てもらいたい」
部屋の照明が落とされると、慧音の後ろの襖に映像が映し出される。技術提供は河童、映像提供は天狗である。
「なんだ、私じゃない」
鎮座している霊夢がその映像を見ると呟く。確かこの映像は永遠亭の面々が起こした異変の時のものだ。
「そうだ。画面に映っているのは紛れも無く、博麗の巫女殿だ。相手は藤原妹紅」
私の、と小声で付け加えていたのを文は聞き逃さなかった。画面の中の霊夢は妹紅の放つ弾幕を右へ左へと避けている。
「……見事なものね」
慧音と文を挟んだ向こうでパチュリーが呟いた。紙一重で火花をちらつかせながら、それでも直撃することなく、霊夢は妹紅の攻撃の隙間を縫いながら接近していった。
「問題はココからだ。妹紅がスペルカードを使用した瞬間の巫女に注目して欲しい。使うぞ、フジヤマヴォルケイノ! うぉおおお、そこだヤッてしまえもこー!! ……コホン、スロー再生で頼む」
自分の放つ弾がことごとく避けられ、涙目寸前の妹紅が放ったスペル、蓬莱『凱風快晴 -フジヤマヴォルケイノ-』。画面を覆うような炎の濁流に、それでも霊夢は涼しげな表情で立ち向かう。三条に伸びる紅色の弾幕、爆発音がして後方で光球が弾ける。
霊夢は背中を逸らし、一回転。
「ストップ!」
紅魔館の誇るメイド長の秘術を以ってしてもこの時に会場に流れた空気を再現することは不可能だろう。まさに、時も空間も同時に凍りついたのだからと、その瞬間を後に参加者の一人、少女Kは語る。
『八雲家代表代理 主婦 八雲藍』
「何て、ことだ……」
隙間妖怪の式が滅多に見せない驚愕の表情を浮かべていた。霊夢は藍のそんな表情を見るのは二回目だ。たまたま遊びに行った紫の家で、お尻ペンペンされる藍を見て以来のことである。
『魔法の森代表 大久保 アリス・マーガトロイド』
「こういう時、何て言ったかしら……オーマイゴッド……? ジーザス?」
幽香の隣に座るアリスが惚けて意味の分からないことを口走っている。
「……どうやら皆、理解してくれたようだな。
縦に一回転する巫女の深淵を。……そういうことなのだ」
慧音がこの事態を一つ一つかみ締めるように、静かに言った。
「……由々しき自体ですね、これは」
幻想郷の閻魔が顔を引きつらせていた。
「まさかとは思ったけれど……それにしても博麗の巫女が……」
月の頭脳が、考えることを拒否している。
「……これが、今日の議題ですか」
咲夜の問いかけにああ、と慧音が答える。グルリと見渡す、皆がそれぞれ真面目な顔をして慧音の次の言葉を待っていた。
「ちなみにこの後、ちくちくちくちくちくと言って泣きながら去る妹紅のシーンに移るワケだが、残念ながら私の私物故、非公開とさせていただく。……と言うわけで、第十六回幻想郷会議の議題は――」
ゴクリ、と誰かが喉を鳴らした。
「『博麗さん家の下着事情』についてだ!!」
ズズズ、と音を立ててお茶を啜っていた霊夢は、その言葉を聴いた後、盛大に吹きだした。胃液ごと。
「お前等の脳みそ腐ってしまえ!」
霊夢の怨嗟の叫びは狭い会場はおろか、遥か彼方の人里まで響き渡ったと言う。
◇ ◇ ◇
「さて、まずは逃亡を計った博麗の巫女だが、永遠亭の兎達の物量作戦でどうにか取り押さえることに成功した。ピチューン1700匹、カスリ点4500匹、行方不明22800匹……まぁ、妥当な所だ。猿轡を噛ませて縛ってそこの柱に括り付けておいたので涙で鼠の絵を描くことくらいしかできないだろう」
「答え合わせは最後のお楽しみというわけですね」
咲夜が縛られた霊夢を見てクスクスと笑う。
「そういうわけだ。よし、じゃあ最初は……」
「紅魔館の総意として、ドロワーズを挙げさせてもらうわ」
パチュリーがさらっと答える。
「何、だと……!」
突然のドロワ宣言に、議長の慧音は驚きを隠せなかった。余りにも、早すぎる。パチュリー・ノーレッジという人物は速攻を好むタイプではなかったはずだ。
「……! 何ですって!?」
幽香が思わず声を荒げる。先行逃げ切り型の一手は彼女の予想の範疇を大きく超えていたらしい。
『白玉楼代表代理 心の師は○○のパパ 魂魄妖夢』
「ド、ドロワーズ……」
「ドロワーズ、か。ふむ……紅魔館がこちら側にやってきてから急速に普及してはいるな」
慧音は話しながらパチュリーの真意を伺う。よほど勝算があるのだろうか、それとも……。
「そうよ。紅魔館がドロワの発信源。最早ドロワ館と言っても過言ではないわ。語感が似ているのも当然。そう、元を辿れば紅魔とドロワは同じ起源……。訛りに訛って紅魔館となってしまっているけれど。かの有名なヴラド・ツェペシュもトルコの使者にドロワを穿かせてから串刺しにしたと言うわ。それくらい、ドロワキュラ……じゃなかった、ドラキュラとドロワは密接な関係があるのよ。……大体、紅魔館を代表する二人の吸血鬼が好んで愛用していることからも分かるでしょう」
「私はガーター派ですけど。さすがにメイド服にドロワは……」
「そのうちメイド服用のドロワが開発されるわよ。ボリューム、スカートの裾から見える角度、通気性、質量保存の法則、そして人工知能に言語翻訳機能。水深一万メートルまで潜っても型崩れしない、全てを兼ねそろえたメイドオブドロワ。開発コードネームはワカメ。レミィが香霖堂に依頼中だから、あと4回戦闘すれば開発終了よ」
「それ、完成したら火口に落ちた宝石を回収しろって言うミッションフラグが立ちそうな気がしますわ」
「……しかし、博麗霊夢ですよ。あの巫女装束にドロワ?」
八雲藍は話しながら左から嫌な視線が自分を貫くのを感じた。敢えて無視する。
「そのアンバランスさこそが肝なのよ。大体、アレは巫女装束なのにブーツ履いて出かけたりするでしょう」
「ま、まぁ確かに……」
確かにそうなのだ。巫女装束にブーツ。アンバランスな取り合わせながらも博麗霊夢という一個人の前では和洋折衷の陰陽がバランス良く融合している。だから誰も、霊夢がブーツを履いて人里を闊歩していようが気にしない。そしてその事実は下着にも応用される可能性は高い。
「しかしだな、パチュリー・ノーレッジ、お前は重大なミスを犯している」
見切った。この早すぎる手は咲夜とパチュリー、二人がいるからこそ成り立つ攻撃だ。お互いに意見を掛け合うことで強引にドロワの展開へ持っていくためのもの。さながら、一見殺し……しかしこれは安地だらけの弾幕に等しい。慧音は内心ほくそえみ、このパチュリー論に反撃を始める。
「確かにドロワーズは見た目も、機能性も十分。しかし、だ。まだ入手法が確立されていないのが最大の欠点。調達するにしても香霖堂か、ドロ……紅魔館へ行くしかない」
「ぅ……」
ザクッ、と何かが抉られるような音を確かに十六夜咲夜は聞いた。
「博麗霊夢が一度でも紅魔館にドロワを調達しに来たことがあったか?」
「ぐ……」
返答しない、いや、返答できないのだ。二の句が継げないで居るパチュリーを咲夜が援護する。
「来ましたわ。パチュリー様は図書館に篭りきりでしたからご存じないとは思いますけれど。ええ、つい先日も、一日三回は履き替えるとか」
流石、パーフェクトメイド。事実なのかそうでないのかはどちらでも良かった。この主張を押し通せば真実になる……!
「実際に調達しに来ている以上……霊夢の下着はドロワーズで間違いないかと思いますわ」
「ちょ、ちょっと咲夜……!」
驚いて咲夜の肩を引っ張るパチュリー。この行為が、自らの首を絞めることになった。
「ぇ……? あ、いけない」
パチュリーに引っ張られ、不意に洩らしてしまった言葉。台本には無かったはずの言葉は咲夜の論理弾幕に亀裂を入れた。はっと慌てて口を押さえるが、もう遅い。その行為すら、亀裂を広げるだけに過ぎない。
そう、コレは……。
「口からでまかせ、か」
ココは嘘でも咲夜の話に乗っておけばまだ残機はあっただろう。突然の援護に驚いてしまったパチュリーの失態である。いや、それこそが咲夜の弄したミスディレクション。慧音は確信していた。先ほどの咲夜のセリフにもあったように、彼女はガーターを愛用している。即ち、十六夜咲夜は反ドロワ派。二人三脚のように息をピッタリと合わせなければこの攻撃は成立しない。
紅魔敗れたり。
「紅魔館という可能性は残念ながら消えてしまった。ならば香霖堂。あそこの店主……森近霖之助は男だ。ドロワ一丁、なんて気軽に言えると思うか!?」
「むきゅ……」
慧音はパチュリー論にトドメの一撃を放つ。
「仮にも博麗霊夢は花も恥らう乙女! 顔を赤らめつつ森近霖之助に自分の下着を見繕ってくれ、なんていうラブコメ展開は天地がひっくり返ってもありえぬわ!!」
「むきゅきゅん!!」
もうやめて! パチュリーのガッツは0よ! 咲夜が耳からぷしゅーと紫煙を上げて倒れそうなパチュリーの肩を支えた。パチュリー論は慧音のカウンターによって木っ端微塵に粉砕されたのだった。咲夜はパチュリーの肩を抱きながら嬉しそうに笑っている。やっぱり裏切り者の犬であった。
「皆無……! ドロワの可能性は皆無……!!」
その宣言によりざわざわ……と室内が揺れた。早すぎるパチュリーの沈黙に、或いは、早すぎる慧音のカウンターに。
電光石火の攻防であった。
「他に、誰か無いか?」
はいっ、と手を上げたのは妖夢だった。さっきまできちんと正座していたのがいつの間にか足を崩している。
「あ、あの。白玉楼の意見は普通のパンツだと思いますっ!」
「ほぅ」
「やはりですね、基本ですよ。シンプルイズベスト」
「なるほど……一理ある。人里でも比較的入手しやすいからな」
「そうです! お尻全体を優しく包み込むフルバック! 手に入れやすさ、洗い易さ、どれを取っても文句なしの及第点ですよ!」
『乾坤代理 信仰とぱんつ布教中 東風谷早苗』
「チョットイイデスカ?」
「フルバックだと激しい運動で食い込みやすいと言うのが大きな欠点だと思うが……ソレについてはどうなんだ?」
「食い込んだパンツを直す仕草で相手を魅了するんです!」
おぉ、っと室内が再びざわめく。
「得心致しました。しかし、そうなると」
四季映姫も何故か妖夢論には肯定的だった。
「問題となるのは……」
文を初めとした数人がその問題点に気が付いたようだ。
「柄、ですね」
妖夢もその点については理解していたらしい。柄……そう、一重にぱんつと言えどその柄によって種類はいくらにでも分けられる。霊夢の深淵を言い当てるには普通のぱんつという括りでは余りにも広大すぎた。
「縞々よ。ストライプ以外にありえないわ」
皆が悩み始める前に、幽香が言い放つ。全員の思考を中断させ、自らの主張を押し通す攻撃。さながら言葉のマスタースパーク。さすが前回のMVP、発言の一撃はドコまでも、重い。
「……!」
「ち、違いますよ! やっぱりここは白でしょ!?」
妖夢は白ぱんつ支持者だった。
「私も白だと思いますね。彼女の性格からして、色には拘らないのでは無いでしょうか」
四季映姫も白ぱんつ支持者。咲夜の隣でアリスは白黒はっきりつけたいだけちゃうんかい、と突っ込みを入れたくなるのをぐっと我慢していた。そんな突っ込みでガッツを失うわけにはいかない。
「甘いわ。閻魔さまも庭師も甘すぎる……! 既に霊夢のお洒落スペルに嵌ってるわ。拘っているように見せないという高等テクニック……! 二人とも霊夢の袖の裏地を見たことが無いからそんなことが言えるんだわ。見なさい! あの袖の裏からこっそり顔を覗かせている昇り龍を!」
幽香がビシっと隣の柱に括り付けられている霊夢を指差した。全員の視線が霊夢の袖に釘付けになる。
「!」
チラリと見える深淵。紛れもなく、五色の宝玉を持つ昇龍が袖の中に潜んでいた。
「裏地……! 江戸っ子が粋でいなせな心意気として始めたのを起源とする見えないお洒落の代名詞……! その伝承は一時期散逸し、現代ではBANTYOやOYABUNと呼ばれる一族の長のみが袖を通すことを許される逸品。まさか博麗霊夢の袖の裏に見ることができるとは……」
慧音が裏地の昇龍を見て感激に身体を震わせている。
「普段は見えない。だからこそ見えたときのギャップに人はときめくのよ! これぞチラリズムの原点!」
「でも、白ではないとしても、だからって縞模様の意味が分からないですよ! くまさんプリントとか、まんが肉、幽々様マークとか! アダルティな黒かもしれませんし、情熱の赤と言う可能性も十分に考えられますよ」
「ここに一つのアンケート結果がありますわ」
急にトーンダウンした幽香。勘違いしてはいけない、まだ幽香のターンは続いている。スッと皆の前に差し出されたのは一枚の紙切れ。
『99人の鬼と1人の男性に聞きました。興奮する下着の色は?』
「これによると100人中81人が縞模様のぱんつこそ至高、と答えているわ」
その紙に浮かび上がる事実。即ち、80人の鬼と1人の人間による縞ぱんつ信仰。
「どこからそんなアンケートを……」
小道具で変化球を投げる幽香に妖夢は驚愕していた。前回のMVPに隙は無い。
「こんなこともあろうかと香霖堂の店主に依頼しておきました」
どんだけドSなんだよ。会場にはどことなく気の毒な雰囲気が流れる。
「ここ数日、人里に出没していた変態妖怪は彼か、災難だな」
慧音は人里を脅かす存在の正体が分かり、ほっと胸を撫で下ろした。夜な夜な若い男性を狙い「どんな下着に興奮するんだい?」などという質問をする妖怪。幻想郷入りした新手の妖怪かと思っていたけれど、どうやら違うことに一安心だった。
「しかも諦めて萃香に丸投げしてるわね、このアンケ結果」
パチュリーがおみかんをほおばりながらアンケート結果を冷静に分析する。おみかんを口に入れる程度に回復したようだ。
「ねぇ、そんなにお洒落なら、そもそも普通のぱんつじゃないんじゃないかしら」
「と、言いますと?」
文がこめかみをペンの頭でトントンと叩きながらアリスの次の言葉を促す。
「魅せる為の下着だったら」
アリスの眼が妖しく光る。主張をぶち込むのは今しかない! この一撃のためにガッツを温存しておいたのだ。自らの恥ずかしい事実を犠牲にしたアーティフルサクリファイス……!
「……ビスチェ」
「ビスチェ! その手があったか!」
「ちっ、気がつきやがった……」
幽香が悔しそうに舌打ちする。考えていた可能性。敢えて言わなかったのか、言えずにいたのかは分からないが、その幽香の表情を見てアリスは確かな手ごたえを感じた。
「ビスチェこそ魅せ下着の御柱! 霊夢の体型を想像してみなさい。つるーんでぺたーんな体型に大人の魅惑。その様相は正に背徳! 病める廃墟に咲く一輪の花! そして私!!」
私、私、私……と会場にアリスの凛とした声が木霊する。見えないお洒落にこだわる娘なら普通のぱんつなど履くわけが無い。シンと静まり返る会場内に、シャリシャリと林檎の皮を剥く音だけが響いていた。静かに林檎をうさぎさん(鈴仙)カットしていたのは永琳であった。彼女はアリスの主張に何ら澱むこと無く、言い返す。
「ビスチェ結構。けれど、貴女……忘れていないかしら? ビスチェはチラリズムというよりは寝室で真価を発揮するもの」
完全体へと変貌を遂げたアップルうどんげを頭から齧りながら大人の魅力を語る。
「今の博麗の巫女にはそんな相手、居ないじゃない」
「うぐっ……」
痛恨。見事なカウンター。自らの体験談を元にしたその主張は数倍の威力となってアリスを襲う。最早、再起不能だった。
『乾坤代理 ぱんつマスター 東風谷早苗』
「アノゥ……」
「あやや、ココは私の上司愛用の下着……褌でどうでしょう? いえ、私は勿論ふつーのですが」
「却下だ」
慧音。
「却下ですね」
四季映姫。
「……却下」
パチュリー。
「えぇ!? 機能的ですよぅ?」
「じゃあ何で貴女はやらないのよ」
ケールから抽出された飲料を飲み干し、グラスをタンっと響かせて幽香が文に質問する。
「お断りします。嫌です。一陣の風になびく褌天狗なんて汚名もイイトコです。崇徳サマ、ごめんなさい。やっぱり私、雑兵の烏天狗でいいです」
どうやら天狗社会には責任が重くのしかかる立場に行くほど褌を身につけなければならないらしい。藍は天狗文化の不文律にぞっとし、自らが天狗ではなかったことと主の紫に感謝するのだった。
◇ ◇ ◇
『幕間』
普通の人間ならば寒さで近づこうともしない湖。そんな湖の畔に冷厳と居を構える大岩がある。
普通の人間ならば寒さで近づこうともしない湖である。当然、その岩に寝そべっている人間は普通ではなかった。
「へへっ」
蓬莱の人の形、藤原妹紅その人。彼女は首から下げていた小瓶を太陽に透かして時折にやにやと顔を赤らめていた。慧音から誕生日プレゼントとして渡された灰の詰められた小瓶だった。幸運のお守りだと言われ、半ば強引に押し付けられるようにして渡されたソレは太陽の光に透かすたびに5色に光り輝く。
妹紅は慧音も可愛いとこあるじゃんかなぁと嬉しくなるのだった。
「な~に見てるのさ火の鳥さん」
「ん、ああ。チルノか」
空の蒼に透けるように、文字通り透き通った羽根を持つ少女が妹紅の視界に現れた。この湖一帯を縄張りとして持つ氷精、チルノである。
「なんかキラキラ光ってたわ! あたいにもちょうだい!」
「へっへっへへ。コレか? コレはね、大切な人からのプレゼントなのさ。だからお前にあげることはできないよ」
「大切な人からのプレゼント、かぁ。だったら仕方ないわね……」
「おや、意外。それでも欲しいっていつものお前なら言うと思ったんだけど」
「へへん! あたいは常に成長する女なのよ! 大切な人から貰ったモノなら、その人が持ってるのがイチバンなんだから!」
そういうチルノの首にキラキラと光るネックレスを見つけ、妹紅はなるほどとにんまり笑う。
「ん、そだね」
「そうよ! でも、ちょっとだけ見たいな」
「まぁ、見るだけなら別に良いけど……ホラ」
「雪の詰まってる小瓶ね。溶けないのかしら、この雪」
「あはは。太陽に透かしてみてごらん」
「ん~」
チルノは妹紅から受け取った小瓶を太陽の方へ向けた。太陽光が小瓶に差し込み、鮮やかな色彩をチルノに魅せたのだった。
「凄い! キレイ!」
「だろ? へへっ」
「キレイな毛!」
「そうそう……ケ、ぇっ!? え、ちょ、ちょっと、ええええええええええええええええ!!!!!!!!」
小瓶の中身は艶やかな髪の毛に変化していたのだった。
◇ ◇ ◇
室内は沈黙が淀んでいた。文論が打ち崩された後、誰一人、有効な決定打を放つことができないで居た。
「いや……まてよ、さっきの天狗の話じゃないが、何も女物に限らないんじゃないか?」
慧音が何かに気が付いたように沈黙を打ち破る。
「どういうこと……?」
疲労困憊のアリスが慧音に聞き返す。既に残機は風前の灯火だった。
「さっき香霖堂が~っという話になったろう? あそこなら男物の下着も揃っているはずだ。……トランクス、なんていう選択肢も浮上してくるのではないだろうか?」
なんという発想の飛躍。誰も思いつかなかったことを慧音は平然と言ってのけた。
「!」
「し、しかし、男と女では臀部の形状が違いすぎますよ!」
妖夢が慧音論に反撃する。
「霊夢の発育状況を考えてみると良いですよ。あれなら男物の下着でもまだまだ十分」
藍が慧音に援護射撃を加える。賛同者が増えることによりにわかに信憑性を増してくるのが論戦の醍醐味だ。
「それも違う気がしますね。……男物の下着と言うのは前に付属品が付いている分、女性が身につけた時ゆったりとしているんです。ぽんぽん冷えちゃいますよ」
四季映姫が的確に精密射撃をする。ぽんぽんとリズムよく、見事に急所をスナイプされた慧音はちゃぶ台に頭を沈めた。
「ぬぅ……放熱部は腋だけで十分、と言うことか」
こうして慧音論も打ち崩されることとなった。
「暖かさなら毛糸のパンツが良い。うん」
永琳の隣に座る藍がぽつりと発言する。
「毛糸のパンツ……暖かいな、アレは」
慧音は妹紅に編んでやった毛糸のパンツのことを思い出した。そういえば……妹紅は今頃ドコで何をしているやら。できることならぽんぽん冷やさないように毛糸のパンツを装着してくれるように。ささやかな祈りを込めるのだった。
「でしょう。それに材料の調達も容易。自らの下着を作成するという可能性を考慮しても良いんじゃないですか?」
「直穿きは在り得ないでしょう」
永琳が話の腰をバックドロップ。
「ぇ、そ、そうなんですか……?」
一撃粉砕だった。
『乾坤代理 下着信仰 東風谷早苗』
「すみません!!!」
「む」
慧音。
「ん」
幽香。
「ぉ」
藍。
「あの! あの!! 納得いかないんですけど!! なんで私だけ何回もテロップ流れてるんですか! しかも人格を疑われるような……」
急に声を荒げて立ち上がる早苗。どうやらテロップが気に喰わないらしい。
「何かと思えばそんなことか……全く、今はそういう流れではないだろう?」
「やっぱり早苗さんと下着は切っても切れませんから、ええ、大事なことなので何度も流させてもらいました」
「いいか、東風谷早苗。貴女が幻想郷に来てから人里の下着文化は文明開化を迎えたんだ」
慧音がけーね先生モードで早苗に話しかける。
「えぇ……」
「まずはホラ、ブルマ」
「あ、あれはその……押入れに入ってた小学校の頃のヤツが……」
「アレのおかげで寺子屋の小さい子供はみんなブルマだ。実に微笑ましい」
「う……」
「それにハーフパンツ。ブルマを穿くのを嫌がった男の子に大人気だ」
「それは中学校の頃のです」
「さらにはスパッツ。スカートを穿いたままでも運動ができると年頃の女性に人気爆発じゃないか」
「高校の頃の……」
「他にも、キャミやプリント柄パンツ等、貴女が伝えた下着文化は数を挙げたらキリが無い」
「っ……」
「遠慮しなくて良い、今や貴女は幻想郷の下着マイスター。発言は、重く受け止めるぞ」
早苗の脳裏に今朝のやりとりがフラッシュバックする。
(早苗、私達の代わりに会議に出ておくれ)
(はい、分かりました神奈子さま。お二人のために恥ずかしくないよう、風祝として精一杯頑張ります)
(早苗! 行くからには優勝だよ!?)
(はいっ! 必ずやお二人に吉報をお持ちします。では、行って参りますね!)
そして下着信仰>>>>>>二柱への信仰という事実。天秤の重量差は博麗大結界よりも分厚かった。梃子の原理で天秤から発射された二柱は音速で50マイルオーバーし、虚空へきらりんと消えた。
ぷっつん。
「ああもう、分かりましたよ! じゃあ言わせて貰いますけれど……ドロワ? 縞ぱん? あなた達は博麗霊夢の何を見てきたと言うんですか?」
「む……強気だ」
余りにも自信に満ち溢れている。東風谷早苗は揺るがない。
「ビスチェも褌もトランクスも毛糸のパンツもそうです。私達は少々、常識に囚われすぎていました。真っ先に切り捨てた、或る可能性を考慮するのを……」
「真っ先に切り捨てた……可能性……」
ゴクリ、と喉を鳴らして妖夢が早苗の言葉を反復する。一言一句を魂に刻み付けるかのように。妖夢には早苗の身体を包む神気が見えていた。彼女の言葉は真実のみを告げる。そんな確信に満ちていた。
「……っ!! いや、まさか、そんなことが……!!」
幽香が絶句した。
「ふふふ、勘の良い人ならもう気が付いたみたいですね」
「……言ってしまうのね」
諦観したパチュリーが静かにおみかんを頬張る。手は既に真っ黄色だ。
「言いますとも! 私に残っている儚き信仰の為に!! 博麗霊夢がそんなめんどくさいことするわけ無いじゃないですか!! そうです……即ち!!」
一呼吸。これがこの戦いを終わらせると信じて。
早苗は短い生涯で積み上げてきた全てを賭けた一撃を放つ。
「穿いてない!!!!」
「「「何ィっ!!!!」」」
この瞬間、今回の会議におけるMVPが決定すると同時に閉幕の鐘が鳴らされた。
『結論』
巫女は穿いてない。
◇ ◇ ◇
『幕間』
「よぉーっす。居るかい?」
「おや、誰かと思えば珍しいねぇ、霧雨の」
「久しぶり。アンタは留守番なんだ」
「いやぁ、私より早苗の方が弁が立つからね、今回の会議は任せたよ。それより、お前はどうなのさ」
「ん、ああ。口論は苦手でね、どうも口より先に手が出てしまう」
「ははははっ、違いないね! どうだい、こんなトコロまで登ってきたんだ。駆け付け三杯」
「良いねぇ。いただきます……ぶほっ!!」
杯をくいっと傾けた魔理沙はそのまま噴出した。
「これ、豚汁じゃないか……!!」
「今朝、早苗が作ってくれたのさ。どうだい、良い出汁が出ているだろ?」
「いや、確かに旨いけど。杯で呑むなよな!」
「今頃早苗、頑張ってるかねぇ」
「急に話題変えるな! ……まぁ、頑張ってるんじゃないか? アイツ、ド真面目だから」
「その真面目さがあの娘の売りなのさ」
二人は縁側に座り、空を眺めていた。流れる雲は緩やかに世界の果てへと押し流されていく。雲を押しているのは風だ。そしてここは風奉る社。流動、流転……魔理沙は雲を自分に見立てながら、行方をのんびりと目で追っていく。
「おーい、神奈子~、オヤツの豚汁~」
「はいよ~」
ペタペタと粘着質な足音を響かせて諏訪子がやってくる。魔理沙は視界を正面に戻す。目の前には大蛙が二足歩行で立っていた。
「うぉ、……諏訪子か。なんだかデコピン一発でぬるりと脱げそうなもの着てるな」
「これをヒゲ親父愛用のあんな安物と比べてもらっちゃ困るよ。4000kgの負荷まではノーダメージなすぐれモノなのさ」
「無駄に凄えな、おい」
よく見るとお腹に大きく神と描かれている。きっと謂れのある神具なのだろう。しかしどうにも欲しい、とは思えなかった。
「そんなことより神奈子、豚汁! 早苗汁!」
「はいはい」
突然の来訪者も静かに飲み込み、緩やかな時を刻む山の頂。今日も平和だな、と魔理沙は笑うのだった。
◇ ◇ ◇
「確認終了しました。やはり東風谷早苗の主張は正しかったようです」
文が涎を垂らしながらカメラに頬擦りする。どうやら決定的瞬間を収めることに成功したらしい。
「そうか、ご苦労だった。んじゃぁ最後に賞品授与。夕飯作らなきゃだからちゃっちゃとな、ちゃっちゃと」
勝者が決まってしまったので既に皆興味を失ってしまっている賞品授与タイム。束縛から解放された霊夢は半ば放心状態で裾から封筒を取り出す。
「この度はよくも私の……じゃなかった、会議における優秀な発言をしたのでコレを授与します」
「わぁ、何でしょう、何でしょう?」
月桂樹の草冠を頭に乗せた早苗が恭しくその封筒を受け取った。
「一年分のお食事券よ」
「珍しくマトモなものだな」
「私だってやるときはやるのよ。はい、これからも頑張ってね」
「? ありがとうございます」
「それじゃ本日はコレにて閉会とする。ありがとうございました」
「「ありがとうございました!!」」
和やかな解散ムード。ある者は家路につき、ある者は人里へ買い物へ行く。戦いは終わったのだ。少女たちは来るべき次の戦いまで一時の安らぎを得る。
「ああ、烏天狗にも素敵なプレゼントがあるから、ちょっと後で神社の裏に来いや」
霊夢は一目散に会場から駆け出そうとする烏天狗の肩をわしっと掴んでそう言い放った。彼女……射命丸文がその後どうなったかは知る由も無い。
「「撤収ー!!!」」
◇ ◇ ◇
バタバタドタドタと玄関で騒々しい音がする。
「神奈子さま! 今帰りました!!」
息を切らせながら戻ってきたところを見ると、よほど急いでいたのだろう。
「おぉ、お帰り」
「おかえり~早苗~」
コタツに入り、おみかんを啄ばみながら神奈子と諏訪子は早苗を迎えた。
「諏訪子様も、ただいまです」
「して、どうだったね?」
「えっへん! コレ見てください!! 今回のMVPいただいちゃいました。私」
封筒をぴらぴらと見せびらかす。よく見ると頭には勝者の証である草冠。
「おおおおぉぉ!!」
「凄いじゃないか早苗! これで風祝に箔が付いて一段と信仰を集めやすくなるねぇ」
神奈子は今回の会議で優勝し、名前を売ることで人里での信仰心をUPさせる目論見だった。そしてその目論見は見事成功したと言えよう。
「ねっ、ねっ、早苗! 賞品なんなの?」
神奈子の野心とは裏腹に、諏訪子は早苗が見せる封筒の中身が気になってしょうがないらしい。
「一年分のお食事券ですよ。ふふ、早速人里に下りてみんなでお食事しにいきましょう!!」
「そうしようそうしよう!!」
ガサガサと封筒からお食事券を取り出す早苗と眼をキラキラ輝かせながらその様子を見つめる諏訪子。神奈子はそんな二人を見て、たまにはこんなのも良いかな、なんて思った。
「外食なら出かける準備をしないとね、どれ、私もジャージから着替えるかね。諏訪子も、そのカッコじゃ外出られないでしょ? 着替えなよ~」
箪笥からごそごそ自分の外行きの衣服を取り出し、着替え始める神奈子。ふと、早苗と諏訪子の二人が異様に静かなのに気が付いた。
「あれ、二人ともどうしたんだい?」
早苗と諏訪子は燃え尽きていた。不思議に思った神奈子は、二人の足元に落ちているお食事券を眼にし、固まった。
『一年分のお食事券。コレを手にした栄誉在る東風谷早苗は本日より一年間、博麗神社に三食の食事を作りに来ること。材料は自前でよろしく。とりあえず今日はすき焼きお願い。異論は認めないわ。このやろう、覚えてやがれ』
神は泣いた。
この日、山の頂には激しい雨が一晩中降り続いたという。
◇ ◇ ◇
あの激戦から一ヶ月後のとある日。
「神奈子さま、折り入ってご相談があります」
「う……な、なんだい、早苗」
神妙な面持ちで早苗に声をかけられた神奈子。しかしながら、早苗の眼はドコと無く濁っていて、いわば死んだ魚のような目だった。ほんの一ヶ月で何があったのか。……聞くまでも無かった。
「私……気が付いたんですよ。神奈子さまには重要な要素が欠けていることに」
「重要な要素、ねぇ」
言われて自分を省みる。が、自分の無いものについて考えてみても答えは出ない。神奈子を客観視できる早苗が気が付いたのだ。よほど重要な要素に違いない。
「えぇ。その要素が補完されることで神奈子さまの信仰心は一層、強固なものとなります」
「ふむ……」
早苗がそこまで言うのだ。きっとコレは我等にとって有益なことに違いない。強固で揺らぐことの無い信仰を幻想郷で築きあげる。その野心は、まだまだ潰えていなかった。相変わらず、早苗の瞳が濁ったままなのが気になるが、神奈子は早苗に先を促す。
「ぱんてぃぶふぇいすです……!」
「ぱ……は?」
「今日、今、この瞬間から雨と風とぱんつを司ってください!!」
早苗は何かイケナイモノに目覚めてしまった。神奈子の脳裏に変態の二文字がよぎる。
「ちょ、ちょっと早苗!?」
「さぁ、さぁ!! まずは信仰の対象であるぱんつを御柱に装着するんです!!」
後に、揺ぎ無い信仰心で幻想郷の下着神として君臨することになる、八坂神奈子の起源神話である。
☆おしまい☆
この手の話で穿いてないオチってのはもはや定番中の定番なのです
過去にもうたくさんの穿いてないオチが投稿されています。
だからオチが読めちゃったのが残念かな
でも定番ネタとして楽しめました
面白かったです。タイトルの付け方が秀逸だと思いました。
撮影が霖之助なのも薄々思ってました。
でも御ぱんつ柱は読めなかったので私の負け。