この作品は特定のキャラの関係が親子になっていく過程を含んでいます。
そういったものが苦手な方は申し訳ありませんがブラウザのバックで戻られる事をお勧めします。
紅魔館の門番は子供に弱いらしい、という噂が最近人里の一部で密かに囁かれていた。
新参者の吸血鬼と幻想郷の管理者との契約を皮切りに人里と紅魔館との交流が始まった当初、蹂躙されかけた人々は当然の事ながら恐れおののいた。
八雲や博麗の巫女のお墨付きがあるとはいえ、長らく平和を保っていた里は未曾有の危機に萎縮しきっていた。
売買をしたいという要求に、下手に断って藪を突付くわけにもいかないと渋々ながら従うしかない。
しかし人里に残された爪痕は深く、紅魔館の従者が人里に入れば混乱を招く事は必至だった。
そこで苦肉の策で里に数ある商店の代表を募り、月毎に代表者が交代で伝えられた物品を紅魔館へ届けるというシステムを作った。
初めは戦々恐々としていた人々であったが、もともと大らかな気質だった彼らはすぐに慣れた。
そこにはいつも彼らを迎える赤髪の妖怪があまりに人間臭く、毒気を抜かれたという面も多分に影響している。
今ではすっかり形骸化したこのシステムも、毎回多量の品を買い求めてくれるお得意様への感謝として続けられていた。
無論今では紅魔関係者も問題なく人里に入れる。
そうした中で彼らの興味が、黙っていれば誰もが振り返る美貌を持つのに妙に人間臭く、どこか親しみやすい妖怪に集まるのもまた必然であった。
やれ居眠りしていたら帽子に鳥がとまっていただの、帰る時にみたら鳥がさらに増えていただの。
また朝早く行くとゆるやかな舞を舞っていた。流れるような身のこなしと紅く美しい髪が動きに合わせ舞い踊り
目を閉じ集中しているその様はどこか侵しがたい神聖な空気を醸し出していた。
汗一つかくことなく、最後に礼をもって終った舞に見惚れた里の者が賞賛を送ろうと話しかけたが反応がない。なんと居眠りしながら舞っていたらしい。
そうした発見を楽しんでいた彼らの最近の話題が「門番は子供に弱い」というものであった。
道中で見かける氷精や暗闇の妖怪、猫又や夜雀といった見た目の幼い妖怪が門番とじゃれている光景をよく目にした。
弾幕が飛び交うような場面もあったが、大抵は門番の体にへばりついて遊んでいたりお菓子を貰い夢中で食べたりしていた。
彼女の膝を枕に3人ほど眠りこけていた時もあった。その様は到底悪魔の屋敷と囁かれている場所とは思えないであろう。もはや託児所である。
こうした光景を目にし続けた彼らは、門番に対して人間相手に持つような親近感を覚え、会えば愚痴り愚痴られたりする程の気の置けない間柄となった。
しかしそこは悪魔の館、いらぬ火種は撒くまいと紅魔館に赴く者達だけの話題にとどめ、里の人間にはそこまで恐れる必要はなさそうだとのみ伝えていた。
だから彼らは知らなかった。
かつて紅魔関係者が恐れられていた頃に、赤髪の妖怪が里の守護者や数多くの孤児を育てた大人達に頭を下げ
人間の子供の育て方や適した環境等を聞いて回っていた事を。
その真摯さに打たれた大人達は、人間の子供の幸せを願う心優しい妖怪があの館にいる事を、彼らよりも随分前に知っていた。
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「このままじゃダメよ」
「またですかお嬢様、最近そればっかりですね。ため息ばっかりついてると幸せが逃げちゃいますよ」
「それが五世紀以上を生きた妖怪の言葉なの。あなたと言葉を交わせば交わすほど思うわ。このままじゃダメって」
「机に突っ伏さないで、レミィ。本が崩れるわ」
紅魔館の一室。通気の事など一切無視された窓が存在しない部屋の中、レミリアスカーレットは机に突っ伏し愁いていた。
その傍らには古風なメイド服に身を包んだ赤髪の妖怪こと紅美鈴が、その向かいには山と積まれた本に埋もれるように佇む魔女パチュリーノーレッジがいた。
美鈴が慣れた手つきでそれぞれの前に紅茶を置き、主の横へ戻る。その一連の動作を横目で見ながらレミリアは盛大にため息をついた。
「武術をやっているからかしら。黙っていれば悪くないのよね、あなたの場合。
でも逆にあなたがずっと黙っていたらとてつもなく不気味ね」
「なんてこと言うんですか。私にどうしろと」
「諦めなさい。彼女ほど使えるメイドは今ここには存在しないわ」
「そんな事は分かってるわよ。よくもまぁあの使えない妖精達を上手くまとめていると思うわ。でもそれはそれ、これはこれなのよ!」
「あなたもしつこいわね。私は今この状態がベストだと思うけど。あなたも美鈴と過ごせば無駄に尖がった所も丸くなれるわよ」
「それをいうなぁぁぁぁぁ」
あまり触れて欲しくないナイーブな部分にダイレクトアタックをかまされたレミリアは思わず叫んだ。隣の美鈴は困った顔で笑っている。
そう、ここ最近レミリアの目下の悩みがそれであった。現在のレミリア付きのメイド長、紅美鈴の存在である。
正確に言えば彼女が隣にいる事で形成される空気が問題だった。
その空気は程よい具合に気が抜けていて、そこに浸かった者は否応なしに精神が沈静化されてしまうのである。
普通の人間にとってそれはむしろ大きな美点だろう。だが彼女は吸血鬼、それも古の頃より恐れられた伝統ある血筋の末裔だ。
その身に流れる血の高貴さも自負している。
そんなレミリアが彼女の空気にあてられ、日々丸くなっていく自分に危機感を募らすのも無理のない話であった。
「この天然お気楽のー天気オカン妖怪がいると調子が狂って仕方がないのよ!」
「机を揺らさないでって言ったでしょう、そもそもオカン妖怪って何よ」
「イメージよイメージ!言わんとすることは分かるでしょう!」
「・・まぁなんとなくは。でも適度に丸くなるのは良い事よ、レミィ。ここは幻想郷、郷に入ればなんとやらよ」
それまで激昂していたレミリアは途端に萎んでしまう。隣の美鈴はのんきに口に手を当ててあくびをしていた。
「・・・確かにここは私たち人外にとっての最後の砦よ。それが平和と調和が保たれている現状は良い事だと分かってる」
「あら、本当に丸くなったわね。前のあなたじゃそんなこと間違っても口に出さなかったのに」
「お陰様でね、そこのオカン妖怪が四六時中傍にいれば嫌がおうにもこうなってしまうわ」
大仰に肩をすくめ、ジト目で美鈴を見る。美鈴は指示を仰ぎに来た妖精メイドにスケジュールを伝えていた。
妖精は基本小柄である。長い年月を経て心身ともに成熟するタイプも僅かながらいるのだが
現在の紅魔館にはそうしたタイプの妖精はほとんど揃えられなかった。
そのため館で一番大きい美鈴と妖精達の情景は、傍から見ると親が子に言い聞かせているようだ。
その光景を見つめ、何度目かのため息をつく。
「見てよ、あの締りのない顔。妖精達も嬉しそうにしちゃって、あんな顔されたら力が抜けて敵わないわよ」
「確かにね。それよりこの間からずーっと同じ愚痴の繰り返しよ、いい加減本に集中させて」
ちらりと美鈴をみやり、すぐ本に視線を戻す。そして危なげない手つきで紅茶を探り当て飲む。
この少女が視線を本から外すのはこれが今日初めてであった。
「あなたのそのふてぶてしい態度が命綱だわ」
「・・そんな理由で連日私をここへ?」
「私にとっては死活問題よ・・・でもそうね、本当に何とかしないと」
吸血鬼にして貴族――生粋の支配者たるレミリアがここまでやられっ放しなのは非常に稀である。
それはひとえに美鈴を嫌いになれない事が最大の理由であった。
彼女が私に誠心誠意尽くしてくれているのは間違いない。気配り気遣いはお手の物、料理も掃除も第一級。
なかなか言う事を聞かない妖精も彼女が相手だと進んで手伝いだす。
そして下手すると私より頑固なところがある妹のフランも彼女にはとても懐いている。
気を使う能力で狂気を抑えているのか、はたまたあのOKF(オカンフィールド)のためか。
彼女と無邪気に遊んでいる様は平和そのものである。しかし羽目を外しすぎたのか黒こげ一歩手前な時もあった。
よくもまぁそんな目にあっても平然と笑っていられるものだ。
そして笑顔。この笑顔が曲者だ。何がそんなに楽しいのか事あるごとに私に笑いかける。ほんの小さなことに一喜一憂して楽しそうに語りかける。
私は吸血鬼だというのに。その気になれば一瞬で叩き潰す事も可能なのに。
獅子身中の虫との考えはあまりに馬鹿馬鹿しく一笑に付していたが、むしろそれ位に思っていた方が良いのではないかと最近特に思う。
この唯我独尊を地で行く吸血鬼に、平和を謳歌するのも悪くないと思わせる時点で異常だ。
「そうよ美鈴!そういえばあなた公の場で私の隣にいるときはとても優雅で知的だったじゃない。
あの空気なら私も満足よ、以後私の隣ではそうして頂戴」
「えー嫌ですよ、あれ凄く肩こるし。それに家族相手にカッコつけてどうするんですか」
「な、なんの億劫もなくこいつは・・・私は吸血鬼であり貴族なのよ!
現状を享受し多少腑抜けるのは目をつぶるわ。だけどせめて優雅な時を過ごさせて!」
「でもずーっとあんな風に振舞ってたら倒れちゃいますよ、今でも十分大変ですし。
ですから前にも言った通りお嬢様の力で理想の従者を手繰り寄せて下さい」
レミリアは運命を操る程度の能力の保持者である。
外の世界の人間なら誰もが羨む、理を統べ世界を思うがままに操るその力をレミリアはあまり快く思っていなかった。
あまりにも思った通りになり過ぎるからである。能力を使うと世界から一切の厚みが消える、とは以前パチュリーに語った言葉だった。
一度見て知った事象のどこに感動など生まれるものか。
その話題が出たとたん苦虫を噛み潰したような顔をしたレミリアは、いつもならここらで終結していく話題を今日は止めなかった。
「もうそれしか手はないかもね。あなたにも次のポストを用意してあげるわ。とびっきりの閑職にしてやるから覚悟しなさい」
「?ああそっか、そうすると私はお嬢様付きじゃなくなるんですね。それは寂しいなぁ」
「・・・だったら努力すればいいでしょ。知的で優雅、完全で瀟洒な従者になるように」
「すみません、私は私にしかなれませんから。でもたとえ離れてもお嬢様の事は大好きなままでいますからね」
「っっ、このっ、バカメイド・・・」
駄目だこいつ、早くなんとかしないと・・・このままでは改善しようとする気まで削がれてしまう。
赤くなった顔を親友に散々おちょくられながら、心底思うレミリアであった。
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外の世界――生まれも育ちもそこだった私がそう表現するのは可笑しいが、あの場所のことはほとんど記憶にない。
正確に言うならば記憶に残したいと思う出来事などありはしなかった。
日々異形の者の居場所がなくなり、夜の闇も人工の光に掻き消され
信仰も本来の姿とはかけ離れた、自分たちの都合の良いように捻じ曲げられた紛い物が蔓延る社会。
ここを知ってからはそのように解釈している。もっともこの認識も後付の物だ、真偽はどうでもいい。
私は人の身でありながら時を止める能力を持っていた。
それは人と違った力を持つ者ならば、たとえ同族でも排除したがる人間にとってさぞかし恐ろしく思えただろう。
私は「物心がつくであろう」時期、さる機関に籍を置いていた。
その機関の名前は知らない。場所も知らない。意義も立場も知らない。知っているのは目的だけ、すなわち人ならざる力を持つ者の排除である。
そこで私は管理されていた。育てられてはいない、あれは機械の整備と同等の管理だ。
人外を効率的に始末する方法のみを教えられ、しかしそれを決して人に向けさせないように何重にも刷り込まれる。
他の情報は一切与えられず、外で見聞きした余計な情報は記憶を操作され消された。
薬は使われなかった、と思う。
でなければ今こうして親しい者の幸せを願い、敬愛する主に心からの忠誠を誓い、移ろいゆく日々を楽しめるこの心は持てなかっただろうから。
日々人外を狩り、狩った経験以外の記憶を消されては適度な運動を課されて寝る。
そんな環境でまともな人格など形成されるはずもなく私の心には何もなかった。ただ機関の意のままに動く駒だった。
ストレスを感じていたかは覚えていない。それ以外の生き方を知らなければ感じようもないのだろうが、恐らく心の奥底は擦り切れていたのではないかと思う。
顔も覚えていない機関の人間達が、度々私に嫌悪を隠さない表情を向けていたことだけはしっかり覚えているから。
最終的には私自身をも排除しようとしてたのか、それとも使える限り使い切って捨て置くつもりだったのか。私には知る由もない。
希望的観測だが、一切の力を無くした後ならば開放されていたかもしれない。力を無くせば報復は不可能、機関の証明も不可能だ。
甚だ甘い考えだが、こういう思考が出来る今の自分は嫌いではない。そう思えるようになったのも彼女のお陰だ。
しかし力を失う前に私は急な開放を迎えた。ある夜、原因不明の高熱におかされた私は目を覚ますと見知らぬ土地に放り出されていた。
きっかけも理由も定かではない。ただ普段あまり思考しない私が「消えてしまいたい」という思いを日増しに強めていた事は覚えている。
消された記憶の中にそう思わせる何かがあったのかもしれない。あるいは体だけに養分を与えられ、心が育ちたいと悲鳴を上げていたのかもしれない。
ただ一人で部屋の外に出た事がなかった私は混乱するのみであった。
衣服の下に感じる土の感触。身を刺す冷たい草木の香る空気。見上げれば木々をそこだけ切り抜いたかのような空が見え、丸い月が見えた。
外に出る時はいつも魔力や身体能力を底上げする術衣を着せられていたので、初めて経験する感覚や景色に戸惑い困惑した。
しかしその感情を抑え現状をどうやって解決するか、その方法を知らなかった私は無表情でただただ月を見上げていた。
何分経ったのか。穏やかだが容赦なく体温を奪う風から少しでも逃れようと体を丸め、改めて月を見ようとして、そこで私は止まった。
いつの間にいたのか、それは月と私の間に浮かび、人外の印たる魔力を秘めた翼を夜空に広げていた。
虚をつかれ呆気にとられている私を悠然と眺め、脇には夜中にも映える真紅の長い髪をもつ妖怪を一歩後ろに佇ませていた。
人外――私の数少ない経験から条件反射的に滅ぼさんと身構え武器を探ったあたりで気付く。今の私は丸腰だ。
今まで人外を狩る時は私はそれらを観察する事はなかった。力を使うタイミングや急所などを傍にいた人間に指示され、言われるがままに実行した。
その為彼らがどういった佇まいをしてるのか知らなかった私は、その時初めて正面から対峙した。そして知った。
なんて大きいのだろう。見てくれではない。アレの発する存在感や力、まるで自身が夜の支配者とでも言いたげな自信に満ち溢れた表情と強い眼差し。
人間にしては破格の能力を持つ私だが、アレの前では自分の力のなんと矮小な事か。そんな規格外の存在が私を見つめている。
自分の足が頼りなく震えていることに気付き、初めて体験する心の震えに戸惑う。私にできる事は目をそらさずに見返す事だけだった。
そんな私を見下ろし眺めていたそれは言った。
「ようやく見つけた。待ちわびたわよ、ようやく私の元へ現れたのね。運命に導かれた最高の従者さん。
こんなに小さいとは予想外だけれどそれもまた一興だわ」
「お嬢様が断片的にしか能力使わなかったから探す手間がかかったんじゃないですか。しかも見つけたのは私ですし」
「ちょっとうるさいわね、こんな時ぐらい黙ってなさい!あなたがそんなだから能力使わざるをえなかったんじゃないの。
あれの限定使用はもの凄く疲れるのよ」
「まぁまぁお嬢様、彼女が呆気にとられてますよ。でも本当に小さな子供ですねぇ・・・」
「誰のせいだと思ってるのよ、まったくこれだから・・・」
それの第一声は威圧的で人の身には厳しい重圧を放っていて、背中にじっとりと汗が滲み衝撃に身を竦めたが
赤髪の妖怪が絡んだ途端にプレッシャーは霧散した。
多少落ち着き余裕を取り戻した私は未だ言い合っている連中を尻目にさっきの言葉を反芻した。私を待ったいた、と言った。最高の従者とも。
一体何の話だ。私がここに来る事を知っていたのか?最高の従者って何だ。私に何かを求めているのか。それなら私を食べに来たのではないのだろうか。
私が知っている人外の情報など人食いという事くらいしかなかったので、そうでなければ慌てる必要はない。
しかし最高の従者というのは貴重な食べ物なのかもしれない。
それ以外に振る話題もなかったので、「私を食べにきたの?」と訊ねてみた。
はっとした表情でこちらを見たそれは、一度咳をつくとさっきよりは若干軽い重圧を放ちながら答えた。
「私に人をまるかじりする様な野蛮な趣味はないわ、あなたを食べにきたわけじゃないわよ」
「じゃあ何しに?」
「あなたを迎えに」
「何故?」
「あなたが最高の従者になる運命を見たからよ」
それは腕と翼を大きく広げ満面に喜色を讃えながら言った。隣の赤髪も微笑みながらこちらを見ている。
「最高の従者って何?」
「私の理想の僕になるって事。あなたはこの私にふさわしい完全で瀟洒な存在になるのよ」
「・・・よく分からない。私は何も知らない。何も知らないから私には何も出来ない」
「出来るわ」
真っ直ぐに私を見据え差し出された手と、力強く一分の迷いもないその言葉は今でもはっきりと覚えている。
見知らぬ土地に着のままで放り出され、無意識に萎縮していた私を全肯定する言葉。
「私の力に間違いはない。私がみた運命は覆されない。確かに今のあなたはとても不完全で脆い存在。
でもそんな事はどうでもいいの。今までどんな道を歩んでこようが、これからあなたがこの幻想郷で最も完璧な従者になる未来に変わりはない」
相変わらずそれがいっている意味はよく分からない。
それ以前に自分には何があって何がなくて、何が必要なのかも分からなかった。
「時間は十分あるわ。あなたが私に仕えるに足る存在になるまで待っていてあげる。
今はこのレミリアスカーレットを信じ手をとりなさい。そして私の横で可憐に咲き誇りなさい」
でも、その手を取ることが正解なんじゃないか。少なくとも私はその手を取りたがっているんだと思う。
今まで何かを自分の意思で決めた事がなかった私は、けれども確かにそう思い、差し出された私と同じくらいの大きさの手を掴んだ。
「ぐっすり寝ちゃってます。疲れてたんでしょうね。少し熱もあるみたいだし、起こさないか心配しましたけど大丈夫でした」
「人間は脆いからね。ましてやあんな子供だもの、私たちと同じと思ってたらすぐに死んでしまうわ」
「気をつけないといけませんね。しかしそれにしてもあの子が・・・」
「何?私の力を疑っているのかしら?」
「そんな事はないんですが・・・あの子、気の動きが殆ど感じられませんでした。何かを考えれば私には分かるんですけど」
「まぁ、確かに訳ありみたいね。でも私には関係ないわ。あの子の事はあなたに全部任せるから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「あなたに任せるって言ったの。それが私の見た運命。今日からあの子を完璧な従者に育てなさい、これは主としての命令よ」
「ちょっ、ちょっと待ってください!色々言いたい事はありますが、何で私が?」
「あなた以外に人間の子供を育てられる人材がウチにいるとでも?」
「あ~~~~~・・・いや、百歩譲って私が育てるとしましょう、でも私には完璧に育てるなんて無理ですよ!メイド長としての仕事もありますし」
「最低限の仕事さえすればそれでいい。そしてあなたはあなたが思った通りに育てればそれでいい。
さっきはああ言ったけど完璧だの何だのは考えなくていいわ」
「ですが・・・」
「しつこいわよ。私はあなたを信じて何も口出ししないから、あなたも私の言葉を信じなさい」
「・・・わかり、ました」
「ふふっ、そんなに動揺してるあなたを見るのはいつ以来かしら。前途有望な従者も迎えたし、今日はいい日だわ」
「人事だと思って、まったく・・・」
「普段私があなたに思ってる事が少しでも伝われば僥倖ね。それじゃあ期待しているからしっかりやりなさいよ、美鈴」
「かしこまりましたお嬢様。ご期待に沿えるよう頑張ってみます」
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翌朝部屋に微かに響く私以外の寝息を聞き、思わず頬をつねった私はこういう所が人間臭いと言われる所以であると苦笑した。
メイド長としてこの館に勤めてからの私は珍しく働きづめだった。
本来物臭な所がある私だが、色々とお世話になった旦那様に娘達をよろしく頼むと言われたからにはそうも言ってられない。
さぁまずは人脈の確保と意気込む私を尻目に、幻想郷に来て早々一悶着起こしたお嬢様には今思い出しても頭が痛い。
昨夜あの小さな子供相手にかましたプレッシャーを人里で放てば、妖怪の相手をする機会が多いここの住人なら
自分の身や家族を護る為に戦おうとするのは当然だ。
こちらに来る前私が散々殺してはダメだと言い含めていたので、お嬢様曰く一人も殺してはいないらしいのだがそれでも里の被害は甚大だった。
理由を問うと「予想よりも強かったので思わずノってしまった。特に反省はしていない」などとのたまった。
確かに外の世界では色々と不自由な思いをしていたようだが幾らなんでもはっちゃけ過ぎである。
罰としてそれから1週間食事に混ぜる血をAB型にした。
本当は1ヶ月続けようと思ったのだが余りにも悲しそうな顔をするので止めてしまった。つくづく私は甘い。
最悪の形での挨拶を済ませ人材――こと仕事というジャンルにおいては他の追従を許さない人間の確保が絶望的になってしまったので
ここが正念場だろうと一念発起し朝も夜も働き通しで最近体がだるい。
きまぐれな妖精たちを周辺から集め、小さい体で館の掃除や雑務をしてくれる様子を見ては和みつつ、日々家事給仕に専念してきた。
いまだ吸血鬼の影に怯え、嫌々ながらも品を届けてくれる人々に最大限気を使いもてなす。
依然恐怖は抜け切っていないようだが、多少気を許してくれるようになったと思う。
そんな調子で日々少しずつ少しずつ前進してきたが、しかし今日は今までとは次元が違う難題が私のすぐ傍で可愛い寝顔で寝ていた。
「寝顔はやっぱり可愛いですね・・・」
昨日見た時はあまり表情を変えず、感情の揺らぎもほとんど感じれなかったこの子も寝顔は歳相応のあどけないものだった。
キメの細かい柔らかな髪を起こさないように撫でつつ、しばしの間現実逃避してみる。
――十六夜咲夜。
それが彼女がお嬢様が付けられた名前だ。お嬢様の手をとり紅魔館に向かう途中で寝てしまった彼女に
そういえば名前を聞けなかったとお嬢様に尋ねてみた。
お嬢様はこの子は名無しだと語った。正確には運命視した際に、赤子だった彼女を抱いた母親らしき人物が咲夜と呼んでいる場面は見たらしい。
しかしその後長い期間彼女は名前を呼ばれず、これは自分だと認識している名前はない、とのことだった。
あまり深く物事を考えない私でも、その話を聞いたときは落ち込んだ。どのような扱いを受けたら名前すらつけられない状況になるのだろうか。
せめてお嬢様が付けられた十六夜咲夜という名前を気に入ってくれればと思いながら、今では目をつぶってでも着れるようになった服に袖を通す。
メイド服――大陸出の私にはあまり馴染みのなかった服だが、今はこれを身に着けると気が引き締まる。
以前紅魔館の名に恥じないようにと、お嬢様が全てのメイド服を真紅に染め上げようとした事があったがあれには度肝を抜かれた。
泣いて引き止めたのは今でも正解だったと思う。名前に恥じないとか意味が分からない。想像するだけで目が痛くなる。
そんなちょっぴりいわくつきの魔法の服を着込んでも、私の心は重かった。
これから一人の人間の子供を育てる。正直、荷が重過ぎる。
別に彼女の面倒を見るのが嫌な訳ではない。その言葉の持つ責任があまりにも大きすぎてしり込みしてしまうのだ。
人間は妖怪と比べると遥かに繊細で複雑な心を持っている。
妖怪にも複雑で捻くれた性格をしている者もいるが、そういった手合いはそもそも寿命が桁違いだ。
人間はその短命さゆえに生き急ぎ、駆け足で妖怪を追い越し、追いかけても手が届く前に死んでしまう。
その短い生命の中で必死に幸せを掴もうともがき続けるのが人間だ。
そんな人間を私のようなお気楽妖怪が幸せに出来るのか。幸せを掴む力を分けてあげられるのか。
自信など持てない。でも、やるしかない。
しかし何か大事をなす時は、地盤がしっかり固まってないといざという時に踏ん張れない事を知っているので、さしあたって私は何をすべきだろうか。
と、私が思考の海に沈んでいる間に彼女の目が覚めたようだった。
「・・・・・・・・・・・・・」
ゆっくりと上半身を起こしたはいいが、その目は半分も開いておらず視点も定まっていない。
緩慢な動作で何度か部屋を見渡し、自分の足にかかっている布団を見やり、最後に私を見た辺りで彼女の意識が固まっていくのが分かった。
小さな子供共通の可愛らしい仕草に頬を緩ませたが、その目の奥底から何の感情も伝わってこない事実に冷や水を浴びせられた気分になった。
そうだった。この子は無意識の時は歳相応のあどけなさがあるのだが、それはあくまで本能による動作だ。
お嬢様の迫力に少しだけ揺らいでいたがあれも脊髄反射のようなものだ。吸血鬼の力を前に無反応でいられる生き物などそうはいない。
こうして一対一で向かい合ってみるとよく分かる。彼女の心はまるで動かない。そういった事に聡い私が何も感じられない。
私の存在に気づいた時に何かしら反応があると踏んでいたが、見事に裏切られた。これはどうしたものか。
私が以前人里で過ごしていた時の彼女と同い年くらいの子供たちは、あの小さな体の何処からそんな力が湧くのか不思議な程活力に満ちていた。
程度の差はあれど、いつでも力一杯。加減を知らず感情に素直で、笑いたい時に笑い泣きたい時に泣き怒りたい時に怒っていた。
大人になるにつれそうした正直さを本音と建前で隠すようになるのが人の常だが、この子はそれとは根本的に違っている。
感情そのものが欠落してしまったかのような、静かで何も語る事のない瞳。これではまるで人形と変わらないじゃないか。
一体どんな仕打ちをすれば子供の無邪気さを根こそぎ奪えるというのか。ふつふつと沸いてくる怒りを自覚し、冷静になるよう努める。
この子の事を何も知らない癖に、勝手な想像で怒っている場合じゃない。何も知らない今は普通に接するよう心がけよう。
「おはようございます咲夜さん。昨夜はぐっすり眠れたようで何よりです。気分はいかがですか?」
「・・・」
「あの後私が寝ちゃった咲夜さんをおぶって連れてきたんですよ。少し熱があったので心配しました。今は大丈夫ですか?」
「・・・」
「もしもーし、起きてますかー?実は目を開けたまま二度寝するのが趣味だったりとか」
「・・・」
見事に会話のキャッチボールが成り立たない。私の顔を見てはいるが、私に言葉をかえそうとしている風には見えない。
ちょっと早口すぎたか?いやいや、聞き取れない程早かったわけでもあるまい。それに昨夜はちゃんとお嬢様と受け答えしていた。
となると、この子なりに私の言葉を飲み込んでいる最中なのだろうか。傍から見てると違いが感じられないのだが、ここは待ってみるか。
「・・・咲夜って何?」
「えっ?ああっ、ごめんなさい。説明するのを忘れてました。そこからまず説明させてもらいますね。
お嬢様、昨夜私と一緒にいた方があなたに名前を用意してくれたんです。十六夜咲夜、それがあなたの名前」
「・・・名前」
「そうです。これから一緒に住むのに呼び名がないと不便ですからね。それとも何か別にこれがいいって名前があったりします?」
「・・・・・・・・・分からない」
「―そう、ですか。でしたらあなたは今日から十六夜咲夜さんです!とっても素敵なお名前だと思いますよー」
「・・・・・・」
やはり思案中だったようだ。能力をフル活用するだけでなく、ちょっとした癖なんかも覚えないとこの先随分と難儀しそうだ。しかし、分からない、ときたか・・・
咲夜という名前を伝えた時はほんの少し、ごく僅かに気が揺れたのが分かった。微細すぎてどういった種類の感情なのかは分からなかったが。
しかし彼女に質問をした途端さっきまでの揺らぎがかき消えてしまった。そこには先ほど感じた感覚さえ疑いたくなるような静寂が横たわるだけで。
それは緻密に描かれた人気のない湖面の絵を見ているようで、なんともいえない寂しさを伴う。これの意味する事はどういう事か。
恐らく今まで彼女は自分の意見を聞かれたり質問された事などなかったのだろう。
何故なら質問を投げかけられた時、強固な自我を持つ人間や妖怪は考えまいとしても無意識下でその問に対する答えを模索する。
その逡巡は僅かな波となり、私の気を使う程度の能力を最大限活用すればそれを感じとることが出来る。
それが彼女の場合無かった。それは答えないのではなく答えられないのだ。昨夜本人が言っていたじゃないか、私は何も知らないと。
でも、それも今日で終わりにしよう。なんとなく、お嬢様が彼女を私に預けた訳が分かった気がした。
「それでは改めまして自己紹介をさせて下さい。私の名前は紅美鈴。今はこの紅魔館のメイド長をやっています。
そして今日から咲夜さんと一緒の部屋で暮らす事になったので、これからよろしくお願いしますね」
「紅美鈴」
「はい。美鈴でもメイでもメイド長でも好きな様に呼んで下さい。そうですね・・・私は未来のメイド長殿に敬意を表して咲夜さんと呼ばせてもらいますね」
失礼な話だが今見る限りとてもそうは見えない咲夜さんは、あのお嬢様が完璧とのお墨付きを与えるほどの有望株。尊敬する気持ちがあるのは確かだ。
冗談めかして言った言葉に咲夜さんは僅かに反応を示す。やはり先ほどの揺れは幻じゃなかった。
「・・・メイド長?」
「はい、お嬢様曰く咲夜さんは凄い従者になる素質があるらしいです。今はまだ実感がわかないと思いますけどね。ではちょっと失礼しますねー」
多分嫌がらないだろうなと思いつつ、念の為確認を入れてから咲夜さんの額に手を当てる。
案の定されるがままでいた。うん、熱っぽさもないし体調の方も良さそうだ。気の巡りも悪くない。それは体に限った事だが。
体調を確認したところでそろそろ時間が迫ってきた。思ったより長く話し込んでいたようだ。
「それでは咲夜さん、体調も良さそうなので今日は私の後をついて来て下さい。仕事を済ませながら館の事を説明しますので」
「わかった」
もっと咲夜さんと語りたかったが私が指示を出さないと館内の日常に支障をきたしてしまう。結論を出すのは時間をかけて話し彼女を知ってからだ。
先ほどの様子とはうって変わり、しっかりとした足取りで私の後を追って来る。そんな咲夜さんを伴いドアを開けた。今日も一日が始まる。
「と、こんな感じです。大所帯なので部屋数は多いですけど、通路自体は単純なので部屋の番号さえ覚えれば迷う事はありませんよ」
妖精メイドへの指示を終え、咲夜さんを連れ立って館をぐるっと一周する。大雑把に説明しながら、早く歩きすぎないよう気をつける。
彼女はやはり大人しく従順だった。そういった意味での心配はしていなかったが、逆に妖精達が彼女に興味津々の様子だった。
外の世界でもたまに子供が妖精を見る事があるように彼らは子供好きだ。子供の持つ純粋さに共鳴して惹かれるのかもしれない。
初めはわんさか集まってきた妖精達も、何の反応も示さない咲夜さんにすぐ飽きてしまったのか、五分もかからず騒ぎは収まった。
・・・これはいささか館内の人情レベルというものも考慮していかなければならないだろう。
あのチビッコ妖精達にそれを求めるのは至難の業になること請け合いだが。
なるべく避けたいが、もし急用などで咲夜さんから離れる時には僅かにいる大人の妖精達に頼もうか。
いや、彼女達には普段から小柄な妖精を纏めるのを手伝ってもらっている。その上これから私は咲夜さんにかかりっきりになると考えた方がいい。
仕事が目に見えて増えるであろう彼女達にこれ以上負担をかける訳にもいかないよなぁ。
とりあえずメイド長うんぬんよりも館での身の振り方、過ごし方を教えるのが先決だ。
「とりあえず館内はこんな感じです。それからとても重要なことなのですが、ここの地下室には絶対に一人で近づいてはいけません。それを約束してくれますか」
「わかった」
「ありがとうございます。地下室以外はさほど危険な場所はないので安心してくださいね」
「・・・」
必要最低限の言葉以外は咲夜さんは話さない。決められた規則に従う、という事にはすぐ理解を示すのだが。だが今はそれで十分なのかもしれない。
咲夜さんは時を止める事が出来る、というのが案内がてらに交わした会話で明らかになった。
確かにたいした力だ。それならお嬢様が咲夜さんを推す理由も分かるし、外の世界でどういう扱いをされたかもおおよそ見当はつく。
だが妹様の前ではその力をもってしても危険すぎる。普段はとても素直で可愛い方だが、一度スイッチが入ってしまうと手を付けられなくなる。
私のお願いに素直に頷いてくれているので一人で入り込む事はないだろう。それ以外ははっきり言ってどうとでもなる。
「動き回ったし、丁度いい時間なんでそろそろご飯にしましょう。咲夜さんは何か食べられない物はありますか?」
「・・食べられない?」
「ああ、好き嫌いの話です。ピーマンが食べられない、とかカボチャ嫌いとかあります?」
「・・特にない」
「分かりました。それじゃあ腕によりをかけて作るので楽しみにしててくださいね」
恐らく杞憂であろう質問を投げかけ、食事の支度へと取り掛かる。予想した通りの返答に、私はふと気付いた。
お嬢様は言わずもがな、自由気ままな妖精もはっきり好みが分かれている。好き嫌いがないなんてこの館では私以外では初めてかもしれない。
多種多様なニーズに応えるため紅魔館の料理のレパートリーは現在かなりの数に及ぶ。
幸いお嬢様以外の者はさほど味に頓着はなく、私が一から叩き込んだ妖精たちの付け焼刃な料理でも十分賄えていた。
しかし人間の咲夜さんになると話は変わってくる。
妖精相手の料理なので人に食べさせるのに抵抗がある食材がある訳ではないが、それは最低限クリアしてなければならないラインだ。
人間ほど味にうるさい種族はいないため、お嬢様相手に出す料理並に気を配り、子供が喜びそうなメニューを頭から搾り出しながら作る。
そうして出来上がった他とは一線を画す料理に興味をひかれ、わらわらと群がって来る妖精たちをいなしつつ咲夜さんの元へ向かう。
「お待たせしましたー!今日のメニューはハンバーグに蒸したイモとニンジン、アスパラを添えてみました。
付け合せのサラダとコンソメスープはお代わりがありますよ。あ、ご飯もありますけど食べますか?」
「・・・いい」
「そうですか。どれくらい食べられるか分からなかったので若干少なめにしました。足りなかったら遠慮せず言って下さいね。では号令!いただきます!」
「「「いただきます!」」」
一斉に響き渡った声にほんの僅かに目を丸くする咲夜さん。やっぱり馴染みがなかったか、この手の作法は。
私が人間に料理を習った時に同時に叩き込まれたその習慣は、数百年を経た今でもこの紅魔館で息づいている。
日々糧になるものに対して持つ感謝の念と、それを表すための習慣は素晴らしい考え方だ。
何より一つ屋根の下に住まう家族としての一体感も感じられる一瞬なので、私がメイド長に就任して以来根付かせてきた。
今は判らなくても続けていけば咲夜さんの心に何かが芽生えてくるかもしれない。
今日は色んなことで頭がいっぱいだろうから、明日から少しずつ始めていきましょうね。
ちなみに以前お嬢様にも説明してやってもらおうとしたらはっ倒された。強制できる事ではないが残念だ。
しかし今のお嬢様ならあるいは・・・今度機会があったらそれとなく勧めてみようかな。
これまた予想通り味についての感想は一切なく、咲夜さんの好みを知ろうとした試みは失敗に終った。
ただ出された料理は残すことなく平らげてくれたので口に合わなかった、という事態は避けられたと思う。
もそもそとスローペースで食べる咲夜さんに合わせ普段より遅く食べ終わった私は、その場に集っていた大人の妖精達を呼び寄せ咲夜さんを紹介した。
子供らしさを一切見せない様子に最初は戸惑っていたが、視線を送るとすぐに理解し笑顔を向けてくれる。やはり彼女達は心強い。
それと同時にしばらく咲夜さんに付きっ切りになるので仕事を任せることが増える事を伝えた。
彼女達は笑って頷き、あまり反応を示さない咲夜さんの頭を優しく撫でながら任せてくださいと言ってくれた。
それどころか今までメイド長一人にまかせっきりだったので私達にもっと仕事を下さい、役に立ってみせますよとまで付け加えてくれた。
正直、私は泣きそうになってしまった。咲夜さんの手前泣くわけにはいかないと何とか堪えたが、彼女達にはばれていただろう。
これが家族なんだ。誰かが大変な時は傍にいる家族が心配ないと励まし支える。幼い子供に心配をかけまいと助け合う。
こんなにも暖かい気持ちを与えてくれる。こんなにも優しい気持ちを持たせてくれる。
この気持ちがあれば咲夜さんを立派に育て上げるのも出来そうな気がしてくる。
そしてこの気持ちを咲夜さんにも持って欲しい。この安心感があれば彼女に子供らしさが戻ってきそうな気がするから。
先が見えず何も保証がないままなのは変わらないが、それでも進んでいく力は貰った。手探りでもいいから一歩一歩進んでいこう。
その後、なるべく一人当たりの仕事が均等になるよう入念に妖精達と打ち合わせをし、作業を割り振る。
困った事や問題が起きた場合はすぐに私を頼るように伝えた。
お任せくださいと胸をはり意気揚々と散っていった彼女達の背中は頼もしく、私も負けじと気合を入れなおす。いよいよ咲夜さんの身の上を知る時がきた。
私にしか出来ない仕事も粗方終り部屋に戻って咲夜さんの正面に座って話を促す。あなたの事を出来る限りでいいので教えてください、と。
「私は何も知らない。どうしてここにいるのかも知らないし、十六夜咲夜以外の名前も持ってない。」
あまり愉快な話にはならないだろうなと予感していた通り、それは重く明らかに異常な内容だった。
生い立ち、親、歳も何も知らないと彼女は淡々と語った。知っているのはいかに効率よく人外を殺す方法だけ。
自分の好みや望んでいる事などの質問は答えられず、人や妖怪の急所は不気味なほど淀みなく答えた。
人外を狩る事を命じられ、幼い体で日々こなしていた事。それ以外は一切与えられず、心など育ちようがない環境にいたことを知った。
何の感情も挟まず人事のように話す咲夜さんにさっきは堪えた涙を抑えられなくなり、思わず抱きしめてしまった。
思えばそんな事は単なる自己満足に過ぎず、咲夜さんも何をされているのか見当もつかない様子だったが、それで構わない。
今は人肌の温かさを教えてあげよう。本来、親が与えるべきだった温もりを与えられるのはここでは私しかいない。
その小さな体が一生懸命に放つ子供特有の高い体温を感じ、今朝自分に投げかけた問に対する答えを見つける。
今日一日咲夜さんと行動を共にして分かった事がある。
彼女は自分の意見を持たず私の言う事に従順で、とても大人しく手がかからないのだがそれではダメだ。
子供のうちは我侭を言うべきなのだ。それは人間らしさであり、またそういう主張を繰り返して周囲とぶつかり人との付き合い方を学んでゆくのだろう。
そしてその人間らしさが咲夜さんにとって必要な物だ。
喜怒哀楽を知らなければ主が望む事を察し、それに応えようと全力を尽くし、主の喜びを自身の喜びとする。そんな事が出来るはずもない。
それは何もお嬢様に仕えるためだけの話ではない。子供は笑っている顔が一番可愛いのだ。
まだほんの短い付き合いだが彼女の笑った顔、嬉しそうな顔、楽しそうな顔を見てみたい。そう思っている私は彼女の保護者には適任なんだろう。
そしてやはり責任は重大だ。喜びを知れば悲しみ、怒りも追従して知るだろう。
その時自分の境遇を顧みればそれらに耐えかね心が潰れてしまうかもしれない。
そうさせないためにも、咲夜さんは誰よりも幸せにならなくてはいけない。その為には何が必要か。
まずは本人も自覚していない痛めつけられた心を解きほぐしてあげよう。押さえつけられた感情を開放させて、それを受け止めてあげよう。
しかしその方法が分からない私は、彼女と同じ人間に聞くのが一番だろうと結論付けた。明日にでも人里を訪ね教えを請わねば。
いつのまにか寝てしまった咲夜さんを横たえ、軽く髪を撫でて布団をかぶせる。
今日の仕事は普段より大分少なかったがいつも以上に疲れた。大人しい分注意をしてないと見失いそうだったのも一因か。
そういえばお風呂に入れてあげるのを忘れてしまったがしょうがない。
ようやく方向性が見え、余裕を取り戻した私は余計な事を考える。
もしこの先お嬢様並みの我侭を発揮する様になったら恐ろしいなと、主に対して失礼な思考に少し笑う。
やっぱり私は完全で瀟洒には程遠い。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
それから私たちは毎日手探りをしながら日々を過ごした。
いや、正確に言えば彼女が手探りで示してくれる道を私は何を考える事もなく享受しているだけだった。
あの頃の自分を想うと今でも腹が煮え繰り返るが、彼女は「あの時はあの時で楽しかったですよー」と笑ってくれるのであまり表には出せない。
一応そうなってしまったのも私なりに理由はあるのだ。なにせ紅魔館に来てから二日目に
「とりあえずメイド長にならなくちゃ、とかは忘れちゃって結構です。まずは咲夜さんが好きな物や楽しいと思える物、気になる物を探しましょう」
などと言うのだ。
何だそれは、と思った。何のために私はここに来たんだ。メイド長とやらになるために連れてきたのではなかったのか。
初めて自分の意思で見つけた目標を忘れろとどこぞに放られ、日々を楽しめと言われた私は訳が分からずただ流されるままに過ごすしかなかった。
そんな私をお構いなしに彼女は一日の時間のほぼ全てを私の為に費やした。
朝目覚めと共に笑顔で私に語りかけ仕事の準備を済ます。
人間が基本朝昼晩と食事をとる事を思い出したのか、私用に朝食を作ってくれるようになった。
低血圧気味の私の手を引き、すれ違う妖精達に挨拶を交わす。まず教えられたのは挨拶だった。
眠けまなこで気の入っていない挨拶をする度に私に微笑んでくれた。
彼女が妖精達と前日に起きた問題や気づいた事などのミーティングをしている間は、彼女から渡された本を読む時間だった。
最初私は文字が読めなかったが、彼女が私を膝に乗せ図書館から借りてきたおとぎ話の本を語って聞かせてくれるうちになんとなく覚えてしまった。
知らないうちに文字を覚えた事を知った彼女は手を叩いて喜んでくれた。
妖精達への指示を終え暇が出来ては私を外に連れ出し散歩や談笑に興じる。
昔あった出来事や最近気付いたちょっとした事などを大げさな身振り手振りを交え私に語りかける。
その内外出して遊んでいる事を妖精達に知られてしまい、私も私もとせがまれた彼女はしょうがないと苦笑し、毎日少人数を交代で一緒に出る事を許可した。
それからは外出するたびにテンションが高い妖精達の相手に私はくたくたに疲れた。彼女はいい修行になると笑っていた。
食事は一日と同じものが出た事はなかった。
彼女特製の食事は栄養も味も完璧で、その都度趣向を変えたバリエーション豊富なものだった。
その出来を目の当たりにした料理担当の妖精達が本気で彼女に教えを請い、一気に紅魔館の食事のレベルが底上げされた。
それでも彼女は私のために毎日色々な料理を作ってくれた。
夜の帳が下りると彼女はお嬢様のお世話の時間になる為私は早々に床につく。
無駄に広い大浴場に大勢の妖精達と共に入り、肩まで浸かって百秒。笑いながら彼女は泳いでいる妖精を注意していた。
入浴を済ますと手早く髪を乾かし歯を磨いて布団に潜る。私が寝付くまで彼女は横にいてくれた。
今思えばそれはなんて暖かく、私の心を豊かにしようとしていた事が理解できるが、間抜けで愚かで悲しい事に私はそれを全く自覚していなかった。
私に沢山笑いかけてくれたことも、よく笑う人だなとしか思わなかった。
私の手を引き、頭を撫でてくれたことも、よく触る人だなとしか思わなかった。
私の好みを知ろうと試行錯誤して作ってくれた料理も、特に感慨もなく食べた。
私に楽しそうに語る話の内容も、何がそんなにおかしいのか分からなかった。
彼女が向けてくれた好意を、何一つ私は理解できていなかった。
今まで一度も向けられたことがないからしょうがない、と彼女は言ってくれるが頭では分かっている。
ただ思い起こすたびにどうしようもない怒りに苛まれる。
あの時の私は彼女が忘れろと言ったメイド長になるにはどうすればいいのか、という事を延々考えていたのだ。
メイド長とやらになれば何かが変わるんじゃないか。空っぽで何も持たない私もメイド長になれば何かを手に入れられるのではないか――
実に馬鹿げた話だ。自分が望むものも分からず、その欲しているものを毎日彼女から貰っていた事にも気付かずに。
別に彼女の言った事を蔑ろにしていた訳ではなかった。彼女との話や渡された本を読み、それらの何が自分に必要なのか考えた。
だが、何も分からなかった。未だ感情という彩りがない思考にはそれらの重要性は到底理解できようもなかった。
そしていつしか私はメイド長としての彼女を目で追い、彼女の仕事を観察し、その仕事を完璧に真似ればいいのではと考えるようになった。
彼女のメイド長としての仕事は多岐にわたる。
館内の衛生、食事、就労時間の管理。トラブルの処理や妖精同士の関係が良好になるよう余裕を持った人員配置。
必要な物品を手配し人里に発注、届けに来た人間の出迎えも重要な仕事だ。
その他にもお嬢様の身の回りの世話や妖精達のガス抜きなど、私の知らない仕事も沢山あるようだがそれはひとまずおいておく。
まずは自分でも出来そうな掃除、これを真似してみようと思った。
私の面倒を見る為に仕事を無理のない範囲で分配していた彼女も、時たま私を連れて部屋の掃除を行なっていた。
「咲夜さん、暇だったら図書館で本を読んでてもいいですよ。でも外に出る時は行き先と帰ってくる時間を必ず教えてくださいね」
というのが掃除を始める前の口癖だった。そんな時大抵私は言われた通り図書館へ赴くのだが、一言「ここに居る」と呟き脇に居座る。
彼女は一瞬驚いた顔をしたが、思う所があるのかにこりと笑うと掃除に取り掛かった。私はそれを注意深く観察する。
慣れた手つきでさっさと終らせてしまう彼女の手際の良さは見事だったが、真似するとなるとそれは難題へと姿を変える。
散らかった品々を壊さないように、しかし手早くまとめ片隅に追いやる。その際ゴミはまとめて袋へ。
上から下へ、の原則通り高い場所の埃を落としてから床の掃除を行なう。ある程度掃けたらシーツのカバー等を外して廊下に出し、代えのシーツをかぶせる。
調度品の補充や手に触れる機会が多い部分を念入りに拭き、窓や鏡の汚れを目の細かいヤスリで落として水で流しコンパウンドで仕上げる。etcetc・・・
徹底的に仕込まれた今なら何てことはない作業も知らなければまるで勝手が分からない。
熟練を思わせるその手つきには無駄な事は一切ないのだろうと、一挙手一投足を見逃すまいと目を皿にする。
そういった気配に敏い彼女のこと、さぞかし気になって仕方なかったと思うが、その時の私にそんな機微が分かるはずもなく。
心なしか作業の手が遅くなったのをこれを機と目に焼き付ける。そんな事を幾度か繰り返した私はついに自発的に事を起こすことにした。
「・・・あれ?」
いつものようにいざ掃除を始めんとしていた彼女の動きが止まる。その部屋は気がついた時には既に掃除が完了していた。
それもそのはず、私が部屋に入った瞬間に時を止めて掃除を済ませていたのだ。そういえばここに来て以来初めて能力を使った。
私が時を止める力を持つ事を忘れていたのか、しばしの間固まっていた彼女ははっとこちらを見た。
私が「掃除した」と呟くと彼女は理解が追いついたのか、すごいすごいと嬉しそうに繰り返しながら私を抱きしめこれでもかと頭を撫でてきた。
あまりの喜びように呆気に取られた私は、彼女の手にされるがまま頭をぐらぐら揺らす。その様子に気付いた彼女は手を止め最後に優しく撫で謝った。
「あんまりびっくりしちゃって、ごめんなさい。首は痛くないですか?」
「大丈夫」
「良かった。そういえば咲夜さんは時を止めれるんですよね。やり方は私のを見て?」
「そう。なるべく同じようにやったけど、これでいいの?」
「ええ、ええ。とても綺麗になってます。私よりずーっとお上手ですよ。やっぱり人間は凄いなぁ」
「・・・」
とても嬉しそうにはしゃぐ彼女にそんなことはない、と思った言葉は出なかった。
何でそこまで喜んだのか聞くと、何をするにも常に受身だった私が初めて自分の意思で何かをしたのが嬉しかった、と彼女は言った。
そんなものなのか、としか思わなかった。掃除をする必要がなくなったからではないのか、などと考えていた自分に心底呆れる。
そして散々褒められた私は、僅かに、本当に僅かに気をよくし、これがメイド長への第一歩になるのではないかと心を躍らせた。
いまだ彼女が何故私にメイド長としての仕事を教えてくれないのか、何を求めているのかは分からない。でも見てみろ、私は見事にこなせて見せたじゃないか。
そんな不完全な心が持った自尊心など、さほど日をおかず粉々に打ち砕かれるとも知らずに。
彼女は私が自発的に掃除をするようになると喜んで任せてくれた。彼女から助言を貰ってはそれを吸収して手つきも洗練されてゆく。
それはたまに彼女が受け持つ事になった部屋だけで、相変わらず私に掃除する部屋を宛がってくれた訳ではないが私は満足していた。
このまま順調に仕事を覚えていけばいずれはメイド長になれるだろう、と楽観していた。
問題はすぐに露見した。
私が掃除をした部屋の持ち主の妖精から苦情が来た。大切にしていた石が全てなくなっている、と。
私は何を言っているのか最初から最後まで理解できなかった。ただその妖精がとても悲しんでいて、彼女が必死に慰めている事だけは分かった。
彼女に促され謝罪の言葉を口にしたが、何が悪かったのかさっぱり分からない。
確かに私がここにあった石を捨てた。だけど何故石がなくなっただけでそんなに悲しむのか。
結局、今度外出した時に皆で彼女が気に入っていたのと似た石を探す事を約束して事なきを得た。
部屋に戻る途中彼女は気遣う言葉をかけてくれたが、私の耳には入ってこなかった。何故だ。何がいけなかった。
心底分からないといった顔をして考え込む私を見て彼女は悲しそうに笑った。こんな顔は初めて見た。私がこんな顔をさせているのか。
部屋に着くなり私は疑問をぶつけた。初めて声を荒げながら。
「何がいけなかったの?分からない、いくら考えても分からない。教えて、あれはただの石じゃなかったの?」
「・・・そうですね。あれは普通の石じゃなかったんです、少なくともあの子にとっては」
少し驚いた様子の彼女は私の正面にまわりしゃがんで視線を合わせて、目を見ながら静かに語りだした。
その目は何かを期待しているような目だった。
「あの子は空いた時間にいつも仲の良い子と一緒に散策していました。館の中で遊ぶより開けた場所の方が好きなんだそうです。
水浴びをしたり木々に隠れてかくれんぼしたり。そんな時ふと足元にあった石を気に入ったそうです。
元々どんぐりとか集めるのが好きな子だったんですけどね。
そして腐ってなくなってしまう木の実よりも、いつまでも変わらない石を集めるのに夢中になってたそうですよ」
彼女は丁寧に、ゆっくり語って聞かせてくれた。だが私はそれでも話の内容が分からなかった。
いや、やはり石を捨ててしまった事がまずかったのは理解できた。しかし何故ただの石をそんなに大事にしているのかがさっぱり分からなかった。
困惑しっぱなしの私にゆっくりと続ける。
「人には・・・今回は妖精でしたが、それぞれ大切な何かを持っているものなんですよ。
それは他人の目から見たら何の価値のないようなものだったとしてもです。
誰かと付き合っていくにはその事を知って、相手の大切なものを尊重してあげる事がとても大事なんですよ。
それを誤ると今回みたいな事が起きてしまうんです。そしてこれは私の不注意でもあります。咲夜さんも傷つけてしまってすみませんでした」
何故あなたが謝る?分からない。分からない分からない――
「こういった事態を想定して教えてなかったのは私のミスです。咲夜さんには何が捨てて良くて何が捨ててはダメなのか分からなかったんですよね。
でも幸い許してもらえましたし前向きに考えましょう?今日咲夜さんと私はミスをしてしまったけれど、とても大切な事を学べました。
今日の事を忘れずに気をつけていけば同じ過ちは繰り返さずにすむんですから。ねっ?」
元気付けようと明るく努めてくれる。だけどこの体に漂うどうしようもない無力感は拭いようもなくて。そうだ、彼女は――
「・・・美鈴」
「なんですか?」
「・・・美鈴にもあるの?大切なもの」
「ええ、一つだけじゃなくていーっぱいありますよ。一番は何かと言われると困っちゃいますけどね」
「・・・変わったりするものなの?」
「そうですね・・・人によってしょっちゅう増えたり、逆に滅多に変わらない人もいます。・・・そうだ、咲夜さん」
「・・・何?」
「宿題を出します」
「・・・宿題?」
「私の今一番大切なものはなんでしょう?これを考えてください」
――ああ、そうか。
「提出の期限はないからじっくり考えてくださいね。それが分かればこの先も大丈夫だと保障してあげます」
――そういう事だったのか。
これだけ共に過ごしている彼女の事を私は何も知らない。そんなものがあること自体知らなかった私は「大切なもの」が見当もつかない。
そして、その「大切なもの」がメイド長になるために必要不可欠なのだと不意に悟る。
何故彼女が私に仕事を教えてくれないのか。何故毎日色々なものとの出会いを私にくれるのか。何故楽しめと私に言うのか。
今の私は「大切なもの」など何一つ持っていないのだ。自分が持たないのに人のそれが分かるはずもなく。
「大切なもの」を見つけない限り私はどうやったってメイド長にはなれない。なってから手に入るものではないのだ。
大丈夫大丈夫と笑いかける彼女を空虚に見つめる。人生初の挫折をこれでもかと味わいつくし、私は途方にくれた。
一歩進んだ代わりに、先に見えた道はどこまでも果てしなく長く先など見えなくて。
私の初めての目論みは完膚なきまでに粉みじんに砕け散った。
だが、結果としてこの事件も今の私を構成する為の重要な要素なのは間違いない。
それ以来掃除をする事をやめ、彼女の与えてくれる日常から「大切なもの」を見出そうと必死に頭を使うようになった。
しかしそれは頭で考えるものではなく、心で感じ取るものだという事を理解してなかった私はやはり手にすることが出来なかった。
焦ることはない、じっくり探せば良いと彼女は言ってくれたが、実際私は随分焦っていたらしい。
私の珍しくはっきりとした焦りの気を感じ取った彼女はちょうど良いとある一計を案じた。
それが事態を大きく転換させるなど私も彼女も思ってもいなかった。
「明日から私は三日間留守にするので好きなように過ごしてもらっていいですよ」
「・・・?」
いつも通り笑顔の彼女に起こされ未だ現実と夢との境界を彷徨っていた私は、言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
バターとジャムをふんだんに塗ったパンを私に渡しながらにこにこと彼女は続ける。
「色々と立て込んだ用事があるので三日間私は紅魔館を空けることになりました。その間咲夜さんは自由に過ごしてくださって結構です。
一人で勝手に地下にさえ行かなければ何をしてても良いですよ。食事も今の食堂なら沢山メニューがあるので好きなものを食べてくださいね」
「・・・三日間?」
「ええ、お嬢様もお出かけになるので館内はかなり気が抜けた状態になると思いますが・・・
咲夜さんのお世話は彼女達に頼んであるので何かあったら頼ってくださいね」
私と一緒に朝食を食べる習慣がすっかり板についた大人の妖精達だった。美味しそうにパンを頬張りつつ私にむかって手を振って合図する。
「ここに来てからずーっと私に付きっきりでしたからね、思う存分羽を伸ばすチャンスですよー」
それが彼女の思惑だった。紅魔館に来ておよそ半年、私と彼女は一日も離れて過ごしたことがなかった。
館内の勝手が分からなかったというのもあるし、強力な力を持つとはいえか弱い人間の子供の私から目が離せなかった事も大きい。
しかし最近私も随分馴染んできて、今なら離れても大丈夫だろうと判断した結果の話であった。
そしていくら彼女が仕事をしてる間に図書館へ行ったり外へ出て離れても、さすがに息が詰まるだろうという考えもあったらしい。
ならばいっそのこと後回しにしていた用事を片付け、それと私の息抜きも兼ねた一石二鳥の三日間、というのが彼女の狙いだった。
そんな彼女の思惑を余所に私はいつもの通り何を思うこともなく了承する。
外の世界では基本一人で過ごしていた。ここには読みきれないほどの本もある、何も問題はないと思った。
翌朝、普段より随分遅くに目が覚めた。今日から三日間彼女は居ない。
起きぬけの眠い頭でも違和感を感じた。快活な彼女の姿が見えないと部屋が妙にがらんどうとしている。
半年前と同じ状況になり初めて感じる違和感に少し驚いたが、じきに慣れるだろうと気にも留めず遅めの朝食をとりに食堂へむかう。
館内に流れるゆるい空気を感じ取り、彼女の言葉を思い出す。お嬢様もいないんだっけ。するとこうも変わるのか。
挨拶を交わす妖精達もいつものような活発さは見て取れない。たまたまかと思ったけれどどの妖精も似たり寄ったりだった。
食堂に着き席にしばらくぼーっと座ってから気付く。そうだ、自分で用意しないといつまでたっても食事は出てこない。
厨房にむかって注文し、手持ち無沙汰な時間にふと思う。ひょっとしたらお嬢様がいないだけじゃなく、彼女がいないからこんなにも館に覇気がないのではと。
おかしい。昼食を済ませ図書館に篭ってしばらくしてから私は自分の異変に気付いた。
普段私は本を読み出すと彼女が呼びに来るまで本に没頭する。
ここの主のように話しかけても気付かない程極端ではないが、それでも他の事に気をとられることはない。
それが今日は本の中身が頭に入ってこない。それどころかここの司書の赤い髪が視界を横切ると、途端に顔が勝手にそちらへ向く。
何度もそれを繰り返す私が気になったのか、紅茶をお持ちしましょうかと尋ねられた。何故か慌ててそれを断り、本に集中しようと試みる。
しかしどうにもうまくいかず、終いにはドアをチラチラ窺いはじめた辺りで諦めた。今の私は何かがおかしい。
世話係の妖精に一言伝え、周囲の散歩に出かける。ご一緒しましょうかと聞かれたが断った。一人で考えたかった。
原因はとっくに思い当たっていた。昨日までの私と今日の私の違いは常に共に居た赤い髪の彼女しか思い当たらない。
しかし何故。予めいなくなると分かっていたというのに。しかも三日間のうちまだ一日も過ぎていない。
昔のことはあまり覚えていないが少なくとも暇を苦痛に感じたことなど今までなかった。本も内容の大半は理解は出来ずとも興味深く没頭できたというのに。
湖のほとりを物思いにふけりながら歩いたため何度か転びかけてしまった。そのたび私は何かに掴まろうと手を出しては空を切る。
それを何回か繰り返した後、自分の動作に込められた意味に気付く。私は無意識の動作にまで彼女を探しているのだと。
やはり彼女がいないことがこの訳の分からない状態の原因だ。しかし、何だこれは。
胸の奥辺りがもやもやする。背中の辺りがうすら寒い。目の前に広がる景色に鮮やかさが感じられない。
明らかに何かが足りなかった。何かが満たされていなかった。いずれ慣れると思っていたこれは彼女が帰ってくれば治るのか?
そうだ、彼女が帰ってくれば解決するに違いない。それまではどうにかして誤魔化すしかない。
いや待て。彼女が帰ってくるまでまだ二日以上ある。朝はそんなに気にならなかった違和感は今や全身の感覚が変わってしまう程異常をきたしている。
このままでは私はどうなってしまうのだろう。何だかとても嫌な気分だ、早く彼女に会いたい。会えばどうにかなる気がする。
とりあえず早く戻って眠ろう。眠りさえすれば三日なんてすぐに過ぎるだろう。
彼女のいない一日目。早くも私は訳が分からない不快感に苛まれ苦しむこととなった。
二日目――昨夜予想した通り目覚めは最悪。ただし、最悪の度合いが違っていた。
目を開けた瞬間に部屋を見渡し、肩を落とす。低血圧だったはずだが意識は明瞭。
しかし昨日感じた違和感は何倍にも膨れ上がり、何もする気が起きないほど体に力が入らない。
何もかもどうでもよくなって食事もする気が起きなかったが、ここを空ける前の彼女に言われたことを思い出した。
「咲夜さんなら心配ないと思いますが面倒だからって食事をぬいたりしちゃダメですよー。特に今は育ち盛りなんだからしっかり食べないとね!」
誰のお陰でこうなっているのかと、まるっきり逆恨みな気持ちを抱きつつ体を起こす。
生まれて初めて逆恨みした事実に気付く余裕もなく、朝食と昼食が一緒になってしまった食事にむかった。半分以上残した。
見るからに憔悴している私を心配していた世話役の妖精に、夕飯は少しでいいから部屋に持ってきてくれないかと頼んだ。
多分今以上に食べられる自信がない。それに活気の少ない食堂にいたらさらに気が滅入った。
随分前に風邪をひいたことがあったが、その時は全然大したことはなかった。
体はだるくて重いがそれだけ。食べ物も普通に喉を通り一日寝ればある程度は治まっていた。
そんな私が一体どうしたことだ。熱はなければ咳もない。身体的には何も問題がないはずの体が動くことを拒んでいる。
そういえば前に読んだ本でこれと似たような症状の話があったがあの本はどんな内容だったかな・・・
・・・ダメだ、頭もまるで働かない。普段の私ならそこに対処法を見出せるかもと探しに行くのだが、これの対処法はもう分かりきっている。
彼女が帰ってくれば治る。彼女の顔を見れば元に戻れる。彼女に会えば食欲も戻る。彼女に会えれば・・・
彼女に会いたい。全身を包む気だるさに比例するようにその気持ちが膨れ上がっていた。
彼女のいない二日目。動くことすら億劫になりどこにも行かず部屋に篭る。僅かに食べた夕飯も夜中にもどしてしまった。
三日目――夜中に何度も目を覚ましては、すでに空っぽの胃からもどそうとえずいていたため体は泥のように疲れきっている。
それに比べて精神の方は昨日と同程度だった。今日の夜帰ってくる、それが分かっていたから。
確か今夜の九時ごろと言っていた。残る半日、それさえ乗り切れば彼女に会える。会いたい。早く会いたい・・・
もはや食べてももどしてしまう事は分かりきっていた為、部屋に篭りっぱなしで過ごす。
途中妖精が様子を見にきたが寝たふりをしてやり過ごした。返事を返すことすら億劫になっていた。
カーテンを締め切り布団を被り約束の時間を待つ。頭を出して時計を確認しては全然進まない針に苛立った。
こんな風に時間の進みに焦れるのは初めてだと思った。いや、待っているのは時間が進むことじゃなかったか。
今までは何を見聞きしても心が動かず、こんな風に何かを強く思ったり感じることは一度もなかった。
どうしてこんなに苦しいんだろうと重たい頭で何度も考えた。でも言葉で表せるような答えは出せず、ただ強く会いたいと願った。
どうしてこんなに会いたいんだろうと痛む頭で何度も考えた。先ほどの問い以上に何も浮かばない。
うっすら目を開けまだ時間でもないのに部屋に彼女の姿を探しては落胆し、疲れ果て彩りをなくした世界の中ようやく思い至る。
この気持ちは理屈じゃない想いなのだと。とても言葉で説明できるようなものではないのだと。
驚いた。心底驚いた。今まで私を構成していたロジックは全て文字に表すことが出来る分かりやすいものだった。
暑いから水を飲みたい。寒いから暖かい場所に行きたい。疲れたから寝たい。そうする必要があるから何かをする。
それ以外の事は問題にならなかった。本は新たな知識としか認識してなかった。食べ物も栄養とだけ捉え味の好き嫌いは瑣末事に過ぎなかった。
同じように彼女のことも、一緒にいた時はいてもいなくても変わらない存在なのだと思っていた。だって今の私はもうここでの生活に順応していたから。
一日で一緒に過ごす時間は多いが、それだけだ。話しかけられても撫でられても何かをしてくれても、こんなにも心が震えることなんてなかったのに。
いざ離れてみるとそれはなんて馬鹿な考えだったのかよく分かる。彼女がいないだけで私はこんなにも弱ってしまう。
いつ帰ってくるか分かっているにもかかわらず体も心もそれを理解できていない。納得できていない。
羽を伸ばす事なんて出来るわけがない。今にも心がはちきれそうになっているのに、どう好きに過ごせと言うんだ。
好きにしろと言うなら、あなたの傍にいさせて欲しい。他の誰でもない、あなたじゃなきゃダメなんだ。
それをはっきりと自覚した途端、私の中で何かが爆ぜた。今まで気付かないふりをして均衡を保っていた私自身がボロボロと崩れ去っていく。
気付けば私は何度も何度も枕を叩きつけ、悲鳴にも似た声を張り上げた。
顔と体が熱い。抑えきれない何かが体中を駆け回り、手の届く物を手当たり次第にメチャクチャに放り投げる。
掴める物がなくなってからは布団に顔をうずめ嗚咽を漏らし、どうすればいいのか分からなくなって床を殴りつけた。
何事かと駆けつけた妖精達を威嚇し大声を張り上げて部屋からおい出した。誰も私に近づくな、彼女じゃなきゃダメなんだ。
どれだけ暴れても決して衰えることのない衝動を歯を噛みしめてひたすら耐える。
とめどなく流れる涙に目を腫らし、放り投げてしまった時計を探し出して穴が開くほど見つめる。
まだか。あとどれだけ待てばいいんだ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「まったく、お嬢様にも困ったものですね・・・」
思いのほか用事も早めに片付き、余裕をもって紅魔館へ帰る途中一人ごちる。
例の契約以来、八雲様に誘われてはなにかと理由をつけて断っていたお嬢様は今大宴会の真っ最中である。
あれだけ渋っていたのにお酒が入ると途端にこれだ。確かにとても美味しいお酒だったけど、それにしたってのん気なものだ。一体誰に似たんだか。
八雲様も小さな体のお嬢様ががっぽがっぽと杯をあける様を喜んで見境なく飲ませるんだから困ったものだ。
式神の藍さんには色々と迷惑をかけてしまったし、今度暇が出来た時何か包んで持っていこう。
藍さんも咲夜さんよりもちょっと幼い年頃の子供の面倒をみているそうだ。
お互い大変な主人を持ち同じような苦労をしている者同士、仲良くなれそうな気がする。
久しぶりに紅魔館を長くあけ、いろいろな場所を巡ったがやはり外はいい。元々私はアウトドア体質なのだ。まぁ館内でも十分仕事で体は動かせるけど。
しかしそんな考えとは裏腹に紅魔館へ向かう速度は速まる。気になるのはやはりあの子のこと。
あの掃除でのミス以来、随分と焦ってた彼女は今どうしているだろうか。自由を満喫して多少なりとも元気を取り戻していればいいが。
近頃ようやくどんな風に思っているのか分かるようになってきたので、可愛くて仕方がない。
人里の皆さんから教わった事はやはり正しかった。一緒に過ごせば過ごすほど可愛く思えてくる。
目に入れても痛くないと言っていたが、その気持ちも分からないでもない。
私が教えてあげるものを無表情ながらもじっと考え込む姿はなんとも心が和む。
あとは少しずつでもいいから笑顔を見せてくれるようになればこんなに嬉しい事はない。
今日は久しぶりに里の皆さんに報告を兼ねて挨拶に回った。初めは警戒していた人も私だと分かると笑顔を見せてくれた。
目に見える変化は少ないけど、何とかうまくやっている。この間あんな事があった、こんな事があったと饒舌になる私に里の人は笑ってこう言ってくれた。
あまり心配はしてなかったけど、もう立派にお母さんになってますね、と
そう言われた私は頭をかいて黙ってしまった。顔も赤くなっていた気がする。
初めて相談した時、彼らは皆口を揃えて母親になってやれ、と言っていた。感情の行き場をなくした子供を救ってやれるのは親の愛情だけだと。
その時の私は、その言葉にだけは最後まで頷く事は出来なかった。
会う人間妖怪に人間臭いと言われる私も、突き詰めればやはり妖怪なのだ。どこまでいっても人間にはなれない。
それに人の情の深さを十分知っている私は尚更首を縦に振る事は出来ない。
彼らは愛する者の為なら何の躊躇いもなく自らの命を捧げる。ただでさえ短い命を他人のために散らす事が出来る。
あの時私はそこまでの覚悟があるのかと自問してみた。自信を持ってある、とは答えられなかった。
今の私はどうだろう。・・・今ならある、と答えられる気がする。うん、少なくともあの時とは比べられないほど咲夜さんは大切な存在になった。
母親になったと言われた時は戸惑いも感じたけれど、それよりも喜びのほうが大きかった。私のしてきた事が報われた気がしたから。
でも、と思い直す。いくら周りから親子と見られようが、当の本人が認めていなければそれはただの悲しい寸劇に過ぎない。
咲夜さんが安心して心を預けられる親を望むなら、私は喜んで親になろう。傷つき痛んだ心を癒す宿り木となろう。その事にもはや躊躇いはない。
しかし私のこの気持ちが負担になってしまうなら、私は最後まで隠し通してみせよう。今まで通り口には出さず陰ながら愛してあげよう。
まあ、そんな急な話にはならないだろうと一人笑い、結論付ける。さあ、愛しの我が家はもうすぐそこだ。
迎えてくれた妖精達の様子にただならないものを感じた私は大急ぎで咲夜さんの姿を探す。
何だ、何が起こったんだ。彼女の身に何か起こったのか!?いや落ち着け、そんな大したことではないはず。
そんな大事というよりは何か他に困惑しきっている様子だった。尋ねてみても埒が明かない。
廊下に彼女の姿を探しつつ、途中見つけた世話役の妖精をつかまえて何があったか聞いた。
咲夜さんの様子がおかしく部屋に入っても手がつけられない、とにかく彼女の元へ行ってあげてと背中を押され走り出す。
とりあえず咲夜さんは無事か・・・しかし一体何事だろう、ともかく今は急がねば。
部屋の中は散々な有様だった。
明かりもなく廊下からの光で見えたその中はありとあらゆる物が無造作にぶちまけられていた。
食器やナイフやフォーク、食べかけのまま捨て置かれた料理、借りものの本、ペンや鋏など手で持てそうなもの全てが床に投げつけられていた。
鏡は割れ、壊れやすい皿やグラスも砕け散り、カーテンにはぶつけられた料理による染みがこびりついていた。
やり場のない暴力に晒されたかのような部屋の中、咲夜さんはいつも私が寝ている方のベットの上で布団を被り、両手で時計を握りこちらを睨みつけていた。
その目は赤く充血し、顔は涙や色んなものの跡にまみれ、髪の毛もぐちゃぐちゃに乱れていた。
どこか手負いの獣を思わせる様子の彼女はらんらんと輝く瞳をこちらに向け、食い入るように私を見つめていた。
最初、そこにいるのが誰だか分からなかった。姿形が変わったわけじゃない。大変な事になってはいるが咲夜さんは咲夜さんだ、見間違いようもない。
問題は、今の咲夜さんを取り巻く感情の渦だった。今彼女は怒りとも悲しみともつかない、色々な念が混ざり合っていて滅茶苦茶に気が昂っている。
そして私を見つけたことによりその気が一際大きくなった。それでも彼女は動かず、ひたすら私だけを見つめたままで。
今まで彼女がこんなにも大きく感情を動かした事なんてなかったので、それが彼女だと分かった今でも戸惑っている私がいた。
だがそんな事は後回しだ、見たところ傷はないようだが今の彼女は明らかにおかしい。一呼吸遅れて無事を確かめるべく近づいた。
「咲夜さん、一体どうしたんですか?何があったんです?」
一歩近づくごとに彼女の気が大きく揺れる。
今でも彼女の中にはとてつもなく大きな感情が渦巻いている。それもどうやら私が原因になってるようだ。
凄く力のこもった目で私を見つめる咲夜さんの前でしゃがみ、目線をあわせゆっくり問いかける。
「大丈夫ですか?どこか痛む所はあります?」
頬にくっついた髪をどかそうと、なるべく刺激しないようゆっくりと手を伸ばして触れた瞬間、咲夜さんはものすごい勢いで私に飛びついてきた。
慌てて抱きとめバランスをとる。しゃがんでいたため思うように後ろに踏ん張れず、危く倒れかける。
なんとか踏みとどまると同時に気付いた。咲夜さんが泣いている。私に力一杯抱きつき、首に顔を埋め体を震わせ、小さな声をあげながら泣いている。
何で、どうしてこんなに悲しんでいる?耐え難い位に胸が締め付けられ、気付けば小さな体を抱きしめ背中をさすっていた。
「大丈夫ですよー咲夜さん。私はここにいます。何にも心配ないですよ」
私が背中をさすり、声をかけるたびに咲夜さんはしがみつく力を強くして抱きついてきた。この小さな体にこんな力があったのかという位に。
涙は止まることなく溢れ、服を濡らす。今まで堪えてきた涙を使い果たすかのように。
初めは小さかった声も次第に大きくなり、嗚咽に変わった。こんなに大きな声が出せる事を今知った。
今までたまっていた物を全て吐き出すように、咲夜さんは私の腕の中で泣き続けた。
どれくらいの間泣き続けたのか。涙が全部でてしまった後もしゃくりあげて泣いていた。
私はここにいると背中をなでたりぽんぽんと叩いたりして落ち着かせようとする。それにしても一体何があったんだろう。
笑ったり怒ったり悲しんだりといった感情を今まで見せてこなかった咲夜さんがこんなにも感情をあらわにしている。
出来れば初めて見せる感情はもっと明るいものがよかったのだが、それは単純に私の力不足によるのだろう。
持ち前のプラス思考でこの件は前向きに考えていこう。このまま咲夜さんが豊かな感情を取り戻してくれるよう頑張ろう。
そして、もう二度とこんな風に泣かせない事を誓おう。
その時、咲夜さんがゆっくり体を離して私に向かい合った。いまだ悲しそうに体を震わせているが、必死に何かを私に伝えようとしていた。
「み・・・けた・・・・・」
「えっ?」
「みつっ・・けた・・の・・・」
「見つけた?何かを見つけたんですか?」
こくこくと首を縦に振る。何かを見つけてこんなに悲しんでいるのか、一体何を見つけたのだろう?
事と次第によってはそいつはただじゃおかないと一瞬物騒な思考がよぎるが今は捨て置く。
つっかえながらも咲夜さんは伝えようと頑張っていた。
「たいせつな・・っ・・・もの・・・やっと、見つけた・・・」
「大切なもの?・・ああ!前に私が出した宿題の事ですか?」
ふるふると今度は横に首を振る。あれ、あの時のあれ以外にあったっけ?
「ちがう・・・わっ、わたし・・・の・・・・・私の、大切なもの・・・・」
「えっと、咲夜さんにとっての大切なものを見つけたんですか。それは?」
「めいりん・・・」
「えっ?」
今、この子はなんて言った?
「めいりん・・・めいりんが私の、一番、大切なもの・・・」
「一人はもう嫌・・・嫌なの・・・凄くつらかった・・・」
「会いたかった・・・離れたくなかった・・・もう離れるのは嫌・・・」
「大丈夫だと思ったけど、ダメだったの・・・」
「傍にいて・・・私の傍にいて欲しいの・・・」
この時の衝撃は永遠に忘れる事が出来ないだろう。
感情を持たない人形のような子供だった咲夜さん。
何に対しても執着を見せず、何に対しても無感動でいた彼女が。
私を捜し求めて泣き叫び、ようやく見つけた私を決して放すまいと縋りついて。
私が必要だと、離れたくないと、傍にいて欲しいと言ってくれている。
「めいりんが好きなの・・・」
その瞬間、彼女の小さな体を強く強く抱きしめた。
せっかく彼女が泣き止んでいるというのに、今度は私の目から涙が溢れ出してきて。
全身から湧いてくるどうしようもないほどの愛情をただ抱きしめる事でしか表せずに。
私が加減を誤れば彼女の体は壊れてしまうにもかかわらず、出来る限りの力で彼女を抱き寄せた。
私もこの子に言わなければならない事がある。嗚咽を死ぬ気で噛み殺す。この子は必死に伝えてくれた。私も伝えないと。
「私も、そうですよ」
「えっ?」
「私も咲夜さんが大好きです。もう絶対に離れません、約束します」
「ほんとうに?」
「はい、咲夜さんが私を求めてくれる限り、絶対に一人にはしません。私の命を賭けて誓います」
「・・死んじゃやだ」
「ふふっ、分かりました。絶対に死にません。あなたが望む限り私は絶対に死にませんから」
「うん・・・」
「それと咲夜さん」
「?」
「私の大切なもの。それはあなたと同じですよ」
「同じ?」
「ええ、私の一番大切なものは咲夜さんです」
そう言った瞬間に咲夜さんはまた泣き出してしまった。私も一緒になって泣いていたのでさぞかし喧しかっただろう。
私は本当にダメな妖怪だ。
良かれと思ってやった事は彼女を心底悲しませ、自分で出した宿題の答えをばらしてしまうという堪え性のなさ。
挙句の果てに先程泣かせまいと誓った事をもう破ってしまった。
それでも。この子がこんな私を必要としてくれるなら。
私はあなたの求めるもの全てを与える母になろう。
今の今まで誰も叶えてこなかったあなたのささやかな願いを叶えてあげよう。
あなたが幸せになれるのなら私はなんでもしよう。
目に入れても痛くないなんて言葉では足りないくらいこの子が愛しい。
この子のためなら死ねる。今なら彼らの気持ちもよく分かる。
いや、危ない。そうじゃなかった。
この子を残して死ぬ、それは一番やってはいけないことだった。
「お邪魔するわよ」
「お嬢様。お早いお帰りですね、もうお酒には満足されたのですか?」
「うるさいわね、今日何かあると運命が告げていたのよ。まったく、ここは私の館だというのに私がいたらうまく回らないなんて腹立たしい話だわ」
「あらら、それは申し訳ありませんでした。でもお嬢様のお陰で全てうまくいきましたよ。もう大丈夫です」
「ふん、あなた達も手がかかるわよね。それにしてもよく寝てること」
「ええ、一時間近く泣きっぱなしでしたから」
「そういうあなたも随分酷い顔してるわよ?鏡は・・・こりゃまた見事にバラバラね」
「安いものです。今日私たちは大きな一歩を踏み出せましたので、これくらいは必要経費です」
「・・・あのね、この館の物は全て私の物。当然この部屋の物も私の物。それはOK?」
「OK!」
「・・・・・・いい根性してるわよね、あなた」
「ありがとうございます」
「褒めてない。・・・それにしても、あなた自身も一皮むけたようね」
「・・・そうですね。お嬢様に一つ報告が」
「何かしら?」
「私は、この子の母親になろうと思います」
「好きになさい」
「・・・あー、随分と淡白ですね?」
「言ったでしょ、私は何も口出ししないと。あなたがそれが一番いいと思ったのならそうすればいいだけの話よ」
「お嬢様・・・」
「それにあなたあの時の里の人間達と同じ目をしてるんだもの。人間でさえあんなに手を焼いたのにあなた相手なんて想像したくもないわ」
「また余計な事を思い出させてくれますねご主人様・・・」
「待った待った、怒らないでよ。ちゃんと反省してるってば、もう。」
「すみません、この子を見てたらつい」
「おおこわ、これじゃますますあなたを傍になんて置いておけないわ。さっさとその子育てて隠居なさいな」
「心配されなくてもこの子なら私なんてすぐに追い抜いちゃいますよ。それはもう確実に」
「はやくも親馬鹿ここに極まれりね。さてと、今日は構わないからそのまま寝なさい。なんなら今日私についてたあのメイドとしばらく代わらせるのもいいわ」
「えっーと・・・よろしいので?」
「そう思うならもっと申し訳なさそうな顔しなさいよ。別に構わないわ、気は利かないけど口やかましくないしあれはあれでアリよ」
「・・・ありがとうございます、お嬢様。なるべく早く復帰いたしますので」
「単なる先行投資よ。それじゃあ引き続き咲夜を頼むわね、美鈴」
「かしこまりました、必ずやこの子を幸せにしてみせます」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
一世一代の大告白大会と化した夜が明けてから、私を取り巻く世界の全てが変わっていた。
感情を取り戻したはいいが酷く情緒不安定になった私に常に彼女が寄り添い、二日も部屋の外にさえ出ずに寄り添いあっていた。
目を覚ましては目の前にいる彼女に抱きつき、背中を叩いてくれるその手に甘えた。
絶対離れないから一緒に外出よう?と尋ねる彼女にいやいやと首を振り困らせた。我侭を言ってもきいてくれると分かっていて困らせた。
荒れた部屋の掃除や、食事を持ってきてくれた妖精を警戒して彼女の後ろに隠れた。そんなはずもないのに彼女を連れて行かれると思って本気で怯えた。
夜中に目を覚まし泣きべそをかく私に彼女はいち早く気付き、抱きしめて頭を撫でてくれた。
いい加減こもりっ放しという訳にもいかず、嫌がる私を何とかなだめすかして外への扉を開いた彼女。
彼女と共に見る景色は、この半年で見慣れていたはずの印象を一新させた。
あの時私がもの凄い剣幕で追い出した妖精達が随分と心配してくれていた。
私の世話係をしてくれたあの妖精も、彼女に促され「心配かけてごめんなさい」と謝る私を見て泣いて喜んでくれた。
「メイド長と咲夜さんの復帰パーティー」と称して急遽皆で集まってお祝いをしてくれた。
私を取り巻く世界の全てが優しく、きらきらと輝いていた。
優しく彩り豊かな世界の中、その頃の私はちょっとした事で泣いてしまう泣き虫だった。
誰かの好意を感じては泣き、何かを失敗しては泣き、彼女と離れては泣いた。
そのたび彼女が私をあやし、持て余してしまう感情が落ち着くまで抱きしめてくれた。
からからに乾いていた私の心を彼女の愛情が満たしてくれた。
彼女の庇護の下、私はすぐに人間らしさを取り戻してゆく。
最初は彼女が好きな物に興味を持った。
楽しそうに語らう彼女の話に興味を持ち、それに触れて素晴らしさを共感した。
今は咲夜さんを見てるのが一番楽しいんですよと笑う彼女に頬を膨らませて抱きついたりもした。そんなの私は楽しみようもないじゃないか。
あれだけ読んでいた本も、改めて読むとまるで別物に感じた。
以前は少しでも感情に関する記述があると理解が追いつかなかったが、今はこの小さな紙の中に繰り広げられる物語に心が躍った。
あまりにはしゃぎ過ぎてパチュリー様に叩き出されたのは苦い思い出だ。でも彼女が笑っていたので楽しかった。
彼女が作ってくれる料理にも夢中になった。
なかでもハンバーグは大のお気に入りだった。ここに来て初めて作ってくれた料理だからだ。
それを彼女に伝えると涙ぐんでしまった。つられて私も泣いてしまった。二人とも涙もろくなっていた。
夜、寝る前には明日はなにをしようと語らった。
私が興奮して時間が近づくと、決まって隣に横たわり私の頭を撫でながら子守唄を歌ってくれた。
その歌を聴くとすぐに眠くなり、五分と経たずに夢の世界へ旅立った。
日々、彼女の愛情を一身に受けて過ごした。
気がつけば私の背もここに来た時よりも随分伸びた。そうなれば当然見える世界も変わってくる。
あの夜以来私は自分の能力がうまく使えなくなってしまったのだが、心が落ち着き固まってくるにつれ力を取り戻した。
空も飛べるようになり、行動範囲が増えた私は彼女の手伝いに奔走するようになる。
あの時とは違い、メイド長になりたいから手伝ったのではなく純粋に彼女を手伝いたくて、そして彼女に褒められたくてのことだった。
他人の心の機微が理解できるようになってから始めた仕事はとても遣り甲斐があり楽しく、すぐ夢中になった。
しかし順風満帆とはとても言えず、以前はなんともなかった作業もひとたび感情が混ざると途端にうまくいかなくなる。
行き詰り悔しさで泣いていた私を彼女がいつもの様に慰めようとしてくれたが、その時初めてそれを拒絶した。
それはここで甘えては何時までたっても成長しないだろうと思っての事だったのだが、ショックを受けた彼女は寝込んでしまった。
咲夜に嫌われたーと泣く彼女に慌ててそうじゃないと説明し、自分のためにならないから見守っていてと頼むと今度は感動で泣いていた。
そうそう、彼女の私に対する呼称はあの夜以降一つ増えた。
誰かの前では今まで通り「咲夜さん」で通していた。敬称をつけるのは癖らしく、初めからそう呼ばれていたので特に違和感はない。
しかし二人きりの時で私が泣いていたり落ち込んでいた場合、彼女は私を「咲夜」と呼ぶようになった。
驚いて何故かと問うと、私はあなたを自分の娘だと想っている。普段はもうさん付けが定着しているから変えるつもりはない。
だけど娘が一人泣いている時には、親としてあなたと接したいからさんは外すことにした、と答えた。
正直、よく分からなかった。娘のように想ってくれている事は常々感じていたし、人の目も今更気にならない。
そう伝えても「いずれメイド長になるのでしょう?だったら今までの方が丁度いいです」と相手にしてくれなかった。
ただ彼女が私のことを咲夜と呼び捨てるとき、その言葉や表情に溢れんばかりの愛情が込められているのを感じて。
彼女にそう呼ばれた時は思う存分甘えていいのだと分かった時、私は咲夜と呼ばれる事が大好きになっていた。
そうした意味において、「咲夜に嫌われた」と言った事は意外だった。
まあそれも彼女が私に甘えていた事の裏返しなのかもしれない。母は娘に甘えてはいけないという法もあるまい。
話を戻そう。
メイド長としての仕事をゆっくり、しかし着実に覚えていった私はその頃ようやくお嬢様と対面した。
普段から散々彼女にお嬢様はとても優しくて、家臣の言う事に耳を傾けられる素晴らしい方だと聞いていた私は
久しぶりに対面したご主人様に対して思いっきりかましてしまった。
「こんなに小さかったっけ?」
と。
記憶の中のお嬢様は私と同じくらいの背丈なのに、とてつもない存在感と自信をまとった大きな存在に見えていたのだが。
あの時より数年たった今、背丈は軽く追い越してしまい見下ろす形になっていた。
さらに私という娘を持ち、日々OKF(オカンフィールド)を強めていた彼女をメイド長として置いていたために、お嬢様はすっかり丸くなりきっていた。
初めて会った時のようなプレッシャーもなく、日々メイド長として腕を上げていく私の話を耳にしていたお嬢様は
まるで出来のいいおもちゃを待ちわびる子供のようで。
ニコニコと私を迎えたお嬢様に失礼極まりない発言を漏らしたその場は能力を使うことなく時が止まり。
結果、屋敷は半壊した。途中から妹様もまざった割には奇跡的に少ない損害だった。
あの時の話をするたびに「忘れていた棘を思い出させてくれてとっても感謝してるわ」と嫌味ったらしくからかわれる。
割と最悪な邂逅を終えた後、汚名を返上すべくいっそう仕事に没頭した。
もともと凝り性なところがあった私は仕事もやればやるほど楽しさを見出していった。
感情の制御もできるようになり、気付けば彼女が行なっていた全ての仕事をこなせる様になった。
そして彼女のお墨付きも貰ったのち、次期メイド長の座に私はたどり着く。
感慨は深かった。
この地位になれば何かを手に入れられると考え、致命的な問題を抱えたまま一度は目指し、完膚なきまでに無理だと思い知らされた。
何かを見つけられず途方にくれていた時に、まるでこの世の終わりのような苦しみと悲しみという霧に囚われた。
しかしいざその霧が晴れてみれば、世界は信じられないほど光り輝き私に優しかった。
そしてその何かは私の手に握られていた。それに気付いてからはあっという間だった。
感極まって泣く彼女につられて私も泣きそうになるがぐっとこらえる。
私はまだ始まったばかりだ。最悪な印象のままのお嬢様に少々気が狂い気味とされる妹様。
気難しく扱いづらいパチュリー様に何を考えてるのかいまいち捉えづらい小悪魔。
なんと充実した職場か。やる事や問題は山積み。頼れる彼女はさっさと門番へ楽隠居してしまった。
しかし私には彼女から貰ったこの心がある。この心さえあれば、一癖も二癖もあるこの館の住人にも歩み寄れるだろう。
彼らは私に生きる場所を与え、共に歩めるようになるまで待っていてくれた。言葉にしなくても見守ってくれていた。
今度は私が皆から貰ったものを返す番だ。私の一生をかけても返しきれるか怪しいが、それこそ望むところ。目標は高く大きい方がやりがいがある。
そして返しきるまで私は死なないと誓おう。私のために死なないと約束してくれた彼女に、私も返しきるまでは死なないと誓おう。
口に出せば彼女はもう十分返してもらったと言う気がする。だから言わない。そんな言葉は言わせない。
彼女から言われない限り、返しきったと思える日なんて永遠に来ないのだから。
感動しました。
……なんていう怪物ですか。
フランや図書館組の出番がほとんどなかったのと美鈴の苦悩と言いますか、そういうのが少なかったことがちょっと不満かな、と思いましたがそれを入れても素晴らしい出来でした!
誤字報告
>あなたがそんなだから能力使わざるおえなかったんじゃないの。→「使わざるを」
とても面白く素敵でした。
ああ、良いなぁ…この雰囲気。とても好きです。
美鈴咲夜が好きな私には堪らなかったです。
お嬢様も包容力があって良かったです。
丁寧に丁寧に感情が芽生えていく様を描いていて読み応えがありました。
ぐっじょぶ!
かつてこれほどまでに庇護欲を掻き立てられる咲夜さんがいたであろうか、いやいない!
かつてこれほどまでに母性を発揮している美鈴がいたであろうか、いやいない!!
処女作なのに過去を書く決意!僕は敬意を表する!
これが初投降だと・・・?
私も紅魔組みは一番好きなのでこの話には痛く感動しました
それにしても美鈴のOKFは最強ですね
もう少し段をあけて、読みやすいようにしてもいいかもしれません。
しかし初投稿でこれはすごい。
いいお話でした。
直接的な感情(と言うか表情?)の描写が泣いているものばかりで、
図書館ではしゃいだり好物ができたりと笑顔を出せているんだろうなぁとは感じられましたが、
しかし直接的な描写がないために、本当に笑えているんだよね?とちょっと心配してしまいました。
もっと直接的に笑顔花咲くような描写があってもいいんじゃないかと思います。
これはいい紅魔館、というよりは咲夜と美鈴ww
そしてそれが美鈴だって言うならこれはもうこの点を入れるしかないじゃないですか。
丁寧な描写に、描きこまれた感情の動き。最高でした。
初SS? 嫉妬しすぎてそれはそれで泣けてきちゃうわ。
これが愛のなせる技なのか? 内容もあいまっていろんな意味で愛が欲しくなりました。
咲夜さん、よかったなぁ・・・。
あそこの所でパッと見て「あぁここで場面転換か、語り部が変わったんだな」とわかれば、
二回目以降の場面転換は特に違和感なく受け入れられますので。
そこの表記さえしっかりしていれば何の突っ込み所もない最高に素敵なお話でした。
その寛容さオカン級。 GJです。
あまりに良くて初コメントですw
美鈴最高!
作者とキャラの感情が強く伝わってくる、心に響く作品でした。
うん、気持ち良かった。
美鈴は本当にいいポジションだよなあ…
なるほど、オカン妖怪とな。美鈴は母性の妖怪だったんだよ! 然もありなん。
それにしても文章が巧い。内容も併せてかなりの良作ではないでしょうか。面白かったです。
話の軸がしっかりしていて、文章にもとても力があるので
感覚重視で読み進めるタイプの私でも珍しい、スクロールバーを見ることなく読了という現象が。
まさに「気付いたら読み終わっていた」という感じです。
次のお話を楽しみにさせていただきますね。
まっすぐで、愛に溢れていて極上なSSでした。
時間忘れて読み耽ってしまいましたよ。
・・・たしかに原作ではあまり絡みが無いからなあ、この二人。
こういった関係ってあまり見たこと無かったかも。
途中、何度も涙ぐんでしまいました。これが、感動ってやつか・・・。
って所に違和感を感じてしまいました。(単に自分が文章の事を知らないだけかもなのですすいません)
あとも一つ
>「~の方が調度~」→「丁度」ではないかと。
OKF(オカンフィールド)は「東方名言集(そんなもんは無い)」認定ですね分かります。
さくぽっぽはもっと美鈴母さんに甘えると良いよ!
フラ様とさくぽっぽが美鈴母さん巡って聖戦を起こすの期待してたのは内緒。
SSって技術も知識量も大事な要素ですが、やっぱり私は
作者の 愛 だと思うわけです。
その点このSSからはあなたの愛が伝わってきたと思います。
それからすべてのコメントにレスをいれてるとそのうちおっつかなくなりますよ(笑
実際あっという間にコメ増えてるし。
コメントは吸い上げるだけ吸い上げて「次回作」で炸裂させてください(プレッシャー)
KEIという名前は覚えました。
また投稿されるのを待ってますよ。
偉そうに長々語りましたが要するにGJ!
長文失礼しました。本来ならもっと作者さんの糧となれるようなコメントを書くべきなのかもしれませんが文章能力の低い私にはこの小説は最高の作品です。ほぼすべてのコメントに返信される律儀さの中にKEIさんの優しさ、人の良さを感じます。二度目になりますが、ありがとうございました。
この状況でこんなに嬉しかったことは久々のことでした。
まだまだこの物語が読めるんだと。
3日目の夜なんてもうダメでした。
同じ部屋に居る家族に泣いているのをバレないようにしようとどれだけ頑張ったか。
知って半年の初SS。お見事でした。
感情の操作が出来ず振り回される咲夜さんの描写が見事でした
親子話うんぬんじゃなく普通によかったです
美鈴ー!早く帰って来てくれーっ!
感情の爆発からの人間らしさ
滅多に、いや絶対に見られないだろう場面の描写お見事です。
愛すると決めることが大事かなと。
家族がいることの素晴らしさははかり知れません。
全ての人と交流することを丁寧にっていうか・・・ううん
一期一会という言葉が当てはまるかもしれない、自分でもまとまってません、いろいろ伝わったよってことを伝えたいのですがなかなか言葉がまとまりません。
でも、感想を書かないとこの思い出が風化していってしまうようで・・・ごめんなさい
本当にありがとうございました。
素晴らしすぎます。
紅魔館のお母さんなほのぼの美鈴も、美鈴と仲の良い咲夜も好きな私には
最高の作品でした。
ホントにもう・・・ぱない
後半から最後までは俺もずっと涙流してました
できれば後日談も書いて頂けることを願っております
咲夜さんと美鈴の組み合わせが大好きな私ですが、これは秀逸です。
初作品でこのクォリティはビックリ。
4月に入ってから貪るようにSSを読み漁ってましたが、美鈴と咲夜の絆が深まっていくこの過程には思わず微笑みを浮かべてしまいました。
素晴らしいとしか言いようがない。
もっと読みたい。いつか後日談をお願いします。
PCが涙で潤んでかすれて見えてしまいました
有難う御座います。
個人的には「大切なもの」に気付いた後の咲夜と美鈴の感情の描写がとても好きでした。
素敵な作品をありがとうございます。次回の作品も期待しています。
素敵な物語をありがとう。
しかし、元を辿るとおぜう様に行き着く訳で
やっぱりおぜう様すげぇと思わされましたw
咲夜さんと美鈴のやりとりや心情がとても丁寧に描かれていて、じんと来ました。おかん美鈴いいよね。
最後の方が少し駆け足というか、ダイジェストみたくなってしまっているのがもったいないかなあ。
それ以前の描写が濃密だった分、ちょっと味気なく感じてしまったかもしれません。
巡り合えてよかったです。素晴らしい作品でした。
いいお話の前にはそんな瑣末なことはどうでも良かったのであった。
美鈴と咲夜さん、お嬢様に妖精メイド。それらのキャラクター全てに魅力が溢れていたように感じます。
丁寧に書かれた感情描写と当時の心境を顧みる咲夜さんの言葉。
なにをとっても感情移入させてくれる、素敵なお話でした。
面白かったです!
そのソフトの名前は「ワンダープロジェクトJ ~機械の少年ピーノ~」。
起動すればなんでも願いがかなう回路を身体に組み込まれた機械仕掛けの少年ピーノ君に、様々な事を覚えさせながら回路のロックを外していくという物語です。
小学二年生の時にこれを買ってもらって、最初は複雑なパラメータに悩まされて全然展開が進まず、かなり癇癪を起こしていましたw
そしてクリアできたのは小学四年生の頃。ようやく話も理解できるようになった当時、劇中のイベントやエンディングで感極まって泣いたのを覚えております。
そのゲームと同じく、「こころ」の大切さを上手く描いた、素晴らしい作品でした。
いい話じゃねーか…
素晴らしいめーさくだ!