よく眠れぬままに夜が明けた。メディスンは軽く朝食を食べたあと、いつものように元気よく別荘を出た。紫
とは別の場所で待ち合わせをしている、とのことだ。幽香も当然のようについていく。
「わたし一人でも大丈夫だよ」
メディスンは不満げに頬を膨らませたが、幽香は「駄目よ」と首を横に振った。
「あんただけじゃどうも不安なのよ。上手くやれるか、そばで見ててあげるわ」
もちろん、本当は今日確実に紫を捕まえて、彼女の考えを確かめるためである。確かめてそれからどうするの
かは、今の時点ではまだよく分からない。
少し緊張しながら飛んでいた幽香は、隣のメディスンが何やら嬉しそうな顔をしているのに気がついた。興奮
しているためか、久方ぶりにどす黒い毒の霧を撒き散らしている。幽香が無言で頭を叩くと、「いたっ」と声を
上げて恨めしげに振り返った。
「ちょっと幽香、何するのよ」
「何するのよ、じゃないでしょ。毒」
「あ、やっちゃった」
メディスンが慌てて言うのと同時に、毒の霧が止む。誤魔化すように照れ笑いを浮かべる毒人形に、幽香は呆
れ混じりに言った。
「いくら紫に頼まれたからって、無関係な人間巻き込むと面倒なことになるんだからね」
「分かってるってば。言いつけはちゃんと守ります。今のはほら、興奮しすぎてつい気を抜いちゃったっていうか」
言い訳するメディスンをじっと見つめて、幽香は訊いた。
「人間を殺せるのが、そんなに嬉しいの?」
「ん。えーとね、それももちろん嬉しいけど」
メディスンははにかむように笑った。
「幽香と一緒にお出かけするのって初めてだから、なんか楽しいなーって」
「……ああ、そういうことね」
幽香は無理に笑い返した。これで目的が毒殺でなければ本当に楽しかったろうに、と思いながら。
そうして人里付近の上空に差し掛かったとき、「あ、あそこだ」と呟いたメディスンが、道端に生えている一
本の木に向かって降下した。幽香もそれについて地に降り立つ。木のそばには予想通り八雲紫が立っていた。
「こんにちは、メディちゃん」
メディスンに愛想よく微笑みかけたあと、紫はなんとも言えぬ微妙な面持ちで幽香を見た。
「あら、あなたもいらっしゃったのね」
「当然でしょ。紫、あんた一体」
口を開きかけた幽香の眼前に、紫は緩やかに手の平を突き出してきた。
「悪いんだけど、あなたとのお喋りはあとにしてもらいたいのよ」
「どういう」
「いいからいいから。さ、メディちゃん、ちょっとあっちで仕事のお話をしましょうか」
「はーい」
紫がメディスンの手を引いて歩いていこうとしたので、幽香は慌ててそれを止めた。
「ちょっと、紫」
「いいから、黙ってなさいって。いちいちあなたに横から口を出されたら、話が進まなくなるの。それとも何も
言わずに最後まで黙って聞いてるって約束できる?」
「……できるわけないでしょう」
納得いかないことがあれば即刻メディスンを連れて帰るつもりの幽香である。紫は呆れたように首を振った。
「それじゃあ、ここで一人で待ってなさいな。話の邪魔だから」
「だけど」
「大丈夫よ。悪いようにはしないから」
最後の言葉は、真摯な眼差しと共に送られてきた。幽香は開きかけた口をぐっと噤み、文句の代わりにため息
を吐きだした。紫に手を引かれているメディスンのそばに屈みこみ、彼女と視線を合わせながら言い聞かせる。
「じゃあ、わたしはここで待ってるけど。紫の言うこと、ちゃんと聞くのよ。自分勝手に動いちゃ駄目だからね」
「もう、大丈夫だったら。わたしだって今日からは一人前の妖怪だもんね」
「さっきも毒撒き散らしてたくせに、よく言うわ。口ばっかり達者なんだからこの子は」
「ゆ、紫の前で恥ずかしいこと言わないでよ! 幽香のいじわる! 行こっ、紫!」
「ええ、行きましょう。じゃあまた後でね、幽香」
人里の方に向かって歩き去っていく二人を、幽香はただじっと見送った。メディスンの背が遠のくにつれて気
が気でなくなってきて、何度か追いかけようと駆け出しかけたぐらいだったが、鋼の自制心で無理矢理自分を抑
え込んだ。
(……大丈夫よ。むしろわたしがついていった方が上手くいかなくなるみたいだったし、待ってた方がいいに決
まってるんだから)
高鳴る胸を服の上から押さえて、何度か深呼吸する。そうやって気を落ちつけながら、幽香は待ち合わせ場所
でもあった木に寄りかかり、苛立ちながら時が過ぎるのを待った。
まだ昼前という時刻のため、目の前に伸びている道を時折人が通りかかることがあった。大抵の人間は木に寄
りかかって渋面を作っている幽香を見ると「ひっ」と短い悲鳴を漏らして一目散に駆けていくか、もしくは泡を
食って人里の中に逃げ帰って行く。
(失礼な連中ね。別に取って喰いやしないわよ)
そう思いつつも尚更苛立ちが募り、幽香の顔は抑えようもなく歪んでいく。迷惑度急上昇だ。このまま悪化す
ると誰も近寄れなくなって、異変認定された挙句に巫女が飛んでくるかもしれない。
(なんて、ね)
ふっ、と幽香は息を吐きだした。
この辺りの迷惑さ加減は自分もメディスンも大して変わりないな、と思う。誰もが避けて通る存在。どこへ
行っても疎まれる、一人ぼっちのはぐれ者。危険な力を持った者には誰も近寄りたがらないのだから、当然である。
そんなことを考えていると、ふと頭の隅に引っかかるものがあった。何か、ずっと疑問に思っていたことによ
うやく答えが出そうな気配がして、
「どうしたの、怖い顔しちゃって」
突然声をかけられたために、幽香は悲鳴をあげそうになった。見ると、すぐ目の前に隙間妖怪がいて、こちら
の顔を不思議そうに見つめている。
「いきなり声かけないでよ! びっくりするじゃない!」
「え、ああ、えっと、ごめんなさいね。まさか、目の前に出たのに気付いてないとは思わなくて」
紫はどことなく釈然としない様子で詫びた。幽香は一瞬言葉に詰まり、「そんなことより」と無理に話題を変える。
「どうなったの、メディは。毒殺……は、上手くいったの?」
「あら、上手くいってほしかったのかしら?」
「それは」
何とも言えずに幽香が押し黙ると、紫は複雑な微笑みを浮かべた。
「まあとりあえず、ファーストコンタクトは成功、というところね」
「……ファーストコンタクト?」
妙な単語が出てきたな、と思う幽香に、紫は小さく頷いてみせた。
「ええ、そうよ。あなたが大人しくしていてくれたおかげで、メディちゃんへの説明も滞りなく終わったし……
あの子もかなり落ち着いているようだから、あの分なら多分こちらの思惑通りに事が運ぶでしょう」
そう言いつつも、紫はあまり嬉しそうな顔をしていない。口調もどちらかと言えば淡々としていて、無理に自
分を抑えているような感じだった。幽香の胸がざわついた。
「今度こそ、説明してもらえるんでしょうね?」
「ええ、もちろんよ。行きましょうか」
紫はこちらを先導するように空に飛び立った。慌ててそれに倣いながら、幽香は抗議の声を上げる。
「ちょっと、どこに行くのよ?」
「もちろん、あの子のところよ」
「あの子って、メディよね?」
「ええ。正確には」
紫は一瞬言い淀んだ。
「正確には、あの子と、あの子が毒殺する人間のところへ、かしら」
紫の案内に従って辿りついた場所は、人間の里の中でもかなり外れの方に位置する小さな高台であった。そこ
に、一件の人家が建っている。少々古めかしいながらもよく掃除が行き届いている日本家屋である。隙間妖怪曰
く、幽香の愛しい毒人形はこの家の中にいるとのことだった。
「で、結局どういうことなの。メディの仕事っていうのはもう終わってるの? まさか今死体処理してる最中、
とかじゃないでしょうね」
紫について家の正面に降り立ちながら、幽香は口早に問いかけた。もちろん、不安な気持ちをごまかす意味合
いが大きい。一方紫は返事をしない。玄関の戸には手をかけることもなく、敷地内を横切って庭の方へ向かう。
幽香は苛々しながらその背を追いかけた。
「ちょっと紫、聞いて」
「しっ。声を落として」
紫は幽香に警告しながら、家の壁に背を張りつかせた。角になっている部分からわずかに顔を出し、向こう側
を覗き込む。そして、小さく息をついた。
「良かった。どうやら上手くいっているみたいね」
「一体」
「あなたも覗いてごらんなさいな」
紫がどけたので、幽香は先ほどの彼女に倣って壁に背を張りつける。角から顔を出してみると、向こう側は小
さな庭になっていた。隅の方には小さな菜園があり、もう一隅にはやはり小さな花壇がある。そんな穏やかな庭
先に、楽しげな談笑が響いていた。
「えー、嘘だー」
「いや、本当だとも。あのとき機転を利かせなけりゃ、俺はここにはいなかったろうよ」
一方は聞き慣れたメディスンの声で、もう一方はしわがれた老人の声だった。状況がいまいち把握できず、幽
香はさらに身を乗り出す。
庭の縁側に、小さな毒人形と小柄な老人が並んで座っていた。老人は皺だらけの顔に得意げな笑みを浮かべ、
身ぶり手ぶりも交えてメディスンに何かを語り聞かせているようだった。
「あれは確か今ぐらいの時期だったな。俺が道を歩いてたらよ、金色の髪した女の子が空から降りてきて言うわ
けだよ。『あなたは食べてもいい人類?』ってな」
「そんでジジイはどうしたの? 逃げたの?」
「いやいや、逃げたってあっちは空飛べるんだ、捕まるのは目に見えてたさ。だから俺は言ってやったのよ、
『おおとも、俺は喰ってもいい人類だぞ、さあガブリといきやがれ』ってな」
「えー、それじゃあ食べられちゃうじゃん」
「そこで一計案じたわけよ。俺はな、こうやって思いっきり尻を突き出したのさ。そうすると当然、妖怪はそこ
に顔近付けてくるわけだ。そこで俺は」
「ジジイは?」
「大口開けたその妖怪に、思いっきり屁をぶっかけてやったのさ!」
何がそんなに可笑しいのか、メディスンが腹を抱えて笑い出す。老人はそれを満足げに眺めて、
「あの妖怪め、顔を押さえて転げ回り始めてな。おかげで俺はまんまと逃げ出せたってわけよ。いやー、あんと
きばかりは自分の屁の臭さに感謝したぜ」
「なにやってんの、もー。ジジイ馬鹿すぎー」
「へっへっへ、こんな話ならいくらでもあるぜ。そう、あれは湖に釣りに出かけたときだったな。氷の妖精が出
てきて」
幽香は無言で顔を引っ込めた。いまいち状況が飲み込めない。無表情で待っていた紫に向かって、首を傾げる。
「どういうこと? 毒殺対象って、あのジジイよね?」
「ええ、そうよ」
「……死んでないじゃない。しかもなんか仲良くなってるし。何がどうなってるの?」
「毒殺計画は実にうまくいっているということよ。ちょっと待ってなさい、その内メディちゃんが自分で説明し
てくれると思うから」
庭の方からは相変わらず楽しそうな笑い声が聞こえてくる。にも関わらず紫の表情が暗かったので、幽香はま
すますわけが分からなくなった。
と、そのとき、不意に話声が途切れた。代わりに、誰かが咳き込む音が聞こえてくる。幽香が慌てて覗き込む
と、身を丸めて激しく咳き込む老人の背中を、メディスンが擦ってやっているところであった。
「ジジイ大丈夫?」
「げほっ、げほっ……おー、大丈夫だ。ま、この歳になりゃあ大して珍しいことでもないわな」
「人間ってよわっちいのね」
「お前さんらに比べりゃあな。悪いが、肩貸してくれるか。ちょっと横になって休むとするわ」
「うん、分かった」
メディスンが飛びあがって、老人に肩を貸す。二人は連れ立って家の奥へ消えた。寝室はまた別にあるのだろ
う。こっそり庭に抜け出た幽香は、縁側から身を乗り出して家の中を覗いてみた。二人はちょうど廊下の角を曲
がるところで、老人の背中がよく見えた。先ほど楽しそうに嘘臭い武勇伝を語っていた人物とは思えないぐらい、
生気の乏しい背中であった。
(死にかけ、みたいな感じ。あれが毒の効果……? 遅効性の毒とかかしら)
首を傾げる幽香の隣に、紫がそっと腰かけた。
「あなたも座ったら? あの人を寝かしつけたら、メディちゃんも戻ってくると思うし」
「紫」
「話はあとよ。ああ、そうそう」
紫は横目で幽香を見て、警告するように言った。
「あなた、ここまでついてきたのだから、ちゃんと話を合わせてちょうだいね。余計なことは言わないように」
有無を言わさぬ強い口調である。何の説明もなしに話を合わせろも何もないだろう、と幽香は文句を言おうと
したが、口を開きかけたところで「あれーっ!?」と、メディスンの声が響いた。
「紫、帰ったんじゃなかったの? 幽香まで、どうしてここに」
目を丸くした毒人形が、廊下の向こうからぱたぱたと走ってくる。どう答えていいか分からぬ幽香の隣で、紫
がにっこり笑って頷いた。
「失礼かとは思ったけど、心配になっちゃってね。でも、上手くいってるみたいで安心したわ」
「当ったり前じゃない。わたしだって一人前の妖怪ですからね」
メディスンが腰に両手を当てて胸を張る。その得意げな顔を見て、幽香はほとんど反射的に問いかけていた。
「じゃああなた、さっきのジジイを毒殺したの?」
「ううん、まだ死んでないよ」
メディスンはあっさり首を横に振ってから、おかしくてたまらないと言うようにくすくす笑い始めた。
「でも見たでしょ、さっきのあのジジイの顔。あんなに咳き込んでるのに『歳を取ればよくあることだ』なんて、
食事に毒盛られてるのに全然気づいてないの。おかしいったらないわもう。安心してよ紫、あれの効き目はばっ
ちりよ。あれならあのジジイ、きっと長い間苦しみ抜いてから死ぬと思うわ」
「そう、さすがポイズンマスターさんね。あなたにお願いして良かったわ」
「そうでしょそうでしょ、わたし凄いでしょ」
メディスンはますます得意げである。幽香はまた訊いた。
「つまり、食事に毒を盛って殺そうとしているのね? しかも長い間苦しむような毒を盛って」
「うん、そうだよ。紫ねー、昔あのジジイに恥かかされたんだって。人間のくせに生意気よね。だから出来る限
り長ーく苦しむような殺し方をしたかったんだって。そこでわたしに依頼してきたわけよ」
「具体的には、どんな毒を?」
「幽香もよく知ってるやつよ。でも多分、幽香や紫だったらどれだけたくさん摂っても死なないんじゃないかな」
と言われても、幽香には見当もつかない。今や自分の保護者的な立場にある花の妖怪が悩んでいるのを、どこ
となく誇らしげに見つめていたメディスンは、やがて「ぶー、時間切れでーす」と楽しげに言って、手を差し出
してきた。
「これが正解だよ」
言いつつ、親指と人差し指をすり合わせる。すると、そこから小さな粉末がパラパラと零れ落ちてきた。幽香
は慌てて受け止める。どこか見覚えのある白い粉末が、手の平に積もっていく。粉というよりは小さな粒といっ
た方がいい、ざらざらした触感だった。
「これが?」
「舐めてみれば分かるよ」
「え、でも」
いくら死なないと言われても、毒など舐めたくはない。幽香が眉をひそめると、メディスンは丸きり悪戯を楽
しんでいる子供そのものの表情で、「いいからいいから」と囃し立てた。
仕方がないので、幽香は指で粒をつまみ、覚悟を決めてほんの少しだけ舐めてみた。その途端、舌先に塩のよ
うな味が広がった。毒というのはこんなにしょっぱいものだったか、と驚いてしまったほどである。これではま
るで塩そのものではないか。
「……っていうか」
幽香は顔をしかめながら、白い粒をもう一舐めしてみた。やはり、しょっぱい。メディスンのために料理をす
るようになった最近では、実に馴染み深い味である。
「まんま塩じゃないの、これ」
「そうだよ」
ごくごくあっさりと、メディスンが頷いた。何と言っていいのか分からず、幽香はじっと毒人形を見つめる。
ひょっとしてからかわれているのだろうか、と。
しかしメディスンはそんな幽香を見てくすくす笑い、
「人間ってホントよわっちいよね! わたしも紫に聞いて初めて知ったんだけど、あんなジジイになると、塩を
ちょっと多く取っただけで命に関わるんだって! つまりこれも立派な毒なのよ」
「……ええと」
「わたしとしてはもっと派手に苦しむ毒で殺したかったんだけど、紫はぜひとも塩でじわじわ苦しめて殺してほ
しいって言うから、食事に使う塩の量をちょっと増やしてやったのね。そしたらあんなに苦しんじゃって、効果
覿面!」
「本当にねえ、もうびっくりするぐらいだったわ。メディちゃんが作った塩だから、毒としての性能もいいのか
もしれないわね」
「やだもう、紫ったらそんなに褒めると照れちゃうよー……どしたの幽香、変な顔して」
「いや、ええと」
なんと答えるべきか分からず、幽香は紫に目を向ける。すると、隙間妖怪は真剣な表情で唇に人差し指を当て
た。いいから黙って話を合わせろ、と。
「……そうね、まあ、初仕事としては、なかなか上出来な滑り出しなんじゃないかしら」
「ホント!? 幽香もそう思う!?」
「ええ。よくやってると思うわ」
「やった、幽香に褒められた!」
手を挙げて喜ぶメディスンに、幽香は「ただし」と付け加えた。
「くれぐれも、塩以外の毒をここで撒き散らさないようにね。あのジジイったらホントに弱そうだから、気を抜
くと全部台無しになっちゃうわよ」
「分かってるよ、もう」
メディスンは頬を膨らませた。
「心配しなくても、ジジイには塩以外の毒は一切与えません。それが紫の注文だもの。あのジジイは、塩だけで
苦しめて殺すの。わたしの妖怪としての初仕事だもの、絶対にしくじらないわ」
「そう。安心したわ」
「だから幽香は何も心配せずに、わたしたちのお家で待っててくれればいいんだよ。紫はたっぷりお礼を弾んで
くれるって言うから、この仕事が終わったら二人でおいしいものでも食べようよ、ね」
「ええ、楽しみにしてるわ」
「うん。よーっし、がんばるぞー。あ、わたし、洗い物がまだだったから片付けてくるね!」
メディスンは弾むような足取りで廊下の向こうに走っていく。食事は調理の始めから彼女が担当しているらし
い。紫がメディスンに料理を仕込むように言ったわけが、ようやく分かった。身寄りのない老人の世話をする振
りをして食事に毒を盛り、散々苦しめて殺す……という筋書きになっているのだろう。少なくとも、メディスン
にはそんな風に説明してあるに違いない。
「……全ての物質は毒である、か」
呟きながら、幽香は紫に皮肉げな笑みを向けた。
「なるほど、確かに嘘は吐いていないわね」
「ええそうよ。毒と薬っていう分類は、単にどれだけ摂取するかの違いだもの。塩だって、確かに摂り過ぎれば
人体にとって毒となる。もっとも、あの子に指示した程度の量じゃ、たとえ老人にだって害は及ぼせないでしょ
うけどね」
メディスンは、彼女の生命の源となっている鈴蘭の毒以外にも、様々な毒を体内で生成できるようだった。そ
れはつまり、彼女が毒であると認識し、なおかつ体内に材料が揃っているものであれば、ほとんどあらゆるもの
を生成できる可能性があるということでもあった。自然界に存在する数多の毒に比べれば、塩の作りなど単純そ
のものだから、尚更生成は容易だったのだろう。
「……あのジジイがあんなに咳き込んでたのは?」
「単なる持病よ。不治の病。老人にはよくあることね。先が長くないんですって、彼」
「近い内に死ぬのね」
「塩なんか何の関係もなしにね」
「じゃあなんであんなジジイを選んだの」
淡々と答える紫を、幽香は強く睨みつけた。この隙間妖怪の考えは、大体理解できたつもりである。
世話役という名目で送り込んでいる以上、基本的に素直なメディスンは手を抜かずにその役をこなすだろう。
表面上は老人と親しくしながら、裏では彼の食事に毒を盛る悪妖怪、という役を。だがその毒というのが塩であ
る以上彼は実際死ぬこともなく、長い間メディスンと付き合っていくことになる。あの毒人形は能力の危険性の
割に無邪気で幼く裏表がないから、相手が優しい人間だと知れば必ず好感を抱くだろう。好きになった人間と触
れ合い、大事に扱われれば、人形として幸せに過ごしていた頃の記憶も蘇り、憎しみも薄れるはずだ、と。
「ここまでは、合ってるかしら」
「ええ、大体ね」
やっぱり、と思いながら、幽香は鋭く息を吐き出す。
「分からないのはここからよ。こちらの思惑がメディスンにばれないように、毒の効果が現れている振りをする
だけなら、演技の上手い人間でも引っ張ってくればいい。あんたなら不可能じゃないはずでしょ。わざわざ、本
当に死にかけているジジイを使う必要なんか全くないのよ」
「そうね。その通りだわ」
「じゃあなんであんなジジイなの!?」
幽香は紫の胸倉をつかみ上げ、激しく言葉を叩きつけた。
「分かってないとは言わせないわよ? このままじゃ、この三文戯曲は最悪の結末を迎えることになる。メディ
スンは間違いなくあのジジイを好きになるでしょう。でも彼は近い内に死んでしまう。さっきみたいに苦しみ抜
いた挙句にね! それは単に彼が老い先短い老人だからで、塩なんか何の関係もないのに、あの子は自分が毒で
殺したと思いこむわ。つまりあの子は自分が好いている人間を、自分の毒で殺すことになるのよ!?」
この筋書きをなぞったとしても、確かに人間への愛情を思い出させることはできるだろう。だが同時に、メ
ディスンは深い傷を負うことになる。自分の能力で自分の好きな人を殺してしまったという、一生心に残る傷を。
後で真相を打ち明けたとしても、老人が死ぬその瞬間に味わうであろう後悔の念は、彼女の心に強く残ってしま
うはずだ。下手をすれば、あの無邪気な妖怪が自分の存在を呪いながら生きていく羽目になるかもしれないのだ。
「答えなさい、紫。一体どういうつもりでこんなことを……!」
紫は幽香の手を解こうともしなかった。ただ黙って、瞬きすらせずに罵倒を受け止めていたのである。だがこ
の段になって、ようやく静かな声で答えた。
「あの子に、分別を身につけさせるためよ」
「分別ですって?」
眉をひそめる幽香の腕に、紫はそっと手を添えた。ほんの少しだけ冷静さを取り戻し、幽香は手を引っ込める。
隙間妖怪は乱れた襟元を直そうともせずに、淡々と答えた。
「あの子は自分がどれだけ危険な存在であるのか、ほとんど理解していないわ。それは、今まであの子と生活を
共にしてきたあなたが一番よく知っているはずよね?」
「ええ。それは、そうだけど」
「仮にあなたの言うとおり、本当にただのお芝居だけで人間への愛情を取り戻させ、憎しみを抑えこめたとして
も、それだけでは十分でないのよ。あの子は少し気を抜くと、すぐに毒を撒き散らしてしまう。それこそ、く
しゃみのような感覚でね」
「だけど永遠亭にいるときみたいに、気を張っていれば抑えられるんだから」
「それでは不十分だと言っているのよ。少なくとも、最良の状態ではないわ」
紫は鋭く否定した。
「あの子に求められているのは、無意識のレベルに至るまで自分の能力を完璧にコントロールすること。でなけ
れば、人間はおろか妖怪とだって付き合っていけないわ。誰だっていつ爆発するか分からない爆弾の横に座りた
くはないもの。誰もがあなたほど頑丈ではないことぐらい、分かっているでしょう?」
じっと見据えられて、幽香は返答に窮する。確かに、紫の言っていることはよく分かるが、
「だからって、ここまでする必要があるの?」
「ここまでしなければならないのよ。あの子は大好きな人間を自分の能力で殺すでしょう。そして自己の否定す
ら伴う強い後悔とともに、心に深く刻みつけることになる。自分の能力が、時に大切なものを壊してしまうほど
危険なものであることを。そうやって初めて、全身全霊で自分の能力を完璧に制御しようという気になれるのよ」
「だけどっ」
「幽香」
言い聞かせるような声音。
「この世界が……地を砕き海を割るような強大な力を持った存在がひしめき合うこの狭い世界が、なぜ平穏を
保ったままでいられるのか、あなただって分かっているでしょう?」
「……この世界が壊れてしまわないように、わたしたちが自重しているから」
「そう。だから、あの子も知らなければならない。力を持っているということがどういうことなのか。力を持っ
ている者が、持たない者と平和に共存していくためには、何が必要なのか」
紫は真っ直ぐに、幽香の目を見つめた。
「わたしやあなたが、ずっとそうしてきたようにね」
その瞬間、幽香はようやく理解できた気がした。
何故、ずっと他者から離れて生きてきた自分が、こうもメディスンのことを気にかけているのか。何故、紫か
ら今回の話を持ちかけられたとき、あの毒人形を預かることをああもあっさり承諾したのか。
幽香は束の間目を閉じて、己の心に目を向けた。遠い記憶の片隅に、一人ぼっちの小さな女の子が見える気が
する。自分の力を持て余して、そばにいてくれる人すらなく一人ただ声を上げて泣きじゃくるその女の子は、幽
香のようにも、紫のようにも、メディスンのようにも見えた。
(ああ、幽香)
己の心に問いかけてみる。
(あなたが抱きしめてあげたかったのは、一体誰?)
返事はない。幽香は重たく息を吐きだして、虚ろに目を開けた。紫は微動だにせず、ただこちらを見つめている。
「ねえ、紫」
声を絞り出す。
「寂しいと思ったことは、ある?」
紫はほんの少しだけ首を傾けて、薄らと微笑んだ。
「私はいつだって寂しいわ」
答えはそれだけで十分だった。
紫と幽香は、しばらくの間黙って縁側に座っていた。夕暮れの光が斜めに差し込んでくる頃になって、幽香は
ぽつりと問いかけた。
「ちょっと気になってたんだけど」
「なに」
「あのジジイは、今回の話をどこまで知ってるの?」
「全部よ。メディちゃんの素性も、わたしの思惑も。ある意味、死んで問題のない人間という表現は正しいのよ。
彼はメディちゃんが憎しみを抑えきれずに本物の毒を放出して、その結果自分が死んだとしても構わないと言っ
ているのだから」
「どうしてそこまで」
死にかけた老人の自暴自棄、とはとても思えなかった。先ほどメディスンに思い出を語っている老人は心底か
ら楽しそうで、自分の人生に誇りを持っているように見えた。老い先短くなったからと言って自棄に走るほど、
刹那的な人間には思えなかったのだ。
幽香が納得できずにいると、紫が小さな声で答えた。
「恩返しがしたいんですって」
「恩返し? なんの?」
「自分がここまで平穏に生きて来られたのは、本来人間を喰らうものであるはずの妖怪が、喰わないように我慢
してくれたからだって。つまり自分は妖怪から一つの命をもらったわけだから、一つの命を妖怪に返すのは当然
のことだって。そういう信念があるから、あんな死にかけの状態でも起き上がって、笑っていられるのね」
命を返す、というのは、つまりメディスンが幻想郷で平和に生きていけるように協力する、という意味だろうか。
それにしても、にわかには理解できない考え方である。幽香は首を振った。
「変な人間ね」
「そうね。でも案外、そんなものかもしれないわ」
「どういうこと?」
「強い者だろうと弱い者だろうと、心は平等に備わっているんだもの。彼らだって、わたしたちを見ていろいろ
と考えているのよ、きっと」
「そんなものかしら」
幽香にとって人間とは単に弱々しいだけの脆弱な存在であり、それでいて身の程知らずに傲慢で欲が深く、ま
ず嫌悪感しか抱けない生き物であった。
だから老人がそんな風に考えていることがどうにも納得できないのだが、紫はすんなり納得したようである。
「どうして?」
「わたしはあなたよりは人間とよく接しているし、そのせいじゃないかしら。そういう風に考えている人がいて
もおかしくはないなって、自然に思えるのよ。特に、この世界ではね」
紫の横顔は穏やかな確信に満ちている。幽香は鼻を鳴らしながら顔を背けた。
「あーそう、さすがは妖怪の賢者様ね。どうせわたしは世間知らずの引きこもりよ」
「なんでそこで拗ねるのよ」
「拗ねたくもなるわよ」
幽香は縁側の上で膝を抱え、顔を埋めた。
「メディが危険な状況にあるってことをきちんと把握してたのはあんた、この状況をお膳立てしたのもあんた、
あの子にとって何が必要なのか、ちゃんと分かってたのもあんた……結局わたしなんて何の役にも立ってない
じゃない」
「そんなこと」
「慰めはいいのよ」
幽香は顔を上げて紫を見た。
「紫。何か、まだわたしに出来ることはある? あの子のためにしてあげられることは」
「幽香、あなた……」
紫は驚いたように目を見開き、それから苦笑混じりに首を振った。
「まさか、あなたがそんなことを言ってくれるなんてね」
「そういうのはどうでもいいのよ。それで、どうなの?」
「もちろんあるわ。だけど、幽香」
紫は厳しく目を細めた。
「これは、とても辛い役割よ」
「あの子がこれから味わう気持ちよりも辛いとは思えないわね。いいから言いなさいよ」
幽香が強い口調で促すと、紫は一瞬悲しげな微笑を閃かせ、それから唇を引き結んだ。
「分かったわ。それでは、あなたにお願いしましょう」
「具体的には、何を?」
「メディちゃんは、これからあの老人と仲良くなっていくでしょう。そうすれば、必ず心に葛藤が生じるはずよ。
果たして自分がやっていることは正しいのか、このままこの人を毒殺してもいいのだろうか、と。ひょっとした
ら、途中で投げ出したり、逃げだしてしまうかもしれない」
「それではいけないのね?」
「ええ。この儀式は、最後まで目をそらさずに見届けてこそ意義があるの。自分のしたことの意味を心に刻みつ
けるためにね。途中で投げ出すことは、自分の能力の危険性から目をそらすことと同義なのよ」
もしそんな結果に終わってしまったら、ここまでしてきたことが全て無駄になってしまうだろう。紫が「博打
のような方法」と言っていた意味が、ようやく理解できた。
「つまりわたしは、あの子が最後まで自分の役目を全うできるように導いてやればいいわけね」
「そうよ。あの子に彼の最後の瞬間までをしっかりと見届けさせて、この世界での自分の立ち位置を……体内に
毒を抱えたまま生きていくということの意味を、教えてあげるの。そして、力を持つ者としての心構えを、あの
子の心に刻みつけてほしいのよ」
つまりこれは、あの無邪気な毒人形に、己の存在がいかに危険で疎まれるものであるかという残酷な現実を突
きつける役目なのだ。
「できる?」
「やるわ」
心の内まで見透かすような紫の厳しい視線を受け止めて、幽香は深く頷いた。紫は苦しげに顔を歪め、硬い声
を絞り出す。
「本当に大丈夫? これは完全に憎まれ役なのよ。あの子を愛しているあなたにとっては、本当に辛い役目。本
来ならば、私がやるべき」
「いいの」
紫の声を、幽香は強く遮った。
「わたしだって、ほんの短い間だけど、あの子と一緒に過ごしてきたのだもの。あの子がどういう妖怪なのか、
この世界の誰よりも理解しているつもり。だから、ちゃんと責任は果たしてみせるわ」
「そう」
紫は沈んだ表情で呟き、柔らかく微笑んだ。
「変わったわね、あなた」
幽香も静かに微笑み返す。
「何も変わっていないわ。ただ、自分の気持ちに気づいただけよ」
紫は幽香の顔をじっと見つめ、ただ黙って頭を下げる。そしてそのまま、後は任せたとでも言うように、音も
なく姿を消した。
その場でしばらく佇んでいると、廊下の向こうから慌ただしい足音が近づいてきた。幽香は深く息を吸い込み、
強い決意と共に振り返る。メディスンは、ちょうど幽香のそばで立ち止まったところだった。
「あれ? 紫は?」
「用事が出来たって言って帰ったわ。さ、わたしたちも帰りましょう」
きょとんとして周囲を見回しているメディスンに、微笑みながら手を差し出す。毒人形はちょっと残念そうな
顔をしたあと、嬉しそうに笑いながら幽香の手を握り返した。
太陽の畑に帰る途中、メディスンはずっと楽しそうに喋っていた。その多くは、あの老人がいかに面白い人物
であるか、ということだった。
「それでさ、ジジイったらおかしいんだよ。ほら、花の異変のときに飛んでた鳥妖怪がいたじゃない? あいつ
と会ったとき」
「メディ」
メディスンの声を遮って、幽香は静かに問いかける。
「あのジジイと、ずいぶん仲良くなったみたいだけど」
「え? ああ、うん、そうだね」
「そんな調子で大丈夫なの? ちゃんと、あいつを毒殺できるんでしょうね?」
意識して語調を強めながら訊くと、メディスンは「それは」と一瞬目を泳がせたあとに、少しぎこちない笑み
を作った。
「や、やだなー、心配しなくても大丈夫だよ。仲良くしてるのなんて、演技だよ、演技」
「本当に?」
「あったりまえじゃん。あのジジイだって人間で、わたしの敵だもん。人形解放への第一歩よ。仮に、あの……
ちょっとだけ本当に仲良くなっちゃっても、大丈夫。わたしだって一人前の妖怪なんだから、仕事に私情は挟み
ません。きっちり毒殺してみせるわ」
「そう。ならいいけど」
素っ気なく言って、幽香はまた前を向いて飛び始める。隣のメディスンは複雑な顔で俯きながら、
「そうよ。あのジジイだって人間なんだから。今は優しくても、その内人形を平気で捨てるような汚い本性を見
せるに、決まってるんだから」
と、自分に言い聞かせるように低い声で呟き続けていた。
こうして、メディスンの初仕事が始まった。毎朝早く起きだしては老人の家へ通い、夕方になると太陽の畑へ
帰ってくる生活である。以前の紫の話では「人間と一緒に暮らさせるのが理想」とのことだったが、メディスン
が寝小便のように毒を垂れ流してしまう可能性を考えれば、今まで通り夜は幽香の別荘で寝させる方が安全だった。
幽香は毎朝メディを見送り、別荘で待っている振りをしながら、その実ほぼ毎日隠れて様子を見に行った。大
妖怪八雲紫からじきじきに仕事を依頼された、という緊張感もあってか、メディスンは永遠亭にいるときと同じ
か、それ以上に気を張って、毒が漏れないように気をつけている様子だった。それでいて、作る食事には必ず適
量以上の塩を仕込む。指先から塩を出しているときのメディスンの顔はとても真剣で、いっそ微笑ましいぐらい
だったが、やっていることの意味を考えれば笑う気にはとてもなれなかった。
老人との交流も面倒くさがらずに続けている。と言うよりも、メディスンの方から話をせがむような形になっ
ているようだった。予想通り二人は日に日に親交を深めていき、三日後には花札なんかで遊ぶ姿が見られ、一週
間後には日の差し込む六畳間で並んで昼寝していた。メディスンは演技だ、などと嘯いていたが、老人と遊んで
いるときの彼女は実に楽しそうで、心底から老人に好感を持っていることが丸わかりであった。
そうして二週間ほどの時が経った頃、メディスンは縁側に座った老人の膝にちょこんと収まって、櫛で髪を梳
かしてもらっていた。水気を失って骨ばった手によるものとは思えないぐらい、優しく繊細な手つきだった。人
形は大人しく老人の膝の上に座りながら、しかしどこか居心地悪そうにもじもじと身じろぎしていた。
「そういや、お前さんも人形なんだったよな。髪質とか、やっぱ人間のとはちょっと違うもんなあ」
目元の笑い皺を深くしながら、老人が思い出すように目を細める。
「ウチにある人形の髪も、ちょうどこんな感じだったっけかな」
「え、ジジイも人形持ってるの?」
メディスンが驚いたように言うと、老人はかなり隙間の開いた前歯の列を見せて、にかりと笑った。
「おうとも。いや、俺のじゃねえけどな。今はちょいと訳ありで別居中だがよ、俺の孫が小さな人形、いつも抱
きかかえてんだ。祭りのときに森の人形遣いにもらったとかでな。どこに行くのも一緒なんだぜ」
「そう、なんだ」
「なあ、メディ」
老人はどことなく躊躇いがちに訊いた。
「やっぱり、普通の人形も、お前さんみたいに喜んだり悲しんだりするもんなのか」
「当たり前じゃない」
少し怒ったように、メディスンは頬を膨らませる。
「人形だって、抱っこしてもらったり話しかけられたりすれば嬉しいし、放っておかれたり」
小さな手が、自分のスカートの裾をぎゅっと握り締めた。
「……放っておかれたり、捨てられたりしたら、悲しいんだよ。すごく、傷つくんだよ」
「そうか。そうだよなあ」
老人は遠くの方を見るように目を細める。メディスンを見ていながら、他の誰かを見つめているようだった。
「なあ。お前さん、今はどうだ」
「え?」
膝の上で振り向くメディスンに、老人は苦笑いを見せる。
「俺は女子供じゃねえし、この通りぶきっちょだからよ。その上ヨボヨボのジジイで、腕もすっかり骨と皮ばっ
かりになっちまった。こんなジジイに抱っこされたり髪梳かされたりしたって、あんまり嬉しくねえだろ」
「そんなことないよ!」
メディスンは勢いよく老人の膝から飛び降りた。くるりと振り返って、大きく両手を広げながら、必死に声を
張り上げる。
「確かにジジイの手はちょっと硬いけど、でもあったかいもん。こうしてもらってると凄く安心できるし、嬉し
いよ。本当だよ」
無数の皺に埋もれかけた老人の瞳に、どこか悲しげな光が浮かんできた。
「そうか。そりゃあ、俺も嬉しいなあ。ありがとうよ、メディ。お前さんは優しい奴だなあ」
「……そんなこと」
少し顔を背けたメディスンに、老人は枯れ木のような腕を伸ばしかける。だがその途中で苦しげに顔をしかめ、
口元を押さえてせき込み始めた。
「ジジイ、どうしたの、大丈夫!?」
メディスンが慌てて駆け寄り、老人の背中を擦ってやる。彼はしばらくの間咳をし続けた。口元から手を離す
と、手のひらに血痰がこびりついていた。大きく目を見開くメディスンの横で、老人は青白い顔にぎこちない笑
みを浮かべてみせる。
「歳取ると体が弱くなっていけねえや。最近、また弱ってきたみてえでなあ」
「そう、なんだ」
「おう。悪いなあ、メディ」
急に謝られて驚くメディスンの頭を、老人は震える手で優しく撫でた。
「折角お前が飯作ってくれてるのによ。もっと元気出さなくっちゃなあ」
顔を伏せて黙り込むメディスンを、老人は少しの間申し訳なさそうに見つめていた。やがて彼が「肩、貸して
くれ」と言ってよろけながら立ち上がったので、毒人形は飛びあがって細い体を支え、家の奥の方に連れだって
歩いて行った。
幽香は家屋の陰で気配を殺し、その光景の一部始終を眺めていた。計画は思惑通り進んでいる。それを心の中
で再確認し、強く唇を噛みしめた。
その日、夕暮れ時に帰ってきたメディスンは、予想通り浮かない顔をしていた。あの無邪気で騒がしい毒人形
が、黙りこんだまま何かをじっと考え込んでいる様子なのである。幽香はあえて何も言わず、向かい合ってテー
ブルに座ったまま、黙って窓の外を眺めていた。
「こんばんは」
不意に声が聞こえて、顔を向けるとそこに紫が立っていた。いつものように唐突に表れた隙間妖怪は、愛想良
く微笑みながら歩み寄ってきて、メディスンを見下ろしながら問いかける。
「計画は、順調かしら」
メディスンはびくりと身を震わせたあと、躊躇いがちな口調で答える。
「うん。だいぶ、弱ってきてる、みたい」
「そう。良かったわ」
「あの、紫」
メディスンがおどおどしながら紫を見上げた。
「あのジジイ、本当に悪い人間なのかな」
「あら、どういう意味かしら?」
紫が冷たく目を細める。
「私が嘘をついているとでも?」
「ち、違うよ! そういう意味じゃないんだけど、なんていうか」
メディスンは口を噤み、落ち着かない様子で視線をさまよわせる。紫はそんなメディスンをじっと見下ろし、
突然優しい笑みを浮かべると、彼女のそばに屈みこんだ。
「可愛そうに。あのジジイの表面的な優しさに騙されているのね」
「騙される?」
「ええそうよ。彼は間違いなく悪人なの。老い先短い余生を生きる価値すらない、人間の屑なのよ。だから何も
迷わずに毒で殺してもいいのよ」
「でも」
「それとも」
また紫の目が鋭くなった。
「あなたは、妖怪の私よりも人間の彼を信用するのかしら?」
「そ、そういうわけじゃ!」
慌てて立ち上がりかけるメディスンに、紫はまた優しい微笑みを向ける。彼女の肩をつかんで椅子に戻しなが
ら、「そうでしょうそうでしょう」と、満足げに頷く。
「それでこそポイズンマスターさんだわ。これからも、よろしくお願いしますね」
「う、うん」
「それでは、ごきげんよう。ちゃんとあのジジイが死ぬまで見届けてちょうだいね」
念を押すように言い残し、紫の姿が消える。去る直前、少し申し訳なさそうにこちらを見ていた気がした。
紫が去ったあとも、メディスンは俯いたままスカートの裾をぎゅっとつかんで黙り込んでいた。幽香が何も言
わずにいると、わずかに顔を上向けて、「ねえ、幽香」と、躊躇いがちに問いかけてきた。
「幽香は、どう思う? やっぱりジジイは悪い人間なのかな。紫の言ってることが正しいのかな」
眉根を寄せて深く思い悩んでいる様子のメディスンを見て、幽香は紫の狙いを理解した。たとえばこの先よか
らぬ考えを持つ輩が、今回の紫と同じようにメディスンの力を利用しようと企む可能性はゼロではない。そうい
うときにこの毒人形があっさり相手を信用しすぎないように、彼女なりの判断力を育ててやろうとしているのだ
ろう。
(いろいろと、考えてるのね)
紫にしても、あの老人にしても。ならば自分も甘い顔をせずに、しっかりと責任を果たさなければならない。
幽香は胸の内で意思を固めると、嘲るような笑みを浮かべてメディスンを見返した。
「なに言ってるの。そんなの当たり前じゃない」
「そう、かな」
「そうよ。いい、メディスン」
幽香は少し身を乗り出して、メディスンの瞳を強く見据えた。
「人間は醜い生き物よ。平気で嘘をつくし、生きるためならどんな卑怯なことでもお構いなしにやってのける、
自分勝手な連中なの。あんただって、そんな人間に捨てられて妖怪になったんでしょうに」
「そう、だけど。でも、ジジイはさ」
なおも食い下がろうとするメディスンの前で、幽香は大げさに肩をすくめた。
「あーあ、やっぱり駄目だったか」
せせら笑うと、メディスンは驚いたように目を見開いた。
「や、やっぱりって、どういう意味」
「言葉通りの意味。最初から無理だと思ってたのよね。紫に恥をかかせるようなズルイ人間の相手、あんたみた
いな馬鹿に務まるはずないって」
「な、なによそれ!」
怒って立ち上がるメディスンを、幽香は腕を組んで悠然と笑いながら見つめた。
「無理しなくてもいいわよ、お人形さん。嫌なら止めたらいいじゃない。こんな程度でへこたれるようじゃ、人
形解放なんてとても無理だと思うけどね。ま、あんたみたいな寝小便垂れの無能人形は、丘で引きこもって独り
よがりな夢でも見てるのがお似合いってことよ」
出来る限り嫌味ったらしい口調でそう言ってやると、メディスンは眉を吊り上げ肩を震わせ始めた。反抗的な
目つきで幽香を睨みつけ、興奮しきった怒鳴り声を上げる。
「やるわよ! わたしだって一人前の妖怪だもん! あんなジジイ一人殺すぐらい、別に、なんでもないもん!」
「あらそうなの。ならやってみたら? どうせ途中で泣きながら逃げ帰ってくるに決まってるけど」
「うるさいわね! 黙って見てなさいよ」
「はいはい。どうでもいいけど興奮しすぎよ、あんた」
「なにが!?」
「毒」
頬杖を突いたまま面倒くさげに指さしてやると、メディスンははっとした様子で自分の体を見下ろした。また
どす黒い毒の霧が漏れ出しているのに気がついて、慌ててそれを止める。幽香は笑って言った。
「ほらご覧なさい。あんたなんて所詮その程度よ。すーぐお漏らししちゃうガキなんだから。自分の能力一つ満
足に制御できない半人前に、まともな仕事なんか出来やしないの。分かる?」
幽香が首を傾げると、メディスンは目に涙をためて悔しげに唇を噛んでいたが、やがて身を翻して足音も荒く
ベッドに飛び込み、そのまま黙り込んでしまった。
今は布団に埋もれて頭も見えないメディスンの方に目を向けながら、幽香はそっと溜息をつく。
(……これで、いいのかしら)
どうも加減が分からないが、やり方は間違っていない、と思う。自分が優しく接して、逃げ場所になってはい
けないのだ。劣等感を刺激するなり反発心を煽るなり、どんな手段でもいいから、ともかく最後まであの老人の
下へ通わせなければならない。
自分にそう言い聞かせてもどうにも胸の苦しさが消えてくれず、幽香は無理矢理息を絞り出した。
その晩フラワーマスターと毒人形はまだ同じベッドの中にいたが、メディスンはこちらに背を向けたまま一度
も振り返ってくれず、翌朝も幽香が起きるより早く出かけてしまった。
その日は朝から空が泣きだしたかのような冷たい雨が降り続けていた。老人の体調はさらに悪化しているよう
で、今では起きだしてくることの方が珍しいほどだ。メディスンは黙り込んだまま、布団の中で眠る老人のそば
に座っている。幽香は襖一枚隔てた部屋に気配を殺して潜み、二人の様子をじっと見守っていた。
「……ジジイ。起きてる?」
不意に、メディスンが小さく声をかけた。老人がゆっくりと瞼を押し上げ、目だけでメディスンを見る。口元
にかすかな微笑が浮かび、か細い声が漏れ出した。
「おお。なんだ?」
「訊きたいこと、あるんだけど」
「ああ」
「あの、さ」
屋根を叩く雨の音に混じって、
「人形を捨てたこと、ある?」
答えを聞くのを恐れているかのような、かすかな問いかけ。老人は静かに目を閉じ、雨の音に聞き入っている
かのように、しばしの間黙りこんだ。ひょっとして聞こえなかったのだろうか、と幽香が訝り始めたとき、
「ある」
小さな、しかし確かな声が、幽香の耳にも聞こえた。
メディスンの肩が大きく震えた。
「……どうして?」
硬い問いかけに、老人は淡々とした声で答え始めた。
「俺の娘も小さい頃は人形を持ってたが、大きくなると遊ばなくなって、家の隅で埃をかぶるだけになっちまっ
てた。それで家を建て替えたあとには、もうどこにも見当たらなくなってたんだ。不要な物にまぎれて、一緒に
捨てちまったんだな」
「じゃあ、わざとじゃなかったの?」
「……いや、違うな」
老人の口元に、苦い笑みが浮かんだ。
「本当は、あれがゴミに紛れてるってことは知ってたんだ。ゴミを入れた箱の一番上に、すっかりボロボロに
なったあの人形があって……一つしか残ってない目が俺をじっと見てる気がして、な。嫌な気持ちになったよ。
自分の手でゴミの中に深く鎮めて、もう見えないようにしたんだ。誰もなにも言わなかった。あんなに大切にし
てた娘ですらな。人形のことなんかすっかり忘れちまってるみたいだった。俺も忘れようとした。あんなもん、
あっても邪魔になるだけだから捨てても良かったんだ、と思ってな。だけど」
ひび割れた唇から、細く息が漏れ出した。
「だけど、孫が人形もらって、遊ぶようになって、娘も思い出したみたいでな。あの人形はどこに行ったっけ、
なんて聞かれて、知らないって嘘ついちまったよ。いや、実際聞かれるまで忘れてたんだ。でもすぐ思い出した
よ。あのときのあの人形の、恨めしげな、悲しそうな目を、な。気のせいだって思いこもうとしてたが、お前さ
んを見る限り、やっぱり俺の感覚は正しかったんだなあ」
「よくも……!」
人形の髪が逆立ち、全身から濃い毒の霧が立ち上った。メディスンは怒りに我を忘れたかのように立ち上がり、
叫び始めた。
「やっぱり紫の言うとおりだった! お前も汚い人間の一人だったんだ! 人形の気持ちなんかちっとも考えて
くれない、自分勝手で冷たい人間に過ぎなかったんだ!」
メディスンの毒を浴びて苦しげに呻きながら、老人が弱々しく笑った。
「ああ、そうだな。その通りだ」
「殺してやる!」
メディスンの体から凄まじい量の毒が滲みだした。どす黒い霧に包まれ、人形の体が見えなくなる。彼女の足
元で、畳が煙を上げ始めた。隣の部屋からその光景を見つめて、幽香は息を呑む。今はまだ人形の力によって彼
女の周囲に留まっているようだが、あの毒の霧が解放されたら、死にかけの老人など一秒も持たないだろう。真
正面から浴びれば自分とて無事ではいられまい。メディスン・メランコリーの危険性を改めて目の当たりにして、
背筋に震えが走る。
(止めに入らないと……!)
いくら老人を毒殺させるのが目的だったとは言え、これでは狙いとは逆の結果しか残らない。幽香は意を決し
て襖を開こうとしたが、寸でのところで踏みとどまった。
メディスンを包む毒の霧が、薄まり始めていた。少しずつ人形の体に吸い込まれているのだ。信じられない心
地で目を見張る幽香の前で、毒は完全にメディスンの体に戻った。
後に残ったのは、わずかに黒ずんだ畳と、その上に黙って佇むメディスン。そして激しい雨音に混じってわず
かに聞こえてくる、老人のか細い息遣いだった。まだ、彼は生きている。
「どうしてよ」
涙声で問いかけながら、メディスンがその場に膝を突いた。
「分かんないよ。ジジイはあんなにあったかくて、人形のわたしにも優しかったのに。今だって、黙っていれば
よかった。人形を捨てたことなんてないって嘘をつけば分かんなかったのにさ。どうしてわざわざ、わたしを怒
らせるようなことをしたの?」
泣きながら問いかけるメディスンの前で、老人の唇が小さく開いた。
「謝りたかったんだ」
一つ咳をして、老人は薄らと目を開けた。
「お前さんと会って、話をするようになってから、あのとき捨てた人形のことばっかり思い出しちまってなあ。
どうして捨てちまったんだろう、せめて家の隅にでも置いてやってりゃ良かったって、そればっかり考えてた」
「そうだよ」
ぼろぼろと涙を零しながら、メディスンが言う。
「それでいいんだよ。それだけで十分なんだよ。一年に一度抱き上げてくれるだけでも、暇なときにただ見つめ
てくれるだけでも、わたしたちは十分幸せなのに。どうして捨てるの? どうして置いていっちゃうの? どう
して、わたしたちの気持ちを分かってくれないの? 分かんないよ、全然分かんないよ……」
メディスンの悲痛な声を聞いて、老人は寂しそうに微笑んだ。
「多分、こんな風に声を聞くことが出来ないからだろうな」
「声?」
「そう。人間ってのは、頭の悪い生き物なんだ。自分で動いたりしないから、何も喋らないから。ただそれだけ
で、人形なんてただの物だと考えちまう。そいつが悲しんだり喜んだりしてるだなんて、知りもしないのさ」
「でも、わたしたちだって」
「ああ、分かる。今ならよく分かるよ。お前さんに、教えてもらったからな。だから、なあ、メディスン」
老人は布団の中から腕を出した。枯れ木のようにやせ細った腕が、震えながらメディスンの方へ伸びる。
「どうか、教えてやってくれないか。俺の子供や孫、それ以外のたくさんの人間たちにも。人形だって俺たちと
同じように喜んだり悲しんだりするんだってことを、お前に言葉で伝えてもらいてえんだ。そうすりゃ皆も、今
までよりずっと、人形を大切にしてやれると思うからよ」
「本当?」
「本当さ。人間ってなあ、自分と同じだって思うものには、案外優しくなれる生き物なんだぜ。だからどうか、
許してくれな。お前たちの声を聞くことが出来ない、無力で無能な俺たちを、どうか許してくれな」
自分の目の前に伸ばされた老人の手を、メディスンは涙に濡れた瞳でじっと見つめていた。やがて座ったまま
身を乗り出し、躊躇いがちに両手を差し出した。人形の手が老人の手を包み込み、ぎゅっと握り締める。
メディスンの口元に、ぎこちない微笑みが浮かんだ。
「分かった。許してあげる。ジジイに免じて、許してあげるよ」
「そうか。そりゃあ、良かった。ありがとうよ」
二人は目を合わせて微笑み合う。そのときメディスンの瞳から一粒涙が零れ落ち、人形の手の隙間から老人の
手に流れ落ちた。老人が顔をしかめて呻くのを見て、メディスンは慌てて手を離す。
「ご、ごめん! わ、わたし、涙まで毒だっていうのを忘れてて」
「ああ、いい、いいんだよ」
「でも」
「いいって」
老人はまだかすかに顔をしかめながら、それでも笑ってみせた。
「こんなもん、お前に比べりゃちっとも痛くないさ」
「ジジイ……」
「なあメディ。今まで、辛かったなあ」
労わるようなその声を聞いて、メディスンはまた泣き始めた。老人の体に自分の涙が落ちないように、少しだ
け身を離して。
隣の部屋でそれを見ながら、幽香は毒人形の涙を拭ってやりたい衝動に駆られたが、必死に我慢して、黙って
家を後にした。
さらに三日経ち、幽香は夕暮れの向日葵畑に佇んでいた。傍らに立つ一本の向日葵を見ると、花弁が少し色褪
せているのが分かった。そろそろ、夏も終わりだ。メディスンと一緒に太陽の畑で暮らしてきた日々が、終わり
を告げようとしている。
多分、あの老人が次の季節を迎えることはないだろう、と幽香は見ていた。メディスンの表情は日に日に暗く
なっている。今では見ているだけでも辛くなってくるほどだ。だが、慰めることはできないし、許されない。ま
だ、仕事は終わっていないのだから。
「幽香」
不意に声をかけられて振り向くと、そこにメディスンが立っていた。暗い表情で俯き、肩を落としているため、
いつも以上に小さく見える。
「おかえり、メディ。さ、家に入りなさい。夕飯に」
「ジジイが」
メディスンが小さく呟いた。
「ジジイが、あんまりご飯食べてくれないの」
「……そう。順調ね」
幽香が素っ気なく言うと、メディスンはぐっと唇を噛んで、その場に座り込んだ。「メディ」と声をかけても
返事をせず、黙りこくったままでいる。
「あのさ、幽香」
メディスンがぎゅっと膝を抱え込んだ。
「もう、ジジイの食事に毒入れるの、止めようかな」
「どうして」
「だって、ほら……もう、あんな死にかけだしさ。これ以上毒入れても、あんまり変わりないんじゃないかな。
長く苦しませるって目的から考えれば、もう放っておいて、少しでも長く生かした方がいい気がするし」
一瞬、幽香は「あんたの好きにしなさい」と言いかけて、口を噤んだ。まだ仕事は終わっていない、メディス
ンの逃げ場所になってはいけないのだ、と、強く心に言い聞かせる。
「駄目よ」
声が震えないように最大限注意を払いながら、幽香は冷たい声で言った。メディスンの肩がびくりと震える。
「今更何を言っているの。またあのジジイの表面的な優しさに騙されてるのね? そんなんじゃ、一人前の妖怪
にはなれないわよ。我慢して、ちゃんと最後までやり遂げなさい」
「やだ」
ぎゅっと膝を抱え込み、メディスンは断固とした口調で言った。幽香は眉間に皺をよせ、腕を組む。
「なんですって? メディ、よく聞こえなかったわ。もう一度、言ってみなさい」
「やだって言ったの! 絶対に、やだ!」
メディスンは勢いよく立ちあがり、真っ直ぐに幽香を睨みつけてきた。
「ジジイはいい人間だよ! 誰が何と言ったって、あったかくて、優しいの!」
「だからなによ」
「わたしはもうジジイに毒なんか盛らない! 普通に看病して、元気にしてあげるの! 一人前の妖怪になんか、
なれなくていい!」
「看病? 元気にしてあげる? 毒人形のあなたが?」
メディスンの口からそんな言葉が出てきたことに内心大きな喜びを感じながら、幽香は毒人形に嘲笑を浴びせた。
「馬鹿じゃないの? そんなこと、無理に決まっているでしょう。大体あんた、今まで自分が彼に何をしてきた
のか忘れたの? あんたみたいな毒人形、人のそばにいたって相手を苦しめることしかできないわよ」
「そんなことないもん! 毒は薬にもなるものだって、永琳も言ってた!」
「でもあんたには無理ね。ちょっと気を抜くと毒を漏らしちゃうような寝小便垂れの半人前には、そんなこと一
生かかったってできるわけないわ」
「できるもん、やるもん! ジジイの体に、もう毒なんか一切入りこませない!」
「へぇ。じゃ、やってみせなさいよ。どうせムリだと思うけど」
「やってやるわよ! なによ、意地悪なことばっかり言って……!」
メディスンの目に涙が溜まり、その体から膨大な量の毒の霧が溢れ出す。
「幽香なんか、大っ嫌い!」
涙とともに叫びが飛び、毒の霧が球状に収束して幽香の体を弾き飛ばした。仰向けにひっくり返った幽香の耳
に、メディスンが走り去る音が聞こえてくる。たぶん、あの老人の家に行って、つきっきりで看病するつもりな
のだろう。
(大丈夫かしら、あの子。これで、良かったのかしら)
一人夕暮れの空を見上げながら、考える。毒を浴びた箇所がじくじくと融け出し、酷く痛む。だが少しも気に
ならない。それどころか、こんな痛みではとても足りないとすら思えた。
「大丈夫?」
視界の隅から紫が顔を出した。彼女の顔を見るのも、ずいぶん久しぶりな気がした。
「ねえ、見た?」
寝転がったまま、幽香はぼんやりと問いかける。
「あの子、ちゃんと自分の意志で判断して、行動できるようになったわ。あれならきっと、もう大丈夫よね」
「ええ、ええ。あなたのおかげよ。まさか、こんなに完璧にやってくれるとは思っていなかったわ。本当に、あ
りがとう」
「お礼を言うのはこっちよ。それに、まだ早いでしょう」
幽香はゆっくりと身を起こし、紫の方は見ないままに問いかけた。
「彼、あとどのぐらい持つの?」
「もういつ死んでもおかしくないわ。明日か、明後日か……三日は持たないでしょう。仮にメディちゃんが薬を
作れたとしても、彼の命を引き延ばすことはできないでしょうね。寿命なのよ」
「そう」
幽香はため息を吐きだした。メディスンは、たった一人であの老人が弱っていく様を見つめ続けることになる
だろう。さっき宣言した通り、必死に看病し、なんとかして助けようとするに違いない。だが、その努力は全て
無駄に終わるのだ。最期の最期まで老人を助けようとして、結果、彼が死ぬ瞬間を見届けることになる。
全て、こちらの思惑通りだ。
「幽香」
紫が声をかけてきた。気遣うようなその視線を辿ると、幽香の腕に辿りつく。毒が泡立ちながら肌を融かし、
赤黒い肉が露出していた。痛いわけだな、とぼんやり考える。
「大丈夫? すぐ治療を」
「いいわ」
「でも」
「いいから。せめてこの痛みと一緒に、あの子の毒を抱えていてあげたいのよ。分かるでしょう?」
紫はただ微笑んで頷き、何も言わずに去ってくれた。
一人残された幽香は、全身に毒による痛みを感じながら、黙ってメディスンが走り去った方向を見つめる。や
がて風が冷たくなってきたころ、のろのろと歩いて別荘の中に戻った。
別荘の中に入ったら、圧倒的な静けさにまず違和感を覚えた。何もする気が起きず、ベッドに腰かけてぼんや
り天井を見上げる。少し前までこの静寂が当たり前だったはずなのに、今ではもうどうしようもなく馴染みのな
いものになってしまっていた。
ごろりとベッドに横になると、メディスンが収まっていた跡がかすかな凹みになってまだ残っていた。ほとん
ど無意識に手を伸ばし、その部分をゆっくりと撫でる。胸が苦しくなって無理矢理息を絞り出して目を閉じたら、
メディスンの能天気な笑顔が浮かんできた。
「あんたの言うとおりね」
ぽつりと呟くと、瞼の裏から涙が溢れ出した。
「一人で寝るのって、寂しくてたまらないわ」
ベッドの上で身を丸め、声を押し殺して泣いた。
二日経った。幽香は一人、ただ枯れ行く向日葵畑を散策するだけの日々を送っている。少し前まではこの畑に
毒人形の無邪気な声が響いていたものだが、今聞こえてくるものと言えば時折吹きつける冷たい風の音だけである。
メディスンはあれから一度も姿を見せていない。おそらく、あの老人と一緒にいるのだろう。幽香は何度か様
子を見に行こうかとも考えたが、結局行かなかった。老人を助けようと必死に頑張っているであろうメディスン
の心を、無闇に乱したくはなかったからだ。
昨日は紫がやって来て、過激派の賢者たちを説得することに成功したと教えてくれた。メディスンが自分の意
思で能力をコントロールできるようになり、なおかつ人里には手を出さないと証明できるのなら、今後彼女に手
出しはしないと約束してくれたのだそうだ。その条件ならば、計画がうまくいきさえすればいくらでもやりよう
はある、と紫は語った。
「心配事が一つ減って、良かったわ」
紫はそう言ったが、幽香と同じく、彼女の顔もまたあまり嬉しそうではなかった。
幽香はただひたすら状況が動くのを待ち続けた。どんな風になるかは分からないが、老人の死が契機となるだ
ろう、とは思っている。彼が死んだらメディスンのところへ行って、何らかの形で力を持つ者としての心構えを
教えこんでやらなければならない。そこまでやって、初めて責任を果たしたと言えるのだ。
そうして、メディスンがいなくなってから三日目の昼ごろ、漠然とした予感を覚えて別荘の前に佇んでいた幽
香の耳に、誰かの靴音と弾む息遣いが聞こえてきた。目を凝らすと、小さな毒人形が少しずつ近づいてくるのが
見えた。飛び方を忘れてしまったかのように、短い手足を必死に振って、懸命に走ってくる。顔は苦悶に歪み、
体の至るところから毒の霧が漏れ出しているのが分かる。非常な衝撃を受けて、我を忘れるほどに動揺している
ようだった。
メディスンは幽香の少し手前で立ち止まり、しばらくの間荒い呼吸を繰り返していた。幽香は何も言わずにそ
れを見つめる。メディスンもまた、毒を撒き散らしながら見つめ返し、そして、
「ジジイが、し」
一度息を詰まらせて、
「死んだ。ジジイが死んだ、死んじゃった……!」
人形の目から涙が零れ落ち、ぐしゃりと顔が歪んだ。
「わたしが殺した。わたしが毒で、優しいジジイを殺しちゃった……!」
とうとう、メディスンは声を上げて泣き始めた。受け止める者のいない涙が止め処もなく毒人形の肌を流れ落
ち、だだ漏れになった毒の霧がゆっくりと広がって向日葵畑の空気を汚していく。
その中心にいてメディスンの前に佇みながら、幽香は動けずにいた。やるべきことは分かっているのだ。それ
がお前のしたことなのだと、毒を無分別に撒き散らすとこういう結果になるのだと、この場でしっかり教えこん
でやらねばならない。
だと言うのに、どうしても声が出ない。黒い毒の霧で息が苦しいから、ばかりではない。声を上げて泣きじゃ
くるメディスンを見ている内に、その姿が誰かの姿と重なってしまったのだ。
ああ、この子も今、持たされてしまった力の大きさゆえに苦しんでいるのだと、そう思ったときには
「違うわ」
自然と腕が伸びて、メディスンの小さな体を抱きしめてしまっていた。
「あんたのせいじゃ、ないのよ」
わたしは何を言っているんだろう、と思いながら、幽香はメディスンの耳元で囁き続ける。
「あんな量の塩なんかじゃ、人間の生死だって左右できやしないわ。彼は老い先短い老人で、もともとあまり長
くは生きられなかったの。あんたのせいじゃないのよ。あんたが、毒で殺したんじゃないのよ」
「違うよ! わたし、わたしが、殺したの」
「いいのよ、そんな風に自分を責めなくたって。あんたが悪いんじゃないんだから」
「違う、わたしが、わたしが……!」
懺悔を続けようとするメディスンの口を塞ぐように、幽香はさらに力を込めて毒人形の体を包みこみ、抱きし
めた。彼女を壊してしまわぬように。彼女の毒が漏れ出して、周囲の何かを傷つけてしまわないように。
メディスンは幽香の胸にしがみつき、ただただ泣き続けた。その涙と漏れ出す毒は、幽香の体を容赦なく蝕み、
強い痛みを与えた。しかし幽香は決してメディスンの体を離そうとはしなかった。今この小さな毒人形を抱きし
めてやれるのは、この世でただ一人、自分だけしかいないのだと、よく分かっていたからだ。
夜になるまで泣き続けて、メディスンはようやくほんの少しだけ落着きを取り戻した。幽香は人形を促して一
緒に別荘の中に入り、以前のように二人並んでベッドの中に収まった。
「幽香と別れた日、すぐにジジイの家に行ったんだけど、この三日間はもうほとんど起きて来なくて……それで
もわたし、ジジイに元気になってほしかったから、今までみたいにご飯とか作ってあげたりしたの。結局、ほと
んど食べてくれないままだったけど。永琳に相談しに行こうかとも思ったけど、家を空けてる内に死んじゃった
らどうしようって思うと怖くて、ずっとジジイのそばにいたわ」
「あの医者に相談しても、きっと結果は変わらなかったと思うわよ」
「そうかもしれないけど、でも、結局何もしてあげられなかったのが悲しくって」
メディスンの目にまた涙が溜まり始めた。幽香はそっと人形を抱きしめてやりながら、自分でも驚くほど優し
い声で慰めの言葉をかける。
「きっと、メディがそばにいてくれただけで、あの人は嬉しかったと思うわよ。ちゃんと、してあげられるだけ
のことはしてあげたのよ、あんたは」
「そんなことないよ」
幽香に抱きしめられることを拒絶するかのように、メディスンは無理に体を離す。
「誰が何と言っても同じよ。わたしがジジイを毒で殺そうとしてたのは本当のことだし、一度は本当に殺しかけ
たの。あんなに優しい人を、自分の手で……ねえ、幽香」
「なに」
「わたし多分、退治されるべきなんだと思う」
「メディ」
幽香が驚いてメディスンを見ると、強い意志を湛えた瞳と目が合った。
「だって、毒を撒き散らす人形なんて、危険だもの。悪い人間ならともかく、ジジイみたいにいい人間も苦しめ
て、殺してしまうかもしれないんだって、よく分かった。だからわたし、きっとこの世界にいちゃいけないんだ
と思う」
「それは違うわよ、メディ」
幽香は強い口調で言い聞かせた。
「確かに毒を撒き散らす人形は危険な存在だけど、大事なのはあんたがそれを自分でコントロールできるかどう
かなのよ。自分の意志で完璧に毒が漏れないように抑えられるようになれば、あんたは危険な存在ではなくなる
の。分かるでしょう?」
「そんなの」
「無理な話じゃないわ。それが自分の力なら、努力すれば必ずコントロールできるようになる。現にわたしだっ
て、花を操る能力を持っているけど、無闇に成長させすぎたり、うっかり枯らしてしまったりはしていないで
しょう? それと同じことよ。あんただって、頑張れば必ずできるようになるわ」
メディスンはまだ自信なさげに目をさまよわせていたが、やがて躊躇いがちに聞いてきた。
「本当に、できると思う?」
「ええ、大丈夫よ」
「わたしなんて、寝小便垂れの半人前妖怪なのに?」
「子供の頃は誰だっておねしょぐらいするわよ。わたしだってそうだったもの」
「幽香も?」
メディスンがほんの少しだけ笑ったので、幽香も小さく微笑み返した。
「ええ本当よ。それに、わたしなんてあんたより泣き虫だったんだから。虐められないために強くなったような
ものよ」
「そうだったんだ」
「そう。まあその代わり、今では逆に虐めるのが楽しくなっちゃってるんだけど」
「わあ、幽香ったら悪い子だ」
「そうねえ」
「ね、ね。じゃあ、紫も昔は泣き虫だったり、おねしょしたりしたのかな」
「したでしょうよ。っていうか紫は今も寝小便垂れてるかもしれないわよ。ボケ老人だから」
「それは酷いよー、幽香」
ベッドの中で顔を突き合わせながら、二人はくすくす笑い合う。
「幽香」
メディスンは笑いを引っ込めて、真面目な表情で言った。
「わたし、やっぱり退治されるのはやめるわ」
「そう」
「うん。よく考えたら、ジジイと約束したことあったし。ちゃんと果たさなくちゃ。だけど」
少し、顔を曇らせる。
「やっぱり、ジジイはわたしが殺したんだと思う」
「メディ、さっきも言ったけど、塩なんかじゃ人間は」
「ううん、それはもう分かったの。だから、そういうんじゃなくて。それでもやっぱり、ジジイはわたしが殺し
てしまったんだと思う。分かってもらえないかもしれないけど、そう思うの」
「……そう。メディがそう考えたのなら、そうなのかもしれないわね」
実際、幽香には今のメディスンの気持ちが完璧には分からなかった。だが、彼女とて最初は本気であの老人を
殺そうとしていたのだし、いろいろと思うところはあるのだろう、というのは理解できる。それは多分老人と二
人きりで過ごしてきたメディスンにしか分からない感覚なのだろうし、であれば無理に自分が解釈する必要など
ないのだ。ただそばにいて、見守ってやればいい。
「だからね、幽香」
メディスンの声は、少しだけ震えていた。
「わたし、謝りに行こうと思うの」
「謝る……誰に?」
「ジジイの家族に。今は別居中だけど、娘と孫がいるって言ってたから、その人たちに。会って、何をどう言う
べきなのかは分からないけど」
それを許すべきなのかどうか、幽香にはよく分からなかった。あの老人の家族が様子を見にきたことは一度も
なかったから、多分あちらにも何らかの形で話は伝わっているのだろう、とは思うのだが。
ただ、メディスンが自分なりに今回のことに決着をつけようとしていることは理解できる。だから、ただ黙っ
て頷いてやった。
翌朝起きてみると、片付けられたテーブルの上に二人分の黒い服が用意されていた。喪服らしい。『あの人に
会いにいくつもりなら、これを』という書置きも添えられていた。いちいち気が利いている隙間妖怪に感謝する
べきなのかどうか、少し迷う。
二人は喪服を着こんで別荘を出た。手を繋いで空を飛び、しばらくするとあの老人の家が見えてくる。メディ
スンはぐっと唇を噛んで緊張しきった表情を浮かべていたが、やはり気を張っているらしく、毒は一切漏れ出し
ていなかった。
庭先に黒い人影を見つけたので、二人はゆっくりと降下した。縁側を背に静かに佇んでいたのは、二人と同じ
ように喪服を着た老女であった。正確な年齢は分からないが、おそらくあの老人と同じぐらいだろうと、幽香は
推測する。
「こんにちは。きっと、来てくださるだろうと思っておりました」
老女は柔和な笑みを浮かべてゆっくりと頭を下げる。そして、あの老人の妻であると名乗った。彼女の話によ
ると、老人の亡骸はもう葬儀の準備のために運び出されてしまったそうだ。眠っているような、安らかな死に顔
であったという。
「主人を看取って下さったのは、あなたかしら」
「は、はい!」
穏やかな問いかけに、メディスンは背筋を伸ばして答える。老女は目を細めて頭を下げた。
「ありがとうね。あの人、あなたのおかげで、きっと幸せだったと思うわ」
「そんなことない!」
メディスンは大きく首を横に振った。
「だってわたし、最初はジジ……あの人のこと殺そうとしてて……それにあなただって、わたしのせいで死に目
に会えなかったし」
「メディ」
興奮して喋っているメディスンの服を、幽香は小さく引っ張った。また少し毒が漏れ出しそうになっていたの
だ。メディスンははっとして毒を引っ込めて、泣きだしそうに顔を歪めた。
「わたしがこんなんじゃなかったら、なんの問題もなかったはずなのに……本当に、ごめんなさい。ううん、
謝って許してもらえることじゃないと思うけど」
「いいのよ」
老女はメディスンに微笑みかけた。
「これはね、わたしとあの人とで、よく相談して決めたことなの。残り少ない命を幻想郷のために……自分の後
も生き続ける命のために使いたいって、あの人言ってたわ。わたしもその決意を立派なものだと思ったから、納
得して送り出した。だから、謝らなくてもいいの」
「でも」
「その代わり、ね」
老女の声が、少しだけ厳しくなった。
「あなた、あの人のことを忘れてはだめよ。あなたはわたしが一番大切に想っていた人から命を受け取ったの。
だから絶対に、そのことを忘れないで。なぜあの人があなたのために命を使ったのか、これからもよく考えなが
ら生きていってちょうだいね。そうするのが一番、あの人とわたしのためになるのだから」
メディスンは俯き加減にその言葉を聞きながら、少しの間想い悩む様子だった。しかしやがて決然と顔を上げ、
老女の顔をまっすぐに見つめ返しながら、力強く頷いた。それに答えるように、老女も嬉しそうに頷き返す。
「ありがとう。今のあなたを見ていると、わたしたちの選択は間違いじゃなかったんだって、素直に思えるわ。
これからも辛いことがたくさんあると思うけど、あなたを好きだった人がいたってことを忘れずに、頑張って生
きていってちょうだいね」
そう言い終えたあと、老女は幽香とメディスンに葬儀の日取りを教えてくれた。
「わたしも行っていいの?」
「もちろんよ。ちゃんとお別れを済ましていないんでしょう? それじゃあ二人とも寂しいと思うから、ね」
不安げなメディスンに、老女は笑ってそう言った。
葬儀の日、二人は常に会場の隅っこの、人里の人々から離れた位置にいた。事情を知らない人々を怖がらせた
り不審がらせたりしてはいけないと思ったからでもあるし、メディスンが葬儀の間中ずっと毒が漏れないように
しておけるか、自信がないと言ったからでもあった。
それでも幽香の目から見て、メディスンは立派に自分を制御しているようだった。彼女は一切毒を漏らさな
かったし、事情を知らない人間に奇異の目で見られても特に取り乱したりしなかった。むしろ幽香の方が、自分
のようなのがここにいて式の邪魔になっていやしないだろうかと落ち着かなかったぐらいである。
だが老人の骸が焼かれる段になってとうとう耐え切れなくなったのか、メディスンは前を見て立ったまま静か
に涙を流し始めた。幽香は黙って小さな人形を後ろから抱きよせ、彼女の涙が万一誰かを傷つけることがないよ
うに、全て己の腕で受け止めてやった。抱き寄せられながらも目をそらすことなく火葬の一部始終を見つめ続け、
泣きながらも毒を漏らしはしなかったメディスンのことが、たまらなく誇らしかった。
そうして火葬が終了すると、二人は人ごみを避けるようにして会場から抜け出した。人間の流儀に従えばこの
後も何かあるのかもしれないが、これ以上この場にとどまるのはさすがに場違いだろう。それに、別れはもう済
んだから、これで十分だとも思った。
「あ」
会場から離れる直前、メディスンが小さく声を漏らした。何事かと立ち止まって彼女の視線を辿ると、式場の
隅っこにぽつんと一人の女の子が立っているのが見えた。あの子がどうかしたのか、と問おうとして、幽香は女
の子が手に小さな人形を持ち、楽しそうにあれこれ話しかけているのに気がつく。おそらく、あれが老人の孫な
のだろう。見た感じかなり幼いから、祖父が死んだという事実がよく呑み込めていないのかもしれない。
立ち止まりはしたもののまだ迷っている様子のメディスンの背中を、幽香はそっと押してやった。メディスン
は驚いたように振り返り、それから黙って微笑むと、ゆっくりとした足取りで女の子の方に歩み寄っていく。
「こんにちは」
見知らぬ少女に声をかけられたためか、女の子は吃驚した様子だった。メディスンはちょっと屈みこみ、女の
子の手の中の人形を見つめて嬉しそうに笑う。
「あんた、大切にしてもらってるんだね。良かったね」
「この子のこと?」
女の子が躊躇いがちに訊く。メディスンは大きく頷いた。
「そう、その子のこと。わたしね、人形の気持ちが分かるんだよ」
「本当?」
「うん。この子、とっても幸せそうにしてるから。大切にしてあげてるんだね、あなた」
メディスンがそう言うと、女の子は嬉しそうに笑いながら、ぎゅっと人形を抱きしめた。その人形はよく手入
れされているようだったが、遠目に見てもだいぶくたびれているものと分かる。本当に、どこに行くにも一緒な
のだろう。
「ね。これからも、この子のこと大事にしてあげてね。あなたが大人になっても忘れたりしないで、たまには声
をかけてあげて。それだけで、人形は幸せな気持ちになれるんだから」
「大丈夫だよ! わたしたち仲良しさんだもん。大きくなってもずっと一緒だよ、ね?」
女の子は人形に声をかける。もちろん、人形は何も答えないし、頷いたりもしない。それでもきっと、メディ
スンにはその気持ちが分かったのだろう。満足そうに頷いて、「ありがとう、じゃあね」と言い残し、晴れやか
な笑みを浮かべて幽香の下に戻ってきた。
そうして二人は今度こそ会場を出て、人間の里からも離れた。何となく飛んで帰る気になれなかったので、地
に足をつけたままゆっくりと帰路を辿る。
「ね、幽香」
不意に、メディスンが言った。
「わたし、分かったような気がする。さっきみたいにやればいいんだね。それが一番、人形たちのためになるんだね」
「……メディがそう思うのなら、そうなんじゃないかしら」
「きっとそうだよ。ああ、そっか」
不意に、メディスンは何かに気づいたようだった。
「前の異変の時に誰かが言ってたことの意味、ようやく分かった。そうだよね、人間から人形を解放するなんて、
そもそもあの子たち自身が望んでないんだ。人形にとっての一番の幸せって、大事にしてくれる人間とずっと一
緒にいることなんだもん。やっと思い出せたよ、そういう気持ち。ジジイのおかげね、きっと」
メディスンは納得した様子で何度も何度も頷いたあと、「よーっし!」と張り切った様子で拳を掲げ上げた。
「そうと決まったら、これからは人形達の真の幸せのために頑張るぞー! まずは完璧に毒を操れるように頑張
らなくちゃ! 修行だ修行! さあ幽香、早く帰ってそのための準備しようよ、ねっ!」
そんな風にすっかり一人で盛り上がり、メディスンは物凄い速さで太陽の畑の方に向かって飛んでいく。その
あまりの勢いに、幽香は苦笑するしかない。
「まったくもう。ちょっと前は『退治されるべきだと思う』なんて言ってたくせに。調子いいんだから」
「でも、落ち込んでいるよりはずっとマシですわねえ」
気づくと、隣に紫が佇んでいた。どんどん小さくなるメディスンを、目を細めて見つめている。幽香はちらり
と隙間妖怪を見て、少し疑問に思っていたことを問うてみた。
「あの子、なんだか急に物分かりがよくなったみたいだったけど」
「閻魔様の説教のことかしら?」
「ええ」
「多分、あの子も頭では理解していたんだと思うわ。ただ、それを認めるには人間への憎しみが強すぎたのね。
理性と感情が一致していなかった、とでも言うべきかしら」
「じゃあ、あんな風に素直に認められるようになったってことは」
「ええ。今やあの子の中で、人間への憎しみはそう重要なものではなくなったと見ていいでしょう」
「消えたわけではないのね」
「あの子が人間に捨てられたというのは、消すことのできない事実だもの。だけど、大切にされていたときも
あって、それが何より幸せな時間だったということも、やっぱり消えない事実。どちらも大切な、あの子の一部
だったのよ。メディちゃんは今ようやく、メディスン・メランコリーという存在本来の形を取り戻すことが出来
たんだわ」
そう言って、紫はほっと息をつく。
「本当に、良かったわ。考えうる限り最高の……いえ、考えていたよりもずっといい結末よ」
「そう? そう、かもね」
幽香自身、あれこれと最悪の結末を想像してはいたのだ。たとえばメディスンが本物の毒で老人を殺してし
まったりとか。少なくとも、事が全て終わったあとも自分たちの関係が持続することはあるまい、と思っていた。
真相を知るにしろ知らないままでいるにしろ、メディスンは必ず自分たちを恨むだろう、と。
だが今、メディスンは二人のどちらにも、恨みなど抱いてはいないようだった。事の真相をどこまで察してい
るのかは分からないが、今更明かす必要もないだろうと思える。騙しっ放しになってしまうのは少々心苦しいが、
彼女はもうこの件に関して彼女なりの決着をつけているようだから。
「どうしてもうまくいかなかったときは、あの子の能力を無理矢理封印することも考えていたんだけれどね。そ
んなことにならなくて、本当に良かった」
「そう言えば、それは出来ればやりたくないって言ってたわよね。理由、聞かせてくれる?」
幽香がそう言うと、紫は「あら」と少し意地悪げに目を細めた。
「今のあなたなら、わたしが言わずとも分かっていると思っていたけれど」
「……そうね」
幽香はメディスンが飛び去った方角を見つめた。あの小さな毒人形は、自分たちと本当によく似ている。そし
て自分たちは力を封印されてなどおらず、あるがままの形を保ったまま、この世界で生きているのだ。
だから、メディスンも同じようにしてやりたかったと。できる限り彼女本来の形を保ったまま、それでもこの
世界に収まれる場所を探してやりたかったと。そういうことだろう。
「なんだか、ね」
幽香はため息をついた。
「あんなちっちゃな子供のために誰かを敵に回してここまで思い悩んで、憎まれる覚悟まで決めて。妖怪の賢
者って本当に面倒くさいわね。わたしだったら頼まれてもやりたくないわ」
「あら、やりがいのある仕事よ。そうねえ、たとえて言うなら」
紫はにっこりと微笑む。
「わたしにとっては、幻想郷の全てがあなたにとってのメディちゃんみたいなものなのよ。そう言えば分かるで
しょう? ね、幽香お母さん?」
「気色悪いこと言わないでよ」
幽香は顔をしかめて肩を抱き、寒がる振りをする。紫が苦笑した。
「照れなくてもいいじゃないの」
「照れてないって」
「そうかしら。でも、ねえ幽香」
「なによ」
「あなたもメディちゃんと暮らし始めて結構経つし、そろそろ一人で眠るのは寂しくてたまらなくなってくるこ
ろじゃないかしら」
「なっ……!」
幽香は絶句した。
「あ、あんた、まさか聞いて……!」
「え、なにが?」
「なにが、って」
「単に、藍が親離れし始めて添い寝しなくなったときの私がそんな感じだったから、あなたもそうかなーと思っ
て聞いただけなんだけど」
そう言って、紫は首を傾げる。しまった、と幽香は思った。どうやら墓穴を掘ってしまったらしい。ぎこちな
く目をそらし、何度も咳払いをして誤魔化そうとする。
「い、いや、なんでもないわ。忘れてちょうだい」
「えー。気になるじゃない。ねえなに、なにを聞いたって?」
「う、うるさいわね! なんでもないったら!」
「あらそう。残念ねえ」
紫が意外なほどあっさり引き下がったので、幽香は眉をひそめた。
「なによ、調子狂うわね」
「いいじゃない。今回あなたには本当にお世話になったし、ね。それに早く帰ってあげないと、先に帰ったメ
ディちゃんがお腹を空かせて待ってるかもしれないわよ?」
「はいはい。いちいちそこんとこ強調しなくていいっての、ったく」
幽香が舌打ち混じりに言って飛び立とうとすると、「幽香」と静かに呼びかけられた。顔をしかめながら振り
返ると、深く静かな微笑みを浮かべて、紫がこちらを見つめている。彼女のそんな表情を見るのは初めてのこと
で、幽香は何となく居心地が悪くなる。
「……なによ」
「今回は、本当にありがとう。あなたが協力してくれなければ、こんなにいい結果にはならなかったわ」
混じり気のない感謝の言葉とともに、紫は深く頭を下げる。幽香は唇をむずむずさせた。
「なに言ってんの、わたしなんて」
と否定しようとして、首を振った。
最近慣れないことばかり続いて調子が狂いっぱなしだったが、それももう終わったのだ。そろそろ、元の自分
に戻ってもいいころだ。
だから幽香は不敵な笑みを浮かべて浮遊し、少し高い位置から傲然と紫を見下ろした。
「ま、実際その通りよね。あんたなんてちょっとばかし計算が速い程度のボケ老人に過ぎないんだから、これか
らはせいぜい自分の立場を弁えてわたしを崇め奉りなさいな。そうねえ、わたしの機嫌がいいときに土下座して
お願いするんだったら、また手伝ってやらなくもないわよ」
そう言ってやると、紫もにやりと笑い返してきた。
「あーら、メルヘンババァが言ってくれるじゃない。お花以外のお友達ができたからって、ちょっと調子に乗っ
てるのかしら」
「あんたこそ年寄り臭い気遣いもほどほどにしときなさいよ。実年齢よりももっと老けて見えるからね、紫お婆
ちゃん」
「肝に命じておきますわ、幽香お婆ちゃん。メディちゃんの若さに振り回されて腰の骨折ったりしないように、
せいぜいお気を付けあそばせ」
「うふふふふ」
「おほほほほ」
二人はいつものようにこめかみに青筋立てて笑い合い、ほとんど同時に「フン」と鼻を鳴らして顔を背けた。
そして後はお互いの顔を見もしないまま、それぞれの帰路についた。
太陽の畑に帰りついてみると、メディスンは別荘の庭の土をほじくり返しているところだった。
「なにやってんの、あんた」
「あ、お帰り幽香。あのねえ」
と、何やら小さな袋を掲げてみせる。
「これ、さっき紫にもらったから。外の世界の、珍しい花の種なんだって」
「……ああ、そういえばそんな約束してたわね」
相変わらず変なところで律儀だなあ、と少し苦笑する幽香の前で、メディスンは花の種を植え終わって「これ
でよし」と満足げに息をついた。
「っていうか、メディ」
「なに」
「言っておくけど、わたし近いうちに違うとこ移動するからね」
「えぇっ!? どうして!?」
驚くメディスンの前で、幽香は向日葵畑の方を指さす。
「見なさい、そろそろ夏も終わりよ。次は秋の花が咲いてるところにある別荘に引っ越すの」
「えー、なんでー」
「なんでったって、わたしはここ数年はそういう生活をしてるのよ」
「そうなんだー」
「そうなの。それで」
ほんの少しだけ躊躇いながら、幽香は聞いた。
「あんたはどうする? わたしについてくる? それとも鈴蘭畑に戻る?」
「ん。んー、どうしようかなー。確かに最近スーさんたちともご無沙汰だけど―」
腕組みして考え始めるメディスンを見て、幽香はちょっとどきどきしていた。そんな彼女の内心を見透かした
かのように、毒人形はちょっと意地悪げな笑みを浮かべる。
「でもまあ、やっぱりついていこうかな。わたしがいないと、幽香が寂しくて眠れなくなっちゃうし」
「何生意気言ってんの、この子は」
図星を突かれた照れ隠しもあって、幽香は傘でメディスンの頭を叩く。「いったー!」と叫び声を上げて、毒
人形がその場に蹲った。なんだかこの光景を見るのも久しぶりな気がするなあ、と幽香は一人感慨深く頷いてみ
たりする。
「なにすんのよー!」
「居候のくせに生意気言う方が悪い。いいメディ、ずいぶん立派な決意を固めたみたいだけど、現実のあんたは
まだ寝小便垂れの半人前なんだからね。大妖怪たるわたしに生意気な口利くなんて千年早いのよ、千年」
指を突き付けてそう言ってやる。またすぐに反論が来ると思ったが、メディスンは意外にも「分かってるよ」
とあっさり頷いた。予想外の反応に、幽香は目を瞬く。
「なによ、いやに素直じゃない」
「だって、幽香が言ってること全部本当だもの。わたしは、まだまだ半人前だから」
膝を払いながら、メディスンはゆっくりと立ち上がった。幽香を見上げながら、力強い声で宣言する。
「でもね幽香。わたし、絶対いつか一人前の妖怪になってみせる。そんで幻想郷中の人間の家を回って、人形達
の気持ちを伝えてあげるの。もしも、もう人形なんて要らないっていう人がいたら、その人形を引き取って、
もっと大事にしてくれる人を探してあげて……うん、これこそ真の人形解放だわ。こういう風にやれば、さ、
きっと」
不意に、メディスンの目に涙がせり上がってきた。
「きっと、ジジイも喜んでくれると思うから……!」
人形の瞳から涙が零れ落ちる。幽香は咄嗟に腕を伸ばしかけた。だがそれよりも早くメディスンが腕を上げ、
涙を自分で拭い取る。そして、にかっと笑った。
「いけないいけない、泣いてばっかりじゃあ、いつまで経っても半人前のままだよね、ね」
「……ええ、そうね」
幽香は伸ばしかけた腕を引っ込めて、軽く胸を押さえた。自分で涙を拭えるようになったメディスンのことが
誇らしいと同時に、ほんの少しだけ寂しい気もした。これは、単なる我がままだろうか。
そんな幽香の内心などお構いなしに、メディスンは一人張り切ってぐるぐると腕を振り回していた。
「さーって、そうと決まったら、さっそく引越しの準備しなくちゃね! 新天地に行ってもがんばるぞー。この
花が咲くころには、今よりもっと立派な妖怪になってみせるんだから!」
「……っていうか、これなんて花なの?」
「知らない。珍しい花の種、としか教えてくれなかったから」
大丈夫だろうな、と幽香は少し不安に思う。来年戻ってきたとき、向日葵畑がこの花に侵食されていたらどう
しよう、と。まあそのときは紫をぶん殴ったあと向日葵に力を与えて、また勢力回復させればいいだけだが。そ
んな風に考えられるのだから、力を持つというのもまあ悪いことばかりではないと思う。
ばたばたと慌ただしく別荘に駆け込んだメディスンを追って歩き出しかけた幽香は、小さな羽音を聞いた気が
して空を見上げた。目を凝らすと、夕暮れの赤い空を飛び去っていく小さな影が見える。鴉天狗だった。問題が
なくなったと聞いたらすぐこれか、と幽香は少し呆れる。
(自分たちの目で確かめずにはいられないってわけ。天魔のジジイもつくづく心配性ね)
まあ彼も彼なりにメディスンのことを案じていたようだし、多目に見てやろうか。ロリコン疑惑があるから、
直接会いに来たりしたら容赦なくぶっ飛ばすつもりだが。
もう鴉天狗の影も形も見えなくなった空を見つめながら、幽香はふと、あの天狗はメディスンが自分で涙を
拭ったところを見てくれただろうか、と考えた。見ていてくれたらいいな、と思う。
これからも人形解放のために頑張り続けるであろうメディスンを、誰かが見続けて応援してくれたら、それは
とても素敵なことだ、と。
そんなことを考えて、苦笑混じりに首を振った。
(なに、らしくないこと考えてるんだか、ね)
それでも、あまり悪い気はしない。そんな自分に溜息一つついて、幽香はひっそりと微笑みながら別荘の中に
入った。
窓の外の向日葵畑は枯れかけていて、もうすぐ夏が終わるのだと報せてくれる。メディスンと一緒に笑って、
泣いた季節の終わり。だが、それを悲しいとは思わない。来年になればまた夏はやってくるし、向日葵もまた太
陽を振り仰いで花開くのだ。
だが、次の夏は今までとは違ったものになるだろう。ほんのちょっとだけ成長したメディスンを連れて帰って
きたとき、別荘の庭ではどんな花が揺れていることだろう。
また一つ生きる楽しみが増えたな、と幽香は嬉しく思った。
<了>
ああ畜生、俺の顔が毒でぐちゃぐちゃだ
寝る直前にahoさんに更新されたら睡眠時間減っちゃいますよw
なんという素敵な幽香お母さん。「あったか毒人形」も好きだったので、たまらんかったです。
メディは健気さが似合いますね。宣言も良かった。
いや、良い夢見れそうだし、いいか。
これはイイ幽香お母さんと紫おばさん
ゴチになりました(おま
泣かずにいられるわけないじゃないか……。
心温まるいいお話でした
久しぶりに泣いた。ahoさんの語る幻想郷人類の覚悟は相変わらず凄い。
中々にしびれました。素晴らしい作品、有難うございました。
あんたら最高だ
文章も以前よりも洗練された感じがして、とても読みやすかった。
特に幽香の描き方が素晴らしかった!
今までのaho氏の話の中ではある意味一番シビアな印象をうけましたが
それでも紫を筆頭に意地でもなんとか守ろうとする幻想郷の根幹は実に
温かく、素晴らしかったです。
あとものすごく葛藤しているはずなのによどみなくメディを罵倒できる幽香がなんともらしくて
面白かったですw
次回作も楽しみにしてるよ!
ババァ達!最高d(このコメントはスキマ送りにされました)
かなり良い作品だった!
全俺が泣いた。
この後メディがアリスと出会ったらどういう反応するんだろうなぁ。
まさに発想の斜め上、恐れ入ったと同時に涙腺崩壊です。
……って、後書きで完全に俺を破壊してどうする気ですかwwwwww
おおお恐れ多すぎて言葉が……
ともあれ俺が勝手に思い浮かべる、良くも悪くも幼さ全開なメディの完成形を見た気がしました。
いつものように素晴らしい作品に、俺からも感謝です。ありがとうございました!
ジジイ……貴方はとても凄い人だ。
幽香の母親のような優しさと厳しさ、紫のあえて容赦しない動き
そしてメディスンの心の成長が凄い現れていましたね。
面白かったです、では生温い。
素敵なお話でした。
相変わらず‥というか、ますます素晴らしくなっていく貴方の話が大好きです。
>私はいつだって寂しいわ
>メディがそう考えたのなら、そうなのかもしれないわね
ここらのやり取りが好きです。
本当にahoさんはズルいんだからもう……んで、肥溜めに飛び込んだ竜の話マダー?
漢字の量や文の構成、地の文だって流し読みが出来る程度の雑多さ。
こういう気遣いがあって初めて物語の中に引き込まれるのだと感心しました。
あと、aho氏の幻想郷の空気が分かっているからか安心して読む事が出来ました。
やはり貴方の幻想郷は心地よい。 100点ってこういう時の為にあるよね、えい。
あと、天魔のじじいとは美味い酒が飲めそうだ
またいいお話をありがとうございましたm(__)m
…感動して泣いたのほとんどAho氏の話しな気が……。
すばらしい作品をありがとうございます。
では龍神が肥溜に落ちる話を待ってますね。
後編中盤から、結末ありきの展開というか、あまりに先が読みやすかったことだけが残念。
もっとメディの知名度上がるといいな……
覚悟完了っぷりに痺れました。こんな幻想郷だからこそスペルカードルールで
仲良く戦うことができるのでしょうね。
泣いた。
なんか画面がゆがんでやがる、はっきりしやがれこの下手糞!
涙腺決壊しました
孤独で誇り高き妖怪達と幻想人類に敬礼。
貴方ほど深く幻想郷を理解し、かつここまでの物語として昇華させている人物はいまだお目にかかったことがないと思えてならない。
>私はいつだって寂しいわ
こういう台詞回し反則!反則!
さぁ次は竜神様ダイブイントゥKOEDAME楽しみにしてますぜ。
話自体はよくまとまっていたと思います。
見守る二人の心理描写はお見事。
メディの葛藤、そして心の成長がすごいリアルにダイレクトに伝わりました
そしてメディだけでなく幽香にも変化が訪れていってニヨニヨしっぱなしでした
あくまで「メディ自身が答えを出す」という展開がとても素晴らしかった
だがざんねんだったな、俺の涙腺は崩壊しなかったゼ!!!
・・・いやホントぎりぎりでした。
やべー
名作です。
じんわりぼやけてなんにも見えません。
お母さんゆうかりんがとても素敵でした
ちょっと泣けてしまいました。
ahoさんの描く幻想郷はいつも最高です。
個人的に最近幽香の株が上昇中。
幽香も紫も優しくてもがもがした気分。
こんな人がいたら、確かに怖いな
メディと幽香さんとゆかりんには前編の点で御勘弁。
泣けた
ゆうかりんが可愛くてたまらない。
話のテーマが一貫していて素晴らしい
今までメディスンにはあんまり興味なかったんだけど、
これからはもう大好きになっちまいそうだっていうか大好きだコノヤロー!
命の重みを知ったメディに幸多からんことを。
>たまには人間に愛情持ってて悪霊とかと戦う人形がいてもいいと思うんですが
秘神流し雛様がアップを始めたようです。
じじいの生き様もかっけえなぁ。
ジジィが死んで子供がちょっと大人になった
王道でこれだけ感動出来るのは実力の証と言って見る
イイハナシダナー
なんと表現していいのか、恥ずかしながら話の終わりを勝手に想像してちょっとありがちな王道なのかと思ったら…
こんな展開になるとは。
久々に涙腺が揺るみました。
いい作品をありがとうございました。
やられた。
自分は王道が大好きなんで…
今回のジジイもそうですが、ahoさんのSSは名もなき人間がいい味出しすぎています。
人間と妖怪の、文字通り幻想的なまでの信頼関係には涙せずにはいられません
これからもがんばってください
ahoさんの書く話はどれも好きですけど、この話は特に好きです。
これからもがんばってください。
罰として100点くれてやるコノヤロー!
後、完全に余談の主だけど週間ストーリーランド人公が友人からもらった毒で姑を殺そうとするが実はそれが塩だったっていう話を思い出した(題名知らん
週間ストーリーランド人公が×
週間ストーリーランドの主人公が○
なにやっとんだ俺・・・orz
相変わらず良い動きをしているね
このお話読んだら↑が自分的公式設定になった。
ahoさんの作品は、いつもどこかとても切なくなる一文があって、大好きです。
さぁすが、aho氏ぃ……なん、とも良いものをお書きにな ら れ るぅあ!!(CV:若本規夫
次回作にぃ、期待してますよぉ(CV:わかm(ry
ふぁんしぃゆかりさまは、まじで腹抱えた。前半は腹抱えたけれどねぇ
ってかaho氏よ。そんなに人の涙を奪い盗って何をたくらんでいる?(CV:わk(ry
偶にはエリーとくるみの所に帰ってあげてーな、ゆうかりん。
このあったかいゆうかりんも破壊力抜群!
それ、確か「幸せの毒薬」だったかな?
幽香お母さんいいよ、すごくいいよ…!一人だと寂しくて寝られなくなる幽香にキュンとしました。
畜生、なんていい話・・・文句無しの100点!
ところで、主の居ない夢幻館で、緊張感を失いだらだらと過ごしている従者をゆうかりんが再教育する話はいつ見られますか?
あと泣きじゃくるメディとそれを抱き締める幽香の構図がナチュラルに浮かんできてうぎぎ。
メディの毒にやられた
あと、サディストって苛めることだけではなくて世話を焼いて面倒を見るのも
好きな性分なんですよね確か。
そんな幽花も素敵。
にもかかわらず、いやだからこそ面白い。
そんなahoさんの作品は大好きです。
良い孫でしたw
ジジイの上記の行動以外は最高でした。
ahoさんすばらしいですね・・・こんな作品を書けるなんて・・・
結論 ゆうかりんかわいい
ゆかりんもかわいい
さよならじじい・・・!
まあ違いなんて原子と分子の配列ぐらいだしな。
未来の大妖怪のメディスンと今の大妖怪の幽香のどっちに送れば良いんだこの100点。
うちの人形たちの中から以前のメディを生まないようにしないとな
コンチクショー
幽香もこんなにも立派なお母さんになって……。
それに、みんな温かくてよかったです。
こんちきくしょう。
なんという筆力…もうこれが公式で良いよ。
ゆうかりん&ゆかりんはマジでお母さんやで…。
最後の花の種はいったい何の種だったんでしょうか…?気になるのぜ。
ジジイの奥さんも最期は自分が看取りたかっただろうに、良くできた奥さんだわ…
そして幽メディの親子っぷりがたまらねぇぜ…、ゆかりんの世話焼きっぷりも
いやー、よかったー。
これは流石にコメントするしかない
涙あああああああああああああ
俺もこんなSS書けるようになりたいですよホント
文句なしの100点です!
泣いてないやい。綺麗な毒が目に入っただけだい。
この幻想郷でのフランはどんな感じなのだろうか・・
本筋でも泣かされたけど、この一文の破壊力が……
最初から最後まで、本当に面白かったです
それにじじいもかっこよかったです。
それにじじいもかっこよかったです。
そしてメディスン‥‥
この教育方法は、似たような逸話がちらほらあるけど
うん‥‥格別だわ