Coolier - 新生・東方創想話

メディスンが人を毒殺した話(前編)

2009/01/03 15:59:22
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 かすかに羽音が聞こえてきて、幽香は頭上を振り仰いだ。青く晴れ渡った空の一隅を、一人の鴉天狗が飛び
去っていくのが見える。最近、こういうことが増えた。わざとらしくこちらに存在を知らせているのは、一種の
警告のつもりなのかもしれない。そんなことを考えながら、今度は下に目を向ける。
 足下の草花が、赤黒く変色していた。幽香はため息をつきながら、いつものようにゆったりとした足取りで歩
き出す。草花の変色、というか腐敗は帯状に伸びていて、それが誰かの通った跡であるのは一目瞭然だ。そして
幽香には、この傍迷惑な足跡の主が誰なのかよく分かっていた。
 しばらく歩くと、予想通り楽しそうな笑い声が聞こえてきた。人間の子供と同じぐらいの背丈の毒人形が、花
畑の真ん中で嬉しそうに跳ね回っている。それだけならば微笑ましい光景と笑って済ませることもできようが、
その人形の体から絶え間なくどす黒い霧状の物質が漏れ出しており、それを浴びた草花が見る間に腐り落ちてい
く、となれば話は別である。

「メディスン!」

 幽香は努めて大声を張り上げ、人形の名前を呼ぶ。毒人形メディスン・メランコリーが、驚いたようにこちら
を向き、満面の笑みを浮かべた。

「あ、幽香だ!」

 相変わらず無頓着に毒を撒き散らしながら駆け出そうとするメディスンを、幽香は「待て!」という一喝で押
し止めた。人形が目を丸くして立ち止まる。

「え、なに?」
「なに、じゃないでしょ。毒」

 歩み寄りながら言うと、メディスンはたった今気づいたとばかりに「ありゃ」と間抜けな声を漏らした。

「またやっちゃった」
「やっちゃった、じゃないでしょうが!」

 幽香は畳んだ傘を振り上げ、メディスンの頭を遠慮なくぶっ叩く。中身が入っていないのではないかと疑って
しまうぐらい小気味のいい音がした。人形が頭を押さえながら悲鳴を上げて蹲る。

「いったぁーいっ! 何するのよー!」
「うっさい! っていうか、ほら、毒、毒!」

 メディスンの体から、またどす黒い毒の霧が漏れ始めていた。幽香が口元を押さえながら指摘してやると、人
形は慌てた様子で「あ、まずっ」と口走る。毒の霧はすぐに止まった。

「あんたねえ」

 自分の周囲を軽く手で扇ぎながら、幽香は呆れ混じりに言う。彼女とて大妖怪の一人に数えられる実力者であ
るから、メディスンが撒き散らす毒を吸い込んだところで即死したりはしない。だが、それでも吸っていて気分
のいいものではなかった。

「こっちに来るときは毒を一切外に出すなって、何度も何度も言ってるでしょうが」
「だって」
「だってじゃない」

 幽香がもう一発傘で殴ると、メディスンは悲鳴を上げながら頭を押さえた。

「いたいってば! なんで何度も叩くのよ!」
「言って分からない奴には、殴って聞かせるのが一番」
「なにさ、幽香のドS!」
「どこでそんな言葉を覚えてくるの、あんたは」
「てゐが教えてくれた」
「あの詐欺兎……!」

 今度会ったら兎鍋にしてやろう、と幽香は固く決意する。そんな彼女の目の前で、痛みに呻くメディスンの瞳
から、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。それは一見すると単なる水滴に過ぎないが、実際はもっと危険な代物だ。メ
ディスンの足下で涙を浴びた雑草が、泡立ちながら融け始める。血の代わりに毒が流れているというこの人形、
涙ですらも周囲に害を与えずにはいられないらしい。

「泣くな!」
「だって痛いんだもん」
「我慢しなさい」
「できない」

 幼子そのままに首を振って、メディスンはお構いなしに泣き続ける。幽香はしばらくの間歯噛みしていたが、
周囲の草花が次々と腐り落ちていくのを見て、とうとう観念することにした。

「しょうがない子ね」

 舌打ち混じりに吐き捨てながらメディスンを抱き上げて、彼女の涙を自分の体で受け止めてやる。幽香にとっ
ても人形の涙は有害だが、せいぜい服に小さな穴が開いて肌がひりひりしてくる程度である。自分の縄張りの草
花が腐るのを黙って見ているよりはずっとましだ、と心に言い聞かせる。
 こんなことをするのは、これが初めてではない。メディスンが太陽の畑に姿を現すようになってから、ほとん
ど毎回である。

(風見幽香ともあろう者が、何をやっているんだか)

 メディスンの背中をぎこちない手つきで擦ってやりながら、こんなところ誰かに見られたら一生の恥だなー、
と幽香がぼんやり考えていると、突然目の前の空間に裂け目ができて、金髪の美女がニヤニヤ笑いながら顔を出
した。

「ハァイ。心温まる光景ですわねえ、幽香お婆ちゃん」
「死ねよババァ」

 両手が塞がっているこの状況で出来ることと言ったら、頬を引きつらせながら悪態を吐く程度のものであった。



 フラワーマスター風見幽香が毒人形メディスン・メランコリーと出会ったのは、少し前の異変のときである。
幻想郷の花々が季節も無視して一斉に開花した異変だ。
 メディスンの住処は鈴蘭の群生地でもある無名の丘である。そこに捨てられた人形が鈴蘭の毒を吸い取って妖
怪化したのだそうで、あの異変までは丘の外に出たことすらなかったらしい。
 そんな彼女がむせ返る花の香に誘われるようにして太陽の畑に姿を現したとき、幽香はすぐにその危険性に気
がついた。人も妖怪もほとんど近寄らぬ無名の丘で暮らしてきたせいか、メディスンは無頓着に毒を撒き散らし
すぎるのである。当然、幽香の愛する向日葵の花も何十本の単位で、毒を浴びて無残に腐り落ちていた。
 本来ならばその時点で躊躇なく消し飛ばしているところだが、幽香とて長い間生きてきた大妖怪、思考は冷静
である。下手に彼女を傷つけて体内の毒が周囲に飛び散ったら、という懸念が、激しい怒りに勝った。だからそ
のときはわざと負けて、メディスンを通してやったのである。
 あの毒人形も花の香に浮かれていただけのようだし、この異変が終わったら元通り丘に引っ込むだろう、と幽
香は考えていたのだが、実際そうはならなかった。異変の最中に竹林の連中と知り合ったらしいメディスンが、
永遠亭に通う途上でたびたび太陽の畑を通過するようになったのである。
 しかもこの毒人形、生まれてから数年しか経っていないらしく、人間の子供のように……いや、下手をすれば
それ以上に無邪気だ。誰もが恐れる風見幽香にも、遠慮なく話しかけてくるのである。もちろん毒を撒き散らし
ながら。当然ながら幽香はそのたびメディスンを怒鳴りつけ殴りつけ、「ここに来るなら毒を撒き散らすな」と
注意する。人形の方もその都度反省し、毒が周囲に飛び散らないように気をつけるようになるのだが、次に来る
ときにはまた無分別に毒を撒き散らすのであった。



「要するに学習能力がないのよね、あの子」

 今は毒を撒き散らすこともなく向日葵畑の中を走り回っているメディスンを遠くに眺めながら、幽香はため息
を吐きだした。
 太陽の畑の外れには、幽香が別荘として使っている小さな家が建っている。本宅はまた別にあるのだが、最近
は四季を通して花に囲まれる生活を送っているため、あまり帰っていない。多分館の連中は思う存分だらけてい
るだろうから、その内連絡も入れずに帰ってしばき倒してやる予定である。
 とは言え、今の幽香は別荘住まい。ここに寝泊まりして、一日中お花さんに囲まれて過ごす幸せな生活を送っ
ているのだ。

「メルヘンババァらしい根暗な幸せよね」
「覗き見が趣味のスキマババァよりはマシでしょ」

 別荘の庭先に設置されているパラソルつきのテーブルを挟んで向かい合いながら、大妖怪八雲紫と風見幽香が
にっこり微笑む。もちろん、二人ともこめかみに青筋を立てながらだ。幻想郷の住人のほとんどが、顔を青くし
て裸足で逃げ出す光景だ。
 紫も幽香も長い間幻想郷で生きてきた大妖怪で、もちろん顔見知りである。とは言えお互い良き思い出などそ
れほどないし、妖怪の賢者として知られる紫とあくまでも自由な一妖怪でしかない幽香とでは立場が違いすぎる。
仲の良い友人とはとても言い難い。それでも、口も利かないほど険悪というわけでもなかった。

「で、さっきの話だけれど」

 目を細めて遠くのメディスンを見つめながら、紫が言う。

「あの子、別に学習能力がないってわけじゃないわよ」
「どうしてよ」
「だって、永遠亭では少しも粗相しないもの」

 また覗き見かババァ、と思いつつ、幽香は少し驚いた。

「本当? ここでは気を抜くとすぐ漏らしちゃうんだけど」
「……どうでもいいけど傍から聞くとちょっと危ない会話ですわね、これ」
「黙れ耳年増。で、どういうことなの」
「どういうこともなにも」

 紫は澄まして言う。

「永遠亭では割と礼儀正しく振舞っているということよ。場を弁えていると言うべきかしら。もちろんまだ子供
だから、若干ぎこちなくはあるけれど。少なくとも暴れたり、毒を撒き散らしたりはしていませんわね」
「なによそれは」

 テーブルに頬杖を突きながら、幽香は文句を垂れる。

「じゃあなんでここでは遠慮なく漏らしまくりなわけ? わたしだって毎回毎回ぶっ叩いて叱りつけてるわよ?」
「まあ野蛮ですこと。歳を取ると気が短くなっていけませんわね」
「あんたみたいに言動の端々が年寄りくさくなるよりはマシよ」

 再びこめかみに青筋が立つ、と思いきや、紫はふっと息を吐きだして、表情を改めた。

「冗談はこのぐらいにしておきましょうか」
「言動の全部が冗談みたいなものでしょ、あんたは」
「お花さんとお話しするあなたに言われたくありませんわ。それで、あの子がここでは気を抜いている理由だけれど」
「分かるの?」
「もちろん。きっと、あなたに構ってほしいからね」
「は?」

 聞き慣れない言葉であった。

「……構ってほしいって、わたしに? この風見幽香に?」
「ええ……なにその顔」

 紫が可笑しそうに笑う。

「なんだか、信じられないことを聞いた、みたいな表情よ、あなた」
「実際信じられないもの」

 風見幽香は幻想郷でも最強クラスの力を持ち、怒らせたら塵一つ残さず消し飛ばされるような危険な妖怪であ
る、というのが一般的な認識だ。幻想郷縁起にもそんな風に書かれるぐらいで、幽香としてもその認識は別段間
違っていないと思っている。誰にも気を許さず、誰からも気を許されぬ孤高の妖怪。それが風見幽香だ。
 そんな自分に構ってもらいたいと思っている存在がいるなど、そもそも発想からして存在しないのであった。
 ひょっとしてからかわれているのでは、と思って目の前の隙間妖怪を睨んでみるが、彼女の顔に浮かんでいる
のはただ微笑みだけである。それも、割と温かい感じの。

「その笑い方、気持ち悪いんだけど」
「お花さんと話してる時のあなたほどじゃありませんわ。いいこと、幽香」

 紫は立てた人差し指を振りながら講釈を垂れ始める。

「あの子が永遠亭で大人しくしているのは、それが求められているということを子供なりに理解しているからよ。
あの屋敷でのあの子はあくまでも八意永琳の研究対象だから、毒を撒き散らしたりして迷惑をかけたら追い出さ
れてしまう……と、少なくとも本人は考えているようね。もっとも、屋敷の兎やお姫様たちは、あの子に対して
もっと親しみのある感情を持っているようだけれど」
「それを言ったら、わたしだってあの子に毒を撒き散らすなと要求してるけど?」
「でも実際そうしたら、あなたはあの子を無視するでしょう?」
「当たり前じゃない。こっちから声かける用事なんてないし」
「あの子も心のどこかでそれを分かっているのね。だから無意識の内に気を緩めてしまうんだわ」

 つまり、構ってほしいから幽香に迷惑をかけている、ということか。

「丸きり子供の理屈じゃないの」
「子供だもの。それに、もともとお人形さんだものね。抱きしめてあやしてもらいたがっているのよ。実際、
さっきのあなたはそうしてたじゃない?」
「あれは、あの子の涙が花を腐らせないように」

 言い訳しつつも、認めないわけにはいかなかった。どうも、自分は知らない内にメディスンの母親のようなこ
とをやっていたらしい。あの風見幽香が。悪鬼も避けて通る花の大妖怪が。

「不覚だわ……!」

 呻く幽香の対面で、紫がからかうように笑う。

「ああ、でもなかなか絵にはなっていたわね。あなたって外見だけはお淑やかですものねえ。まるでお婆ちゃん
と孫みたいでしたわ」

 せめて母親と子供と言え、と言い返す気力すらなく、幽香はがっくりと肩を落とす。自分が知らぬ間にそんな
気色悪いことをやっていたというだけでも寒気がしてくるが、状況から考えると、今後も似たようなことを続け
ていかなくてはならないと見て間違いない。メディスンが二度とここに来ないように別の場所で徹底的に叩きの
めす、という手もなくはないが、弱い者イジメは趣味ではないからあまり気が進まないのだ。
 そんな風に苦悩する幽香を、紫はあくまでも楽しそうに眺めている。

「私個人としては、幽香お婆ちゃんとメディちゃんの愛の劇場を見守りたいところではあるのだけれど」

 不意に、紫の目が細くなった。

「そうも言っていられなくなってきて、ね」

 先ほどまでと比べて、少し重々しい口調だった。幽香は鼻を鳴らす。

「ようやく本題ってわけ」
「察しがよろしいですこと」
「ついでに話の内容も当ててみせましょうか」
「どうぞ」
「メディスンを排除しようっていう動きがあるのね?」

 答えの代わりに沈黙が返ってきた。花々を揺らす風が、遠くではしゃぐメディスンの笑い声を運んでくる。

「どこまでご存じなのかしら」
「どこまでもなにも」

 紫の静かな問いかけに、幽香は呆れて首を振った。

「ああもあからさまに天狗が飛び回っているんだから、気付かない方がおかしいわよ」
「そう。姿を見せずに監視する手段もあるでしょうに……ある種の心の準備をさせておくつもりだったのね、きっと」

 周囲に鴉天狗の姿を探すかのように、紫は空に向かって目を凝らす。今は鳥一匹飛んでいないが。

「それで?」

 幽香はテーブルに頬杖を突きながら問いかけた。

「なんだって、そんな話になってるわけ?」
「そうね。では説明しましょうか」

 紫は淡々とした口調で説明し始めた。

 よく誤解されがちなことだが、妖怪の賢者と呼ばれて幻想郷のバランスを維持すべく活動しているのは、八雲
紫だけではない。幻想郷縁起にも記されている通り、博麗大結界が張られたとき己の存在を賭けて龍神に永遠の
平和を誓ったのは、妖怪の賢者「たち」である。彼女以外にも多数の賢者が存在し、それぞれ違った形で幻想郷
の平和を守っているのだ。
 それはたとえば妖怪間で無用な殺傷沙汰が起きぬよう監視することであったり、ルールを無視して無闇に人間
を喰らう輩が出ないように睨みを利かせることであったりする。あまりに大きすぎる自然災害が起きないように、
神々を祀る役目を担っている者もいる。
 そんな中、紫の担当は主に結界の管理と深刻な異変の調査及び解決、そして妖怪の賢者=八雲紫というイメー
ジを、人間や下級の妖怪に印象づけることである。紫以外の賢者たちは、それぞれが属する種族でも上の立場に
いる者がほとんどで、自由に動くことが難しいからだ。表立って活動できるのは紫ぐらいのものである。妖怪の
賢者と言えば真っ先に八雲紫が浮かぶ、という状況の方が、何かと都合がいいのだ。
 多数いる賢者たちの中では、紫は穏健派とでも言うべき態度を取っている。幻想郷に流れ着いたものは、可能
な限り収めるところに収めて、事を荒立てないようにしよう、という立場だ。逆に過激派とでも言うべき態度を
取る者もいて、こちらは幻想郷のバランスを壊すような存在は即刻排除すべきだ、と主張する輩である。賢者た
ちは並の妖怪では太刀打ちできないほどの大妖怪揃いであるから、そうすることも決して不可能ではない。
 たとえば吸血鬼異変のような大きな異変が起きるたび、連中を結界の外に放り出せと主張する賢者も確かに存
在したのだ。にも関わらず何事もなく済んでいるのは、紫を始めとする穏健派が過激派を抑え込んでいるからで
あり、異変の当事者たちがその後そこそこ自重してくれているからでもある。もっとも、実際に武力により激突
したらどちらが勝つのか、というのはまた別の話だが。

 ともかく、幻想郷という狭い世界の維持にも様々な思惑が絡んでいるわけである。幽香自身はそこに属してい
ないが、長く生きてきた妖怪であるから、その辺の連中よりは多少そういった事情を理解している。
 無論、賢者たちとてあらゆる物事に干渉して口うるさく指導する、というわけではない。どちらかと言えば
大きな問題にならぬ限りは極力放置しておく方針で、それ故に幻想郷は自由で大らかな雰囲気に包まれているの
である。

「花の異変のとき、あの子が丘の外を飛び回っていたでしょう?」
「ええ、そうね」
「あのときあの子が無分別に毒を撒き散らしていた様子や、後で届いた『人間に強い憎しみを抱いている』って
いう調査報告を見て、過激派のお歴々がちょっとピリピリしているみたいでね」
「あんな子供相手に? 大げさなジジイどもね」

 幽香が鼻を鳴らすと、紫はかすかに眉根を寄せた。

「それが、あながち大げさな話でもなくってね」
「というと?」
「実際、あの子の力は危険だわ。今はまだそれほどでもないけれど、歳を経て力が強まって、それでも中身が今
のままであれば、人的な被害が出るかもしれない」
「あの子の毒で二、三人死んだって、大した問題にはならないでしょう?」
「ここが外の世界ならね。けれど、ここは幻想郷だから……分かるでしょう?」

 紫の瞳はあくまでも真剣だ。無論、幽香とて分かっているつもりではある。こんな狭い世界では、あらゆるこ
とが大事になり得る。あの小さな人形の吐き出す毒が、この世界にとって致命的なものでないとは誰にも言いき
れないのだ。
 そして、わざわざ紫がこのことを知らせに来たということは、メディスンの存在と行動を危険視している誰か
がいる、ということである。

「具体的には、誰? 天狗がかぎ回ってるってことは、やっぱり天魔のジジイかしら?」
「そう。もっとも、天ちゃんは慎重に調査して見極めるべきだって立場だから、今のところはこちらの味方だけ
ど。具体的なアクションを起こすことで、もっと過激な考えを持ってる連中が先走って物騒なことやらかさない
ように、牽制してくださっているのよ」

 天魔、というのは妖怪の山を根城とする天狗たちの頭領であり、やはりあまり知られていないが妖怪の賢者の
中の一人でもある。あらゆる妖術に長けた大天狗で、歳もそれ相応だ。幽香も彼が若い時分に何度かやりあった
ことがあるが、天狗らしく飄々としていて喰えない奴だったと記憶している。
 そんな天魔は、妖怪の賢者たちの中でも髄一の情報収集力を持っている。幻想郷内を縦横無尽に飛び回る鴉天
狗たちから届けられる膨大な情報を取捨選択し、何か問題が起きていないかと日々目を光らせているのだ。

「最初はわたしのことを監視しているのかと思っていたけど、まさかメディスンの方だったとはね」
「あなたは案外信頼されていますわ。余程の愚か者が馬鹿な挑発でもしない限り、深刻な問題を起こさないだろう、と」
「それは光栄ね」
「ともかく、メディスン・メランコリーは監視されているわ。彼女が無名の丘から動かなかったのなら、特に問
題はなかったんでしょうけど。今後も幻想郷の中を自由に飛び回るのなら、もう少し分別をつけてもらわなくて
はならないわ」
「永遠亭では大人しくしているんでしょう?」
「特別に気を張って、ね。どんなときでも自然と自分を制御できるレベルになれなければ、排除すべきだという
意見が力を増すばかりよ」
「そして最後には、大の大人が寄ってたかって子供を殺す、と」

 気に入らない話だな、と幽香は鼻を鳴らした。人格者を気取る気など毛頭にない。だが、弱い者イジメに嫌悪
感を抱く程度には、彼女は誇り高き強者であった。
 他にも協力する理由はいくつかある。幽香とてあんな何も知らない子供を嬲るのは趣味ではないし、メディス
ンが毒を漏らさないようになるなら万々歳だ。最近よく飛んでくる鴉天狗もそろそろ目障りになってきたし、と。

「まあ、いいわ」

 ふっ、と息を吐く。

「退屈しのぎにはなるでしょうし、協力してあげる」
「あら、そう?」

 どこか拍子抜けしたように、紫が目を瞬いた。幽香は眉をひそめる。

「なによ」
「いえね、もっと渋ると思ったから、いろいろと説得の言葉を考えてきていたんだけど」

 その言葉を聞いて、幽香自身も確かにおかしいな、と思った。あまり自分らしい選択ではない、と。
 だがそれを認めるのも何となく悔しいので、肩をすくめながら適当な理屈をでっちあげることにした。

「そういうのを聞きたくないって理由も大きいわね。あんたのおべんちゃらは聞いててうんざりするのよ」
「なるほど、つまり私の人徳ということね」
「ボケ老人らしい勘違いした科白だわ」
「オホホホホ、歳を取ると言葉が刺々しくなっていやぁね」

 と、二人が再びいつもの調子に戻りかけたところで、

「ねーねー」

 横から無邪気な声がした。見ると、いつの間にやらメディスンがテーブルのそばにいて、紫と幽香の顔を不思
議そうに見比べている。さっき幽香に叱りつけられたからか、今は毒を撒き散らしてはいないようだ。

「二人とも、難しい顔でなに話してたの」
「別に、なんでもないわよ」

 幽香は素っ気なく答えたが、メディスンは納得いかないと言わんばかりに「うー」と眉根を寄せる。

「嘘だー。さっき幽香、こーんな顔してたもん」

 指で眉間に皺を作ってみせるメディスンのおでこを、幽香は指で軽く弾いた。

「盗み見なんて行儀が悪いわよ」

 言ってしまってから、わたしは何をやってるんだ、と少し後悔する。これでは本当に母親のようではないか。

「ところで」

 助け船を出すように、紫がにっこり笑いながら割って入った。

「あなたは、わたしのことご存じなのかしら」
「うん、知ってるよ」

 メディスンは満面の笑みで頷きながら、

「妖怪スキマババァ!」
「幽香、ちょっと来てもらえるかしら」
「なによ、ここでいいでしょ」
「あなた、この子にいったいどういう教育を」
「ちょっと、母親扱いするのは止めてもらえない?」
「母親じゃないわ、ババァ扱いしているのよ」
「あんたと一緒にしないでもらえる?」

 ぎゃーぎゃーと喚き合う二人の横で、メディスンが楽しそうにケラケラと笑っている。何も考えていないよう
な馬鹿面は、どこぞの氷の妖精といい勝負だ。そんな子供を危険視だの排除だの、全く馬鹿らしいと幽香は思う。
たとえ彼女の力がどれほどのものだとしても、だ。

「それで」

 笑っているメディスンから紫に目を戻し、幽香は問う。

「具体的にはどう拷問したらいいのかしら」
「ちょっと待って」

 紫が手の平を突き出してきた。

「どこから拷問なんて言葉が出てきたの、今」
「だって躾けるんでしょう、この毒人形を」
「なんで躾の手段が拷問一択なの?」
「それ以外に何があるの?」

 心底不思議に思って幽香が首を傾げると、紫が頭痛でも感じているかのように、こめかみを指で押さえた。

「……弱い者イジメは嫌いなんじゃないの?」
「躾とイジメは別でしょ」
「あ、そういう線引きなんだ」
「安心しなさいよ、これでも出来の悪い門番を躾けた実績があるのだから。具体的にはね」
「いや話されても」
「ねーねー」

 メディスンがちょっと不機嫌そうに割って入ってきた。

「二人とも、なんの話してるのー」

 大きな瞳をくりくりと動かして二人を見比べるメディスンの顔を見て、紫が悩ましげな吐息を漏らした。

「ああ幽香、見なさいこの汚れなき瞳。拷問とかなんとか少しも理解してない顔だわこれ」
「そうね、あんたみたいなヨゴレにはさぞかし眩しいことでしょうよ」

 皮肉を交えてそう言ってやると、紫は数秒ほど黙ったあと、おもむろにメディスンに顔を寄せた。

「ねえメディちゃん」
「なにスキマババァ。なんかお顔怖いよ」
「気のせいよ気のせい。あとわたしはスキマババァじゃなくて八雲紫だから。八雲、紫。それでね、わたしたち
が今話していたことだけれど」

 ちらり、と意味ありげな視線を幽香に向けてから、

「幽香ったらね、一人ぼっちで寝るのが寂しくてたまらないんですって」
「ちょっ」

 幽香は思わず立ち上がりかける。一体このスキマは何をほざきやがったのか、と。一方ババァは「いいから
黙ってなさい」とでも言いたげな視線を向けてくる。
 メディスンは少しぽかんとしていたが、やがて「えぇぇー」と、驚いたように口元を両手で押さえた。

「ホント? ホントにホント?」
「ええ本当よ。それで私に『今日から一緒に寝てくれないか』って頼んできたのだけれど、私も忙しくってねえ」
「そうなんだー。幽香ってさびしんぼうだったんだー」

 馬鹿にしているというよりは何やら感心しているらしいメディスンを前に、幽香は頬を引きつらせるしかない。
いや、これも恐らく紫の策略の一部なのだろう、と分かってはいるのだが。

(このわたしが寂しがり屋ですって……!? なんという侮辱……!)

 本来なら速攻で紫に殴りかかっているところであるが、幽香は寸でのところで怒りを抑える。大妖怪たるもの、
自分の感情一つ制御できないようではやっていられないのだ。
 そんな風に拳を震わせる幽香を横目に、紫とメディスンの会話は弾みつつあった。

「……だけどね、私も幽香のお友達だから、できればなんとかしてあげたいのよ」
「そうなの?」
「ええ。だから、私の代わりに幽香と一緒に寝てくれる人がいないかなー、と思っているのだけれど」
「わたし、わたしが一緒に寝てあげる!」
「あらそう? メディちゃんは偉いのねえ」

 メディスンの頭を軽く撫でながら、紫はちらりとこちらに目を向ける。

 ――交渉成立よ。
 ――あとで殴る。

 絶妙のアイコンタクトを交わしたあと、紫はおもむろに別荘の方を手で示した。

「じゃあ、あなたには今日からあの小屋で寝泊まりしてもらうことになりますわ。幽香のこと、お願いね」
「うん、任せて!」

 張り切って胸を叩いたあと、メディスンは興奮を抑え切れない足取りで小屋の方に向かっていく。彼女の姿が
見えなくなってから、幽香はおもむろに声を絞り出した。

「……説明してもらいましょうか」
「あら、怖いわねえ」

 紫は椅子に座り直しながら、じっと幽香を見つめる。瞳の色はあくまで真剣であった。

「要するに、あの子をきちんと教育するということよ」
「わざわざ一緒に寝起きする意味は?」
「一挙動一挙動に注意を払ってもらいたいの。あなたの目から見てメディスンがどういう存在であるか、じっく
り観察してほしいのよ」
「どうしてわたしなの?」
「あの子があなたに懐いているから。あとはあなたの頑丈さを見込んで、ね。並の妖怪では万一ということもあ
り得るし」
「つまりわたしにモルモットかサンドバッグになれってことね」
「悪い言い方をすれば、そうなるかもしれないわね」

 紫はあえて否定することなく、ただ真摯な瞳でじっとこちらを見つめてくる。
 もしここで自分が断ったとしても特に悪いことにはならないだろう、と幽香は思う。紫ならば何か別の手段を
見つけるだろうし、そもそもメディスンがどうなろうとも、本来幽香には何の関係もない話のはずなのである。
 だが、何か引っかかるものがあった。メディスンが己の持つ力故に排除されかかっている、というこの状況を
見ると、奇妙に胸がざわつくのだ。

「……わたしも、毒にやられたのかしらね」
「なに?」
「なんでもない」

 首を振ってから、軽く息を吐く。

「分かったわ。協力してあげる」
「今日はやけに素直なのね」
「ただし、条件があるわ」

 幽香は咄嗟にそう言っていた。もちろん、そんなものなど今まで考えてもいなかった。ほとんど面子を保つた
めの単なるポーズである。だが紫はその辺りに気づく素振りも見せず、「そう来ると思ったわ」と妖しげに微笑
んでみせた。

「で、条件というのは?」
「そうね、まず……花の種でももらおうかしら」
「花の種?」
「そう。外の世界の、とびきり珍しいやつをね。あんたなら調達も簡単でしょう?」
「ええ。それだけでよろしいかしら?」
「まさか。あと、あんたがこの辺覗き見するのも禁止。下品な隙間妖怪に見張られてると思うとうんざりするもの」
「……まあいいでしょう。じゃあ次は一か月後に会いにくるわ。それまでは全部あなたにお任せする」
「それと……」

 ふと羽音が聞こえたような気がして、幽香は空に目を向ける。だがやはり、鳥一匹飛んではいない。

「……この辺に鴉天狗が来ないようにしてもらおうかしら。最近鬱陶しくなってきたから」
「いいでしょう」
「あっさり引き受けるのね」
「それほど難しいことではなさそうですもの。天狗は縦社会の生き物だから、上の命令があれば誰も近づかなく
なるわ。天ちゃんも『あの人形ちゃんもなかなか可愛いから、できれば穏便に事を済ませたいよね』とか言って
たし、快諾してくれるでしょう」
「……天魔のジジイってロリコンだったの?」

 紫は少し気まずげに目をそらした。

「……いや、その……ちょっと、入ってるとは……」

 なんだか薄ら寒いものを感じて身震いする幽香の前で、紫は静かに目を伏せた。

「慣れないことをさせるわね」
「別にいいわよ。今後もこの件をダシにいろいろ強請るつもりだし」

 さらりと言うと、紫はむしろ楽しそうに微笑んだ。

「いいわね、それでこそ風見幽香さんだわ」
「その笑い方気持ち悪いって言ってるでしょうが」
「……ごめんなさいね」

 やけに沈んだ声でそう言い残して、紫はいつものように唐突に去った。空っぽになった椅子を見つめて、幽香
は唇をむずむずさせる。
 どうも、慣れないことばかりが続くようだった。紫の態度といい、自分がこれからしようとしていることといい。

「あれー」

 別荘の方から駆けてきたメディスンが、テーブルの前で立ち止まってきょろきょろと周囲を見回した。

「紫はどうしたの?」
「帰ったわ。忙しいとかなんとか言って」
「そうなんだ。残念だなー」
「メディ」

 幽香はメディスンを見下ろしながら、噛んで含めるように言い聞かせた。

「あんたにはこれからわたしと生活してもらうわけだけど、そうなると絶対に守ってもらわなくちゃならない
ルールがあるわ」
「なに?」
「いついかなるときでも、絶対に毒を撒き散らさないこと。もしもこの約束を破ったら、この家から追い出」

 そこまで言いかけて、幽香は一度口を噤んだ。少し考えて、言い直す。

「……約束を破ったら、そのたびに何発かぶっ叩くからね。わたしの傘の痛さは、もう知ってるでしょ?」

 メディスンは幽香の顔と彼女の手元の傘とを見比べて、何度も何度も真剣な顔で頷いた。

「うん、分かった、約束する。わたし毒撒き散らさない」
「絶対だからね」
「うん、絶対」

 そう言うメディスンの顔は神妙だったが、やはりいまいち信用できないような気がした。

「……まあいいか」

 一つ息を吐いてから、幽香は手で椅子を指した。

「そっちに座りなさい。いろいろと聞いておかなくちゃならないことがあるから」
「うん。あ、でもその前にさ」

 メディスンは不意にその場に座りこむと、驚く幽香の前で三つ指ついて頭を下げた。舌足らずな声で一生懸命言う。

「ふつつかものですが、どうぞよろしくお願いします」
「……だからあんたはどこでそんな言葉を覚えてくるの」

 呆れ声で言いつつも、メディスンから顔を背ける。なんだか頬が熱い。
 ちょっと可愛いな、と思ってしまった自分を、絞め殺してやりたい幽香であった。



 こうして始まった幽香とメディスンの奇妙な共同生活は、予想通り騒がしいものとなった。
 幽香にしても誰かと二人きりで生活するというのは初めての経験だったが、メディスンにとってもそれは同様
だったらしい。そもそも屋根の下で寝起きするということ自体、妖怪になってからは初めてだとか。
 そんなわけで、メディスンは一時たりともじっとしてはおらず、そう広いとは言えない幽香の別荘の中を好き
勝手に走り回ってはいろんな物を引っかき回した。何か珍しいものがあれば「ねー幽香、これなにー?」だのと
いちいち引っ張り出してくるのである。そういうわけで、幽香なりの美的センスによって配置されていた様々な
調度品などは一日も経たない内に無残な状態と成り果てたのであった。もちろん幽香はメディスンをしこたまぶ
ん殴ってまた毒の涙を流させたが、本人は翌日にはケロッとしていて、また「ねー幽香ー」と問題を起こしてく
れるのである。
 食事もまた問題の種であった。

「あんたご飯なんか食べるの?」
「生き物はみんなそうするんでしょ?」
「そうだけど……だって、あんた元々人形でしょ」
「でも今は妖怪だよ」

 何となく納得いかない理屈であったが、とにかくメディスンが食事を取るのは事実らしい。人間が食べた物か
ら血液などを作るように、この人形も食物から体内の毒を生成するのかもしれない。

「なんでわたしがこんなこと」

 ぶちぶち文句を漏らしつつも、幽香は台所に向かった。お腹がすいたと喚くメディスンを無視しても良かった
のだが、自分で彼女を預かることを承諾した以上、途中で放り出すのはプライドが許さないのである。ついでに
「飽きた」だのと言われるのもやっぱり屈辱的なので、幽香は毎食毎食あれこれと工夫をこらした料理をこしら
えて、メディスンに食べさせてやった。
 幸いこの人形は味には文句を言わずになんでも食べたので、その点でイライラさせられることはなかった。小
さなテーブル越しに手を伸ばしてメディスンの口元を拭ってやる動作もすっかり慣れたものである。
 だが一番問題となったのは、やはりメディスンが漏らす毒であった。この人形、気を抜くと体の節々から様々
な毒を垂れ流し、そのたび殴って叱りつけて泣かせて抱きしめて慰めて、ということになるのである。これをほ
とんど毎日のように繰り返している。紫の言うとおり、これがメディスン流の甘えたいというサインならば、幽
香は見事な悪循環にはまっている。それを自覚しつつも、幽香はこのサイクルからなかなか抜け出せずにいた。
 だが、仕方のないことだろう。大妖怪風見幽香とて、子育てなど初めての経験なのだから。



「……で、説明してもらいましょうか」

 未だ闇の中にある深夜の別荘内、さっきまで自分たちが寝ていたベッドをランプで照らし出して、幽香は頬を
引きつらせていた。隣にはしょんぼりした様子のメディスンが立っている。
 ベッドは酷い有様であった。なにせ、シーツやら掛け布団やらがドロドロに融けているのである。ちなみに幽
香とメディスンも、裸にタオル一枚巻いただけの姿だ。これも、メディスンが漏らした毒の効力らしい。

「一体どんな毒なのよこれは……っていうか、毒ってこういうもんじゃないでしょ本来」

 寝ている最中何か肌寒いことに気がついた幽香が起きてみると、この惨状だったのである。慌てて毒人形を叩
き起こし、即座に毒を止めさせて、今に至るのだ。

「うーんとね、夢を見てたのよ」

 小さく首を傾げながら、メディスンが言う。

「夢?」
「そう。物凄い毒が出来て、ばんざーいって喜んでる夢。だけど、夢の中ではこんな効力じゃなかったんだけど
なあ。なんで服とかが融けたんだろう」

 メディスンがぼやいているの聞いて、要するに寝小便のようなものか、と幽香は思った。寝小便でこんなへん
てこりんな毒を垂れ流されてはたまらないが。

「あーあ、でもこの毒は使えないなあ。服なんか融かしたって何の意味もないし」
「そりゃそうでしょうけど」

 メディスンの言葉に、幽香は少し引っかかりを覚えた。何の意味もない、という言い回し。つまり、作る意味
がある毒と、作る意味がない毒、という線引きが、彼女の中に存在するのだ。二つを分ける境界線は、いったい
なんなのか、と。

「メディ」
「なに」
「あんた、夢の中で物凄い毒が出来たって言ってたけど……それってつまり、夢に見るぐらい、いつも新しい毒
の生成について考えているってこと?」
「うん、そうだよ」

 メディスンはあっさりと頷いた。

「なんのために、新しい毒を作ろうとしてるの?」
「もちろん、効率よく確実に人間を殺すため」

 答えた顔には無邪気な笑みが浮かんでいる。予想していた答えではあった。だというのに、何故か幽香の胸は
激しくざわついた。

「そう。人間を殺すために、ね」
「そうだよ。ああでも、ちょっと迷ってるの」

 メディスンは大げさに首を傾げてみせた。

「この間、人間を自由に操れる毒を作れるようになったのよね。それ使って人間を支配して殺し合わせたりする
方がいいのか、それとももっと確実に殺せる毒を作ってそれを撒き散らした方がいいのか。ねえ幽香、どっちが
いいと思う?」

 幽香は答えられなかった。彼女自身の考えを言えば、どちらも当然不許可である。メディスンは自分の立場と
いうものが分かっていない。もしも実際にそんなことをしたら、彼女は確実に消されてしまうだろう。

「どうしたの?」

 ふと気づくと、メディスンが不思議そうな顔でこちらを覗き込んでいた。いつまで経っても答えが返ってこな
いことに焦れたのだろう。幽香は小さく首を振る。

「なんでもないわ」
「そう? えへ、でも、楽しみだなあ」
「何が?」
「人間を操れる毒ね、まだ実際に試してみたことはないの。丘に迷い込んできた動物を操ったことはあるんだけ
ど。だから今度、人里の近くに行って人間が通りかかるのを待って、そいつを操ってみようと」
「メディスン!」

 自分でも驚くほどの大声が出た。目の前のメディスンも吃驚したように目を見開いている。

「ど、どうしたの、幽香?」
「メディスン、それは、駄目よ。絶対に、そんなことをしては駄目」

 メディスンの肩を掴む手に、力がこもった。人形の顔が少し歪む。

「痛いよ、幽香」
「いいから。約束しなさい、今後しばらくの間、人里には絶対に近づかないって」

 幽香が脅しつけるように言うと、メディスンは不満げに頬を膨らませた。

「えー、どうしてさ。幽香だって人間は嫌いでしょ?」
「ええ、それはもちろんそうだけど」
「じゃあなんで止めるの?」

 問われて、幽香は返答に窮する。今メディスンを取り巻いている状況について正直に話すわけにはいかないし、
仮に説明したとしてもこの幼い妖怪には理解できない部分が多いだろう。それに、彼女の行動原理は実に単純な
のだ。自分に不利な説明を受けた結果幽香への不信感を募らせ、一人で暴走してしまう可能性もなくはない。
 だから、少し嘘をついておくことにした。

「あなたが心配だからよ」
「心配? どうして?」
「人間に手を出すのは、もっと力をつけてからにした方がいいわ。幻想郷には油断のならない人間が多いから…
…たとえば神社の巫女とか、ああいうのね。あなたはまだそれほど力が強くないのだから、報復を受けたら壊さ
れてしまうかもしれないわよ?」

 メディスンが怯えたように肩を震わせた。

「神社の巫女って、そんなに強いの?」
「ええ、かなりね」
「幽香よりも?」
「そうね、わたしでも危ないかもしれないわね」
「じゃあ、止めておく」

 メディスンが真剣な表情で言ったので、幽香はほっと胸を撫で下ろした。同時に、自分がここまでこの人形に
信頼されているというこの状況に、奇妙な居心地の悪さを覚える。

「ね、ね、幽香」

 メディスンが幽香の腕を引っ張った。

「なに、メディ」
「あのね。わたし、幽香のこと好きだよ」

 急に耳慣れないことを言われたので、返事をするのが一瞬遅れてしまった。どういう表情を作ったらいいのか
分からない微妙な顔のまま、幽香はぎこちなく言い返す。

「どうしたの、急に」
「だって、幽香はわたしのこと心配してくれるし、優しくしてくれるから。だから好き。ね、幽香はわたしのこ
と好き?」
「ええ、と」

 一瞬素直に頷きかけてから、幽香は首を振った。からかうような笑みを浮かべて、メディスンの瞳をじっと覗
き込む。

「そうね。あんたが今後一切毒を撒き散らさないと約束出来るのなら、好きになれるかもしれないわね」
「えー」

 メディスンは不満げに唇を尖らせる。

「それは困るよー」
「どうして困るの」
「だって、毒撒けなかったら人間と戦えないもん」

 分かりやすい答えだった。幽香はため息をつき、一度この話題を打ち切ることにした。

「ま、いいわ。とりあえず寝直しましょうか」
「うん、そうしよ」

 駄目になった寝具と服を取り換えて、二人はまた一緒にベッドに収まる。「幽香が寂しがってるから一緒に寝
てあげる」という理由で同居を始めたため、二人はずっと同じベッドで寝ていた。床についてからもあれこれと
お喋りしたがるメディスンのことを、幽香は最初こそ鬱陶しく思っていたが、最近ではそこそこ楽しんだりして
いる。

「ねえメディ」
「なに幽香」
「あなた、わたしのことは好きだって言ったけど、人間は嫌いなのよね」
「当たり前じゃない。大嫌いよ」
「どうして」
「だって、人間はわたしのこと捨てたんだもの。わたしだけじゃなくて、自分たちが不要だって思った人形は
あっさり捨てちゃうし。こっちの声なんか少しも聞いてくれないんだよ? あんな自分勝手な連中のことなんか、
好きになれるわけないじゃない。だからわたしは人間を殺すの。人間を殺して、哀れな人形たちを解放してあげ
るのよ」

 またも、分かりやすい答えだった。だからこそ、メディスンの憎しみが幼いながらも本物で、一貫したもので
あることがよく分かる。この感情が今後も育ち続けるとどうなるのか、と考えると、少し憂鬱である。

「ああでも、なんだっけ」

 不意に、メディスンが眠たげな声で言った。

「同じような話、ちょっと前に誰かとしたような」
「誰?」
「誰だろ。なんか、凄く偉そうな奴。前に花がたくさん咲いてたときに、紫の桜の下で……」
「どんなことを話したの?」
「なんだったかな。確か、わたしが人形たちを解放しようとしても誰もついてきてくれない、とか……おかしい
よね、だって、わたしは人形たちにとっていいことをしようとしてるんだもの。みんなきっと、喜んでくれるはず……」

 話し疲れたのか、メディスンの声はじょじょに小さくなっていき、最後には寝息に取って代わられてしまった。
 人形の健やかな寝顔を見つめながら、幽香は考える。彼女と話をした人物、というのは、幻想郷担当の閻魔で
ある四季映姫・ヤマザナドゥだろう。あの花の異変のときは幽香も彼女に遭遇して、うんざりするほど説教を喰
らったものである。彼女とメディスンが一緒にいるところを一度見かけたことがあるし、多分間違いない。

(閻魔は死後の魂の行方を判定する楽園の裁判長。あれが言うことはほぼ絶対と言っても過言ではないほどの正
しさを持つ、か)

 無論幽香はあの裁判長の言うことに従う気などさらさらないが、その正しさは一応認めてはいるのである。彼
女がメディスンにそんな説教をしたということは、やはりこの人形がしようとしていることは正しくないのだろう。
 しかし、と幽香は考える。この一か月ほど一緒に過ごしてきて、メディスンの頭の程度も多少は理解できたつ
もりである。精神的にはずいぶん幼いが、頭は決して悪くないということも分かっている。おそらく閻魔の説教
も、その場では大方理解できたはずなのだ。にも関わらず、彼女の言動が改善されていないのは何故なのか。

(まあ、説教だけで生き方を改められる奴なんて、妖怪にも人間にもそうはいないでしょうけど)

 そう思いつつも、何か納得できない気がする幽香であった。



 そうやってなんだかんだとやっている内に、メディスンと生活し始めてから1か月ほどの月日が流れた。
 その日はメディスンが永遠亭に赴く日で、幽香は出立前の人形の肩を掴んで細々とした注意を言い聞かせてい
た。これもまたすっかり恒例化したやり取りである。

「いい、寄り道しちゃダメよ? 向こうでも道端でも、毒を撒き散らさないように。人里には絶対に近づかない
こと、紅白の巫女を見かけたら全力で逃げること、誰かに挑発されても無視すること。あとそれから」
「もう、分かってるわよ。幽香ったら口うるさいんだから」
「あんたがいつも無分別に毒撒き散らしてばっかりいるからでしょうが」
「大丈夫だって。ね、お土産は何がいい?」
「兎の肉がいいわ」
「えー、竹林で兎狩りしたら怒られるよー」
「冗談に決まってるでしょ。とにかく、いろんなことに気をつけるのよ。行ってらっしゃい」
「うん。それじゃあ、行ってきまーす!」

 元気に腕を振りながら飛んでいくメディスンを苦笑混じりに見送ったあと、幽香は「さて」と呟いて別荘の裏
手に回った。そこには洗濯籠が置いてあって、中にはメディスンが汚した服などが詰まっている。

(そう言えばあの子、今まで洗濯とかどうしてたのかしら)

 首を傾げつつも、幽香は洗濯に取り掛かる。石鹸はある種の花の成分を抽出して作った特別製だ。どんな頑固
な汚れでもたちどころに落とすことができる、主婦垂涎の代物である。当然ながら、幽香にしか作れない品だ。
 彼女とて大妖怪だから、少し前までこういった雑事は従者にやらせたり妖術で適当に片づけたりするのが常で
あった。だが今は自分の手で直接こなしている。何もかも早く片付けすぎて手持無沙汰になると、出かけている
メディスンのことが気になって仕方がなくなるのだ。
 要するに気を紛らわせるために始めたことなのだが、やってみるとこれがなかなか楽しかったりする。鼻歌混
じりにジャブジャブやって、洗い終わった後は妖術により石鹸や汚れと水とを完全に分離する。水の方は草花の
希望に応じて水撒きに用い、石鹸の方はまた固めて再利用するのだ。花の妖怪らしく環境にも気を配る幽香で
あった。

「これでよし、と」

 洗い終わった衣服を庭先の物干し竿に干したあと、幽香は花柄のエプロンで手を拭った。晴れた空に目を細め
ながら、さて今日の夕飯は何にしようか、と考える。最近ではメディスンに料理を作ってやるのも慣れたもので、
こちらも洗濯同様なかなか楽しい作業になっているのである。
 そうして上機嫌に振り返った幽香は、小屋の玄関先に八雲紫の姿を見つけて硬直した。幽香との約束通り、こ
の一ヶ月間ほど姿を現さなかった隙間妖怪は、何やら気まずげに両手の指を絡めさせながら、ぎこちない笑みを
浮かべて首を傾げた。

「……エプロン、よくお似合いですわ」

 悲鳴と共に投げつけた傘のせいで、小屋の扉が半壊した。



「いや、別におかしなことではないと思うのよ。あなたってほら、花の妖怪らしく小さな花も愛でるじゃない。
要するにある種母性本能みたいなものは今までもあったわけだし、あんな小さな子をそばに置いて一緒に生活し
てればそりゃもう所帯じみてくるのが自然というもので」
「いいから。分析しなくていいから」

 別荘の中に通された紫は、席についた端からどことなく必死な口調で幽香のフォローを始めた。対する幽香は
あまりの気恥ずかしさに俯いて黙り込むしかない。これなら思い切り笑い飛ばされた方がまだましというものである。

「それにしても」

 テーブルの向こうで、紫が感心したように頷いている。

「本当に、よくお似合いねえ」
「殴るわよ」
「褒めてるのに」
「だからこそよ」

 実際紫の言葉にはからかいの意図など微塵も感じられず、余計に幽香の羞恥心を刺激してくれるのであった。

「ちなみにどの辺から見てたの、あんた」
「あなたがメディちゃんを送り出してたところ辺り?」
「なら声かけなさいよ!」
「だって、あんまり楽しそうだったものだから」

 そう言われると言葉に詰まってしまう幽香である。実際鼻歌混じりに洗濯なんぞしていた立場上、反論しよう
にも出来ないのであった。それを一部始終目撃されていたとなると尚更だ。
 しかし、テーブルの対面の紫は、やはりそれをからかう気配など微塵もない。ただ何かを懐かしむような穏や
かな表情で微笑むばかりだ。気色悪いな、と幽香は思う。

「らしくないわね」
「何が?」
「わたしの知る八雲紫ってババァは、こういうときうんざりするぐらいしつこくからかうものなんだけど」
「そうねえ、そうかもしれないけど」

 うふ、と笑いながら、紫は頬に手を添える。

「お洗濯してるあなたを見てたら、ちょっと思い出しちゃってねえ」
「何をよ」
「私も藍がちっちゃかった頃は似たようなものだったもの。もうあの子は本当に手のかかる子でね」
「いや思い出話されても困るから。っていうか鬱陶しいから」

 幽香が容赦なく切り捨てると、紫は露骨に残念そうな顔をした。こういう話題で盛り上がれる相手が今まで身
近にいなかったのかもしれない。そう推測しつつ、自分がいままさにそういう相手になりかけているという事実
に、幽香は少し寒気を感じるのであった。

(いや違うのよ。そりゃ確かにメディは可愛いし、あの子の世話をするとき今までないタイプの喜びを感じてい
るのは事実だけどね。でもそういうのとはなんていうか、その……違うのよ)

 心の中で誰かに言い訳する幽香を、紫はしばらくの間楽しそうに眺めていたが、やがて「さて、と」と呟き、
鋭く目を細めた。

「まあその辺の話はまた後のお楽しみにするとして、そろそろ本題に入りましょうか」
「……そうね」

 紫の真面目な口調に頷きながら、幽香はエプロンを外して椅子の背もたれに掛けた。

「なんで今脱いだの?」
「いいでしょ別に。どうも、これを着ていると気が抜けるのよ」
「ああ、お母さんモードになるわけね」
「変な言葉を作らない」

 言いつつ、幽香は椅子に座り直す。メディスンとの生活が思っていたよりも楽しいものであることは認めざる
を得ないが、目的は別の所にあるのだ。それを忘れてしまうほど、愚かではないつもりだった。

「この一か月ほど、あの子を観察してみたけど」

 そう前置いて、幽香から見たメディスン・メランコリーという存在のことを、事細かに報告していく。妖怪の
賢者たちとのパイプを持っているのが紫である以上、隠し事は極力しないつもりであった。紫の方もそういう幽
香の考え方は理解しているようで、ほとんど口を挟まず黙って報告に耳を傾けてくれている。

「……つまり、現状には特に変化がない、ということでよろしいのかしら」
「そうなるわね」

 紫の問いかけに、幽香は憂鬱な気分で頷く。

「相変わらずよく毒は撒き散らすし、叱っても次の日にはまたやるし……永遠亭の方では、特に問題なく過ごし
ているみたいだけど」
「そう。あなたとの仲は良好なのよね?」
「と、思うわよ? 自分でもなんでこんなに懐かれてるんだか不思議なくらいだもの」
「でも」

 と、紫は鋭く目を細める。

「人間への憎しみは未だ衰えていない、と」
「そうね」

 少し前の夜のことを思い出し、幽香は重々しく頷く。紫がため息をついた。

「残念ね。あなたと生活させることで、その辺にも改善が見られないかと思ったのだけれど」
「どういう意味?」
「あの子は妖怪化して以降、他者と触れ合ったことがほとんどなかったから。あなたと寝食を共にすることで他
者への労わりだとか愛情だとか、そういう感情が育たないかと期待していたのよ」
「そういうこと。それは、多少効果があったとは思うけど」

 好きだよ、と言ってくれたメディスンの笑顔を思い出しながら、しかし幽香は首を横に振る。

「駄目でしょうね。こんなことをずっと続けていても、人間への憎しみは解消されないわ。だって、わたしは人
間じゃないんだもの」
「そう、ね。予想していたことではあったけれど」

 幽香がこの一ヶ月間観察した限り、メディスンの中で人間という存在と他のものとの線引きはかなり明確にな
されているようだった。たとえ彼女がどれほど風見幽香への愛情を育てたとしても、人間への殺意や憎しみが消
えることはないだろう。

「……そもそも、毒を撒き散らしたり新しい毒を生成したりっていう行動の根本には、人間に復讐したいってい
う強い感情があるみたいだから」
「逆に言えば、その辺りがなんとかなりさえすれば、何の問題もなくなるってことなんでしょうけどねえ」

 紫が悩ましげにため息をつく。自分で注いだハーブティーに口をつけながら、幽香は問うた。

「それは、どうしても必要なことなのかしら。今みたいに、あの子をずっと人里から遠ざけておけばいいだけな
んじゃないの?」
「あまりいい考えとは思えませんわね。確かに妖怪が人間に憎しみを抱くことはさほど珍しいことではないし、
それ自体はおそらく罪にはなりえないでしょうけど、あの子の場合は特別だから」
「特別っていうと?」
「あなた、さっき自分で言ったでしょう。あの子の憎しみは心の奥底にまで根を張って、あらゆる行動の原動力
になっていると。あのまま放置しておいたら、その感情はどんどん育って、いつか毒と一緒に外に溢れ出してし
まう。ルールも警告もなにもかも無視して、自分の住める場所がなくなろうが存在を抹消されようが、構わずに
人間を滅ぼそうとする、そんな危険な化け物に成り果てる可能性を秘めているのよ、あの小さな毒人形は。今は
まだあなたの言うことにも従っているけど、精神的に成長して知恵と力を身につけたら、幻想郷にとってはかな
り危険な存在となるかもしれない」

 幻想郷の平和が保たれている大きな理由の一つに、力ある妖怪たちが「ここ以外には行き場がいない」という
ことをよく理解して、なるべくこの狭い世界を壊さないように自重している、というものが挙げられる。
 たとえば信仰を得るために奔走している山の神ですら、妖怪の山ばかりに神徳を与え過ぎたことに気がついて、
麓でも信仰を得てバランスを保とうと努力しているほどなのだ。絶大な力を持つ神々も、この郷以外に行き場が
ないのは同様なのである。彼女とても、その辺りの事情はよく理解している。だからこそ地下の異変の際も、事
前に連絡を入れなかったこと以外はさほど問題視されなかったわけだ。
 逆に言えば、その辺りに全く頓着しない存在というのは、それだけで危険視されて当然とも言える。ならば
いっそ力のない内に、と物騒なことを考える輩が出るのも無理のないことだ。
 メディスン・メランコリーの存在がこうも問題視されている理由には、そういった背景があるのだ。

「ならどうするっていうの」

 幽香は苛立ち紛れに指でテーブルを叩いた。「落ち着きなさいな」と言いつつ、紫は渋面で呟く。

「あの子が元々人形なのに食事をしたり眠ったり涙を流したり、っていうのは、間違いなく人間の模倣で、執着
心の象徴でもあるわ。だから、その辺りに解決の糸口があるとは思っているわ」
「どういうこと?」
「あの子にだって、人形として大切にされていた思い出はあるはずなのよ。そもそも強い憎しみというもの自体、
愛していた人間に捨てられたことへの反動みたいなものでしょうし。だから、人と共にあることの幸せや安らぎ
をあの子が思い出しさえすれば、それが憎しみを抑え込んでくれるかもしれない」

 なるほど、納得できる答えではあった。ほとんど理想的とすら言える。しかし、

「具体的には、どうやって思い出してもらおうっての? 子供が人形と遊んでるところを遠くから見せるとか?」
「多分それでは弱いでしょう。中途半端な手段では、あの子の葛藤を増やしてしまうだけ。現状で最良と言える
のは、心の優しい人間とあの子を直接触れ合わせる……出来れば今のあなたたちのように、一緒に生活させるの
が望ましい、かしら」
「馬鹿じゃないの」

 幽香は鼻で笑った。

「そんな生活、一日も持たないわよ。わたしがメディスンと暮らせているのは、わたしの体が人間なんかより遥
かに頑丈だからよ。これが人間だったら、あの子がちょっと毒を撒き散らした時点でもうお終い。あの子が人間
の良さを思い出すまで、そんな生活が続けられるとは到底思えないわね」
「それに関しても、一応、考えはあるのだけど」

 紫は歯切れ悪く言う。幽香は眉をひそめた。

「なに。言ってみなさいよ」
「……忘れてちょうだい。ほとんど博打みたいな方法だから」

 そう言いつつも、他にはいい案が思い浮かばないのだろう。紫は気難しげな表情で黙り込んでしまう。
 幽香はすっかり冷めてしまったハーブティを無理矢理飲み下し、窓の外に目を向けた。夕暮れの光が、太陽の
畑を淡く包み込んでいる。そろそろメディスンが帰ってくる時間だ。何の悩みもないような能天気な顔で、しか
し小さな体に様々な問題を抱えて。

(大妖怪が二人も雁首そろえて何やってるんだか。まったく、情けない)

 幽香は自嘲の笑みを浮かべた。大妖怪と恐れられ、山を抉り空間を歪めるほどの力を持っていたとしても、現
実はこんなものだ。この狭い世界に小さな毒人形が問題なく収まる場所を探してやることすら、満足に出来やしない。

「あー、あ」

 椅子の背もたれにだらしなく寄りかかりながら、幽香は気を紛らわせるように声を絞り出した。

「人間への憎しみを消す、なんてねえ。閻魔の説教みたいなお寒い話になってきたわ」
「そうね……待って」

 紫が眉をひそめた。

「今の、どういう意味かしら?」
「なにが?」
「閻魔の説教、とか」
「ああ、それね」

 幽香は前に目撃した光景を、紫に話して聞かせた。
 花の異変の終盤に、閻魔が幻想郷中を飛び回っていたのである。彼女にどういう意図があったのかは知らない
が、太陽の畑にも降り立ったので、幽香は二度目の説教を喰らう羽目になったのだ。
 そのとき、閻魔とメディスンが話しているところを偶然目撃したのであった。

「……『人間への憎しみを消すこと。それがあなたに出来る善行よ』とか言ってたのよ。笑っちゃうわよね」

 しかし、紫は笑わなかった。真剣な顔で何やら考え込み、ふっと吐息を漏らす。

「そう。あの方までもが同じことを……やはり、道はこれしかないということね」
「なに、どうしたのよ」
「幽香」

 不意に、紫が表情を改めた。瞳に揺るぎなき決意が宿っている。先ほどまでの逡巡するような色はもはや欠片
も見当たらなかった。よく分からないが、閻魔の言葉に背中を後押しされたようだった。

「近い内にまた来るわ。それまで、メディちゃんに仕込んでおいてもらいたいことがあるんだけれど」
「なによ」
「家事全般、かしら。特にお料理とか。お味噌汁とか、和食がいいわね」

 紫の言葉の意味が理解できず、幽香は首を傾げた。

「なに言ってんの、あんた」
「いいから、言うとおりにしてちょうだい。それと、今の内に謝っておくわ」
「は、謝るって」
「多分、あなたにもメディちゃんにも、辛い想いをさせると思う。だから、ごめんなさい」

 紫は目を伏せ、静かに頭を下げる。胡散臭い隙間妖怪には少しも似合わぬ、誠実な態度であった。あまりに予
想外のことが続くものだから目を白黒させていた幽香だったが、ここに来てようやく頭が追いついてきた。
 そうして、黙って頭を下げている紫を見ると、辛いのはむしろあんたの方なんじゃないの、という気がしてきて、

「ねえ紫」

 気付けば、問いかけていた。

「最初からずっと疑問だったんだけど」
「なにかしら」
「あんた、なんであの子のためにここまでしてやってるの? そりゃ、あの子の危険性が無視できないレベルの
ものだってことは理解できるけど、あんたなら他にもやりようがあるんじゃないの」

 排除するまで行かなくとも、紫ほどの妖怪ならば、妖術でメディスンの力を封印するなり、他にもやりようは
ある気がするのだ。

「そうね、そうかもしれないけど」

 そっと触れただけでも壊れてしまいそうな、弱々しい微笑。

「できれば、そんな風に力で無理矢理押さえつけるような手段は取りたくないの」
「だから、どうして」
「私たちもあの子と同じだからよ」
「どういう」

 最後まで言い切ることは出来なかった。何かに気づいたように顔を上げた紫が、「とにかく、よろしくね」と
口早に言い残して姿を消したのだ。ほとんど同時に、別荘の扉が勢いよく開かれる。

「ただいまー」

 と、能天気な声とともに、メディスンが笑顔で飛び込んできた。

「あー、疲れたー。あ、幽香、これお土産。鈴仙特製のハンバーグね。あと永琳から、試作の植物用栄養剤だっ
て。副作用なしに見る見る植物が育つって……ところでなんでドア壊れてるの?」
「メディ」

 元気よく捲し立てるメディスンに、幽香は一言だけ声をかけた。「なに?」と不思議そうに見上げる小さな毒
人形を、ただ黙ってじっと見下ろす。この人形は、自分が幻想郷にとってどれほど危険な存在であるか、少しも
分かってはいまい。教えられても実感が湧かないかもしれない。そのぐらい無邪気で幼い毒人形は、しかし確か
に危いのだ。本人は無自覚なまま、そんな風になってしまった。
 幽香は長く息をついて胸のざわつきを追い出しながら、椅子の背もたれにかけてあったエプロンを手に取った。

「なんでもないわ。ところで、今日から料理を手伝ってほしいんだけど」
「え、いいの!?」

 メディスンが目を輝かせるのを見て、幽香は苦笑した。

「いいわよ。ただし、分かっているとは思うけど」
「大丈夫、絶対に毒はいれないよ!」

 胸を叩いて、メディスンは自信満々に断言する。幽香は意地悪く言った。

「本当に大丈夫かしら?」
「あ、信用してないなー。大丈夫だって、毒が漏れないように気をつけてるんだから」
「それは分かってるけどね」

 でなければ、毎晩幽香と同じベッドで寝ることなどできはしないだろう。メディスンはメディスンなりに、他
者との触れあい方を考えているのである。

(この気遣いが、あらゆるものに向かっているのなら何の問題もなかったんでしょうけど)

 エプロンを身につけながらそんなことを考えていると、メディスンが心配そうに幽香の顔を覗き込んできた。

「大丈夫、幽香? なんか嫌なことでもあった?」
「何もないわよ、嫌なことなんて」

 穏やかな声で答えながら、本当にそうだったらいいのにな、と思わずにはいられなかった。



 次に八雲紫がやって来たのは、それから二週間ほどたった日のことである。それは幽香が人里に買い物に行っ
ている間のことで、隙間妖怪は相変わらず外で走り回っていたメディスンに、優しく声をかけたそうだ。

「こんにちは、メディちゃん。わたしのことは覚えているかしら」
「うん、スキマバ……八雲紫!」
「はい、よくできました」

 そしてメディスンの頭を撫でながら、優しい口調のままで言った。

「ところで、あなたは毒を操る程度の能力を持っていらっしゃるのよね」
「そうよ」
「その能力を見込んで、一つお願いしたいことがありますのよ」
「なに?」

 紫はにっこり笑って、

「ある人間を、毒殺してほしいの」



「どういうことなの……!」

 夜の闇の中一人テーブルの上にランプを灯し、幽香は苛立ち紛れに呟いていた。静寂の中、聞こえてくるのは
メディスンの健やかな寝息だけである。「明日に備えて早く寝る」と人間のようなことを言って、さっさと床に
ついてしまったのだ。ずいぶん、興奮している様子だった。

「紫が人間を毒殺してほしいって頼んできたの! 殺しても何の問題もない人間なんだって!」

 心底嬉しそうにメディスンが言ったとき、幽香は目眩を覚えてしまった。一体どういうつもりなのか紫に問い
正したかったが、彼女の姿はどこにも見えなかったし呼んでも出てこなかったので、歯軋りしながらただ時を待
つしかなかった。
 これが、紫の言っていた「博打のような方法」なのだろうか。一体何が狙いなのか、さっぱり分からない。そ
もそも、たとえば大勢の恨みを買っているような人間のクズだとしても、幻想郷のバランスという観点から考え
れば殺していいはずがないのである。なのに毒殺してほしい、とはどういう意味なのか。何かの比喩だとも思え
ないし、それでどうやってメディスンの人間への憎しみが消えるというのだろう。

(その毒殺してほしい人間ってのが、実はメディスンを捨てた人間と同じ奴だから、殺せばあの子の気が晴れる
だろう、とか……いや違うわよね)

 あれこれと考えてはみるものの、やはり理解は出来なかった。
 その内、ようやく考えても無駄だという結論を出すことが出来たので、幽香はため息でランプを吹き消し、
ベッドにもぐりこんだ。布団にくるまってみれば、目と鼻の先にメディスンの無邪気な寝顔がある。この子供が、
明日誰かを毒殺しに行くのだ。先行きが不安すぎて、とても眠れそうにない。

(ああ、心配、心配だわ)

 自分には関係ないし、だのと心を偽ることはもう出来なかった。メディスンがこの一か月ですっかり幽香に懐
いてしまったのと同様に、幽香もまたメディスンに深い愛着を抱いてしまっていたのだ。今こんなにも不安に駆
られている自分に気づいて、ようやくそれを認めることが出来た。
 幽香は闇の中で手を伸ばして、メディスンの頬に触れた。人間や妖怪のものと比べると少々冷たい肌を、そっ
と撫でてやる。そのとき、不意にメディスンが顔をしかめ、苦しげな吐息を漏らした。

「やだ……」

 閉じられた瞼から、涙が溢れ出して来た。

「どうして、やだよ、行かないで……」

 絞り出すような呟きと共に涙がぽろぽろ零れて、頬に添えられた幽香の手の甲を流れ落ちる。涙の跡にひりひ
りとした痛みを感じて、ああこの子は涙ですらも毒になるのだったな、と幽香は思い出した。
 多分、人間に捨てられたときのことを夢に見ているのだろう。メディスンが流した涙を、幽香は黙ったまま指
で拭ってやった。寝息はすぐに穏やかなものとなる。指にひりつくような痛みを感じながら、幽香は深く息を吐
き出した。

(とにかく、事の成り行きを見守るしかない、か)

 紫の考えはよく分からないが、彼女が今までメディスンのことを考えて行動してきたのは確かなのだ。ならば、
とりあえずは彼女を信頼して、事態がいい方向に向かっていくことを祈るしかない。
 それでも万一、と幽香は考える。

(もしも誰かがこの子を排除しようとしたら……幽香、あんたはどうするの? この子のために、幻想郷全体を
敵に回して戦う? 戦えるの?)

 心の中で誰かが嘲笑し、他の誰かが力強く頷いた。
 どちらに従うべきなのか自分でも分からぬまま、幽香は眠り続けるメディスンに黙って身を寄せた。

<続く>
ママはスウィートポイズンがお好き。

なんかそんな感じの話。
服融ける毒とかねーよw と自分でも思ったんですが、夜中に全裸で起きて慌てる幽香が書きたかったからしょうがない。

そんな感じで続きます。
aho
[email protected]
http://aho462.blog96.fc2.com/
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コメント



0.9090簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
リズムの良さと読みやすさは相変わらずでサクサク読めました。
内容は現状では……なんとも、なので期待を込めて待っています。
4.90名前が無い程度の能力削除
続きが気になる~
期待を込めてこの点で。
6.100名前が無い程度の能力削除
ま た バ バ ア か
8.90漢字太郎削除
ahoさんがメディもの…だと……!全俺が泣いた
「ふつつかものですが~」のくだりで俺の脳が融けました
天魔のじいさんの気持ちが痛いほどよくわかります。ていうかジジイのキャラがツボにw

漏らしまくるメディとか母性溢れまくる幽香とか……後書きとか本当に素敵です
後編が楽しみ過ぎるということで、点数は控えめに
10.80名前が無い程度の能力削除
>「どういうことなの……!」
これまで楽しく読ませていただいたのに、この台詞を見た途端爆笑してしまった僕は罪深い人間です
この罪深さを他の人にもわけることにしました
13.80名前が無い程度の能力削除
とうとう幽香モノがきましたねー。
幽香と紫、大好きです。
後編、もしくは中編期待してます。
14.80名前が無い程度の能力削除
幽香とメディスンの組み合わせは時々見かけますが、
こういった展開は初めてですね。
あと

>「嘘だー。さっき幽香、こーんな顔してたもん」

> 指で眉間に皺を作ってみせるメディスンのおでこを、優香は指で軽く弾いた。

一ヶ所、幽香が優香になってます。
15.80名前が無い程度の能力削除
毒殺する人間というのはもしやあの二人のどちらか・・?
16.60荒河 軒持削除
次を楽しみに待っています
とりあえず60点入れておきますね。
18.80煉獄削除
続きが気になる!
感想は後編などでしたいです。
でも凄い面白いです。
これからメディスンと幽香がどんなことになっていくのか
気になりますね。
そして二人の生活がとても心温まります。
21.60名前が無い程度の能力削除
続編に期待
24.80リック削除
殺してほしい人間が妹紅や輝夜だったら受けるわー
28.100名前が無い程度の能力削除
ありだ。これはありだ。
30.70名前が無い程度の能力削除
永遠亭に出入りしてるから対象になり得る毒殺不可な人間は実質一人だけなのだが
果たして。しかし、面白い。が、前編なので 70 点に留めておきます。
34.90名前が無い程度の能力削除
殺して欲しい人間って誰だろうか
普通の人間じゃマジで毒で死ぬから・・・やっぱ蓬莱人の妹紅あたりなんだろうか
それとも人間と偽ってアリスあたりを出すのか・・・
ううむ、続きが気になる
35.90名前が無い程度の能力削除
報告その2
>分からない微妙な顔のまま、優香はぎこちなく言い返す。
ゆうかりんの優しさがこんなところにも溢れ出しているとは……
37.100名前が無い程度の能力削除
ありがちなようで新鮮。
幽香の描写がたまらなく良かったです。
39.90名前が無い程度の能力削除
>>夜中に全裸で起きて慌てる幽香が書きたかったからしょうがない
それはしょうがないなw

次回に期待。
46.80名前が無い程度の能力削除
これは期待せざるを得ない。
取り敢えず80点入れておきますね。
47.90名前が無い程度の能力削除
妖怪の賢者の立ち位置と思惑、その中での紫の役割
その辺がすごい説得力があって非常に良かった
そして物語の展開、目が離せない
続きに期待せざるを得ない
48.100名前が無い程度の能力削除
メディの「妖怪スキマババァ!!」には萌えた
50.100名前が無い程度の能力削除
幽香のお母さん姿( ・∀・)イイ!!
んで何時もの如くババアは、と言うかこの幻想郷は優しい感じで大好きです。
53.70名前が無い程度の能力削除
これはいい作品。マザコンの血が騒ぐ。

後編のために100点は取っておく感じで
56.90名前が無い程度の能力削除
新作ktkr
後編を楽しみにしています

一つ気になったのは、
>一挙動一挙動
一挙手一投足の間違いではないかと
59.80名前が無い程度の能力削除
続きに大いに期待ということでこの点数で
63.80名前が無い程度の能力削除
うおお、どうなるんだ……
期待してます。
64.100名前が無い程度の能力削除
つづきを、期待!

ほんとに私的ですが、幽香と紫の会話をもっと多くしてもいいと思います!
わがまま言ってすいません。
65.100名前が無い程度の能力削除
鼻歌歌いながらお洗濯をする幽香お母さん…!
僕の妄想郷が開花しました
66.100名前が無い程度の能力削除
幽香とリグルの話だと、わりとSMチックな話になるのですが
幽香とメディだと、今度はゆうかママな話になるんですよねw
どちらかというと後者が好きなので今回の話はドツボです。
なんだかんだでママになっちゃってるゆうかりんと、ゆうかママLOVEな無邪気で子供っぽいメディスン
あなたは俺を萌え殺すつもりか!?次回に超期待
67.100謳魚削除
何度自問自答しようと幽香ママンはメディと居続ける(と思いたい)、ただ(ひねくれ過ぎて真直ぐな)愛が故に。
などと勝手に信じてる。
そうしたくなるのがahoさんぶらんど。
75.100マイマイ削除
"優"香ですな。まさしく。ママですママ。
つか、賢者の説明がしっくり来すぎる上にゆかりんかわいいよゆかりんかわいいよゆかりん。
76.無評価名乗ってもしょうがない削除
相変わらずしっかりした設定・構成。お見事にございます。
服が融けるはなくても服が焼けるはあるかも(それも融けるって言うのかしら・というかそれは酸というやつか)。

さぁ私に100点を入れさせてみろ(意訳:点数は後編にて期待age
83.90てるる削除
ヤバイ・・・・な・・・・・これ・・・・・・
俺の・・・脳が・・・・・・・・融ける・・・!?
85.100名前が無い程度の能力削除
老婆心っていい言葉だと思いませんか?
86.90名前が無い程度の能力削除
ゆうかりんもゆかりんも可愛すぎる
89.90名前が無い程度の能力削除
ちょっと後編逝ってくる
93.100名無し削除
新感覚です。次行ってくる
95.90名前が無い程度の能力削除
紫も幽香も良すぎる
相変わらずahoさんのババァは最高だぜ
後編読んできます
101.90名前が無い程度の能力削除
後編をまだ読んでないので、
この点で。

>夜中に全裸で起きて慌てる幽香が書きたかったからしょうがない。
そういう事なら、たしかにしょうがないですねw
102.100名前が無い程度の能力削除
>夜中に全裸で起きて慌てる幽香が書きたかったからしょうがない。
はっとして全裸はさいこうですね
106.80名前が無い程度の能力削除
服が溶ける毒

エイリアンか、昔のアニメに出てくるよーな奴とかですかっ
110.100名前が無い程度の能力削除
後編まで読ませていただきました。
幻想郷の大妖のお二方に不遜かも知れませんが
お母さんと呼ばせてもらっていいですか。
115.80名前が無い程度の能力削除
問い正す→問い質すじゃねぇかな
それにしてもゆうかりん可愛いよゆうかりん
128.90名前が無い程度の能力削除
>夜中に全裸で起きて慌てる幽香が書きたかったからしょうがない。
仕方がなさすぎるな。
129.10名前が無い程度の能力削除
やべぇ、100じゃなくて90にしてしまった。…これで100ってことでw
157.100名前が無い程度の能力削除
幻想郷なのだから、天魔はきっと設定年齢19歳・蟹座のB型みたいなイケメンに違いない。
さて、後編へ行くか。
161.100名前が無い程度の能力削除
幽香もメディもかわいいなあ
165.100名前が無い程度の能力削除
何このお母さん…
166.100名前が無い程度の能力削除
幽香お母さんも大変ですね。
185.100名前が無い程度の能力削除
引き込まれました。
187.100\(゚ヮ゜)/削除
ahoさんの幻想郷は設定がしっかりとしていて素晴らしいです。
189.100Admiral削除
ゆうかりん&ゆかりんが優しすぎて…!
メディが無事に幻想郷で暮らせるようになりますように。
190.100名前が無い程度の能力削除
天さんあんたロリコンだったのか…!
今度深く語り合いたいものだ。
191.100名前が無い程度の能力削除
幽香お母さんかわええ……でも濃硫酸にフイタw
後編見てきます
211.100名前が無い程度の能力削除
ベネ
219.70洗濯機削除
凄く読みやすかったです!そして天魔のことを天魔ちゃんっていう紫がおもしろかったです。