冬の季節がもうすぐ終わりを迎えようとしていたある日
私はその子を見つけた。
籠の中で暖かそうな白い布に包まれた赤ん坊。
生後間もない訳ではなさそうだが言葉による意思疎通のできる
状態でもないのだろう。
必死に『オギャア、オギャア』と泣いていた。
傍らには手紙があり、たった一言『この子をお願いします』
と書かれていた。
迷惑な話だ。
この子の母親はこの子を産んだはいいが結局育てる事ができず、
この妖怪の多くいる湖畔に置き去りにした。
それはきっと、この子は自分に捨てられて死んだのではなく
妖怪に喰い殺されたんだ、と思い込むためだろう。
少しでも自分の罪の意識を下げるために。
迷惑な話だ。
今、私の足元で泣き続けるのは、この世に誕生したのに誰にも望まれない命。
かわいそうに・・・・・・。
君は必死にお母さんを呼んでいる様だけど、きっと君のお母さんは来てくれないよ?
だって、これは君が必死に呼び続ける人が望んでいる事なのだから、君が必死に
お母さんを呼んでも君のお母さんはそれを望んでいない。
むしろ、君がいなくなる事を望んでいるんだよ。
そうじゃなきゃ、君みたいなまだ弱い命をこんな場所に置き去りにするはずは
ないもの。
かわいそうに、君がこのまま必死に泣き続けていても来てくれるのは君のお母さんじゃなくて
君の泣き声を聞いて君を食べに来る妖怪くらいだろうね。
かわいそうにね。
君は君の呼んでいる人に殺されるんだよ?
同情はしてあげる。
でも、残念だけど私には君を助ける義理はないし興味もないの
それに、その結末を君が呼んでいる人が望んでいるんだよ。
だから、バイバイ、小さな命
せめてもの慈悲で次に生まれる時は幸せになれます様にって祈ってあげる。
目を瞑り簡単に祈りを済ませ、泣き続ける赤ん坊に背を向けようとした時
「レティー!!」
「カフッ!?」
横から馬鹿がややタックル気味に突っ込んできた。
そして、そのまま滑らかに転倒する。
「ゲホッゴホッゲホッ、ちッ、チルノ!?、どうしたの?」
激しく咳き込みながら、タックルかましてきた馬鹿に説明を求める。
「うん、暇だったから、一緒に遊ぼレティ!」
・・・・・・この氷精、もとい馬鹿は、少し感傷的になっていた気持ちを吹き飛ばしてくれた。
ソレを喜ぶべきか悲しむべきか怒るべきか悩んでいると
「ねぇレティ何ソレ?赤ちゃん?どうしたのソレ!?」
目敏く、私の背後にいる赤ん坊に気付いた。
しかし、ソレ呼ばわりはどうかと思う。
「ええ、見ての通り捨て子みた・・・・・・」
「ええ?あ、相手は誰!?妖精?妖怪?それとも・・・・・・人間!?」
「は?ちょ、ちょっと落ち着きなさ・・・・・・」
「大変だ、アタイ皆に言ってくるね!!」
・・・・・・どうにも落ち着きがないので物理的に黙らせます。
別にタックルが思ったより痛かったとか、なんか鬱陶しくなって来たとかではありません。
ええ、ホントに他意はありません。
――リンガリングコールド
――ピチューン
――
「落ち着いた?」
「うん、痛かった」
「そう、よかったわ、じゃあ説明するわよ」
会話が繋がってない気がしたが多分気のせいだろう、だから気にせず説明する事にした。
――少女(?)説明中
一通りチルノに説明する。
きっと、この子の母親がこの子の死を望んでいる事も
この子が私の子供ではない事も(重要)
無関係なのだから放っておこう、という私の言葉に
しかし、チルノは
「それじゃあ可哀想だよ、だからアタイ達で飼おうよ」
確かに可哀想だが、飼うという表現は些かどうだろうか?それに、きっと
その結末を、可哀想になる結末をこの子の母親が望んでいると思う。
だから、私達は手を出すべきではないと思う。
それでも
「でも、この手紙には『この子をお願いします』って書いて
あったんでしょ?だからきっとこの子のお母さんもこの子が
死ぬ事なんて望んでないよ」
「むぅ・・・・・・」
彼女は諦めず
強引だが、そう言えなくもないかもしれない見解を示した。
普通の人間から見れば妖怪なんて言葉も通じない怪物というイメージだろう。
ならば、何故あんな手紙をわざわざ残したのか?
罪の意識を下げるためか?
それとも、本当に誰かに助けてもらう事を望んだのか?
もしかしたら後者なのかもしれない。
単純思考とは時として核心をつくのかもしれないなと
少し関心していると
「ギャア、ギャア」
赤ん坊の泣き声がなんだかヤバ気になっている。
何かあったのかと慌てて赤ん坊の方を見るとチルノが片手で赤ん坊の頭を
無造作に掴んで立っている姿が目に映った。
その姿は、なんだかプロレスラーが気合を入れて相手を倒そうとしている姿にも見えて
って、
「何してんのよアンタはー!?」
慌てて赤ん坊をチルノから奪う。
余程痛かったのか赤ん坊はまだギャアギャアと泣いている。
チルノはキョトンとした顔で
「え?だって猫って頭掴むんじゃないの?」
なんて事をほざく
それは首根っこで、しかもこの子は猫ではない。
心底不思議そうにしているチルノにその事をちゃんと説明する。
――⑨に説明中
「・・・・・、」
今の説明に納得しなかったのか目の前の馬鹿はこちらをジッと見ている。
そして、唐突に
「何かさ、レティってお母さんっぽいね」
「は?」
不意打ちだった。
いきなりすぎだ、この氷精の思考回路はどうなっているのだろう?
今、彼女の目にはまぬけにポカンと口を開ける私の顔が映っているだろう。
それにしても
「私がお母さん(っぽい)って何よ?」
「ん、だってさぁ、なんか赤ちゃん抱っこしてるの似合うし、それに
その子泣き止んでるし・・・」
胸、大きいし・・・・・・、と最後にボソッと低く殺気を篭めて言ってくるが無視した。
言われて赤ん坊を見ると確かに泣き止んでいて、キョトンとした大きな目で私を見上げていた。
目が合うとニパッと擬音が聞こえそうなほどにパッと笑顔になった。
もしかしたら、置き去りにした母親の姿を私に映したのかもしれない。
ただ、その笑顔は反則なまでに愛らしく、助ける義理はないと言った私も
面倒を見てもいいかなと思ってしまった。
しばらく面倒を見ると決めた。それからが大変だった。
何の前触れもなく突然泣き出して、何をしても泣き止んでくれず、
心配そうに見つめるチルノに『お腹が空いているのかも』と言うと
チルノが何処からか蛙を取り出し食べさせようとするので
弾幕で沈めたり。
歯がまだ生えていない様なのでミルクでないと駄目だと説明すると唐突に私の胸を指差し
『レティのオッパイがあるじゃん』
と血迷った発言をかましたチルノを弾幕で沈めたり。
『じゃあ、アタイので・・・』
何故か色っぽく脱ぎ始めたチルノを弾幕で沈めたり。
って、コイツはホントに協力する気あんのか!?
――
仕方がないので湖畔からも近い紅魔館に行く事にした。
警戒する門番に事情を説明して、なんとか館の主に掛け合ってもらい
屋敷に入れる事となった。
しかし、此処の門番は冬でもチャイナ(っぽい?)服だけで寒くないのだろうか?
春が近いとはいえ、まだまだ肌寒い、もしかしたら彼女も氷精とか私の様な
類の妖怪かもと思ったが深くは考えなかった。
きっと、あれが彼女にとっての門番クオリティなのだろう、
そういう事にしておいた。
メイド妖精に案内された部屋は暖かく私には少し辛かったがこの子には
ちょうどいいかもしれないと思った。
程なくしてミルクの入った哺乳瓶をメイド長である十六夜 咲夜が持ってきてくれた。
一通り礼を言って、早速ぐずる赤ん坊にやるとすぐに泣き止み元気に飲み始めた。
その様子を二人でお~、と関心しながら眺めた。
・・・・・・二人?アレは何処に行った?
まぁ、いいか・・・・・・
――
「ふぅ、助かったわありがとう。それにしても現金ね赤ん坊って、さっきまで
あんなに泣いてたのにお腹がいっぱいになちゃったらご馳走様も言わないで
寝ちゃうなんて・・・」
「まぁ、そんな物でしょう?赤ん坊なんて・・・」
素っ気無い返事をする割にジッと赤ん坊を見つめるメイド長には以前
であった時の棘棘しさはなく、何となく拍子抜けした。
実際駄目元で此処に来たのだが簡単に招かれて驚いた。
あの時の事は気にしていないのだろうか?
いや違うか、きっと一番の理由は・・・・・・。
「ねぇ?」
「なに?」
素っ気無い返事、でも目は赤ん坊から離れない。
それで確信する。
「せっかくだから抱っこ、してみる?」
「・・・・・・いいの?」
「ええ、このままだと睨み殺されそうだから」
「・・・・・・」
複雑な顔をするメイド長
しかし、実際睨み殺しそうな程見ているのだからしょうがない。
そして、今もおっかなびっくりと言った感じで手をだしつつ目は離さない。
笑えてしまう、あの時はあんなにも強かったメイドも案外可愛い所があるものだ。
『そんなに緊張してたら赤ちゃんが起きちゃうわよ』と少しからかいながら
赤ん坊を渡す。
彼女が赤ん坊を優しく、しかししっかりと受け取る。
その姿を見た時に少し胸が痛んだ。
でも、この時はその痛みが何なのか解らなかった。
――
一時抱っこして気がすんだのか、赤ん坊を私に戻し
彼女が口を開く。
「それで、これからどうするの?」
「この子?・・・・・・考えてないわ」
「考えてない?」
怪訝な顔をするメイド長、まぁ当たり前と言えば当たり前の反応だ。
でも、
「ええ、私もなんでこの子を拾ったのか解らないの、もう、今年分
の私の時間は無いに等しいのにね」
「・・・・・・」
「とりあえず、いられる時間までは一緒にいたいって思ってるの、
何でかは解らないけどね」
「でも、貴女が消えた後は?」
「その時は神社にでも任せようかしら?やっぱり人間の事は人間に
任せた方がいいでしょ?」
自分の口から出た台詞にまた胸が痛んだ。
「貴女は・・・・・・、いえ、やっぱりなんでもないわ」
「そう、ありがとう」
そのまま何かを言いかけたメイドを背にチルノを回収しに行こうとした時
「ねぇ、よかったら貴女が消えるまで此処にいない?」
「え?」
赤ん坊のためにもその好意に素直に甘える事にした。
ちなみに、チルノは外で門番と遊んでおり
門番はそれをメイド長に見つかり折檻を受ける事になるのだが、
それはまた別のお話。
――
紅魔館の住人達はよくしてくれた。
食べ物やオシメに始まり、解らない事があれば大図書館も貸してくれた。
赤ん坊も周囲になれたのか泣く事は少なく
余り泣かずによく笑う事から赤ん坊は此処のちょっとした
アイドルになった。
咲夜を始め、此処で働く妖精メイド、図書館の魔女と小悪魔など
赤ん坊を連れている私を見かけると皆が声をかけてきた。
チルノはチルノで飽きたのか、よく門番と遊んでいた。
しかし、どうしてあれであの門番がクビにならないのかが不思議だった。
――
そして、赤ん坊を拾ってから数日
とうとう、別れの時がきた。
毎年の事で慣れてはいるが今は消えるのが辛い。
最初は義理がないと見捨てようとした命に情がわくとは思いもしなかった。
出来る事ならずっとこの子と一緒にいたい。
まだ、消えたくない。
消えるのが辛い。
でも、冬を長引かせる事は出来ない。
幻想郷の異変は必ずあの巫女が解決する。
誰でも知っている事だ。
「じゃあ、お願いね?チルノ」
「うん、・・・・・・解った」
消える少し前にチルノに全てを任せる。
・・・・・・正直不安だが、メイド長にも話は通してあるから多分大丈夫だろう。
すやすやと寝息をたてる赤ん坊の姿を目に焼き付ける。
本当に安らかで可愛い寝顔だった。
バイバイと口にして赤ん坊をチルノにわたそうとした瞬間、赤ん坊が突然泣き出した。
特に何もしていないし、今まで夜鳴きは一度もなかった。
それなのに、突然大声で赤ん坊は泣き出した。
「ちょ、ちょっとどうしたのよいきなり?」
赤ん坊はただオギャア、オギャアと泣き続ける。
「嫌だって・・・・・・」
ポツリとチルノが言う。
「その子、泣いてる」
見れば解る、なんせ今までで最高の声量で絶賛泣き喚いているし
「違うよ、レティと・・・・・・、お母さんと離れたくないって泣いてんだよ」
「・・・・・・」
「オギャア、オギャア」
「・・・・・・ねぇ、お願い、泣き止んで」
「オギャア、オギャア」
「お願いだから、泣き止んでよ、そうしないと」
「オギャア、オギャア」
「私、消えられないじゃない」
「オギャア、オギャア」
今度はしっかりと私にも聞こえた。
お母さん、お母さん、もう置いていかないで、もう一人にしないでと泣く声が
嫌だ、嫌だと駄々をこねて泣く声が
ずっと一緒にいたいと泣く声が
そして、私の口から
「消えたくないよ・・・・・・」
と願う声がはっきりと聞こえる。
あの時からの痛み、自分以外の誰かがこの子を抱いた時に感じる痛み
それが何なのかを今理解した。
私はこの子をずっと見守る事が出来ない。
他の皆はタイムリミットはないが、私は冬という短い期間にしか存在できない。
私ではどう足掻いてもこの子の『母親』にはなれない。
それが辛くて痛かったんだ。
なんて事はない、私は結局の所この子の母親になりたかったんだ。
初めて出会った時から、義理はないと言っておきながら私はこの子の母親に
なりたかったんだ。
でも、頭のどこかで絶対に母親になれない事を理解していたから
だから、辛くて、痛くて、こんなに苦しいんだ。
ずっと離れたくない。
ずっと一緒にいたい。
ずっと抱きしめていたい。
もっともっと笑顔を見ていたい。
あ、という音を出来るかぎり伸ばしたような二人の泣き声が響く。
それをチルノは黙って見ていた。
――
「落ち着いた?レティ」
「・・・・・・ええ、ありがとうチルノ」
ずっと泣き続けた赤ん坊も今は疲れて寝てしまっている。
バイバイ、名前も知らない小さな命
バイバイ、私の大切な赤ん坊
消える直前にチルノに一つ頼み事をした。
彼女は『え?でも』と戸惑ったが私の顔を見て『わかった』と言ってくれた。
――
冬が終わってから数日後、湖畔に一人の女性が来た。
彼女はずっと何かを探していた。
必死に必死に何かを探していた。
見つかるはずはないと理解しているのにそれでも必死にその何かを探し続ける。
「ねぇ、アンタが探してるのはこの子?」
「え?」
――
春の陽気が眠気を誘いそうになる昼過ぎに、チルノは紅魔館にやって来た。
ただ、その姿に普段の様な勝気な感じはなく泣き出す寸前の様な雰囲気だった。
「ねぇ、ちゅーごく、咲夜いる?」
「・・・・・・どうしたの?」
何時もなら国名で呼ばれた事を注意するが、始めてみるチルノの泣きそうな顔に
美鈴は何も言わなかった。
「うん、ちょっとね」
――
チルノが招き入れられた部屋は以前来た時と同じ部屋だった。
そして五分もしない内に咲夜が軽いノックと共に部屋に来た。
「貴女が私に用事なんてどうしたの?」
俯き、今にも泣き出しそうな彼女の姿は普段の彼女とは似ても似つかなく
儚げだった。
「うん、その、あのね」
「あの子の事?」
「っ!」
その言葉にチルノはビクッと体を揺らし
「うん・・・・・・、あれで、本当にあれで良かったのかなって思ってさ」
泣きだしそうな震える声だった。
「・・・・・・そうね、他人の私達がどうこう言う事じゃないと思うけど、
あれが最良の判断だったと信じたいわね」
咲夜の諭すような優しい声。
その言葉に今まで俯いていたチルノは顔を上げる。
「でも、でもね!レティはすごく泣いてたの、すっごく綺麗に笑ってたけど
それと同じくらい、泣いてたの」
「・・・・・・」
「何で?」
「え?」
「どうしてレティがあんな思いしなきゃならなかったの?悪いのはあの子
を捨てたアイツなのに、何で・・・・・・?」
「チルノ・・・・・・」
震える声で淡々と告げる彼女の友人を思う純粋な思い。
ただ純粋だからこそ、その思いが危険な方向へ向かっている事に咲夜は
気付いた。
だから
「チルノ、お茶を淹れてくるわ、だからこの部屋には貴女だけになる。
泣きたいなら泣きなさい、此処なら誰もみていないから」
言って立ち上がり部屋を出る。
ただ、最後に告げた。
「貴女のその思いは大切よ、でもね、今貴女が考えた事は彼女の意思に反する
事だった。それを忘れない事ね」
――パタン
小さな音をたてドアが閉まり誰もいなくなる。
チルノは声を上げて泣いた。
――
いくつもの季節が過ぎた。
その年の冬は例年以上の寒波に見舞われて幻想郷は一面白に染まった。
「では、今日はここまで、今夜も冷え込む様だから各自風邪をひかない様にな」
寺子屋に声が響き、子蜘蛛を散らす様にワラワラと生徒達は帰っていく
「ふぅ、さて、と」
誰もいなくなった教室で上白沢慧音は一度溜息をついてから表にでて、
トン、と何でもない様に屋根まで跳んだ。
「いったい何の用だ?此処の人間に手を出すなら容赦しないぞ?」
今、彼女の目の前には一人の女性が座っている。
冬の妖怪、レティ・ホワイトロック
彼女は人間に害を成す妖怪、慧音はそれを警戒する。
しかし、敵意を向けられたレティは興味がなさそうに答える。
「別に、貴女や此処の人間を襲うつもりはないわ・・・・・・、
そちらから何もしなければ、ね」
「・・・・・・そうか」
彼女の言葉に何の悪意も感じない事から慧音は警戒を解いた。
「じゃあ、どうしたんだ?貴女がこんな所にいるとは珍しい」
「まぁ、ちょっとね、ねぇ?」
「何だ?」
「あの子はいい子?」
「む?」
レティの指差す方向を見ると一人の少女がいた。
あの子は、たしか・・・・・・
「あの子がどうかしたのか?」
「・・・・・・ちょっとね」
「・・・・・・いい子だよ、明るくて人当たりもいいし、真面目で優秀だ」
「そう」
彼女の言葉は素っ気なかったが喜んでいる気がした。
「名前は?」
「ん?ああ、冬の子と書いて冬子だ、本当かどうか知らないが幼い時に
冬に育てられたと話していたのを聞いた事がある」
「そう・・・・・・」
「・・・・・・とてもいい子だよ」
レティは顔を伏せる、その頬は穏やかに緩んでいたが、慧音には見えなかっただろう。
「・・・・・・ね、」
「ん?」
レティがポツリと何かを呟いた瞬間
――ゴウ
と風が吹き、舞い上げられた雪で一瞬視界を失う。
視界が晴れた時にはもう、彼女の姿は何処にもなかった。
「・・・・・・冬に育てられた、か」
完璧には聞き取れなかったが彼女は最後に『幸せにね』と言った気がした。
――
「ねぇ、アンタが探してるのはこの子?」
「え?」
容姿の幼い少女がそこにいた、背にある羽から彼女が人間ではないと解る。
そして、彼女が抱いているのは
「その子は・・・・・・」
「ここに捨てられてて、必死にお母さんを呼んでたんだって、でもねこの子
の声に気付いたのはお母さんじゃなかった」
「・・・・・・」
「アタイの友達が・・・・・、レティが見つけて頑張って面倒を見た、でも
レティは冬の妖怪だからもう消えちゃった。
最後までこの子の心配してて、最後までこの子のお母さんになりたい
って願ってた。
だから、この子の本当のお母さんが来てもアタイはこの子を渡したくな
かった」
「・・・・・・」
しん、と辺りから一切の音が消えた様に静かになる。
母親はなにも言えず、ただ、黙って立っていた。
「でも、レティがもしもこの子のお母さんが探しに来た時はこの子を渡し
てほしいって、だから嫌だけどアンタに渡す」
「あ・・・・・・」
渡された赤ん坊を母親はしっかりと抱きしめる。
彼女が愛おしそうに我が子を抱く姿を見てからチルノは告げた。
「レティは本当にその子の幸せを願ってた、だから、もしもまたアンタが
その子を手放そうとしたらアタイはレティに嫌われてもいいから、アンタを
殺しに行く」
冷たい氷の様な殺気に彼女は身動き一つとれなかった。
その様子を別段気にする素振も見せずにチルノは続ける。
「早く帰りな、この辺は人食いの妖怪もいるから」
「あ、あの・・・・・・」
母親が何かを言いかけるがチルノはソレを許さない。
「早く行けよ!!」
「ッ!」
怒気の籠る声に母親は弾かれた様に駆け出した。
その姿が見えなくなるまでチルノは静かに立っていた。
「ねぇ、レティ?ちゃんと約束守ったよ、アタイはあの子達には何もしなかった。
それに、他の妖精や妖怪にもあの子達には手を出さない様にお願いしたから、
多分無事に帰れると思う。
ねぇ、レティ、レティはコレで本当に良かったの?」
――
――コンコン
「チルノお茶が・・・」
静かなノックとともに咲夜がお茶を運んでくるとそこにチルノの姿はなかった。
その代わりに机には一言メッセージが残されていた。
氷を使って書かれたと思われるそのメッセージは
彼女らしい平仮名だけの文字で短く
『きっと、しあわせになれるよ』
そう書かれていた。
「お茶が無駄になっちゃったかしら?」
一人、クスリと笑った。
かなり荒削りな感があるので、細部を煮詰めて構成を丁寧にして欲しいと思う。
物語中、レティが赤ん坊を拾った意味をもう少し描いて欲しかったかも。
後書きで語りすぎないようご注意を。
良かったです。
招かれ>招き入れられ?
だと思いますが、どうでしょう?
レティの「お母さん」な雰囲気が良い。
面白かった。
どちらの育て親になった妖怪も結局は子供を人間に返して消える、それを思い出してちょっと切なくなりました。
7様、レティはお姉さんかお母さんが似合うと勝手に思っていたので、このコメントのおかげで
ホッとしました。
10様、またやった。誤字脱字は無いように注意していたのですが・・・・・・、ご報告感謝します。
それと、確かに『招き入れられ』の方が文法的にもいいですね、修正させてもらいます。
煉獄様、本当に7様同様良かったと言ってもらえてホッとしています。
次回も面白いと言って頂けるようにがんばります。
19様、レティいいですよね。冬はレティの天下ですね。雪とか辛いですが・・・・・・(北国育ち
20様、雪女の昔話は実は自分は知りませんね、ちょっと調べてみようと思います。
レティも昔話の雪女も自分の幸せより子の幸せを優先したのでしょうね。
コメントありがとうございます。