Coolier - 新生・東方創想話

チルノの幸福

2009/01/02 23:00:18
最終更新
サイズ
4.51KB
ページ数
1
閲覧数
1301
評価数
13/44
POINT
2370
Rate
10.64

分類タグ


いつもいつも、皆からバカにされるチルノ。
彼女はとうとう、悔しさのあまり永琳に相談した。
「みんなからばかにされないようにして!」
「お安い御用よ」
永琳は早速、“頭が良くなる薬”を作ると、それをチルノに投与した。
「これでもう、みんなからばかにされない?」
「ええ。皆、貴女を尊敬するようになるわ」
「ふーん」
次に永琳は、まだよく分かっていないチルノを里の寺子屋へ連れて行った。
「この子に勉強を教えてもらえるかしら」
「え? まあ……別に構わんが」
慧音は、永琳の突然の訪問に戸惑いながらも承諾した。

こうしてチルノは、寺子屋で勉強を習い始めた。
薬の効果はすぐには現れず、最初はまさに「1+1わからない」状態で、チルノは他の人間の子達からもバカにされた。
しかし、二、三日後には薬の効果が現れ始め、チルノは瞬く間に四則演算、文字の読み書きなどをマスターした。
更にその知能の発達度は加速を極め、寺子屋に入って一週間で、チルノはそこで習う全ての知識を身に付けてしまった。
「もう私が教えることは何もないよ」
慧音にそう言われたチルノは、次に紅魔館へと足を運んだ。
知識欲に駆り立てられたチルノは、パチュリーの蔵書を片っ端から読み耽った。
一日数百冊というペースで本を読み、そこに書かれている内容を完璧に理解し、吸収していくチルノ。
結局、わずか一ヶ月足らずで大図書館にある(閲読許可の降りた)全ての本をチルノは読み終えてしまった。

今や、知識だけなら幻想郷一になったと言っても過言ではなくなったチルノ。
誰に何を言われても即座に反論できるようになり、また逆に相手が理解できないような難題を出して、黙らせてしまうこともできるようになった。
今まで自分をバカにしていた奴等をバカにできる。
なんて素晴らしいんだろう。
チルノは思った。
これが、自分の望んだ人生なのだと。

そんな時、一匹の妖精が話しかけてきた。
「チルノちゃん」
「……大ちゃん」
大妖精。チルノの無二の親友。
だが、今は。
「……何か用?」
「えっ」
「私今、忙しいの。なんとかして連続体仮説を証明もしくは反証できないか、昨日からずっと考えてて。
 でもやっぱり既存の枠組みじゃあ……」
「え?え?……れんぞく……何??」
「……ああ、ごめんごめん。大ちゃんには解らないよね」
「…………」
「じゃ、そういうことだから」
「……チルノちゃん……」
そうだ。
これでいいのだ。
もう他の頭の弱い妖精どもと戯れる必要はない。
私はあいつらとは違うんだ。
あんなに仲の良かった大妖精も、今見ればただの頭の幸せな奴にしか見えない。
何も考えず呑気に生きている姿を見ていると、憐憫の情すら覚える。
バカはバカ同士仲良くすればいい。
私はあいつらとは違うのだから。

いつしかチルノは孤独を好むようになった。
他人をバカにするのにも飽き、誰とも関らず日々を過ごすようになった。
そしてまた、誰もチルノに近寄ろうとしなくなった。
チルノは思っていた。
どうせ皆、私を僻んでいるだけなのだと。
無理もない、私は今や幻想郷一の天才になってしまったのだから。
だから放っておけばいい。
いつの世も、天才は愚民には理解されないものなのだ。

しかし、永琳に薬を投与してもらってから数ヶ月が過ぎようかという頃、チルノは自分の存在に疑問を感じ始めていた。
私は何をしているのだろう。
私は何故存在しているのだろう。
今までは考えたこともなかった疑問が、溢れ出して止まらない。
皆にバカにされていた頃。
その通り、私は確かに馬鹿だった。
いや、無知だった、と言った方が適切だろう。
何も知らず、何も考えずに生きていた。
でも今は違う。
ありとあらゆる知識を得た。
今の私に理解できないものはない……はずだった。
しかし。
何故、今の自分がこんなに不幸なのか、それだけが理解できない。
これが、私の望んだ人生なのか?
否。
こんな人生を、望んでいたわけじゃない。

いつしか、蛙を凍らせる遊びもしなくなった。
無益だから。
大妖精とも、遊ばなくなった。
つまらないから。
でも、違う。
つまらないのは、私自身だ。

それに気付いた時、チルノは駆け出していた。
向かう先は永遠亭。

「あら、久しぶりね」
笑顔で出迎える永琳に、チルノは真剣な表情で告げた。
「私の知能を、元に戻してください。薬を投与してもらう前の、あの頃のものに」
「……いいの?」
「いいんです。今になって分かりました。知識を得ても幸福になれるとは限らない。
 そしてまた、無知であっても不幸であるとは限らない」
「…………」
「私の望みは、幸福に生きること。それだけです」
「……そう。でも、この薬は脳への負担が大きいから、一度元に戻したらもう二度とは使えないわよ。それでもいい?」
「構いません」
「……わかったわ」
永琳は、最初に投与した薬の効果を打ち消す薬を投与した。

そして。

「お~い。大ちゃ~ん」
「!? チ、チルノちゃん?」
「えへへ。またいっしょにあそぼう!」
「え、で、でも……」
「まえは、いろいろごめんね。でもいまはあたい、このとおり、またもとにもどったから!」
「チルノちゃん……」
「……だめ、かな?」
「ううん、あそぼう!」
「よし! じゃあさっそくかえるこおらせてあそぼう!」

チルノは今、幸せに生きている。
たとえ他人からバカにされることがあったとしても。


東方の二次創作SSってどこに行けば読めるのだろうと彷徨っていたら、こんな素晴らしいサイトに巡り会うことができました。
感動と共に、自分も投稿してみたいという気持ちが芽生え、この度投稿させて頂きました。
読んでくださった方、どうもありがとうございました。

補足:「連続体仮説を証明もしくは反証~」のくだりは、なんとかしてチルノの頭の良さを表現しようと思い、wikiでそれらしき単語を探して書いた部分でして……作者自身は数学には全く通じておりませんので、この点に関して矛盾が生じているかもしれません。その点どうかご容赦ください。
まりまりさ
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1380簡易評価
5.90名前が無い程度の能力削除
なかなか深い内容ですね。
知識以外にもお金や名声なんてありますけど、そんなものよりチルノの様に日常の幸せを手に入れたいものです。
まりまりさ様の今後の作品に期待してます^^
6.30すぱげってぃ削除
気のせいでないのなら、同じような内容の作品を読んだことがあります。

ありきたりな内容、ということです。
7.100名前が無い程度の能力削除
いやー、初めてとは思えない良作でした。
今後の作品が楽しみです。
10.無評価名前が無い程度の能力削除
同じ話、以前にありました。
膨大な量がありますが、投稿されるなら過去作品のチェックくらいしましょう。
14.無評価名前が無い程度の能力削除
前に見たことのある内容だ。
墓だな
15.90みん削除
確かによくある内容ではありますね。ですが私は素直におもしろいと感じましたよ。
オチも心が温かくなる素敵なものだったと思います。

今後とも精進して自身を伸ばしていってください。
16.70名前が無い程度の能力削除
キーワード検索したとして、ピンポイントで同じ内容の作品を探し出すなら、かなり困難だと思います。
投稿する前に過去作品をチェックというのは実質的に無理があるのではないでしょうか。

ここから作品に対する感想です↓
こうした使われやすいテーマの作品は、書き手の個性・オリジナリティで明暗が分かれます。
展開の起伏が乏しく思えたのが残念、それと安直に解決(元に戻る)とせずに、もう一捻り何かが欲しかった。
ということで、この点数とさせていただきました。

それはそれとしても、こういう雰囲気の作品は好きですので、
今後の作品にも期待しています。
17.90名前が無い程度の能力削除
同じようなのを見たことのない俺は良かったと思った
18.70名前が無い程度の能力削除
って言うか今ここだけで65集×100話+αあるんだよね
で、プチもあり、他のSSサイトもある
正直全てチェックなんて時間とか暇さ加減的に無理
過去5集見て同じ題材の作品が無ければいいんじゃね?と私は思ってる
今すぐに500個もチェック出来ないからその中にあったらアレだけど

確かに既視感はあった
でもあっさりしたまとめかたが気に入ったのでこの点数で
19.90名前が無い程度の能力削除
次回作も期待!
22.20名前が無い程度の能力削除
バカの墓と被ってますね。
25.70名前が無い程度の能力削除
確かに前に見た感触はあります。
しかし、題材にもよるでしょうが、かぶらない題材なんてほとんどないと思いますよ。
だからといってチェックを怠って良いとはなりませんがw
このお話自体は、そんなに悪いわけではないと思います。
ですが、細かい描写に欠けている為、現状ではプロット+αみたいで、
ひとつひとつの出来事にもっともっと深くつっこんで描いて欲しいと感じました。
詳しく描写していくことによって、そこに筆者の心情であったり、
考え方であったりが現れて、オリジナリティが生まれてくると思いますよ。
今後に期待ですね。
長文&上から目線、申し訳ありませんでした。
26.80名前が無い程度の能力削除
これのアナザーを先に読んだだけの俺は特になんとも
とりあえずチルド(ノ)可愛い
31.90名前が無い程度の能力削除
これだけ膨大な作品数があれば、多少の被りは致し方ないもの。
自分は普通に良いお話だと思いました。チルノに幸あれ。
どうも有難う御座いました。
46.100絶望を司る程度の能力削除
チルノにとって幸福とは何か…。おもしろいと思いました。
47.無評価名前が無い程度の能力削除
バカの墓みたいな話でネタが被ってる、だからと言ってバカの墓ほど細かい描写がないからただのテンプレネタに成り下がってるね。
そもそもこの手のネタ見て思うけど、頭良くなったからって周り突き放して孤独になったりなんてしないよなと思うがね...w