Coolier - 新生・東方創想話

地下水脈の行方

2009/01/02 13:39:48
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ほら、鉄のように硬くなる。

こうすれば息をのむほど美しく。

こうすれば反吐が出るほどおぞましく。

これを贈り物にいたしましょう、書物の端にそっと移り気をはさんでおく、ほら、あなたは運命の虜。

これを贈り物にいたしましょう、衣の端にそっと貼り付ける、ほら、あなたは旅に出る。

炎より火照らせ、氷より凍えさせる、蜜より甘く塩より辛い真実の味、一つあなたに進呈しましょう。





暖炉の熱が私を火照らせる、体の芯にたまった熱は不愉快を呼び込んだ。

「ねえ、窓を開けてちょうだい」

向こうで本をかたずけていた小悪魔がはっとこちらを向いて言う。

「空気はまだきれいですよ、お寒いのは体に触りますパチュリー様」

「いいから開けて頂戴」

ああ、窓を開けた途端に走りこんでくる冬の風の無礼さよ!

「それもそうね、やっぱり閉じて頂戴」

そう言うと私は椅子から立ち上がった。

「お出かけですか?」

「ええ」

紅魔館の長い廊下をわたってリビングに出るとそこにはレミィがいた、椅子にすわり手に持った本に目を落としているがその眼の中には怠惰以外の感情が見受けられない、いかにもおもしろくなさそうだ。

「貴女にはきっとそんな本は退屈なんでしょうね」

そう声を変えるとレミィは顔をあげもせずに言った。

「まあね」

私は向かいの椅子に腰を下ろすと一つの疑問を口に出した。

今、私の心臓に直に齧りついて決して離さぬもの。
今、私の心臓に炎を吹きつけて笑い続けるもの。
今、私の心臓に凍った風を吹き付け嘆き続けるもの。
今、私の心臓を愛撫してやまぬもの。

「事実は小説より奇なり、あれってホントなの?」

「さあ?」

「運命を操るくらいだから知っているでしょう?」

「本には書いてなかったの?」

そこまで来て私は一つ決心をした。

旅に出よう。





淡い月の光を受けた裸の背が目の前に横たわっている、永遠の寵愛を受けたものとは到底思えぬその背の細さに私は言い表せぬ不安さを感じた。

その背が窪まって作る溝に指を滑らせる、妹紅はこちらを向いてふっと笑った。

「なあ、慧音、月の都って知ってるよな?」

「永遠亭の連中の故郷だろう?」

「一度見てみたいと思わないか?」

「まあな」

「素っ気ないな、まあいいや、私は見てみたい、それは今の私の故郷でもあるから…」

「どういうことだ?」

「蓬莱の薬を飲んでなければ今私はここにいないだろ?だからさ、その蓬莱の薬の故郷も私のルーツのひとつには違いないのさ」

「なるほどね」そう答えて妹紅の横顔を盗み見た、なんだか堂々と見つめてはいけない、そんな気がした、妹紅の横顔はどこか嬉しげだった。

「ねえ、蓬莱の薬を作り出す月の文明は永遠なのかな?」

「それは…見当もつかないな」

「ごめんね、こんなこと聞いてさ、私、最近思うんだ、月の連中が蓬莱の薬を飲んだ輝夜を追い出したのはさ、嫉妬したんじゃないかなって」

「嫉妬?」

「うん、連中はさ結局度胸がなんじゃないかって思うんだよ、きっと最初にあの薬作った人はさ永遠前にしてビビっちゃったと思うんだよね、実際、永遠の存在になるとね私たち人間は怠け者になっちゃうよ、月の人だって殺せば死ぬ、そういう弱さときっと離れがたかったんじゃないかなって」

言い終えて妹紅は笑った、永遠の重みに目を逸らさぬ強さを何処に備えているのか、そんな疑問も今は頭をひっこめた。

「後悔してるのか?」

「いや」

「ならいいのさ」

窓からさす月の光が妹紅の顔を照らした。

「なあ、妹紅、今日はお月見でもしようか」

「うん」







空はからりと晴れ上がっている、冬独特の澄んだ空気のにおいを胸一杯に吸い込んでこれから旅に出るということを実感した、振り向けば紅魔館の人々が私を送り出してくれている。

「それじゃ、パチェ、行ってらっしゃい」

玄関フードの下で眠そうな目をこすりレミィが言う。

「ありがと、行ってくる、それと、私の留守の間の図書館の管理はお願いね」

そう言うと小悪魔は胸をとんと叩いて言った。

「おまかせください」

そして私は彼女らに背を向けて歩き出した、私の小さな旅が始まった、小説よりも奇妙な現実を探す小さな旅、今始まりました。

まず私は迷いの竹林に向かう、永遠の時間を生きる彼女らならこの答えを出すに足りる真実を持っているかもしれない。

それでも答えが手に入らなかった時には幻想郷のご長寿さん巡りだ。

一歩踏み出すごとに鳴る雪の音も頬に感じる冬の空気の冷たさも私には幾分奇妙で新鮮な代物だった、無論この旅の目的を果たすには程遠いが、たまにはこうして外に出るのも悪くない、そう思える出来事だった。

しかしそうしているのもすぐに飽きて私は空を飛んだ、冬の空を飛ぶのは実に気持ちがいい、そうしているうちに永遠亭についた。

そこで輝夜達から話を聞いた、彼女たちが言うには私の旅の目的を果たす様な経験はないらしい。

その日の晩は、永遠亭にお世話になった、お酒も入りいろいろな話が飛び出すが私はまだ答えを出せずにいた。

次の日の朝である、私が旅の道づれに出会ったのは。




永遠亭を出てどのくらい経っただろう、竹林に挟まれたまっさらな雪の地面を見つめながら飛んでいた。

やがて二人分の人型が雪の上を足跡を残しながら歩いてきたのだった、私は謎の直感に駆られて雪の地面を踏み締めた。

「おまえは紅魔館のひきこもりか、何をしてるんだ」

そう言ったのは藤原妹紅である、隣にいた上白沢慧音がその発言をたしなめた、私はムッとしつつも素直に旅の目的を述べた。

「成程、たぶんそんな経験はしてないなあ」

そこで興味を示したのが上白沢慧音であった。

「それは面白そうだなあ」

「あなたも来て見る?」

「寺子屋のやつらにもいい土産話ができそうだし行ってみるかな、寺子屋もちょうど冬休みだ」

こうして奇妙な二人連れが幻想郷の空に現れた。

「これからどこに向かうんだ?」

「三途の川」

「なるほど、それは名案だ」

その日はある人間の集落で一泊した。

朝日が昇り、さあ、出発。

その日も過ぎゆく地面を見て進む、やがて地平の果てに一本の線が見えた。

川だった。

ようやく目的地にたどり着いた。

再び地面に降りる。

「こんにちは、小町さん、今日もお仕事は繁盛してらっしゃる?」

こう声をかけてみる。

「ごらんのとおりですよ」

「あなたの船にも空きがあるようだから乗せていただける?」

「まあ、そりゃ船賃さえ払うならかまいませんけど…いったい何をしにその様子じゃ死んだわけじゃないでしょう」

「面白い話を聞きに来たのよ」

「私がして差し上げましょうか」

「船の中でお願い」

「承りました」

言い終えると小町は舫っていた一艘の舟から手際よく縄を外した。

「さ、お乗りください」

ここへきて上白沢慧音が質問を投げかけた。

「三途の川ってこんなに簡単に渡れるもんなのか?」

「そうみたいね」

ここで小町が入ってきた。

「乗るのは構いませんけどお客さん、向こうに入ったら一つルールがあります」

「へえ、なんなんだい?それは」

「向こうの食べ物は口になさらない事です」

「わかった」

ここから死神は陽気に奇妙な話が始まった。

三途の川が船賃さえ払えば超えられることや死神が陽気に世間話をすることに比べれば大した話ではなかったがやはり幻想郷で名うての話してといわれる小野塚小町である、話は面白かった。

ちょうど話が終わるころには船は向こう岸にたどり着いていた。

私たちは三途の川を後にしてあの世の中を歩きだした、最初こそ違和感なく進めるが進むにつれて炎の川を超えればそのすぐ向こうに氷の川がある、そのくらいは序の口で氷の川が炎の湖にそそいでいたりするようなことも珍しくはない異常な世界だった、ここへきて上白沢慧音が口を開いた。

「私たちはとんでもない所へ来てしまったようだな…」

「そのようね」

やがて建物が見えてきた、その中の光景の異常さは外の比ではなかった、殺しても死なぬ罪人、燃やしても燃えぬ肉体、炎の中で冷え続ける氷、こんな不条理の群れが広大な建物の中にぎっしりと押し込めれているのである。

そんな光景を見つめながら地獄の鬼に通されて閻魔のもとに向かった。

私たちは閻魔の執務室のソファで向かい合い、私はもはや決まり文句になった言葉を述べた。

勤勉実直誠実無比で任ぜられてる人物だけあってその話術は悲劇的だった、それに加えて普段の癖か殆ど業務連絡のような語り口で攻めてくるのである、話術がないことが罪だということを実感させられる出来事だった。

途中から上白沢慧音は退屈したのか閻魔のデスク周りをいじくっていた、話が佳境に達し彼女なりにまくし立ててき始めたころである、上白沢慧音が素っ頓狂な声をあげてある一枚の紙を閻魔に見せつけたのである。

「妹紅がリストに載ってるぞ、これはどういうことだ、刑期無限とはどういうことだ、あいつが何をした」

「お話しするわけにはいきません」

「そういうわけにはいかん」

俄かに上白沢慧音が殺気立った。

「ここで揉め事を起こして無事に逃げおおせるとでも?」

閻魔は泰然とした様子で言った。

「ここには永遠亭の連中の名前もある、蓬莱の薬だな、蓬莱の薬だな」

「蓬莱の薬だな」うわごとのようにつぶやき続ける上白沢慧音を前に閻魔がポツリと一言だけ言った。

「無限の生という事です」

「それだけじゃないだろう」

「それだけの事です」

「嘘をつくな」

次は「嘘をつくな」この一言を幾度となく繰り返し始めた、彼女はきっと無限の時間をこの一言を繰り返しつぶやき続けるだろう、そう思った。
次第に閻魔の方もイラつき始めた。

「これ以上こうしているというのなら人を呼びますよ、上白沢慧音、パチュリー・ノーレッジ貴方もです、随分と厄介な客を連れ込んでくれましたね」
こちらをねめつけていった、上白沢慧音の目を見つめないようにしているのはすぐにわかった。

「勝手にしろ、人を呼んだのならそいつが地獄の廷吏だろうと鬼だろうと皆殺しにしてやる、私は真実を知るまで一歩も動かんぞ」
そんな押し問答がしばらく続いて閻魔がやっと根負けした、私はすでに心折れてソファーに横になっていた。

「いいですか、宇宙は光の速さで広がっています、これ自体は結界に囲われた私たちは関係ありませんが…問題はいつか宇宙は同じ速度で縮み始めるという事です、そもそも蓬莱の薬というのは服用者の存在を不変にするものなのです、つまり、彼女らは光の速度で無限の圧力を持って縮む世界に永遠に締め付けられ続けるといことです、私にはどうしようもありません」

これを聞いて上白沢慧音はその場にくず折れてしばらくは声を殺して泣いていた、その床は彼女にとってどれだけ硬かっただろう?

帰りは閻魔が人をつけて乗物を用意してくれた、人間の顔をした馬が四頭で牽く石の箱である、それは車輪が付いていないにもかかわらずすざまじい速度で走った、顔面は馬、体は人間といった姿の御者は容赦なく彼らに鞭を振り下ろす、となりでうなだれていた上白沢慧音が不意に口を開いた。

「彼らはどんなにか苦しいだろうな…でも妹紅は遠い遠い言葉では表せぬ遠い未来これ以上の苦しみを永遠に味わうのか?私にはまだ信じられないんだよ」
そこまでいって上白沢慧音は前へ出て御者をぶん殴ったかと思うとその鞭を分捕り、猛烈に馬たちを打ちすえ始めた。

私は見ていられずに目を閉じ耳をふさいだ、体験したことのない、本からは伝わらない、それは洗練されてもおらず、人間によって飼いならされていもいない原初の荒々しい恐怖の姿だった。





河原へ出て歪な箱を降りるとそこにはもう川の渡し守の姿があった、なにがあったかはもう連絡があったらしい、静かに流れを見つめていた。

「それじゃ、まいりますか」

船は流れを斜に切り裂いて進む、上白沢慧音が静かに言った。

「これからの旅は一緒には行けない、行くところができた」

「どこに行くの?」

「八雲紫のもとを訪ねる、奴なら何か知っているかもしれない」

「腕ずくで聞きだすのは無理よ」

「それならさっきの閻魔だって同じだ、奴が人を呼ばなかったのは一重に殺生をしたくなかったからさ、でも…」

そこで上白沢慧音は一回言葉を継いだ。

「あの場で殺されてしまった方が遥かに、遥かに楽だった」

そこで私は理由のわからぬ激情に駆られて上白沢慧音を抱きしめた。

「私も…連れてって」

慧音は答えない。

二人と一人、その内の二人の内のさらに一人は固くもう一人を抱きしめている。

奇妙な船影が三途の川を渡ってゆく、そんな一日だった。








前日は野宿だった。

私たちは妖怪の山のマヨヒガを目指して進む。

案外幻想郷狭いもので到着するまでにそう時間はかからなかった。

マヨヒガの中には寝ている大妖怪の姿があった。

「お客様ですよ」

藍に起こされて大妖怪は一回着替えに引っ込んだ。

「お待たせしました、で、何の用?」

「あなたの能力を使えば別の世界までもいけますか?向こうに行かせたい人がいるのです」

「ええ、いけるわよ、でも、その人の許可を取ったの?」

「まだですがきっと連れて行きます」

「やめておきなさい、向こうは地獄よりもはるかにつらい世界よ、のぞいてみるといいわ」

そうして何もない空間に黒い線が一本引かれた、八雲紫がそれを手で押し広げて入口になった。

「一分経ったら引き上げます、それまで向こうの世界を見てくるのね」

そして私たちは無限に暗いその中へはいって行った。

入り口をくぐった先は無限の闇だった、声もしない、腰を掛けようにも腰掛ける場所もなくそれどころか身動き一つ取れない、いや必死に体を動かしてもそれが動いたかわからないのである、動いたかと思うときもあれば全く動かないと感じる時もある、そして常に限りない苦しみと恐怖と不安、そして訳の解らぬ感覚が襲うのである、わかるのは時間の経過だけだった。

一分が経った。

ようやくこちらへ引き戻された、私たちは二人で阿呆のように見つめ合っていた。

「わかったでしょう」

八雲紫はふたたび眠りについた。

その日はマヨヒガに一泊した。

その晩、何も起きなかった時、私は私たちは何もなかったのだと思った、涙が出た、人の悲しみや苦しみよりも一瞬の恋心を優先する自分の感情が憎かった。

こうして私は日常に戻ることにした、答えは見つかった。

上白沢慧音は日常に戻れただろうか?



懐かしい紅魔館の玄関にたどり着くと美鈴が私を迎えてくれた。

玄関に通されるとレミィはこちらを見てこう尋ねた。

「答えは見つかった?」

「ええ」

「聞かせてよ」

「自分で見た真実はね、どんな小説よりも奇妙なの」

「そう」

素っ気なく答えてレミィは寝室に戻って行った。




「失礼します、レミリアお嬢様」

咲夜の声だった。

「ずいぶん気の利いたプレゼントでしたね」

「何の事?」

「あれがパチュリー様へのクリスマスプレゼントだったのでしょう?」

「そうよ、もっともお年玉になってしまったけれどもね」

「おやすみなさい」

私は自分の能力について考えた。

私の力は既成事実を組み合わせたりつなげたりしてあたらしい既成事実を作ることである。

あの子、パチェにとって今、世界は同じように動いているのかしら?

少しでも世界の回り方が変わったなら気づくでしょう。

私たちは大量の既成事実の上に暮らしていて全ての出来事が無限に奇妙であることに。
いかがでしたか?
自分なりにがんばって書いてみました。
これを読むことが少しでもあなたの暇つぶしになったのなら作者にとってはそれは最高の幸福です。
感想などもぜひ残していってください。
焼肉定食
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コメント



0.430簡易評価
1.60煉獄削除
面白かったんですが、パチュリーが出した答えというのが
私には解りませんでした。
楽しめたんですけどね。

誤字の報告
>話術がないことが罪だということを実感させられるできどこだった。
正しくは、「実感させられる出来事(できごと)だった。」
になるのではないでしょうか。
それと美鈴が明鈴になってしまってますよ。
2.無評価焼肉定食削除
誤字訂正いたしました。
すいません