一家団欒という言葉がある。
目の前の微笑ましい光景を見ているとそんな言葉が思い浮かんできた。
眠い目を擦るフランドールの口にスープを運ぶレミリア。
そのレミリアの服に落ちたスパゲティをやれやれといった様子でぬぐい取るメイド長。
そんな様子を微笑ましく見つめるのは紅美鈴と小悪魔だ。
我関せずとポタージュを啜るパチュリー・ノーレッジはその様子を見て大きく溜息を吐き、
そして僕を見て言った。
「いつも一人一人勝手きままに食べているくせに、
こういう時だけはいかにも協調性があるように見せかけようとするのね」
食卓が凍り付いた。
ただ一人余裕綽々の表情でレミリアが口を開く。
「何を言っているのかしら、パチェ。私達はいつも仲良しこよしじゃない」
「そうね。あなたが食べ物を零して咲夜に拭いて貰うのだけはいつもの光景よね」
パチュリーは憮然とした表情でそう言い、そしてレミリアの顔は凍り付く。
「へえ。レミリアはいつもそういう食生活を送っているのか」
「違う――」
「そうなんですよ。本当、客が来ると見栄を張りたがる主で困ります」
慌ててレミリアが両手をばたばたさせるが、有無を言わさずその言葉にメイド長が割り込む。
「察するよ。うちの魔理沙は僕が居ない時に暴走するからその分楽だがね」
「しわ寄せがうちに来てるんですが……」
咲夜はそう文句を言うので、僕はお茶を濁すために彼女の弱みを突く。
「まあそれは今回の事でとんとんということにしておいてくれないかな」
「……それはもう、本当にお詫びのしようが」
「良いよ」
言葉ではそう言いつつも僕は大きく溜息を吐いた。
昨日のことだ。
いつものように、いやいつも以上に気合いを入れて営業をしていた僕の所に客が来た。
スカーレット姉妹だった。
いつもならばメイド長が随伴なのだがその日に限って何故か彼女は居なかった。
好い加減子守に疲れたのかもしれない。
確かに、自分よりも何百と年の離れた主の世話をしていれば、ばからしくなることもあるのかもしれない。
そのことにもちろん僕は不安を抱いていた。
レミリアは妹の事を常々愚妹と言っていたし、フランドールに至ってはあいつ扱いである。
絶対に何かが起こる。そう確信した。
なので大切な商品を全て倉庫の裏に持ち込み、
なるべく被害が少なくて済むように二人の雰囲気が少しでも悪くなると仲裁するという
まさにメイド長のような役目を買って出たのだが、ものの十五分でこの二人の喧嘩は始まってしまった。
議題は、『博麗霊夢は森近霖之助にほの字なのか?』である。
何故魔理沙ではなくあえて霊夢なのか。そして何故そういう発想が出てくるのか。
全てが謎に包まれたなか、香霖堂はグングニル及びレーヴァンテインの猛攻を受け、爆散した。
怒りに狂った僕が霧雨の剣を片手に飛び出してきて、そこを慌ててかけつけた魔理沙とメイド長に見られて大笑いされ……現在に至る。
あの時のことを思い出すと今でもひやっとする。
何故僕がくず鉄であるはずの霧雨の剣を持ち出したのか。
聡い魔理沙ならその疑問にぶち当たったはずだ。
あえて尋ねなかったあの子に僕はまた頭が上がらなくなってしまった。
魔理沙には死ぬまで負い目を感じ続けることになりそうだ。
反対に霊夢には金払えとの恨み言ばかりが嵩みそうな気がするが。
フランドールは凹んだ表情で言う。
「香霖堂、あのときはごめんね」
僕は笑った。
「賠償金さえ払えば許すよ」
続けて、レミリアが言う。
「不慮の事故だよ。気にするな店主。あとちゃんと敬語を使いなさい敬語を。あんたは店主で私は客」
僕は笑った。
「川に堕ちてくれないか、似非カリスマ吸血鬼。
人の店を破壊した間抜けにぺこぺこ頭を下げる馬鹿は居ない。
僕に再び恭しく振る舞って欲しくば賠償金を払うべきだ。日本円で三億。それで許すよ。
ほら、何十年か前に幻想郷に流れ着いてきたじゃないか、三億円。
それを見つけてもってきてくれ。そしたら敬語を使ってもいいかもしれないな」
「なっ!」
何故か僕の台詞に、パチュリーはぐっ、と親指を立てた。
よほど朝食に呼ばれたのが気に障ったらしい。
「紅霧異変を巻き起こしたこのレミリアに向かって――」
「でも君、うちの魔理沙と霊夢にやられて霧の湖に撃沈してチルノに頭凍らされたそうじゃないか?」
「うるさいわね。
あいつらが強い訳じゃないのよ。
あの半端じゃない量の『ありがたいありがたい何か』が詰まったお払い棒と、
いかれた威力の八卦炉さえ無ければ私が勝ってたわ!! 楽勝よ!
それにあいつら、倒しても倒しても数分もしないでまたやってくるし!
なによ、あんなの反則――」
「そうかいそうかい。あの武器は両方僕の作でねえ。
あと、負けた彼女たちの怪我を治療してまた戦いに送り出していたのも僕だったりする。
はっはっは、吸血鬼の弱点の一つに森近霖之助の名を加えても良いかどうか、
こんど稗田阿求に諮問しておこうかな」
かちん、とレミリアの中で何かが切れたようだった。
「咲夜、こいつ追い出しなさい」
「いえ、しかし……」
「追い出せ! 追い出せーっ!」
ここで強く出ることが出来ない辺りにメイド長の弱さを感じるのである。
怒るところで怒らねば子供の成長に――いや、この人は保護者ではなくメイド長だった。
ただでさえ苦労しているのだ。これ以上要求を増やす方が酷というものだろう。
いや、待てよ。
この子がレミリアを叱る図は店でもよく見かける。
となれば、この曖昧な態度はどう解釈すれば良いだろうか。
答えは簡単である。
この完全で瀟洒なメイドも僕を邪魔だと思っているのだろう。
人を見る目のない愚かな少女である。
本物の瀟洒にはまだまだ遠い。
対する僕はまだまだ余裕だ。
追い出されれば追い出されたで博麗神社にでも泊まればいいだけの話だ。
紫やら幽香やら、少々禍々しい連中が来るがそこは我慢できる。
なに、大工、妖精、河童、鬼、亡霊、死神、天人、神などなど、
ありとあらゆる友人達に、『香霖堂を直したらツケを帳消しにしよう』ということで
復旧作業を行わせているのだ。一日もあれば元通りだろう。
むしろ、呼びすぎたせいでかえって作業が滞ることもあるかもしれない。
特に死神は『サボり場所が見つかった』だの何だのと不穏な事を言っていたし。
まさか僕まで閻魔に説教されることはないだろうな……。
思わず大きな溜息が口から出た。
さて、
朝食の場でのレミリアの演説は
実は僕が性犯罪者で、霊夢と魔理沙を囲っている危険人物なので
今すぐ殺すべきだという所まで飛躍していたのだが、
すんでの所で声がかかった。
「あのー、お嬢様」
「何かしら」
声の主は美鈴だった。意外である。
「まさか、あのスカーレットデビルともあろうお方が……半人半妖如きに怒り心頭なんですか?」
「うぐっ……」
レミリアはフォークを握ったままうろたえた。
美鈴は窓の外を見ながら続ける。
「いえいえまさかそんな事はないでしょう。今までのはきっと私みたいな低レベルな妖怪には理解できないような
とてもとても高尚な含意のある話だったんですよね? まさか話が本気だったなんて事は――」
ふふん、と気が付いたらレミリアは椅子に座り、優雅に茶を啜っていた。
「美鈴、あなたは馬鹿ねえ。私がいつもいつも世話になっている香霖堂さんにそんな酷いことを言うわけないじゃない」
「あはは、そうですよねえ。ごめんなさい」
見事な変わり身である。さすがはカリスマの権化だ。
僕は完全で瀟洒な従者と、魔理沙曰く駄目門番を見て、うーむ、と首を傾げた。
この二人、どこかで頭でもぶつけたのだろうか?
ただ……と僕は思う。
半人半妖『ごとき』という言葉だけは聞き捨てならなかったが。
そこらの半人半妖に言うならそれもまだよし。
だがこの森近霖之助に対して『ごとき』扱いは少々癪だ。
今度はミニ八卦炉の火力を底上げするのも悪くないかもしれない。
紅美鈴、君は一度黒こげになるといい。
そんな事を考えてずず、と茶を啜る。
さて、このままでは空気が重くなりそうである。
僕は一向に構わないが。
だがそこで空気を読んで言葉を発したのは小悪魔だった。
「あの、香霖堂さん」
「なんだい?」
屋号でばかり呼ばれると非常に疎外感を感じるのは何故だろう。
ともあれ紅魔館にこんな子がいるなどという話は霊夢からも魔理沙からも聞いておらず、
僕は少しこの子に興味があったので声をかけてくれるのは嬉しいことである。
「いえ、あの。香霖堂さんは小さい頃から霊夢さんと魔理沙さんと一緒だったんですよね」
「そうなるね。証拠といっては何だが、文々。新聞のバックナンバーを取り寄せればすぐ分かるよ。
百十五季の頃には僕ら三人は連んでるからね。
ああ、鬱陶しい。そろそろ誰か男をひっかけてどこかに消えて欲しいものだ」
「よく覚えてますねえ」
「そりゃそうさ。なかなかいい顔で写ってたから記事を切り取って保存しているんだ。
記事の内容だって諳んじる事が出来るよ。水煙草の事なんだが――」
なら、と小悪魔は僕の言葉を遮って口を開く。どうやら水煙草には興味がないらしい。少し淋しかった。
「お二人の恥ずかしい過去の話とか、聞きたいなあ、なんて」
とたんに重くなりかかっていた雰囲気が輝かしいものに変化する。
レミリアはカリスマをまとい、フランドールは目を輝かせ、メイド長はテーブルを拭きながら横目でこちらを伺う。
目に見える変化が無かったのはパチュリーと美鈴の二人だった。
何故レミリアが突如カリスマをまとったのかは謎である。
僕は彼女たち二人の恥ずかしい過去を思い出そうとして、特大級に恥ずかしいそれを思い出して、言った。
「そういえば二人とも、まだ幼い頃に『大きくなったら結婚してあげてもいいよ』とか言ってくれたなあ。
今となってはとてつもなく恥ずかしい思い出だろうな。特に魔理沙にとっては」
ほほう、と彼女たちの目が光る。あれだ。女の子は色恋沙汰がきっと大好きなのだ。
身近な男性に幼い女の子が大きくなったら結婚してあげる、くらい言うのは普通のことだろう。
そりゃまあ、有る程度好かれてないと出てこない台詞ではあるが。
僕ほどの大人物ならばあの二人が好意を寄せるのも当然のことだ。
むしろ、何故最近になって急にあんな我が侭になったのか不思議で仕方がない。
色気づいてくれば自然といい男に惹かれてしおらしくなるものだが。
あの頃の二人は可愛かった。
だが、そんな昔の話をロマンティックに曲解する者はいくらでも居るわけで……。
「魔理沙はそんな幼い頃から抱いて来た淡い恋心をゆっくり時間をかけて成熟させた、と。
恋の熟成だけは私の能力では進められないものね」
メイドの少女がうんうん、無駄に詩的なことを言って頷く。なにが、うんうん、だ。馬鹿か君は。
「熟成というかむしろ腐るだろう、普通。恋なんていう突発的感情が数年も保つものか」
魔理沙が、『香霖……じ、実は昔からおまえの事が――』、などと言うのを想像し、ぞっとして中断した。
ホラーである。毎日のように香霖堂に通ってくる気の置けない間柄の魔理沙が
急にただのストーカーになってしまう。勘弁してくれという。
「じゃあ霊夢はそんな魔理沙に店主を取られるんじゃないかとそわそわしながら――」
「ついこの間、昔は君も僕を好きって言ってたよなあ、なんて話題を霊夢に振ってみたんだが、
『はいはい今も大好きだから来年の服も仕立てておいて』なんて酷い事を言われたよ。
もしかして昔の事を引きずる嫌な男とか思われたのではないだろうかと内心びくついている今日この頃なんだが」
「余裕なフリしてきっと好き好きアピールをしたかったのね。青いわ」
レミリアは足を組み直して大人な態度でそう言った。
だが、スパゲティーを頬にくっつけるという難易度の高い技をやってのける阿呆吸血鬼には
他者を青いだの何だのという資格はあるのだろうか、いやない。
まず自分を鏡で見ろ。
僕はとりあえずレミリアの友人であるというパチュリーに小声で尋ねる。
「彼女たちは本気でああいう話をしているのか?
常識的に考えてあり得ないだろう、そんな男の理想のような話は」
パチュリーはげんなりと肩を落とした。疲れ切った表情だった。
「――たぶん本気。あの子達馬鹿だから」
その脇では、
『そういえば幽香も時たま香霖堂に来るわね』
『あのスキマ妖怪ですら来るらしいですよ』
『ジゴロ――』
『絶倫――』
などと不穏なキーワードが流れている。そしてしまいにはメイド長が僕に怒鳴ってきた。
「結局誰が一番なんですかあなたはっ!」
曲解に曲解を重ねるとこうなるという良い実例である。
先程は空気を読んで僕の味方をしてくれた美鈴も、今は空気を読んで話を盛り上げていたらしい。
というか、話を上手に変な方向に運んだのは美鈴だったような気がする。
非常に腹立たしい。だがとりあえずは答えねば解放されるまい。
幻想郷に噂が伝播するのは早い。幽香の名など出せば、あの傘で串刺しにされるのは目に見えている。
霊夢や魔理沙なら笑って許してくれそうだが後が怖い。
きっと僕が負い目を感じているのをいいことに、いいように利用して商品をごっそり持っていくだろう。
人の善意につけ込むような卑劣な真似をどこで覚えたのだろうか。
僕は謙虚に、そして優しく生きるようにあの二人に教えたはずだ。
それに、僕の生き様を見ていれば自然とそのような素敵な女性になるはずなのだが。
しかし、と僕は考える。
とにかく誰かの名前をあげてさっさと話を終わらせてしまおう。
このような迷惑を被ってもなんら気にせず、
そして僕の言葉が心の底から出たものではない事を確実に理解してくれる人が誰かいるか――。
答えは一瞬で出た。あの人ならば、絶対に問題ない。
別に良いさ、と軽く流してくれるに違いない。
なので僕は何の罪悪感も無くその名を口にする事が出来た。
「小野塚小町。ちょっとした縁で知り合って以来随分仲良くなってねえ。
ざっくばらんな本当に良い性格の子だ」
我ながら完璧な人選である。候補としては他にも彼女の主の閻魔、
そして人里の半獣なども挙げられたのだが、
やはり、小野塚小町が一番信頼できそうな気がしたのだ。
閻魔と半獣は少々頭が固いのでどうなるか知れたものではない。
説教するのは大好きだがされるのはごめんである。
その点小野塚小町は良い。
居酒屋で酒の一杯でも奢ればそれで済む。
さて、顔を上げると紅魔館の吸血鬼姉妹は皆呆然としてこちらを見ていた。
レミリアはフォークをテーブルに落としているし、
フランドールに至っては、裏切られた、とでも言いたげな表情をこちらに向けている。
「……あんたに恋愛感情なんてものが存在したのね。
優しさだって微塵もない鬼畜生だと思ってたのに」
レミリアは呆然と、まるで絶望の底に叩き落とされたかのような表情でそう言い、
「じぇんとるまんだと思ってたのに」
とフランドールが言う。
ジェントルマンは恋をしないそうである。
なんとも枯れた、深みのない紳士であることだ。
助けを求めてちらりと十六夜咲夜、瀟洒なメイドに視線を送るが
「お二人とも。香霖堂に行くのは今日から禁止です。
さっさと追い出してしまいましょう」
などと言い出す始末。
彼女が冗談で言っているのは分かるのだがしかし、この吸血鬼姉妹はおそらく本気である。
特にフランドールは大きなショックを受けているようだ。
ぶっちゃけた話、この子が泣こうが喚こうがどうでも良いのだが
挙げ句の果てに殺されてしまってはたまらない。
さてどうしようかと思って辺りを見渡す。
小悪魔は両手を合わせて謝罪のポーズをとっているが知ったことではない。
諸悪の根元にかける情けなどもちあわせてはいない。
吸血鬼は喚き、メイドと門番がそれを持ち上げる。
後者二人は僕を殺したいのだろうか?
はやいうちに紫に頼んで消して貰ったほうが良いかも知れない。
困ったときはお互い様だと彼女は言った。
ならば今こそその時だ。
あの古い妖怪は僕の価値というものをよく分かっている。
森近霖之助の頼みは断れまい。
うんうん、と頷いていると、ぼか、と誰かに重い物で強く頭を叩かれた。
「ぼーっとしてると殺されるわよ。さっさと立ちなさい」
僕を叩いたのは、どうやらパチュリーらしい。
面識が無いというのに乱暴な子だ。
両手に大きな本を持っているが、恐らくそれで叩いたのだろう。
「こら。僕の大切な知識が流れていったらどうする」
言うと、彼女は馬鹿にしたように小さく笑った。
「あなたの知識なんて私の一厘にも満たない」
「馬鹿は君だ。僕を誰だかきちんと理解しておけばそんな台詞は出てこないはずだが」
「その言葉、そっくりあなたに返すわ」
ぎり、と歯の軋む音がした。それは僕のものだったか、それともパチュリーのものだったか。
ほほう、とどちらからともなく椅子を蹴り飛ばし、立ち上がる。
先程から散々こちらを怒鳴ってきたレミリアが、ひっ、と言って頭に両手をやってかがみ込む。
「ふん。魔女だか何だか知らないが二束三文で売っているようなありふれた種族じゃないか。
そんなものはゴミと同じだね。第一火水木金土日月の一週間少女だと?
自分で言っていて恥ずかしくないのか君は。
香霖堂は月月火水木金金だ。土日なんて必要ない。
そんなものに頼らねば休日も作れないような貧弱魔法使いにははじめてお目にかかったよ僕は」
そう僕が口火を切ると、パチュリーもにやりと笑って右手を軽く横に広げた。
「へえ、言うわね。香霖堂の店主といえばさんざん蘊蓄を語った挙げ句にそれが全くの間違いで、
あの胡散臭い古い妖怪にたずねた方がまだマシな答えが返ってくるって人里でもっぱらのうわさだけど」
「ははん、人里だって? そんな愚民の言葉を真に受けているのか君は。
愚かな群衆には理解できない高尚な話をしているだけだよ僕は。
君も僕の話を楽しめないということは、頭のネジが弛んでいるということらしいね。
まったく、それでよく魔法使いがつとまるな。
人の魔法にアレンジを加えるのが魔法使いの誇りらしいが、
君のは丸写しか、それでなければ劣化コピーでしか無さそうだな」
「見てもいないものを推測だけで判断するあたり、その浅はかさが見て取れるわね。
第一、本物の賢者ならば愚民にも分かりやすい話をするものよ」
「君の話は矛盾している。
君たち魔法使いは魔導書に鍵を付けて他者に読めなくしているらしいじゃないか。
その時点で愚民には全く分からない話をしているのと相違ない。
見ろ、見事なカウンターで返した。調子に乗っているからそういう目にあう」
ぜえぜえ、とお互いに一度荒い息を吐く。
「詭弁ね。一見正しく見えるけど、あんたの話は穴だらけ。
馬鹿が読んで危険な目に遭わないようにと思っての優しさの現れよ、あの鍵は」
「優しさ? その口はそんな戯れ言を吐くのか。
図書館に毎日籠もっているような動かない図書館に優しさなんてあるものか」
「店に毎日籠もっているような動かない古道具屋にも、ないでしょうね」
「あいにくだが、僕は道具を探して無縁塚まで良く行くんだ」
「私も好奇心を満たしに天上まで行ったことがあるわ」
「馬鹿となんとかは高い所を好むとはよく言ったものだな」
「あら。燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや、
というとっても簡単な箴言も知らないのね。
空の高みに居る大鵬の考えは矮小な小鳥には分からない。
優しさのかけらもないようなそこのメガネが良い例ね」
「ほほう。人に優しい者だけが賢いのかい?
竹林七賢を知らないらしいな。清談を事とする僕の風流心が理解できないのも無理はない」
「え、何? 竹林七妍? 浮世絵じゃないそれ。しかも美人画。
へええ、やっぱりあんたって色好みだったのね。死ねばいいのに」
「英雄色を好むという名言を知らないのか。天下を取るような大人物である僕ならば多少の色欲があっても致し方無い。
そして英雄の死を望むのは奸佞邪知に長けたうさんくさい魔女だけだ」
「英雄? だったら四悪を全て述べることくらい容易いわよね」
「虐、暴、賊、有司。子供だって知っている。英雄だったら知っているなんて言う時点で君の浅はかさが露見したな。
むしろ君には四悪趣を教えてやりたいくらいだよ」
「地獄、餓鬼、畜生、修羅。あれ、おかしいわね。どこかの陰険に全て当てはまるわ」
「くくく。君は本当に面白いな」
「ふふふ。あなたも相当なものよ」
僕らは見つめ合い、そして笑い合った。
小悪魔はおろおろとし、レミリアは頬をひきつらせ、フランドールは美鈴のチャイナドレスの裾を握っている。
「パチェ。私もちょっと店主と話がしたいんだけど……」
「黙ってて。あんたみたいな馬鹿にこいつの相手は出来ないわ。
愚鈍な力自慢馬鹿が勝利する弾幕ごっこと違って、これはとてもとても高尚な戦いなの」
戦いね、と僕は鼻で笑った。
授業をしてやっているつもりだったのだが。
しかしまあ、このままぼおっとしていてもらちがあかない。
さっさとこの子を負かしてあげるのも優しさだ。
僕はポケットからがさごそと自慢の逸品を取り出して、それをパチュリーに手渡した。
「最近の最高傑作だ。
それが何だか分かれば、僕は君に敗北を認めよう。
その代わり、分からなければ僕の勝ちだ」
腕を組んで、にやりと笑う。
分かる訳がない。
それは僕が何日も苦心して零から作りだした外の世界の究極の素材、プラスチックだ。
加熱、加圧によって任意の形に成型でき、とても重宝している。
五大元素で全てを説明しようとする古風な魔女に外の世界の驚異の魔法の解釈など不可能だ。
パチュリーを見てみると、案の定、うう、と唸っていた。
外の世界の本も多いと聞いていたのでやや不安はあったのだが、
実体験の伴わない知識など所詮はこんなものだ。
悔しそうな顔をする彼女を見て、僕は勝利を確信し、そして――
「あ、それプラスチックじゃないですか。ついにご自分で作られたんですか?」
メイド長、十六夜咲夜が空気の読めない一言を発した。
僕の笑みは硬直し、そしてパチュリーの口元がにやりと裂ける。
「ほ、本当に勝ったと思っていたのね。
咲夜ですら知ってる事を私が知らないはずがないじゃない。
ああ、その浅はかさは愚かしいわね。
こんなのそこら辺に二束三文で転がってるじゃない。
何自慢してるの? 最高傑作? ばかみたい」
「たしかに、外の世界にゃゴロゴロ転がってますよね、プラスチック」
「……燃やせば猛毒の攻撃だって可能なんだぞ。馬鹿にするな」
僕は悔しさに歯がみして、そう言った。
この子は絶対に答えが分かっていなかったはずだ。
ルールに則れば僕の負けである。
しかし、パチュリーはそのままの笑みで、続ける。
「何勝手に負けをみとめてるのよ。勝負はこれから」
へ、と顔を上げる僕の前に彼女は丸い綺麗な玉を取り出してみせた。
「これが何だか分かればドローで振り出しに戻る。分からなければ、私の勝ち。
だってそうじゃない。サッカーのPKで言えば今のは私があなたのボールを受け止めただけ。次は私が蹴る番」
「……ゴールキーパーが蹴るなんて斬新ねえ」
「レミィ、あんまりうるさいとホワイトアッシュの槍で串刺しにするわよ?
嬉しいでしょ、ワラキアの串刺し公ヴラド・ツェペシュに因んだ死に様よ」
「うう」
「というかどっちかというとヴラドよりエリザベートよね、レミィは。自己中だし」
完全に白い灰となったレミリアを残し、パチュリーは笑う。
しかし、僕は笑えなかった。
この不思議な球体の正体が全く分からないのだ。
組成は分かる。
五行全て、火水木金土。
その全ての息吹がこの物質にはかかっている。
だが、こんな代物は見たことがない。
この魔女の技術力の高さを、僕ははじめて思い知った。
この子は天才だ。
悔しいが、これは――
「あっ、それ賢者の石だよねえ。面白いし綺麗だから、今度香霖堂でも売ろうよ!」
フランドールはいつの間にか美鈴の裾を離してひょこひょことこちらに来ていたようだった。
賢者の石。
火水木金土。
なるほど、当てはまる。
当てはまるがしかし、疑問が残る。
この少女は喘息らしいという話を聞いたことがある。
これが賢者の石ならば、
何故彼女は未だにそれで苦しんでいるのだ?
賢者の石、別名哲学者の石とも呼ばれるそれを生成することが出来たならば、
ありとあらゆる病苦を取り除いてくれるはずであるが――
「あ、でもだめか。それニセモノだもんねえ。
ねえねえ、それいつ完成するの? したら私にちょうだい!」
フランドールがパチュリーの服のリボンを引っ張りながらそんな事を言う。
ゆらゆらと揺れるパチュリーの表情は固まっていた。
プラスチックを握りしめながら、なんともいえない微妙な表情を作る。
僕も、似非賢者の石を握ったまま、硬直する。
そして、数秒の後。
くくっ、とどちらからともなく苦笑が漏れた。
「ドローね」
パチュリーがそう言い、
「全くだ。真の意味でドローだよ」
僕も笑った。
なんだか分からないが、面白かった。そしてとても爽快だった。
決闘の後で霊夢と魔理沙がお互いに楽しそうに笑い合っているのを見て、
馬鹿みたいだと思っていたが、その考えは今日をもって改められることになるようだ。
勝負ごとというのは、なかなかどうして、面白い。
特に、終わった後の快感が、たまらない。
相手が強敵であるならば、尚更だ。
「これにて、ノーサイドですね!」
小悪魔がそうやって笑う。
上手いこと言ったなあ、と僕たちは彼女のその言葉に感心した。
「パチュリー様も矛をおさめられましたし、
お嬢様もしゃんとしてください」
そして咲夜が上手くレミリアの怒りをなだめすかし、僕の紅魔館での短い一日が始まった。
紅魔館で過ごそうが、香霖堂で過ごそうが、基本的に僕の生活には何の変化もない。
ただ、発見した事は色々あった。
今までこうだと決めつけていた人間像に色々とヒビが入っていった。
顕著なのは、フランドールと咲夜の二人だ。
特に面白かったのが咲夜で、
彼女はてっきりレミリアに心酔しているのだとばかり思っていたのだがそれは大きな誤りのようだった。
「まったく、店主さんも酷いですよ。
常識的に考えて、大の大人が
あんな子供の発想しか出来ないお子様に対して忠犬に心の底からへーこらするわけがないじゃないですか。
私は食っていける場所があればそれでいいから紅魔館でメイドをやってるだけですよ」
「それにしては大層な忠義ぶりだが」
そりゃまあ、と彼女は苦笑する。
「ご機嫌を損ねたら殺されちゃうじゃないですか。
それに、私は子供好きなんですよ」
「……甘やかすのは良くないぞ。経験者は語る」
ああ、と彼女は苦笑した。
「魔理沙でしょ?」
頷いた。
「まったく、あの子のお転婆ぶりには困ったものだ。
いつかお灸を据えてやろうとは思ってるんだがな。
注意したら言うことを聞く子だからまだ良いものの――」
「……え?」
咲夜の目が点になった。
「言うことを聞くって……正気ですか、魔理沙ですよ?」
正気も何も、と返答する。
「魔理沙はちゃんと言われたことはする子だろ」
「……へえ。あの子って猫かぶりだったんですねえ」
「どういう意味かな」
尋ねると、
「あの子が人の言うこと聞くなんて万に一つも有り得ませんよ。
閻魔様をおちょくっていたとしてもだーれも不思議に思いません」
「……初耳だ。常々悪餓鬼だと思っていたんだが。
僕の見てない所で何やってるんだあの馬鹿娘は。
悪いね、今度尻をひっぱたいておくよ」
泣くまで叩こう。
良い口実が出来た。
泣いている魔理沙はあれでなかなか可愛いものだ。
「そんなことより、フランドールだ。
どうやったらあんな良い子が育つんだ?
レミリアに対して口が悪いのはいただけないが、
箱入り娘というかなんというか、
やはり魔理沙も部屋に閉じこめておくべきだったろうか」
そう言うと、咲夜は腹を抱えて大笑いした。
きょとんとする僕を尻目に、おかしそうに何度も何度も咲夜は笑う。
「それであの子、今日はあんなに可愛い子ぶってたんですか!
あはははっ! 変だと思ってたんですよねえ!
朝食にも絶対来ないだろうと思ってたら喜んでやって来ましたし。
あー、あー、そういうわけですか」
ふむ、と僕は唸る。
「あの子は内弁慶なのか?」
「そりゃもう。お嬢様も頭を抱えてますよ。
パーティにも参加なされませんし、そもそも閉じこめられているという表現もどうかと思います。
あの子、自分から外に出ようとしたことなんてありませんし。
たぶん珍しく男の人に出会って、対応の仕方が分からなくなってついつい猫を被っちゃったんでしょうね。
あの子、初対面の人にも暴力的ですから、それ以外考えられません。
で、今更化けの皮を剥ぐわけにもいかず、可愛い可愛い妹様を演じている、と」
ああなるほど、と頷いた。
いい話が聞けた。
「あの子は僕をはじめて見たとき、随分びくついていたからな。
だが多分それは僕が男だからという理由ではないよ。
僕が後に幻想郷で最高の地位を占める事になるのを知っているからだ」
「……そりゃ有り得ないと思いますけど」
半眼になって咲夜は溜息を吐いた。
頭の悪い子だ。やはりこの子は僕という人間を完全には理解できていないようだった。
「まあともかく、今日君から聞いた話はとても興味深かった。
レミリアとフランドールは悪ガキ姉妹。
君は仕方なくつきあってやってるだけ。
飯が悪けりゃ出て行ってやる。
ふむふむなるほど」
はてな、と咲夜は首を傾げた。
「何が言いたいんですか」
怪訝そうな彼女に対して、僕は一言告げた。
「後ろを見てごらん」
振り返った先にいるのは、当然ながら紅い吸血鬼と悪魔の妹。
前者は腕を組んでうんうんと頷きながら話を聞き、
後者は僕の見たことのない実に個性的な笑みを浮かべていた。
咲夜は一度、僕に視線を戻した。
「ええっと、もしかして、ずっと?」
「ああ、盗み聞きというものをやってみたかったんだろう。
子供の遊びに付き合ってあげるのも大人の義務だ。
ちゃんと黙っていてあげたよ。
僕は偉大だろう、十六夜咲夜」
何か言いたげな彼女の両肩を、ぽんぽんと二人の吸血鬼が叩く。
なんだか危なげな様子だったので、僕は咲夜の頭をぽんぽんと叩いてそそくさとその場をあとにした。
無関係だというのに巻き込まれてはたまらないからな。
事の顛末をパチュリーに話すと彼女は大笑いした。
ひとしきり笑った後で、げほげほと咳き込んだ。忙しい子だ。
「へえ。そりゃあの二人はショックかもね。
まあ咲夜も愚痴を零したい年頃だろうし、背伸びしたい年頃でもあるんでしょ」
そう言って、彼女はずず、と紅茶を啜った。
「あの子がレミィに心酔してないってのは、嘘。
そりゃ子供扱いしてる部分も多分にあるけど、吸血鬼のカリスマ性はそれを超越するから」
そう言って、彼女はぱたんと本を閉じた。
とりあえずも本より僕を優先するつもりらしい。殊勝な心がけだと思った。
「でもほら、朝からあんな幼い仕草を見せられたら普段から彼女にべったりな自分が恥ずかしいじゃない?
だから色々言ってごまかしたんだと思う」
へえ、と息を吐き、僕もぱらぱらと本を捲った。なかなか面白い事の書いてある魔導書だった。
「君はごまかさないのかい」
パチュリーはふん、と息を吐いた。
「ごまかしてどうするのよ。親友は親友だもの。
体面を気にしている時点でまだまだ子供としか言いようがない」
「人間の寿命じゃその境地を脱するには時間が足りないよ。
その事であの子を責めることはない。まだ二十歳くらいだろう?
俗世の鎖から解き放たれるにはせめて百年は欲しいところだ。
まあ、本当にそのつもりになって仙人になられても困るが」
その時は美味しく料理する、とパチュリーは笑った。
どこまで本気かよく分からない少女である。
だが、仙人の肉はうまいらしい。
兎鍋より美味いだろうか。
がんっ、きんっ、という何かがぶつかり合う音が断続的に響く。
レミリアとフランドールが大喧嘩をしているらしい。
外が曇っているからいいものの、晴れても雨が降っても大惨事間違いなしだ。
放っておいてもいいものだろうか。
「それにしても、レミリアはなかなか敗れないね。
吸血鬼としてもフランドールが格上だろうし、あの子は魔法使いとしても一流だ。
正直二秒でケリがつくと思ったんだが」
「酷い言いようね」
パチュリーは苦笑し、そして言う。
「レミィはそういう所を超越して何故か強いのよ。
絶対当たると確信した攻撃を回避してみたり、
予測できるはずのない突風に乗って体当たりしてみたり、ね。
運が向いてるっていうのかしら。
無敵ってわけじゃないんだけど、あいつを倒すのは至難の業よ。
そもそも外の世界でぶいぶい言わせてたし、
実戦経験が桁違いなもんだからフランドールみたいな単純馬鹿にはそう簡単に倒せない」
「どっちもどっちで両方馬鹿だと思うけどね」
「ま、それには同感。レミィが頭良いなら私が紅魔館に居る必要なんてないし」
へえ、と思わず目を丸くした。
「君がそんな事を考えているなんてな。紅魔館の一員として頑張っているわけか」
そうそう、とはパチュリーは何度も頷いた。
「紅魔館の一員として、レミィを唆すのが私の仕事。唆した後は、見物」
「少しでも感心した僕が馬鹿だった。鬼か、君は」
「魔法使いよ。とても強くて賢い魔法使い。
私があんな正直一辺倒な力自慢に見える?」
知り合いの鬼を想像した。そして首を横に振る。有り得ない。
パチュリー・ノーレッジが鬼だなんて、最早お笑いである。
それはそれとして、とパチュリーは苦く笑う。
「そろそろ本物の腰巾着になりつつある情けない吸血鬼に愛の手を差し伸べてあげたらどう?
そして、出来れば出て行って。その子の相手は得意じゃないの。閉じこめるのは得意だけど」
腰にいつのまにかぶら下がっているもの、
そしてつい数秒まで戦闘行為を行っていたはずのもの、
つまりフランドールを見て、僕は首を横に振る。
「嫌だね、面倒臭い。家族なのだから君が何とかしろ」
必死でしがみつくそれを引っぺがしてパチュリーの方へ投げつけた。
面白いことに、動かない大図書館と定評のあるその子は、
どたばたと慌てて距離を取った。先程までパチュリーが居た所にはフランドールがのびている。
「な、何の冗談……? 本気で殺す気?」
パチュリーがぎょっとしているのを見ると、フランドールはどうやら本当に相当情緒不安定で恐ろしい女の子のようだ。
うう、と唸っているその子を見ると、とてもそんな危険な少女には見えないのだが。
むくりと体を起こし、少し赤くなった鼻を撫でながら、泣きそうな顔でフランドールは言う。
「ごめん、香霖堂。大人しいふりしてたのは謝るから無視しないでよ……」
さっきまで大声で泣いて喚いて飛びついてきていたのだが、今度はぐずりはじめた。
まさに幼い頃の魔理沙だ。懐かしい。懐かしいが、しかし。
「子守は僕の担当じゃない。後は任せたよ」
ふらふらと手を伸ばして立ち去ろうとするのだが、フランドールはその俊足で僕の肩にひっついた。
瞬きする間に人里を駆けるという文句は真実であったらしい。全く運動の動作が見えなかった。
座ったままの姿勢でのジャンプは霊夢に見せてもらったが、
座ったままの姿勢から、突然飛びついてこられたのはこれで初めてである。
「ええい、退いてくれ。君がくっついていると楽しく世間話も出来ないじゃないか。
他に甘える対象ならいくらでもあるだろう? 魔理沙とか霊夢とか。
いや、魔理沙は駄目か。なんか君の事を迷惑って言ってたしな。
あんまり魔理沙の泥棒家業の邪魔をしないでくれ……いや、間違った。してくれていい。
話がそれたな。
ほら、じゃあ霊夢だ。
君の足なら一瞬だろう、博麗神社まで行くと良い」
「霊夢は機嫌悪かったら退治しようとするからやだ」
足早の説明もむなしく、フランドールは猫か何かよろしくのしかかったままだ。
しかし、霊夢を嫌がるということは確かにフランドールは戦闘力云々は抜きにしてあまり大した妖怪ではないようだ。
僕の中では霊夢のことを好きな妖怪を強い妖怪、霊夢のことを恐れる妖怪を弱い妖怪とカテゴライズしている。
そして、それはおおよそ的中する。
「重いな。いいから降りてくれ」
正当な権利を主張するがフランドールは離れない。
「なんでさ。前来た時はもっと優しくしてくれたよ?」
「さあね。酒でも呑んでたんじゃないのか。
僕は酒が入ると意外に優しいお兄さんになると評判なんだ。
おかげで魔理沙は悪いことをするたびに高い酒を買ってきてねえ」
「じゃあお酒呑んでよ!」
「嫌だ。部屋にお帰り」
ぽんぽんと頭を叩いて、そしてそれを引きはがして投げる。
ぱたぱたと羽を必死で動かして、ぴたりとフランドールがひっつく。
もう何回繰り返したか分からない。
迷惑極まりない、という視線をパチュリーに向けると、ほう、と感心したように彼女は息を吐いた。
「確かに、この子がこんだけなつくなら相当優しかったのかしら。
想像できないわね。
……いえ、というか正直気持ち悪いわ。
なに、もしかして爽やか笑顔で香霖堂へようこそ、とか言ってたわけ?
敬語も使えそうにないのに」
「敬語くらい使えずして何が店主か。ちゃんと咲夜にも敬語で対応していたよ、僕は。
過去形になってしまったがね。きちんと賠償してもらうまで許すつもりはない。
それとも何か。別にそういう事を言いたかったんじゃなくて、
君は僕に喧嘩を売りたかったのか? 別に構わないが。買おうか?
僕は売るのも得意だが買うのもまた得意なんだ。
――大抵、僕の都合の良いような値で買わせて貰ってるからボロ儲けさ」
へえ、とパチュリーは強気に笑う。
「ここは図書館。万に一つもあなたに勝ち目は無い」
ならばと僕は笑う。
「フランドール。仲直りの印にそこの馬鹿を本気で一発ぶん殴るというのはどうだろう。
ついでに図書館を滅茶苦茶に破壊してくれても構わない」
フランドールは目を輝かせ、そしてパチュリーは両手を挙げる。
「卑怯者。降参降参。というか、レミィはどうしたのよ。
こういう時に私の横に立ってくれないで何してるの、あの役立たず吸血鬼は」
フランドールは、馬鹿にしたように一笑。
「あいつに雲の上には夜の空があるんだよ、って教えてあげたら喜び勇んで飛んでったわ。
今頃真っ白な灰になってると思うよ。
朝食の時にやたらべたべたしてきて気持ち悪かったからそれの復讐。多分死んだね。
今日び雲の上の事なんて氷の妖精でも知ってるのに、馬鹿な奴」
まあ確かに、とそれには賛同する。
「だが一応誤解の無いように言っておくが、チルノは馬鹿というだけで知識量は意外と豊富だよ。
あれでなかなか努力家なんだ。
ちょっと悪戯好きなのが玉に瑕だが近年まれにみる『本物の』良い子だ」
うっ、と猫かぶり吸血鬼は下唇をかんだ。また泣きそうな顔になっている。
さて、と僕はパチュリーに問う。
「ところでレミリアは、大丈夫なのか?」
こちらとしてはシリアスに尋ねたつもりなのだが、彼女はさあね、とドライな返事を返した。
「ああ見えて実力は化け物だから、太陽光を克服して帰ってくるんじゃないかしら。
『はっはーっ、素晴らしいな日光は!』とか高笑いしながら」
「そういう子なのか?」
「ええ。前に豆なんて大嫌いだって言ってた時期があったから納豆食べさせたんだけど、
『美味いわね! こんな美味い豆となら友達になっていいわ!』とか言って、
自分でその納豆を炒って、それ頭から被って大やけどしたことがあるもの」
「待て。非常に面白い話だが重要な点が欠けている気がするのは気のせいか?」
何よ、とむくれるパチュリーに、僕は一言告げる。
「その話だと、レミリアは炒り豆を克服していないんだが」
「そこが笑いどころなんじゃない。
詰まらないツッコミね。魔理沙だったらもっとキレの良いのを返してくれるわよ。
ついでに本も盗もうとするから焼き殺すけど」
なるほど。
「あの子の服を焼いたのは君か。弁償しろ」
「いやよ。チクチク服を縫ってるあんたの姿を想像して吐き気がしたからその慰謝料ととんとんにしなさい」
「失礼な子だ」
「常識的解答だと思うけどね」
パチュリーはうんうんと頷いた。
「ねえ、香霖堂。私の服も縫ってー」
僕はやれやれと溜息を吐いて。
「それで、パチュリー。レミリアは本当に良いのかい? 割と心配になってきたんだが」
くすりと彼女は笑った。
「意外といい人だって言われない?」
「常連が居なくなると生活に響くからね。心配するのは当然だ」
「……咲夜的解答をありがとう」
「ぐっ」
少しでも油断した僕が馬鹿だった。パチュリー・ノーレッジ。やはり強敵である。
フランドールを投げつけて得た白星を簡単に奪い返されてしまった。
もしかしたらこの子は一生のライバルになるかもしれない。
「ああ、そうそう」
まるで思い出したようにパチュリーはごそごそと何かを取り出した。
それはあのプラスチックだった。
「これ、もらってもいい?」
そういえば、と僕も似非賢者の石を取り出した。
当然プラスチックなどいくらでも転がっているのでくれてやって構わない。
自分で作る事ができたという事実こそが重要なのだ。
快諾しようと首を縦に振ろうとしたが、僕の中の何かが警鐘を鳴らした。
待てよ、少し考えてみろと。
この子が渡すのは賢者の石だ。
偽物の賢者の石だ。
その組成は火水木金土。
つまりは彼女の得意な魔法の属性、火水木金土日月の七分の五だ。
それが示すものはなにか。
もしかして、この子は本気の七分の五で僕に勝てると言いたいのではないだろうか。
だとしたら大笑いである。
プラスチックなんて僕の力の二割もあれば簡単に作り出せる。
愚かな少女だ。僕の力を見誤ってこんな幼い挑戦状を叩き付けてくるとは。
まあいい。可愛らしいじゃないか。
「そうだね。じゃあ僕もこの賢者の石はもらっておこうかな」
そう笑って言うと、パチュリーは気味の悪いものでも見るようにこちらを見やった。
「な、なによその生暖かいにやにや笑いは。気持ち悪いわね」
「なあに。君の言いたいことは分かる。まあ、頑張れ」
「ど、どういう意味よ! ちょっと!」
「頑張れ」
僕はひらひらと手を振り、そして図書館をあとにした。
彼女自身は気が付いていないだろうが、これで白星を一つ奪った。笑いが止まらない。
夕食の席に、レミリアは現れなかった。
ちょっとあやしてやるとフランドールは満足したようですごすごと自分の部屋へ戻っていった。
その夕食の席にもパチュリーと僕以外には誰も居なかったのだが。
咲夜は何故か僕の顔を見たくないらしく、小悪魔は図書館に居り、美鈴は外だそうだ。
そしてパチュリーは何故かしつこく僕に対して何故そんなににやにや笑っているのかと問いつめ続けた。
とても微笑ましかった。何度か笑って頭を叩いてやるとぎょっとして走り去っていったが、まあ良いだろう。
奇妙な夕餉ではあったが、僕の人生そのものが奇妙奇天烈だ。こんなもの、スパイスにもなりはしない。
夕食の後、はじめて僕はあてがわれた部屋に入った。
整頓された小綺麗な部屋だった。
VIP待遇、というやつだろう。
酒を片手に僕はベッドでのんびりする。
ああ、気持ちいい。このまま寝てしまおうか――
「こら、止めなさい。酒が零れたらどうするのよ」
ぺしん、と頭を叩かれて目を覚ますと、目の前にはいつのまにか少女が立っていた。
白を基調とした服を纏っている彼女は、
まさしくスカーレットデビル、吸血鬼レミリア・スカーレットだった。
「ええと。君は雲を突き抜けて焼け死んだんじゃなかったのか?」
「私は不死身よ。イカロスじゃないわ」
蓬莱人も形無しの笑顔と共にレミリアはそう告げた。
「太陽がなんだっていうのよ。ちょっと火傷したけど、大事に至る前にぶっ壊したから大丈夫」
「……ちゃんと修復しておいたんだろうね」
「さあ。誰かがどーにかするでしょ。吸血鬼が慈善活動するわけないじゃない」
相も変わらずの自己中心的な言葉に頭が痛むのを感じる。
「せめて事後処理くらいはしてくれ。僕らが迷惑するんだよ」
「知ったこっちゃない」
はっはっは、と大笑いするレミリア。
心配した僕が馬鹿みたいだ。
この子が死んだら客が減る。
確かにそれは問題だ。
しかし、それよりも重大な問題が一つある。
あのティーカップ事件だ。
僕はあの件で咲夜に借りを返してはいない。
甲羅の件でとんとんだと彼女は思っているのかも知れないが、
あれは正当な取引である。
僕の思惑に彼女は気が付いていただろうが、それでも彼女はそれを欲したのだ。
だとしたらただの取引だ。
僕は借りを返さねばならない。
できるだけ凄惨な方法で、だ。
例えばレミリアとフランドールの両人にあの子をずたずたにさせる、なんていうのは面白いかも知れない。
しかし、それはなかなかどうして難しい。
今日僕は策を弄してそれを狙ってみたのだが、彼女が恐らく二人の攻撃を受けなかったに違いない。
レミリアはともかく、フランドールは怒り出すと手が付けられないタイプだ。
もしあの時あの場所で制裁が始まっていれば紅魔館は原型を留めていないだろう。
ならば、彼女は上手く自分に対する注意を逸らしたのだ。
レミリアとフランドールの二人がいがみ合うように。
しかも、紅魔館の外で戦闘を始めるように。
完全で瀟洒なメイド。
全く、確かにその通りだ。
「ああ、レミリア。そういえば君に頼みがあるんだった」
「三億円ね」
「良いだろう。それで貸し借りなしだ」
この子はなかなかに取引が上手い。
こんなところで三億円のツケを払うとは。
霊夢にも見習って欲しい技術である。
「パチュリーに言っておいてくれ。
僕は客が来たら完璧な敬語で対応する素敵な店主だ、と」
ふうむ、とレミリアは羽をぱたぱたさせながら答えた。
「なんか、来る毎に敬語を使う度合いが減っていって、
特にティーカップ買いに行った後あたりから
最初の一言、二言くらいしか敬語使わなくなったって言ってたわよあの子」
「どうでもいい。僕は真実を話せと言ったわけではないよ。
君はパチュリーに対して僕の望んだ通りのことを言えばいいんだ」
「……吸血鬼に命令? しかも親友に嘘をつけって?
ふん、冗談もほどほどに――」
「三億円」
「……はいはい、分かったわよ。
前から思ってたけど、大した商人よねあんた」
「お褒めにあずかり光栄です、お客様。
スリリングなお買い物が楽しめる香霖堂を今後ともどうぞ御贔屓に」
「急に敬語になるな、気持ち悪い。
それに咲夜が妙に気に入ってるから駄目って言ってもたぶん何度も買い物に来るわよ」
レミリアはやれやれ、とポーズをとった。
まあそれにしても、と彼女はにやりと笑う。
「随分簡単に紅魔館に馴染んだわね、あんた」
変な事を言う少女だ。
もしかして僕が紅魔館を乗っ取るとでも考えているのだろうか。
フランドールを上手く手玉に取ったし、それも不可能ではない。
それに、さきほどこの子はフランドールと喧嘩をしたばかりだ。
坊主が憎けりゃ袈裟まで憎いの根性で僕を憎んでも変な話ではないだろう。
まったく、お子様であることだ。
「安心しなくても紅魔館の主を蹴倒したりはしないよ」
「……あんたの頭をかちわって中身を見てみたいわ。
どこをどうやったらそういう返事が出てくるのかしら。
香霖堂店主が紅魔館を乗っ取れるなら、幻想郷だって乗っ取れるわよ」
「お褒めにあずかり光栄至極」
「皮肉だって。それから、気持ち悪いし敬語は止めなさい」
「いやしかし、紅魔館では猫かぶりがブームみたいだからね。
僕は流行にはうるさいよ? パチュリーは乗り遅れたみたいだが」
む、とレミリアは首を傾げた。
「あの子は結構流行にはうるさいよ……ってそうそう、パチェよパチェ」
ぱんっ、とレミリアは手を叩いた。
それに伴って羽も一度だけばさっ、と大きく動いた。
「あの子、お客様が来た時は往々にして私のことは『お嬢様』って言うのに
あんたに対しては違ったのよ。
それで、ああ、一気に紅魔館に馴染んだな、って感心したわけ」
「逆だと思うがね。
客に対して君のことを『お嬢様』と言うのは、
客に対して自分はそういう所はしっかりしている人間だと思って欲しいからだ。
きっと、自分の事を背中から刺そうとしている医者なんかが話しかけてきたら、
彼女はわざわざ君のことをお嬢様なんて言ったりしないさ」
へえ、とレミリアは目を細めた。
「なんだか……随分と限定した状況じゃない? 深い意味でもあるのかしら」
「さあね。僕はデタラメを並べてみただけだよ」
本当にデタラメを並べてみただけなのだが、レミリアの疑惑の視線は強まるばかりだ。
妙だな。本当にそんな事があったのだろうか。
それとも――これから起こるのだろうか。
彼女の能力が如何ほどのものかは知らないが、
もし文字通りのものならば彼女にとって過去も未来も同じようなものであるに違いない。
ならばパチュリーは背中を医者に狙われるという奇特極まりない状況にこれから陥る、または既に陥ったわけか。
面白い。今度笑い飛ばしてやろう。
「ま、あんたが胡散臭いのはいつものことだしどうでもいいけど。
どうせ古道具屋に出来る事なんてたかが知れてるし」
レミリアは運命を操る吸血鬼だ。
しかも、幼い。
これは未来を知るのに利用できそうだ。
僕は占いでも行う気分で尋ねた。
「たかが知れている? 本気で、そう思っているのか」
すると、レミリアは少しだけ表情を厳しくしたが、すぐに余裕を伴った笑みを浮かべた。
「当然。他の奴にとっては驚異かも知れないけど、
あんたなんて私にとっては障害のしょのじにもならない」
「僕の武器に負けたのはどこのどいつだ」
「私が負けたのは霊夢と魔理沙」
「……朝と言っている事が変わってないか?」
「気のせいよ、気のせい」
レミリアはくすくすと笑って僕のとなりに、ぼふん、と腰を下ろした。
そして、さて、と前置きをする。
「実はあんたにお礼を言いに来たのよ」
「礼はいいから謝罪をしてくれ。店を壊した謝罪」
「三億円なら払ったわよ?」
「申し訳ございませんお客様」
おどけて言うと、レミリアは小さくふきだした。
笑い顔だけなら愛らしい。
「まあ、大体なんのことだか見当はついてるでしょ?
たぶん咲夜がもうお礼は言っただろうし」
レミリアが礼を言うべき事ならば確かに見当はついていた。
だがそれについては彼女が言ったように咲夜、美鈴、
もしくはパチュリーが口に出すものだと思っていた。
いや、パチュリーはあまりあの子を好いていなかったから、やっぱり咲夜か美鈴だろう。
とにかくお子様は絶対に気が付かないと思っていた。月と鼈よろしく。
それともこの子は気が付いていて、それでいて愉快そうに遊んでいるのだろうか。
だとしたら――この吸血鬼はとんでもない化け物だ。友人になりたいと切に願うくらい。
「私の可愛い可愛い妹のこと。あんたは本当に上手く立ち回ってるからさ、それに対してお礼」
僕は笑った。
「フランドールに優しくしてやってる事かい?」
子供扱いは止めなさい、とレミリアはひらひら手を振った。
いつの間にか、もう片方の手には綺麗なグラスが握られていた。
赤く、透明感のない液体がゆらゆらと揺らいでいる。
「逆だよ。あんたがフランドールを怖がらせてること」
「ああ、そっちか」
ますます感心だ。
そこに気が付くのは、それこそパチュリーくらいだろう。
レミリアは、えへへ、と頬を掻いた。
「どーにもね。あいつは私に悪口叩くけど、やっぱりそれでも妹ってのは可愛くて、甘くしちゃう所があるのよ」
「分かるよ」
修理された八卦炉を受け取った時に見せた、あの子の花のような笑顔を思い出した。
商売人としては駄目なんだろうが、ただで何でもしてやりたくなってしまう。
いつもは悪ガキなだけに、卑怯なものだ。妹分というやつは。
「あんたが魔理沙に優しいとこ見せてるなんて想像出来ないけど。
ま、ともかく甘いだけじゃあやっぱりフランドールを外に出そう計画は頓挫しちゃう訳」
やっぱりそうか、と僕は思った。
この子は聡い。
とても、聡い。
フランドールを屋敷の外に出さないという話を聞いた時。
昔は部屋の中に閉じこめていたと知った時。
フランドールの性格を知った時。
そして今。
ようやくこの子のことが少しだけ分かった気がした。
「君こそ、良いお姉さんじゃあないか」
へえ、とレミリアは笑った。
「分かる?」
「分かるよ。兄貴業を長くやってるとね」
「へえ、違いの分かる男ね」
「君こそ。僕の良さが分かる女はなかなかいやしない」
くつくつと二人して笑った。
なんでだろう、酒が入ると和やかに会話が出来る僕である。
小町にもあの鬼にも上手い酒の呑み方をする奴だと褒められたし、
そこの所にも自信をもっていいかもしれない。
さて、レミリアが良い姉であると僕が推測する理由だが。
その答えはフランドールが外に出たがらないということと、
そしてレミリアが未だにフランドールを閉じこめているということの二点に集約される。
数年前までは悪魔の妹といえば、気の狂った化け物のように扱われていたが、
紅霧異変の後では情緒不安定な吸血鬼だと用心される程度である。
異変の後で性格がまるくなったのか、
それとも異変の前後で風評が変わっただけなのかは定かではないが、
ともかく異変の後は名実ともにフランドールはどこにでも行って良い吸血鬼になれるはずである。
だが、フランドールは外に出たがらない。
紅魔館の中だけで、全てを完結させることができる。
そんな中で彼女の外出を許可したらどうなるだろうか。
誰もが思うだろう。
何であの吸血鬼は外に出ないのか、と。
パチュリー・ノーレッジのように虚弱体質ならマイナスイメージは持たれにくい。
むしろ薄幸な少女として好意的に受け入れられるかも知れない。
しかし、館の中だけを徘徊し続ける吸血鬼となればどうだろう。
不気味ではなかろうか。
きっと不愉快な噂が伝播するに違いない。
レミリアは、それを恐れたのだろう。
だからフランドールの館から出ることを禁じたままにした。
そうすれば、少しは彼女に対する悪いイメージは抑えられるだろう。
その代償にレミリア自身に対するそれは、やや悪化するかもしれないが。
そうして、館から出ることを禁じている間に彼女はフランドールのために尽くした。
例えば、妖怪に対する差別の少ない霊夢と魔理沙を送り込んでみたり。
例えば、やけに大々的にパーティを開いてみたり。
例えば、香霖堂店主を呼び込んでみたり。
そうしてフランドールが外に興味を持った暁には、
彼女はきっと外に出る事を許すのだろう。
いや、違うか。
もしレミリアが僕の評価する通りの人物なら、最後の最後でツメを誤るはずがない。
この子ならば、きっと外に出ることを絶対に許さないだろう。
フランドールが外に出たいと自分から言い出すまでは。
そうして、何度か渋った後に、許可を出すのだろう。
そうすれば、フランドールは外の世界に恋い焦がれる。
そして、やっとの事で一人で自由に行き来できるようになった外に対して愛着を持つだろう。
元々素直で優しい子だ。
館の外のことを好きになれば、ちょっとの事で怒り狂って能力を使ったりはしないだろう。
もしかしたら、姉のレミリアよりも人間に好かれるかもしれない。
今までのマイナスイメージを払拭するのにそう時間はかからないだろう。
ただし、ここにも代償がある。
レミリアは確実にフランドールに嫌われてしまうだろうということだ。
渋れば渋るほど、彼女の外に対する思いは強まる。
そして、姉であるレミリアに対する恨みもまた。
そういったことを総合して、僕はレミリアを良い姉だ、と評価したのだ。
もちろん、彼女一人ではきっと心が折れてしまうだろう。
レミリアの精神面が少々幼いというのは紛れもない事実である。
だからきっと、そんなレミリアの優しさを理解してくれる人が居るのだ。
十六夜咲夜、パチュリー・ノーレッジ、紅美鈴。
もしかしたら、妖精メイドたちや、小悪魔だって気づいているかも知れない。
そういう人達の理解と応援があればこそ、レミリアは悪役になることができる。
だとしたら、レミリアは良い姉だ、と簡単に言ってしまったのは誤りだっただろうか。
紅魔館は本当にあたたかいところだと、
そう評価した方が彼女は満足してくれただろうか。
こんなに幼いなりで紅魔館の主として君臨している理由が、
僕には今になってようやく理解できたのだった。
「それで、僕の立ち回りは完璧なのかな?」
そう問うと、彼女はにやりと笑って、グラスを揺らす。
「覚えておくといいわ、店主。
私は質より量を重んじるけど、それでも――」
一旦言葉を切って、彼女は紅い瞳で僕を見た。
黒い羽さえ隠してしまえば、
紅い悪魔というよりも、白い慈母だと表現できそうなそんな穏やかな瞳だった。
「――それでも、本当に大切なことには、本当に信頼してるやつにしか頼らない事にしてるのよ。
フランドールのこと、任せたわ。信頼してるわよ、森近霖之助」
「僕の店では道具以外のものを取り扱ってはおりませんが?」
その問いに、ふん、と彼女は笑った。そして、躊躇無く指を三本立てた。
「もう三億払う。地底に潜ってでも三億見つけて、そしてあんたに払うわ。
だから、この一件だけは根性を曲げて、フランドールのために動いてくれないかしら。
嫌かもしれないけど、今みたいな役を買って出てくれないかしら。
あんたが自分の意志を絶対に曲げないというのを知っての申し出よ。
もしそれでも嫌だって言うんなら――」
待った、と僕は右手で彼女の言葉を静止した。
聞いていればぐだぐだと失礼な事を言う。
ぐいぐいと酒をあおって、そして大きく息を吐き、僕はレミリアの目を見つめ返す。
「屏風と商人は曲がらねば世に立たずという。
ここで君の申し出を受け入れねば、
その箴言を後ろ盾にパチュリーに嘲笑われてしまって、
折角君にやってもらう三億円の仕事がぱあだ。
非常に不愉快だが、あの子に負けるわけにはいかない。
繰り返し言うが、不本意極まりないが、受けてやっても良いよ」
「三億で?」
「いいや、この世で最も高い値段でね」
そう言うと、一瞬だけレミリアの目の光が揺らいだように見えた。
そのまま彼女は、ばっ、とそっぽを向くと、急にハンカチなんかを取り出した。
「あれ、おかしいわね……ごめん、ちょっと目にゴミが」
思わずにやりと笑みが漏れる。
「どうしたレミリア。ひょっとして泣いてる訳じゃないだろうね」
「泣いてない!」
震える声で、レミリアが言う。
なんだか小生意気なお嬢さんが急に可愛く見えてきた。
……いかんいかん。酔ってるな、僕は。
ぶんぶんと頭を振って雑念を振り払う。
振り払ったつもりだったのだが――
「泣いてないのかい? だったら顔を見せてくれてもいいだろう」
「うっさい!」
ついついからかいの言葉が出てしまう。
泣いている子をみると苛めたくなる事は男ならよくあることだ。
雪に埋もれた可愛い女の子を見ると助け出さずに観察することがよくあるように。
このまま泣きやまれると面白くないので、ぐい、と強く彼女の両肩を僕は握った。
こっちを向かせようとした訳である。
しかし、それは失敗だった。
意外とレミリアは臆病ならしく、びくっ、と大きく震えた後、
ワイングラスを放り出してベッドに倒れ込んでしまった。
僕は彼女の肩を掴んでいたので、必然的に彼女を押し倒すような形になってしまう。
上気した頬、潤んだ紅い瞳、そして怒鳴ったためにやや荒い息。
はたから見れば、誤解されてもおかしくはない情景だ。
まずいな、と思って僕はちらりとドアの方を見た。
床には、粉々になったワイングラスが散っていた。
そして、もう少し視線を上に向けると、
べっとりと血糊に汚れたとあるメイドが世にも美しい笑顔を浮かべて立っていた。
「お嬢様、店主さん……これは一体どういうことで?」
静かな怒りに燃えて、そう咲夜は呟き、
「咲夜ーっ、変態に襲われるっ! 助けてっ!!」
レミリアはいきなりそう叫ぶや否や、僕を天井に弾き飛ばし、
しゃがみこんで頭を両手で抱え、羽をぱたぱたさせ始めた。
あっさりと裏切られた僕の事は、最早語るまでもない。
翌日、量と質を兼ね揃えた友人たちの努力のかいあって、香霖堂の修復は完了した。
なんでも、あの鬼が『完璧に元通りにした』らしい。
いくら萃める事が得意だとしても、それはやりすぎだろう。
博麗神社ですら新築したというのに、香霖堂を元通りとは、少し恥ずかしいではないか。
あの面子ならば協力して作業した方が早いに違いない。
いや、あの子は仁義の塊である鬼だ。
いくら本物そっくりの香霖堂が建っていたとしても、
年期の入ったそれを懐かしむだろうと気遣ってくれたのかもしれない。
今度、美味い酒をおごってやろうと思った。
鬼の友人は、優しすぎて困る。
信頼関係さえ築いてしまえば、鬼ほど頼りになる妖怪は居ない。
その事を僕は痛感した。
さて、紅魔館での最後の朝食の後(咲夜にはきちんと釈明したのでそれはそれは和やかな時間が流れた)、
僕は紅魔館の皆に見送られる事となった。
わざわざ小悪魔まで出てきてくれたのが、なんとなく嬉しかった。
「あ、あの。色々ご迷惑おかけしましたけど、
今度は美味しいお茶菓子用意して待ってますから、また図書館に遊びに来て下さい!」
彼女はぺこぺこと何度も頭をさげてきた。
本当に良い子である。
こういう子を見るとどうしてもからかいたくなるのだが、今はすなおに挨拶をしておくことにした。
「あのことは怒ってないよ。小悪魔ってのは悪戯好きの生き物だからね。
本人が悪戯するつもりがなくても体が勝手に動いてしまう生き物なのだ。
それから図書館だが、勿論寄らせて貰う。面白い本がたくさんあったようだし」
むう、とパチュリーが不満げな声を上げた。
「勝手に小悪魔という種族を決めつけてしまう事に関してはべつにいいけど、
そんなに頻繁に来ないで。迷惑だから」
「君とちょくちょく顔を合わせるなんてこちらから願い下げだ。
本さえ無ければ誰が君の居る場所など訪れるものか」
「なら今度本を全て焼き払っておくわ」
「勝手にしてくれ。僕には関係ないね」
そして、二人して肩をすくめて、やれやれと苦笑を一つ。
どうにも、お互いに素直な別れの挨拶が出来なくて困る。
しかしまあ、この苦笑でお互いの意思の疎通が出来たので良しとする。
気分が乗ったら遠慮せずに図書館に顔を出すことにしよう。
そうして、玄関前で図書館組と、そして咲夜と別れた。
やはり昨日の事で色々と複雑な思いがあるのか、
僕も咲夜も何とも言えない微妙な笑みを交わし合っただけだった。
そのままてくてくと、僕とレミリアとフランドールは歩みを進める。遠くに美鈴の姿が見えた。
この紅魔館ともそろそろお別れである。
僕は首を動かして、その古ぼけた洋館を見やった。
はじめは大仰だと思っていたその赤い塗装も、
今となってみればレミリアを象徴しているようで可愛らしく思えてくるから不思議だ。
「ふふ。紅魔館に別れを惜しんでるのかしら?」
レミリアが茶々を入れるので、
「まさか。さっさと家に帰って布団を敷いて寝たいものだ。ベッドなんて金輪際ごめんだね」
大げさに文句を言ってみせる。
「ま、あんたがそう言うなら今度は二段ベッドでも用意してといてあげるから、二度と遊びに来るんじゃないわよ」
「全く。鬼と名の付く妖怪なら少しは正直になったらどうだ?」
「やだ。なんか負けた気がするから」
大人なのか子供なのか分からないその態度に苦笑を一つ。
本当に妖怪らしい妖怪だ、この子は。
「じゃ、私はこれで」
くるりと踵を返したレミリアを見て、フランドールは、あっ、と声を上げる。
だが、レミリアはくるりと振り返ってニヤリと笑う。
「お見送りくらいしていきなさい。ずーいぶんと仲が良いみたいだし」
「う、うるさいなあっ!」
フランドールがふしゃーっ、と威嚇をし、
レミリアは、くっくっく、と笑って地面を蹴り、紅魔館へと一足で飛び去って行った。
一瞬だけだが、この子なら本当に太陽を克服しかねないな、と本当に思った。
それくらい、レミリア・スカーレットは魅力的な吸血鬼だったのだ。
カリスマの具現。
なるほど、言い得て妙だ。
飲み込まれないように注意しないといけない。
そして、残されたのは僕とフランドールの二人だけ。
「恥ずかしい奴でごめん。気、悪くしてないなら良いんだけど」
傘を片手に、俯いたまま彼女は言う。
ここでからかうほど僕も野暮ではない。
前を向いたまま言う。
「全然恥ずかしい奴じゃないさ。この僕が認める数少ない妖怪に、彼女は名を連ねているよ。
スカーレットデビル、レミリア・スカーレット。
君が思っている以上に、あの子は偉大な妖怪だ」
そうだろう、と僕が問うとフランドールはむう、と頬を膨らませた。
「私は嫌いだけどなー。
自分は食べないくせに、私にだけにがい野菜食べさせるし、
賭け事やったら絶対勝つとか息巻いて、
まけたらぶーぶー愚痴言うし……大嫌い」
かつん、かつんと足音が響く。
十歩は歩いただろうか。
いつの間にか、フランドールの口元には、恥ずかしそうな笑みが浮かんでいた。
レミリアの事で僕に詫びた時の顔とは、もちろん全然違う。
ちょっとだけ、誇らしげな顔だ。僕が今まで見たことのない表情だ。
「大嫌いだけど……あんな奴でも、お姉様なんだよ。
それに、時々……本っ当に時々だけど……なんていうか、その……」
見れば、フランドールの顔は、真っ赤になってしまっている。
「……こっそりお菓子くれたり、咲夜から怒られてる時にかばってくれたり。
時々、優しいし……それに、ちょっとだけ格好良い時もある、かも……」
最後は蚊の鳴くような声だった。
だけど、僕にはそれで満足だった。
レミリアの仕事をあの値段で引き受けたかいがあったというものだ。
「僕も、レミリアは格好良い吸血鬼だと思うよ」
本心に多少の誇張を混ぜてそう言うと、
「……ガキだけどねー」
とフランドールは照れ隠しに憎まれ口を叩いた。
レミリアは嫌われ役を担っているつもりかもしれないが、もしかしたら。
もしかしたら、フランドールはレミリアのことを大好きなままで、外に出ることが出来るようになるかも知れないな、と僕は思った。
そして、一歩、二歩、三歩、四歩。
美鈴の横を会釈して通り過ぎ、僕は紅魔館の外に出た。
一歩、二歩、三歩。
フランドールは歩いて、そして紅魔館の敷地の内側、しかしその一番外側である門の前で僕を見上げた。
ひゅうう、と寒風が彼女の柔らかな髪を揺らす。
静かに時間が流れた。
やがてフランドールは右手を強く握りしめて、そして僕を見上げた。
「ねえ、香霖堂」
内と外の境界を挟み、僕らは対峙する。
しっかりと、視線を交わす。
レミリアよりも幼くて、
レミリアよりも弱く、
レミリアよりも無邪気で、
それでもやはり、
レミリアと良く似たとても綺麗なその目をじっと見つめる。
一呼吸を置いて、彼女は言った。
「いつかお姉様が許してくれたら、一人でお店に遊びに来ても良い?」
僕は笑って、彼女に背を向けた。
そして、一歩、二歩、三歩と歩いて、振り返る。
「いつでもどうぞ。香霖堂はお客様を心よりお待ちしております」
変な敬語、というフランドールの笑い声を背に、僕は歩き出した。
彼女の表情は、意図的に見ないようにした。
レミリアの計画には十年二十年かかるかもしれないと思っていたが、
案外今日明日にでも解決しそうな勢いである。
さすがは僕だ。これで三億円とは安い仕事である。
しかし、レミリアには優しくない兄であれと暗に言われた事だし、
あの子が来る時には酒には絶対手を出さないようにしようと思う。
でないとついついかわいがってしまうかもしれない。
頑張る子には優しいのだ、僕は。
こっそりと、僕は後ろを振り返ってみた。
紅魔館の時計台の上。
灼熱の太陽をものともせず、傘を片手に佇んでいる吸血鬼の姿を僕はみとめたが、目が合うことはなかった。
しかし、それは当然の事だと僕は思う。
なぜなら彼女はずっと、
しゃんと背筋をのばして歩く、たった一人の大切な妹を見守っていたのだから。
その優しげな紅い瞳で。
妹と同じ、紅い目で。
いつまでも、いつまでも。
「霖之助である必要性」という考えはとても素晴らしいと思います。
これからも与吉氏の想像する霖之助のお話を楽しみにしています。
原作にちりばめられた設定(それとて如何様に受け取れるのですが)から極端に逸脱して無い限り
後は読む側がどれだけアリと思うかナシと思うかだと思います。
そして自分から見て与吉氏の霖之助はほぼ非の打ち所のないアリです、毎回楽しませて頂いております。感謝感謝。
今回、文中の霖之助の口調ではなく思考の語尾が極僅かに不安定かな?と感じたのですが
後書きを見て納得しました、まだまだ氏の中でも明確に作りきれず苦労していたのですねw
それはそうとこの姉妹は可愛すぎます、けしからん!
そしていまいち報われない魔理沙に幸あれw
これからもがんばってください!
どのキャラも総じて可愛かったですが、パチュリーとの関係が良いですね。
お互い知識人として、ちゃんと認め合っていながらも憎まれ口をたたき合う関係w
最高です!!
後、気になった所が一つ。
>>パチェ、あんまりうるさいとホワイトアッシュの槍で串刺しにするわよ?
ここはパチェではなくレミィでは?
うわ尖ってんなーと思ってたら、角が集まってひとつの円になったような展開に圧巻。
ストイックなこーりんの視点のお陰で、前半の扱き下ろし具合が後半を良く引立てていたと思います。
でも全体としてはこーりんのかなり毒が強く感じたので、分量を加減するとなお完成度が高まると思います。
東方香霖堂を読んだ事がないのですが、このこーりんはかなりしっくりときました。
年始からいいSSをありがとうございます。
やはりあなたの書く霖之助は実にいいです。
本当にみんなのお兄ちゃん状態ですね。
三億円は幻想入りしていたのか。
これしかいえません。
最後にはきっちりと収まって綺麗な形になったように感じられた。
いい物見せてもらいました
そんな彼はみんなから大人気。
あと与吉さんのレミリアは良いですね、ホント
れみりゃもふらんもかわいいw
氏が原作の霖之助を目指しているのなら実際はパチュリーにあそこまで喰ってかかったりせず、適当に返しながら内心で大いに見下してるくらいが丁度いいのではないでしょうか
まぁ、やり取り自体は好きだったんですが
どちらも閻魔様に好かれそうにはありませんな
香霖堂の森近霖之助とはどこか離れてたと思います。
うまく言えないけど、パチュリーとの口喧嘩のところで「彼」なら煽るよりももっと知識自慢して知識だけで圧倒しようとしてたんじゃないかな。
香霖堂では霊夢達に対して先生のように知識自慢してたイメージ強いので。
勉強させていただきました。
某所の話の流れを知っていればより楽しめる話だったと思います。
ただ、話自体はあちらこちらに飛び火していて本題こそが蛇足、というか、終わらせるためにこういうオチになった、という気が。
しかし、それを話のテンポと技量でカバーしているのは物凄い。
香霖堂本編はもっと落ち着いた雰囲気で、無知な霊夢や魔理沙に自信満々に薀蓄を語りつつ、全力で明後日の方向へ向かう霖之助を読者がにやにやする、という印象を持ってます。
社交に乏しく、対等の相手のいない霖之助は狭い世界で結論を出して悦に浸っている、というか。なので、パチュリーと全力でケンカする霖之助もありかな、という気がしました。
霖之助は傍からみていて面白いでしょうが、それに恋愛的な魅力があるかどうかは別なので、その辺り違和感がどうしても。小町を選ぶくだりとか面白かったですけどね(笑)
ただ、パチュリーが自分の知識をひけらかす為とはいえ、レミリアの事馬鹿にしすぎじゃない?
さて、霖之助のキャラクターですが、これがまた難しい。
原作で接点のあるキャタクター相手ならばどんな行動を取るかの予測もできますが、初対面を描くとなるとまた一層難しい。
今回、氏の試みについては「意識して書いてる」というのがなんとなく読み取れたのが減点箇所かな?
ただし相変わらず筋肉痛になりかけている私の頬をどうにかして欲しいのは確か。
と思ったらやはり可愛らしいじゃないか。
ただしちょっといきすぎな気もしました
それと霖之助を真に迫るものにするのであれば、香霖堂本編に登場した人物との本編からあまり日が経過していない時期の後日談的な話をやってみたらいかがでしょうか
それぞれのキャラとの関係性がいいです。特にパチュリー。
粋がる咲夜さんも可愛いし、紅魔組はいい家族だなあ。
というかみんなが素敵過ぎて良いですね。
しかしお嬢様ww
カリスマなんですねこれが……
バカやってもカッコよくてもみんなに愛されるそれがカリスマそんな感じがしました。
弾幕とは別に、舌戦でも本気で遊ぶ幻想郷が好きです。
悪いわけではなく、こういうのも与吉さんの香霖にはあるのか…という感じで。
僕はあなたの香霖を見て、自分も書きたいなと思ったりして某夜の方のスレに稚拙ながらも投稿したりもしました。
僕自身は、本物は神主が書けばいいし、書けないとも思いますし与吉さんには与吉さんの思う香霖像があると思うので、それを表現して欲しいと思っています。
本物に近い+与吉さんの香霖が、読みたいのです。
すごい悩んでそうですが、次の作品も、楽しみにしております!
霖之助の性格はかなり真に迫ってると私は思いますよ~、
今回は毒が強かったって意見がありますけど、それは相手がパチュリーだったからじゃないかな~と。
やっぱり同属嫌悪を感じたんじゃないですかねぇ二人とも、霖之助も結構青い部分をもってますしねw
原作イメージでは、靈夢や魔理沙に解説しつつ、そのままノってきて、自分の世界へ入り込んでいくようなイメージがある。
あと、霖之助はものすごい身内びいきな気がする。
内心では文句言いまくりだったり、見下していたりするけれど、気を許してる人間には徹底的に甘い。
逆に妖夢とか、店に訪れたばかりで面識のない客に対して冷たく、ほぼ無関心。
無関心を貫いても気にせず店に来て、一言二言でも話をして関係を作っていくタイプじゃないかと。
だから、一度気を許した相手だと一緒にいても嫌ではないし、相手も、特に何があるわけでもないけど嫌じゃない。
絶対に必要じゃないけど、ほんの少しの変化を楽しみあってるような空気というか。
まあ、気難しい古書店の店主って感じ?
常連を相手にして、お互い本を読んでるだけだけど、それでもまた来るわっていう関係に近いかも。
↑6つのコメント
>タダより高いものはない
を見て思わず寒気が走った
あれは、そういうことを言ってたのか…うまいわー…
コメントする前に更新するべきでしたorz
話の構成とセンスは脱帽もの。各キャラの体温すら感じ取れる描写に惹きこまれました。
霖之助のキャラに関しては、私の主観ですが、
毒や薀蓄は並べたとしても、相手に譲歩を促す話し方だったようなイメージを持っています。
香霖堂全壊の負い目は持っていたとしても、初対面で相手の意見を遮り上書きするような、
ましてや、紅魔館を相手に無謀ともいえるような立ち回りをする思慮の無さは、ちょっと違和感を感じました。
もっとも、その違和感を以ってしても納得させられるこの作品は、むしろこの性格の方がいいのでは、とさえ感じられました。
イチ読者としては、完璧に誂えた霖之助に拘るよりも、可能性を提示して、闊達に動き回る霖之助を見たいです。
よい方向に傾けたいとはおっしゃられてはいますが、あちこちに傾けて中身を零さないで欲しかったりします。
あえて指摘するとすれば、毒を撒く勢いが強すぎるくらいでしょうか。
これ、コメント読んで初めて「タダで引き受ける」って意味なんだと分かった
なるほど、タダより高いものはない、ね
レミリアが泣いた理由が分かったよ
言い回しうまいなぁ
非常にレベルの高い作品だと思います。
勝手なことですが、次の作品にも期待を寄せさせてください。
話自体はとても面白かったです。
本当に文章上手だなぁ
紅魔館の面々がすごいいい味出してますねぇ
何が言いたいかっていうと、霖フラ最高!!
レミリアはカリスマに満ち溢れ(?)紅魔館ファミリーは良いですねww
霖之助とフランのコンビは与吉さんの作品を順番に見てるとほんとに良い感じで…
自然とニヤニヤしてしまいますよ
次は、話にも出てきた小町とのお話とかも読んでみたいです。
では、これからもガンバってください。応援してます。
霊夢と魔理沙がかわいいなぁ
ぶっちゃけると永遠亭との絡みがみた(ry
この作品内では毒が強いなと感じましたが、
それはそれでアリだと思います。(パチュリーとの舌戦は最高でしたw)
それにしてもレミリア、フランが可愛い・・・
「この世で最も高い値段」=「タダ」
という意味を理解して泣き出すレミリア・・・その可愛さ、反則だぜ。
愛する妹のためなら悪役にでもなるという姿勢も格好良い
そしてそれを影ながら支える紅魔館ファミリーと霖之助も格好良い
霖乃助はいい男だなあ
もう少し落ち着いた感があるといいと思います。
序盤は小物臭漂うお嬢様に涙がちょちょぎれてたけれども読みきったら別な意味で涙出るかと思いました
あとこまっちゃんの評価の高さに驚いた。よき友人なのだろうなあ
その乾きっぷりを残しつつ、少し感傷的な面を見せたりもするあなたの
霖之助像が好きです
紅魔館組と霖之助にGJ!
みょんのことかぁぁぁ
与吉香霖堂シリーズを年初めから追いかけいい仕事してますね
さすが商人、分かってらっしゃる
面白いSSをありがとうございます
結果;貴方は神ww
>慌ててレミリアが両手をばたばたさせるが
かわいいww
他の作品も読んでおこう。
貴方の台詞のセンス好きですわ。
某スレで色々言われていたのは知っていますが、ここまで急激な転回をする必要があったのでしょうか?「与吉氏の霖之助(達)は優しすぎる」と言うなら、どうして「これがウチの霖之助だ、文句あるか」では駄目だったのでしょうか?
私としてはそこら辺こそ与吉さんの醍醐味だと思っていたので、酔ってただの猫をかぶってただのであっさりこれまで積み上げたキャラが片付けられてしまったのではたまったものではありません。
この作品は、逆方向にアクの強くなりすぎた霖之助に違和感を覚えなければこれはこれで十分面白い部類に入るのでしょうが、私にとっては本作の方が違和感が強いです。実際、これ以降氏の作品は楽しむことができなくなりました。ただただ残念です。