Coolier - 新生・東方創想話

チープトリック

2008/12/29 18:56:30
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 永遠亭の中心部の三畳間には大きな薬品棚がある。
棚には所狭しと壺が置かれていた。
言うまでもなくそれらは永琳の所有物であり、用心深い彼女は管理を徹底していたが、長年の献身のかいあってこの度、ウドンゲが棚の管理を任せられることになった。
 壺は言うまでもなく高級品で青磁、白磁と、どれもいわゆる「いい仕事」のものであったが、中身の薬の価値もまた凄まじいものであった。
 液体、粉末の差はあれど、一つまみが人間三百人分の価値に匹敵するもの、千年に一度咲く花の、千本に一本からようやく採取するものなど非常識的価値を誇っていた。

 この日もウドンゲは壺周りの埃取りと品質検査にあたっていた。
責任重大な仕事ではあるものの誇らしいものであった。
 ウドンゲは寒いのも忘れて、一心不乱に壺を磨いていた。
 低い段から順々に磨いて、最後に最上段を磨くのが彼女の癖であった。
 この日も順調に仕事は進み、ウドンゲはついに最上段左手の黒塗りの壺に手を伸ばした。
 上部の壺を磨き、内容量を見るためには、一度手元に下ろさなければいけないのだ。
この作業は腰に負担がかかる。
 ウドンゲの手はきっちりと左右から黒塗りの壺を掴んで抱えたが、熱心に作業する余り、手に汗が付着していたことに気付かなかった。
 凹凸の少ない丸いフォルムの掴みにくさと相余って、壺はあっという間にウドンゲの手の間をすり抜け畳の上に落下した。
 汗が、と後悔するも遅く、蓋が飛び、黒塗りの壺は白い粉薬を撒き散らしながら畳の上を転がった。
 幸いに壺は割れなかったものの、粉末は八割方が薄暗い座敷に撒き散らされた。

 ウドンゲはこの粉末が鎮痛剤であることを思い出して安心し、大きく息を吐いた。
 ウドンゲはこぼれた薬を横目に、出入り口を凝視した。
この三畳間には出入り口が一つしかない。

「誰か」

 声を掛けてみたが、返事は無かった。
近くには誰もいないのだろう。
 先ほど壺が落下した際の騒音ですら、誰も駆けつける様子がなかったのだ。
 ウドンゲは迷うことなく壺を起こすと、畳の上に散らばった粉末をかき集めはじめた。
袖が白く汚れるのも構わず両手一杯に粉薬を掴み、壺の中に注ぎ込んだ。
 無論、粉薬は大量に散らばったため一度には回収しきれず、ウドンゲは一心不乱にその動作を繰り返した。
 その動作は、親兎が巣穴を掘る行為によく似て、丁寧で注意深く、それでいて必死なものだった。
 必死の作業によって、ようやく粉薬の大部分は壺の中に戻された。
 畳の上の塵芥もいくらか混ざってしまったが、何のことはない。

 直後、軽快な音とともに部屋が一瞬照らされ、また静かになった。
 驚いたウドンゲが眩しさに喘ぎながら、手を止めて戸口の方を振り向くと因幡 てゐがポラロイドカメラを持って立っていた。
 てゐは友好的な笑みを浮かべて、軽快な足取りでウドンゲに歩み寄った。

「ウドンゲさん」

 こいつは、いつからこのように気持ちの悪い話し方をするようになったものか。
乾きかけていたウドンゲの心に再び雨雲が湧いてきた。

「よく、撮れていると思いません?」

 ポラロイドカメラが一枚の写真を吐き出し、てゐはそれをウドンゲの目の前に突きつけた。
形相凄まじいウドンゲがまさに壺の上から薬を注いでいる場面であった。

「何ですか」

 ウドンゲが呟いて素早く写真を奪おうとしたが、てゐは鼻息一つして写真を懐に入れてしまった。
 奪おうとした手は空を切って空振りした。
 ウドンゲは顔を真っ赤にして、てゐに掴みかかった。

「返しなさい。冗談もいい加減にしないと」

 ウドンゲの目は常時に輪をかけて充血し、耳は真っ直ぐ天を向いていた。
それ以上に心臓の変化は凄まじく、恐ろしい程の間隔で血が流れ込んでいた。

「冗談」

 てゐは口を斜めにひん曲げて笑った。
悪党にありがちな笑い方であった。

「いい加減にしないと、どうするんですか」

 てゐはウドンゲが自分の襟首を締める力が弱ったのを見て取った。

「「師匠」、でも呼びますか?」

 ウドンゲは答えず、ただ弱々しく襟首を掴んでいた。
何と嫌な奴に見つかってしまったものか、ウドンゲは困窮した。

「呼べませんよね。呼んでもいいですけど」

 てゐはいかにも心得た風にウドンゲの肩を叩いた。

「離していただきましょう」

 ウドンゲが静かに手を離すとてゐは何を思ったか下を向き、畳の上に薄く残った粉末をかき集め始めた。
ウドンゲは下唇を噛んだ。

「何をしている」

「早く片付けないで誰か来たらどうするんです、さ」

 てゐの言うとおりであった。
ウドンゲは何も言い返せずてゐに言われるまま薬をかき集め元通りに封をして、壺を棚の上に置いた。
 まだ畳の隙間に粉末が残っていたが、てゐが息を吹きかけると空気中の塵に紛れてしまった。
てゐは頭を上げると、ウドンゲに微笑みかけた。
 ウドンゲはこの後洗濯をしなければならないのだが、てゐが何か思惑を言い出すのを待った。

「あれ、よく分かってるじゃないですか」

 てゐは笑った。
背の高いウドンゲはてゐを見下ろす形になる。

「何が欲しいんです」

「私、最近、本業の方が奮わなくて」

 ウドンゲは黙って、話しを聞いた。

「こんな意地汚い真似はしたくないんですよ。本当に。でも、仕方ないんです」

「何が欲しい」

 ウドンゲが問い詰めると、てゐは手の平を突きつけて、まあ、焦るな、と宥めた。

「里にお店が出来たって、知ってます?」

「知りません」

 本当にウドンゲは知らなかった。

「宝石店なんです。で、そこに髪飾りがあるんですが、実に綺麗な青玉と銀の髪飾りで。いや、私も色々苦労したんですけど、どうしてもお金が足りなくて」

「いくら足りないのです」

 てゐはウドンゲの耳元に唇を近づけ、金額を囁いた。
ウドンゲは驚きの余り、目を見開いた。

「そんなに」

「ちょっと貸して欲しいな、って」

 言うまでもないが、てゐに貸した金は戻ってきた試しがない。
元より自分で金を出す気など、さらさらないのだ。

「今すぐですか」

 てゐは笑った。

「助かりますよ。出来れば、今日明日中に」

「写真は」

「そうそう、写真と交換で」

 てゐは豪快に笑うと、部屋を出て行った。

「多少の交渉には応じますから」






 洗濯を終え、昼飯を食べに広間へ顔を出したウドンゲは永琳に手招きされた。

「ここで、食べなさい」

 永琳は自分の隣を指さした。
ウドンゲは礼を言ってから、席に座る。
しばらくは他愛も無い話しをしていたが、そこへてゐがやって来た。

「永琳様。ここよろしいですか」

 てゐは永琳の向かい、即ちウドンゲの斜め前を指さした。
永琳は快諾して、てゐを座らせる。ちなみに輝夜は自室で食事を摂っている。
 ウドンゲは一刻も早くそこから逃げ出したく思ったが、仮に逃げた所でどうなるわけでもなく食事も半分ほど残っていたので、目を反らして食事を続けた。

「てゐは最近、よく働くわね」

「そうですか」えへへへへ。

 もう、止めろ。
そんな会話など止めてしまえ。

「あれ、この白米。畳が混じってますね」

 黙りこんで味噌汁を啜っていたウドンゲの顔がてゐの方を向いた。

「と、思ったらひじきでした」

 てゐは冗談らしく舌を出すと、永琳が「あらあらあら」と笑った。
急に二人がグルのような気がして、まとめてぶち殺してやりたく思った。

「ごちそうさまでした」

 しかし、それには及ばず、てゐはあっという間に食事を済ませ、立ち上がった。

「てゐは美味しそうに食べるのね」

「最近、食事が美味しいもので」

 ウドンゲは右手の爪を噛み、もう片手の爪でがりがりと机を掻きむしり、挙動不審に目を彷徨わせていたが、てゐの後を追うようにして静かに席を発った。






大方の寝静まった真夜中、薄暗いトイレの中、てゐは便座に腰掛けながらメモ帳を開いた。

<・  髪飾り  
 ・  新作ドレス
 ・  限定品バッグ
 ・  指輪
 ・  新作バッグ(保留)                                >

 てゐは笑いをこらえながら、髪飾りに斜線を引いた。
 ウドンゲは既に自分の手の中に落ちたも同然である。
 次の目標は人里の半獣であった。
これまた、楽勝な相手だ。
騙す方法を考えるだけで、心が弾んだ。
 明日から早速始めるとしよう。

 が、てゐは間もなく異変に気付いた。
 この個室には紙が見当たらない。
背後の戸棚を開けても予備すら見当たらない
 そんな馬鹿な、と思った矢先、ドアがノックされた。

「お困りですか」

 見知った声だった。

「よくご存じで」

「隣の個室にも、どこにも紙はありませんよ」

 微かな希望まで打ち砕くような発言であった。
 てゐはようやく、自分がウサギを追い詰めていたことに思い当たった。
逃げ道を探すも、冗談のように小さな窓の他には、眼下に穴が一つ開いているばかりだった。

「どうします」

 てゐは難しい顔をしたが、状況は変わらなかった。

「OK。交渉しようじゃないか」
よいお年を。
来年もよろしくお願いします。


>コメント12様
失礼しました。変換ミスです。ご指摘ありがとうございました。
yuz
http://bachiatari777.blog64.fc2.com/
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コメント



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1.80名前が無い程度の能力削除
いいぞ鈴仙、たまにはやり返せw
7.90名前が無い程度の能力削除
黒い鈴仙ktkr
8.90名前が無い程度の能力削除
これはいい意趣返し
本当に、なんかチープだ
12.90名前が無い程度の能力削除
しょっぱなの「永遠邸」
あれって「永遠亭」では?

そんなことより
黒鈴仙wいいぞ、もっt(ry
14.80名前が無い程度の能力削除
題名と写真で真っ先にあのスタンドが頭に浮かんだのは俺だけでいい
18.60名前が無い程度の能力削除
いつおんぶするのかとおもった。
小ネタとしておもしろかった。
22.80名前が無い程度の能力削除
おんぶして ねっ?
27.80名前が無い程度の能力削除
黒いな
30.80名前が無い程度の能力削除
青ざめたハイウェイ聞いてこよう