いつも通りの神社の宴会。今日の酔った勢いの余興は告白大会になった。
酔ったレミリアが紅魔館の皆を愛していると叫び、同じく酔った藍が狐うどんと稲荷寿司の油揚げの違いについて切々と語る。
私自身も皆の前で言いたい事がある。こんな状況に自分を追い込まないと言いたい事も言えない小心者の自分が少し情け無い。
ついに私の番が来た。用意された台に昇る。緊張で膝が笑って物凄い事になっているが、ここまで来たらやるしかない。そして叫ぶ。
「アリス!好きだ!今日から私たちは相棒から恋人になろう!」
やっと言えた。どうにも自分には捻くれた所があり中々正直になれない。
だからこそ何か言わざるを得ない状況に自分を追い込む必要があった。
見ると席を立ったアリスが近づいてくる。そして私の前に立った。
次の瞬間何が起きたか分からなかった。乾いた音と共に視界が揺らぐ。
少しづつ頬が痛み始めアリスから平手打ちをされた事にやっと気付く。
神社の境内が水を打ったように静まり返る。
「お願いだからそんな事言わないで…!」
そう言い残すとアリスがそのまま飛び立つ。
私は何が起きたのかまだ理解できず頬を押さえたまま立っていた。
霊夢の声で我に返る。
「魔理沙!追いかけないの!?」
でも体が動かない。アリスから拒絶された事を頭が理解し始め行動する事を拒絶する。
そのまま崩れるように座り込んでしまった。
その日の宴会はそれでお開きになった。私の告白失敗でとても騒げる雰囲気じゃなくなったのが大きい。
ぼんやりとさっきの事を考えながら片づけを手伝う。何人か励ましてくれたようだが覚えていない。自分がここに居ない感覚だ。
片づけが終り魔法の森の家に帰って今日の事を反芻する。
アリスは何で拒絶したんだろう。
何だかんだで私とアリスは息の合うパートナーだと思っていた。
二人一緒に二度の異変解決。
宴会がある度に私とアリスは隣り合って座るのが普通。
日常生活も調味料からマジックアイテムまで貸し借りする仲で、よくアリスの家にお茶を飲みに行くのが習慣。
そんな日常生活の中で私はどんな時も優しいアリスに好意を抱いた。アリスの方も私の事を憎からず思ってくれているとばかり思い込んでいた。
でもそうじゃなかった。
私もアリスも女同士だから告白された事に嫌悪感を抱いたんだろうか。
あんな宴会の場で告白した事に腹を立てたんだろうか。
考えても仕方ない。せめて明日、アリスの家に行って私の想いが真剣だって事は伝えなきゃ。余興でからかい半分に告白した訳じゃない。
もう拒絶されたんだしアリスから嫌われた事実は変えようが無いけど、これだけは伝えたい。
次の日、ほとんど眠れなかったが、起きてすぐにアリスの家に向かう。
家に着いて呼び鈴を鳴らしても出ない。人の気配もしないしどうやら留守のようだ。
行きそうな場所を考えて神社が思い浮かんだ。霊夢はその性格から色んな人妖から相談を受ける事も多い。すぐさま神社に向かう。
神社に近づくと霊夢がこちらに気付いて何か荷物を用意しているのが見えた。
あの包みは何だろうか。
神社に降り立つと霊夢が沈んだ表情でこちらに歩いてくる。
「霊夢、アリスを知らないか?」
「さっき来たわよ」
そうか。入れ違いになったのか。なら今は魔法の森に帰ってるところか。
「ありがとさん。アリスの家に行ってくる」
「待って」
霊夢が呼び止め石畳の上にある包みを開く。
中身は私がアリスに貸したマジックアイテムや魔道書だった。
「何で霊夢がこれを」
「今朝アリスに渡されたのよ。伝言付きで。借りた物は返すわ。私が貸した物は返さなくて良いから二度と顔を見せないで、って…」
「そんな…」
私はどこまで嫌われたんだろうか。文字通りに目の前が暗くなる。
霊夢がお茶に誘ってくれたが、とてもそんな気分じゃない。そのまま家に戻る。
「私に残ったのはこれだけか…」
家に戻った後、アリスが残した道具の数々を一つ一つ手に取る。眺めているとアリスとの思い出が蘇り涙が出そうになってきた。
この魔道書は永夜異変の時に貰った魔道書。
精錬装置はキノコの研究を見学したアリスが貸してくれた物だ。
アリスから薦められた紅茶の茶葉もある。もう飲む事は無いだろうけど。
一つ一つ整理していると人形に手が触れた。
「そういやこの人形壊れてたっけ」
この間、地底に潜った時にアリスが護衛に付けてくれた人形の一体だ。この人形だけ通信機能が道中で壊れてしまいそのまま譲り受けた。
地底に行った時は本当に嬉しかった事を覚えている。アリスがケープを貸してくれた上に過保護とも思える程に人形も貸してくれた。好かれているのだと思い込んだ。
今思えばそれは私を心配して貸してくれたのではなく、私に何かあって調査が滞るのが嫌で色々貸してくれたのだろう。全部勘違いだったのだ。
「アリスとの一番新しい思い出だし、壊れたままは嫌だな」
にとりに頼めば修理してくれるだろうか。
明日、何かお土産を持って修理を頼もう。そう考え整理を切り上げ、早めに就寝する事にした。
人形と一緒に寝たせいか変な夢を見た。アリスが一人で泣いている夢だ。暗い部屋の中で一人泣いていた。
変な夢のせいで目覚めは最悪だったが妖怪の山へ向かう。
滝の近くで椛と将棋を指しているにとりを見つけた。今日は普通の将棋で暇を潰しているらしい。椛も私の事を見逃してくれたみたいだ。大方、あの天狗が喋ったのだろう。
「にとり、頼みたい事があるんだが」
私の顔を見たにとりが明るく声を出して近寄る。
「何かな?」
言葉にこそ出さないが、私を気遣っているのが雰囲気から分かる。いつもより妙に声が高くて視線が泳いでいる。
「この人形、中にある通信装置を修理して欲しいんだけど」
途端、にとりが顔を曇らせる。
「それアリスの人形?もう忘れなよ。皆の前であんたを張り飛ばしたんだよ?」
「良いから直してくれ。直してくれたら報酬にこのピクルス払うからさ」
「ピクルス?早苗さんが言ってたキュウリの漬物か。…一応引き受けるよ」
「助かるぜ」
にとりが瓶を椛に預け離れた滝の奥に引っ込む。修理用の道具を取りに行ったのだろう。
しばらく時間も掛かりそうなので将棋盤の前に座っている椛に話しかける。
「なぁ、お前の能力って千里眼みたいな能力なんだよな?」
「そうだけど」
「アリスの家とか見れるか?」
昨日見た夢がどうも気になる。何であんな夢を見たんだろうか。
「私の能力は覗きに使ったりしない。見張りって役目があるんだから。…しばらくは射命丸様から放っておいて良いって言われたから、今日は貴女を見逃したけど」
文もなのか。あの件以来、皆に心配かけてるんだな。良い奴らばっかりだ。
落ち着いたら皆に謝ろう。
しばらく椛と話しているとにとりが現れた。もう修理が終わったらしい。
「パーツが無かったから受信機能の修理しか出来なかったよ。それでも良いかな?」
「感謝するぜ。十分だ。早速試していいか?」
アリスから教わった通りに人形の後ろにある通信機能を入れる。
しばらく雑音が流れた後に声が聞こえた。
「魔理沙…」
アリスの声だ。しかも押し殺したような低い声だった。通信状態が悪い事を引いても普通じゃない事は確かだ。鼓動が早くなる。
「椛!アリスの家を見てくれ!場所は魔法の森で全体的に白っぽい家だ!」
「だから私の能力は」
「さっきの声聞こえただろ!?お願いだから!」
「分かったわよ…」
椛が目を閉じて集中しだした。見た物を小声で呟いている。
「この家は廃屋か」
「誰も居ない家だ。留守かな」
「お爺さんが大鍋で何かかき混ぜてる」
「人形だらけの家…金髪の人が泣いてるみたい」
その言葉と同時に体が飛び出した。
「ありがとな!今度肉持ってくるから!」
そのまま最高速度まで一気に加速する。昨日見た夢が正夢になるなんて。
すぐに行かなきゃ。アリスが泣くのは嫌だ。何があったか知らないがすぐに助けてみせる。
嫌っている私を呼ぶ状況だ。余程切羽詰っているのだろう。
やっとアリスの家に到着する。何時間も掛かった様な気がする。
そのまま家の扉を叩く。
「アリス!大丈夫か!?居るなら返事してくれ!」
扉の向こうから声がした。
「魔理沙?魔理沙なの?どうして此処に…」
「アリスから貰った人形、あれから泣いている声がしたんだ!何処か具合でも悪いのか!?」
しばらくの沈黙の後、扉が開いた。
「入って」
一言だけ言うとそのまま家の奥に消えた。すぐに私も家に入る。
リビングに行くとアリスが机の上で腕を組んでうつむいていた。
「どっか気分が悪いのか?永遠亭で診てもらうか?」
私の質問に答えず逆に質問を返された。
顔はうつむいたままで表情は分からない。
「何で来たの?」
そんなの決まってる。
「心配だから。まだ好きだから」
「あんな事した私を?」
「あれは私が悪かった。時と場所をもっと考えるべきだった。アリスが怒っても無理は無い」
そう、とアリスが呟き顔を上げた。相変わらず綺麗な顔だったが眼がおかしい。
焦点が定まっていない眼だ。
「ねぇ魔理沙、私の事好き?」
「当たり前だ」
「私の事、抱きたい?」
いきなり凄い事を聞かれた。
「抱きたいって言うか、むしろアリスに色々して欲しいって言うか…」
何言ってるんだ私。いきなり何変な事口走ってんだ。
アリスが薄く笑う。そして傍らの洋裁鋏を手に取った。
「じゃあ…これでも?」
言い終わると同時にアリスが自分の左腕に鋏を突き刺した。
「アリス!」
悲鳴の様な声が出た。慌てて立ち上がる。
「大人しく見てなさい」
アリスが妖気を発しながら威圧する。
そこでやっと妙な事に気付いた。血が流れてない。アリスが痛がる様子も無い。
アリスが鋏を使い腕を切り開いていく。肉が切り取られ関節部分が完全に見える状態だ。
そこで見た物に思わず息を飲む。
骨の形が人間の関節じゃない。この形は鈴蘭畑で見た毒人形と同じ丸い関節だ。
「義肢…なのか?」
「もっと面白いもの見せてあげる」
関節の切開が終わったアリスが今度は左目に手を当てて眼球を取り出した。黄金のように煌く綺麗な硬質の球体が机の上を転がる。
アリスが眼球の無い眼窩をこちらに向ける。そしていつも抱えている魔道書を机に置いた。
「分かった?私は人形なの。究極のグリモワールを完全に扱いこなす人形。姉さん達みたいな人間じゃ扱えなかったから作られたのよ」
「魔理沙、貴女は人形を好きになるの?人形を抱きたいの?人形から抱かれたいの?」
「貴女ならきっと他の誰か良い人が見付かる。だから私の事は忘れて」
言葉がアリスの口からこぼれる度に震えている。窪んだ眼窩から涙が流れている。
何で。
「何で自分から私を遠ざけようとするんだよ!」
アリスの肩が跳ね固まる。
「つまりこういう事か?自分は人形だから駄目だって言いたいのか?そんなのどうだって良い!」
私を張り飛ばしたのも、霊夢に道具を預けたのも全部私の為にやった事?
そんなの認めない。アリスが苦しんで何が私の為だよ。全然嬉しくない。
「どうでも良くは無いでしょう。子供だって…」
「妖怪、しかも同性の女の子を好きになったって気付いた時から、そんな事覚悟してる!」
徒花、実を結ばない花で良い。枯れるその時まで好きな花の側に居る。
「魔理沙…」
「アリスが人形でも構わない。私が好きになったのはアリスって事実は変わらない」
アリスの顔を真正面から見据える。
「人形で私の事呼びかけてくれたろ?何かあれば今日みたいに駆けつけるから。アリスは私の事好きか?」
「うん…」
「じゃあ何の問題も無いじゃないか」
「私は魔理沙の事が好きでも良いの?また今までみたいな関係に戻れるの?」
やっとアリスの口から好きって言葉が聞けた。
「違うよ。今日から私たちは相棒から恋人になるんだ」
酔ったレミリアが紅魔館の皆を愛していると叫び、同じく酔った藍が狐うどんと稲荷寿司の油揚げの違いについて切々と語る。
私自身も皆の前で言いたい事がある。こんな状況に自分を追い込まないと言いたい事も言えない小心者の自分が少し情け無い。
ついに私の番が来た。用意された台に昇る。緊張で膝が笑って物凄い事になっているが、ここまで来たらやるしかない。そして叫ぶ。
「アリス!好きだ!今日から私たちは相棒から恋人になろう!」
やっと言えた。どうにも自分には捻くれた所があり中々正直になれない。
だからこそ何か言わざるを得ない状況に自分を追い込む必要があった。
見ると席を立ったアリスが近づいてくる。そして私の前に立った。
次の瞬間何が起きたか分からなかった。乾いた音と共に視界が揺らぐ。
少しづつ頬が痛み始めアリスから平手打ちをされた事にやっと気付く。
神社の境内が水を打ったように静まり返る。
「お願いだからそんな事言わないで…!」
そう言い残すとアリスがそのまま飛び立つ。
私は何が起きたのかまだ理解できず頬を押さえたまま立っていた。
霊夢の声で我に返る。
「魔理沙!追いかけないの!?」
でも体が動かない。アリスから拒絶された事を頭が理解し始め行動する事を拒絶する。
そのまま崩れるように座り込んでしまった。
その日の宴会はそれでお開きになった。私の告白失敗でとても騒げる雰囲気じゃなくなったのが大きい。
ぼんやりとさっきの事を考えながら片づけを手伝う。何人か励ましてくれたようだが覚えていない。自分がここに居ない感覚だ。
片づけが終り魔法の森の家に帰って今日の事を反芻する。
アリスは何で拒絶したんだろう。
何だかんだで私とアリスは息の合うパートナーだと思っていた。
二人一緒に二度の異変解決。
宴会がある度に私とアリスは隣り合って座るのが普通。
日常生活も調味料からマジックアイテムまで貸し借りする仲で、よくアリスの家にお茶を飲みに行くのが習慣。
そんな日常生活の中で私はどんな時も優しいアリスに好意を抱いた。アリスの方も私の事を憎からず思ってくれているとばかり思い込んでいた。
でもそうじゃなかった。
私もアリスも女同士だから告白された事に嫌悪感を抱いたんだろうか。
あんな宴会の場で告白した事に腹を立てたんだろうか。
考えても仕方ない。せめて明日、アリスの家に行って私の想いが真剣だって事は伝えなきゃ。余興でからかい半分に告白した訳じゃない。
もう拒絶されたんだしアリスから嫌われた事実は変えようが無いけど、これだけは伝えたい。
次の日、ほとんど眠れなかったが、起きてすぐにアリスの家に向かう。
家に着いて呼び鈴を鳴らしても出ない。人の気配もしないしどうやら留守のようだ。
行きそうな場所を考えて神社が思い浮かんだ。霊夢はその性格から色んな人妖から相談を受ける事も多い。すぐさま神社に向かう。
神社に近づくと霊夢がこちらに気付いて何か荷物を用意しているのが見えた。
あの包みは何だろうか。
神社に降り立つと霊夢が沈んだ表情でこちらに歩いてくる。
「霊夢、アリスを知らないか?」
「さっき来たわよ」
そうか。入れ違いになったのか。なら今は魔法の森に帰ってるところか。
「ありがとさん。アリスの家に行ってくる」
「待って」
霊夢が呼び止め石畳の上にある包みを開く。
中身は私がアリスに貸したマジックアイテムや魔道書だった。
「何で霊夢がこれを」
「今朝アリスに渡されたのよ。伝言付きで。借りた物は返すわ。私が貸した物は返さなくて良いから二度と顔を見せないで、って…」
「そんな…」
私はどこまで嫌われたんだろうか。文字通りに目の前が暗くなる。
霊夢がお茶に誘ってくれたが、とてもそんな気分じゃない。そのまま家に戻る。
「私に残ったのはこれだけか…」
家に戻った後、アリスが残した道具の数々を一つ一つ手に取る。眺めているとアリスとの思い出が蘇り涙が出そうになってきた。
この魔道書は永夜異変の時に貰った魔道書。
精錬装置はキノコの研究を見学したアリスが貸してくれた物だ。
アリスから薦められた紅茶の茶葉もある。もう飲む事は無いだろうけど。
一つ一つ整理していると人形に手が触れた。
「そういやこの人形壊れてたっけ」
この間、地底に潜った時にアリスが護衛に付けてくれた人形の一体だ。この人形だけ通信機能が道中で壊れてしまいそのまま譲り受けた。
地底に行った時は本当に嬉しかった事を覚えている。アリスがケープを貸してくれた上に過保護とも思える程に人形も貸してくれた。好かれているのだと思い込んだ。
今思えばそれは私を心配して貸してくれたのではなく、私に何かあって調査が滞るのが嫌で色々貸してくれたのだろう。全部勘違いだったのだ。
「アリスとの一番新しい思い出だし、壊れたままは嫌だな」
にとりに頼めば修理してくれるだろうか。
明日、何かお土産を持って修理を頼もう。そう考え整理を切り上げ、早めに就寝する事にした。
人形と一緒に寝たせいか変な夢を見た。アリスが一人で泣いている夢だ。暗い部屋の中で一人泣いていた。
変な夢のせいで目覚めは最悪だったが妖怪の山へ向かう。
滝の近くで椛と将棋を指しているにとりを見つけた。今日は普通の将棋で暇を潰しているらしい。椛も私の事を見逃してくれたみたいだ。大方、あの天狗が喋ったのだろう。
「にとり、頼みたい事があるんだが」
私の顔を見たにとりが明るく声を出して近寄る。
「何かな?」
言葉にこそ出さないが、私を気遣っているのが雰囲気から分かる。いつもより妙に声が高くて視線が泳いでいる。
「この人形、中にある通信装置を修理して欲しいんだけど」
途端、にとりが顔を曇らせる。
「それアリスの人形?もう忘れなよ。皆の前であんたを張り飛ばしたんだよ?」
「良いから直してくれ。直してくれたら報酬にこのピクルス払うからさ」
「ピクルス?早苗さんが言ってたキュウリの漬物か。…一応引き受けるよ」
「助かるぜ」
にとりが瓶を椛に預け離れた滝の奥に引っ込む。修理用の道具を取りに行ったのだろう。
しばらく時間も掛かりそうなので将棋盤の前に座っている椛に話しかける。
「なぁ、お前の能力って千里眼みたいな能力なんだよな?」
「そうだけど」
「アリスの家とか見れるか?」
昨日見た夢がどうも気になる。何であんな夢を見たんだろうか。
「私の能力は覗きに使ったりしない。見張りって役目があるんだから。…しばらくは射命丸様から放っておいて良いって言われたから、今日は貴女を見逃したけど」
文もなのか。あの件以来、皆に心配かけてるんだな。良い奴らばっかりだ。
落ち着いたら皆に謝ろう。
しばらく椛と話しているとにとりが現れた。もう修理が終わったらしい。
「パーツが無かったから受信機能の修理しか出来なかったよ。それでも良いかな?」
「感謝するぜ。十分だ。早速試していいか?」
アリスから教わった通りに人形の後ろにある通信機能を入れる。
しばらく雑音が流れた後に声が聞こえた。
「魔理沙…」
アリスの声だ。しかも押し殺したような低い声だった。通信状態が悪い事を引いても普通じゃない事は確かだ。鼓動が早くなる。
「椛!アリスの家を見てくれ!場所は魔法の森で全体的に白っぽい家だ!」
「だから私の能力は」
「さっきの声聞こえただろ!?お願いだから!」
「分かったわよ…」
椛が目を閉じて集中しだした。見た物を小声で呟いている。
「この家は廃屋か」
「誰も居ない家だ。留守かな」
「お爺さんが大鍋で何かかき混ぜてる」
「人形だらけの家…金髪の人が泣いてるみたい」
その言葉と同時に体が飛び出した。
「ありがとな!今度肉持ってくるから!」
そのまま最高速度まで一気に加速する。昨日見た夢が正夢になるなんて。
すぐに行かなきゃ。アリスが泣くのは嫌だ。何があったか知らないがすぐに助けてみせる。
嫌っている私を呼ぶ状況だ。余程切羽詰っているのだろう。
やっとアリスの家に到着する。何時間も掛かった様な気がする。
そのまま家の扉を叩く。
「アリス!大丈夫か!?居るなら返事してくれ!」
扉の向こうから声がした。
「魔理沙?魔理沙なの?どうして此処に…」
「アリスから貰った人形、あれから泣いている声がしたんだ!何処か具合でも悪いのか!?」
しばらくの沈黙の後、扉が開いた。
「入って」
一言だけ言うとそのまま家の奥に消えた。すぐに私も家に入る。
リビングに行くとアリスが机の上で腕を組んでうつむいていた。
「どっか気分が悪いのか?永遠亭で診てもらうか?」
私の質問に答えず逆に質問を返された。
顔はうつむいたままで表情は分からない。
「何で来たの?」
そんなの決まってる。
「心配だから。まだ好きだから」
「あんな事した私を?」
「あれは私が悪かった。時と場所をもっと考えるべきだった。アリスが怒っても無理は無い」
そう、とアリスが呟き顔を上げた。相変わらず綺麗な顔だったが眼がおかしい。
焦点が定まっていない眼だ。
「ねぇ魔理沙、私の事好き?」
「当たり前だ」
「私の事、抱きたい?」
いきなり凄い事を聞かれた。
「抱きたいって言うか、むしろアリスに色々して欲しいって言うか…」
何言ってるんだ私。いきなり何変な事口走ってんだ。
アリスが薄く笑う。そして傍らの洋裁鋏を手に取った。
「じゃあ…これでも?」
言い終わると同時にアリスが自分の左腕に鋏を突き刺した。
「アリス!」
悲鳴の様な声が出た。慌てて立ち上がる。
「大人しく見てなさい」
アリスが妖気を発しながら威圧する。
そこでやっと妙な事に気付いた。血が流れてない。アリスが痛がる様子も無い。
アリスが鋏を使い腕を切り開いていく。肉が切り取られ関節部分が完全に見える状態だ。
そこで見た物に思わず息を飲む。
骨の形が人間の関節じゃない。この形は鈴蘭畑で見た毒人形と同じ丸い関節だ。
「義肢…なのか?」
「もっと面白いもの見せてあげる」
関節の切開が終わったアリスが今度は左目に手を当てて眼球を取り出した。黄金のように煌く綺麗な硬質の球体が机の上を転がる。
アリスが眼球の無い眼窩をこちらに向ける。そしていつも抱えている魔道書を机に置いた。
「分かった?私は人形なの。究極のグリモワールを完全に扱いこなす人形。姉さん達みたいな人間じゃ扱えなかったから作られたのよ」
「魔理沙、貴女は人形を好きになるの?人形を抱きたいの?人形から抱かれたいの?」
「貴女ならきっと他の誰か良い人が見付かる。だから私の事は忘れて」
言葉がアリスの口からこぼれる度に震えている。窪んだ眼窩から涙が流れている。
何で。
「何で自分から私を遠ざけようとするんだよ!」
アリスの肩が跳ね固まる。
「つまりこういう事か?自分は人形だから駄目だって言いたいのか?そんなのどうだって良い!」
私を張り飛ばしたのも、霊夢に道具を預けたのも全部私の為にやった事?
そんなの認めない。アリスが苦しんで何が私の為だよ。全然嬉しくない。
「どうでも良くは無いでしょう。子供だって…」
「妖怪、しかも同性の女の子を好きになったって気付いた時から、そんな事覚悟してる!」
徒花、実を結ばない花で良い。枯れるその時まで好きな花の側に居る。
「魔理沙…」
「アリスが人形でも構わない。私が好きになったのはアリスって事実は変わらない」
アリスの顔を真正面から見据える。
「人形で私の事呼びかけてくれたろ?何かあれば今日みたいに駆けつけるから。アリスは私の事好きか?」
「うん…」
「じゃあ何の問題も無いじゃないか」
「私は魔理沙の事が好きでも良いの?また今までみたいな関係に戻れるの?」
やっとアリスの口から好きって言葉が聞けた。
「違うよ。今日から私たちは相棒から恋人になるんだ」
人形のアリスという設定ですね。魔理沙にとっては人形であるかなんて重要じゃないですよね。
こういうIFの話も良いなと思います。
甘々なマリアリが好きですが、こういうのもいいなぁ。
20作品とはすごい。今後も貴方様の作品を楽しみにしています。
それはともかくアリス人形説かー確かにありえそうな気がしないでも無いなぁ
怪綺談の時から妖々夢まで1年程度しか経ってない事を考えるとアリスの急成長が矛盾するんですよね
魔界にいるアリス(ロリ)が現アリスを操ってるとか読みながら考えてしまった
これらがどうも後に引っかかりスラスラと読むことはできませんでした。
マリアリは好きですが、違和感だらけでした。
最初のほうはよかったのに後々の描写が非常に残念でした
例えば
>次の日、ほとんど眠れなかったが、起きてすぐにアリスの家に向かう。
>家に着いて呼び鈴を鳴らしても出ない。人の気配もしないしどうやら留守のようだ。
このような所でいきなりアリスの家に向かう!ということになってすぐさま到着。この移動する間に魔理沙の気持ちや、行動などを入れたりすると更によくなると思います。えらそうな口きいてすみませんでした。
もうすこし長めでじっくり読みたかった
次も楽しみにしてます。
つまり、魔理沙が努力し、友情を得て、勝利に至る。
そういうプロセスなわけです。
ここで問題なのは、努力と友情のプロセスがやや弱いことでしょうか。
膨らまし方はいろいろあると思います。骨格がしっかりとしているから物語の流れはちゃんとできているので、あとは肉づきがよければ、むしゃむしゃ。
とりあえずマリアリはジャスティス。
私好みのハッピーエンドでした。
でも、少々描写不足で展開が早い印象を受けました。
たとえば上の方が仰っているように、魔理沙がアリスの家へ向かうところでもう少し細かく描写するとか。
個人的には最初の宴会の描写がたった二行なのにも違和感がありました。
どんな経緯で告白大会になったかだとか、どんな流れで魔理沙が告白することになったか、
そういうところを詳しく描写してみるといいんじゃないかと思いました。
上でも言われているように、話の骨格はできているんだから、あとはどう膨らますか、という感じです。
ちょいとえらそうな物言いになってしまいましたが、とにかく次に期待しております。
ありがとうございます。
少し粗製乱造過ぎた気もするので練りをしっかりやりたいと思います。
>>5様
そうです。ターミネー○ー2のシーンがモデルです。
アリスって目の色が作品によって違うのが気になるんですよね。
>>6様
ハッピーエンドが好きなのでご都合主義過ぎにならないよう頑張ります。
>>14様
ご指摘ありがとうございます!早速ご意見を次のプロットに取り入れます。
>>16様
他の作品も読んでくださりありがとうございます。
次の作品ではご期待に沿えるよう肉付けに気をつけます。
>>23様
感謝です。そう言って下さると励みになります。
>>まるきゅー@読み手様
言われてみるまで自分の作品をその様に考えた事がありませんでした。
目から鱗です。努力の描写ですね。分かりました。どうもありがとうございます。
>>卯月由羽様
今回は東方を知らない友人に推敲を頼んでみたのですが、まだ甘かったようです。
ご指摘の件は全てメモして忘れないようにします。ご指摘ありがとうございます。
話のもっていき方とか好みで面白かった。
次回作も楽しみにしています。
ありがとうございます。次回作もご期待に応えられるよう頑張ります。