「どこ行くんだい?」
雪がちらほらと楽しそうに降る夜、白い息を吐きながら永遠亭を出たわたしを、ピンク色のワンピースを着たイナバが後ろから呼び止めた。
「いつも通りよ」
わたしは振り返り、肩をすくめて、少し笑う。
「妹紅と遊ぶの」
イナバは手をお尻のあたりで組んで、少しうつむき、上目遣いでこちらをじっと見ている。その表情からは、わたしを計っているような鋭さが感じられた。
「死にたがっているように見える」
何をまた、今さらなことを。
「その通り、死にたいのよ」
わたしが竹林へ向かって歩き出すと、今日は何故だか彼女もついてきた。
「どうしてついてくるの?」
「死に様を誰かに看取ってもらうのも、悪くないでしょ」
「そうかな」
わたしはまた笑った。
「妹紅が看取ってくれるから、これ以上は別にいらないんだけど」
「あんたのことなんかどうでもいいよ。ただわたしが見たいだけさ」
「変な趣味ねえ。人が焼き鳥みたいにじゅーじゅー焼ける様を見たいってわけ?」
わたしはフンと鼻を鳴らして、わざと嫌な比喩を使ってみせる。半ば、自分へのあてつけに。
「焼き鳥、嫌いじゃないよ。兎の丸焼きは嫌だけど」
「じゃあ今日の夜食は兎鍋ね。妹紅に準備してもらおうかしら」
「嫌な奴だね、あんた」
「今さら気づいたの? それで、本当についてくるつもり?」
イナバはこくんと頷いて、ようやくいつもの悪戯っぽい笑みをわたしに向けた。わたしはなんとなく安心した。今まであったものが今もそこにある、ということが、最近嬉しくてたまらない。
はらはらと雪が舞い降りる、音のない迷いの竹林の中を、二人でゆっくりと抜けていく。正確には、一人と一羽で。特に急ぐ必要はない。妹紅はいつでも待ってくれている。わたしはいつもの癖で、両手を胸の前で合わせながら歩く。これなら肌が空気に触れないので、暖かい。
何かが潜んでいそうなくらいに暗いけど、怖くはない。歩き慣れている道だし、それに今はこの竹林のことを隅から隅まで知り尽くしている兎も一緒だ。
「どうして殺しあうわけ? 何年も飽きもせずに」
でもやっぱり、今日のイナバはどこか変だ。何故今になってそんな問いをぶつけてくるのだろう?
「さあ、一瞬でも自分が死ねる、消えることが出来るっていう、幻想のためかしらね」
わたしはでも、こんな珍しいイナバに付き合うのも悪くはないと思って、頭の中で話を組み立てる。何かを語るというのは、結構楽しいものだ。
「妹紅と殺しあうのは、憎しみからではないわ。妹紅がどう思ってるかは、わからないけどね。少なくともわたしにとっては、その幻想を見たいから。そして、その幻想を見せてあげたいから」
積もらない雪で少しぬかるんだ泥道を、一歩一歩何かを刻むように踏みしだきながら、わたしは淡々と話す。単調な自分の声が、白い息になって、雪の降る中へ溶けていく。見上げても、空はない。
「それって、楽しいわけ?」
イナバが、鼻を鳴らし尋ねる。
「楽しいなんて、ちょっと明るい感じの響きね。決してそんなものではないと思う。もっと暗い。後ろ向きな、でも、そうね、これは楽しみなのかしら」
言いかけて、途中で自分でもよくわからなくなる。言葉というのはいつもよくわからない。
「理解できないね。死ぬのが楽しいわけもなかろうに」
「そうね、死ぬのは楽しくないわね」
わたしはちょっとほほ笑む。たぶん、イナバから見たら、最高に嫌な表情だったろう。
「楽しい」というよりは、「愉しい」だろうか。
「でも、痛みが人を救うことだってあるのよ」
「へえ」
「たとえば自己憐憫。ひどい傷を負って、こんなに痛がっている自分がいる。こんな自分は凄くかわいそう。誰かかまってくれないかしら」
「やめなよ。吐き気がする」
わたしは黙った。もちろん、こんなの本心から言ったのではない。イナバに嫌な思いをさせるために言ったのだ。そして、それは成功した。成功したからといって、わたしがいい気分になれるわけでもないのだけれど。むしろ、逆だ。
妹紅と会う日には、わたしはとびきり嫌な奴になる。妹紅が快くわたしを憎めるように。
「でも、それは結局、傷を負っている自分がかわいそうっていう、その憐れみが好ましいだけで、傷の痛みや、死の苦痛それ自体を好んでいるわけではもちろんないのね」
おもちみたいに理屈をこねる。どうでもいい理屈を。
「何が言いたいのさ」
「要するに、痛みはあっても意味をなさないわたしたちであるのだから、それによる感情の変化が重要なわけ。死んでもすぐ生き返る。ならば、わたしたちにとって死は無意味。それによって生じる感情、わたしの場合は、さっき言った自己憐憫、自虐、そして救済。それが一番心地よくて、大切なの」
なんでこんなに適当なことを並べられるのだろうか。まるで、誰か他の人が主人公の物語を勝手に作っているみたいだ。
イナバは顔を伏せて黙った。顎のあたりに手をあてて、何かを考えている様子。黒いくしゃくしゃの髪が邪魔になって、表情はよく見えない。目を閉じてるのかもしれないけど、両の足はちゃんと動いている。長い耳がへにゃりと、お辞儀をしているみたいで可愛らしい。
「憐憫がなんで救いにつながるのさ」
ポツンとイナバが呟いた時には、もう妹紅の住む小屋の手前まで来ていた。雪が積もったら潰れてしまうのではないかと思うくらい、簡素な小屋だ。
「さあ」
わたしはイナバを見むきもせず、小屋の入口まで歩み寄る。
「自己憐憫って、なんとなく下劣よね。でも、自分が下劣だと思いこむことで、人は心地よい安心が得られるの。不思議なことにね」
そして、もちろんこれも本心ではなかった。
「嘘だ」
なんでわかったのだろう、と少し不思議だったが、原因はすぐに思い当たった。「人は」って、一般化してしまったのだ。ついうっかり。そんな細かいところまで気がつくのだから、なかなか鋭いと思う。
わたしは無視して、安っぽい木のドアを叩いた。
「遊びに来たわよ」
少しすると、中からギシギシと足音がして、いつもと変わらない不敵な表情の妹紅が顔を出した。
「待ってたよ。もう来ないかと思った」
「あら、モテモテね、わたしったら」
「あれ、今日はそいつも一緒なんだ」
わたしの後ろのイナバに気がついたようだ。
「珍しいこともあったもんね」
「ほんとにねえ」
わたしはクスクスと笑って振り返る。イナバはわたしの三歩後ろくらいで片足をぶらぶらと持て余していた。
「見物人ってわけ? 悪趣味な」
「ねえ、そう思うでしょ? まったく、何を考えているのやら」
「ちょっとちょっと、そんなに退け者にしない」
イナバはにやりと笑った。
「わたしはあんたらに、幸せを届けにきたんだから」
イナバの軽い一言に、わたしと妹紅は顔を合わせた。
そして、どちらからともなく笑いだす。
「ははははははっ!! な、何を言い出すかと思ったら」
「く、くくく……なかなか、気のきいたジョークじゃない。やるわね、貴女」
「笑わないでよ。こちとらジョークのつもりで言ったんじゃないんだからさあ」
イナバが口をとがらせる。なんだかますます可愛らしい。わたしと妹紅はまた顔を見合せて、唇を緩ませる。
まさか、これから殺し合う二人に、幸せを届けにきました、なんて。ジョークか、そうでなければ嫌味にしか聞こえない。
このイナバの異名は幸せ兎だ。誰が呼び始めたのか知らないけど、人を幸せにする能力があるのは確からしかった。でもそれを、積極的に実践してるなんて、今日まで思いもよらなかったけど。
ああ、可笑しい。
「なかなか面白いのを飼ってるじゃない、輝夜」
「お褒めにお預かり光栄だわ。飼ってる、というよりは、一緒に暮らしてる、ってほうが実感に近いけど」
「そうそう、飼われてるなんて心外だね」
イナバがうんうんとうなずく。コロコロと表情が変わる兎だ。
「どうでもいいけどさ、そろそろ行かないかね。朝になっちまうよ」
妹紅がそう言うけれど、まだ夜もそれほど更けていない。
イナバが不思議そうな顔をする。
「え? 行くって、ここですぐやるんじゃないの?」
「いや、ここでやったら、わたしの家が燃えちまう」
「そうそう。前なんて、竹に燃え移って火事になって、鴉天狗にしつこく付きまとわれたこともあったわねえ」
「へえ、そう」
イナバはなぜかほっとしたようだった。
「で、どこでやるわけ?」
「あっち」
妹紅が指差したのは、人間の里とは正反対の方向だ。
「竹林の外でやるの?」
「そうだよ。出てすぐのところに、いい感じの丘があるんだ。人間の里からは見えない」
「妖怪の山からは見えるんじゃないの?」
「知ったことかい」
「ねえ、早く行きましょ。寒いわ」
わたしの言葉に二人は頷いて、わたしたちは歩き出した。真ん中が妹紅、その両側にはわたしとイナバ。
道中、妹紅が気をきかせてくれた。背中から炎の翼を生やし、わたしとイナバを、雛を温めるように包みこんだ。これで寒くなくなった。相変わらず、妙なところで優しい。
「ねえねえ、イナバ」
わたしは少し気になるところがあって、少し身を前に屈め、妹紅を挟んで反対側のイナバの方を見た。
「なに?」
「わたしたちに幸せを、なんて言ってたけど、それじゃわたしたちは今幸せじゃないってこと?」
「それこそ心外だね。なんの根拠があるんだか」
妹紅がふんと上を向く。
イナバはわたしをじっと見て、言った。
「そうさ」
あらら。言い切られちゃったよ。
「どうしてそう思うの?」
「だって、殺し合いなんて馬鹿げてるよ。なんのプラスにもなりゃしない。お互いを削り合って、おんなじことずっと繰り返して、なにが得られるっていうのさ?」
「ああ、それと同じこと、慧音にも言われたっけなぁ」
妹紅が頭の後ろで手を組む。
「妹紅はなんて答えたの?」
「そもそも、憎しみにプラスの要素があるわけないじゃないか。その憎しみがわたしを何百年も突き動かしてきたんだ。それとも慧音は、わたしの根底まで否定する気なの? ってね」
妹紅はなんでもないことのように言った。「憎しみ」という部分さえも。
「うわ、厳しい」
「うん、ちょっと可哀そうだったけどね。それっきりそのことについてはなにも言わなくなった。せいせいしたよ」
冷たい物言いだったけれど、わたしには妹紅の気遣いがなんとなく読みとれた。このことについてはもう幾ら話し合っても無駄なのだから、それ以上彼女が頭を悩ませる必要がないように、そう言ったのだろう。
わたしは、イナバを煙に巻くための言葉を考えて、口に出す。
「同じことを繰り返して、なんて言うけど、人間なんてみんなそんなものじゃない。わたしにしてみれば、そんなのは『なぜ呼吸をしているの? 飽きもせずに』って訊かれるのと同じ。失礼だと思わない?」
わたし自身、失礼だとは思っていないけれど。
「話をすり替えないで。殺し合いと呼吸は違う」イナバの鋭い声。
ほら、言い返された。
「どう違うのかな?」
わかりきっているのに、妹紅が意地悪でそう訊き返す。
わたし自身、イナバがどう答えるか興味があった。
「呼吸は、少なくとも生きるには絶対必要なことでしょ。する価値はわざわざ言うまでもない。でも殺し合いは? しなくても生きていける。むしろ、生きていくためにはしてはいけないこと。あんたらみたいに、なんでそんなに喜々として死にたがるのか、理解できないよ」
「なら、理解しようとしないほうがいいよ」
妹紅が気のない声で言う。
わたしも同感だ。長生きしようとして、いつのまにか長寿を手に入れてしまったイナバは、理解できないだろう。
理解してほしくない。これは、意地悪で言っているのではない。その方が、イナバにとっては良いことだからだ。これからずっと、彼女がわたしたちと一緒に生きていくためには。
「貴女にとっての生の価値と、わたしたちにとっての生の価値は、たぶん違うのよ」
わたしは、ゆっくりと語りだす。
「イナバの、貴女の生の価値は、わたしにとってはとてもかけがえのないものだわ。なぜなら、一つしかない、再生しない。貴女が死んでしまったら、わたしは貴女に会えなくなる。こんな風に話もできなくなるでしょう。それはとても悲しくて、辛いこと。貴女だけじゃない。鈴仙も、他の兎たちも。それに、永琳もそうね」
「あいつは蓬莱人だろ」と妹紅。
「いいの。わたしにとっての話なんだから。なんなら、妹紅も加えてやってもいいのよ」
「う、それはやめてほしいな」
「でしょう?」
わたしはイナバの様子をちらりと確認する。わたしの方を見て、真剣に聞いてくれているようだ。
「でも、わたしは? わたしなら、死なない。死んでも、何度でも生き返る。さっきも言ったけれど、わたしにとって死は無意味。それは、同様に生も無意味ということにならないかしら? 死に意味がないからこそ、たやすくそれに身を投げ出すこともできる。そんな簡単に捨てられるのだから、わたしの命は、さほど価値のないものなのでしょう」
イナバが顔を歪める。
わたしは少し悲しくなった。
「でもね、あらかじめ言っておくけれど、わたしは幸せなのよ。たとえ価値がないものだとしても、わたしはこんなに満ち足りた気分でいられるのだから。きっと、面白い人たちに囲まれて、面白可笑しく時を過ごしているおかげね」
いつの間にか、竹林が終わっていた。
わたしたちは、丘の頂上を目指した。その先には、焼け焦げた木が一本、ポツンと立っている。今にも崩れ落ちそうだ。
見上げると、雲が途切れて、雪は止んでいた。星々が、この丘を取り囲むように、空でぐるりと渦巻いている。冬の夜の澄んだ空気を、わたしは肺一杯に吸い込む。頭の中で、何かが研ぎ澄まされていくような感じだ。
「でもね」
妹紅が何も言わず、わたしたちから離れていくのを確認すると、わたしはくるりと振り向いて、イナバの前に屈みこんだ。
「貴女が今日来たことは無駄ではなかったわ」
イナバが唇をキュッと結び、わたしを睨んでいる。何かに耐えているみたい。
「誰かを幸せにしようという貴女の望みは、今ここで叶えられる。叶えてあげる」
わたしはまたスウと息を吸い込むと、目を瞑り、緩やかに微笑む。
「ありがとうね、てゐ」
わたしは両の腕を伸ばして、てゐの頭を包み込む。耳がへにゃりと、わたしの胸の下で力なく曲がった。なんの反応もなかったけれど、その体は確かに暖かかった。愛おしい、と思った。
「やっと、確信できたわ」
てゐは、最後まで俯いたままだった。
わたしは妹紅の方を向く。
彼女は待ちきれないといった様子で、丘の頂上で、笑っている。
「妹紅はもう、わたしのことを憎んでいないって」
これで、心おきなく、何の不純もなく、ただただ純粋に、殺し合える。
「じゃあ、よく見ていてね」
わたしは斜面を登った。てゐを巻きこむわけにはいかない。
妹紅から、鮮やかな炎が立ち上がる。
見ているだけで、頭の中までじんわりと暖められていくような、美しい不死鳥の姿だ。
「始めましょう!」
わたしは一声、高く叫ぶ。
「そう来なくっちゃ」
言うが早いか、妹紅は炎の翼を羽ばたかせ、空へと飛びあがる。
翼がゆっくりと、大きく広げられ、そこから何百もの炎の揺らめく塊が、はらはらと雪のように降り注ぐ。フェニックスの尾だ。
ゆっくりした動きだ。隙間は少ないけれど、じっくり見ていれば、あまり動かなければ、あたることはない。
炎がかすって、着物の端が燃え上がった。わたしは上着を脱ぎ捨てる。必要ない。あたりは、もう暑いくらいだ。
わたしは第一波を抜けると、腕を伸ばして、宣言の後に、火鼠の皮衣を解き放つ。火には火を。思いっきり熱くしてみよう。
炎の塊と塊がぶつかりあって、緑色の閃光を網膜に残した後に、消滅する。一発目は相討ちだ。
遠くからは、何かのお祭りのように楽しげに見えるだろう。こんなにも生き生きと、綺麗に火は爆ぜているのだから。
そう、こんなにも、楽しい。
「燕の子安貝!」
空中に浮き上がり、わたしは叫ぶ。
色彩豊かな魔力の線が、夜空を幾重にも分断する。点滅して、瞬間毎に、その位置を変える。空は広い。無限の区切り方がある。
手の中から、赤と青の星型の弾幕を生みだし、宙へ飛ばす。できれば星と見間違えてくれればいい、なんて、あるわけないか。
少し色を使い過ぎだ。まだ次があるのに。少し目が痛い。でも、痛くするくらいには、見る価値のある弾幕だ。
妹紅を探すと、地面の近くでちまちま避けていた。そこから、細かい火の粒と、光線が貫いてくる。まさか、正直者の死とは。正直者に使わないと駄目だ。てゐなら無敵だろう。
そんな無駄なことを考えてたから、右腕が焼かれた。痛い。でも、その痛みに価値はまだない。妹紅も足が線に引っ掛かっていたから、また相討ち。
「蓬莱の玉の枝!」
「バゼストバイフェニックス!」
虹色の弾幕。空一面が花畑になったみたいに浮き立った。対する向こうは、また懲りもせずに炎を吐きだし、爆発を繰り返す。単純な奴。
わたしの周りに不死鳥がもう一羽現れた。それを逃れるために、わたしは宙を舞い、玉を避けながら、妹紅の姿を探した。
ずっと、気になっていた。
妹紅がわたしを、まだ、憎んでいるのか。
そう思っていたから、わたしは、妹紅が心おきなく憎めるように、嫌な人間を演じてきた。
でも、もうその必要もないみたいだ。
妹紅が「憎しみ」と口にした時、彼女の声にはあまり力が入っていなかった。てゐに語る時に、「わたしたち」と一くくりにした時も、訂正しなかった。
だから。
わたしの弾幕が一瞬にして掻き消える。探すのにはもう邪魔なだけ。
夜空に大きな空間が生まれる。いや、戻っただけだ。空はいつもの通り、どうしようもなく広い。
妹紅は、わたしの斜め下にいた。いつもの不敵な笑みを浮かべて。その斜めになった唇が、開かれて、言葉が吐き出されるのを、わたしは待った。
「死んであげるよ、一緒に」
わたしは、その胸に飛び込んだ。
妹紅がきつく抱きしめてくれる。
温もり。
何度でも繰り返してもいい。
これと、この後に来る幻想のためならば。
たとえ一瞬でも、自分が死ねると思えるのならば。
ましてやそれを、妹紅と一緒に見れるというのだから。
背中に回された腕は、なんて力強い。
きっとこれが、幸せだ。
わたしは妹紅の肩に顔を埋めた。
涙は知られなくていい。
炎の翼がゆっくりと閉じられる。
卵を守るように、優しく。
何もかもが暖かかった。
目を開けると、星空をバックに、ピンクのワンピースを着たてゐが立っていた。
その顔は、極限まで歪められて、辛そうだった。
わたしは笑おうとしたけれど、体が動かなかった。目が乾く。近くから、煙が上がっている。一体、どこからだろう?
「……本当に」
てゐの目もとで何かが光った気がしたけれど、わたしはすぐ目を閉じてしまったので、それが何かはよくわからなかった。
眠りに落ちる前にこんな声を聞いた。低い、しわがれた声だった。
「本当に、あんたらだけは、救いようがないよ」
文章にできなくて申し訳ないけど良かった
ただひとつだけ……
てゐ可愛いよてゐ
の後の 紅 は 妹紅の間違いかと思うんだ
訂正しました。ご指摘ありがとうございます。
幽香や紫と同い年だって聞きますからねえ。
きっかけはここだったんですね。
三人それぞれの異なる価値観があって、うまく言葉にできない読後感だ。
だけどそれでも微かな光を灯してくれるような、不思議で切ないお話でした。
しかし、これほど感想の言葉に悩むお話も珍しい。