※多少、キャラ崩壊です。
「フランのパンツが欲しい」
レミリアは満面の笑みで瀟洒なメイドにそう言った。
瀟洒なメイドは表情こそ崩さないものの、内心あせった。
もっと子供らしい返答が帰ってくると思っていたからだ。
今日はクリスマス。咲夜は主人にクリスマスプレゼントを聞きにきたはずだが。
どうやら私は少し耳がおかしくなったらしい。
何度か頭の中で文字を整理する。
ふ ら ん の ぱ ん つ が ほ し い
整理しようとしまいと要するにパンツだった。
それではお嬢様はただの変態ではないか。
どうしたのだどうしたのだどうし…………、ふと思い出した。
そうだった、紅魔異変以降のお嬢様は変態だった、と。
慣れすぎていて忘れていた。
何時もの行動を思い出してみる。
妹様を追っかけて。
妹様を褒めちぎって。
妹様のシーツを自分のシーツと交換して。
妹様に殺されかけて。
妹様のあとをつけて。
妹様を抱きしめt
妹様のクッk
妹s
いもうt
いm
i
この時点で咲夜は主の何かが終わったような気がする。
何故かパンツが欲しいと発言したのも妙に納得してしまった。
聖なる夜に妹のパンツを求める主は、クリスマスとか全く関係なく今日も元気に変態だった。
そして満面の笑みでこちらを見ているレミリアの要望に、咲夜はなんと答えればいいか分からなかった。
はい、では妹様のパンツを盗んできますね、と二言で返事できない。むしろしたくない。
完璧メイドらしからぬ考えだった。
とりあえずしばしの間何も言わずににこにことレミリアを見つめていることにした。
にこにこにこにこ。はたから見れば二人は笑いながら見詰め合っているというほほえましい光景。
実際は聖なる夜にパンツを巡る二人の微笑み。
そんな咲夜に気づいてか気づかなくてか、レミリアは幸せさと優しさと残酷さと無邪気さを混ぜた声でもう一度言い放った。
「フランのパンツが欲しいわ」
別名『盗んで恋』。ご主人の要望だった。
要望というよりはもはや命令に近い。そしてクリスマス関係ない。
お互い笑顔は絶やさない。レミリアは三度目は言わない。目で語る。『トリニイケ』と。
笑顔を崩さない瀟洒で完璧なメイドは100%主人の要望をかなえるメイドだった。
今までも、そしてこれからも。
完璧と瀟洒にこだわる咲夜にとって主人の要望は「絶対」に近かった。
そんなメイドの選択肢は三つしかなかった。選べない。選びたくなかった。
しかしレミリアが妹のパンツ欲しいといったその瞬間から答えはもう三つと決まっていたのだ。
はいかイエスかもちろんです。ちなみに拒否権はありません。
これもある一種の運命操作能力だというのか。
そんな無駄なことに使って欲しくは無かったなぁと思いながら咲夜は返答した。
「………咲夜、頑張ります」
瀟洒なメイドはこの日、ちょびっと泣いてしまった。
聖なる夜に咲夜は人としての何かを失った。
十六夜咲夜はフランドール・スカーレットこと妹様の部屋の前に来ていた。
ドアの前で時を止めて約3時間迷った後、吹っ切れた。
もう吹っ切れた。完全に吹っ切れた。
人としての何かを失った時点から吹っ切れていたのかもしれない。
主が変態?それがどうした?何時ものことじゃないか。
涙?ちょびっと出ましたけどそれが何か?
それに今日は何時もより、妹様を追いかけないだけまだマシなほうじゃないか。
そうだ、太陽壊して来いだなんて言われないだけマシじゃないか。
まだそっちの方がマシかもしれないが。たとえばだ。たとえば。
たかがパンツの一枚二枚気にすること無い。私のじゃないけど。
お嬢様のためだお嬢様のため。
咲夜、完全で瀟洒であるためには時に人としての何かを失うことも大切。
変態でも、カリスマが無くても、その主についていくと私は決めたんだ。
ならば盗ってこようじゃないか、お嬢様のために。
立ち上がった忠実な従者は凛々しかった。
大変間違ったカリスマもあった。
軽くノックをした後重苦しいドアを開けた。
ぎぎぎと嫌な音が響く。
このドアの重みは心の重み。
凄く重かった。
部屋の中はうす暗く、こつこつと歩く音が響く。
咲夜は今、何も恐れるものはい。
人は吹っ切れたときこそ本気になれるものだ。
「こんばんわ妹様」
「あれ?こんばんわ咲夜、珍しいね」
まだあどけなさと押さない声が、私の心に突き刺さる。
にこりと無邪気に手を振る妹様には悪いと思ってます。
罪悪感もわきます。でもそんなこと言ってられないんです。
私は瀟洒で完璧なメイドです。
お嬢様の願いをかなえるのもメイドの仕事です。
全てはお嬢様がために。
「……すみません」
咲夜は心から謝った。お嬢様のためとはいえどう考えても妹様は被害者だ。
妹様がパチパチと目を瞬かせる。
咲夜が謝ったことが良く分からないようだ。
さすがに咲夜は面と向かってパンツ下さいなんていえなかった。言いたくない。言ったら本当に何か終わる。
だからこうするしかないのだ。
お嬢様がために
盗んで見せよう
「時よ」
パンツを!!
「止まれ」
一瞬にして世界は色を失った。
灰色と黒と白のみの世界。
時が止まった証拠だ。
妹様も動かない。ならば今のうちだ。
今のうちにパンツを探すのだ。
一枚だけでいい。一枚もあれば十分だ。それいけ咲夜。
咲夜は妹様の服が整理してあるクローゼットを開けた。
普段洗濯物をした後、右下のところにしまっていたはずだ。
咲夜は手馴れた手つきで右下の部分を探す。
「やっぱり」
あった。
可愛いくまちゃんかぼちゃパンツが。
咲夜はそれをポケットにしまう。抵抗はかなりある。
今なら何も無かったことに出来る、後戻りが出来る。
が、咲夜はあえて前に進んだ。
クローゼットを閉めてもとの位置まで戻り、再び時を動かした。
作戦成功だ。犯罪者になった気分だ。
「どうしたの?どうして謝るの?」
時が動き出してからの妹様の言葉はそれだった。
フランは心配そうに咲夜を見つめる。
ああ、そんな無邪気な目を見せられると良心というものがですね。
あああああああごめんなさい妹様、貴方は何も悪く御座いません悪いのは咲夜でゴザイマス。
全てはこの私、咲夜とお嬢様が悪いのです。
パンツをポケットにしまってから咲夜は段々と我に戻ってきた。
頭が冷えてきたといっていい。
反省はしている。後悔もしている。だがこれもお嬢様のためなのだと自分に何度も言い聞かせた。
そうお嬢様のためお嬢様のためおぜうさまのため。
「咲夜?」
気まずかった。まさかこの一言がこんなに重いとは。
先に美鈴やパチュリー様のプレゼントを聞きに行けば良かったと思った。
一刻も早くこの場から逃げ出したかった。
冷や汗が背中を濡らした。
実はパンツ盗むついでに妹様に欲しい物を聞こうと思ったのですが…。
しかしこれは少し聞きづらい。
少しどころか大分。むしろこんなことした後では聞けない。
する前に聞くべきだった。むしろする前だろうがした後だろうが罪悪感で聞けない。
…逃げたい。
ならば逃げてしまえ。
瀟洒なメイドはらしからぬ答えを出してしまった。
「いいいいいいいいいえなんででもももももごごごごございましぇえええええん!いもうととととさま!!!!ではははは失礼しまままますね!」
もう一度時を止めた。
動揺なんてしてません。咲夜は平常心です。
背筋がゾクゾクとした。
完 璧 。
完璧だ咲夜。平常心で喋れたぞ。
多少怪しまれているが大丈夫、色々と恐らく完璧だ咲夜。
完璧すぎて怖い。流石は瀟洒だ。
………自分を励ますものほどむなしい行動は無い。
咲夜はこの日初めて知った。
ともかくあとはこのパンツをお嬢様に渡すだけだ。
それでこの地獄の時間は終わる。
あとそれだけだ。あとそれだけなんだ。
私は廊下を大急ぎで走った。
廊下を走っちゃいけません?
誰も見てないのでいいんです。
十六夜咲夜はもう人として戻れなかった。
「時よ」
再び時が動き出した頃には私はレミリアお嬢様の部屋にいた。
お嬢様は驚いた様子もなく微動もしなかった。
唯淡々と期待に満ちた目を私に向けていた。
「咲夜、パンツは?」
「…(色々と不本意ですが)盗って参りました」
瞬間、お嬢様が歓喜した。
不夜城レッド爆発。
私の頭の中で涙爆発。
「良くやったわ、咲夜。さぁそのパンツを私に!」
じりじりにじみ寄ってこないで下さい。
咲夜は生まれて初めてお嬢様に拒否反応が出ました。
一応、分かりましたと告げてから私はポケットに手を突っ込んだのだが…。
「あ、あれ?」
パンツが無い。
手は空を切った。
私は物凄い速さ、恐らく今までの中で一番早かったと思うほどの速さで時を止めた。
まずい、パンツが無い。
どれだけポケットを探っても中には何も無かった。
どこかで落としたのだろうか?
それはまずすぎる、非常にまずすぎる!
…っは、まさか廊下を走っているときに?
私はもう一度廊下を走った。
全力疾走で。
あった。
くまちゃんかぼちゃパンツがあった。
廊下の隅の方にぽつりとあった。
私はパンツを見つけて安堵した。
パンツを見つけて安堵したのは初めてだった。
咲夜は何かとむなしかった。
急いでそれをもってレミリアお嬢様の元へと戻っていった。
勿論全力疾走で。
部屋に入ったと同時に再び時は動き出す。
「っはぁ…はぁ…こちらで…ございますお嬢様」
走ったため息を切らしてパンツを渡す私。
全力疾走で走ったため多分顔が赤いだろう。
だが決してパンツを持ってはぁはぁしているわけではない。
しかしはたから見れば真の変態は私に見えるだろう。
せめて呼吸を整えてから時を動かすべきだった。
咲夜、失敗しました。
ところがレミリアはパンツしか見えていないのか、はたまたそんな咲夜を気にしないのか大喜びでパンツを受け取った。
多分咲夜が目に入っていないだけだろうが。
「ふふふふらんのぱんつ…!」
レミリアはパンツを受け取ると同時にそれを自分の頭にかぶせた。
咲夜は普通にひいた。
見なかったことにしようと思った。
目をそらそうとドアのほうを向いた。
その瞬間だった。
カチャリとドアが開いた。
「お姉様咲夜を…しら……な………い……………?」
よりによって妹様だった。
恐らく私を心配して出てきたのだろう。
そしてこのタイミングはお約束ですよねー…。
………ねー…。
目の前には自分のパンツをかぶった姉と(走ったため)はぁはぁと声を荒げて頬を赤らめる従者。
どの角度からみても変態です。
これで変態に見えないというのならば変態に謝ってください。むしろ変態が土下座して謝り返すでしょう。
ともかく変態が二人目の前に居た。
叫ぶことは一つ。
では、せーの。
「変態だあああぁぁあぁぁぁあああああああぁぁぁあぁぁぁああぁ!!!!!!!!!!!」
咲夜、本日2度目の涙がちょっとだけ、出ました。
妹様はレーヴァテインを振り回し、館を半壊どころか崩壊させました。
ところどころ火柱が燃え上がり、紅いツリーを連想させます。
まあなんてロマンチック。
私は抵抗しなかった。抵抗できなかった。
まだ人としての良心が残っているから。咲夜、このクリスマスツリーをおとなしく眺めます。
お嬢様は焼かれながらも嬉しそうだった。
パチュリー様と美鈴は巻き添えになり紅いクリスマスツリーの飾りのごとく輝いてました。
すてき。綺麗。
火柱が近づいてきている。
私の命の灯も近づいてきている。
さて、最後に私が言えることは一つだけです。
皆様いいクリスマスを!
聖なる夜、紅魔館は猛烈な火柱で炎上し、紅い炎のツリーを作り上げた。
何ともロマンチックなそれに恋人達の愛も深まるだろう。
そして私は、クリスマスの夜。
紅いツリーの飾りの一部となりました。
咲夜、頑張りました。
.
どうしてわざわざ咲夜がフランドールの前に姿を現したのか…
気づかれずにやることもできたろうに
そうですね…、言われて見て始めて気がつきました。
読者様に違和感を持たせるようではダメですね…。もっと頑張らせていただきます。
貴重なご意見、有難う御座いました!
咲夜さんもれみりゃもダメダメだwwww
面白かったですよーw