Coolier - 新生・東方創想話

ここは理科室じゃねぇ、居酒屋だ!

2008/12/24 21:16:30
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「クリスマスにだ、合コンしようと思うんだ」
 大松の言葉に、御柳は眉をひそめた。クリスマスなら聞き覚えがあるものの、合コンという単語には全く聞き覚えがなかった。
 コタツ布団を調整しながら、御柳は尋ねる。
「合コンって何だ」
「いや俺もよく知らないんだけどさ、なんか男と女が集まって酒飲んだり話したりするもんらしいのよ。そんでうまくいけば恋人も作れるんだとか」
「……宴会と何か違うのか?」
 もっともな質問に、大松は言葉を詰まらせる。大方どこかで凄く良いイベントだからと吹き込まれ、よく調べもせずに突っ走ってきたのだろう。いきなり部屋にやってきた時はどうしたのかと思ったが、どうも用事はこれだけらしい。
「クリスマスを前にして焦る気持ちは理解できる。だが、よく知りもないイベントをやろうなんてのは馬鹿の考えることだぞ」
「でもよ……」
「諦めが肝心だ」
 冷たく言い切る御柳。すっかり意気消沈してしまった大松は、現実から目を背けるようにコタツへと潜り込んだ。せっかく調整した布団の位置がまたずれる。おまけにコタツの中では、壮絶な足のポジション取りが行われていた。
 このまま部屋に居座られるのも面倒だし、仕方ない。御柳は溜息をついた。
「話から察するに、同数の男女で酒を飲んで親交を深めるんだろう」
 大松は身を起こした。
「何で数が同じだって思うんだよ」
「どちらかの人数が多ければ、そこに偏りが生まれる。そうなると、そいつはどうすればいいと思う? こういうものは、同数でやるからこそ意味があるんだ」
 なるほど、大松は頷いた。本当に理解しているのかどうかは疑わしい。
「とにかく、無駄だとは思うがやるだけなら悪くもない。勿論、その合コンというのはお前が主導でやるんだろ?」
 大松は一転して明るい顔で、おうよ、と胸を叩いた。御柳がやる気になったと見たのか。 興味がないわけではないが、それほどやりたいわけでもない。ただ、このままにしておくとクリスマスも大松はこの部屋に居座るだろう。何が悲しくて男二人で聖夜を過ごさなくてはならないのか。
 御柳、苦渋の選択だった。
「実は相手の女性には心当たりがあって、男が集まるんならやってもいいよってことになってるんだよ。いやぁ、御柳が参加してくれて助かるわ。向こう、なかなかの才女もいるって話だから。俺たちじゃ話あわないっての」
 才女と聞くと、思い出されるのは守護者である慧音だが、お堅い彼女がこんなイベントに参加するわけもない。だとしたら、稗田阿求か。
 結果として、御柳のその推理は大きく外れることになった。
 当日。
 里で最も有名な居酒屋、飲兵衛。小席に通された男達は、どんな女性が来るのかと期待で胸を膨らませていた。
 どういうわけか、大松も相手の面子を知らないという。頼んだ女性に全て任せていた為、何も知らないそうだ。
 その情報を聞いた時は不安にもなったものだが、いきなり現れた女性を見て全て吹き飛んだ。冷静な御柳ですら、彼女を見て驚いたぐらいである。
「あ、あの……大松さんですよね?」
 居酒屋には似つかわしくない格好。だが、彼女を現すのにこれほど適した衣装もない。
 巫女服を着て現れた早苗に、男達のボルテージは一気に高まった。
「は、はい、そうです!」
「あ、よかった。合コンやるから此処へ来てくれっていきなり言われたんで、私何も知らないんですよ」
 無邪気にそう言う早苗。
 だが、御柳を除く男達は既に確信していた。この合コンの成功を。
 ただ一人、御柳だけが早苗の言葉に反応する。
「何も知らないということは、どんな女性が来るかも知らないんですか?」
「ええ。美鈴さんはただ、女性陣が足りないから来てくれると嬉しいって」
「美鈴?」
 確か、紅魔館の門番が同じ名前だったように記憶している。
 御柳の頬を冷たい汗が垂れ落ちていった。
 嫌な予感がする。
 そして、こちらの予想は見事に当たった。
「あ、東風谷さん。来てくれたんですね」
「へぇー、これが合コンってやつですか」
「ふふふ、今日は徹底的に叩きのめしてやるわよ」
「お嬢様、おそらく合コンとはそういうもので無いと思いますわ」
「わーい、合コン合コン!」
 美鈴に続いて現れた紅魔館の面子を見て、誰もが印象を一変させる。
 この合コンは失敗した。





 その一言はあまりにも唐突だった。
「咲夜、合コンというものを用意しなさい」
 これが紅茶やお菓子なら、瞬きする間に用意できる。しかし、合コンを用意しろというのは些か難しい話だ。
「合コンというのはイベントのようなものですので、急に用意しろと言われても無理です」
「なら、合コンというのをセッティングしなさい」
 やたらと合コンに拘るレミリア。何が彼女をここまで突き動かすのだろうか。
 咲夜も外の世界から来たとはいえ、何でも知ってるわけではない。合コンが男女の集まりというぐらいは知ってるものの、何をする所なのかまでは知らない。ただ、カップルがよく出来るという話は聞いたことがある。
 だからといって、まさかレミリアが彼氏を捜しているわけでもあるまいて。クリスマスが迫っているからといって、焦るような吸血鬼ではないのだ。
「お嬢様、どうしてそこまで合コンに拘るのですか?」
「合コンが何なのかは知らないわ。ただ、紫が言うのよね。あれは面白いものだと。だからやってみたいと思ったのよ」
 あれも余計な事を言う。いつか灸を据えてやりたいと思うのだが、あれだけの大妖怪にその願いが叶う日はきっとこないだろう。
「わかりました。お嬢様が満足いくよう用意します」
「任せたわよ、咲夜」
 などと任されたものの、まず合コンがどういうものか調べないといけない。大図書館に詳しい書物があるかと思ったが、意外にも詳しい人物が側にいた。
「あ、合コンですか。わかりました、私が相手の男性もセッティングしときますよ。とりあえずこっち側のメンバーは、お嬢様、咲夜さん、私、小悪魔、パチュリー様でいいですか?」
 門番の業務報告よりもスラスラと語り出す美鈴に、若干気圧される咲夜。
「え、ええ概ねはそれで構わないと思うけど。ただ、パチュリー様はどうかしら。こういうイベントが嫌いみたいだし、訊いてみないとわからないわ」
「じゃあパチュリー様が無理な場合は、代わりの人を呼んでおきますね。さすがに紅魔館の人だけじゃあ可哀想だし」
 失礼な発言ではあるが、否定はしない。レミリアは我が侭だし、フランドールは自由奔放だし、咲夜はレミリアに尽きっきり。小悪魔もなかなかどうしてアクが強い。こんな面子と宴会でもしようというのだから、確かに相手の男性が気の毒になってくる。
「じゃあパチュリー様には私から確認しておくから、そっちの方は頼んだわよ」
「わかりました。任せてください」
 それは、仕事に対するよりも力強い返事だった。





 どれほど屈強な男であろうと、どれほど熟練の技を持った男であろうと、この面子を見たら頭を抱えるであろう。
 紅魔館当主、レミリア・スカーレット。
 悪魔の妹、フランドール・スカーレット。
 瀟洒な従者、十六夜咲夜。
 華人小娘、紅 美鈴。
 妖精メイドが選ぶ性格の悪そうな奴ランキング第一位、小悪魔。
 そして早苗。
 早苗は早くも後悔していた。外の世界にいた頃は、合コンというものに縁が無かった。だけど、興味はあったのだ。だから来てしまったのだが、合コンというのはこんなにも息苦しいものだったのか。
「それで、集まったはいいけど具体的に何をするのかしら。合コンというのは?」
「とりあえず飲み物でも注文しませんか?」
 美鈴の提案に異論を唱える者はいない。
 すいませーん、と店員を呼ぶ。紫のエプロンを付けた店員がやってきた。
「はーい。ご注文をどう……って、あれ。レミリアさんじゃないですか!」
「ん?」
 素っ頓狂な声をあげる店員。指を指されたレミリアはそれを不快に思う様子もなく、ああ、と納得したような声を漏らした。
「お知り合いですか、お嬢様?」
「ええ、以前にちょっと」
「そうですね、以前にちょっと」
 顔見知りらしく、店員とレミリアは意味ありげな言葉を交わす。咲夜と小悪魔は不思議そうに首を傾げ、美鈴だけが苦笑いしていた。そしてフランドールは何故か早苗の服に夢中だった。さっきから興味深そうに、何度も裾を引っ張ったりしている。鬱陶しいが、迂闊に抵抗できないから困る。
 それにしても居づらい。まぁ、男性陣ほどではないが。
「それで、ご注文は何ですか?」
「私は生中。咲夜は?」
「では私も同じもので」
「あ、私も生中一つ」
「オレンジジュース!」
「この店で一番高い酒を」
「……じゃあ、ウーロン茶で」
 宴会なら確実に他人の迷惑をかぶる奴の選択だが、ここで酔えるほど早苗は大物ではなかった。
「大松さん達は何にします?」
 ここでさりげなく、美鈴が男性陣に声をかける。紅魔館登場のショックで固まっていた男達は、ようやく現実世界に戻ってきたらしい。しかし全員が生中と言ったあたり、まだ動揺しているのか、それとも単に麦酒が好きなだけか。
 店員は注文票に書き込みながら、向日葵のような笑顔で答える。
「はい。オレンジジュースとウーロン茶。それとアルコールがいっぱいですね!」
「持ってきてみろ」
「かしこまりました!」
 レミリアの冷たいツッコミを、笑顔で受け止める店員。何者かは知らないが、かなりの胆力を持っているようだ。
「で、ここからは何をするのかしら?」
「そうですね、じゃあ自己紹介からしましょうか」
 さすがは気を使う程度の能力。美鈴一人がいるおかげで、早くも暗雲が立ちこめていた場に燦然と太陽が輝き出す。
「じゃあ、そっちの男の方から……」
「あなた達の名前にも経歴にも興味ないわ」
 輝きだした太陽は、吸血鬼の霧によって覆われる。それでいて当人は涼しい顔なのだから、男性陣が更に萎縮するのも無理はない。
「ではゲームなど如何でしょう。王様ゲームというものがあると聞いたことがあります」
 重たい空気を打ち壊す為か、はたまた単にお嬢様の機嫌を良くする為か。確実に後者だろうが、今はその咲夜の言葉が何よりもありがたい。
 軽く顔を引きつらせていた美鈴も、慌てて咲夜の提案にのる。
「それがいいです! とっても楽しいゲームなんですよ、王様ゲーム」
「ふうん、ならやってみましょうか。名前が気に入ったわ、そのゲーム。夜の女王たる私に相応しいじゃない」
 机に両肘をつき、手の甲の上に顎をのせる。どれだけカリスマ溢れるポーズをとろうと、居酒屋なので意味はない。
「王様ゲームというのは、王様になった人が他人に命令することができるゲームです。王様の言うことは絶対ですけど、あんまり無茶なことは言わない方がいいです。それで王様の決め方はですね……」
「決める必要はないでしょ。なにしろ、ここに王様の器を持った私がいるのだから」
 また、色々と話がややこしくなり始めた。
「そうですわね。性別という問題を除けば、ここで王様に最も相応しいのはお嬢様ですもの」
 咲夜も賛同する。
 王様ゲームというのをやったことの無い早苗ですら、何か違うと思っているのに。
「ねえねえ、これちぎっていい? ちぎっていい?」
 ちなみに、先ほどから小声でフランドールが同じ質問を何回も繰り返しているが頑張って無視している。
「始める時は、王様の言うことは絶対、って言うらしいですよ」
 知っているのか知らないのか。そんな事を言う小悪魔。
「あら、そうなの。じゃあ今回はお嬢様の言うことは絶対、というかけ声で始めましょうか。それでいいですね、お嬢様」
「勿論」
 満足げに頷くレミリア。こうなっては諦めるしかないと、美鈴もがっくり項垂れた。
「それじゃあ、お嬢様の言うことは絶対!」
 咲夜に合わせ、フランドールや小悪魔も声をあげる。早苗もこっそり、小声であげておいた。男性陣は相変わらず固まっていた。
「そうね、ならフランドールは私のことを好きになってください」
「お嬢様、それは命令ではなくお願いです。そして、どことなく卑屈です」
 ここで瀟洒なメイドのツッコミが入る。しかしレミリアは馬耳東風で、告白を待っているかのようにフランドールに視線を向けた。
 さも当然といった顔で、フランドールは答える。
「命令されなくても、私、お姉様のこと好きだよ?」
 この時ばかりはレミリアもお嬢様という肩書きを外して、一人の少女として歓喜の雄叫びをあげた。机を踏みつけ、高らかに拳をあげるその様は、どこぞの教科書で革命の象徴として取り上げられそうなほど絵になる。
 感極まったのか、咲夜はハンカチで涙を拭っていた。
 ついていけない。
「あのー、お嬢様」
「何よ、美鈴。泣いてもいいのよ」
「泣きませんよ。それよりも、根本的にゲームが成立してないんですけど。命令される側はクジか何かで決めないといけないんです。勿論、王様も」
 至極当然のルールだった。
「そうなの。じゃあ、咲夜」
「はい、わかっています」
 言うや否や、咲夜の手に何本もの紙で出来たクジが現れる。宴会芸としても通用しそうな匠の技に、こちらを見ていた客が拍手喝采を送る。
「では、どうぞ」
 ちゃっかり早苗の分もクジが作られていた。こうなっては、ひかないわけにもいかない。
 ナチュラルに男性陣のクジがない辺りは、本当に忘れているのだろう。可哀想に。
「ねえねえ、お姉様。じゃあ、次は私が王様やってもいい?」
「ん? いいわよ」
 相変わらず、レミリアの周りではルールを無視したやり取りが繰り広げられている。だが、相手はフランドール。誰も文句を言える者はいなかった。
 仕方なく王様はフランドールということになり、命令される側だけクジをひくことになった。
「妹様の言うことは絶対!」
 早苗の番号は三。
 どちらかといえば、縁起の良い数字である。
「じゃあね、三番を私がぎゅっとして、どっかーん!」
 早苗は逃げ出した。
 机を踏み台にして、男性陣を蹴飛ばしての逃走だった。
 十秒後、咲夜に捕まった。
「大丈夫よ。本当に殺させたりはしないから」
「ほ、本当ですか! お願いしますよ!」
 咲夜や美鈴の必死の説得もあり、何とかフランドールは命令を変える気になってくれた。なってくれないと死ぬので困る。
「だったら、三番が一番をビンタ!」
 まぁ、この程度なら笑って済ませられる範囲である。
 ただ、二度目の命令も三番なのには若干の悪意を感じたが。
 人を殴った事など、生まれてこの方一度もないのに。
「一番はだれー?」
 互いが互いの顔を見合わす中で、ゆっくりと挙がる一本の手。
 レミリアだった。
 早苗は逃げだそうとしたが、その肩をがっちりと咲夜が掴む。
「ここであなたが逃げたら、お嬢様のプライドがボロボロになるでしょ。いいから、やりなさい」
 小声でそう囁かれた。事実、レミリアは顔を強ばらせながらも軽く顎を突き出している。
 どこからでもビンタしてくれと、言わんばかりの態度だった。
 早苗は諦め、レミリアに向き直った。
 ぺしっ。
 軽い音が居酒屋に響く。
 人を殴った事のない早苗。なにぶん加減がわからず、触った程度のビンタしか出来なかった。
 案の定、レミリアは不満顔だ。
「なによ、私に遠慮しているの? 私は最強の種族、吸血鬼なのよ! たかが巫女ごときにビンタされたぐらいで、どうこうなるわけじゃないわ。もっと、思い切りやりなさい」
「……わかりました」
 仕方なく、早苗は思いきり手を振り上げた。
 そして響き渡ったのは、柏手のような音。
 人を殴った事のない早苗。なにぶん加減がわからず、頬が腫れるほど本気で殴ってしまった。
 軽く吹き飛んだレミリアは、真っ赤になった部分を押さえて、涙目になっている。
 美鈴が慌てて厨房から氷を持ってきて冷やす傍らで、いきなり肩を思い切り掴まれた。
「十六夜の無い夜に注意しなさい」
 殺気の籠もった忠告だった。
 夜道を歩く時は神様と歩こう。固く胸に誓う早苗であった。
 ちなみにフランドールは楽しそうにずっと笑っていたという。
「気を取り直して、もう一回やりましょう」
 ここまで空気に徹してきた小悪魔が、空気を読まずにそう言った。レミリアが泣きかけ、咲夜の機嫌が地獄に突入している中で、どうしてもう一回やる必要があるのか。
 早苗はそう思ったのだが、紅魔館の面子は全く逆であった。
「そうね、せっかくだからもう一回だけやりましょう」
「私はもう満足だから、他の人が王様やってもいいよー」
 二大巨頭たるレミリアとフランドールの発言に、美鈴も咲夜も頷く。やる気まんまんらしい。
「では、私が王様をやってもいいですか?」
 言い出しっぺの小悪魔は、急にそんなことを言い出した。
 咲夜は溜息をつき、呆れたように言った。
「どうせ、誰かが全裸になるとか、そういったくだらない事を言うつもりなんでしょ」
「甘いですね、咲夜さん。むしろ私クラスになると、全裸では興奮しない!」
 どうでもいい事を力強く言い放つ。
 しかしレミリアは感銘を受けたように目を見開いている。
「さすが小悪魔、心に響く台詞ね」
「お褒めにあずかり光栄です。ということで、私が王様をやってもいいですか?」
「ええ、勿論よ」
 そうして配られるクジ。
「小悪魔の言うことは変態!」
 まさしくその通りだった。





 早苗が眼鏡をかけスクール水着の上に白衣を羽織り、羞恥で顔を真っ赤にしていると、ようやく店員が戻ってきた。
 注文してから随分と経つ。
 レミリアもこれには不満が溜まっていたようだ。開口一番、飛びだしたのは文句の言葉だった。
「遅かったじゃない」
「準備に手間取りまして。申し訳ありません」
 丁寧に頭をさげる店員。しかしあれだけの注文で、そんなに時間が掛かるものだろうか。
「ご注文のアルコールいっぱいお持ちしました!」
「アルコールランプで何しろってのよ」
 テーブルに並べられたのは、どこか懐かしさを漂わせるアルコールランプの群れ。少なくとも、居酒屋で見られる光景ではない。
 店員は難しい顔をして、おもむろにランプのキャップを取り外した。
「水は百度で沸騰します」
「理科の実験じゃないのよ」
「じゃあ、もうおっぱいを揉んだらいいじゃないですか」
「何でもおっぱいで片づけようとするな。それで許してくれるのは私ぐらいのものよ!」
「ナイスおっぱい」
「グッドおっぱい」
 サムズアップで意志疎通をはかる二人。
 なんだこれ。
 早苗のかけていた眼鏡がずれた。





「お姉様、お姉様。コンソメ入れようよ、コンソメ」
「まあ待ちなさいフラン。それよりもまず昆布で出汁をとりましょう」
 アルコールランプで熱されたビーカーが、中の水を沸騰させる。ぐつぐつと煮立ったお湯を、レミリアとフランが興味深そうに眺めていた。
 なんだかんだで楽しんでいるらしい。相変わらず、喉は寂しいままだが。
「とりあえず揚げ出し豆腐と串アラカルトと餃子とフライドポテトで」
「私はこのページ、全部お願いします」
「はい、とにかく食えるものですね!」
 美鈴と小悪魔は果敢に店員へ挑戦していたが、こちらも相変わらず意志の疎通がとれていない。いい加減腹に据えかねたのか、咲夜がナイフを片手に店員へ立ち向かう。
「あなた、そろそろ真面目に注文をとったらどうですか? お嬢様も妹様も、飲み物が無いと嘆いているんですよ」
 二人はコンソメを入れて、色が変わったとはしゃいでいた。
「そう言われましても、当店の経営方針は曲解ですから」
「最悪な経営方針じゃないの」
「はい! 私も最高だと思ってます!」
「曲解するな」
 しかしこれでやる気を殺がれたのか、咲夜はナイフを仕舞って席に戻る。
「まったく、合コンというのはとんでもないイベントね。店は酷いわ、こんな格好をした巫女はいるわ」
「この格好はあなたのところの悪魔がやらせたんじゃないですか!」
「でも嬉しそうに頬を染めているじゃないの!」
「恥ずかしいんです!」
 怒鳴り合いながら、睨み合う。ここまで萎縮していた早苗だが、もう我慢の限界だった。
 呼ばれて来た自分も悪いが、まさかここまで最悪な目に遭うとは誰が予想できただろうか。
「度胸ある巫女ね。いいわよ、それなら勝負しましょう」
「望むところです。でも、ここで弾幕ごっこをするわけにもいかないんで、どうせならカラオケで勝負しましょうか」
「歌でってことね。いいわ、それでいきましょう」
「じゃあ二次会はカラオケってことで。馴染みのカラオケ屋に予約入れときますね」
 そそくさと出て行く美鈴に続き、小悪魔も不満顔で付いていく。
「お嬢様、次の会場に行きますよ」
「そうなの? わかったわ、行くわよフラン」
「はーい、お姉様」
 早苗と咲夜は肩をぶつからせながら。
 レミリアとフランは仲良く手を繋ぎながら、居酒屋を出て行った。





「えー、それじゃあお会計の方ですけど……」
 男達は泣いた。
 異性とこの話を見たら、死にます。
八重結界
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コメント



0.2460簡易評価
3.90名前が無い程度の能力削除
ありません懐かしいよありませんw byニーチェ

つうかこの気まずい空気がアレすぎてちょっと思い出し笑い泣きをした。
5.100謳魚削除
一人だけでも常人が霞む程度の個性なのにこれだけ集まった日にゃ「男性陣、乙」としか言い様が無いような……。
最期の良心っぽい早苗さんと美鈴隊長が存在を忘れてるのに他の面々が男性陣に気付こうかいや無茶無理無謀無駄無策。
しかし店員さんとても良い味をお出しで。
11.90名前が無い程度の能力削除
店員ってもしかして、いつぞやの有間仙さん?
12.90名前が無い程度の能力削除
気を使う程度の能力てそっちか。
店員はおっぱいの人ですね。
14.100名前が無い程度の能力削除
>私は生中
もうここで駄目でした……早苗さんと男性陣のなんと不憫なこと。
18.無評価名前が無い程度の能力削除
>「三番はだれー?」
> 互いが互いの顔を見合わす中で、ゆっくりと挙がる一本の手。
> レミリアだった。

お嬢様は一番ですよね!
19.70名前が無い程度の能力削除
>「三番はだれー?」
一番の間違いではないでしょうか?
勘違いだったらすみません。
20.無評価八重結界削除
誤字を修正しました。ご指摘ありがとうございます。
27.80名前が無い程度の能力削除
やっぱ早苗さんはいじられてなんぼだな!
それとあとがきが不意打ちすぎて生中噴いたw
28.40名前が無い程度の能力削除
王様ゲームの辺りまでは面白かったのですが、それ以降はイマイチ。
合コンギャグにこだわるなら、男性陣にも何とか事態を打開しようとする動きがあっても良かったと思います。
この作品は中盤の段階で既にクリスマスも合コンも関係無くなっていますし、これなら紅魔館メンバーとゲストの
早苗が忘年会で里の居酒屋を訪れたというシチュエーションの方がすっきりしたんじゃないでしょうか。
31.90名前が無い程度の能力削除
カオスすぎるwwwwww
32.80名前が無い程度の能力削除
笑った。
37.無評価名前が無い程度の能力削除
これアレですよね、漫画で言えば空気化してる男性陣の表情の変遷がちりばめられる展開かとw
読みながら男性陣を夢想して切なくなりました、見事にオチまで全うした彼らに幸あらん事を…。
38.80名前が無い程度の能力削除
おっと失敬、点数入れ忘れました。
43.80名前が無い程度の能力削除
小悪魔変態すぎるw
早苗さんがいてくれてよかったです。ほぼ唯一のツッコミ要員。
でも空気でいいから、男たちの一人として参加したいなあ、この合コン。
44.80名前が無い程度の能力削除
早苗さんと飲めるならお代払うだけでもいいです
49.60名前が無い程度の能力削除
男性陣が途中から背景より酷いことにw
50.100名前が無い程度の能力削除
なんかもう、切ないとか背景とかそういうのを超越してるよ、男性陣…
51.80名前が無い程度の能力削除
>どれだけカリスマ溢れるポーズをとろうと、居酒屋なので意味はない。
腹筋がぶち壊れるかと思いました。
56.100名前が無い程度の能力削除
あとがきで噴いたww
60.100名前が無い程度の能力削除
お…女を殴りたいと本気で思ったのは生まれて初めてだ…
無茶苦茶やるせない気持ちになってしまったじゃないか、どうしてくれる!!?(誉め言葉
男達に全力で合掌。
62.80マイマイ削除
>「あなた達の名前にも経歴にも興味ないわ」
合コンをしょっぱなから完全に理解していないおぜうさま乙
男たちも乙。相手が悪すぎた。
63.100ルル削除
こういう展開を予測してたからパチェさんは参加しなかったんだろうなぁ。
あと男性陣乙。生きろ……
67.100名前が無い程度の能力削除
 
72.100名前が無い程度の能力削除
まさかのありません再登場に吹いた
77.100名前が無い程度の能力削除
ちがうよ。
男たちは早苗さんのスク水メガネ姿が見れたから、感極まって泣いてるんだよ。
きっと。
80.90Admiral削除
おぜうさまw
84.100名前が無い程度の能力削除
うん…相手が悪かった。