ぴっ。
おお、壁が裂ける、これはいったいどうしたことだろう。
レミリアは思った。
「咲夜、お客さんよ」
壁のスキマから頭だけ出した紫が言う。
「あなたねえ・・・・」
そう言ってる間にも咲夜がお盆に紅茶と茶菓子を乗せてやって来る。
紫は盆の上の茶菓子をスキマを通して一つつまみあげるとそのまま口の中に放り込んだ。
「おいしいじゃない、これだけでもここに来たかいがあったわ」
「あなたねえ、もう少し品よくふるまえないものなの?」
そう言いつつもレミリアはかくも優雅にこういうことをやってのける紫を内心尊敬していた、これが本当の気品ではないかとさえ思うときもある。
「まだ人間臭さが抜けきらないのね、まあ、あの事があったのもずいぶん最近のことですもの、しょうがないわ。」
「お互いさまよ」
レミリアが不満げにつぶやくと紫はカラカラと笑った。
「まあ、ひとまずお入りなさい、いつまで壁に刺さってるつもり?」
「それじゃ、お言葉に甘えて」
隙間から出てきたのはゆかりだけではなかった、その後ろから稗田の娘が肩身狭げについてきているのだ。
スキマを出てに椅子に掛けると「窮屈だったのよ、助かったわ」等と言って一人で笑っていた
「それで、今日は何の用?」
「いや、この子が吸血鬼異変について知りたらしくてね、首謀者に聞くのが何でも一番早いわ」
「あなただって、当事者の一人でしょう、いじわるせずにあなたが教えてやればよかったじゃない、第一、歴史は勝者の手で紡がれるものよ、私に出る幕はないわ」
「そういうところが人間臭いって言ってるのよ、幻想郷にそのルールは通用しないわ、それに見方によってはあなたが勝者じゃない」
次第に語調を強めてゆく二人の会話に危機感を覚えたのか阿求が割って入った、蚊の鳴くような声ではあったが。
「あの・・・ご迷惑なら・・・」
するとレミリアは慌ててそれを遮った。
「そういうわけじゃないんだけど・・・」
「大丈夫よ、この人これで出たがりだから」
紫がそんなレミリアを指さしてクスクス笑う。
「さて、どこから話そうかしら・・・ねえ、レミリア?」
「そうねえ・・・」
「そういえば、あなた幻想卿に来るまでは何してたの?」
「それは関係ないでしょう?」
「私が気になるのよ」
「ダメよ、ダメダメダメ」
「つれないのねえ」
「あまりかっこいいもんじゃないのよ」
それを聞いて紫は「そう」と言ったきり黙ってしまった。
「ここに来る者たちはわけありだからね、聞かないことにしておくわ」
「ええ」
そこで突然レミリアは阿求の方を向いて言った。
「ところで、あなたはいつ都合がいいのかしら?」
「私はいつでも・・・」
「それじゃ、一週間ほどお時間をいただける?」
そこで紫が口をはさむ。
「それはいいけど、場所はどうするの?」
「幽々子の話も聞きたいから白玉楼にしましょう、あの人には紫から連絡しておいてね」
「わかったわ」
「それじゃあ一週間後の宵の始めに白玉楼でよろしいですか」
「それじゃ、今日は解散ね」
「それじゃ、おやすみなさい」
「ちゃんとその子を送ってあげるのよ、紫」
「合点」
こちらを振り向き少し笑いながら紫は言った。
こうして二人は帰って行った。
「聞いてた?咲夜?」
「いいえ、お嬢様」
「紫は昔のことが気になるみたいね」
「私も気になります、少し」
そういうとレミリアはふっと笑ってつぶやいた。
「構わないわよ、あなたになら」
「ほんの冗談です、お嬢様、私の知ってる範囲で十分です」
そこでレミリアは席を立った、咲夜の腕にすがりついて言う。
「あなたには知ってほしいのよ、全てね」
「お聴きします」
そこまで言うとレミリアはパアっと笑ってこういった。
「お酒を持ってきて頂戴、とびきり強くてとびきりいいやつを」
「かしこまりました」
咲夜の足跡が遠ざかってゆくのを確かめてレミリアが一言つぶやく。
「素面で話すなんてまっぴらご免こうむるわ」
その小さな背を椅子に凭せ掛けて彼女は外を見つめた、ちょうど夜は明けようとしている。
「あなたはどこまでも私を追いかけてくるのね、そうして私を閉じ込める、ああ、懐かしいあなたの薫り、まだ覚えている」
私はルーマニアのある貴族の家系に生まれた。
父親も母親も吸血鬼だった、懐かしい太陽の香り、私は生まれながらの吸血鬼ではなかった、もちろんフランも、あの子もあの懐かしい、やわらかくやさしい太陽の香りを覚えているのかしら?だとしたら神様は残酷ね。
私が5歳の時にフランが生まれた、本当にかわいらしい赤ん坊だった、勿論、今もかわいらしいと思うわよ。
それから5年間は幸せだった。
私が吸血鬼になったのは10歳の時、私は父親の手で吸血鬼の洗礼を受けた。
このころ戦いの風が私の故郷を包んでいた、私の父親が急ごしらえの軍隊を率いてある場所の防御に行くことになった。
その当時吸血鬼の洗礼はその家の家督を持つ者が行うことになっていてフランの洗礼は異例のことながら5年も早まった。
その儀式のときに事故が起きたのだった、洗礼を受けた直後に強大な力を得たフランは不幸にもパニックに陥りその部屋にいたものを皆殺しにしてしまったのだ、勘違いしないで、その時にはフランはまだ正気だったのよ。
父親の出征は中止になる、私たちはそこにいられなくなった。
私たちは故郷と両親を同時に失った。
私は吸血鬼の叔父を頼って生きていくことにした、それから長い間私たちは昼間には影の中に逃げ込み暗い夜に行動する、そんな旅を終えて私たちは叔父様の家にたどり着いた、そこの人たちはみなやさしかったけど、父親と母親の死の真相は告げずに置いた。
そこで私たちは社交界に出た、それがここに来るまではそれが私の唯一の楽しみになった、吸血鬼社会の中にも紹介されて私たちは居場所を手に入れた、フランも楽しげだった、私はあの事件の暗い影がフランの中から消え去ればいいと思った、暗い夜の住人だからこそ心の中は晴れやかであったほしかった。
でも、そんな社交界も一時期私にとって苦痛になった、恋愛の味を覚えたのだ、いつまでも変わらぬこの体が憎かった、吸血鬼の宿命が憎かった、この運命にナイフを突き立てて殺してしまいたいとも思った、割り切るにはずいぶん時間がかかった、フランも何も言わなかったけどきっとつらかったでしょう、フランはもうあのことを微塵も気にしないようになっていた、嬉しかった。
それを察してくれた叔父さまはワルプルギスの夜に私たちを連れて行ってくれた、魑魅魍魎の祭典、あらゆる魔性の乱痴気騒ぎ、でもそこで出会ってしまった、あの下品で野蛮で人間の心をかけらも持ち合わせぬ吸血鬼!奴はおじさまにもフランにもあの事をまるで今見てきたように話した、叔父様は私たちをあの喧噪の中に置き去りにした、吸血鬼社会からも追放された、またも私たちは居場所を失った、乱痴気騒ぎの中で私を見上げるフランの瞳は、ああ!嘆かわしい!もはや狂気のものだった。
それから私たちは故郷を離れてイギリスに行った、そこで悪魔として暮らし始めた、初めは人を襲う、ある程度名が売れてくると私たちを殺そうとする者たちが現れた、初めは一人、次第に数も増えて腕の立つ者が集まるようになった、私は焦りを感じ始めた、私はイギリスを離れドイツへ渡る、あの時もう一年あの生活を続けていたら私たちは殺されていたのではないかしら。
しかしそこで私はひらめいた、私の人の運命を操る能力、それを使って私は「商売」を始めた、力や知識、名声を求める人間のためにこの能力をふるった、そこから再び社交界へ帰り咲く。
いい?咲夜、吸血鬼はねどこでもいつでも不死身の種族なのよ、ともかく私はこの窮地を脱した、あの時、帰ってきた華やかな舞台、でもそこにフランはいなかった、そのことが私の心を深く傷つけた、それに私は悪魔らしい生き方に慣れてなかったからね、ずいぶん精神的にも不安定になって色んな誘惑に身を任せた、はじめは煙草にお酒、お次は麻薬、色町にもずいぶんお世話になった、お笑い草ね、人を誘惑し滅ぼしてゆく悪魔が誘惑の甘い汁に悶え苦しむ。
一歩間違えば私もフランのようになっていたと思うわ、で、そこにパチュリーが現れた、いつものようにだまし滅ぼすつもりで忍び込んだ館の主人だった、そのころあらゆる害悪に蝕まれて弱っていた私はパチュリーに殺されかけてこう言った、「待って!あなたに無限の知識を授けてあげるわ、その代り命だけは勘弁して、お願い、妹がいるのよ」パチユリーは優しかった、命を助けてくれただけでなく、私とフランを家に住まわせてくれた、私をあの害悪から引き離してもくれた、私たちは久々に安息を覚えた、私はパチュリーの為にあらゆる書物を手に入れてきた、お望みになればソロモンの鍵でもノストラダムス直筆の品でも自由自在、私もそこでいろんな本を読んだ、そこでいろんな魔法も使えるようになった、あらゆる知識が私のものになった、少しづつ館の運営を私に任せてくれるようになった。
パチュリーは世間に出るのをとても嫌がる人だったけれども私たちをあの華やかな舞台にもたびたび連れて行ってくれた、けれどもそのころ魔術って言うのはずいぶんばれるとまずいものでね、ある日とうとうバチカンから異端尋問官がやってきた、誰が結果のわかりきった裁判になぞ出るものですか、そう言ってパチュリーは本と家財を持って逃避行を始めた、そうして私たちは海を渡ってイギリスにたどり着いた、パチュリーは聖職者の追跡から逃れるために私をブラド・ツェペシュの血をひくこの館の当主という触れ込みで社交界に触れこんだのよ、初めっから私はこの館の当主じゃあなかったってわけね、ともかく私はロンドン社交界のちいさな人気者になった、そこであなたにも出会った。
その時にはもう私たちは周りからいぶかしがられ始めていた、当然ね、年を取らないんですもの、そん時私たちは次はパリに逃げようと思っていたのよ。
ねえ、咲夜?なんであの時あなたはあんな恐ろしいことをしていたの?まあ答えたくないことは無理にはきかないわ、その代り、いつか教えてちょうだいね。
あなたを一目見たとき私は思ったわ、あなたはパリの社交界にでも通用するって、
頭のくらくらするような話だった、お嬢様にそんな過去があったとは、ふとテーブルに目を向けたらグラスは空だった。
「おつぎしましょうか?」
「もういいわ、これ以上飲んだら間違いなく悪酔いする」
「わかりました」
「そうだ、一週間後に阿求ちゃんが吸血鬼条約について聞きに来るからあなたも頭の中で話をまとめておいてね」
「私もですか?」
「そうよ、あなたも共犯者なんだからね」
「かしこまりました」
「なにもかしこまらなくたっていいわよ」
私たちは顔を見合せて笑った。
「ねえ…今日は飲みなおす代わりに…ねえ、抱いてよ、咲夜」
「かしこまりました」
「別にかしこまらなくたっていいわよ」
そういうとレミリアお嬢様は顔を赤らめてフフフと笑った、本当にかわいらしいお方だと思う、私など足元にも及ばないほど。
私はグラスの中の褐色を喉に放り込んだ。
紅魔館の赤い屋根に太陽が照りつける、その窓からはかすかに人間の匂いがした。
以下の通りにすれば、読みやすくなるかも↓
ぴっ。
おお、壁が裂ける、これはいったいどうしたことだろう。
レミリアは思った。
「咲夜、お客さんよ」
壁のスキマから頭だけ出した紫が言う。
「あなたねえ・・・・」
そう言ってる間にも昨夜がお盆に紅茶と茶菓子を乗せてやってきた来る。
紫は盆の上の茶菓子をスキマを通して一つつまみあげるとそのまま口の中に放り込んだ。
「おいしいじゃない、これだけでもここに来たかいがあったわ」
「あなたねえ、もう少し品よくふるまえないものなの?」
そう言いつつもレミリアはかくも優雅にこういうことをやってのける紫を内心尊敬していた、これが本当の気品ではないかとさえ思うときもある。
と、いう感じ。
少しでも読みやすくなれば幸いです
私なんかが口に出すのも畏れ多いことですが誤字でしょうかね。
以上の通りにすれば、読みやすくなるかも↑
と、いう感じ。
以外な過去の設定がちょっと新鮮で面白かったです。
誤字の報告
>そう言ってる間にも昨夜がお盆に~
昨夜ではなくて咲夜かと。
>そういうとレミリアわふっと笑ってつぶやいた。
わではなく、「は」です。
誤字訂正しました、誤字ばっかですいません。
>12
次回から気を付けます・・・
例えば、
>おお、壁が裂ける、
おお、壁が裂ける。
>まだ人間臭さが抜けきらないのね、まあ、あの事があったのもずいぶん最近のことですもの、しょうがないわ
まだ人間臭さが抜けきらないのね。まあ、あの事があったのもずいぶん最近のことですもの。しょうがないわ
句読点の使い方で読みやすさが大分代わると思います。
その辺りをもう少し勉強された方がよいかと。