※マリアリなのか?
※自分設定多いです。
※冒頭が正直者の死と同じくらいイミフです。
初見ではまず理解できません。
それでもよろしければ、どうぞ。
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3.紫苑
――遠い君を想う。
* * *
怨霊が杖を横薙ぎに振るうのと同時に、周囲は業火に包まれた。
それは星の熱、星の光を手離した彼女が得た対価。
地底の灼熱地獄を顕現させるという、常識を超えた召喚魔法。
赤く燃え滾る灼熱に照らされた藍色のローブは鮮やかな紫苑に染まり、それは死怨(しおん)の韻を踏む。
それに対峙するのは、人形の血を注がれた、黒き聖杯。
両手で構える光の刃は、決して消えることの無い意志の証。
死神の鎌を倣ったそれは、怨霊を呪縛から解き放つ為の概念武装。
紫苑の怨霊は、悲願を達成するが為に、黒き聖杯を追求する。
黒き聖杯は、少女の幸福を守る為に、紫苑の怨霊を否定する。
両者の存在は表裏一体が故に対峙し、そして互いを拒絶する。
* * *
二人の優劣は、客観的に見るまでも無く明らかだった。
圧倒的なまでの魔力を有する怨霊の前に、一振りの刃のみしか武器を持たない聖杯は為す術も無く追い込まれていく。
対象に破滅をもたらすことを目的とした攻撃手段しか持たない怨霊は、聖杯を疵付けてはならないが為に攻めあぐねる。
聖杯が今もこうして戦い続けていられるのは、怨霊が手加減をしているからに他ならない。
けれど、だからこそ、聖杯は勝機を掴み得た。
敢えて自ら行く手を阻む灼熱の中に飛び込んで目晦ましを仕掛けると同時に、その勢いのまま、怨霊を両断したのだ。
己を顧みること無く、文字通り、その全てを燃やし尽くして。
光の刃が横薙ぎに体を両断していくその瞬間、怨霊は悟った。
聖杯が失われ、そして自らが滅びる以上、自分の願いが叶うことは二度と無いのだと。
消滅する寸前に僅かばかりの知性を取り戻した怨霊は、最期に一言だけ呟いた。
相手に届くことが無いと分かった上で、それでも最期に、伝えるべき言葉を遺す為に。
それは、星を意味する花――紫苑の、花言葉。
2.プラスチックマインド
――君を忘れない。
* * *
人間である彼女が、種族の魔法使いである私より先に死ぬだろうということは理解していた。
だから、いつか訪れるであろう彼女の最期を見届ける瞬間も、私は取り乱したりしないだろうという自信すらあった。
私の予想では彼女の最期は寿命による老衰であり、皺だらけの老婆になるまでしぶとく生き延びておきながら、あんな性格じゃきっと独り身だろうから身寄りも一人もいなくて、仕方なく近所に住んでいる私が世話をし、そしてそのまま、彼女の最期を看取ることになるのだろうと思っていた。
思えばそれは、少しでも長い間彼女と共に過ごしていたいという、私の願望の表れだったのかもしれない。
もしも彼女の死の瞬間がその予想通りだったのであれば、私はきっと現実を受け入れることが出来たに違いない。
共に過ごす時間の中で、彼女が老いていく姿を見届けながら、徐々に覚悟を固めていけばいいのだから。
けれど現実は違った。
寿命を迎える事なく、その最期を私が見届ける事も無く、彼女はその人生を終えたのである。
彼女が本当に呆気なく死んでしまったからこそ、それに対する覚悟なんて用意出来ている筈が無かった。
五十余年前の霧雨魔理沙の死によって、彼女という存在が自分にとってどれほど大きなものだったのかということを、私は再認識させられざるをえなかった。
* * *
とある異変を解決するために、彼女は単身、地底へと向かうこととなった。
妖怪間において地上と地底には相互不可侵の条約が定められており、その制限を回避するために、人間である博麗霊夢と霧雨魔理沙の二人が選ばれたのだ。
二人は親友であると共にライバルであり、だからこそ協力する事なく、個別行動を取るのは当然といえば当然といえる。
もっとも、協力を拒むのは魔理沙だけであり、霊夢は別にどちらでも構わなかったのだろうけど。
条約によって直接行動を起こせない私は、魔理沙の支援を務めることになった。
同時に自慢ともいえる人形を貸し出すことにもなったが、魔理沙に貸したものが返ってきた例は無いので、開き直って本当に大切な人形――上海人形を手渡した。
私にとってこの子がどれだけ大切な存在なのかを、彼女は知っている。
いくら魔理沙でも、私にこの子を返さないわけにはいくまい、と。
予想外のことに戸惑う魔理沙の首に人形と一緒に用意しておいた藍色のケープを巻き付けて、「風邪をひかないように」と私は見送り出す。
何処か気恥ずかしそうに「借りとくぜ」と笑って、魔理沙は箒に跨って飛び出していった。
異変が起きる度に霊夢と魔理沙の二人が行動を起こすのはいつも通りのことであり、いざ異変が解決された後から振り返れば、それは日常の一環にしか過ぎないのかもしれない。
そんな大した事のない日常の延長線上で、予期せぬ事故が起きたのだ。
八雲紫によって人形に付加された通信機能を介した魔理沙との通話の最中に突然ノイズが走ったかと思うと、次いで大きな衝撃音が響いてきた。
鼓膜が破れたかもしれないと思うほどの大音量に驚いた私がどうしたのかと尋ねても、返ってくる音はノイズだけであり、名前を何度呼んでも魔理沙の返答は無い。
徐々に、そして際限無く込み上げてくる言い様の無い不安を拭いたい一心で、私は魔理沙の名前を何度も何度も叫び続ける。
けれどそんな私を突き放すかの如く、通信が途切れた。
本能の赴くまま後先考えずに、私は魔理沙の元へと向かった。
妖怪間の相互不可侵条約を破ろうとしている私を咎めるでもなく無言で八雲紫が道を譲ったとき、私は心の淵に残っていた僅かな余裕を切り捨てた。
道中の妖怪、鬼、霊夢、それらの私を制止しようとする全ての障害を、封印を解いた『究極』の力で形振り構わずに蹴散らしながら、私は急ぐ。
もはや弾幕ごっことして成立しない、形状美も形式美も存在しない、文字通りの『弾幕』を撒き散らして。
弾幕ごっこはブレインであり、そして弾幕はパワーである。
パターンの組めない初見において、ただひたすら一瞬でも速いクリアを目的とするのならば、後者は真理だった。
* * *
魔理沙を見付けた瞬間、世界が罅割れた。
足元が突然崩れてとても立ってなどいられないのに、いつの間にか魔法で浮遊することすら禁じられていた。
けれどそれは本当は、崩れたのは世界ではなく自分の膝だけであって、魔法が使えない理由は魔力が切れただけだということにすら私は気付けない。
そして現実は、非情だった。
私からの呼びかけに反応は無く、その脈を確認しようとしたとき、その左腕が冷たく固まってしまっていることに気付いた。
罅割れても何とか形を保っていた世界が、音も無く崩れ落ちていく。
様々な感情の暴走と禁書の乱用による急激な魔力の過剰消費繰り返した反動で、私の精神は既に限界を超えていたらしい。
そのまま認めたくない現実から逃げ出そうと、私は意識を手離した。
* * *
『目ぇ覚ませ、こんな所で寝てたら風邪ひくぞー』
別に構わないわ。
彼女を喪ったのと同時に、世界は滅んでしまったのだから。
『なら尚更だ。
世界は滅びてなんていないんだから』
いいえ、滅んだのよ。
実際に滅んでいようと滅んでいまいと、そんなことは些末事。
私にとっての世界って、どうやら魔理沙と同義だったのだから。
彼女に連れ回されていろんな場所へ行って、いろんなことをして、いろんなことを知って、いろんな人に会ったわ。
私の世界は彼女によって広がり、そして彼女との記憶に満たされている。
ほら、私にとっての世界は、魔理沙そのものでしょう?
『・・・どうしてそんなに、あいつにこだわるんだ?』
私は彼女に救われたのよ。
親に見限られて魔界を追放され、見知らぬ地に独り余儀無くされた私を救ってくれたのは、彼女だった。
辺境へようこそ、って。
たったそれだけの一言に、その笑顔に、私がどれ程救われたことか。
『巣食われた、か』
ええその通り、巣食われたのよ。
罅割れて今にも壊れてしまいそうだった私の心の隙間を埋めるように、彼女の存在が入り込んだの。
たった一人の友人がいてくれたからこそ、私は立ち直ることが出来た。
世界と同じように、私の心もまた、彼女によって支えられていたのよ。
『・・・馬鹿じゃねーの?』
・・・何ですって?
『どんだけ悲劇のヒロインを気取ってりゃ気が済むんだよ?
友達が少ないからって、その数少ない友人の一人に甘えてばっかりでどうする?
そもそも神綺はお前を見離してなんていない、そう思っているのはお前だけだ』
嘘、そんな筈は無い。
人間の魔法使いに敗れるような私に呆れた神綺様が私を見限ったのは、紛れも無い事実だ。
私には魔界にいる資格が無い、幻想郷へ渡れ、って。
『お前、小説をちゃんと最後まで読まないタイプだろ?』
・・・何故、そんな今の話とは関係無い質問を?
『関係大有りだ。
そしてその微妙な間と反応から察するに、さては図星だな』
・・・否定できないわ。
『これからは魔導書を読む時と同じようにちゃんと最後まで読め。
物語は最後まで読まないと、真実には辿り着けないものなんだから』
・・・分かったわ、教えて頂戴。
私が知らない、私の――アリスの物語の真実を。
『飲み込みが早くてよろしい。
ならば語ろう、たった十数行の真実を』
* * *
人間の魔法使いに負けてしまったアリスは、そんな自分を責めていました。
種族の魔法使いが人間に魔法で負けるだなんて、見たことも聞いたことも無かったからです。
しかも切り札である禁書を用いてまでの敗北ですから、そのことが余計にアリスの心を締め付けます。
それを見て居た堪れない神綺は、何とかアリスを励まそうとして、とても素晴らしいアイディアを閃きました。
その内容は、敢えてアリスを親元から離れさせることで自立させるというもの。
そしてその舞台には、彼女に衝撃を与えた人間達のご近所が相応しいと。
そもそも社交性が人一倍少なく、感情を自分の中に押し込めることが多々ある引っ込み思案で引き篭もりがちなアリスに、自信を付けてもらおうと考えたのです。
親から与えられた魔導書にいくらプライドを持とうともそれは自信とは言えず、そしてそのプライドは既に砕かれてしまったのですから。
アリスは甘えん坊なので辛い思いをするであろうことを神綺は承知していましたが、けれど甘やかしてばかりではアリスの為にもなりません。
愛情という今にも溢れてしまいそうな沢山の飴玉を戸棚の奥に仕舞い込み、その代わりに飴玉と同じく愛情という名の鞭を振るわんとする神綺もまた、辛い気持ちで一杯でした。
けれど神綺は、そんな自分の本音を押し殺します。
全ては、可愛い娘の為に。
幸いにも季節は春。
暖かいこの時期になら、アリスが風邪をひくような心配もないでしょう。
けれど当時、そうしてアリスが送り出された幻想郷は、終わらない冬の異変に覆われていました。
その吹雪がもたらす冷気が、アリスの心を凍えさせ、そして冷たく傷付けたのです。
* * *
『これが、物語に隠された真実。
親子の些細な擦れ違いの全て』
・・・そんな、そんなことって・・・!
『信じる必要は無い、だけど信じて欲しい。
後ろを向き続けて歩みを止めるよりは、前を向いて先に進む方が余程マシだろうから。
歩みを止めて後ろを振り返るのは、偶にだけでいい。
たとえ本当にどうしようもなくなってたとしても、ハッピーエンドを願うことくらいは出来る』
・・・そうね、その通り。
信じるわ、貴女の言うこと。
『ならもう一つだけ信じてくれ。
世界は滅びてなどいないってことを』
ええ、勿論。
私には沢山の宝物が残されている。
だから、世界は滅んでなんていない。
だから、私の心はもう砕けたりしない。
『――それでいい、アリス』
――ありがとう、上海。
* * *
私は目を覚ますと、見覚えの無い和室の布団に横たわっていた。
首だけを動かして周囲を見渡すと、ぼろぼろの上海人形が倒れていた私を心配するように寄り添っていることに気付く。
その両腕には、一枚のカードが抱えられていた。
「リターンイナニメトネス」――『人形は人形に、者は物に』。
それは文字通りの、上海人形が私に宛てた、ラストワード――遺言。
故に、彼女が動き出すことは、二度と無い。
それを悟ったとき、様々な感情の残滓が、私の目から涙として溢れ出した。
今更ながらに思えば、この時になってようやく、私は涙を流せるだけの余裕を取り戻せたのだろう。
枕が濡れるのを気にも止めず、嗚咽が漏れるのを隠すこともなく、私は少しずつ感情を整理していく。
そうした作業にある程度の目処が付いたとき、そのタイミングを見計らったかのように、八雲紫が障子を開けた。
「ご気分は如何?」
「・・・可も無く不可も無く、ってところかしら」
「それは何よりです」
「・・・私を咎めないの?
妖怪間の条約を破った私を」
「咎めるのなら、あの時に道を譲ったりなどしていませんわ。
何の問題もありません。
何故なら・・・」
一旦言葉を言葉を区切り、扇子を広げ、八雲紫は真理を述べた。
「たかが人間一人の死に嘆くような魔法使いの小娘なんて、妖怪の域には到底及びえませんもの」
口元を覆い感情を隠す為の扇子で、けれど逆に口元を晒したまま、八雲紫は表情を隠す。
扇子の下には、嘲り笑う三日月。
扇子の向こうの表情を幻視した私は、言葉に詰まる。
何故なら、幻視と同時に確信してしまったから。
八雲紫が隠したのは、きっと自嘲の笑みであると。
* * *
せめて私は信じよう。
いつかきっと再び、生まれ変わった彼女達に出逢える日が来ることを。
そんな願いを抱くのは後ろ向きな事なのかもしれないけれど、辛いからといって全てを忘れてしまうよりは、余程前向きだと思うから。
机の上に並べた上海人形と魔理沙の帽子を交互に見詰めながら、私は誓う。
それは、私の、変わらない想い。
1.星の器
――追憶。
* * *
紫苑の怨霊の名は、霧雨魔理沙。
黒き聖杯の名もまた、霧雨魔理沙。
聖杯が受けた血の主は、上海。
* * *
五十余年の月日を経て怨霊と化した魔理沙は、生前とは比べ物にならない魔力を手に入れていた。
元々の素質があったのだろう、もしかすると、彼女の魔法の師が悪霊であったことにも何らかの因果関係があったのかもしれない。
怨霊と化した魔理沙が操る力は『熱』。
彼女が悪霊として生まれ変わった灼熱地獄を概念基盤として確立するそれは、『星』と『恋』に次ぐ、彼女の第三の属性である。
空を遮られた地底において退化した『星』の代わりに、彼女は他ならない惑星の『熱』に特化したのだ。
灼熱地獄を召喚するという荒業も、端的に理論付ければ、彼女が生前に成し遂げた温泉脈召喚を応用して、マグマを召喚しただけに過ぎない。
魔理沙の願いは再会、愛しい少女と共に見た夢の続き。
けれど強大な魔力を得た代償なのか、彼女は他の怨霊達と同じように凶暴化し、その知性を失ってしまっていた。
文字通りの怨霊と化した魔理沙はきっと、アリスを巻き込んで破滅への道を辿るだろう。
何故なら、炎に照らされる魔理沙の藍色のローブは、紫苑の色に染まってしまっているから。
アリスへの愛までもが、死怨に染まってしまっているのだから。
そんな魔理沙に、かつての輝きを放っていた彼女を愛したアリスを逢わせるわけにはいかなかった。
守るべき少女の幸福の為に、上海は霧雨魔理沙の亡霊を否定する。
そして上海はその手段として、黒き聖杯――霧雨魔理沙の魂が抜け落ちた肉体を用いた。
他ならない霧雨魔理沙自身の手で、霧雨魔理沙を止める為に。
自分自身の魂に組み込まれた『魔彩光』――アリスの光で、魔理沙の呪縛を解く為に。
アリスの物語を、ハッピーエンドに導く為に。
0.リンカーネーション
「よう、久し振りだな」
ええ、久し振りね、二人とも。
「ああ、久し振り」
アリスの行動や、魔理沙と上海の戦いなどは面白かったです。
分かりにくくなっているのはテーマに合わせて周りを削りすぎたせいではないでしょうか。
魔理沙の死因とか、自律している上海とか、霊夢とか。
やや言葉遊びに傾倒しすぎている感も受けました。
内容も面白かったですが、少し分かり難く2度読んだ部分もありました。
もう少し言葉をシンプルにしてみてもいいかなと思いました。