イブの夜。小雪がちらつく中、それは突然降ってきた。
空から降り注ぐ小さな小箱。上空には魔女の姿。
その光景は幻想郷中で目撃され、その度に小さな小箱を落としていく。
人妖はその小箱を拾うと、魔女に手を振った。
ありがとう。聖なる夜に、最高のプレゼントをありがとう。
―――その小箱が開かれた時、魔女の平穏なクリスマスは崩壊する
* * * * *
クリスマスの朝。目覚めから30分以上経っても、魔理沙はベッドから出る様子がなかった。
なるべく熱を逃がさないようにしながら毛布にくるまり、至福の時を迎えている。
……冬の朝に見られる現象。寒さから逃れようと毛布にくるまり、二度寝からの遅刻余裕でした。
人はそれを『ぬくぬく』と呼んだ。
「やっぱり毛布は最高だな。熱が籠りやすいから、寒い朝でもぬくぬく出来る」
今日は一日このままぬくぬくしたい。そう思っていた矢先、誰かが玄関に備え付けたベルを鳴らした。
もう少しだけぬくぬくしていたかったが、訪問者を無視する訳にもいかない。
魔理沙は温もり残る毛布から出ると、玄関の戸を開ける。そこには、同じ魔法の森に棲むアリスの姿。
だが、魔理沙が来たというのにアリスの顔は俯いたまま。顔を上げようともしない。一体どうしたのか?
「アリスか。どうしたんだ?こんな朝早くから」
「魔理沙」
「立ち話も何だから、家に上がって話そうぜ。茶ぐらい出してやるって」
玄関での立ち話もあれなので、魔理沙はアリスに家に上がるよう言ってみる。
アリスは俯いた顔をあげた。その目は魔理沙を睨みつけるような、鋭く冷たい物だった。
敵意にも似た目線を浴びた魔理沙だったが、理由が分からない。とりあえず、理由を聞かなければ―――
「最ッ低!!!!!!!」
アリスの叫びと共に、魔理沙の顔面に見事な右ストレートパンチが直撃。
突然の一撃を浴びた魔理沙は、そのまま玄関奥の壁に激突した。
「あーっと!!これは完全に決まりました!アリス選手、魔理沙選手に余裕の1RKOです!」
アリス・マーガトロイド○-×霧雨魔理沙
(1R)
……魔理沙の頭の中で、そんな脳内実況が聞こえた。
一体何故、私は朝っぱらからアリスに殴られたのか。魔理沙にはその理由が全く分からない。
壁にめり込んだ魔理沙を助ける事無く、アリスは扉を強引に閉めて帰ってしまった。
「いたたたた……アリスの奴、いきなり何なんだよ!」
親父にもぶたれた事無かったのに!何故だ!何故殴ったアリス・マーガトロイド!!
特に痛い後頭部を手で押さえながら、新聞を取りに外に出る魔理沙。
魔法の森は、ホワイトクリスマスと呼べる程に雪に包まれていた。
が、
「新聞は一つあれば足りる事ぐらい、何で天狗は知らないんだ?」
目の前のポストには、蟻すら通る隙間が無いほど詰め込まれた新聞が。
その殆どが人間ではなく、鴉天狗による個人制作の新聞である。
……家のポストを見かけたら、契約してもいないのに新聞を投げ入れる。それが鴉天狗の配達方法だ。
ポストにこれでもかと詰め込まれた新聞を見るのが、魔理沙の日常の一コマとなっていた。
嫌な日常の一コマである。
「こういうのは全部暖炉にぶち込んで……ん?」
ポストをよく見ると、新聞に紛れて手紙らしき紙切れが何十枚も投稿されている。
新聞を全て引きずり出し、魔理沙は手紙の封を切る。そこには、
「貴女のお陰で体調を崩しました。治療費よこせ」
「折角のクリスマスイブが台無しだ。どうしてくれる」
「あたいのいたずらにくらべればまだまだがきんちょね!」
「稔子って呼ぶんじゃねぇこのダラズ」
……といった罵詈雑言が、どの手紙にも書かれていた。
何故こんな手紙が届いたのか。答えはさっき引きずり出した新聞の1面に描かれていた。
* * * * *
『魔女の仕業!?不幸なプレゼントにご用心』
その夜。幻想郷の空から降ってきたのは、誰も喜ばないプレゼントだった。
小箱の中には腐った魚や生ごみ、見た目でお腹一杯な蟲達に「ゆっくりしていってね!!」と叫ぶ生首……
こんな物を貰って、喜ぶ人妖など一人もいないだろう。
人里を中心にばら撒かれた悪夢の小箱は数千個にも及び、被害は幻想郷各地で確認されている。
主犯格は魔法の森に住む魔女、霧雨魔理沙。なぜ彼女がこのような奇行に走ったのか、我々には理解できない。
だが、このような行動が許されるわけがない。願わくば、彼女に今年最大級の天罰が下らん事を。
* * * * *
いつもは信憑性に欠ける鴉天狗の新聞だが、今回ばかりは魔理沙にも自覚があった。
一週間前、魔理沙は幻想郷の人妖にクリスマスプレゼントを配ってほしいと、とある妖怪に頼まれていた。
中身は事前に知らされていたし、試しに一つ開けてみると、箱の中にはお菓子が詰め込まれていた。
だが、記事で書かれていたのは貰っても嬉しくない物ばかり。……まさか!
「嵌められた!!」
そこで魔理沙はようやく気が付く。自分がその妖怪に嵌められ、嫌われ者という烙印を押された事に。
恐らくは、その妖怪は魔理沙の事が嫌いだったのだろう。だから今回の騒動を計画したのだ。
魔理沙に渡したのは、信用させるためのダミーという訳か!
かつてこれほどまで屈辱的な出来事があっただろうか。いや、今回が初めてだ。
「このまま悪者扱いされてたまるか!あの妖怪とっ捕まえて、私の無実を証明させてやる!!」
新聞と手紙を全て破り捨てると、家の中に戻って普段着に着替える魔理沙。
怒りのエネルギーで体は十分温まった。もう布団でぬくぬくする必要はない。
魔理沙による、聖なる日の悪人懲罰の旅が始まった。
* * * * *
魔理沙を嵌めた妖怪を懲らしめる為、家を飛び出した魔理沙。まずは協力者を探す必要があった。
とはいえ、新聞のお陰ですっかり悪者扱いされている。行く場所も慎重に選ばなければならない。
まず人里は無理だろう。あそこを中心に小箱を降らせたので、被害も一番大きい。
そんな場所にホイホイ行けばどうなるか。嫌でも想像できる。
他に立ち寄った場所といえば、博麗神社、紅魔館、白玉楼、永遠亭に妖怪の山……
「いや、あの場所なら!」
ふと、立ち寄っていない場所を思い出した魔理沙。全速力でその場所へと向かう。
馴染みの店、香霖堂。ここにも小箱を降らすつもりだったが、すっかり忘れていた場所だった。
魔理沙はノックもせずに戸を開け、中にいた青年に話しかける。
「香霖!私に協力してくれ!」
「……小箱の事だろう?人里中で噂になってるよ」
香霖堂の店主である霖之助も、昨晩の出来事を新聞で確認していた。
それに霖之助自身も、大きな袋を担いで紅魔館へ向かう魔理沙の姿を確認している。
しかし、あれが原因で人妖の怒りを買っていた事については、さすがの霖之助も驚いた。
「今から人里にいって謝りに行くのかい?」
「冗談!私は嵌められたんだ。被害者なんだ。今から犯人とっ捕まえて、ギャフンと言わせてやる!」
「だから協力者を探していると」
魔理沙から協力を求められた霖之助。読んでいた新聞を畳むと、彼は煙たそうに答えた。
「悪いけど、他を当たってくれないか」
「何でさ!私が困ってるのに見捨てるのかよ!」
「人が巻き起こした騒動に関わるのは好きじゃないんだ」
「ああ分かったよ!香霖に頼もうとした私が馬鹿だった!!」
協力しない霖之助に捨て台詞を吐き、香霖堂から出ていく魔理沙。
静寂に包まれる中、机に置いた新聞を読み直す霖之助。
新聞の一面には『魔女は悪戯がお好き!?』と書かれ、魔理沙が今朝見た新聞の内容とほぼ同じだった。
……本当にこの事件は魔理沙が引き起こしたのだろうか。霖之助は、それだけが気がかりで仕方なかった。
* * * * *
「へぇ。そんな事があったんだ」
「全くだ。香霖の奴、何が『騒動に関わるのは好きじゃない』だよ。
それが幼い時から私の面倒見てくれた人間の言う台詞かっての」
「まぁまぁ。霖之助さんだって悪くはないんだし、あまり責めないであげなよ」
妖怪の山の中腹にあるにとりの工房。魔理沙はそこにお邪魔していた。
今日は休日だったが、事情を知ったにとりは魔理沙を家に招き入れた。
この工房は自宅も兼ねており、奥には生活する為に十分なスペースと家具がある。
にとりもまたこの小箱を拾ってはいたが、まだ手をつけていないという。
今朝の新聞を見て廃棄したが、にとりはそれよりも魔理沙がそんな事をしたという記事内容にビックリしていた。
「でも本当に魔理沙がやったなんて、私は今でも信じられないよ」
「私は悪くない。悪いのは私を騙した妖怪だ」
「私もそうだと思いたいけど……でも……
(魔理沙がこんな事をする筈がない。でも新聞に掲載されてるし、もしかしたら本当に……?)」
心の中で複雑に絡んだ糸を解こうとして余計に絡まる様に、にとりは迷っていた。
……新聞と親友。一体どっちを信じればいいのか。決断出来ない自分がいた。
と、誰かが工房の扉を叩く。まさか、魔理沙を探しに来た奴らなのだろうか?
にとりは魔理沙にどこかへ隠れるよう小声で知らせ、扉の前に向かう。
「誰だい?今日は修理はお休みだけど」
「文です。ちょっと伝えたい事がありまして」
「伝えたい事?……いいよ。中に入って。生憎茶菓子は切らしてるけど」
「別に構いませんよ。ちょっとお話するだけですから」
文を工房内に招き入れ、客間に通すにとり。魔理沙は上手く隠れたらしく、気配を消している。
これなら文に見つからないだろう。そう思いながら、にとりは文にお茶を差し出した。
「で、伝えたい事って?」
「実はですね。今回の事件は、どうも黒幕がいそうな気がするんですよ。
里で取材をしている内に、どうも魔理沙さんと密会していた妖怪がいるとの情報を掴みましてね。
是非とも魔理沙さんを探してインタビューしたいのですが……いないようですね」
文の話によれば、昨夜魔理沙が起こした事件には黒幕が存在するとの事。
……そういえば、さっき魔理沙が言ってくれた会話の中でも、そのような言葉が出ていたような。
にとりが魔理沙とのやり取りを思い出している中、文は話を続ける。
「きっとこの事件の黒幕は、魔理沙さんの事が嫌いなんですよ」
「そうなのかねぇ。で、文はその妖怪を探す為、魔理沙を探していると」
「はい。でもここにはいないようですし、無駄足だったみたいですね」
空になった湯呑を卓袱台に置き、すくりと立ち上がる文。
どうやら伝えたい事を話し終えたようだ。にとりも立ち上がり、文を工房の出入口まで送る。
外は日が落ち始め、長い夜がもうすぐそこまで来ている事を教えていた。
「じゃ、私はこれで」
「あいよ。今日はクリスマスだけど、文はどうするんだい?」
「状況が状況ですからねぇ。当分取材三昧ですよ。とほほ……」
「気の毒だね。じゃ、よいお年を」
文を送り出し、居間に戻るにとり。そこには、隠れる必要のなくなった魔理沙がいた。
聞けば隣の寝室で会話を盗み聴きしていたらしい。会話内容も詳しくメモしているようだ。
「文も私の事を探していたのか。出てもよかったが、話が面倒な事になりそうだな」
「それには同意だ。で、これからどうするんだい?」
「人里に行くのさ。あいつは絶対人里にいる。見つけ出して、真実を暴いてやる!」
「正気かい!?十字架に磔にされて、火炙りにされるのが関の山だよ!」
魔理沙が人里に行く事を知り、止めておいた方がいいと伝えるにとり。
だが、止めろと言われて止めるような性格じゃない。
決めた事はとことん貫く。それが魔理沙が決めた生き様なのだ。
「危険は承知だが、このまま泣き寝入りだなんて私のプライドに傷がつく。止めても無駄だぜ?」
「やれやれ。だから魔理沙は無鉄砲だって山の天狗に馬鹿にされるんだ。
……でもその心意気やよし。行ってきな!そして必ず無実を掴みとるんだよ!」
「河童に言われなくても解ってるっての!」
にとりの工房を後にし、幻想郷の空に飛び立っていく魔理沙。
魔理沙の背中が見えなくなるまで、にとりは手を振り続けていた。
「(魔理沙。あんたって人間はさ、本当に無鉄砲だよ……)」
* * * * *
人里はクリスマス一色に染まり、あちらこちらでツリーやリースが飾られている。
が、ここにいる人妖の大半が、クリスマスが何を祝うのか分からないでいるのだろう。
とにかく御馳走を食べ、酒を飲み、馬鹿騒ぎ出来ればそれでいいのだ。
「あいつは絶対、人里の何処かにいるはずだ。見つけ出して、気が済むまでいちびり倒してだな……」
浮かれ気分の人ごみの中をかき分け、自分を陥れた妖怪を探す魔理沙。
バレる事を警戒し、焦げ茶色のマントに身を包み、とんがり帽子などの目立つ物は隠している。
もちろん、万が一の場合に八卦炉とマジックアイテムはすぐに取り出せるようにはしているので安心は安心だ。
本当は変装キットも使うべきだったが、やりすぎると逆に疑われる。これくらいで丁度いい。
「確かあの妖怪が話を持ちかけてきたのは、あの酒場だな」
魔理沙は一軒の酒場の前に立つ。外からでも賑やかな声が聞こえる、大衆酒場。
比較的安い値段でお酒や料理が楽しめる為、昼夜問わず人や妖怪で賑わう場所だ。
魔理沙も何度か訪れ、その度に店員や客との会話に花を咲かせる。そんな場所。
……忘れもしない一週間前。ほろ酔い気分の魔理沙に、とある妖怪が依頼を持ちかけた事が騒動の始まりだった。
* * * * *
「やっぱり大衆酒場は最高だな。安い値段で楽しめるんだから、洒落た店よりよっぽどいい」
「おお、そこにいるのは霧雨魔理沙さんじゃありませんか。隣、座ってもいいですかい?」
「ああ、構わないぜ」
その言葉を聞き、魔理沙の隣に座る妖怪。冴えない顔立ちに、冬だというのにボロボロの着物。
あまり気軽に声を掛けたくない相手だったが、酒の酔いもあってか、二人は直に打ち解けあった。
……妖怪と共に飲み始めて1時間くらい経った頃だろうか。
突然その妖怪は、すっかり出来上がった魔理沙に依頼を持ちかけてきた。
「実は頼みがありまして。12月24日の夜、人里を中心にプレゼントを降らせてくれませんかねぇ。
プレゼントは当日の夜に用意するから、当日の夕方に霧の湖付近まで来てほしいんです」
「中々ロマンチックだな。いいぜ、その依頼引き受けた!」
依頼内容は、クリスマスイブの夜に空からプレゼントを降らせてほしいとの事だった。
ロマンチックな内容に加え、相当酔っぱらっていた魔理沙は、二つ返事でこれを快諾。
まさか自分が大悪人になるなんて、この時の魔理沙には全く予想できなかった。
* * * * *
何で二つ返事で了承してしまったのだろう。
何でもっと考えずに引き受けてしまったのだろう。
何であの妖怪と出会ってしまったのだろう。
いや、そもそも何で大衆酒場になんて行ってしまったのだろう。
あの妖怪との出会いがなければ、私は今頃―――
「……いや、そんな事を考えていても仕方がないな」
ネガティブな考えだなんて、私らしくない。
そうだ。私は常にポジティブに物事を考えるべきだ!
魔理沙は自分にそう言い聞かせ、大衆酒場の引き戸に手をかけた。
* * * * *
大衆酒場には、クリスマスでもいつもと変わらず酒を飲む人妖で溢れ返っていた。
クリスマスツリーの代わりに飾りをつけた観葉植物が並び、
奥の座敷では、クリスマスにちなんだ歌を陽気に歌う人獣の姿があった。
とりあえずカウンター席に座り、カウンターや座敷の妖怪をくまなくチェックする魔理沙。
だが、それらしき妖怪は見当たらない。来るのが早かったか、遅かったか、それとも今日は来ていないのか。
魔理沙が店の中を見渡していると、カウンター越しから元気な声が響いた。
「らっしゃい!お客さん、今日はクリスマスだから出血大サービスでご奉仕するよ!」
「おっと。それじゃあホッピーと枝豆一つずつ」
「あいよ!」
魔理沙のオーダーを確認し、すぐにホッピーの瓶と枝豆が盛られた小皿を用意する少女。
まだまだ尻の青い若娘だが、この大衆酒場ではちょっとしたアイドルとして有名だ。
彼女と魔理沙も度々会ってはいるが、さっき目を合わせても気がつかなかった。
きっと仕事に熱中している為、覚えていても言ってくれないのだろう。
「(このまま妖怪が来るのを待つか、それとも私が動くか……)」
ホッピー片手に妖怪が来るのを待ち続ける魔理沙。
クリスマスの影響で客の出入りは多いが、それらしき妖怪はいない。
今日は来ないか。魔理沙がそう思い始めた時、事態は動いた。
魔理沙がふと奥座敷を見ると、妖怪が一人チビチビと酒を飲んでいる姿が見えた。
冴えない風貌に、ボロボロの藍染め着物。あいつ、確かどこかで―――
「あーっ!お前はぁ!!」
いきり立って大声をあげる魔理沙。突然の出来事にビックリする客と店員。
それ以上に、一番ビックリしていたのはその妖怪だった。
周囲の視線も気にせず、魔理沙はその妖怪に近づくと、胸倉を掴んでやった。
「とうとう見つけたぜ、この下郎妖怪!よくもこの私をコケにしてくれたな!
お前さんのお陰で、私は朝からアリスに殴られたんだ!」
「ととととんだ言いがかりだ!僕はそんな事なんか知らない!」
「ここにきてまだ白を切るとは上出来だ。ここは一つ、私が教育的指導をだな……!」
「ちょっとお二人さん。店での喧嘩はご法度だよ!喧嘩するなら外に出るんだね!」
カウンターにいた若娘が大声で怒鳴る。魔理沙は妖怪の胸倉を掴んだまま、店の外へと歩き出す。
店の中が駄目なら、店の外だ。実際若娘も外での喧嘩なら咎めるつもりはないらしい。
服のポケットから飲食代と少し多めの小銭を取り出し、適当にテーブル席の上にばら撒いた。
「ほらよ。これで足りるだろ?」
「ああ。じゃあお二人さん、気が済むまで喧嘩してきな!」
「冗談じゃない!助けてくれ!!」
「男が女々しい事言ってんじゃないよ!」
悲痛な叫びも、若娘の恫喝の前には全く通用しなかった。
魔理沙は妖怪を店の外まで引きずり出し、ゆっくりと八卦炉を取り出す。
店の外では騒ぎを聞きつけた人妖が、魔理沙と妖怪を囲んで集まっている。
誰も助ける様子はない。それどころか、決闘だと囃し立てる始末。
……決闘のゴングは鳴った。魔理沙は微笑みながら、八卦炉を妖怪に向ける。
「さぁ、年貢の納め時だ。次の中から好きなのを選ぶんだな」
----------------------------
・マスタースパーク
・マスタースパーク
・マスタースパーク
----------------------------
「どれを選んでもマスタースパークじゃないか!!鬼!悪魔!幼児体型―――」
「恋符『マスタースパーク・クリスマスVer』!!!光になれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」
* * * * *
あるぇ~?おじさんこのままだと、確実にバッドエンドだよね?
おかしいな。死亡フラグだなんて立てた覚えないのに。
ちょっと魔理沙に恥をかかせてやろうとしただけなのに。
どこで選択肢間違えたんだろう。どこで生存フラグ折ったんだろう。
ねぇ、次の選択肢は出ないのかな?
ねぇ、ロードしたいんだけどどうすればいいのかな?
ねぇ、それ以前にメニュー画面が開けないのは何でかな?かな?
……この声を聞いている人へ。誰か、この惨劇を回避する方法を教えて下さい。
それだけが、僕の願いで――――――
「アッーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」
聖なる夜。人里の一角で断末魔の叫びが響いた。
* * * * *
裁きは下された。魔理沙を嵌めた妖怪は、彼女の足元で黒焦げとなっている。
朝方の怒りは全て消え去り、心は秋晴れの空のように澄み切っていた。
ギャラリーからは歓声が上がると共に、魔理沙に向けておひねりを投げる者も現れた。
どうやら、昨夜の出来事は全て水に流したのだろう。切り替えの早い人妖達である。
「魔理沙さん!」
ギャラリーの群れをかき分けて登場する鴉天狗。文だ。
手には取材用の写真機と、クリスマスラベルが印象的なラムネを持っている。
どうやら、にとりの工房では本当に魔理沙の存在に気付かなかったのだろう。
「文か。そっちもクリスマスを楽しんでるみたいだな」
「はい!それで取材の件ですが、そこで死にかけてる妖怪が、事件の黒幕ですね?」
「その通り。私を陥れた下郎妖怪は、私の手で成敗してやったさ。
これで私の汚名も少しは晴れるだろうな」
「良かったですね!では、私はこの方のインタビューがありますので……」
泡を吹きながら、どうにか生きている妖怪を引っ張る文。
ちゃんと手当てしてからインタビューするそうだが、本当だろうか。
……いや、そんな事はどうだっていい。今はとりあえず、家に帰ってゆっくりしたいのだ。
おひねりもくまなく回収したし、さあ家に―――
「ま、魔理沙……」
と、今度はアリスが魔理沙の元にやってきた。
朝に素敵な顔面パンチを貰ってからの再会だが、今度は何をするつもりだ?
警戒する魔理沙に対し、アリスの口から意外な言葉が飛び出した。
「ごめんなさい!」
「……え?」
突然の謝罪。アリスは魔理沙に対して、深々と頭を下げている。
いや、確かに朝のグーパンチは痛かった。けどさ、そこまで頭を下げなくても……
「あの事件で、魔理沙は騙されていただけだったのね?」
「まあな。で、それがどうしたんだよ?」
「……てっきり魔女の品格を下げるような事件を魔理沙が起こしたと思って、
少し頭を冷やしてやろうと思ったのよ。本当にごめんなさい……」
どうやら、アリスは今回の事件で魔女のイメージが悪くなったと思っていたらしい。
それで事件を起こした魔理沙に鉄拳制裁を与えた。それが朝のグーパンチの真実だった。
しかし、実際には魔理沙は騙されていただけであり、尚且つイメージが悪くなったのはごく一部の者だけだった。
……そのごく一部が厄介な面子なのは目を瞑ろう。
「そんなにしょげるなって。私が魔女のイメージを悪くしたのは事実だし、その事実に基づいて殴られたんだから異論はない。
これからは魔女としての自覚を持って、もうこんな軽はずみな行動はしないさ」
「魔理沙……」
魔理沙はアリスに軽く頭を下げ、自分なりの誠意を見せる。
アリスももう怒ってはいないようだ。
「さぁて。もうやる事はやったし、さっさと家に帰ってメシでも食べるか!」
「あの、もしよかったら、私が準備してあげてもいいわよ……?」
「……じゃあそこの大衆酒場でメシを―――」
「まぁ~~~りぃ~~~さぁ~~~!!!!!」
「冗談だよ冗談!だから暴力はやめ、きゃん!!」
かくして、クリスマスの決闘・第二ラウンドが始まった。
空から降り注ぐ小さな小箱。上空には魔女の姿。
その光景は幻想郷中で目撃され、その度に小さな小箱を落としていく。
人妖はその小箱を拾うと、魔女に手を振った。
ありがとう。聖なる夜に、最高のプレゼントをありがとう。
―――その小箱が開かれた時、魔女の平穏なクリスマスは崩壊する
* * * * *
クリスマスの朝。目覚めから30分以上経っても、魔理沙はベッドから出る様子がなかった。
なるべく熱を逃がさないようにしながら毛布にくるまり、至福の時を迎えている。
……冬の朝に見られる現象。寒さから逃れようと毛布にくるまり、二度寝からの遅刻余裕でした。
人はそれを『ぬくぬく』と呼んだ。
「やっぱり毛布は最高だな。熱が籠りやすいから、寒い朝でもぬくぬく出来る」
今日は一日このままぬくぬくしたい。そう思っていた矢先、誰かが玄関に備え付けたベルを鳴らした。
もう少しだけぬくぬくしていたかったが、訪問者を無視する訳にもいかない。
魔理沙は温もり残る毛布から出ると、玄関の戸を開ける。そこには、同じ魔法の森に棲むアリスの姿。
だが、魔理沙が来たというのにアリスの顔は俯いたまま。顔を上げようともしない。一体どうしたのか?
「アリスか。どうしたんだ?こんな朝早くから」
「魔理沙」
「立ち話も何だから、家に上がって話そうぜ。茶ぐらい出してやるって」
玄関での立ち話もあれなので、魔理沙はアリスに家に上がるよう言ってみる。
アリスは俯いた顔をあげた。その目は魔理沙を睨みつけるような、鋭く冷たい物だった。
敵意にも似た目線を浴びた魔理沙だったが、理由が分からない。とりあえず、理由を聞かなければ―――
「最ッ低!!!!!!!」
アリスの叫びと共に、魔理沙の顔面に見事な右ストレートパンチが直撃。
突然の一撃を浴びた魔理沙は、そのまま玄関奥の壁に激突した。
「あーっと!!これは完全に決まりました!アリス選手、魔理沙選手に余裕の1RKOです!」
アリス・マーガトロイド○-×霧雨魔理沙
(1R)
……魔理沙の頭の中で、そんな脳内実況が聞こえた。
一体何故、私は朝っぱらからアリスに殴られたのか。魔理沙にはその理由が全く分からない。
壁にめり込んだ魔理沙を助ける事無く、アリスは扉を強引に閉めて帰ってしまった。
「いたたたた……アリスの奴、いきなり何なんだよ!」
親父にもぶたれた事無かったのに!何故だ!何故殴ったアリス・マーガトロイド!!
特に痛い後頭部を手で押さえながら、新聞を取りに外に出る魔理沙。
魔法の森は、ホワイトクリスマスと呼べる程に雪に包まれていた。
が、
「新聞は一つあれば足りる事ぐらい、何で天狗は知らないんだ?」
目の前のポストには、蟻すら通る隙間が無いほど詰め込まれた新聞が。
その殆どが人間ではなく、鴉天狗による個人制作の新聞である。
……家のポストを見かけたら、契約してもいないのに新聞を投げ入れる。それが鴉天狗の配達方法だ。
ポストにこれでもかと詰め込まれた新聞を見るのが、魔理沙の日常の一コマとなっていた。
嫌な日常の一コマである。
「こういうのは全部暖炉にぶち込んで……ん?」
ポストをよく見ると、新聞に紛れて手紙らしき紙切れが何十枚も投稿されている。
新聞を全て引きずり出し、魔理沙は手紙の封を切る。そこには、
「貴女のお陰で体調を崩しました。治療費よこせ」
「折角のクリスマスイブが台無しだ。どうしてくれる」
「あたいのいたずらにくらべればまだまだがきんちょね!」
「稔子って呼ぶんじゃねぇこのダラズ」
……といった罵詈雑言が、どの手紙にも書かれていた。
何故こんな手紙が届いたのか。答えはさっき引きずり出した新聞の1面に描かれていた。
* * * * *
『魔女の仕業!?不幸なプレゼントにご用心』
その夜。幻想郷の空から降ってきたのは、誰も喜ばないプレゼントだった。
小箱の中には腐った魚や生ごみ、見た目でお腹一杯な蟲達に「ゆっくりしていってね!!」と叫ぶ生首……
こんな物を貰って、喜ぶ人妖など一人もいないだろう。
人里を中心にばら撒かれた悪夢の小箱は数千個にも及び、被害は幻想郷各地で確認されている。
主犯格は魔法の森に住む魔女、霧雨魔理沙。なぜ彼女がこのような奇行に走ったのか、我々には理解できない。
だが、このような行動が許されるわけがない。願わくば、彼女に今年最大級の天罰が下らん事を。
* * * * *
いつもは信憑性に欠ける鴉天狗の新聞だが、今回ばかりは魔理沙にも自覚があった。
一週間前、魔理沙は幻想郷の人妖にクリスマスプレゼントを配ってほしいと、とある妖怪に頼まれていた。
中身は事前に知らされていたし、試しに一つ開けてみると、箱の中にはお菓子が詰め込まれていた。
だが、記事で書かれていたのは貰っても嬉しくない物ばかり。……まさか!
「嵌められた!!」
そこで魔理沙はようやく気が付く。自分がその妖怪に嵌められ、嫌われ者という烙印を押された事に。
恐らくは、その妖怪は魔理沙の事が嫌いだったのだろう。だから今回の騒動を計画したのだ。
魔理沙に渡したのは、信用させるためのダミーという訳か!
かつてこれほどまで屈辱的な出来事があっただろうか。いや、今回が初めてだ。
「このまま悪者扱いされてたまるか!あの妖怪とっ捕まえて、私の無実を証明させてやる!!」
新聞と手紙を全て破り捨てると、家の中に戻って普段着に着替える魔理沙。
怒りのエネルギーで体は十分温まった。もう布団でぬくぬくする必要はない。
魔理沙による、聖なる日の悪人懲罰の旅が始まった。
* * * * *
魔理沙を嵌めた妖怪を懲らしめる為、家を飛び出した魔理沙。まずは協力者を探す必要があった。
とはいえ、新聞のお陰ですっかり悪者扱いされている。行く場所も慎重に選ばなければならない。
まず人里は無理だろう。あそこを中心に小箱を降らせたので、被害も一番大きい。
そんな場所にホイホイ行けばどうなるか。嫌でも想像できる。
他に立ち寄った場所といえば、博麗神社、紅魔館、白玉楼、永遠亭に妖怪の山……
「いや、あの場所なら!」
ふと、立ち寄っていない場所を思い出した魔理沙。全速力でその場所へと向かう。
馴染みの店、香霖堂。ここにも小箱を降らすつもりだったが、すっかり忘れていた場所だった。
魔理沙はノックもせずに戸を開け、中にいた青年に話しかける。
「香霖!私に協力してくれ!」
「……小箱の事だろう?人里中で噂になってるよ」
香霖堂の店主である霖之助も、昨晩の出来事を新聞で確認していた。
それに霖之助自身も、大きな袋を担いで紅魔館へ向かう魔理沙の姿を確認している。
しかし、あれが原因で人妖の怒りを買っていた事については、さすがの霖之助も驚いた。
「今から人里にいって謝りに行くのかい?」
「冗談!私は嵌められたんだ。被害者なんだ。今から犯人とっ捕まえて、ギャフンと言わせてやる!」
「だから協力者を探していると」
魔理沙から協力を求められた霖之助。読んでいた新聞を畳むと、彼は煙たそうに答えた。
「悪いけど、他を当たってくれないか」
「何でさ!私が困ってるのに見捨てるのかよ!」
「人が巻き起こした騒動に関わるのは好きじゃないんだ」
「ああ分かったよ!香霖に頼もうとした私が馬鹿だった!!」
協力しない霖之助に捨て台詞を吐き、香霖堂から出ていく魔理沙。
静寂に包まれる中、机に置いた新聞を読み直す霖之助。
新聞の一面には『魔女は悪戯がお好き!?』と書かれ、魔理沙が今朝見た新聞の内容とほぼ同じだった。
……本当にこの事件は魔理沙が引き起こしたのだろうか。霖之助は、それだけが気がかりで仕方なかった。
* * * * *
「へぇ。そんな事があったんだ」
「全くだ。香霖の奴、何が『騒動に関わるのは好きじゃない』だよ。
それが幼い時から私の面倒見てくれた人間の言う台詞かっての」
「まぁまぁ。霖之助さんだって悪くはないんだし、あまり責めないであげなよ」
妖怪の山の中腹にあるにとりの工房。魔理沙はそこにお邪魔していた。
今日は休日だったが、事情を知ったにとりは魔理沙を家に招き入れた。
この工房は自宅も兼ねており、奥には生活する為に十分なスペースと家具がある。
にとりもまたこの小箱を拾ってはいたが、まだ手をつけていないという。
今朝の新聞を見て廃棄したが、にとりはそれよりも魔理沙がそんな事をしたという記事内容にビックリしていた。
「でも本当に魔理沙がやったなんて、私は今でも信じられないよ」
「私は悪くない。悪いのは私を騙した妖怪だ」
「私もそうだと思いたいけど……でも……
(魔理沙がこんな事をする筈がない。でも新聞に掲載されてるし、もしかしたら本当に……?)」
心の中で複雑に絡んだ糸を解こうとして余計に絡まる様に、にとりは迷っていた。
……新聞と親友。一体どっちを信じればいいのか。決断出来ない自分がいた。
と、誰かが工房の扉を叩く。まさか、魔理沙を探しに来た奴らなのだろうか?
にとりは魔理沙にどこかへ隠れるよう小声で知らせ、扉の前に向かう。
「誰だい?今日は修理はお休みだけど」
「文です。ちょっと伝えたい事がありまして」
「伝えたい事?……いいよ。中に入って。生憎茶菓子は切らしてるけど」
「別に構いませんよ。ちょっとお話するだけですから」
文を工房内に招き入れ、客間に通すにとり。魔理沙は上手く隠れたらしく、気配を消している。
これなら文に見つからないだろう。そう思いながら、にとりは文にお茶を差し出した。
「で、伝えたい事って?」
「実はですね。今回の事件は、どうも黒幕がいそうな気がするんですよ。
里で取材をしている内に、どうも魔理沙さんと密会していた妖怪がいるとの情報を掴みましてね。
是非とも魔理沙さんを探してインタビューしたいのですが……いないようですね」
文の話によれば、昨夜魔理沙が起こした事件には黒幕が存在するとの事。
……そういえば、さっき魔理沙が言ってくれた会話の中でも、そのような言葉が出ていたような。
にとりが魔理沙とのやり取りを思い出している中、文は話を続ける。
「きっとこの事件の黒幕は、魔理沙さんの事が嫌いなんですよ」
「そうなのかねぇ。で、文はその妖怪を探す為、魔理沙を探していると」
「はい。でもここにはいないようですし、無駄足だったみたいですね」
空になった湯呑を卓袱台に置き、すくりと立ち上がる文。
どうやら伝えたい事を話し終えたようだ。にとりも立ち上がり、文を工房の出入口まで送る。
外は日が落ち始め、長い夜がもうすぐそこまで来ている事を教えていた。
「じゃ、私はこれで」
「あいよ。今日はクリスマスだけど、文はどうするんだい?」
「状況が状況ですからねぇ。当分取材三昧ですよ。とほほ……」
「気の毒だね。じゃ、よいお年を」
文を送り出し、居間に戻るにとり。そこには、隠れる必要のなくなった魔理沙がいた。
聞けば隣の寝室で会話を盗み聴きしていたらしい。会話内容も詳しくメモしているようだ。
「文も私の事を探していたのか。出てもよかったが、話が面倒な事になりそうだな」
「それには同意だ。で、これからどうするんだい?」
「人里に行くのさ。あいつは絶対人里にいる。見つけ出して、真実を暴いてやる!」
「正気かい!?十字架に磔にされて、火炙りにされるのが関の山だよ!」
魔理沙が人里に行く事を知り、止めておいた方がいいと伝えるにとり。
だが、止めろと言われて止めるような性格じゃない。
決めた事はとことん貫く。それが魔理沙が決めた生き様なのだ。
「危険は承知だが、このまま泣き寝入りだなんて私のプライドに傷がつく。止めても無駄だぜ?」
「やれやれ。だから魔理沙は無鉄砲だって山の天狗に馬鹿にされるんだ。
……でもその心意気やよし。行ってきな!そして必ず無実を掴みとるんだよ!」
「河童に言われなくても解ってるっての!」
にとりの工房を後にし、幻想郷の空に飛び立っていく魔理沙。
魔理沙の背中が見えなくなるまで、にとりは手を振り続けていた。
「(魔理沙。あんたって人間はさ、本当に無鉄砲だよ……)」
* * * * *
人里はクリスマス一色に染まり、あちらこちらでツリーやリースが飾られている。
が、ここにいる人妖の大半が、クリスマスが何を祝うのか分からないでいるのだろう。
とにかく御馳走を食べ、酒を飲み、馬鹿騒ぎ出来ればそれでいいのだ。
「あいつは絶対、人里の何処かにいるはずだ。見つけ出して、気が済むまでいちびり倒してだな……」
浮かれ気分の人ごみの中をかき分け、自分を陥れた妖怪を探す魔理沙。
バレる事を警戒し、焦げ茶色のマントに身を包み、とんがり帽子などの目立つ物は隠している。
もちろん、万が一の場合に八卦炉とマジックアイテムはすぐに取り出せるようにはしているので安心は安心だ。
本当は変装キットも使うべきだったが、やりすぎると逆に疑われる。これくらいで丁度いい。
「確かあの妖怪が話を持ちかけてきたのは、あの酒場だな」
魔理沙は一軒の酒場の前に立つ。外からでも賑やかな声が聞こえる、大衆酒場。
比較的安い値段でお酒や料理が楽しめる為、昼夜問わず人や妖怪で賑わう場所だ。
魔理沙も何度か訪れ、その度に店員や客との会話に花を咲かせる。そんな場所。
……忘れもしない一週間前。ほろ酔い気分の魔理沙に、とある妖怪が依頼を持ちかけた事が騒動の始まりだった。
* * * * *
「やっぱり大衆酒場は最高だな。安い値段で楽しめるんだから、洒落た店よりよっぽどいい」
「おお、そこにいるのは霧雨魔理沙さんじゃありませんか。隣、座ってもいいですかい?」
「ああ、構わないぜ」
その言葉を聞き、魔理沙の隣に座る妖怪。冴えない顔立ちに、冬だというのにボロボロの着物。
あまり気軽に声を掛けたくない相手だったが、酒の酔いもあってか、二人は直に打ち解けあった。
……妖怪と共に飲み始めて1時間くらい経った頃だろうか。
突然その妖怪は、すっかり出来上がった魔理沙に依頼を持ちかけてきた。
「実は頼みがありまして。12月24日の夜、人里を中心にプレゼントを降らせてくれませんかねぇ。
プレゼントは当日の夜に用意するから、当日の夕方に霧の湖付近まで来てほしいんです」
「中々ロマンチックだな。いいぜ、その依頼引き受けた!」
依頼内容は、クリスマスイブの夜に空からプレゼントを降らせてほしいとの事だった。
ロマンチックな内容に加え、相当酔っぱらっていた魔理沙は、二つ返事でこれを快諾。
まさか自分が大悪人になるなんて、この時の魔理沙には全く予想できなかった。
* * * * *
何で二つ返事で了承してしまったのだろう。
何でもっと考えずに引き受けてしまったのだろう。
何であの妖怪と出会ってしまったのだろう。
いや、そもそも何で大衆酒場になんて行ってしまったのだろう。
あの妖怪との出会いがなければ、私は今頃―――
「……いや、そんな事を考えていても仕方がないな」
ネガティブな考えだなんて、私らしくない。
そうだ。私は常にポジティブに物事を考えるべきだ!
魔理沙は自分にそう言い聞かせ、大衆酒場の引き戸に手をかけた。
* * * * *
大衆酒場には、クリスマスでもいつもと変わらず酒を飲む人妖で溢れ返っていた。
クリスマスツリーの代わりに飾りをつけた観葉植物が並び、
奥の座敷では、クリスマスにちなんだ歌を陽気に歌う人獣の姿があった。
とりあえずカウンター席に座り、カウンターや座敷の妖怪をくまなくチェックする魔理沙。
だが、それらしき妖怪は見当たらない。来るのが早かったか、遅かったか、それとも今日は来ていないのか。
魔理沙が店の中を見渡していると、カウンター越しから元気な声が響いた。
「らっしゃい!お客さん、今日はクリスマスだから出血大サービスでご奉仕するよ!」
「おっと。それじゃあホッピーと枝豆一つずつ」
「あいよ!」
魔理沙のオーダーを確認し、すぐにホッピーの瓶と枝豆が盛られた小皿を用意する少女。
まだまだ尻の青い若娘だが、この大衆酒場ではちょっとしたアイドルとして有名だ。
彼女と魔理沙も度々会ってはいるが、さっき目を合わせても気がつかなかった。
きっと仕事に熱中している為、覚えていても言ってくれないのだろう。
「(このまま妖怪が来るのを待つか、それとも私が動くか……)」
ホッピー片手に妖怪が来るのを待ち続ける魔理沙。
クリスマスの影響で客の出入りは多いが、それらしき妖怪はいない。
今日は来ないか。魔理沙がそう思い始めた時、事態は動いた。
魔理沙がふと奥座敷を見ると、妖怪が一人チビチビと酒を飲んでいる姿が見えた。
冴えない風貌に、ボロボロの藍染め着物。あいつ、確かどこかで―――
「あーっ!お前はぁ!!」
いきり立って大声をあげる魔理沙。突然の出来事にビックリする客と店員。
それ以上に、一番ビックリしていたのはその妖怪だった。
周囲の視線も気にせず、魔理沙はその妖怪に近づくと、胸倉を掴んでやった。
「とうとう見つけたぜ、この下郎妖怪!よくもこの私をコケにしてくれたな!
お前さんのお陰で、私は朝からアリスに殴られたんだ!」
「ととととんだ言いがかりだ!僕はそんな事なんか知らない!」
「ここにきてまだ白を切るとは上出来だ。ここは一つ、私が教育的指導をだな……!」
「ちょっとお二人さん。店での喧嘩はご法度だよ!喧嘩するなら外に出るんだね!」
カウンターにいた若娘が大声で怒鳴る。魔理沙は妖怪の胸倉を掴んだまま、店の外へと歩き出す。
店の中が駄目なら、店の外だ。実際若娘も外での喧嘩なら咎めるつもりはないらしい。
服のポケットから飲食代と少し多めの小銭を取り出し、適当にテーブル席の上にばら撒いた。
「ほらよ。これで足りるだろ?」
「ああ。じゃあお二人さん、気が済むまで喧嘩してきな!」
「冗談じゃない!助けてくれ!!」
「男が女々しい事言ってんじゃないよ!」
悲痛な叫びも、若娘の恫喝の前には全く通用しなかった。
魔理沙は妖怪を店の外まで引きずり出し、ゆっくりと八卦炉を取り出す。
店の外では騒ぎを聞きつけた人妖が、魔理沙と妖怪を囲んで集まっている。
誰も助ける様子はない。それどころか、決闘だと囃し立てる始末。
……決闘のゴングは鳴った。魔理沙は微笑みながら、八卦炉を妖怪に向ける。
「さぁ、年貢の納め時だ。次の中から好きなのを選ぶんだな」
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・マスタースパーク
・マスタースパーク
・マスタースパーク
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「どれを選んでもマスタースパークじゃないか!!鬼!悪魔!幼児体型―――」
「恋符『マスタースパーク・クリスマスVer』!!!光になれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」
* * * * *
あるぇ~?おじさんこのままだと、確実にバッドエンドだよね?
おかしいな。死亡フラグだなんて立てた覚えないのに。
ちょっと魔理沙に恥をかかせてやろうとしただけなのに。
どこで選択肢間違えたんだろう。どこで生存フラグ折ったんだろう。
ねぇ、次の選択肢は出ないのかな?
ねぇ、ロードしたいんだけどどうすればいいのかな?
ねぇ、それ以前にメニュー画面が開けないのは何でかな?かな?
……この声を聞いている人へ。誰か、この惨劇を回避する方法を教えて下さい。
それだけが、僕の願いで――――――
「アッーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」
聖なる夜。人里の一角で断末魔の叫びが響いた。
* * * * *
裁きは下された。魔理沙を嵌めた妖怪は、彼女の足元で黒焦げとなっている。
朝方の怒りは全て消え去り、心は秋晴れの空のように澄み切っていた。
ギャラリーからは歓声が上がると共に、魔理沙に向けておひねりを投げる者も現れた。
どうやら、昨夜の出来事は全て水に流したのだろう。切り替えの早い人妖達である。
「魔理沙さん!」
ギャラリーの群れをかき分けて登場する鴉天狗。文だ。
手には取材用の写真機と、クリスマスラベルが印象的なラムネを持っている。
どうやら、にとりの工房では本当に魔理沙の存在に気付かなかったのだろう。
「文か。そっちもクリスマスを楽しんでるみたいだな」
「はい!それで取材の件ですが、そこで死にかけてる妖怪が、事件の黒幕ですね?」
「その通り。私を陥れた下郎妖怪は、私の手で成敗してやったさ。
これで私の汚名も少しは晴れるだろうな」
「良かったですね!では、私はこの方のインタビューがありますので……」
泡を吹きながら、どうにか生きている妖怪を引っ張る文。
ちゃんと手当てしてからインタビューするそうだが、本当だろうか。
……いや、そんな事はどうだっていい。今はとりあえず、家に帰ってゆっくりしたいのだ。
おひねりもくまなく回収したし、さあ家に―――
「ま、魔理沙……」
と、今度はアリスが魔理沙の元にやってきた。
朝に素敵な顔面パンチを貰ってからの再会だが、今度は何をするつもりだ?
警戒する魔理沙に対し、アリスの口から意外な言葉が飛び出した。
「ごめんなさい!」
「……え?」
突然の謝罪。アリスは魔理沙に対して、深々と頭を下げている。
いや、確かに朝のグーパンチは痛かった。けどさ、そこまで頭を下げなくても……
「あの事件で、魔理沙は騙されていただけだったのね?」
「まあな。で、それがどうしたんだよ?」
「……てっきり魔女の品格を下げるような事件を魔理沙が起こしたと思って、
少し頭を冷やしてやろうと思ったのよ。本当にごめんなさい……」
どうやら、アリスは今回の事件で魔女のイメージが悪くなったと思っていたらしい。
それで事件を起こした魔理沙に鉄拳制裁を与えた。それが朝のグーパンチの真実だった。
しかし、実際には魔理沙は騙されていただけであり、尚且つイメージが悪くなったのはごく一部の者だけだった。
……そのごく一部が厄介な面子なのは目を瞑ろう。
「そんなにしょげるなって。私が魔女のイメージを悪くしたのは事実だし、その事実に基づいて殴られたんだから異論はない。
これからは魔女としての自覚を持って、もうこんな軽はずみな行動はしないさ」
「魔理沙……」
魔理沙はアリスに軽く頭を下げ、自分なりの誠意を見せる。
アリスももう怒ってはいないようだ。
「さぁて。もうやる事はやったし、さっさと家に帰ってメシでも食べるか!」
「あの、もしよかったら、私が準備してあげてもいいわよ……?」
「……じゃあそこの大衆酒場でメシを―――」
「まぁ~~~りぃ~~~さぁ~~~!!!!!」
「冗談だよ冗談!だから暴力はやめ、きゃん!!」
かくして、クリスマスの決闘・第二ラウンドが始まった。
それと少し展開が早い気がしました。
直ぐに見つけて直ぐに解決ではちょっと面白みに欠けるように思います。
魔理沙が自分の無実を証明するために犯人を捜すのは良かったですよ。
だがどうもパッとしない。
妖怪の正体は分からないしこれではおかしい。
もっと考えてから、あるいは推敲をしっかりしてから書いた方が良かったのでは?
ギャグでももう少し考えて書かないとただの駄作。
もしかしたら、二度三度読めば理解できるのかな……?
霖之助が疑問を持ったり、にとりが魔理沙を疑ってみたり、複線らしきものが多く見られるので、
もっともっとお話に肉を付ければより素晴らしくなったかと。
妖怪の正体、何故やったのかもわからない。
なんかいろいろと足りない感じがする。
寒い二次ネタ、いきなり手の平を返す周りの人物。
まさしくチラシの裏の物語、ゴミ箱の位置間違えてませんか?
「魔女」のクリスマスとか、「魔女」の品格ってなんですか? 魔理沙もアリスも種族と職業の違いはあれ、「魔法使い」ですよ?
既存のキャラクター設定はあなたの中でちゃんと認識されていますか?
独自のキャラクター設定はあなたの中でちゃんと生かされてますか?
東方のアリス・マーガトロイドの名前が付いてるけど
こんな魔理沙第一に考えるようなキャラじゃないからなぁ・・・・
なんか種族魔法使いのプライドもないっぽいし
オリキャラなら明記したほうがいいですよ