Coolier - 新生・東方創想話

僕の先生

2008/12/18 00:43:32
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上白沢慧音という人をご存じでしょうか。
非常に真面目で、里の人々からの信頼も厚いのですが、
教師としての手腕はあまり褒められたものではないかも知れません。
僕は慧音先生の寺子屋で歴史を学んでいるのですが、
周りのはつらつとした友人たちに比べて、
やや奥手で捻くれた、人里でも指折りの慇懃無礼で嫌な奴なものですから、
あまり彼女と接点を持つことはありませんでした。
ただ、白墨を持ち、歴史を語るその真剣な表情や、
里の人達と笑顔で語り合う先生には、ちょっとだけ憧れのようなものを抱いていたかも知れません。
そんな上白沢慧音先生と話らしい話をしたのは、月の光も凍てつくようなある晩の事でした。

僕は読書が好きなのですが、両親は朝が早いので日が落ちるとすぐに布団に入ってしまいます。
いつもは彼らの生活のリズムに合わせるように努力をしているのですが、
その日は読んでいた小説が佳境に入っており、あと少し、あと少しと頁を捲っている間に夜になってしまったのです。
こうなっては致し方ないと思い、私は酒屋の提灯の薄明かりの下で本を読むことにしました。
幸い、読書家として里では少々名が知れておりましたので、
みなさんは苦笑して見逃して下さいました。

ですから、慧音先生が軽く僕の肩を叩くまで、その熱中から抜け出すことは出来ませんでした。
肌を刺すような寒風の中で無心に本を読む私を、先生は苦笑と共に見下ろしていました。
今日はマフラーと手袋という重装備です。朝から冷え込んでいたので当然の対策とも言えますが。
僕の名前を優しく呼んだ後で、先生は言いました。

「こらこら。読書好きなのは良いが、あまり体を粗末に扱うような事をしてはいけないな」

いつもと同じ優しげで、そして落ち着いた物腰でした。
慧音先生が個人的に言葉をかけてくれることなど本当に稀でしたので、
僕は驚いて目をまん丸にしてしまったのかもしれません。
先生は腰に両手を当てて、まったく、と溜息を吐きました。
ですがその顔には、しょうがないな、と言いたげな笑みを浮かべたままです。

「君はまじめな生徒だと思っていたんだが、やっぱり一筋縄ではいかないか。
やれやれ、私は口調ばかりに騙されていたようだ」

おどけた調子の先生に、僕は頭を掻いて頭を下げました。

「すみません。ついつい熱中してしまいました」

先生はそうかと笑うと僕の横に腰を下ろしました。

「しかし、外で読む事もないだろう?
どこか入れてくれる店は無かったのか」

ははは、と僕は小さく笑ってから答えました。

「どうにもこうにも、
夜に空いているような店というものはがやがやうるさいものでして。
集中して本が読めないのです。
ですからこうして外の明かりを借りているということです。
さすがに子供の身空で酒場の個室を借りる訳にはいかないでしょう?」

なるほどなあ、と慧音先生は二度、三度と私の話を聞きながら頷いてくれました。
どんな与太話でも真剣に聞いてくれるのがこの先生の悪いところであり、そして良いところでもあります。
先生はふむ、と一息吐いた後で答えました。

「確かに、君の状況なら私もここで本を読んでいるかも知れないな」

そう言ったあとで、はっとして先生は口元をおさえました。
そして、いかんいかん、と首を振りました。

「ここは説教をするべきところだったな、うん。
こんなところに座り込んだままぼんやりしていては風邪をこじらせてしまうぞ?」

そうなのですが、と僕は頬を掻いて溜息を吐きます。

「ついつい時間を忘れてしまいまして」

そう言うと、慧音先生は気持ちは分かるよ、と大きく頷きます。
綺麗な長い髪が小さく揺れて、提灯の薄赤い光を柔らかく反射しました。

「読み始めたらなかなか止まらないからなあ」

でもやっぱり、こんな寒いところに長く居るのは良くないぞ、と先生は人差し指を立てて言いました。
本音を零すことが出来るのならば、あと一時間だけ待ってくれと言いたかったのですけれども、
折角の慧音先生の優しさを無下にすることなど出来るはずもなく、
僕は、すみません、と言って立ち上がりました。
本を閉じて空を見上げると、本当に真っ暗です。
周囲を歩くのは誰も彼も妖怪ばかりで、ほんの少しだけ緊張してしまいます。
慧音先生はそんな僕を見て、くすりと小さく笑いました。

「妖怪も、話してみればなかなか面白い連中だぞ?」

僕は、ええと、と頬を掻いて答えます。

「先生の授業では、妖怪は人を食うと教えられましたので。
やっぱり少し怖いなあ、と」

そう言うと、何故か先生は、そうかそうか、と本当に嬉しそうに頷きました。
僕のような子供には当然その意図は分かりかねましたので、
慧音先生に質問すると、優しく答えてくれました。

「最近は君とは逆に、妖怪と仲良くし過ぎる人間が多いんだ。
それの何が悪い事なのか、分かるだろうか」

先生は友人の人間や妖怪たちと話している時は柔らかい女性の口調で話すことが多いのですが、
「教える側」に立つと、とても真面目な口調になります。
そういうけじめを付けることが出来るところが皆さんに信頼されるところでもあり、
生真面目すぎると倦厭される理由でもあるのかも知れません。
少なくとも僕は慧音先生のそういうところはとても好きです。
もちろん、慧音先生の授業を受ける人はみんなそう言うのですけれど。

授業は授業。
慧音先生は慧音先生。
授業の面白さと先生が好きかどうかは別問題、ということです。
寺子屋に通う子供たちは皆、慧音先生が大好きなのです。
確かに、授業はへたっぴですが。
先生は、うーん、と頭を掻いて、困ったように笑っていました。

「ちゃんと授業で教えたつもりだったんだけどなあ」

僕は思わず苦笑してしまいます。

「ちょっと難しすぎてよく分からないことが多いんですよ、先生の授業」

そうらしいなあ、と先生は少ししゅんとして俯きました。

「なんとか分かるように授業をしようと思うのだが、
これがなかなかどうして難しい。
質問をしてもらえれば助かるんだが」

「いえいえ、最早どこを質問すれば良いのか分からないのが問題でして」

「……うぐ」

へこむなあ、と慧音先生は苦笑しました。
努力家の先生のことです、今夜は授業方法の見直しで徹夜してしまうかもしれません。
なんだか申し訳ないことをしてしまったような気がします。

ずいぶん昔にも、似たようなことがありました。
外の世界で普及していた文化なのだそうですが、学級日誌というやつを導入したときのことです。
僕たちが今日一日について思ったことを書きつづり、
それに対して先生が返事を書くというものだったのですが、
これはものの見事に大失敗でした。

僕たちは見たこと感じたことを素直に(時には面白可笑しく)記したのですが、
慧音先生は真面目に真面目に、
まるで魔導書の鍵でも探しているかのように真剣に日誌を読み、
真心の籠もったお返事を一晩かけて書くのです。
そして、先生は日記をはじめて三日目のお昼に突然倒れて永遠亭に担ぎ込まれました。
その時やってきた赤っぽいもんぺ姿の綺麗なお姉さんが
ばかかお前は、と呆れた表情を浮かべながら先生を引きずっていったことは記憶に新しく、
時折苦笑と共に思い出したりするものです。
あの時のことは天狗の新聞の記事にもなって、大変な騒ぎとなりました。

今回もそのような事にならなければいいのですが。
明日先生の顔色が悪ければ、
大人しい性格、というキャラクターを捨ててでも諫言した方が良いかも知れません。
僕のせいで先生が倒れたとなれば、その日からいじめに遭っても不思議ではありませんから。

「それで」

と僕は尋ねます。
先生は、えっ、と可愛らしく小首を傾げました。
やっぱり忘れてたんですね、と苦笑してから僕は人差し指を立ててから茶化すように言いました。

「妖怪と仲良くし過ぎることが良くないって事についてですよ。
質問しておきながら答えを教えてくれてないじゃないですか、もう」

はっとして先生は自分の頭をぺしんと叩きました。

「す、すまない」

見上げると、暗闇でよく分かりませんがなんとなく顔が赤いような気がします。
こういった表情に寺子屋の男子たちは騙されるのです。
ころりと。
それはもう、石ころが坂道を転がり落ちるが如く。
そして、好きな子は苛めたいという初歩的な愛情表現によって、
教え方が下手だのつまらないだの言って毎日毎日先生を困らせている、と。
はたから見ていると、可哀想な気もするのですが、
きっと教師としては本望なのでしょう。
先生は授業に来るたびに嬉しそうな表情をしていますから。
――まあ、宿題を忘れた愚かな子が居る時にはその限りではありませんが。

こほんっ、と先生はやや大げさに咳払いをしました。
これが授業中ならその仕草を茶化されるのですが、いまはそういう腕白な子はいません。

「で、妖怪と人間が仲良くしすぎてはならない理由だが……。
吸血鬼異変が何故起こったのか覚えているかな?」

「新参者の吸血鬼が大暴れしたから、でしたよね」

まあ、概要としてはそうなんだが、と先生は苦笑しました。
なにか足りなかったようです。

「より詳しく言うのならば、新参者の吸血鬼に抵抗できる妖怪の数があまりに少なかったから、だな。
あの吸血鬼よりも強大な妖怪が幻想郷に居なかったらと思うと、ぞっとするよ」

先生は当時の事をはっきりと記憶しているようでした。
もしかしたらその現場に居合わせたのかも知れないと思われるほどに真摯な表情です。

「さて、それではここで質問だ」

先生は愉快そうに尋ねます。
やっぱり、基本的に人にものを教えるのが大好きな人なのです。
義務感から教えている、というのもあるのでしょうが、第一はやはり子供好きだからなのではないか、と思ってしまいます。

「吸血鬼に対抗できる妖怪が殆ど居なかった理由は何故だろうか」

むう、と僕は考えます。
先生の授業を思い出して、それらしい答えを構築してからそれを口にします。

「スペルカードルールが無かったから、じゃないんですか?
今のルールに基づけば、妖精でも理論上は鬼を倒せるって先生も仰ってましたし」

残念ながら違うな、と慧音先生は首を横に振りました。
僕はこの時、この人の授業は一対一で受ければ物凄く面白いのではないだろうか、とふと考えてしまいました。
先生の知識はとても深くて、尋ねればどんな答えでも返ってきそうな気さえします。

「スペルカードルールに基づいて決闘すれば、吸血鬼を倒せる。
それはそうだ。
確かに正論だ。
そして、もしスペルカードルールが導入されていれば、吸血鬼の暴走は無かっただろう。
だが、君はその理由が本当に分かっているだろうか」

僕は答えます。

「スペルカードルールに従って決闘すれば、よほどの事が無い限り、死ぬような事は無いから、じゃないんですか?」

先生はやや厳しい表情で、首を横に振りました。

「残念ながら、それでは点数はもらえないな。
平和ボケした理想論として切り捨てられるのが関の山だ」

驚くほど重い口調で、そう言いました。
何が悪かったのだろう、と僕は答えを見いだせなかったのですが、
先生は傷口にメス入れ、膿を一気にはき出させるかのように、明瞭な答えを提示してくれました。

「よく考えてみると良い。
外から来た吸血鬼はきっと思うぞ。
『なんでスペルカードルールになんて従わなければならないのか。
馬鹿馬鹿しい。全員叩き潰して配下にすればいい』、とね。
そして、我が儘気ままに振る舞うだろうさ」

確かにその通りだ、と僕は思いました。

「それならどうして、スペルカードルールを導入すれば吸血鬼が暴れられないようになるのですか?」

先生は、うん、と頷いた。

「答えは簡単。
人と妖怪がお互いに気を緩めることなく戦い続けるからだ。
聡い君なら、もう分かっただろう?」

僕はしばらく考えたのですが、やがて単純な答えに行き着いて、なるほど、と手を打ちました。
実際には本を持っていたので本を叩く事になったのですが。

「妖怪と人間が戦い続けることで、切磋琢磨しあい、平和ボケすることがないから、ですか?」

然り、と先生は嬉しそうに、我がことのように、本当に嬉しそうに頷きました。
ばんばんと、僕の頭を少し強い力で叩きながら、先生は言います。

「凄いじゃないか。やっぱり君は賢い! いや、私の子供たちはみんな賢いんだがな。
うん、その通りだ。それなら百点だ! うんうん」

先生はしきりにうなずいていました。
本当に嬉しそうです。
きっと誰も見ていないなら小躍りしてしまうでしょう。
いえ、もしかしたら僕が居なくなったらスキップくらいするかもしれません。
それくらい、慧音先生は浮かれていました。

「私が歴史の授業を通して教えたいことが正にそれなんだよ。
人里という狭い空間に居るだけでは、どうしても妖怪の良い面しか見えてこないからな。
あいつらは気さくで良い奴で、酒にも強い。
仲良くなればこれ以上愉快な連中は居ない。
だが――」

「お互いに馴れ合って戦う事を忘れてしまっては、第二、第三の吸血鬼異変が起こる、と」

正にその通り、と先生は腕を組んで頷きます。
どうやら少し話に熱が入ってきたようです。

「歴史は繰り返すと言うが、悪しき歴史は繰り返さぬために授業がある。
色々と回りくどく教えてきたが、ようするに私が教えたいのはまさにその事なんだよ。
妖怪は人間とは根本的に違う生き物だということを意識せよ。
馴れ合うだけでは幻想郷は腐敗するという事を認識せよ。
そして、それを理解した上で妖怪と人間との良好な関係を築くべきだ。
つまり――」

一旦言葉を切って、

「妖怪は人間を襲い、人間は妖怪を退治する、という決まり事くらいきちんと守れ、ということだな。
その信頼関係が失われたからこそ、鬼も消えていってしまった」

最近ひょっこり帰ってきた奴もいるが、と苦笑して先生は付け加えました。
僕はなるほど、と思ったのですが、

「でも先生」

と反論します。

「妖怪は人間を食うし、時には無理矢理攫ったり、酷たらしい闘争も繰り広げてきました。
仲良くすることは出来ても、馴れ合うということはそう簡単には出来ないと思うのですが」

それを聞いて、先生はふふ、と自信たっぷりに笑いました。

「君がそう思ってくれているのなら、私の授業も意味があったということらしい。
大半の大人たちはそのようには思っていないよ。
妖怪は都合の良い客、楽しい呑み仲間、くらいにしか考えていない節がある。
それは、妖怪と人間の歴史を、誰も教えてくれなかったからだ。
幻想郷の時の流れを、誰も教えてくれなかったからだ」

そう考えると、と先生はそのままの表情で続けます。

「歴史を勉強してみるのも、悪くないだろう。
そう思わないか、夜まで本を読んでいて、授業中は寝てばかりの居眠り生徒三号くん?」

僕は、そうですね、と笑い、そして先生と同じ表情で切り返しました。

「じゃあ先生も、もっともっと生徒に分かりやすい授業を心がけないといけませんね。
なにせ、未来の幻想郷の存亡がかかっているのですから」

そう言うと、また先生は面白いくらいにうろたえてくれました。
そういうところがあるからからかわれるんだけどなあ、と僕は小さく笑いました。


しばらく無言で歩き続けました。
先生はこの沈黙に耐えられないのか、両手をぱたぱたさせてみたり、
こちらを向いて口を開いたりするのですが、結局何も言えずじまいでした。
僕はといえば、そんな先生を従えて少しだけ有頂天になっていました。

他の子たちが先生を苛めている時は、なにも子供じみたことを、
と馬鹿にしていたのですが、なかなかどうして、面白い。
いえ、こうしてからかっても決して怒ることのない、
慧音先生の度量に甘えているということは自覚しているのですが。
先生をからかって楽しいと思う反面、
やっぱり凄い人だなあ、と思わず尊敬もしてしまいます。
その尊敬に免じて、僕は口を開きました。

「先生、何か言いたい事とかあるんですか?
さっきからこっちを見て口をぱくぱくさせてましたけど」

そう言うと、先生は目に見えて慌て出しました。
教師の威厳、とかそういうことを考えているのかも知れません。
教師の威厳とはそれ即ち生徒を従わせる為に必要なものです。
生徒を屈服させ、円滑に指導を行う為に必要なものです。
しかし、慧音先生はそんなものがなくても皆に尊敬されているのだから、
わざわざ無理に格好付けなくてもいいのだけれどなあ、と思ってしまいます。
いえ、友人と話している時のような口調で授業を行われてもぞっとしてしまいますが。
先生はひとしきり慌てた後で、いや、と明後日の方向を見ながら言いました。

「また明日もああやって寒い中で本を読むのだろうか、と思ってな」

僕は少しだけ意地悪な質問を返してみました。

「それはつまり、僕の事が心配だって事ですか?」

先生は、こくりと頷きました。

「君は私が大好きな生徒の一人だからな。
病気になって寺子屋を休まれると不安で不安でいてもたってもいられなくなるんだ」

今度はこっちが赤面して黙り込んでしまう番でした。
風邪をこじらせた生徒の家にわざわざお見舞いに行くという噂があったのですが、
もしかしたら本当のことなのかも知れません。
慧音先生が僕たちを大切にしてくれているのは分かっていたのですが、
面と向かって言われると、やはり恥ずかしいものです。
それで、と先生は続けます。

「やっぱり、続ける気かな?」

ここまで言われると、もう止めますと答えたくもなるのですが、
それと同時に素直に答えなければならないとも思ってしまいます。
僕はすみません、と小さく頭を下げました。

「これが性分ですので、
気が付いたら読書に時間を取られて、顔を上げた時には真っ暗、というのが常なのです。
どうにもこうにも、こればっかりは――」

その続きを語ろうとしたのですが、首筋にふわふわとした柔らかいものが触れ、僕ははっとして慧音先生を見上げました。
さきほどまで温かそうなマフラーが、先生の首にはありません。
はっとして首に触れようとすると、ふわりとした温かな感触がありました。
慧音先生は人差し指をぴん、と立てて言いました。

「だったらせめて、これを巻き付けておくといい。ずいぶんあったかいだろう?
なにせ、ヒートなんちゃらとかいう外の魔法を使っている品らしいからな」

僕は思わず両手でそっとマフラーに手を触れました。
つい先程まで、先生がそれを身につけていたのです。
注意すれば、すこしだけ甘い匂いがしますし、そしてなにより、とても温かい。
意識すればするほど、顔が熱くなっていくのを感じます。

ありがとうございます、といつも通りの仏頂面、もしくはニヤニヤ面で、
慇懃無礼に答えたいところだったのですが、上手く表情を作ることが出来ません。
そんな表情を満足そうに見下ろして、先生はわしゃわしゃと僕の頭をなで回しました。

「でも、これは気休め程度にしかならないのだから、
あんまり読書にかまけて私に心配をかけないで欲しいのだが」

こう言われると、どうしようもありません。
私は先生と目を合わせることが出来ずに、

「善処します」

と蚊の鳴くような声で返答するのが精一杯でした。
先生はそれを聞いて、よろしい、と大きく頷いて、一方後ろに下がりました。
ついさっきまで隣りを歩いていた先生が距離をとったので、
なんだかとても遠くに行ってしまったように思えました。
先生は、いつもの気難しい表情になって、言いました。

「今日はもう遅い。
明日は早いのだし、授業も難しいぞ。
しっかり寝ないとついてくるのが大変になってしまうからな?」

そんないつもと変わらない先生の言葉に、僕は、はい、と頷きました。

「それじゃあ、先生も分かりやすく授業をしてくださいね?
せいぜい、昼寝軍団の猛攻に気を付けることです」

「その時は強烈なのを一発くれてやるさ。覚悟しておくと良い」

「期待してますよ」

悪ガキめ、と先生は悪戯っぽい笑顔と共に言い捨てて、そしてくるりと背を向けました。
長い髪がぱっと広がるのが、夜の月にとても映えました。
それじゃあ、と先生は言い、僕も、また明日、と返しました。
先生の姿は、すぐに夜の闇に溶けて、消えていってしまいました。

強い風が吹きましたが、もう寒くはありませんでした。
僕はそっとマフラーに手をあてて、そしてきびすを返して家へと向かって歩き始めました。
自分の気持ちがなんだかよく分からなかったのですが、確かに言えることは、
嬉しくて、楽しくて、スキップしたくなるような気持ちになったのは、僕の方だったということです。

この日、僕は痛感しました。
教え方なんて、どうでもいい。
気難しくて生真面目で、融通が全然利かないけれど、それだって大した問題じゃない。
その全てをひっくるめて、僕たちはあなたが大好きだ。あなたの授業を、明日も受けたい。
上白沢慧音という人は、人里で一、二を争う捻くれた悪ガキの僕に、
心の底からそう思わせてしまうような幻想郷一の名教師なのだ、と。
SSを書いていると不思議な現象に見舞われます。
一つは自分の中に、自分だけの幻想郷が生まれること。
もう一つは、いままでどうでも良いと考えていたキャラクタがー大好きになってしまうことです。
私だけの幻想郷の中を縦横無尽に走り回る彼女達を見ていると幸せな気持ちになります。
もっともっと、書き続けたいものです。
しかし、私用により、三月まで執筆速度が大幅に落ちることになりそうです。
気長に待っていてくださると、うれしいです。
ああ、時間が欲しい……。
与吉
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コメント



0.4180簡易評価
3.80名前が無い程度の能力削除
中々考えられた話だと思いますよ
まぁ、なかば使い古された感のする話でしたが……

あと、最初にオリキャラメインみたいなことを書いた方がいいかもしれないです
10.90名前が無い程度の能力削除
先生に優しい声で頭突きされたい。
13.80名前が無い程度の能力削除
幻想郷じゃなくても、物語を書いてるとその世界が内側に形作られることってありますよね。
14.90名前が無い程度の能力削除
正直、今までのサイクルが早すぎでしたってw

描きたかったことは、どちらかといえば少年の初恋?
20.90マイマイ削除
けーね先生かわいいww
22.100煉獄削除
少年が慧音との歴史の教えに良い味をだしていたと思います。
慧音のうろたえる姿とか顔を赤くする場面とかが
可愛いらしい……。
面白かったですよ。
24.90名前が無い程度の能力削除
こんな可愛いけーねは初めてだ
しかしこの少年、一体いくつくらいなんだろ
小学校低学年程度ならすげぇ頭いいし、
高学年でも結構すげぇなぁと思った
32.90名前が無い程度の能力削除
やばい・・・自分もssを書きたくなってきた。
自分だけの幻想郷が生まれてくる・・・どんなにか甘美な瞬間だろう。

そういえば、初めてこーりんが出てこないssでしたね。
36.90名前が無い程度の能力削除
みんなそれぞれに幻想郷を持っているんですね。
次に貴方の幻想郷にお邪魔させて頂くときを楽しみにお待ちしております。
43.100名前が無い程度の能力削除
慧音先生可愛すぎる。何だこの破壊力
56.100名前が無い程度の能力削除
歴史勉強し直すから生徒にしてくれ
59.80名前が無い程度の能力削除
キャラクターが勝手に走り回るくらいがいいですよ

ゆっくり待ってるんで、またあなたの幻想郷におじゃまさせてください
67.90名前が無い程度の能力削除
ヒートテックww
もう幻想入りしてたのかww
69.100名前が無い程度の能力削除
すばらしい。
こんな先生に会えたら・・・
そうか、「可愛い先生」は既に幻想郷入りしt(ry
76.100名前が無い程度の能力削除
これは素晴らしい慧音先生でした。
ああ生徒になりたい
78.80右足を挫く程度の能力削除
綺麗なお姉さんが好きです。
なんというか、慧音先生かわいすぎですw
それにしてもユニ○ロ涙目wついこの間CM流していたのにwww最早幻想入りwwwうはww
81.無評価名前が無い程度の能力削除
やっぱ慧音はいいねぇ・・・
110.100うみー削除
あとがきがいい