Coolier - 新生・東方創想話

もこうの受難

2008/12/16 22:28:57
最終更新
サイズ
17.39KB
ページ数
1
閲覧数
1026
評価数
3/18
POINT
760
Rate
8.26

分類タグ

 霧深き竹林の奥底、苔むした岩に腰かけ一服する少女が居た
 まるで、霧に溶けてしまうような白い髪と肌は少女の存在を儚く幻想的みせていた
 だが、少女の紅い瞳は揺るぎない決意と並々ならない生命力を醸し出している


「この幻想郷に来てから、ずいぶんたった気がするわ…」


 そんな不思議な雰囲気の少女は笹の葉で包んだおにぎりを頬張り
 いずことも知れぬ霧の向こうを見ながら呟いていた
 付け合せの沢庵を一口、ゆっくりとかみ締めたのちお茶でほっと一息


「うん…慧音の漬物はいつもいい味だ」


 ほうけた顔をしながら再度おにぎりを頬張る、もきゅもきゅとゆっくり味わいながらかみ締めまた沢庵を一口
 そこで、く~~~とお節介焼きの友人による漬物に感動する
 こんなに美味しそうに食べられては作った本人も冥利に尽きるものだが
 白髪少女がこの感動をそのまま彼女に伝えることはたぶんないだろう
 
 そんな時だった

 ――かさっ


「ん?」


 今確かに…、すぐに気を張り詰める
 竹林の奥から聞こえた些細な音は、がさ、がささっ、と次第に大きくなってくる
 徐々に近づいてくる気配と共に高鳴る鼓動
 鬼が出るか蛇が出るか、はたまた妖怪か?

 しかし茂みから出てきたのは…


「おやおや、これまた情けないのが出てきたね」


 体中ボロボロになった青年だった


「うぅ…」


 その一言の後、崩れ落ちるようにその場へへたり込む青年
 流石にほおって置いて死なれたら目覚めが悪いので、食べかけのおにぎりを脇に置き青年のほうへ歩み寄る


「いったいぜんたい、こんな辺鄙なところでなにしてるんだい?」
「ちょっと…薬を貰いに…」
「へぇ、それで?」
「おなか減った…」


 ぐぅ~~
 情けない声と共に鳴った腹の虫に少女はやれやれとかぶりを振った


「ほら、これでも食べな」
「あ…ありがとうございまふ」


 残っていたおにぎりを青年に渡し、自分も食べかけを頬張りながら
 少女は青年にこれまでのいきさつを問いただしていた


「それで、あんたはなんでこんなところに来たんだ?」
「俺は、むぐ、この竹林の何処かにあるという薬師を、もぐ、探しに着たんです」
「落ち着いて食べような。それで、そのざまじゃ道に迷ったって所じゃない?」
「恥ずかしながらおっしゃるとおりです…」


 青年が申し訳なさそうに頭を下げる、そのしぐさで青年がどんな性格なのか手に取るようにわかる
 その様子を見て、少女の口の端が釣りあがった


「それじゃあ、ボディーガードを雇わないかい?」
「ぼでぃーがーど?」


 ぽかんと口をあけ、頬にご飯粒をつけた青年の顔を見た少女はよりいっそう深い笑みを浮かべた


「そう、私があんたを無事に永遠亭まで届ける。その代わりあんたは私に報酬、つまりお金を払うってことよ」
「え…と、君が?」
「そう、私が」
「…大丈夫なんですか?」
「しっけいな、私ほどここを知ってる人間は居ないぞ」
 
                        . . . .
 青年の心配はもっともだが、あいにく少女は青年が生まれる前からこの幻想郷に居る
 それに、竹林をバックに立ちすがる少女の姿がどこか浮世離れた雰囲気を漂わせ
 その空気が青年の首を縦に振らせていた


「ありあわせでいいのなら…お願いします」
「交渉成立ね、これからよろしく。私の名前は藤原妹紅、健康マニアのボディーガードさ」


 にかっと笑った少女=妹紅はポケットに突っ込んでいた手を青年へ差し出した


「藤原さん?」
「下で呼んでくれれば助かるわ」
「それじゃ、妹紅…さん」


 青年の言葉を聴いて満足したのか、彼女はおずおずと出された青年の手を半ば強引に引き上げる
 そのまま、腰掛けていた岩へ戻る妹紅に青年は残り半分のおにぎりを頬張りながら質問する


「ところで妹紅さん、ここから永遠亭?までどれくらいかかるんですか?」
「ここからじゃ四半刻くらいかな」
「ええと、できるだけ、もぐ、急いでもらいたいです」
「それじゃあ、早くおにぎりを飲み込むことだね」
「え…あ、むぐっ!?」


 その言葉が、彼女の配慮だと青年が気づいた時はお茶でおにぎりを流し込んだ後だった


「それにしても、退屈しそうね」
「そうですね、じゃあ軽い世間話でもしようじゃないですか」


 青年が笑いながら妹紅に提案する
 そうして、青年は妹紅とともにいづことも知れぬ永遠亭を求め、迷いの竹林へと足を運ばせるのであった















「さあ、ここが永遠亭よ」


 道とも言えぬ道を通り、幾度となく同じ光景の場所を回っているように見えた成年だったが
 妹紅の言ったとおり、ちょうど四半刻ほどの時間で目的地にたどり着いた


「ここが…永遠亭…ですか」


 青年はこの不思議な屋敷を物珍しそうに眺めていた
 この世の法則を無視した何かがその屋敷に感じらるような気がした


「それじゃ、私は知り合いに挨拶しにいくから」
「え!?」


 よほど青年にとって意外な言葉だったのか、ばっと妹紅へ振り返る青年
 だが、妹紅はさも当然のように


「私は永遠亭までの護衛を約束したんだ、屋敷の中まで着いて行くとは言ってないわ」
「え…じゃあ」
「勿論、帰りはちゃんと送ってやるから心配しないで。それに挨拶だから一時間くらいで終わる」


 いや、挨拶はそんなにかからないんじゃ…、そんな青年の呟きも何処吹く風
 妹紅はすたすたと屋敷の奥へ入っていってしまった、まるで勝手しったる我が家のように

 残された青年は数秒ぽかんとした後、再度屋敷を見上げてぽかんとしているのだった


「まあ…入ってみるかな…」


 恐る恐るといった風に屋敷の庭へと入り、おそらくこっち側に診療所があるだろうとあたりを付ける
 なぜか、終わりが見えない縁側沿いの庭を延々と歩いていく


「ここ、どんな風になってるんだろう?」


 変わらない景色に終わらない庭
 そんな場所を歩いていた青年は自分がまるで不思議な世界へ迷い込んだような気分だった
 果てしなく長い庭園にそろそろ疲れてきた、そんなときだった


「ねえねえお兄さん、募金しない?」
「え?」


 後ろを振り向くと、そこにはウサギの耳がぴょこりと生えた女の子が何故か小柄な賽銭箱を抱えていた
 いつから居たのだろうか?


「君は?」
「私はてゐ、幸せを呼ぶウサギなの。お兄さんもお賽銭を入れてくれればちょっとした幸運が降りてくるかも」
「へぇ~…ちょっとした幸福かぁ」
「どんなに少しでもいいの、重要なのはその気持ち」


 胸の前で腕を組むてゐに青年は健気で可愛い子だなぁと感心していた
 だが、あいにく手持ちのお金は妹紅への報酬と薬の代金なのでお賽銭を入れることはできない
 ちなみに、報酬は現在ありあわせから薬の代金を引いた額となっている


「ごめんねてゐちゃん、お兄ちゃん持ち合わせがもうないんだ」
「ちっ」
「え?」
「いや、なんでもないよ♪」


 一瞬か見えた黒い表情を青年は影の錯覚だと決めつけ、気を取り直し質問する


「ねえ、てゐちゃん。永淋診療所って何処にあるかわかる?」
「え? ししょーのお客さんなの?」
「うん、ちょっとお薬を貰いにね」
「ふーん、それじゃ私についてきたら教えてあげる!」


 そういった瞬間駆け出したてゐ、とっさに判断できなかった青年は一拍置いて駆け出した
 前を走るてゐの足は予想以上に速く本気を出しても追いつくどころか振り切られそうな勢いだ

 ほうほうのていで、てゐに着いていく青年の目にやがて離れのような建物が見えてくる


「ほら! ししょーの診療所はあそこだよ!」


 一足早くてゐがたどり着き中へ入っていく、青年も一拍遅れてようやく到着した
 肩で息をしながら、中へ入るとてゐが大人の女の人に自分のことを説明してくれているようだ
 なにやら謎めいた雰囲気をかもし出す女性だった、一言で言うと…胡散臭い?


「ありがとうてゐ、後で棚にあるおやつ食べていいわよ」
「やった」


 どうやら、おやつが目的だったらしいてゐ
 そんな子供らしい一面を見て顔を綻ばせながら、青年は女性のところへ近づいていく


「あなたが永淋さんですね?」
「そうよ、いかにも私が八意永林、ここで診療所をやってるわ」
「あの、お薬を貰いに着たんですけど…ここがどんな難病の薬も作ってくださると聞いて」
「あら、でもあなたは全然病気には見えないけど?」
「いえ、俺じゃないんです、村で結核にかかった人が居て」


 そこで、青年は結核にかかった人のことを事細かに永淋に話した
 彼女は青年の話を聞いた後、わかったわ、の一つ返事ですぐに薬の調合に取り掛かった
 青年はその間手持ちぶたさに椅子に腰掛けながら、おやつから戻ったてゐと話ながら薬を待っていた


「できたわ、はい、これが結核のお薬」


 薬ができたのは青年がてゐと十二戦目になるなぞなぞをしているときだった


「ありがとうございます」
「はい、そしてこれがあなた用」
「え?」


 突然渡された頼んでもない薬に、青年は目を白黒させる


「あなたはとても疲れているように見えるわ。だから、どうしてもその疲れが取れないときにこれを飲んで」
「でも…いいんですか?」
「これは特別サービスよ、それに目の前に病人がいたらほっとけないじゃない」
「え…でも」
「なにか?」
「ありがとう…ございます」


 無理やりおしつけられた感がするが、笑顔で押し切られてしまい結局受け取ることになってしまった
 薬を受け取った青年は再度お辞儀をした後、挨拶と共に診療所を後にした




「ししょー、なんのためにお薬を渡したの?」
「あの薬には人を変える作用があるのよ」
「変える?」
「あの子にぴったりでとても面白くなる効果があるの」
「へぇ~」
「でも、使うか使わないかはあの子しだいよ」
「飲むように進めたんじゃないの?」
「ふふふ、時には予想がいのことが起こるほうが面白いものなのよ」
「?」
「さあてゐ、優曇華を呼んできて頂戴、新薬の実験をするから」
「はーい」















「あっれぇ…おかしいなぁ…」


 庭から診療所に着くまで相当走ってたはずなのに、屋敷の中を歩いていくと驚くほど早く玄関についていた
 外では妹紅が何故か黒焦げのウサギ耳の少女と話してるようだ


「もうちょっと手加減してくれないかしら? 私の一張羅が台無しじゃない」
「悪かったわよ鈴仙、それより輝夜によろしく頼むわ」
「はぁ、わかりましたよー、姫様によろしく行っておけばいいのね」
「毎度悪いねぇ」
「はいはい、ってあら? あなたの連れが着たみたいよ?」


 入り口でぼーっと突っ立てる所を鈴仙と呼ばれた少女に見つかってしまった
 まるで、いたづらがばれた気分になりながら軽く頭を下げながら妹紅のもとへ


「お話は終わったんですか?」
「あぁ、ついでに挨拶もすんだところ。そっちも薬は無事手に入ったみたいね」


 青年は自分の持っていた袋をかかげる
 その仕草はまるでお使いを任された子供が自信満々に帰ってきたようだった


「あははっ、それじゃあ里に帰ろうか」
「わ、笑わないでくださいよっ」


 そんな青年の叫びもむなしく、妹紅はすたすたと歩いていってしまった
 青年も負けじと妹紅を追いかけていくなか、一人屋敷の玄関で立ち尽くす鈴仙は


「あの藤原があんなに話すのも…珍しいわね…」


 そんなことを呟くのだった










 ―妹紅さんは、普段何をしてるんですか?

  言ったでしょ、健康マニアのボディーガードさ、焼き鳥屋もやってる

 ―へぇ、焼き鳥ですか

  そんなことより、誰のために薬を貰いにいったの?
 
 ―里の大工の棟梁ですよ、あの人が居ないと色々な人が困りますから
 
  へぇ、あの堅物の棟梁がねぇ

 ―知ってるんですか?

  慧音から聞いた程度よ、なんでも里の取り締まり役みたいなんだろ?

 ―えぇ、そうです。あの人が里のまとめ役みたいなものですね、皆感謝してます

  でも、困ったことに閉鎖的なんだってね

 ―それは、山里には普通のことですよ、他人と同じことを美徳とし異端を恐れるのが

  おかげで、一人の青年が村八分に会ってるんだって?

 ―それも、慧音さんから?

  なんだ? 知り合いなのか?

 ―昔、行き倒れてた所を少しお世話に…

  今も昔も相変わらずみたいね…

 ―お恥ずかしい限りです…
 
  まあ、そんなことはいいけど。まだ…解決してないんだってね

 ―きっと、これからも…変わらないでしょう

  どうした? 顔色が悪いけど? まさか結核でもうつされたんじゃ…

 ―妹紅さんは優しいんですね

  ばっ、人を心配するのは当然のことでしょっ

 ―まあ、これは大丈夫です、少し疲れがたまってるのかもしれません

  はぁ、帰ったらちゃんと休めよ

 ―ははっ、肝に銘じておきます。おっと、ここを抜ければもう里まで一本道ですね

  あぁ、そうね。それじゃ護衛もここまでだけど…里まで行く?

 ―いえ、ここで大丈夫です、ではこれが報酬のお金です

  しかと受け取ったわ、お前も体には気をつけなよ

 ―はい、妹紅さんもお気をつけて

 






 里への道を下る青年の背中は妹紅にとって嫌な予感しかしなかった
 報酬の入った巾着袋を開いてみると、中は申し訳程度のお金しか入ってなかった


「おや、妹紅じゃないか」
「ん? 慧音か?」


 振り向くとそこにはお節介焼きの友人=上白沢慧音の姿があった


「護衛の仕事でもしてたのか? お疲れ様」
「ありがとう、そういえば少し聞きたいことがあるんだけど」
「私でよければ何でも聞いてくれ」
「前に聞いた、村八分の青年のことでなんだけどさ」
「彼のことか、だけどあまり面白い話ではないぞ?」
「かまわない」


 妹紅の言葉で、慧音も真剣だと悟ったのだろう、彼女はゆっくりと語りだした




 寺子屋のお手伝いを手伝ってもらっていたこと

 その青年は誰にも平等に接していて、時には妖怪を庇ったりもしていたこと

 ある日、寺子屋に来ていた大工の棟梁の子供が妖怪と遊んでいたときに怪我をし、問題が起こったこと

 妖怪退治が行われたが、彼がその妖怪を庇い里でよくない噂が立ち始めたこと

 次第に彼の周りに人が寄り付かなくなっていったこと

 前はいつも寺子屋で手伝いなどをしてくれていたが、慧音に迷惑がかかるからあまりこなくなったこと

 最後にあったとき、彼は明日生き延びれるかどうかだけのお金と食料しかなかったこと



 握り締めた巾着は微かな音しかでなかった

 申し訳程度のお金がとてつもなく重かった
 
 次の瞬間、妹紅の足は走り出していた
 真っ直ぐ、里へ向かって


「言い忘れていたが、彼の名前は―って、妹紅!?」
「ごめん慧音! 急用ができたわ! 後、漬物美味しかった!」
「え? あ、ありがとう」



 ぽかんとした、慧音を残し走る

 すかすかの、だけどとても重い巾着袋を右手に握り締め

 自分でも何故こんなに熱くなっているかわからず

 妹紅は里への道を走り抜けた

 つい先ほど分かれた青年が、とてつもなく遠く思えた




「ここが、棟梁の家ね…」


 探していた家はあっさりと見つかった、今ちょうどあの青年は入っていったところだ
 自分も正面から入っていくわけにはいかず裏方に回り中をうかがう


「なんで私がこんなことを…」


 自分でもわからなかった
 生きていること幾星霜、様々な体験をしたはずなのに
 自分は今、何をすればいいかわからない
 だから、妹紅には一人こそこそと聞き耳を立てることしかできなかった

 そんな、自分のうやむやを押し殺して



『おめぇ…なんのために、げほっ…きた』
『結核のお薬を貰ってきたんです、これを使ってください』
『はっ、なんだ? どっからそんなもん…持ってきた?』
『迷いの竹林にある永遠亭のお医者さんに貰ってきました』
『怪しいねぇ、げほっ…そんなこと言って…俺を殺すつもりじゃねぇのか?』
『そんなことないです!』
『うるせぇよ…ぜぇ、うちにてめぇみたいなのを入れる敷居はねぇ、今すぐ出てけ』
『………』
『がはっ…出てけっつてんだよ!』



 殴る音が聞こえた
 とっさに中を覗き込んでいた
 倒れた青年が居た
 そして次の瞬間

 妹紅の視線が青年の視線と重なった


「…ッ!?」


 とっさに隠れたが、彼が最後に浮かべた自嘲じみた笑みが頭からはなれない
 中からは、何度も殴る音が聞こえる
 何かがはじけた気がした

 彼女の足は自然とある方向へ向かう

 ゆっくりと、だが確実に、一歩一歩進んでいく
 ついに着いた部屋は開け放たれていて、大男が全身を真っ赤にし一人の青年の首を握り締めていた
 そしてゆっくりと口が開いた


「そんなに死にたいのか? 糞野郎」


 その瞬間、大男の動きが凍りついた


「これ以上私の友人に手を出すようなら、殺すぞ人間」
「なん…だ、てめぇ」
「妹紅…さ…ん」


 青年が見た妹紅は、灼熱の翼を背から生やし、この世の全てを凍りつかせんとする怒気をはらんでいた


「早くそいつを放せ、黒焦げになりたいのかい?」
「ひ、ひぃ!?」


 一歩、彼女が足を踏み出すたびに熱風が舞い上がる
 後ずさりする大男を無視し、妹紅は青年へと手を差し出し優しく声をかける


「大丈夫か?」
「はは…なれてますから」
「そう…後で永淋に見てもらいな」
「…はい」
「それと、そこのお前」
「はっ、はい!」
「その薬は、こいつが有り金全てをはたいて買った大事な薬だ、必ず飲め」
「はいぃ! げほっごほっ」


 顔面蒼白になった大男を後に妹紅は青年を肩に担ぎ、その場を後にする
 だが、その後青年を永遠亭に連れて行くまで、二人の間に一切言葉はなかった


















「ねぇ…慧音」
「なんだい妹紅」
「私は…あれでよかったのかな」
「めずらしく凹んでるね」
「あいつは…傷ついたのかもしれない」
「でも、里の人との確執は取れたみたいだけど?」
「だけど私は…」
「らしくないな妹紅、そんなにあの青年のことが信じられないのか?」
「わからない…だけど、目が合った瞬間のあいつの顔が…」
「もう、うじうじしない!」
「慧…音?」
「私はそんな妹紅を見たくないぞ! ほら! うじうじするなら帰った帰った!」
「わ、ちょ、慧音!?」
「四の五の言わない!」
「きゃっ、ちょ、ま――(ばたん」



「ふぅ…妹紅にも困ったものだな」


 ため息ひとつき、すっかり冷えたお茶をすする
 あの後、慧音も青年の弁護に加わり、里の者たちの誤解は無事解消した
 ただ、あの大工の棟梁の心の傷は当分治りそうもないが


「不老長寿か…何も変わらないというのも考え物だな」


 だけど、今回の出来事で妹紅に少しの変化ができたのかもしれない
 そのことは慧音にとって、嬉しさ半分心配半分といったところだ


「ひな鳥の巣立ちを迎える親鳥の気分って、こんな感じなのかもね…」


 藤原妹紅という不老不死の人間は、今日やっと巣立ちできたのかもしれない
 老いることも死ぬことも、変わることもなかった不死鳥が、ゆっくりと変わり始めたのかもしれない


「まあ、どんなことが起きても、私は妹紅を見守るだけだ…」


 ふくんだお茶は少し苦かった


















「なんで私は…こんな所に居るんだろう」


 霧深き竹林の奥底、苔むした岩に腰かけ一服する少女が居た


「馬鹿ね…私」


 そう言いながら、お茶を一口すする
 今日も霧が立ち込める竹林のなか、一人さびしくおにぎりを頬張る

 ―がさっ


「―っ!? って、なんだ…ウサギか」


 何も知らないウサギはしょんぼりとした妹紅を見上げ首をかしげる
 そのウサギを優しい手つきで撫でる


「私は何に期待してるんだろうね…」


 きゅい?とウサギが首をかしげた
 なんでもないよ、と妹紅はウサギを放し、またおにぎりをほおばる
 味気のない塩味、今日は慧音の漬物もない


「結局、慧音もへそ曲げちゃったし…どうしようかしら」


 霧で覆いかぶさった空を見ながら、一人呟いた


「これから私は…どうすればいいのかしら」


 そんなときだった


「そうですね、じゃあ軽い世間話でもしようじゃないですか」


 その声は、突然聞こえてきた
 あの時とまったく同じ声が


「え…?」


 自分でも声が震えていることがわかった
 ゆっくりと、おそるおそる振り向く


「また、永遠亭までボディーガードを頼んでもいいですか?」


 返したいお薬があるのでと軽く微笑みながら
 その青年はさも当然のように、笑顔でそこに立っていた

 自然ににやける口元を気にしながら
 妹紅はこう応えるのだった


「退屈しそうね、それじゃあ世間話でもお願いしようかしら」







 これは、健康マニアの焼き鳥屋のちょっとしたお話
 ほんの少し、彼女が変わることができた物語
 だけど、妹紅にとってそれはとても素晴らしい出来事だったのかもしれない
どうも、初投稿です
前々から考えていた東方の物語をやっと形にしたのがこれです
まだまだ稚拙な文章ですが、楽しんでいただけたなら幸いです
助手
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.550簡易評価
12.70名前が無い程度の能力削除
よい流れでしたが、ちょっと淡々としすぎかもです。
もう少し山場が欲しかった。こういう話は好きだから余計にかな?
あと、妹紅が一朝一夕で人間に心を許すかなとも思いました。
俺の中のもこたんはもっとツンデレなんだ!・・・すみません、気にしないで下さい。
もっとオリキャラと時間をかけて触れ合う描写があれば、納得出来たと思うのですが・・・。
最後に誤字の報告をば。永淋→永琳です。これはよくあるミスなのでお気をつけを。
次回作を楽しみにしています。
14.80名前が無い程度の能力削除
あの薬はなんだったんだろう悪い想像しかでしない
16.60名前が無い程度の能力削除
もうちっとモコタンが青年に惹かれる過程を知りたかった。
もこんが「いつの間にか」心変わりしちゃってて

ところで師匠が渡したのは自信がつく薬かな?
期待してますぜ旦那