冷たい外の空気と、温まった内の空気が混じっていた。
この世界は遠い未来に大きな寒期を迎えるらしい。
いや、期というのは間違いか。それは永遠に続くのだそうだ。
星と星は離れあって、互いを求めることすら出来なくなる。
全ては均質化され、情報は伝達することは許されない。
だが、大いなる冷却を迎えるその前に人間は新たな発見をしているだろう。
例えば――
「おーい。香霖、いるかー? 外は寒いぜ」
例えば、自己の時間を遅らせ、使うエネルギーを最小限にすること。
そうすれば主観時間は今までと変わらず、いつまでも少ないエネルギーで生命は生き延びることができるだろう。
これには副産物もある。それは世界の大胆な変化が見られることだ。
木は瞬く間に成長し、欠伸をする間に、光る星は寿命を迎える。
だがこれは根本的解決にならない。
何故なら――
「おい。いるんじゃないか。返事ぐらいしろよ」
何故なら、いくら使うエネルギーを最小限にしても、それを浪費していることには違いが無い。
つまり、それは単なる延命の技術。それは少し寂しいことだ。
なら、新しい世界へと飛び出せばいい。そこには、かつて見たエネルギーが満ち溢れていることだろう。
この世は定常と無常で成り立っている。西と東の思想を否定するつもりはない。ならばそれらを組み合わせるまでだ。
つまり、この世界は定常の大海原に浮遊する無常の小船であり、その小船は人の手によってどんどんと生産されている。
そうだ、つまり――
「おい! 聞いてるのか。聞いてないな?」
つまり――
「う、うう……香霖が苛めるぜ……」
つまり、あったかいお茶を急いでくんでこよう。
●
得意顔で茶を飲む少女は当然のことのように言い放った。
「八卦炉をもう一個作ってくれ」
なんだって? 何で二つもいるんだい。
白黒魔法使いは目線を僕の前髪に這わせながら理由を説明し始めた。
「だってさ、例えば霊夢とかと勝負してるとさ、避けるんだよ、私の攻撃を」
まあ、あの子には避けてるっていう感覚がないらしいが。
「でも、後一歩で当たりそうなんだ。結構ギリギリで避けてるんだ」
……ははあ、なるほど。読めてきたぞ。
「でさ、追撃ができればいいんだけど、普通のじゃやっぱり避けられる。だから、」
だから、八卦炉が二つ欲しい?
「そう! さっすが香霖話が分かるな! さすがに連続発射はできないからなあ」
何やら八卦炉が二つあることで使えそうな弾幕の説明を始めてしまった。
その瞳は電気が走るように鋭く輝いている。
少しばかり気は引けるが、ここは僕の話を聞いてもらおう。
その旨を伝えると、魔理沙は形のいい眉を吊り上げ、不機嫌そうにこちらに向き直った。
「なんだよ。いいとこなのに」
まあ聞いてくれ。
昔、ある人が弓を習っていた。その人はまだ習い始めでなかなか的に命中しない。
だからいつも、矢を二本もって的の前に立ってたんだ。
「それがなんだ?」
その人には師匠がいた。
師匠は言うんだ。矢は一本だけ持って行け、とね。
後の矢に頼ってしまうと先の矢が疎かになる。
もちろん、そんな気はなくても、無意識に出てしまう。
「……むう」
よくあるんじゃないかい? 今日やろうと思っていても明日にしてしまうとか。
魔理沙なら家の掃除とかか?
「いや、私は片づけをしようと思ったことなんてないぜ」
いつもより声のトーンが低いような気がする魔理沙を目の端に捕らえ、僕は着地点に降り立つ。
だから、八卦炉は一つでいいんだよ。その一刹那に有らん限りの一念を込めるんだ。
そうしないとこれからも最初の一撃はあたらないままだ。
「……」
最初に茶を飲んでいた時より、きゅっと結ばれた唇で、彼女は僕の耳あたりを見ている。
何か言いたい事が有り気な表情である。
さて、あと一息か。
それにね、魔理沙。君の使っている八卦炉、その材料はヒヒイロカネだ。
入手が本当に難しい。それに色々としなければいけない施しも――なんだ?
いつの間にか目の前の少女が、先ほどの活力を取り戻していた。
木の家屋が、きいきいと音をたてる。
嫌な予感がしてきた。
「なあ香霖?」
なんだ。その人の家に連れてきた猫のような声音は。
「前にさ、私の家にある蒐集品を、香霖がもってったことあるだろ?」
そんなこともあったかな。
「でだなぁ、その中にぼろっちい剣があったこと覚えてるか」
……どうだったかな。最近物忘れが激しくてね。
魔理沙は目をそらす僕を下からつつくように見上げ、柔らかそうな頬をくいっと上げた。
それは、勝者の貫禄に違いなかった。
「ふふん、こないだ匿名未希望の誰かさんから聞いたんだよ。その剣はヒヒイロカネ――
●
白と黒の魔法使いは飛び跳ねるように帰っていった。
まんまと話をつけさせられてしまったのだ。
あの約束する時の、花が咲いたような顔を思い出すとため息がでる。
まさか、隠し事がこんなところで仇になるとは。
いや、因果は繋がっているということかな。
愚痴を考えてもしかたがない。
こころなしか気温が下がった屋根の下で考える。
さあ、どこから造っていこうか……。
残ったお茶を、もちろん、自分用にくんでいた茶だ。
僕は冷めたそれを飲みながら、新しい八卦炉の構想を、ゆっくりと練り始めた――。
この世界は遠い未来に大きな寒期を迎えるらしい。
いや、期というのは間違いか。それは永遠に続くのだそうだ。
星と星は離れあって、互いを求めることすら出来なくなる。
全ては均質化され、情報は伝達することは許されない。
だが、大いなる冷却を迎えるその前に人間は新たな発見をしているだろう。
例えば――
「おーい。香霖、いるかー? 外は寒いぜ」
例えば、自己の時間を遅らせ、使うエネルギーを最小限にすること。
そうすれば主観時間は今までと変わらず、いつまでも少ないエネルギーで生命は生き延びることができるだろう。
これには副産物もある。それは世界の大胆な変化が見られることだ。
木は瞬く間に成長し、欠伸をする間に、光る星は寿命を迎える。
だがこれは根本的解決にならない。
何故なら――
「おい。いるんじゃないか。返事ぐらいしろよ」
何故なら、いくら使うエネルギーを最小限にしても、それを浪費していることには違いが無い。
つまり、それは単なる延命の技術。それは少し寂しいことだ。
なら、新しい世界へと飛び出せばいい。そこには、かつて見たエネルギーが満ち溢れていることだろう。
この世は定常と無常で成り立っている。西と東の思想を否定するつもりはない。ならばそれらを組み合わせるまでだ。
つまり、この世界は定常の大海原に浮遊する無常の小船であり、その小船は人の手によってどんどんと生産されている。
そうだ、つまり――
「おい! 聞いてるのか。聞いてないな?」
つまり――
「う、うう……香霖が苛めるぜ……」
つまり、あったかいお茶を急いでくんでこよう。
●
得意顔で茶を飲む少女は当然のことのように言い放った。
「八卦炉をもう一個作ってくれ」
なんだって? 何で二つもいるんだい。
白黒魔法使いは目線を僕の前髪に這わせながら理由を説明し始めた。
「だってさ、例えば霊夢とかと勝負してるとさ、避けるんだよ、私の攻撃を」
まあ、あの子には避けてるっていう感覚がないらしいが。
「でも、後一歩で当たりそうなんだ。結構ギリギリで避けてるんだ」
……ははあ、なるほど。読めてきたぞ。
「でさ、追撃ができればいいんだけど、普通のじゃやっぱり避けられる。だから、」
だから、八卦炉が二つ欲しい?
「そう! さっすが香霖話が分かるな! さすがに連続発射はできないからなあ」
何やら八卦炉が二つあることで使えそうな弾幕の説明を始めてしまった。
その瞳は電気が走るように鋭く輝いている。
少しばかり気は引けるが、ここは僕の話を聞いてもらおう。
その旨を伝えると、魔理沙は形のいい眉を吊り上げ、不機嫌そうにこちらに向き直った。
「なんだよ。いいとこなのに」
まあ聞いてくれ。
昔、ある人が弓を習っていた。その人はまだ習い始めでなかなか的に命中しない。
だからいつも、矢を二本もって的の前に立ってたんだ。
「それがなんだ?」
その人には師匠がいた。
師匠は言うんだ。矢は一本だけ持って行け、とね。
後の矢に頼ってしまうと先の矢が疎かになる。
もちろん、そんな気はなくても、無意識に出てしまう。
「……むう」
よくあるんじゃないかい? 今日やろうと思っていても明日にしてしまうとか。
魔理沙なら家の掃除とかか?
「いや、私は片づけをしようと思ったことなんてないぜ」
いつもより声のトーンが低いような気がする魔理沙を目の端に捕らえ、僕は着地点に降り立つ。
だから、八卦炉は一つでいいんだよ。その一刹那に有らん限りの一念を込めるんだ。
そうしないとこれからも最初の一撃はあたらないままだ。
「……」
最初に茶を飲んでいた時より、きゅっと結ばれた唇で、彼女は僕の耳あたりを見ている。
何か言いたい事が有り気な表情である。
さて、あと一息か。
それにね、魔理沙。君の使っている八卦炉、その材料はヒヒイロカネだ。
入手が本当に難しい。それに色々としなければいけない施しも――なんだ?
いつの間にか目の前の少女が、先ほどの活力を取り戻していた。
木の家屋が、きいきいと音をたてる。
嫌な予感がしてきた。
「なあ香霖?」
なんだ。その人の家に連れてきた猫のような声音は。
「前にさ、私の家にある蒐集品を、香霖がもってったことあるだろ?」
そんなこともあったかな。
「でだなぁ、その中にぼろっちい剣があったこと覚えてるか」
……どうだったかな。最近物忘れが激しくてね。
魔理沙は目をそらす僕を下からつつくように見上げ、柔らかそうな頬をくいっと上げた。
それは、勝者の貫禄に違いなかった。
「ふふん、こないだ匿名未希望の誰かさんから聞いたんだよ。その剣はヒヒイロカネ――
●
白と黒の魔法使いは飛び跳ねるように帰っていった。
まんまと話をつけさせられてしまったのだ。
あの約束する時の、花が咲いたような顔を思い出すとため息がでる。
まさか、隠し事がこんなところで仇になるとは。
いや、因果は繋がっているということかな。
愚痴を考えてもしかたがない。
こころなしか気温が下がった屋根の下で考える。
さあ、どこから造っていこうか……。
残ったお茶を、もちろん、自分用にくんでいた茶だ。
僕は冷めたそれを飲みながら、新しい八卦炉の構想を、ゆっくりと練り始めた――。
本気で1ミリも関係なくて逆に面白かったですが。
……それとも何か隠れた意味があったんでしょうか。
いやきっと俺みたいな愚民には到底理解不能な伏線だったんだ!!
そうか、なるほど、さすがですね。いや皮肉じゃないですよwww
でも、冗談抜きに最初の部分がわけわからんwww
それに、「つまり」の使い方が間違ってる気がするんですよね。
ちょっとその辺いかがかなと。でもなんか雰囲気が好くて面白かったです。