今日は、あまりにも暇だったので、文は香霖堂へ遊びに来たらしい。
「こんにちはー、取材で来ました。少し見学させてください」
彼女に気づくと、霖之助はカウンターからひょいっと顔を出す。
「やあ、ゆっくりしていってくれ」
彼はテーブルの上で何やら四角い物体を弄っているようだった。
「霖之助さん、早速ですが、それはなんですか?」
文は彼のテーブルの上のものに興味を持ったようだった。
「ああ、これはね。ルービックキューブというものらしい」
「へぇ……なんだかカラフルですね。で、どうやって使うんですか?」
彼女はメモを取り出し霖之助の言葉を待つ。
「それがわからないんだ……どうやら暇をつぶすためのものらしいんだが」
「あややや……」
彼の言葉に、文は肩透かしを食らった感じに思わずよろける。
「う~ん、とりあえずいろいろ試してみてわかったことは……」
「はいはい」
「このように、思ったより頑丈だってことなんだよ」
そう言いながら霖之助は、その物体の上に鈍器になりそうな程の分厚い本を乗っける。確かにその四角い物体はビクともしなかった。
「なるほど……案外投げつけると武器になるかもしれませんね」
「なるほど、じゃあ試してみてくれ」
「へ?」
霖之助の言葉に、思わず文は首をかしげる。
「君が僕にその物体を投げつけてくれって言ってるのさ。どれほどの威力か試してみたいんだ」
「ああ、なるほど。では早速……」
文は、その四角い物体を右手で鷲掴みすると、彼に向って思いっきりぶん投げた。すると、それは彼の下腹部に見事に命中する。霖之助はもんどりうってその場にひっくり返る。
「あややや……大丈夫ですか!?」
「う~ん……素晴らしい……威力……だ」
そこまで言うと彼は泡を吹いて力尽きてしまった。
「寝てしまったようですね……きっと疲れていたんですね」
仕方なく文は、店の中をうろついてみることにした。
「う~ん、見事に、わけのわからないものがいっぱいですねぇ……」
彼女は店に陳列されてる商品らしきものを見回しながら思わず呟いた。そのときだ。
「おーい、霖之助~。こっちの修理終わったぞー」
文は聞き覚えのある声に思わず反応する。
「にとり! こんなところで何やってるのよ?」
「お、文じゃん。何って商品の修理だよ。この店の品物ってみんな壊れてるから、私が修理してるのさ」
そう言うと、彼女は腕に抱えたカラフルな小袋のようなものを、どさっと床に置く。
「何ですこれは?」
「笑い袋って言うらしいよ」
そう言いながらにとりは、袋の中のスイッチを押す。すると男の笑い声らしき音が鳴り始める。
文は怪訝そうな表情で彼女にもう一度尋ねてみる。
「……何ですこれは?」
「だから、笑い袋だってば」
そう言いながらも、にとりは、笑い声を次々と鳴らし続けている。しまいには店中に得体のしれない笑い声が響きわたる程になった。
「ちょっと……これは騒々しいですね……」
文は思わず耳をふさいで呟く。にとりは平然とした様子で、それらを紙袋の中に詰め込んでいる。
「……それをどうするつもりですか?」
「ん? どうするって決まってるじゃん。皆に売るんだよ」
「売るって……この店のものじゃないんですか?」
「だって、こんな店に置いても売れるわけないでしょ。客も来ないし」
にとりは、さも当たり前のように言い放つ。
「まぁ、それはそうですけど……」
「さあ、そうと決まれば早速行くよ! 文もおいでよ! こんなところにいてもつまんないでしょ」
文はちらっと霖之助の方を見るが、彼は未だに微動だにしない様子だった。
彼女は、「よっぽど疲れていたんだろう」と思いながら、彼のもとに近づく。そして、彼の袂に落ちている例の四角い物体を手に取ると、にとりと一緒に香霖堂を後にした。
この時、既に目覚めていた霖之助は彼女たちに向って、声にならない抗議の声を上げていたが、当然聞こえるはずもなかった。
その後、香霖堂に魔理沙がやってきた。彼女は霖之助から事の顛末を聞くと、一言、こう言った。
「まったく、人んちの物を勝手に盗んでいくなんて最低だぜ!」
名称:ルービックキューブ
用途:パズル、もしくは暇つぶしの為の玩具
とか程度の事は分かるんじゃね?
だから少なくとも投げたりするものじゃない事は分かると思う。
むしろ某所でありましたが、ルービックキューブの遊び方としては力業で分解してから組み直すといった方が霖之助らしいと思う。