鈴仙×妹紅です。
「うわ…腫れてきた…」
いつもの薬売りの帰り道、空を飛ばずに歩いて帰ろうとしたのが原因だ。
前日の雨で濡れたままの苔むした岩で足を滑らせてしまった。
危険を感じた時には既に右足首が内側に曲がっていた。
骨は折れていないけど確実に捻挫している。
空を飛んで帰ろうと思い浮いた瞬間、宙ぶらりんになった右足が揺れ激痛が走る。
「どうしよう…ゆっくり歩いて帰るしか…無いよね」
今日は里で薬が良く売れた。
その事は嬉しいけど、今私に必要な湿布や包帯まで全て売れてしまった。
永遠亭に着くまで足を引きずって帰るしかない。
「あんた、永遠亭の兎でしょ」
ゆっくり岩から立ち上がり移動を始めると背後から女の人の声がした。
この声は知ってる。
姫様を狙って襲撃を掛けてくる危険な人間の声だ。
再び岩に座り込んで右手を構える。
「近寄らないで下さい!」
「どうしたのよ。怪我してるの?」
威嚇したのに平然と近づいてくる。
私が捻挫しているからどうとでもなると思っているのか。
「それ以上近づいたら撃ちますよ!」
「別に良いよ。死なないし」
怪我をしている時に敵から見付かる。
こんな状況にあっさり陥る自分自身と、馴れ馴れしく近づいてくるこの女が頭に来る。
そのまま至近距離でマインドエクスプロージョンを放つ。
赤い光が爆発し収束する。
頭を吹き飛ばされた女はすぐにリザレクションして元の位置まで歩いて来た。
「本当に撃つかね、普通」
「もう一度撃ちますよ!」
「分からない子だね。別に危害を加えるつもりなんて無いよ。いいから足見せて」
どうやら本当に私に何かするつもりは無いようだ。
頭を吹き飛ばされたばかりなのに、特に殺気や怒りの波長は感じられない。
でも姫様と頻繁に殺し合いをしている人間だ。
油断できない。
「妙な事したら撃ちます」
「撃つの好きなの?あー、捻挫か。少し待ってて」
女が服からお札を剥がす。
お札を足首に貼り、何か唱え始めると痛みが引いてきた。
「嘘…」
「動かないで。治ってる訳じゃないから。一時的に痛覚麻痺させてるだけで腫れはそのままだよ」
ほれ、と言いながら女が背中を見せる。
「何の真似ですか?」
「腫れ引いて無いんだから歩いたり飛んだりするのは良くないよ。私が永遠亭までおんぶするから」
「はい?」
「良いから言う事聞きなさい」
そのまま強引に背中を押し付けられ両足を持たれる。
「わわっ」
「ほら、両腕は私の首に回す。でないと後ろに頭ぶつけるよ」
なんだか凄く恥ずかしい格好だ。
この年でおんぶされるなんて。
そのまましばらく無言でおんぶされる状況が続く。
恥ずかしさが少し薄れてきたところで、ふと当たり前のことが気になった。
「妹紅…さん」
「んー?」
「あ、あのなんで助けてくれるんですか…? だって私は姫様の…」
当然の疑問だ。
私は姫様のペットだ。
憎い敵の関係者なのに何で私に親切にしてくれるんだろう。
私を助けて何か得があるんだろうか?
むしろ私に危害を加えた方が良い筈だ。
「あんたが誰かなんて関係ないよ。竹林で困ってる奴がいたら放っとけなくてね」
「…」
そういえばこの人は最近、里の病人を永遠亭まで運び始めていた。
里の守護者の慧音さんから何か言われて嫌々やってるんだろうと思っていたけど、実際は全然違ってたのかな。
「寒くないかい?」
炎を操る術の応用だろうか。
私の前にある背中の部分が少し暖かくなる。
この人、私が思ってたのと全然違う人みたいだ。
凄く、温かい。
温かいから体を寄せて密着させる。
「優しいんですね、妹紅さん…」
妹紅さんが黙り込む。
でも耳まで真っ赤になってるのが後ろからでも分かる。
ついさっきまで私はこの人を敵だと思っていたのが嘘のようだ。
よく考えてみれば全然きちんと話した事も無かった。
「さっきはごめんなさい…」
「別に良いよ。それよりもうすぐ永遠亭だよ」
見覚えのあるいつもの風景だ。
私の帰りが遅いのを心配したのか師匠が外で待っている。
まずい。
勘違いした師匠が妹紅さんを攻撃する可能性がある。
「師匠ー!違うんです!妹紅さんは私を助けてくれたんです!」
師匠は気にする事無く近づいて妹紅さんの背中から私を受け取る。
「わざわざありがとう。ごめんなさいね、うちの子が迷惑かけて」
あれ?
姫様が虫に刺されただけで竹林を枯らそうとした師匠が妹紅さんに敵意を持っていない。
3人とも私が想像している関係と全然違うんだろうか?
でも姫様と妹紅さんがしょっちゅう殺し合ってるのは事実だし。
私を渡した妹紅さんがそのまま帰ろうと来た道を戻り始めた。
「あ、あのっ!ありがとうございました、妹紅さん。今度、ぜひお礼に参りますっ!」
「いいよ、お礼なんて。足、お大事にね」
妹紅さんが手を振りながら去って行く。
そのまま後ろ姿が見えなくなるまで見送る。
「ウドンゲ。捻挫診るわね」
そのまま師匠から診療室へ運ばれ治療を受ける。
玉兎の私なら明日には完治するそうだ。
明後日は妹紅さんの家へお礼に行こう。
妹紅さんの家は夕方にお見舞いに来た姫様が教えてくれた。
姫様も私が妹紅さんの家に行くと知っても反対しなかった。
少なくとも私に何かするつもりは無いと信じているようだ。
殺し合ってる人間を何で信用しているんだろう?
理由を姫様や師匠から聞く事は出来なかった。
ごく最近まで妹紅さんの話は聞かなかったし、私が聞いてもはぐらかされるだけだった。
今日も怪我を理由に早く寝かされる。
仕方ない。
明後日のお礼の事を今は考えよう。
「ここが妹紅さんの家…だよね」
里のすぐ近くに住んでいると思ってたけど、かなり離れた場所だ。
姫様から頂いた地図によるとこの家で間違いないはずなんだけど。
だけど古い家だなぁ。
手入れはされてるから廃墟には見えないのが救いかな。
「あれ、この間の。もう足は良いの?」
妹紅さんの声だ!
妹紅さんが玄関から出てくる。
「妹紅さん!お礼に参りました!」
「わざわざ来てくれたの?まぁ立ち話はなんだし入りなよ」
「はい!」
家の中に入る。
きちんと片付けられて綺麗な家…ではなく全然家具とかが無い。
「ごめんね、汚い所で」
「は、はい」
妹紅さんは囲炉裏の側に座っている。
道具らしい道具は灰も無い囲炉裏にぶら下がっている鉄瓶だけだ。
座布団も無い。
「座ったら?今お湯沸かすから」
妹紅さんが囲炉裏に手を突っ込んで炎を出す。
お湯?
妹紅さんってお茶も飲まないんだろうか。
湯飲みや急須も無いようだ。
座りながら辺りを見回す。
台所を見てみると釜戸には蜘蛛の巣が張っていた。
本当に何も無い。
鍋や保存用の壷、調味料も料理道具も見当たらない。
ここも囲炉裏と鉄瓶以外何も無い。
…他には欠けた茶碗が妹紅さんの側にあるだけだ。
「あんたの事なんて呼ぼうか?」
「え?」
「輝夜みたいにイナバ?永琳みたいにウドンゲ?」
「鈴仙、鈴仙でお願いします」
「鈴仙ね。分かった」
お湯が沸くまでの間、しばらく話す。
鈴仙以外の私の名前は、色々と姫様と師匠の二人から聞いて知ったらしい。
二人ともよく私の名を話題に出すとの事だ。
でも殺し合っているはずの姫様とも話すんだろうか?
「よし沸いた」
話している間にお湯が沸いたようだ。
妹紅さんが欠けた茶碗にお湯を注ぎ、それを私に手渡す。
「あ、ありがとうございます」
一口飲んでから用件を思い出す。
「あの、お礼にもち米ついたんです。お餅だと少し寂しいんでお萩にしました」
重箱を開いて妹紅さんに見せる。
「へぇ、鈴仙が作ったのか。美味しそうだね。食べて良い?」
普通に食べてるところを見るとご飯を食べない生活って訳でも無さそうだ。
慧音さんの所でご飯を毎日食べてる、とかだろうか。
「妹紅さん、ご飯とかどうしてるんですか?」
「ご飯?」
背筋を伸ばして上品に少しづつお萩を食べている最中だ。
何か姫様の食べ方に似ている気がする。
こうやって改めて見ると立ち振る舞いが一つ一つ滑らかで優雅な印象を受ける。
この人は一体どんな境遇の人なんだろう。
「適当だよ。その辺の蛇捕まえたり、鳥捕まえたり」
「料理とかは…」
「必要無いから特にやってないね」
「まさか生で…」
「焼いてるよ?」
手に持ったお萩を食べ終わった妹紅さんが炎を出す。
「…駄目です」
「え?」
「駄目ですよ!そんな食生活!」
「だって私、蓬莱人だから死なないし」
妹紅さんて、もしかして全然生活力無いんだろうか。
「そういう問題じゃありません!てゐがいつも言ってます!人も妖怪も沢山体動かして、お腹いっぱいご飯食べて、たっぷり眠るのが幸せなんだって!」
「腹八分じゃないんだ」
「妹紅さん!」
「は、はい」
「私、明日からご飯作りに来ます」
「何で!?」
「今のままじゃ健康に悪いからです」
「だから蓬莱人…」
「蓬莱人でも怪我はするし風邪も引きます。風邪とか辛いですよね?」
「そりゃまぁ」
「だったら私が作りに来ます!」
日頃からきちんとした食事を取らないと病気になりやすい。
てゐも凄く食事に気を使っている。
彼女は健康に気を使って長生きした結果妖怪化したので、今でも健康に対してはうるさい。
うん。
何か強引に押し切る感じになったけど、気付いてみれば妹紅さんに会う口実が出来た。
結果よければ全て良し。
次の日、師匠から許可を得て食材を貰った。
師匠の研究の手伝いが終わった後、妹紅さんの家に向かう。
昨日の内に台所を使えるように掃除はしておいた。
永遠亭で料理の下ごしらえも終わったし、何とかなるだろう。
鍋や包丁は永遠亭で使わなくなった古い物を持って行く。
「妹紅さーん」
家に着いて呼びかけても返事が無い。
来る時間は伝えておいたけど早すぎたかな。
「鈴仙、もう来たんだ。早いね」
「あ、妹紅さん…」
妹紅さんを見て思わず悲鳴が上がる。
全身ズタズタに切り裂かれていて血塗れだ。
手を挨拶代わりに挙げてるけど指が何本か無い。
「何があったんですか!?早く永遠亭で治療を!いや、まず止血を!」
「大丈夫だよ。輝夜と殺しあうのはいつもの事だし」
妹紅さんはそのまま家の近くにある小さい物置へ向かう。
そして酒瓶を指がある方の手で持って出てきた。
「何するつもりなんですか」
「消毒」
一言で答えるとそのまま酒瓶を頭の上から被る。
「妹紅さん!」
痛みで妹紅さんが悶絶している。
当たり前だ。
そんな無茶苦茶な消毒したら痛みで気絶しかねない。
妹紅さんが苦しんでいる姿を見たら頭の中がグチャグチャになってきた。
こんな姿見たくない。
「妹紅さん!妹紅さん!」
荷物を置いて慌てて駆け寄る。
私が側に着いた時には痛みは収まったらしい。
不思議そうに私の顔を眺めている。
「何でそんなに慌ててるの?輝夜も似たような事やってるんじゃないの?」
「姫様はそんな事しませんよ!」
「じゃあ、どうしてる?」
姫様が戻って来るときはいつも服だけが血塗れの状態だ。
リザレクションしているのだろう、体そのものは無傷の場合しか見た事がない。
その事を妹紅さんに伝える。
「そうか…もしかしたらそうじゃないかと思ってたけど」
呟いた後、今度は自分の頭を吹き飛ばした。
さっきから滅茶苦茶だ。
妹紅さんは何がやりたいんだろう。
リザレクションの光と共に無傷の妹紅さんが現れる。
「やっぱりそうだったんだ…」
少し気落ちしているように見える。
「妹紅さん!説明してください!さっきから訳分かりません!」
「うん、体綺麗にした後話すよ」
そのまま外の五右衛門風呂へ妹紅さんが向かう。
流石に見るわけにはいかないので、家の中に入らせてもらう。
さっきの妹紅さんの奇行はなんだったんだろう。
怪我を放っておいたり、わざわざ痛い方法で消毒したり。
「お待たせ」
妹紅さんが現れる。
血や酒の匂いも泥汚れも綺麗になっている。
「やっぱり輝夜は私と違ってたのか…」
「あの、それって姫様が殺し合っているはずの妹紅さんを信用しているのと関係がありますか?」
頷きながら妹紅さんが話し出す。
「鈴仙も気付いていると思うけど、私と輝夜はもう憎しみ合ってない。
かなり前からね」
それは最近妹紅さんと話すようになって私が気付いた事だ。
元々姫様の方は火の粉を振り払う感じであまりやる気が無かった。
それに妹紅さんと私の事を話すくらいに会話もしている。
そして妹紅さんもあまり姫様を憎んでいない。
私が永遠亭の話を台所の掃除中にしても特に波長に変化が無かった。
姫様の話題でもだ。
ほんの何日か前までは妹紅さんは姫様を憎んでいるんだ、と思っていたけど事実は大分違った。
「それなら何で今でも殺し合ってるんですか?」
現に今日も殺し合ってる。
何でそんな事をやってるんだろう。
「殺し合って怪我するだろう?そして痛みを感じる時に生きてる実感が湧くんだ。痛い、私は生きてるって」
「輝夜も私と同じように生きてる実感が欲しくて、殺し合ってると思ってたんだけどな…でも鈴仙の話だと違うみたいだ。あいつさっさとリザレクションしてるんだろ?」
首を縦に振る。
少なくとも私は姫様が痛がっている姿を見たことは無い。
「つまり私は輝夜からずっと助けられてたのか…あいつ自分は痛い思いしたくないのに私に付き合ってくれてたんだ」
「妹紅さん…」
「これからどうしようか。真実知った後であいつと殺し合うのは難しいな」
「止めれば良いじゃないですか」
「ん?」
「いい機会です。もう殺し合いなんて止めましょう。私、妹紅さんが痛くて苦しんでる姿なんて見たくないです」
さっきの姿を思い出しただけで胸が締め付けられる。
生きてる実感が欲しいなら私が何とかする。
美味しいもの食べて楽しい事やればきっと生きてるって実感できるはず。
私が側に居て妹紅さんが楽しくなれば解決するはず。
自己満足かもしれないけど、それが一番良いはずだ。
「…そうだね。殺し合い以外で何か見つけた方が良さそうだ」
「それじゃあ今から料理しますね」
「あ、そうか」
「私は今日、料理する為に来たんですから」
その日から私は毎日妹紅さんの家に通った。
最初、妹紅さんは料理にお肉が少ない事を不思議がった。
野菜を食べないと疲れやすい事などてゐから習った知識を披露する機会が沢山あった。
そして料理が出来たら一緒に食事する。
永遠亭の事、自分の薬学の話や他のイナバ達の事を話す。
妹紅さんも慧音さんから聞いた里の話をする。
私にとってそれは穏やかで満ち足りた時間だった。
そしてある日転機が訪れた。
「妹紅さん、いらっしゃいますか」
里の男の人だ。
聞けば最近、獣のような妖怪が畑や家畜小屋を荒らしているらしい。
慧音さんも警備しているが皆を守るために里から遠く離れる事が出来ない。
慧音さんの勧めもあり、自由に動ける妹紅さんに妖怪の巣を見つけ退治してもらう事に決まったそうだ。
もちろん妹紅さんは二つ返事で引き受けた。
「妹紅さん。私、頑張りますね」
やっぱり良いところをみせたいし。
「ありがとう。獣に近いような妖怪の波長って辿れる?」
「強くて短い波長を拾っていけば見付かるはずです」
私たちは飛んでる事もありすぐに見つけることが出来た。
ゴツゴツした岩場の開けた場所に巣穴があるようだ。
これは人間では近づくのも難しいだろう。
殺されて日が経ってなさそうな牛の頭部が転がっている。
ここで間違いない。
二人で降り立つ。
私たちに気付いたのだろう。
出来の悪い狼に似た妖怪が2匹巣穴から飛び出してきた。
「妹紅さん。こいつらから見えないように私たちの位相をずらします」
「何もしなくて大丈夫。私の側から絶対離れないで」
しっかり目を閉じて、と声がしたと同時に炎が巻き起こる。
妖怪の悲鳴も轟音に掻き消されて殆ど聞こえない。
「鈴仙、終わったよ」
目を開けると辺りの岩場がガラス化していた。
妖怪は影も形も見えない。
完全に消滅したようだ。
やっぱりこの人は凄く強い。
「周りの熱も大分下がったし避火の術解くね」
その途端私の周りが熱くなる。
私は大丈夫だが人間なら厳しい温度だろう。
妹紅さんが巣穴に近づいていく。
「巣穴に他の奴が居ても酸欠で死んでるとは思うけど…」
言い終わるのを待たずにさっきのより一回り大きい妖怪が飛び出してきた。
全身黒焦げだが怒り狂っている。
「避けて!」
大口を開けて妖怪が噛み付いた。
妹紅さんの右腕が根元から無くなる。
「この!」
メタフィジカルマインドを連続で展開する。
次の瞬間妖怪が内部から燃え出した。
この炎は妹紅さんの火だ。
「妹紅さん!」
「腹の中で不死鳥を発生させた」
あっという間に妖怪が炭になる。
妹紅さんを見ると顔が苦痛で歪んでいる。
「妹紅さん怪我は!?」
「大丈夫だよ。でも痛いのも久しぶりだね。生きてる感じがするよ」
「え…?」
違う。
妹紅さんはそんなつもりで言ったんじゃない。
頭では分かってるのに口から飛び出したのは別の言葉だった。
「…私と一緒じゃ楽しくなかったですか」
「鈴仙…?」
「私のご飯じゃ生きてる感じしませんでしたか!?私よりこんな妖怪の方が生きてる実感が湧くんですか!?」
「違う、私は」
「…ごめんなさいっ!」
そのまま全力で飛び出す。
私は何を言ってるんだろう。
もともと自己満足って割り切ってたはずなのに。
よりによってあんな妖怪に嫉妬のような感情抱くなんて。
妹紅さんにあんな酷い言葉投げつけて。
私は最低だ。
振り返ると私を追いかけようとした妹紅さんが転ぶのが見えた。
片腕を失ったせいでバランスが取れないようだ。
そのまま永遠亭へ一直線に帰る。
自己嫌悪に陥りながら部屋に戻り鍵を閉める。
明日からどうやって妹紅さんに会えば良いんだろうか。
会わせる顔があるんだろうか。
布団に潜り込み今までの生活を自分で壊してしまった事を後悔し続ける。
「輝夜、鈴仙は戻ってない?」
「さっき戻ったわよ」
「会わせて欲しいんだけど」
「嫌よ。あの子があんな顔してたの、初めて会った時以来だわ。どっちが悪いか知らないけど、ペット泣かした人間をはい、そうですかってもう一回会わせるような主人じゃないのよ。私」
「なら推し通る」
「やってみなさいな」
布団の中に潜っていると遠くから爆発音が聞こえた。
何かが燃えて爆ぜる音もする。
「まさか妹紅さん…?」
もしかして私を追いかけて来たのだろうか。
でも、それなら一体誰と戦ってるんだろう。
廊下を走り抜ける時に誰かとすれ違ったのを思い出す。
その誰かが私の事を姫様か師匠に報告したのかもしれない。
「行かなきゃ…」
そのまま部屋を抜けて永遠亭を飛び出す。
連続して爆発音が聞こえる場所へ急ぐ。
迷いの竹林の外れで姫様と妹紅さんが戦っていた。
完全に二人とも本気だ。
弾の一撃で岩が抉れ大気を振るわせる。
しかもそれが何百発も飛び交っている。
怖い。
月から逃げた時も同じ位怖かった。
足が脳の命令を拒む。
震えて動かない。
でも。
「もう逃げたくない…!」
私がさっき逃げたから姫様と妹紅さんが戦ってる。
月から逃げて後悔してたのに、また逃げている。
妹紅さんが押され始めた。
見ると右腕が無いままだ。
上手く捌ききれずどんどん押されている。
嫌だ。
妹紅さんが痛がる姿なんて絶対見たくない。
私は。
「妹紅さん避けて!」
気付いたら走って妹紅さんを突き飛ばしていた。
姫様の放った弾幕が体を貫く。
不思議と痛みや熱さは無かった。
ただ凄く寒い。
妹紅さんは暖めてくれるかな。
そこまでが私の覚えている記憶。
「な、何やってるのあんた!あんたは不死じゃないのよ、このバカ!ちょっと大丈夫!?」
「輝夜!永琳を!」
気がついたら永遠亭のベッドの上だった。
全身包帯で覆われている。
ノックの音がして妹紅さんが入ってきた。
「鈴仙!私が分かる?」
頷く。
心配そうな顔だ。
また私は妹紅さんにこんな顔させてる。
「ごめんなさい、妹紅さん…妹紅さんが姫様と殺し合ってるところ見たら私なんだか気が動転しちゃって…勝手に飛び出してみんなに心配かけて…妹紅さんにもすごく迷惑かけちゃって…本当にごめんなさい…」
「迷惑なんて思ってないよ。本当に心配したんだから。よかった、目が覚めてくれて…
でも実を言うと鈴仙が私をかばって飛び出してくれた事は嬉しいんだよ。私は、ほら、こんな体だし、今まで私のこと心配してくれる人なんてあんまり居なかったから…凄く嬉しかった」
妹紅さんが言葉を続ける。
「鈴仙はずっと私の事心配してくれてる。食事もそうだし。
でね、鈴仙。怪我させた私が言える事じゃないけど、怪我が治ったらまた料理作ってくれる?
ううん。これからもずっと私を支えて欲しいんだけど」
「弱い私でも良いんですか…?」
「鈴仙は強いよ。弱いのは私。蓬莱人だからって日々の生活や里の人達から逃げてた。でも鈴仙が側に居てくれれば…」
「妹紅さん…私も妹紅さんの事…」
「鈴仙…」
妹紅さんが私の頬にそっと手を触れる。
血を失って少し体が冷えてるのだろうか。
妹紅さんの暖かい手がとても気持ち良い。
今回の件で実感した。
私は蓬莱人の妹紅さんより早く死ぬ。
でもそんな事どうだって良い。
ただ私は最期まで妹紅さんの側に居たい。
それで十分だ。
句点ごとに改行するのは、いささかよろしくない。
ただ、話は本気で面白かったです。次回に期待です。
でも内容的にはいいとおもいます。次に期待です
次回に期待です。
>>4様
今まで気付きませんでした。あまり良くない事なのですね。以後の作品では気をつけます。
>>6様
ありがとうございます。なるべく期待を裏切らないように頑張ります。
>>11様
今回の作品は突貫で書いたので特に粗が目立ってるようです。私の脳みその中でのみ場面を変えてました。
今後はしばらく寝かせて冷静になった状況で推敲します。
>>13様
話の入りですね。もう少し工夫をします。今まで「会話」→「地の文」のパターン化してましたので。
皆様具体的なご指摘ありがとうございます。今回の作品は突貫で書いた状況含め、とても愛着のある作品ですのでコメントを頂けた事が非常にありがたいです。ご指摘は次回作(マリアリ)に活かしたいと思いますのでその時はよろしくお願いいたします。
場面転換が唐突なのは、起から承、承から転といった、そこに
つながる理由付け等の描写が少し薄いからですね。
そこをしっかり描写して、書き終えた後などに落ち着いて推敲し、冗長に
なりそうな部分を消していけば、かなり良い作品ができそうです。
話自体は非常に良い物でしたので次回作に期待します。
自分の思い付きをこんなに素晴らしいssにしてくださってありがとうございます。
キャラクターの人物像やセリフも、自分が想像していたものとぴったりで驚きです
妹紅と輝夜の掛け合いに至るまでの話の持っていき方がすごく上手くてよかったです。
私の拙い妄想をここまで素晴らしく料理してくださって、本当に感謝の極みです。ありがとうございました。
>>21様
理由付けの描写ですね。場面展開に説得力が付くように試行錯誤してみます。
>>名無し様
貴方のおかげでこの作品は生まれました。突貫で書いた事もあり粗が目立ちますが、今回の件はとても良い経験になりました。
次回作では今回の反省を踏まえますので、よろしければお読み下さい。
本当にありがとうございます。
けど少し妹紅に惚れる過程が唐突に感じました。
今度はもう少し描写を濃くします。
今後も百合っぽい作品を書きたいのでよろしくお願いします。