人が自由に空を飛ぶ、それは遠い昔から人々が夢見てきたものだった。
〝幻想郷〟
そこでは巫女や魔女や妖怪たちが自由に空を飛ぶ。
そんな空を行くものたちをじっと羨望のまなざしで見つめ続ける少女が一人、彼女もまた、空に憧れ、空を自由に飛びたいと願うものの一人だった。
◇
私は小さなころからずっと空を見上げ続けていたらしい、そして私は、いつの頃からか空を飛びたいと言って親や周りの大人を良く困らせ、あまりにも度が過ぎたのか、親にこっぴどく怒られて以来、私は人前で空を飛びたいなどと言うことはしなくなった。しかし、空を飛びたいという想いは今も変わらず。私は暇さえあれば遥か遠くにある空を見上げ続けていた。
やがて私は憧れ続けるだけの日々に嫌気が差し、ある良く晴れた秋の日にある決意をする。
(空を飛べる誰かに空の飛び方を教えてもらおう)
そう決めた私は里を抜け出し、その途中で出会った誰かに聞こうと当ても無く歩き出す。
やがて気がつくといつも霧が立ち込めている湖の傍に来ていた。
(そういえば、この辺には氷の妖精がよくいるって聞いてたような)
そう思って歩を進めると、なんだか妙に肌寒く感じ出す。
(秋だから……にしてはやけに冷え込むわね)
そんなことを思いながら歩いていると、なにやら一人遊びをしている氷の羽を持った青い服を着た妖精を見つけた。
(ああ、いたいた。早速聞いてみよう)
近づいてくる私に気付いたのか妖精はくるりと私のほうを向く、何かを手に持っていると思ったら、氷付けにされたカエル……。
それに少しだけ怯みつつも、私は妖精に「こんにちは」と挨拶する。
「こんにちは、あたいに何か用かしら?」
「ええ、ちょっと空の飛び方を教えて欲しいのだけど」
「空の飛び方を教えて欲しい? ふむ、最強無敵天才のあたいに聞きに来るなんて、あんたは妖精を見る目があるね。良いよ、教えてあげる!」
頼られたことが嬉しかったのかあまりにも上機嫌な妖精に、実は偶然なんですとはとても言えなかったが、それでも教えてもらえるなら何でもいいと思い、期待に胸を膨らませながら妖精の次の言葉を待つ、そして、その口から飛び出した言葉は――。
「ずばり空を飛ぶ方法とは、ふわーっとなって、ばーんと力込めて、びゅーんだよ、分かった?」
「……それは説明じゃない!」そう突っ込みたかったものの、真剣な眼差しで次々にわけが分からないことを……いや、空の飛び方を教えてくれる妖精に「まったく持って何を言っているのか分かりません!」などと言えるはずも無く……。
「分からないみたいだから、もっと分かりやすく説明してあげる、まずぶわーってなるの、で飛びたいほうにびゅーんって――」
結局私は妖精が飽きる。もとい、諦めるまで妖精のわけの分からない説明を聞き続けることしか出来なかった。
結局昨日は妖精の話を聞くだけで終わってしまい、何の進展も無かった私は、今日こそはと気を取り直して再び里を抜け出そうとしたそのとき、不意に自分の上を大きな影が通り過ぎて行った。何事かと見上げると、そこには大きな花の形をした影が浮かんでいた。けどそれは見間違いで、よく見てみると、それは日傘をさした女の子がふわりふわりと空を飛んでいた。
(あれは確か……太陽の畑にいる妖怪)
秋となってしまった今では地味な草むらと化しているが、夏には向日葵が咲き乱れ、ちょっとした名所として有名な場所に住む妖怪で、里のほうにもちょくちょく顔を出すので私でも覚えていた。
(彼女に聞いてみよう)
そう決めた私は、彼女のあとを追う、ふわりふわりとそらを飛ぶ彼女はまるで風に流される花びらのようで、だけど何故か花びらのような儚さなどは感じなかった。
しばらく追っているとさっきから妙に甘くていい香りがすることに気付いた。
(花の香り? どこからだろう?)
どこからか漂ってくる花の香りに、そんなことを思いながら追い続けると、やがて女の子は人の少ない場所でゆっくりと地面に降り立ち、くるりと私のほうを向いた。
「私に何か御用かしら、お嬢さん」
ずっと追いかけられていたことに気付いていたのだろう、にこにこ太陽のように明るい笑みを浮かべながら何用かと尋ねてくる彼女、そんななんて事の無い仕草に何故か私は気圧された。
そして、どっと噴出す嫌な汗と早鐘のように打ち鳴らされる心臓、
(な、何!?)
理由も良く分からないけれど、本能が今すぐここから逃げるべきだと告げていた。
だけど私は、私の心は逃げることを良しとはしなかった。
「あの…追いかけたことが失礼だったのなら謝ります。ですが、少しだけ話を聞いて欲しいのです」
「……その意気は良いけれど、危険に自ら近寄っていきそうなのが問題なのよ、まあ、次からはもっと気をつけなさい、でないとそう遠くない未来に死ぬことになるわよ」
少しの間の後、彼女は少しあきれたと言った顔でそう言った。彼女はどうも怒っていたというよりは、私をたしなめるために威圧か何かしたのだろう、現に、さっきまでの妙な重圧はなく、私は普通に彼女の前に立つことが出来ていた。
とはいえ、彼女の言うように少しだけ無謀すぎたかもしれないと反省する。
「それで、用件は何かしら?」
「あ、はい、あの、空の飛び方を教えて欲しいのです」
「空の飛び方ね……。もう少し詳しく話してもらえるかしら?」
そう言われたので、私は空を飛びたいと思い続けたこと、そして昨日妖精に聞きに言ったことなどを話した。
それを聞いた彼女は、すぐにこう切り出してきた。
「貴方は自分がどうやって歩いているのか説明できるかしら?」
唐突な問い、しかし、その問いは単純なようで、どうしようもなく難しい問いだった。いわれてみれば自分がどうやって歩いているのかを他人に説明するとなると、うまく言葉に出来ない、そうやって悩んでいる私に彼女は言葉を続ける。
「妖怪や妖精にとって空を飛ぶということは、貴方たち人間にとって歩くことが当たり前なのと同じことなの、だから私は、貴方たち人間が空を飛ぶ方法なんて知らない」
彼女の言葉に私は、納得させられつつも落胆していた。しかあし彼女は、そんな私に微笑を向けながら言葉を続ける。
「だけど人でありながら飛ぶ連中も居るわ、そう、巫女や魔法使いよ、巫女は生まれたときから巫女だろうから、私たちと同じように空を飛ぶのが当たり前かもしれない、だけど魔法を覚えることで人から魔法使いとなる連中はそうでもないでしょうから、、魔法使いたちにでも聞いてみると良いわ」
それだけいうと彼女はくるりと向きを変えて、里の店などが並ぶ方へと立ち去っていく、その背中に私は精一杯「ありがとうございました!」とお礼を返した。
彼女は私の声に、少しだけ歩みを止めると、「どういたしまして」といって、去っていった。
(魔法使い……というと、魔法の森に結構住んでるはず)
そう考えたとき、里のほうにもよく顔を出す二人の魔法使いのことを思い出した私は、早速魔法の森へと向かった。
森の入り口にある奇妙な物に埋もれつつある建物を横目に森の奥へと進んで行く、しかし私は滅多に行かない場所だったから知らなかったのだ。魔法の森に入るにはある程度の下準備が無ければ、思っている以上に危険な場所だということを、結果として私は森の中を歩いているうちに気分が悪くなり始める。
疲れたのかとも思い、適当な木の下で休んでいても、気分はどんどん悪くなるばかり、気がついたときには動くことすらままならないくらいになってしまっていた。
このままでは危険だ。そう思っているところに、二人の女の子が近づいてくるのが見えた。
(人喰いの何かとかだったらどうしよう……)
そんな恐怖心に駆られながらやってくる二人を見続けると、私はその二人に見覚えが合った。そう、私が探していた魔法使いの二人だった。
一人は白黒の服に、広いつばの黒いとんがり帽子をかぶり、手には箒とまさに魔法使いのそれといった格好、もう一人は、特に特長がある格好をしているわけではなかったが、その腕に抱いている人形がやけに目を引いた。
二人とも金髪だから何も知らなければ姉妹か何かと思ったかもしれない、そんな二人は、私に気付いたのか何事かと駆け寄ってくる。
「おい、大丈夫か?」
正直なところ答える気力もほとんど残っていなかった。
「だいぶ茸の瘴気にやられてるわね」
「結構まずそうだな。急いで私の家に運ぶぜ!」
そういって白黒の子は手に持っていた箒を人形を抱いている子に渡すと、私をひょいっとおんぶすると早足で駆け出す。
「はぁ……本当に魔理沙と居ると、何かに巻き込まれるわね」
人形を抱いた子はそんなことを呟きながら、先を行く少女の後を追った。
白黒の少女は家のドアを勢いよく開けて家に入ると閉めもしないまま、私をベッドのところへと運び寝かせると、「ちょっと待ってな」といってどこかへ行ってしまう、
少し遅れてドアの閉まる音が聞こえ、ゆっくりとこちらへと近づいてくる足音、足音のする方を見ようとしてふと視線を動かしたとき、司会に飛び込んできた光景に、一瞬ぎょっとなる。ベッドと、その他のごく一部の場所を除いてありとあらゆる場所に物があふれていて、正直なところ「汚い」の一言に尽きた。
「酷いものでしょ、いくら片付けろって言っても聞かないのよ」
部屋の光景に驚いている私に人形を抱いた子はそういって苦笑する。しかし、その子のその笑いはどこか出来の悪い妹か何かを、それでも可愛いという姉か何かのような優しさを宿していた。
「うるさいな、これでも少しは整理したんだぜ?」
「みたいね」
そんなやり取りをしながら部屋に戻ってきた白黒の子は手に湯気の立つコップを持っていて、それを私に差し出し飲むようにいった。
「それ飲んでしばらくすれば体調も良くなるはずだぜ」
コップの中身は奇妙な濁った緑色で正直なところ飲みたくないと思うような色だったが、香りは香草の少し刺激的な香りが爽やかな気さえする。そのアンバランスさが私を悩ませる。
しかし、せっかくの好意を無下にするくらいならと、私は覚悟を決めて息で適温に覚ますと一気に飲み干しお礼を言う、
「薬、ありがとうございます」
「良いってことよ、ところであんた、こんなのところに無防備にやって来て何の用だい?」
白黒のこの問いかけに私はすぐに答える。
「あの、空の飛び方を教えて欲しいんです」
「空の飛び方?」
「はい、私は空を自由に飛べるようになりたいんです。それで魔法使いの人なら空を飛ぶ方法を教えてもらえるんじゃないかと教えてもらいまして――」
そこで、私はここに来るまでのことを二人に話した。
話を聞き終えた二人は、互いに困ったような顔で見合わせていた。
「参ったな、せっかく来てくれたのに悪いが、私は確かに人間の魔法使いで空も飛べるが、空の飛び方を教えるとなると無理だ。何でかって言うとだな。魔法ってのは簡単に教えれるものでもないんだよ、もしも簡単に教えて覚えれるものなら、里の人間みんな空を飛んでると思わないか?」
言われて見ればそうだと思った。しかし、それならいっそのこと魔法使いに弟子入りしてでも、そう考えたところに人形を抱いた子が口を開いた。
「魔法使いに弟子入りしてとか思ってるんでしょうけど、多分無理よ、私たちは、まだまだやるべきことがあるし、他の魔法使いだってそうだと思う、基本的に弟子を持つ魔法使いなんてのが珍しいのよね」
「かもな、まあ、私の師匠はもとから変わり者だったからな」
「ここでも駄目だった……」
魔法使いならと空を飛ぶ方法を教えてくれるだろうと、私は予想以上に期待していたらしく思っていた以上に駄目だったということにダメージを受けていた。
そんな私を見かねたのか、はたまた本気で今思い出したのか、白黒の子が「そういえば」と話を切り出してきた。
「そういえば、人が空を飛ぶ為の道具とかが、あそこならあるかも知れない、駄目もとで行ってみないか?」
私はその案に乗ることにし、飲み物が効いたのか気分が良くなった私は案内されるがままに歩き、たどり着いたのは森に入る前に見た奇妙な物に埋もれつつあった建物、最初は森に住む魔法使いに会いに行くことに意識が向いていたので、大きく「香霖堂」と書かれた看板すら見落としていたようだった。
「ああ、ここって確か、色々な道具を置いてるお店でしたっけ」
「ああ、ここの店主は私の知り合いでな、おーい香霖居るか?」
「居るよ、今日は何用だい?」
呼ばれて出てきたのは眼鏡をかけた白髪の男の人、青年といって言い外見にもかかわらず、なんだか妙に落ち着いている雰囲気で見た目以上の歳なのかもしれない、
「空を飛ぶ道具とか置いてないか?」
「うん、空を飛ぶ道具? 魔理沙、君は空を飛べるはずだけど……ああ、箒を壊したのかな、それなら僕が修理してもいいけど」
「いやいやいや、空を飛ぶ道具が欲しいのは、私じゃなくてこいつだ」
そういって私を指差す白黒の子、そういえば魔理沙と呼ばれていたのを思い出し、頭の中で訂正する。
(……魔理沙さん、一応覚えた)
「ふむ? 見たところ普通の人間みたいだね。残念だけど普通の人間が空を飛べるようになる道具は置いてない」
「む、そうなのか……すまない、無駄足になっちまったみたいだ」
目的のものが無かったらしく、即帰ろうとする魔理沙さん、それをちょっと待ちなさいといった手の仕草で引き止める店主、
「一を聞いただけで、すぐに結論を出すのは良くないな、空を飛ぶための道具は無いけれど、外の世界で空を飛ぼうとした人間たちのことを纏めた本なら最近入荷したばかりだ」
「うん? そんな本が何の役に立つんだ?」
「こう言っては難だけど、諦めさせるのに役に立つ、かな」
そういいながら店主は私に本を渡し、読むように言う、私は「諦めさせる」という言葉に嫌な予感がしつつも、しぶしぶ本を開き読む、そこにはさまざまな方法で空を飛ぼうとした者たちのことが書かれていた。
その為に死んでいった者たちも沢山居た、そして永い研究の果てに、彼らは空を飛ぶ力を手に入れる。
しかし、それは、私の望む飛ぶ力ではなかった。
「鉄の塊が空を飛べるようになってるってのはすごいな」
外の世界の人間たちは最終的に飛行機と呼ばれる機械を作り出し、それに乗ることで空を飛んでいた。けれどそれは私の飛びたいと思った飛び方とはまったく違うものだった。
「これは……」
「君が望む飛び方とはまったく違ったって所かな」
店主の言葉に私は頷く、
「と、話を本格的に始める前に、君たちの状況を確認していいかな、君は魔理沙のところに空の飛び方か何かを聞きに行った。けれど魔理沙はその願いをかなえるすべを知らなかった。だから僕のところにある道具を当てにしてここに来た。正解かな?」
「大正解だぜ、何でそこまで分かったんだ?」
魔理沙さんの言葉に店主は、「簡単なことだよ」と言って話を始める。
「空に憧れる人間なんてのはそれほど珍しいものじゃないからね。けどそれも、外では減りつつあるようだけど」
視線を私の持つ本に向けながら、どこか寂しげな顔をする店主、
「ともあれ、幻想郷では、そうでもない、というより、日常的に人が空を飛んでる光景が見れるのだから、ああいう風に飛びたいと思うのは当たり前といえば当たり前なのかもしれない、でだ、それが難しいのだということも君は魔理沙辺りから聞いただろう?」
「ええ、そんな簡単に空を飛べるなら里の人間みんな飛んでるだろうと、言われました」
私の言葉に店主は納得するように頷きながら、
「うん、その通りだ。正直なところ人が空を飛ぶ方法なんてのは魔法くらいしかない、けど、それはごく一部の人間しか使えないし、それを使えるようになるまでにそれ相応の代償を払わなければならない」
「代償?」
「まあ、この場合は魔法を勉強する努力とか時間とかかな、それに……君は鳥が何故空を飛べると思う?」
「え?」
突然の質問に私は少し戸惑いつつも考え「羽があるから?」と答えたが、店主は、それは間違いだよと言って首を横に振る。
「それなら君の手に鳥のような羽があったとして飛べると思うかい?」
無理なのは知っていた、それに似たことは一度すでに試したことがあった。
「いいえ無理です」
「うん、その理由は分かるかな?」
理由、人と鳥の決定的な違い、それが何か分からずに、私は考え込む、そんな私を見ながら、店主は私の答えを待たずに話を続ける。
「それは重さなんだよ、無論、筋力の差もあるにはあるのだけど、鳥は空を飛ぶために自身の身体を限界ぎりぎりまで軽くしているんだ。だから翼を羽ばたかせるだけで空に舞い上がり、そして風に乗ることが出来る。それが彼らの空を飛ぶために払った代償ともいえる。彼らの身体はもろく、ちょっとしたことで骨が砕けることもあるそうだ」
今までずっと見てきた鳥の姿、ずっと簡単に飛んでいるのだと思ってきた、しかし、それはただ眺めているだけだで何も知ろうとせず。ただ憧れているだけだったのだと思い知ったとき、私の中で何かが動いた気がした。
「人は空を飛べない、獣のように速く走ることも出来ない、その代わりに様々な願いを叶えるための道具を作り出す力を得た。それがその本に書いてある飛行機と呼ばれるものだったりするし、他にも色々なものを作り出し続けている。ただし、それらのほとんどは彼らの人生という代償を払った上での話しだ」
そこまで話したところで一旦区切りがついたのか黙り込む店主、その沈黙は私に考える時間を与えた。
「と、話していたらだいぶ暗くなってきたようだ。もう少し話を続けたいところだけど、お嬢さんたちばかりだし、そろそろ帰ったほうがいい」
気がつけば日は沈みかけ、夕闇が迫っていた。私たちは店主に言われるままに帰る準備を始める。
「お邪魔しました」
「いやいや、気が向いたならまた来るといい」
店主に挨拶を済ませ振り返ると、魔理沙さんは人形を抱いた子に先に帰っててくれといい、人形を抱いた子は「まったく……」とぼやきながら一人、空を飛んで帰っていた。
それを見送ると魔理沙さんは私のほうを向き、
「里まで送ってやるよ、後ろに乗りな」
そういって魔理沙さんは、私を箒の後ろに乗るように促し、私もそれに従い箒に乗った。
「しっかり掴まってろよ」
ふわり、と箒が浮かび上がりゆっくりと高度を上げていく、徐々に離れていく地面、そしてずっと憧れていた空の上からの光景に私は思わず感嘆の声を漏らしていた。
そして、箒は私を乗せているからか、いつも見かけるよりも、かなりゆっくりと飛んでいた。
「どうだい、空からの景色は」
「うん、思ってたよりもずっと綺麗」
夕闇の中に沈んでいく風景、黒と朱の交じり合う世界に浮かぶ自分、空のさらに上を見上げてみたり、下を見てみたり、どこを見ても新鮮な世界に私は心奪われる。
「こんなに……こんなに綺麗な世界を見てるんですね」
「お前さんは、まだ空を飛びたいと思ってるのか?」
魔理沙さんは前を向いたまま、唐突にそんなことを聞いてきた。
「どうでしょう……今日色々と話を聞いて、私一つのことに気付いたんです」
「何だ?」
「私は、空を飛ぶものたちが羨ましかっただけで、本気で飛びたいとか思ったことが無かったんじゃないかなって」
「うん?」
「だって、もし本気で飛びたいならあの本の人たちのように、必死になって空を飛ぼうとしてたんじゃないかなって思ったんです。ほら、魔理沙さんのところでも、私は『魔法は簡単に覚えられない』って聞いただけで諦めきってたんです。本当に空を飛びたかったら、簡単じゃないってだけで諦める必要なんて無かった。むしろ喜ぶべきだったのにって気付いたら、私は今まで何をしてたんだろうって……」
「なるほどね……けどさ、お前さんは、正直無謀とも思えるようなことを平気でやってのけてたんだぜ? 妖怪やら妖精やら、私ら魔法使いのところに飛び方をたずねて回るなんて、普通の人間はしないぜ?」
「それは……」
何も考えずに突撃していただけとも言えて、私は言葉に困る。
「お前さんの行動力とかは十分なんだし、本気でやりたいことが見つかったとき、その時今日のこととか、その思いとか役に立つだろうさ」
私がやりたいこと……それが何かまだ分からないけれど、なんとなく魔理沙さんの言葉に励まされた気がした。
里に着き、私を箒から降ろすと魔理沙さんは「また何かあったら来ればいい」といって帰っていった。
一人残った私は、魔理沙さんが去っていた方を見ながら、
「やっぱり空を飛べるようになりたい……」
そう思い始めていた。
明日、もう一度魔理沙さんの家や香霖堂に行って、どうやったら魔法使いになれるかを聞こう、独学ででも、出来ることがあるならそこから始めよう、私はそう決意すると、いつものように空を眺めながら、ゆっくりと家へと帰った。
そして私は、いつか空を飛ぶものたちと並んで空を飛ぶ自分の姿を夢見ながら、私は自分に出来ることを探しながら今日という日を生きている。
空はまだまだ遠くにあるけれど、出来ることを探しながら生きていく今、前よりもずっと近くにある気がして、前とは違い、少しだけ幸せな気分になりながら、私は今日も空を見上げるのだった。
他の生物には簡単に出来る事なのに、人間には出来ない。
でも人間にはそれを叶えるだけの精神がある。
主人公のオリキャラさんを通してそんな事が伝わってきました。
ではでは。
少し気になったんだけど、魔理沙が霖之助を呼ぶときは香霖じゃなかったっけ。
間違いだったらすいません。
>>リペヤーさん
前向きな話を目標に書いたので、そう受け取ってもらえたのなら、それりにうまくいったのかな?
>>12
まず指摘ありがとうございます。
調べてみたら仰るとおり、「香霖」でしたので修正いたしました。
呼び方を思い込みで書いてしまっていたようです。
オリキャラ物は嫌いだけど楽しく読めたというのは本当に嬉しい言葉です。
基本二次創作でオリキャラを出すのは嫌われやすいというのは十分理解しているのですが、今回や前回など、書きたいことを書くためにどうしても必要な場合は出来るだけ世界に馴染むように注意して書くようにしてます。
もう少し一般人なキャラが公式に居てくれるとありがたいのですが……東方的には出てこないでしょうねぇ。(皆さん一癖あったり信念持ってたりで、こういう話を書くのに使えないのが難しいところです)
このフレーズが浮かびあがる作品でした
内容は違いますが(笑)
雰囲気、良かったです