Coolier - 新生・東方創想話

その灼熱の中庭で

2008/12/09 19:13:01
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※百合注意
















 お燐、私たち、これからもずっと親友だよ。

 ……ねぇ、お空?

 ん、なんだい?

 お空、お空にとってあたいは……







 灼熱地獄前、怨霊たちを布団代わりにしの転がる人影があった。
 いや、厳密には人ではない、火のように真っ赤な髪を三つ編みにし、切れ長だがどこか家猫を思わせる甘ったるさを含んだ瞳、ところどころ破れてしまっているが独特の模様が描かれた深緑の服を着ている。何よりもその頭に生えた猫耳に目をひきつけられる。
 地霊殿に住む火焔猫、お燐は寝転がっていた。
 無理もない。なぜならつい先ほど妙に強い人間たちに叩きのめされたばかりである。

「いや~強かったなぁあのお姉さんたち。あれなら今のお空にほんとに勝っちゃうかも」

 お燐の友人であるお空、旧地獄の釜跡を守る地獄烏である霊烏路空はいま暴走状態にあった。もともと動物妖怪は霊の類を食すことによって異形の力を得る。それは旧地獄、地霊殿に住むお燐やお空にとっても例外ではなかった。二人もまた地霊殿に迷い込んできた悪霊などを食べることによって、全うな動物妖怪として生長するはずであった。そして二人そろって程よい力を得て、主人である古明地さとりの下、変わらない日々を過ごす。そんな日々が続くと思っていたし、変わらない生活がずっと続いていく。そのはずだった。
 ある日、その平和は唐突に終わりを告げる。





 季節は冬になりいい加減雪が降ってもおかしくないほど寒い日、底冷えしきった旧地獄の釜跡では、黒い長髪に黒い翼、白いシャツを着た少女が独り身を震わせていた。
 地霊殿の主、さとりより釜跡を任されているペット、地獄鴉の霊烏路空がひたすらなにかを待つように身を縮込ませていたのである。
 お空の管理する地獄の釜跡はいわば人間たちが恐怖する地獄の中でもとりわけ深い、つまり地獄の中でも特に地獄である灼熱地獄のことであった。
 しかし、あれだけ罪人を苦しめた地獄も冥界のシステムが変わったのかかつての活気はほとんどなかった。いまも騒いでいるのは地獄全体の統括もしている宴会好きの鬼と、それに付き合って宴会に参加する地上では忌み嫌われた力を持つ妖怪たちだけである。けれども、怨霊以外に今の地獄にいるのは彼らだけなのである。
 地獄はもはや幻想と化していた。
 今の霊たちのほとんどは閻魔の裁きを経て冥界へと向かってしまう。そのためか地獄という存在にもはや意味はなかったのである。霊がこなければその地獄というシステムに意味はない。それゆえ、今も地獄にいるのは鬼と、忌み嫌われた力を持つものたちと、うらみつらみにいまだ成仏できないでいる怨霊だけなのである。こうして地獄のシステムはその活動を休止し、いわばただの記念碑として残されているに過ぎなかった。
 今、地霊殿の下にある灼熱地獄であった地獄の釜跡も同様であった。
 かつて罪人の全てを溶かすといわれた広大な炎は、地核との繋がりを切り離された結果、いまや火種を残すか否かというほどに消えてしまっていた。かろうじて残っているのは地霊殿の住人が冬に暖を取りたいがためだけであって、本来は全て消えているはずであった。便利なストーブ代わりにする以上、寒い日には多少なりとも火を強くする必要がある。その手段をお空は持ち合わせていなかった。燃料がなかったからである。

「早くお燐帰ってこないかなぁ………へくっ!」

 あまりの寒さにくしゃみをするお空。彼女は燃料を持ってくる予定の友人を待っていたのである。
 彼女の友人、火焔猫のお燐は主に死体運搬の仕事を担っていた。もともと灼熱地獄の火は罪人の死体や魂を燃やすことで成り立っていた。新鮮な魂はもちろん、いつの間にか決められていた地上との約束事によって新鮮な死体を手に入れることも容易ではなくなった。
 地獄の閉鎖に伴い、真っ先に影響を受けたのはやはり灼熱地獄だったのである。燃やすものがなければ火が消えるのは自然の摂理である。無論、私怨のみによって生じる怨霊は、時にその恨みのひどさにいつまでたっても地獄で増殖し続ける。怨霊を燃料にすれば事欠かないのだが、お空的には怨霊はあまりよろしくなかった。

「怨霊ってなんか火の着きが悪いんだよね~まるで湿った薪みたい」

 そのためお燐にはできる限り活きのいい、別の言い方をすれば乾いている感じの怨霊を探してきて欲しいと頼んだのである。
 しかし、怨霊はそもそもネガティブな思念が凝り固まってできた存在であるため、どちらかというとじめじめ湿気っていてどこか鬱陶しいのが基本である。そのためそういうじめじめしていない怨霊を探してくるというのは無茶な話であった。

「雰囲気の乾いてる怨霊って、怨霊っていうのかな?」

 そんな怨霊がいるわけもない。そのことはお燐もわかってだろうからこそ、お空は親友に頼んでいる。完全に乾いたやつではないにしても、それに順ずるような、少し位湿った程度の怨霊は見つけてくるだろう。それほどまでに彼女のことは信頼していた。お燐が帰ってくれば多少なりともこの辺をあったかくすることができるだろう。
 では、私はそのお燐が帰ってくるまで何をしているか。

「ふぁ~少し寝ようかな? 羽で体を抱けば少しはあったかいだろうし、これで風邪はひかないかな」

 そう独り言を言いながら自分の羽根を胸の前でクロスさせた。そのまま地獄の釜跡の縁部分に寝転がると、すぐにうとうとし始めてしまった。もう、今にもざっくばらんな夢の世界に入ろうかというときに、なんだか漠然と今日はいい夢見れそうだと、そんなときに。

 すぐそばに、その二人は立っていた。





 お空が今にも夢の世界に迷い込みそうというその時に、旧地獄街道を抜け、颯爽と地霊殿へと向かってくるリヤカーを押す影があった。その勢いは地霊殿のドアを目前へと迫らせ、その勢いのままドアを壊そうとしているのかと思われるほどの体当たりで開け放った。

「………ぅぅ、ふぇ!? い、い、いったいなに!?」
「…はぁ。ドアは静かに開けるようにといったはずよ?」

 先に地霊殿の中にいた胸に目の形をした飾りをつけている二人の住人は思い思いの言葉を口に出す。
 まるで夢遊病者のようにふらふらとロビーを歩いていた、帽子をかぶり、いつでもハイキングに出られそうな格好をした古明地こいしは思わず何事かと覚醒し、その姉であるぼさぼさ頭の、服装は活動的ではなくどちらかというとインドア派な古明地さとりは突然の侵入者に、まるでわかっていたかのようにぶっきらぼうに答えた。
 その二人の反応に、話を聞いていたのか全く見当違いの答えを放つ侵入者であった。

「いや~見てくださいよ、さとり様、こいし様。何でかわからないけど活きのいい怨霊見つけたんですよ! もう~あたいびっくりですよ。地上のほうでなにがあったか知らないけど怨念交じりの幽霊がこっちにだいぶ流れてきていて。冥界でなにかあったんでしょうかね?」
「そうね……ふふ、なるほど」

 侵入者のまくし立てるような早口を意に介さず、さとりは幽霊に近づくと一人で何か納得し始めた。こいしはというとおろおろとしながらも姉のほうになにか、もの欲しそうな目を向けていた。

「あ、あの、おねぇちゃん……」
「……まだ、啓く気はないのね。まあ、もう一人のほうも気になっているみたいだし、仕方ないわね…」

 古明地さとりには心を読む力がある。
 それは万物問わず、精神の奥底に作用するものだから読むことのできる対象に、一つだけ除き例外は存在しない。そのような能力を持っているためか、地底の妖怪の中でも特に畏れられる存在である。
 そしてその能力は妹であるこいしにもあるはずであった。しかし、こいしは他者から忌み嫌われるのを恐れ、その力を封印してしまった。彼女はそのため完全な無意識を操れるようになった。さとりが心を読むことのできない例外とは、皮肉にも彼女に最も近い存在だったのである。
 そんな妹を、さとりは何とかしたいと思っていた。今のこいしはまさしく路傍の小石、無意識を操ることでそこまで存在が希薄になってしまったのである。彼女が古明地一族が持つ力と向き合ってくれたならと思うのだが。それはまだ無理な話だろう、ため息をつきながらもさとりは説明を始める。

「どうやら地上のほうで大量に人が死ぬ事件が起きたみたいね。どの霊も非常に恐慌に陥っているわ。多量の瓦礫に埋もれている。ほとんど一瞬だったみたいね、少し前ですでに劣化が始まっている。とりあえずこっちに霊が流れ込んできている原因は冥府で間違いないわね。三途の河の船頭さんが仕事をサボったせいで地上のほうで霊があふれ返ってしまったみたい。その霊の仕分けにだいぶ時間がかかって、しかも量もひどかったから旧地獄のほうに送ってきたみたい。あの仕事熱心の閻魔様も少しぐらい話をつけといてくれてもよかったのに。旧地獄は決して廃棄場じゃないわよ。せっかくの活きのいい霊もおかげで使いきれずにただの怨霊と化しちゃうわ。これから冬になるからストーブの燃料にもってこいだったのに」

 なにやら不穏なことをいっているが、ここの妖怪にとって人間の魂など大して価値はない。
 妖怪は本来、人間なくして容易に存在できるわけではない。時には捕食者として、時には退治されるものとして、人間との関係を続けなければいけない。
 しかし、旧地獄は人から忌み嫌われ忘れられた存在、妖怪の中でも特に忌避される存在しかいない。そのためか、古のまだ地獄であった頃から人なしでも存続できるようになっていた。まだ地獄という特性から人に恐怖を与えるが、それゆえに退治されることはない。
 気付けば人は、地獄にとってはただの暇つぶしの道具に過ぎなくなっていたのである。

「ねぇ……死体とかはあった?」
「う~んやっぱりなかったですね~」

 こいしは侵入者に尋ねる。二人はともに、死体コレクターの趣味を持っている。地獄が機能しなくなってからは特に死体というのは珍しい。地上はほとんど火葬になってしまったため、地獄に落ちてくることがないのである。

「……あなたたちの趣味にとやかく言う気はないわ。ただ、いい加減寒くなってきたから早くそれをお空の所にもって行きなさい。久しぶりに灼熱地獄が機能しているのかと思わせるぐらいの火をつけてもいいといっておいて。……今のあなたなら、そのリヤカーなしでも大量に霊を運ぶことはできるでしょ。期待してるわよ」

 そういわれると、特に目をよくひきつける猫耳と三つ網を震わし、とびっきりの笑顔で彼女は答えた。

「あたい、火焔猫のお燐。しっかりとこの霊をお空の下に届けてきます!」

 リヤカーを握ると幾何学模様のドレスを揺らしながら、お燐は軽快に地獄の釜跡に通じる中庭へと駆け出していった。





 お空は警戒心をあらわにする。
 自分に気付かれずに背後につくなんて……。そもそも二人とも無傷なんて。
 この地獄には、地上に決して引けを取らない強力な妖怪がたくさんいる。それを無傷でかいくぐったとでも? そもそもさとり様とひと悶着なしに抜けてきたというのか? 完全な無意識になれるこいし様以外にできるものがいるなんて。そんなこと、あるはずがない……!

「あなたたちは……何?」
「ふふふ、恐がらなくてもいいわ」

 二人組の片方、背の高い、後ろに妙な大きい環を背負っている豊満な女性が近付いてきた。
 女性が近付いてくると同時にお空は警戒して距離をとる。
 その均衡がしばらく続くと思われたが、もう一人の、妙に大きい丸い球の装飾が施された帽子をかぶった幼い女性が言った言葉に、この均衡は一気に崩れ去った。

「とある理由で、このあたりで一番強い地獄鴉を探しています。その地獄鴉のもとへ案内してもらいたいのです」
「このあたりで一番強い地獄鴉? それなら私よ。能力的なものを言っているのであれば間違いないわ」

 何の躊躇もなくお空は答える。それは決して驕りでも何でもなく、灼熱地獄の管理という大役から確かに言えることであった。

「いい感じね……では…」

 背の高い女性が空中より何かを取り出す。それはガラス玉のようにも見え、しかしその中に確かに不気味な姿をした鳥の人形が収められていた。

「貴女に力を与えます。火焔地獄には究極にして人類が手に入れる事の出来る最後のエネルギーの秘密が隠されています。そして火焔の中にすむ鴉である貴女。貴女はその究極の力をその身に宿すことが出来る筈です。それにより、地底のみならず地上にも希望をもたらすでしょう」

 そういいながら女性はお空の胸に先ほどの玉を近づける。すると、玉はお空の体の中へと何の抵抗もなく侵入してきた。しかしお空は先ほどまでの警戒も、玉に対する恐怖もない。
 ただあるのは、二人の言う『力』に関する好奇心と、ただこれから大きく生活が変わるであろうという平穏が崩れることへの期待だけであった。





(なんだろう…なんだかいやな感じがする)

 お燐はリアカーを押しながら中庭を駆けていた。
 先ほどから地獄の釜跡中央付近、お空が待っているはずのあたりから不穏な空気を感じていた。不穏な空気、それはこの地獄と呼ばれていた場所に最も似つかわしくない空気、神気に違いなかった。
 しかし地上に出たことのない、神になどあったことなどないお空には以上に強い力としか感じることはできなかった。

(さっき突然現れた。でもどうやって中庭に? それにさとり様が気付いていないなんて)

 地獄、とりわけ地霊殿近辺でさとりの包囲網を逃れることなどで気はしない。心を無にしてその気配を完全に消すなどこいし以外にできるはずはない。
 そう思っていた。しかし奥から確かにその巨大な存在を感じる。

(お空の気配と合わせて四つ……って、ぅえ!? 二つになった?)

 気配が突然二つ消えた。
 わけがわからない。確かにお燐は地霊殿からまっすぐ最深部へと向かっている。その途中で誰ともすれ違ってなどいない。それなのに気配が消えるなんて……。

「お空!!」

 最深部にたどり着く。
 再び力を取り戻した灼熱地獄の中、友人の変わり果てた姿がただそこにあるのみだった。





 神の力を得たお空はその力を持って地上に攻め入ると言い出した。
 友人にそんな危ないまねをして欲しくない。それにそんなことがさとり様に知れたらお空は『処分』されてしまうかもしれない。

 そうすればもうお空に会えなくなる?
 そんなのはいやだ!

 気がつけばお燐は無我夢中で行動に出ていた。
 灼熱地獄にかつての勢いを取り戻させるほどのお空の力は、なにかしらで違う場所に逃がさないと地霊殿すらも危険にさらすほどであった。ただ力の誇示だけが目的のお空にとって地霊殿を危険にさらすことはしたくない。そこで余剰の熱を地上に逃がしていたのである。
 それは結果として神社の近くに温泉を湧き出させていた。お燐は、それを利用したのである。地上に温泉が湧き出ているだけなら何の問題もないであろう。むしろ地上の人間たちは喜ぶだけである。
 だがそこから怨霊が湧き出てきたとしたら?
 地底は怨霊を封じる場所として地上と協定を結んでいると、宴会好きの鬼たちから聞いたような気がする。では、その怨霊が地上に湧き出てくれば、それは立派な協定違反となるだろう。その結果、地上から強い妖怪がやってきてお空を懲らしめてくれるかもしれない。
 結局やって来たのは人間であったが懲らしめられる分には変わるまい。さとり様には知れることになるだろうが、懲らしめられた後ならさとり様もきっと許してくれるだろう。お燐は大事な友人を助けるために、地上にとって看過できない異変を起こしたのである。お燐の計画は思いのほかうまくいった。

 ただ一点を除いて。

 それは、お燐自身に対する『処分』であった。





「いたたた~」

 先ほどの人間とお空が現れた。とりあえずお空はぼろぼろ、たいして紅白の服を着た人間は傷一つついてはいなかった。

《さて、もしかしたらなんだけど……》

 人間の隣にある玉から声が聞こえる。お燐は今回の自分の行動を洗いざらいはかされることとなった。





 お燐の処分は(地上の妖怪によって勝手に)決められた。
 神社のペットとして暮らせということであった。悪く言えば捕虜であったのだが、なんてことはない。普通に御飯をもらってのんびり過ごせばいいだけである。
 お空に関してはお咎めなしであった。無論しっかりと懲らしめられたりはしたのだが異変は起こしたわけではない。温泉を沸かしただけである。ゆえにお燐だけが罰として地上に行くことになったのである。

「お燐、その、ありがとうね。地上に知らせてくれて」
「ふぇ!? どうしたの急に? お礼なんて」

 お燐が地上に行く前日、中庭でお空とお燐は思い出話に花を咲かせていた。
 その話の途中、突然お空がお燐に礼を述べたのである。その真剣な顔に思わずお燐は圧倒されてしまった。

「あのまま地上に行ったたら私、大変なことになってたわ。あなたは私の命の恩人よ」
「そ、そんなたいそうなものじゃないよ~」
「ううん、こんなダメな友人のためにあんな大それたことをしてくれたわ。ただの友人のためにこんなに優しくしてくれるなんて」
「…………」

 お燐は思う。
 何で私はここまでしたんだろう。あの時は無我夢中だったからだが、友人を助けるために無理をしたのだ。もしかしたら、自分は『処分』されていたかもしれない。
 それでも、お空を助けたかった。

「お燐!?」
「ふえ?」

 気がつけば、お燐は目から涙をこぼしていた。
 改めて思う。今の気持ちを。そしてそれを、言葉につむいだ。

「ただの、友人なんかじゃ、ないよ」
「え?」
「あたいにとって、お空はただの友人なんかじゃない。好きだよ、お空。ほかのみんなも好き。さとり様も大好き。けど、違うの。他のみんなへの好きとは違う、あなただけへの好き……。なんだかよくわからないや」

 お燐の顔を真っ赤になる。今のお燐はお空が今まで見てきた何よりも美しく見えた。

「ねぇ? お燐」
「なに?」
「私も、自分の気持ちに正直になるよ。だから……」

 二人は自然と体を寄り添わせていく。

「二つの気持ち、フュージョンさせよ?」

 炎の中、二つの影は重なった。





 結局、二人はそろって博麗神社で世話になっている。さとりが許可したのである。
 ものすごくにやついた顔で、「ふふ、鴉と猫だとどんな子が生まれるのかしらね」などとぼやいていたのだがお燐は意味に全く気付いていない様子であった。
 恥ずかしい思いをしたのはお空一人である。お燐がそういう知識に疎いからこそのさとりからのせめてもの嫌がらせなのであろう。お空はいまさらながらさとりに黙っていたことを後悔した。

「でさぁ~お前に力を与えたって言う物好きな神様は一体誰なんだよ」
「もぐもぐ、うにゅ?」

 温泉卵を口いっぱいにほうばっている時に、黒白の魔法使い霧雨魔理沙が尋ねてきた。いまだお空に力を与えた神様の正体がつかめずにいるらしい。

「そうね、お燐は何も知らないらしいし。せめてなにか特徴的なものがわかればいいんだけど」

 お茶を飲みながら、紅白の巫女博麗霊夢も話に参加した。ちなみにお燐はお空の太ももを枕にして熟睡している。
 どうしようか。別に答えても問題はないだろうが、負けた腹いせになんとなく答えたくはなかった。それで、いつも答えをはぐらかしながら今日に至る。ただ、お燐ともども世話になっているし、いい加減答えないとさとり様に直接文句を言いにいかれてそれで誰からもらったのか知られるのもなにかいやだった。
 そこで……。

「あ~あ、やっぱり鳥頭に聞いてもむだかなぁ」
「そういえば山から来た神様で、二人組だった気がするよ」
「そうなの? そういった情報はもっと早くに教えなさいよ」

 巫女と魔法使いがなにかに納得したようにうなずく。どうやら正体に関するあてはついたようである。

「ちょっと守矢神社まで行ってくるわ。留守番しててくれる」
「は~い」

 ふわふわと巫女は山の方へと飛んでいった。後に残された魔法使いが慌てる。

「ちょっ! ずるいぜ、抜け駆けは! 私だって行きたい!」
「魔理沙も行けばいいじゃん? むこうは二人なんだからこっちも二人でいっても問題はないんじゃない」
「おお。それも沿うか。お前のこと妖精級の馬鹿だと思っていたよ」
「ちょっとムカッとすること言われたけど許してあげるよ。それじゃあいってらっしゃい」
「ああ、いってくるぜ」

 風のように飛んでいく。結局神社に残ったのは二人だけになってしまった。

「忙しい人間たちだな。なあ、お燐?」

 眠っているお燐の髪をなでる。くすぐったそうな様子を見せる。とても愛らしい笑顔だ。

「本当に、ありがとうな」

 お空も体を横にする。下半身に暖かい重みを感じながら、出かけた二人が帰ってくるまで眠ることにした。

(地獄のみんな、地上はなかなかに楽しいところだよ)



 地獄のときとはまた違う、変わらない平和な日々が続いていく。
 初投稿です。
 深夜のテンションで思いつくままに書き綴ったので、いろいろと粗い部分は多いかと思います。
 誤字脱字のご報告など、どうかよろしくお願いします。
No.32
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コメント



0.360簡易評価
5.70煉獄削除
お空を心配するお燐と、そんな彼女の行動に感謝するお空が
魅力的でした。
中々に読みやすく、テンポよく進んでいった感じがしました。
次回も期待したいです。

誤字らしき報告
>怨霊たちを布団代わりにしの転がる~
ここなんですけど……布団代わりにし寝転がる…になるのかな?

>「おお。それも沿うか。~~」
これでは意味が違いますよ。
普通に平仮名です。
8.70名前が無い程度の能力削除
おまけテキストに台詞が加わったようなお話でした。
テンポも良くすらすらと読めたのですが、原作に準拠していたせいか
最後の展開で少し違和感を感じてしまいました。

花映塚の話を加えたのは斬新で面白かったです。こういうのもありだなぁ、って。
ただ、良くを言うならもう少しメインの話に絡めても良かったかな、と思いました。