まるで太陽に五寸釘がごっすんごっすんと突き刺さったような、麗らかとは必ずしも言い切れないが、ある意味で爽やかな空模様の、そんな曖昧模糊な姿を醸し出していた昼下がりの比較的早い時間の事。
薄暗い森の小さな小さな砂利道を、洗いたての皮靴でリズミカルに踵を鳴らし、アリスは一人で軽やかに悠々と鼻歌を口ずさみながら上機嫌に闊歩してた。
この時、彼女が、なぜこんなにまで上機嫌だったのか。それは誰にもわからない。
むしろ本人ですらわかっていなかったのだが、それ以前に、彼女は、なぜ自分がこんなに上機嫌なのかという疑問すら持ち合わせていなかった。
疑問にすら思わない。即ち彼女は、これが自分と言う存在の自然の姿なのであるという事を無意識のうちに表現していたのかもしれない。
別に誰かが彼女のことを見ていたわけでもないし、そうしなければならないという彼女の深層心理が働いたわけでもない。
いずれにせよ、彼女は上機嫌だった。ただそれだけが唯一の事実だった。
ふと、道端に、ああ、なんと表現したらいいのか。悦ばしくもあり、微笑ましくもあり、それでいてある意味で目を覆いたくなるような、いとすさまじき姿をしたキノコの群れが、今まさに大地を持ち上げんとばかりに天に向かって雄々しく聳えたっていた。
ちょっと前に、自称きのこのプロという霧雨魔理沙から「こいつは煮て食うと見た目からは想像できないほどの味で、まるで味覚が壊れてしまうくらいに美味いんだぜ」と教えてもらっていたアリスは、思わず立ち止まり、ここは一丁、あいつの言うことを信じて思い切って冒険してみるか、はたまた何も見なかったことにして平穏、無事之名馬の道を選ぶかと、暫しの間、思考を、ぶんぶん回していたのだが、最後は鼻差で好奇心が勝り、彼女は、そのいたいけな姿のキノコを一つ、おもむろにむしり取った。
そのキノコ、傘の表も、いとすさまじければその傘の裏側も負けないくらいにいとすさまじく、思わず一瞬、彼女は全ての動きを止めてしまう。
もしかしたら、一瞬だけ心臓の鼓動すらも止まったかもしれない。果たして本当にこのキノコは食用に出来るのだろうか。あの自称キノコのプロの言うことはどこまで信用していいのだろうか。などと、普段の自分からすれば、今更何を言うか。と突っ込みを入れたくなるような思考を張り巡らす。
すなわちそれは、動揺を意味する。
動揺する彼女の頭の中では、そのキノコのプロの言葉が何度も何度も何度も何度も反芻されていた。すると不思議なもので、初めのうちはおぞましいほど忌まわしき存在に見えていたそのキノコも、見ているうちに目が慣れてきたのか、はたまた感覚が麻痺してきたのか、それほどのものには見えなくなってきていた。非日常な光景も、それ自体が日常になってしまえば非日常ではなくなってしまう。
慣れとはやはり怖いものだ。などとキノコを見ていながら、ふと思ってしまった自分が滑稽に見えて、思わず失笑にも似た含み笑いが零れる。彼女の心にはいつの間にか、そんな余裕すらできていたのだ。
心に余裕のできた彼女にとってそのキノコは、もはや恐るるに足らない、言わば毛玉以下の存在だ。
彼女はそのキノコをぽっつんぽっつんと柄の根元からへし折り次々と収穫していく。こうやって根元の部分を残すことで菌糸が残り、後日またそこから新しいキノコが生えるわけなのだ。
これも魔理沙から教わったことなのだが、なるほど確かにそれは理に叶っている。別に自分は自然を搾取しようとしてるわけではなく、自然の恵みと言う名のお零れを少しばかり拝借したいだけなのだ。などと考えているうちにキノコの収穫が終わってしまった。
彼女は、早速家に持ち帰って、そのキノコを調理し始める。とりあえず、まずは下ごしらえと言うわけで少しの間、塩水に浸す。
これは中にいる虫を外に追い出すという意味を持っているだけで、別に味付けをしているわけではないのだ。そして、その暫しの時間の間に、このキノコをどう調理するか決めなければならない。ただし、今までキノコは割と調理はしてきた方だ。
もちろんそれは魔理沙の影響も大いにあるが。ともかくキノコの調理法に関しての不安はなかった。
今までの彼女の経験から言うと、キノコは油炒めやバター炒めが一番無難に仕上がる。ぬめりがあるようなキノコは汁物が最適だし、出汁がよく出るキノコは煮込んだり、炊き込みごはんにすると美味しくいただける。のだが今回の得物はあまりにも異質。いったいどうすればおいしく食べられるのか。
彼女は考え込んでしまう。
「キノコはやっぱり生に限るぜ!」不意に自称キノコのプロの魔理沙のそんな言葉が頭をよぎるが、そんな勇気は彼女にはない。いや、勇気と言うより無謀に近い。
確かにビフテキキノコなどのように生で食べられるキノコ存在する。しかし、それはあくまで極一部のものに過ぎず、大抵は火を通すなりしないと食材としては使えない。
ましてや今回のブツは見た目からして生で食べるにはかなりの抵抗を感じる。などと考えながら、ふと、彼女が塩水に浸したキノコを見ると、その塩水が、あろうことか真っ赤に変色していた。
しかも妙なぬめりさえもを生じており、まるで本物の血液のようだった。彼女は思わず目を見張るが、とりあえず、その真っ赤な粘液水にまみれたキノコを、ぬとりぬとりと、一つ一つ取り出す。キノコそのものは、まぁ、そんなに変化はないようだ。
相変わらず珍妙かつ、いとすさまじきな姿ではあったが。
結局、彼女は見た目を考慮して佃煮と油炒めに仕上げて頂いてみた。
そのキノコの味は、流石、自称キノコのプロの言う通り、いとすさまじき見た目からは想像もつかないほどジューシーかつ重厚ビューティフルでスィーツ、つまるところ極めて美味だった。
アリスは「あいつも、たまには本当の事言うんだなぁ」と、その今しがた食べたキノコの濃厚な味わいの余韻に浸りながら、潤んだ目でソファーに力なく凭れて窓の外の木の葉がくるくるると舞う様子や、空の雲がまったりと漂う様子を、なんとなしに、ぼんやり眺めていた。
結局、彼女は日が完全に暮れるまでそのまま動く事はなかった。正確に言うと余韻に浸るあまり動くことが出来なかったのだ。
視点の定まらないそのうつろな眼差しは、まるで宙を自由気ままに泳ぐ魚を追うかのように辺りをうろついていた。
想いの定まらないその小さな胸の内には、まるで有史以前の世界を再現できるのではないかと言うほどの混沌に溢れていた。
濁った川が、もろりもろりと流れていくが如く、それでも時は刻々と過ぎていき、気がつけば夜の帳も既にすっかり下りきっていた。
夜は、妖怪たちにとって本領発揮の時間。幻想郷の妖怪たちは皆こぞって活発になる。それは彼女とて例外ではない。一見するとそうは見えないが、彼女もれっきとした妖怪なのだ。
とは言え、彼女は意味もなく外をふらふらと、当てもなくなんとなしに飛び回るような、しようがない性質の程度が低い妖怪ではない。
彼女は、何か明確な要件がある限りでなければ外に出ることはほとんどないインドア派。言いかえてしまえば、引きこもり。
外では他の妖怪達が、今日も今日とて、賑やかに、てんやわんやと騒いでいるようだ。
紅魔館は、吸血鬼姉妹によっていつもの如く建物がぶっ壊され文字どおり紅く燃えている。
永遠亭では不老不死どもらが朝になるまで殺し合いを繰り返し、妖怪の山では、河童の実験の失敗で山の半分が崩落、山の神社では、神様たちが朝まで酒盛を繰り広げ、麓の神社では脇巫女の寝姿を、鴉天狗がカメラを片手に盗み撮りしている。
今宵も実に平和な幻想郷なのだった。
なんだか良く分からない内に終わってしまった。
結局アリスがしたことはキノコの採集と食事だけだし
ごく普通の日常、というのを書きたかったのでしょうか?
それでも内容が少ないかなあ……もうちょい起承転結が欲しかった。
平和でありあふれた日常を書きたかったのだろうけど、これは読んだ後「で?」としかいいようがない。
その見た目が凄いキノコを食べることが目的だったのでしょうか?
アリスを殆ど喋らせることをしなかったのは例のキノコを食べて、以外にも
それが美味だったということを伝えるため?
それなら冒険とした意味も理解できるとは思いますが……。
でもそれを調理して食べるまで何かあったのは水が赤くなってぬめりが出ただけで
そのほかは何もなかったのがちょっと残念かなぁ。
そこまで悪くはなかったんですけどね。
なんとも中途半端な作品になってしまっていたので高得点は上げれないです。
もう少し物語にテーマを与えれば面白いので作品を作れるんじゃないですかね。
「アリスが、魔理沙に教えて貰ったキノコを食べた。おいしかった」
の文章を膨らませただけなので、別段なにかある訳でもなく、さらに一つの結論を出す上での文章が長すぎて「もういいから」って感じです。
起承転結はあっても、山無しオチ無し意味無しになっちゃってますよ。(略してヤオイ)