「そうだ魔理沙分が足りないんだ」
意味不明なことも言ってしまうというものだ。
ここのところは梅雨だろうか?雨が降ってばかりで外出もままならない。
人形を修理修復。研究実験。
魔法使いというものは基本的には好奇心を保てる人間しかなれないのだ。
材料収集から研究、実験を経ての試行錯誤。
閉じられた空間での確かな成果。
それを差し引いてもうんざりするときだって、ある。
残るのはいつだって虚無感である。
魔術師の中でも新参の私が言うのだから説得力はないが、だから間違いがない。
しかし、同業の読書家はこんな窓からの風景にも興味がないのだろうか?
特別でも何でもなくただ自分とは違う生き方をしているあの友人はこの雨の中なにをおもっているのだろう?
「へあっくし!」
時間は同じく風景は変わる。幻想郷の山中、白黒の彼女は天候如何に全く関係せずいつも通りキノコ狩りに精を出していた。むしろ彼女にしてみればこの天候だったからこそ、その場所にいるというのが本音だった。梅雨に入り湿度の上がったこの時期だからこそ採集にも動くというもので、そうでなければさっさと友人の家に押し入って煎茶紅茶ごきげんようと洒落こんでいるところだ。もともと外で動くことの多い彼女には寒さには耐性があるようで、ほとんど日のあけたばかりの朝からこの昼過ぎまで動き続けている。もっとも日が明けたといってもさほどの時間もかからず土砂降りにまみれることになり、だからと言って彼女は十数秒で決断したタイムスケジュールを崩す気にもなりはしないのだった。
「あー、さみーなー」
大きな杉の木の下。当り前だがいくら寒さに強い、耐性があるといっても数時間雨にぬれた体で外にいるというのは体力を消耗するしこれ以上、この状態が続けば風邪をひくに決まっている。友人に寝込んでいるところを看病してもらう展開もアリかなと思いつきそうになったけれど、いやそれは自分のふがいなさを見せつけるだけ、思いなおしそんなことよりも依然見つからない採集品を探すことを優先だ。
『霊芝』
不老長寿の一種らしい。『絶対茸的読本』パチュリーの図書館の中でも比較的胡散臭い。しかしなかなかに歴史のある風な図録から見つけた。それはその特性から様々な活用法に結びつく、らしい。知り合いの人形師の分野であれば自立人形に行きつくだろうし、それほど親しくはない蓬莱の医者の領域であれば万病の薬に行きつくだろう。そんなことをしなくても彼女たちはとっくに行きつくところに行きついているため特別に欲しがったりもしないだろうし。むしろありきたりでつまらないと言ってもいい。不老長寿。風聞が文字にされ伝説になった類だろうが、ありえてありえない話ではない。
―もしあるなら効果を確認してコレクションにするだけだ。どこかの国の王さまですら手に入れないものをただ部屋においておくだけというのもひねくれてて悪くないし。
「つい最近、ここらで見た走るキノコが一番面白かったかなぁ―いや気持ち悪かった気持ち悪かった」
大きいもので一メートルほどの茸が集団で走る。結局マスタースパークで壊滅させたが確かこのあたりだったと思う。だからこそ期待していたのだ。例えば―その時に拡散した菌が怨念を帯びて突然変異するとか、根性で生き残ったキノコが進化を遂げて全く別物になったりとか。
―あれ?ちょっと頭を冷やすべきか?
そういえば徹夜明けだったっけ。現実より風聞を多く書き連ねてあったその図録は単なる記録と資料としても読み応えはあったが時折編集者のリアルよりロマンを、鋭い洞察よりキノコに対する愛をという主張に満ちていてついつい共感してしまった。何より幻想郷での探索と発見前後の日記が拍車をかけたのかもしれない。この日この時間、まさに霊芝を発見したのだから―。そんな都合のいい話もないか、と思うのにさほど時間はかからなかった。はあと嘆息して。
―まあいいさ。結局キノコなんてものはいつも人間をふりまわすものだ。トリップする人間もいるんだ。むしろ過去にもこの幻想郷でロマンを夢見て追いかけた人間がいること、その意思を自分が受け継いでいることも確認できたし、帰ろうか。
ここにあと少しでもいれば冗談ではなく風邪をひいてしまう。
弱った体で妖怪に襲われないかもわからない。
―なんか気づいた途端、疲れてきちゃったなーもう帰って風呂入って寝よう。
「んーそれとも霊夢のところでも行こうか。ふあああ」
立ち上がってあくびして背筋が伸びきったとき。
ぺしっ。
―ん?
右の足の脛あたりになにか衝撃と言うにはあまりに小さい感触があった。当然振り向いて見たけれど、何もない。気のせいではないのに気持ち悪いな。と比較的のんきに思っていたところ。
ぺしぃっ。
「うお、痛っ!」
今度はさっきよりも痛い、しかしそれでも口に出すほど強くない衝撃が襲った。
今度の衝撃がさっきと違うのは衝撃の走った場所に振り向いたときに人影を見たということだ。それは一瞬だったけれど今まで腰かけていた杉の木の裏に回りこんだ。
何かがいる。
なんとなく自分の今の状況を思い浮かべてみるに。
人気のない山奥でたった一人の少女がぶらぶらと同じ場所にいる。徹夜明け、雨にぬれた体はそこそこ弱っているように見えるため人間で、さらには山奥に入ってくる恰好じゃない。となれば―
今の自分は哀れな遭難者のように見えてもおかしくはないのだ。
そして前提条件のように彼女の実力を知らない。会ったことがないもの。
そんな人間が出会うとすれば―
「なんて衝撃だ!うわあああ、いって―!骨が折れた!靭帯が切れてる!ぐああああ!」
うずくまって蹴られた場所を抑える。ああ、なるほどと得心がいって一芝居打つことにする。大袈裟にさも自分の傷がひどいように言ってみる。さっきの人影はどこか女の子のようだった。相手、杉の木の裏にいるに聞こえるように、負わせた傷の強大さを相手の矜持をくすぐるように、あるいは意外な対応に確認せずにはいられないように。案の定数分もかからず衝撃の主は出てきた。否、それは部分だった。顔の右半分と気に回すように手足を少し。-いきなり攻撃してきたところを見るとバカ氷妖精のような性格ではないのだろうか、という予想は覆された。
「だ、大丈夫ですか?あ、あわよければ転ぶくらいだと―」
控え目に、あたふたと、キノコは申し訳なさそうに現れた。
子供の矮躯、幼い感じの声。金色の髪に、そして気弱そうにたれた目におとなしそうな声。そして何よりキノコの帽子。
予想道理、確信通り、と言ったところだったが。実際に出てこられたらこっちのもの、これくらいの子供の相手には慣れている。むしろ得意中の得意分野であることは彼女を含めて周知の事実である。-さあて、と彼女は考える。
見てわかることはこの子は妖精、話してわかったことは生まれて間もないということ。
この時点で彼女は三つの可能性を想定する。むしろこの段において考えない人間はいない。
1私が探している不老長寿の、付属的なキノコの妖精。
2私が以前倒した走るキノコのなれの果ての形になった妖怪。
3本当に偶然生まれたキノコには関係のない存在。
―3はない。ありえてたまるか。
「じゃあ知り合いもいないってことなのか?」
―こくっと頷く。キノコ帽子の少女にはとりあえず捻挫をしたということにしておく。
話しやすいからと言って親しみやすいからといって相手は妙に慣れている人間。こちらは生まれて間もない妖精だ。ただ単にあちらに話したこと自体少ないということかもしれないが。
「友達とかは?」
ふるふるっと首を横に振る。
「ふーん、なんでここにいるのかはわかるか?」
言われてぽつりぽつりと話そうとする。あまりに声が小さすぎて正直いらいらする。雨音に邪魔されるくらいの声量だ。
「生まれた、場所だから、それで――――に」
後半はほとんど聞こえないほど消え行ったが。まるで迷子の子供のようで立場としては逆なのになあと思う。どっちもなにひとつ情報がないというのでは何もわかりはしないではないか。-あれ?ぽつり、ぽつりと言葉が続いていたらしい。
「-みんなが殺された場所だから」
「―――――――――――――――――――」
―やっちまったー
多分そうなんじゃないかなーもしかしてだよなーくらいには
そう思った。思ってました。
「そ、そっか、それは気の毒にな!」
「うん、本当にね、それで、みんなの仇を、うと―かなーとか思ってここで待ってたんだ」
「ふ、ふーん。ちなみに仇がど、どんな奴かわかるのか?」
「えっと白黒で、ビーム出して、箒に乗って、うん、おねーちゃんみたいだった」
「へ、へぇ!ひっ、ひどい奴もいたもんだなっ!私みたいな善良なビームも出せないいい白黒にしてみれば信じられないぜっ!」
―やばいなあ、これは取り返しのつかないたぐいの失敗だ。
向かい合って繰り広げられる会話の内容はさながら魔女裁判だ。
しかし重苦しい空気はあっさりと終わる。
会話に関係なく少女の後ろの草藪がざわざわっと揺れた。
その影が少女を狙っていることを勘づいた彼女はそれが、獰猛な、ギラギラした目が腹を空かせた妖犬だと知る。
―ガアァッ!
「?」
彼女の緊張が伝わると後ろを少女は振り向いた。
次の瞬間、少女が振り向いたと同時に、獣が飛びかかって来た。
「マスタースパーク!」
さらに同時に彼女のミニ八卦炉が必殺技を放っていた。
獣の黒焦げが転がって、彼女は少女を抱きかかえて、少女は呆気にとられていた。
雨は、降り続ける。
「ごめん!悪気はなかった!」
彼女は身内を殺した相手に土下座する。
「お、おねーちゃんは私の仇?」
「-ああそうだよ」
「おねーちゃんは何でここにいるの?」
「興味本位の材料探しさ、ただの魔法使いだからな」
「魔法使いって何?」
「-興味本位で閉じこもったり好き勝手集めたり壊したり作ったりするやつらのことさ」
「本当におねーちゃんがみんなを?」
「間違いなく」
「私のことは?知ってたの?」
「いや、知らなかったけど。知ってたら撃たなかったと思う」
「さっきの犬は?」
「襲われそうだったから仕方なく」
「みんなは?」
「話が通じる連中じゃなかったからな、繁殖して森に溢れ返るって思ったんだ。」
「――私は話が通じたよ?」
「――――」
「頭に乗せてもらって、好きな場所に走ってもらった」
「――――」
「確かに、変な子ばっかりであたしとは違ってたけど」
「-ごめん」
「なんで助けたの?」
「――――」
「私だって攻撃した時、ほとんど気づいてた」
「――――」
「この人がみんなを倒したって」
「――――」
「お姉ちゃんも、流石に、犬に襲われる前に、気づいたでしょ?」
絶句せざるを得ない。
この時の少女の目は気弱なさっきまでのそれとは違ってた。
自分の壊したものが相手にとって、見知らないどこかの誰かにとって大切のものかもしれないということ。それは分っていたけれど。これはどうしようもない類のように思われた。
「なんで助けたの?」
「理由なんかないさ、あげるとすれば困ったことになる前に助けたかったから」
「――――」
「なんで、足を痛めた私に追い打ちをかけなかったんだ?嘘、だったけど」
「――――わかんなかったから、何も知らなかったから、おねーさんがそこまでひどいことをやるのか、わからなかったから、なんでおねーさんが優しい人だったかわかんなかったから」
「――――」
「今は、犬に襲われてもすぐに助けてくれて、だから、自分が正しいのか、わかんないから」
「-そっか」
「うん」
ざあああああああああああ、という雨音はさらに大きくなる。
―キノコの妖精、妖怪?であるこの子はどこから生まれたのだろう?この子にとって言葉が通じる、操れるあの走るキノコはこの子のしもべだとして、眷属だとして。じゃあ大本のこの子はどこから来たのだろう?
「なあ、ここで会ったのも何かの縁だ。」
「はい」
「よかったら私に協力させてくれないか?」
―出生の手がかりとかこの後のこととか。
結論からいえば、彼女はその日何も見つけることが出来ず敗残兵のように帰路に着いただけである。
梅雨が明けると自然に外出もできるわけだ。誰でも私でも霧雨魔理沙でも。しかし、日に一回は遊びにきたとのたまって用がなくても紅茶やらお菓子やらをつまんでいく魔理沙が梅雨が明けて一週間も来ないことがあるならそれは気になってしまうというものだろう。だから気晴らし散歩も兼ねて魔理沙の所へ御邪魔することにした。そこらへんにぬかるみや水たまりはあっても空はいたって快晴だ、いい天気だ。
どこか魔理沙を思わせるような―
「なんてね」
道を歩けばそのまま目的地へ着く。
「―え?」
マリサハウスにはたどり着けたと思う。
思うというのは確信がないから。
「こんなファンシーなつくりだったかしら?」
そんなわけはない。
霧雨邸の屋根はキノコ状になっていた。シイタケエリンギのような無毒で地味な色ではない。まるで激しい弾幕のようにカラフルな警戒色を放っている。
「ふーん、ドアは普通ねー」
あのキノコ愛好家はついに爆弾を踏んだということか。ふむ、いくべきか行かざるべきか。門の前に立ったところで悩む。中はひどい惨状になってしまっているかもしれない。胞子まみれの魔理沙が息も絶え絶えで頭からキノコを出して倒れているかもしれない。
―決意を固めた。
「失礼―」
カンコン、
―します。
多分反応はないと思った。もしくはいないものだと思った。しかしおおよその予想を裏切って
「はーい」
幼い声が返ってきた。
―誰?
がちゃり、とドアが開かれる。みると幼い声にあつらえたように小さい体、大きなキノコ帽子。そこからのぞける髪の色は金色だ。妖精の類だろうことは間違いない。
「-誰?」
本当に知らない子だった。いきなり来客に突っ込まれて引いているこの子は何なのだろう?
「-あ、ごめんなさいね。あのー、霧雨魔理沙って女の人知らない?-友人だけど」
「あの、お名前は」
「アリス。アリス・マーガトロイドよ」
「えっ、まーが、と―」
「アリスって言えばわかると思うわ」
「-はい、ちょっと待っててください」
ばたん、一旦閉められて、中からなにやら話している声が聞こえる。魔理沙の声がする。どうやら霧雨魔理沙は中にいるようだ。あのキノコ帽子の少女が友人宅の変容に関係ありそうだということはまず間違いがない。というか確実にそうだ。
―入っていいぜ-と声が聞こえたところで私はドアを開ける。
「だー、情けないぜ―」
魔理沙は完全に風邪をひいていた。熱っぽい顔に鼻水、汗が出てくるほど熱いようだ。
「キノコーちょっと水持ってきてー」
―はーい、おねーちゃん。と少女は答える。
安心したことに魔理沙の家の家具はほとんど変わりがないようだ。用意してもらった椅子も彼女が寝起きしているベッドもそのほか調度品すべて見まわしたところ変化は見受けられない。
「で、魔理沙あの子は何なの?」
「妹」
「ふーん」
「だったらよかったんだけどなぁ、面倒くさいけど」
「話づらいことでもしでかしたの?」
「ああ、すごくな」
要約すると『あえて雨の中で珍しいキノコを探しに森に入ったところ。以前焼き尽くしたキノコの群れの中でかつて生活していた、生まれたばかりの一人ぼっちの妖怪を見つけた、責任を感じた魔理沙はとりあえず他の妖精、妖怪と仲良くさせて彼女に生きる術を教えてやろう』と思った。
あれこれ聞いているとなるほど、確かに魔理沙に非がある話だった。
「今風邪ひいてるのはであってから何日か雨の中で動いたからだよ~ぶぇっくし!」
「なんで連れて帰ってきたの?」
「キノコありがとう」
会話している途中だったがキノコの少女が水を持って来たらしい。
「どういたしまして―」
「ついでにティッシュも取ってくれない?」
「はいっ」
しっかり身の周りを御世話させている。
ずびー、とできるだけ音を立てるように魔理沙は鼻をかむ。
「その後な-」
『何もみつかりませんねー』
『そうだなー』
『どうしましょう』
『―家にくるか?』
『―』
『―何も分かんないうちにさっきみたいに襲われてくたばっても面白くないだろう?』
『おねーちゃん』
『そうだな、名前をつけよう。いつまでも名前がないんじゃ呼びにくい』
『-はい』
『おまえはキノコだ』
「そして今に至るわけさ。」
「-そんな名前親につけられたら泣くよ」
~~子というのは確かにありだし実際に亡霊が一人いるけれど。
「変に冗長なのより覚えやすいし全然いいだろ?アリス」
ニヤニヤしながら言ってくれる。アリス・マーガトロイド。アリスだけならまだしもフルネームは一見さんは多分覚えられないだろう。実際あの子もそうだったし。
「出会った時のこととか考えると霧雨の名字もキノコにかけたら案外わるくないかなあって思ったけどさすがにそれはやめにしたぜ、恥ずかしいし」
―だからあいつはただのキノコ、ということらしかった。他人ごととは言え不憫である。何がって名付け親が一度もその真剣な顔を崩さないからだ。
「ふーん、とりあえず、わかったわ」
内心の落胆を隠して、見ると少女―キノコは上体だけ起き上がって話しているマリサの袖をつかんでいる。全身から汗を流して張り付いているパジャマの魔理沙もわるくない、むしろいい。キノコは何かを聞きたそうに耳に口元を持っていく。こっちを見てこしょこしょと話している姿は微笑ましい。小さな子に合わせて魔理沙は頭を下げる。ふーん、姉妹というのもあながち見えないでもないじゃない。はだけた胸元が見えた。パジャマの下には何もつけていないようだ。大変よろしい。危うく鼻から血が出るところだった。
「そんなことはちゃんとアリスさんに聞け。おねーちゃんに頼ってばっかりじゃだめだろう」
自分のことを「アリスさん」、魔理沙自身のことを「おねーちゃん」か。まあ姉御肌の魔理沙には合っているのかな?
「アリスさんも魔法使いなの?」
もじもじしながら言ってくれる。性格はおとなしくて素直。そんなところか。
「-ええ、そうよ。人形遣い」
言うと持っていた上海、蓬莱を目の前で踊らせる。簡単ではあるがそれだけで喜んでくれたようだ。人前での練習も兼ねてのそれはおおむねミスすることもなく成功して終了。たった一人の観客もおおとか言っている。魔理沙が拍手する。つられてキノコもぺちん、ぺちんと手を鳴らす。-悪い気分じゃないな。
「これからどうするの?」
「この分だと二、三日で治るだろうから―頼るみたいで悪いけれど紫でも訪ねるさ。あいつなら幻想郷で起こったことなら何でも簡単に把握してるからな」
「ゆかり、さん?」
キノコが聞く。
「ああ、前に言ってたずっとこの幻想郷に住んでいる意地の悪い大妖怪だ。隙間から現れたり覗いたりする。見かけ以上に年は重ねているし性格もねじ曲がってるしもう元には戻らないし行動もその通りだしほとんど寝ているし自覚もないけど知識は確かで信頼はできるよ。多分今も、この家がこんなことになったことも知ってて笑ってると思うけど。できるだけ自分の力で解決したかったけどここまで時間がかかって何も分からないじゃあ、もう私だけの問題じゃないからな。文句は言わない」
ほとんど悪口である。もともと私自身もそんなには好感を抱いてはいないけれどフォローも入れるつもりも毛頭ないけれど。すこし哀れである。
「そういえば何でこの家はこんなことになったの?その子の所為?」
警戒色のキノコの屋根と言うのも魔女、魔法使いにはふさわしいのかもしれないが。
「そんなところだ。能力が見たかったからな。言ってみるなら―そうだな、風見幽香の「花を操る能力」、あれの亜種みたいなものだと思ったけど全然違ったよ。いったん菌で材質を分解してから土に還す過程を通ってキノコになる。完璧に元の材質には戻らないから、マスタースパークして作り直すさ。まー、屋根がこうなった時、無理して引きだされて暴走したからそのあとはふたりそろってダブルダウンだ」
「すいません、おねーちゃん」
「いいってことよ。こっちが知りたかっただけだ」
しゅんとなる。しかしごく最近、身内を倒されているという経緯を持っているので謝る必要はないし被害を受けたところで魔理沙がそういうのも釈然としないように思われたがそれはそれ、これはこれと言うものだろう。それに、幻想郷は特殊だ。気の合わない二人が殺しあいをしていたかと思えば次の日には肩を並べて一緒に酒を飲んでいる。そんな光景はざらに見る。
一通り疑問が解決したところでもともと差し入れで持ってきた普段通り魔術書の類いとちょうど良く二、三日はもつだろう紅茶とお菓子を置いていく。
「じゃあ。気が向いたらまた来るわね」
「おー」
話し続けたことに疲れていたのか、魔理沙は見送りもせずに寝入ってしまった。
キノコは律義に見えなくなるまで手を振ってくれたけれど。
「よし。魔理沙分補給完了」
意味のわからないことを私は言っていた。
三日後、どうなったか気になったため再び訪問しようと思った。
再び訪れたマリサハウスはいつも通りの屋根に戻っていた―わけもなかった。
結局風が治るまでに動けるわけがないし当り前だが、「魔女の住む場所」としてあまりにもマッチしすぎている。最初見た時も思ったが絵本の建物にみえる。やはり毒々しい-こんなところに住んでいる人種は迫害されてもやむなしね。まあここの住人に限れば「そんなもの理解できない大衆のセンスがしょぼいだけだ」とでも主張するのかもしれないが。
コンコン、
―はーい、と言う声がする。
「い、いらっしゃいませーあ、アリスさん」
「こんにちは」
「こんにちは、魔理沙ねーさんですか?」
ねーちゃんからねーさんへ。
ふむ、十分に教え込んでいることらしい。
「うん、紫さんのところには―いったみたいね」
じゃあ事後報告を聞くということになるのか、見ればキノコも以前より自信にあふれた表情だ。
「はいっ!すっごく優しい素敵なお姉さんでした!」
「――――――――――――そっか」
だまされてるよ、とは言えなかった。どこかあちらの化け猫を思い出させるあたりあの隙間妖怪その素直さにつけこんでそれこそ赤子の手をひねるより簡単にだましおおせたんだろうな。
家の中に入るといつもの白黒の魔理沙がいた。
ただしその目は死んでいる。
「あーなんだアリスか」
「何よそのうちくるって言ったじゃない」
「悪い、ただの病み上がりに隙間妖怪にあってきたのが精神的につらかっただけだ」
まあ魔理沙の場合一日中動くことよりも何日も同じ場所でずっとじっとしているほうがつらいのだろう。増してそのテンションで会った一人目が隙間妖怪だったら確かにきついものがあると思う。
「さて、私は大変な思い違いをしていたらしい、キノコもだけど」
一拍置いて言う。
「前に言ったっけ?走るキノコをマスタースパークさせたって」
「うん、私としては興味深い話だったけれどとっくに壊滅させたんだったら見れないなーって思ってたんだけど」
「外、見てみろ」
―外。
―ドドドドドドドドー
窓をのぞいてみると
「うわっ気持ち悪!」
「なー?そうだろう?」
後ろから魔理沙がいかにもけだるそうにもたれかかってくる。
見ると先日話していた。走るキノコの群れがそこにいた。
顔もなくただ足だけが生えている。ただ走る無目的に走る。
うわああこれは見た瞬間に消そうと思うのが礼儀だよ!
「-キノコ」
はいっといつの間にか外に出ていたキノコは、頭から胞子を出す。
それが降りかかったモノから機能停止、時間を止めてしまったようにぴたりと止まる。
今にも動き出しそうで、それがまた気持ち悪い。
「殺したり仇だったり責任感じたり、そもそも深刻な話じゃなかったんだな、結局」
「-あ」
土にかえっていく。一つ残らずものすごい速さで。
「なんてこたない。只の土人形みたいなもんさ、最初にいた奴らは無意識の能力の顕現。主人の力が無自覚に働いた結果。生まれたばかりだったから。能力をうまく使えればあいつ自身が不死の薬みたいなもんなんだってさ。細かい力の使い方は、まあそれももう紫から教えてもらったし、私が何をせずとも一人でやっていけるだろう、はあ」
非常に気の抜けた説明である。
何が魔理沙をここまで追い詰めたのだろう?
「紫がね」
「せいぜい私の家を見て笑ってるぐらいに思っていたけどそんなもんじゃなかった。
起きている時間ほとんどを使ってキノコに振り回される私を撮影していたらしい―」
『魔理沙の盗撮』
この言葉にときめかない魔法使いが存在するだろうか?いや存在しない。
それほどまでにこの言葉はシンプルでディープなのだ。
しかもただの魔理沙ではない。
普段は決して見せない風邪で弱った魔理沙。
幼い子供に接している母性的な魔理沙―
「あっ、そう」
「鼻血を抑えながら何を興味なさそうな返答してるんだお前は」
意識がマスタースパークしそうだった。
いやもう許してもらえるならここでマスタースパークしたい。
想像するだけでギャップに萌死にしてしまう。
「キノコの能力の説明が一分で終わってから誤解も解けてわだかたまりみたいなのもなくなって安心したんだ。だけど『まったく魔理沙も優しいわねえ』だってさ。九尾も猫股も呼んでいるからおかしいなぁと思ったんだ。同じ布団で眠ったりした時に子守唄を歌ったりあやすだろう?夜のトイレとか世話してあげないといけないだろう?逆に風邪をひいて拙い看病されているときも全部撮っていたらしい。あいつキノコにいたっては『本当にやさしいお姉ちゃんねえ』みたいなことを言ってとにかくほめ続けたんだ。あの狐がやけに同属めいた視線を送ってきたぜ。化け猫は自分のことみたいに恥ずかしがってうつむいていたが」
ブバァアアアッ!
鮮血が舞う!
上海が叫ぶ。
―緊急!!緊急!!魔理沙分が異常です!
蓬莱の声がする。
―マスター!戻って、戻ってください!
私の精神は一刻も早く八雲紫に直接交渉を持ちかけるという命題に支配されていた。
セリフと地の文章にも行間が空いていて読みやすかったです。
ただ、気になる部分がありました。
>図書館の中でも比較的胡散臭いしかしなかなかに~
この部分は少し区切ったほうがよろしいかと思います。
例えば、比較的胡散臭い。しかし、なかなかに~
といった風に修正したほうが読みやすくなるかと。
訂正させて頂きました。
ありがとうございます。
前回「読みにくい」「わかりにくい」「根腐り」とレスを
頂いたため丁寧に作りました。
>12様
訂正させて頂きました。
すいませんでした!
>13様
ありがとうございます。
最初はもっとアリスはそっけない感じに書いて
シリアスな事態に陥った魔理沙に絡めるつもりでしたが
途中で断念。
よって盛大に鼻血で終らせるにはどうすればいい?
デレたアリスになってしまいました。
後半はほとんどそのための物語です。
暴走した感じは確かにありました。
路線を途中で変えたとき簡単に変態色に染まるんだなーって驚きました。
>25様
すいません。
訂正します。
ありがとうございます。
新しい存在と保護者な魔理沙。
そしてクールを装いつつデレデレなアリスw
うん、個人的に大好きだ。
なんだかんだで初めての100点です。
間違いなく調子に乗りますが寝て忘れることにします。
ありがとうございました!
でも鱗粉は蝶などの羽についてる粉のことだよ