「……いや、ちょっと待て」
霊夢がそのミスティアの一言に目を丸くしたのは当然と言える。
「だから焼き鳥。始めたのよ」
そう言うとミスティアはにこやかに鶏を絞めた。
くけ、と声がしたのも一瞬。ばたばた足をバタつかせている状態の内に鮮やかな手つきで解体していく。
「ええと」
「美味しいよね。焼き鳥。八目鰻なんてクセが強くて食えたもんじゃないわ」
綺麗に解体した鶏を手際良く選り分け、串に通して火に掛ける。
鼻腔をくすぐる香ばしい匂いが屋台周辺に充満した。
「塩が流行ってるけど、言語道断だね。やっぱり良く熟成させたタレを万遍なく塗ってさ」
「ちょっと」
「出来たよー」
表面を艶のある茶で彩られたやきとりが、霊夢の前に差し出される。
表面にまだシュウシュウと、小さな油が発生しているのがまた食欲をそそるのだ。
「美味しいでしょう?あぐあぐ」
同意を求めながらミスティアは、自ら焼いた焼き鳥に舌鼓を打っていた。
「自分で言うのもなんだけど、何本でもいけるよー。んくんく」
そして霊夢に出すことも忘れてがつがつと貪り始めた。
焼いていない生の部位も、手づかみでもりもり食べる
「美味しいな、美味しいな」
「……」
「美味しいよ~」
ミスティアが自分の指を食べ始めた。
ガリガリと口にから見える白い物は、肉がこそぎ落とされた末に現れた骨に違いない。
がりがり。がりがり。
霊夢は懐から勘定を取り出すと、後ずさりしながらその場を去った。
背後でべりべり羽を剥がす様な音がする。
「美味しいよ、美味しいよ」
本当に嬉しそうな声がやけに耳に残った。
がりがり、ぴちゃぴちゃ。
何かおかしい。そう思いながら霊夢が永遠邸の前を通ると、けったいなのぼりがあった。
『兎鍋はじめました』
見れば鈴仙がぺたりぺたりと餅をついている。
いや、赤かったり黒かったりする粘性のあるものがコヂュ、グチュと白っぽい固形物と混ざり合いながら飛び散っているので餅ではないのだろう。
「……」
「あら、霊夢じゃない。丁度良かった。兎団子を作っているところなの」
「そのピンクのワンピースは?」
「兎、美味しいわよね。人参なんて嫌いよ。野菜だし」
別段目が赤い訳でもなく、いつも通りに微笑んで、ぐちゃり、みちゃりと更に力を入れる鈴仙。
そのお陰か、均一になった組織は何時しかぶよぶよとしたゲル状の物体になる。
やや固形物が混じったそれらを、手際よく一口サイズの団子にすると、沸騰した大きな鍋にボトボトと入れた。
ネギや白菜と煮込まれたその匂いは、素朴でとてもお腹の空く物だった。
「おいしい、兎鍋美味しいよ」
涙を流して鈴仙が兎団子を頬張っている。肉汁が溢れるほどにジューシーなそれは、味付け無しでも美味しいのだろう。
くちゃくちゃ、はふはふと小気味の良い咀嚼音
「じゃあ月の兎も入れたら、もっと美味しくなるかしら」
「名案ですね師匠」
永琳の問いかけに目を輝かせた鈴仙は、早速自分の体を杵でつきはじめた。
ぺったんぐちゃり、ぺったんどちゃり。
下半身が原型を留めなくなった頃、月の兎は動かなくなったので、永琳が代わりにつきはじめた。
「美味しいわ。兎鍋美味しいわ」
ぐちゃりぐちゃりと言う音よりも、やはり「美味しい」と言う言葉が耳に残った。
くちゃ、くちゃ、はふはふ。
「……何て夢よ」
こめかみを押さえて霊夢は目を覚ました。
妙を通り越して随分と気分の悪い夢を見たものである。
「どこぞの薬なんか使ってないないのに……ったく」
そう呟くと、いそいそと起き出す。
あんな夢を見た後でも腹は減るものだ。何より夢の話だし。
「何にしようかなあ」
のろのろと台所下の氷室に向かう。
「ええと……」
「お~い」
境内の方から魔理沙の声がする。こんなに朝早くと言うのも珍しい。
まあどうせ朝食をたかりにきたに違いないが、と霊夢は苦笑しながらも食材を見渡す。
「う~ん。まあいいか、偶には豪勢にしましょう」
座敷で待っていなさいと声がして、その暫く後に良い香りが漂ってきた。
「おう、霊夢すまんな」
「ほんと、当然の様にいるわよね。まあ、お上がりなさいな」
さして気にもせず、霊夢は配膳をしていく。から揚げやら叩きやら、朝にしては豪勢な食材が並ぶ。
「何だよ、今日は豪勢だな」
「ちょっと痛みかけてるのもあったから、さっさと処理しちゃいたいのよ。あんたも手伝いなさい」
私は残飯処理かと魔理沙がつっこむが、嫌なら食べるなと言う霊夢の言葉に、是非も無く箸を伸ばす。
朝食にしては多目の量だったが、談笑しながらだと食が進むものだ。
「いやあ、この生姜焼き美味いな。なんていうか、しつこ過ぎず淡白過ぎず、飽きがこない感じ」
「ん、そう?」
猫肉はもう一匹しか残ってないが、それでも後二日分はある。口当たりの良い味からして、当たりを引いた様だ。
「こっちのニラの炒め物の肉はちょっとクセが強いけどなぁ。でも結構クセになりそうだぜ」
ややクセの強い狐肉の消費は最初は少しずつだったが、結構後を引き、最近では晩酌に良く使う。
「こっちの叩きは歯応えあって良いな。表面はパリッとしてるのもポイント高しだ」
蛙の肉は焼くと固いが、生食に適している。叩きにすると最高だ。
「この唐揚げも美味いよ。油と良くあってる。衣のカリカリ感だけでご飯三杯はいけるぜ」
烏の肉は脂身が少なく、さっぱりしていて揚げ物に最適。おまけに油の処理にかかせない新聞まで背負ってくる。
「まあ、もりもり食べなさい。好き嫌いせず」
「子供扱いはやめろよ」
「実際私より下じゃない」
ほっぺたにご飯粒をつける魔理沙を見ながら、霊夢は今朝の夢を思い出す。
まったく、共食いなんてロクな事じゃない。博麗の巫女たるもの、怠けても共食いだけはするまい。
それにして鳥も兎も美味しそうだったなぁ。
「そういや最近見ない奴等が結構いるけど、どうしたんだろうな」
「美味しいわよね」
むしゃむしゃ、ぱくぱく。
「いや、美味しいけど……霊夢?」
むしゃむしゃ、ぱくぱく。
「美味しいわ」
むしゃむしゃ、ぱくぱく。
「美味しいわ」
むしゃむしゃ、ぱくぱく。
「れい……む?」
「おいしいわ。とても。とっても」
むしゃむしゃ、ぱくぱく。
むしゃむしゃ、ぱくぱく。むしゃむしゃ、ぱくぱく。
むしゃむしゃ、ぱくぱく。むしゃむしゃ、ぱくぱく。むしゃむしゃ、ぱくぱく。
むしゃむしゃ、ぱくぱく。むしゃむしゃ、ぱくぱく。むしゃむしゃ、ぱくぱく。むしゃむしゃ、ぱくぱく。
……カタリと落ちた箸は、誰の物だったのだろうか。
似たようなネタは東方以外でも見たことあるんですけど、
一作目で笑わせておいて次でこれっていうのが美味い、いや上手いですね。
子供が読んだらトラウマになりそうですが。
冒頭に注意書きほしいです
が、最後まで読んでしまった手前40点は付けざるを得ない
最初の5行くらいはギャグだと思っていたのに
受け付けない人もいると思うので
注意書きはあった方がいいと思います。
はっきり言って受け付けない。
けど思わず最後まで見せられたのでこの評価。
この季節にホラーとは……。
まあ、内容的には「否」なんですが、面白かったのは確かなのでこの点で。
あと、こいつはおまけだ、受け取ってくれwww
(式輝「四面楚歌チャーミング」&仙符「屍解永遠」&廃線「ぶらり廃駅下車の旅」&「幻想風靡」&祟符「ミシャグジさま」)
とりあえず引き返せば良かったと自分自身に後悔してますが最後まで読んでしまった以上はこの評価で
チルノはかき氷、ヤマメも蜘蛛はチョコレートの味がするというし
まだまだ食材はありますね
こういう実験的なのは大好きです。霊夢の思考と行動が矛盾していないなら興味深いですね。
某潜入工作員は食べてましたけど・・・
二つ連投されると、つい後者にだけコメントしてしまうんですよね……
並べた作品による効果はほとんど気になりませんでした。私事ですが、文章が分けられると意識も切り替わるので。
山場を読んで真っ先に「早い内に屠殺し過ぎだろ!」とか「もっと細く長く食えよ!」とか思ってしまったので、さほど怖くはなりませんでした。
深く考えるのを恐れているのか。食い意地張り過ぎてるだけかも。
「いやあ、この文章おいしいね、ほんと」
さて、朝食は『とりにく』にでもしようかな…美味しいんですよねぇ、父の好物ですし。
しかし、2作通じて読んだ結果面白いと感じたのでこの点数をいれます。
そうですねえ、やはり注意書き無しで読みたかったのが一つw
耐性のない方とかいらっしゃるのでしょうがないことなんですが、こういった話は
あらかじめ注意書きがあったら面白さが半減してしまうでしょう。
コメントにあった注意書きをしてほしいってのは無視するべきだったかと。
耐性のない方にはお気の毒としかいえないのですが、二つで一つという作品の趣旨からして外すべきかなと。
結構前のそそわの作品集にあった、霊夢、魔理沙、咲夜、霖之助が妖精を捕まえてきて
淡々と調理し、食べる話を思い出しました。
そちらの方では本当に、それが幻想郷での常識であるかのように描かれてました。
ただ飯を食べてる話ですが、かなり怖かったです。
しかしこの作品は、最後恐らく魔理沙が箸を落としてるのでしょうが、霊夢が他の幻想郷の住民を食べるということが
魔理沙にとっては常識ではない=幻想郷にとって常識ではないということではないでしょうか?
霊夢の狂気は面白かったですし、2作品と対比することにより1つのものを魅せるというのもとても面白かったですが、
あとがきの上の方とは若干、食い違ってるなというのが気になりました。
とりあえず試み、話としては面白かったのでこの点数で。
博霊大結界の定義からすれば、中では共食いは常識という事なんですから・・・
あと注意書きはあって問題ないかと・・・面白さ半減程度なら構いませんが、苦手な人に不快な思いをさせてしまっては本末転倒でしょうし
でも話のボリューム的に少し物足りなかったかな~。
こういう話は個人的に好きなのでこれからも書いて欲しいです。
・・・まぁこれはこれで深みのある作品でしたが。
連作としても、考察としても面白い。
ただ、食事時と離れていたのは幸いだったw
出来れば、二度とやってほしくないパターンかな…
うああああ、ミラーニューロンが働いたら食えんわなあ・・・。
人類史上、食人行為で捕まった犯罪者は、かなりの数にのぼる…
こういうSSもありだよね!
あと最後のほうの
「ほっぺたにご飯粒をつける魔理沙を身ながら、」の部分は「見ながら」の誤植だと思うよ!
・・・夢オチだといってよバーニィ!
誤字っぽいものの報告
霊夢は懐から勘定を取り出しすと~ 出しすと
永琳が変わりにつきはじめた 変わりに
「こっちのニラのい炒め物の肉はちょっと い炒め物
しかし少しずつ食べる対象(妖怪)が拡大していって、獣属性の無い妖怪も食べるようになって、
魔法使いとかも食べるようになって、ついには人間も食べそうだと思った。(人間は少ないからそれはないか?)
人間が妖怪を襲って食べたら幻想郷のシステム(妖怪が人間を襲い、人間は妖怪を退治する)が
崩壊するんじゃないかとか、カエルは加熱して食べるものだよとか突っ込みはいろいろあるが、
文花帖(書籍)のミスティアや鈴仙と、それに対する霊夢を思い出すとこういう作品はありだと思う。
人間がスーパーの豚肉を食べる場合と、ペットとして飼っていた豚を食べる場合では、
心理的な影響がかなり違うから、魔理沙の態度はそのあたりが原因と解釈しました。
彼女は知人(知妖怪)でなければ、ネコやカラスの肉を食べられるだろうと思います。
みんなぶら下がってるのかな…。
でもニラの炒め物たべたい。
ほんとに血の気が引いた……。
と、感じた私の感性は異端なのでしょうか。
アレですね、食べちゃいたいほど可愛いってヤツですよね、うん。
いやぁ…正直裏切られましたね、いい意味で。
ホラーは夜中に読むものじゃないなあ……
なんてcrazyだ....
霊夢の共食いだけは絶対に許せないという気持ちから生まれた狂気的な行動、
何故そんなことをしたのか?今後はどうするつもりなのか?他に食べる物はなかったのか?
それらの疑問が浮かんでしまってオチを素直に楽しむことが出来ませんでした。
グロ系ホラーだ、うん。
この後魔理沙が発狂しませんように……。
しかし点数をつけるのが難しい作品だったなぁ
望んでなったとしても望まぬとしても
人が妖怪を喰ってなにが悪いということでしょうか