「いや、ちょっと待て」
ミスティアがよく通る声で待ったをかけたのは当然と言える。
焼き鳥撲滅の為に鰻屋を始めたと言うのに、そんなのぼりを目の前に掲げられては本末転倒である。
「何?私の目の前で焼き鳥とか。何?喧嘩売ってる?」
「そう言われても……」
黙れ竹林ホームレス。
喉まで出掛かった言葉を、ミスティアは必死に噛み殺した。
NGワードに触れては自分の屋台が灰にされかねない。
2ボスの自分が、生き巫女の懐を抜く幻想の郷を渡るには処世術が肝心だ。それがEXな裏ボス。しかも不死人となればその重要性はハネ上がる。
強気に出るのは良いが、あくまで向こうを怒らせない範囲で言うこと。これ格下のルール。
「大体ね、焼き鳥ったって一匹丸々焼くなんでどういう了見よ。屋台の飲み屋で丸ごと出されたら普通引かれるわよ!」
「え、そーなのかー?ただ鳥を焼けば良いんじゃないんだな」
「……まてまて、待ちなさい」
よくよく見れば、味付けも何も無い、本当にただの炙り焼きだ。最低塩胡椒ぐらいは振るものだろうに、それすら無い。
「ちょっと貴方、こっち座りなさい」
「いや、でも商売が……」
「それで商売とか、ふんどし堂の店主だって突っ込むよ!」
ミスティアの一喝に、藤原妹紅はもこーんと頭を垂れる。そしてその言葉に従い、ミスティアの屋台にちょこんと座った。
そして懐から煙草を取り出すミスティア。銘柄は勿論古き良き橙色も眩しいecho。
中から二本取り出し、一本を自分の口に、もう一本を逆向きにして妹紅に差し出す。
「吸う?」
「あ、頂きます」
何故か敬語になっている妹紅。屋台とは言え、カウンターと言うのは何故か敬語を使ってしまう魔力がある。
いそいそと着火して煙を吸い込んだ途端、ゲホゴホと咽まくるもこたん。
「ごっほ!ごほごほ!何これ!?きつっごほっ」
「炎扱うのに煙草駄目なの?よく吸ってた様に見えたけど」
「貫禄が出るってけーねが言ってたから、いつも煙草チョコを」
「じゃあ断りなよ!」
下戸にスコッチを飲ませる様な物だ。
「でも人様に奨められたものを断るのはよくないってけーねが言ってたし……」
「いや、私妖怪だし」
「じゃあ妖怪様に奨められたものだし」
「主体性!主体性!」
ばんばんとカウンターを叩くみすちーに、妹紅がビクっとなった。
お前はあれか、けーねが言ったらピンクの水玉の象の存在も信じるのか。
突っ込みも程々に、ミスティアは本題に入る。
「……でさあ、なんでまた屋台なんか始めたの?」
「うん、けーねが、最近寺子屋の経営が厳しいって言ってるの聞いて、何か私でも出来ることはないかなあと」
「それは関心だね。けど焼き鳥は止めなさい」
「えー。でも屋台って言ったら焼き鳥じゃない?」
「世間的にはともかく、私にはそれを肯定することは出来ない。そもそもあなたのあれは焼き鳥ではない」
近いと言えばローストチキンが上げられるが、ミスティアはまず自分が鳥であると言う観点からそれを許せない。
そして味付けも何もあったものではない丸焼きということに関して、屋台を預かる店主として許せない。
つまりダブルで許せない。直訳すると二重に許せない。要するに許せない。
「百歩譲って屋台をやるのは構わないけどね、ちゃんと下ごしらえをした『料理』を出して欲しいわ。鳥以外で」
「うーん……でものぼり作っちゃったし。もう資金も無いし」
燦然と輝く「やきとりはじめました」ののぼり。ボロ切れの様な粗末な屋台本体より輝くそれは、どうにも荷が勝ちすぎている。
「あのね……屋台ってのは看板を見せるところじゃないの。食べ物、そして憩いを売る場所なんだよ?店舗を構えるなら大看板は必要だろうけど、屋台にあっては提灯一つでも十分。味さえ覚えて貰えれば、お客さんは自然に足を運んでくれるの」
煙を吐き出しながらミスティアがしみじみ語る。
思い起こせば色々あった。思わずその時を元にした歌を口ずさむ
気がついたら同じ川ばかり浚い、何時の間にか日が暮れていた
諦めずに川の流れに挑戦するけど、いつも下流に消える
河童に泣いて頼んで、楽な穴場のポイント知るけど
何回川をやっても何回やってもヤツメウナギがさばけないよ
あのぬるぬる何回やっても掴めない
無理やり挟んで固定するけどすぐさまぬるりと抜け出る
串焼きとかも試してみたけど噛まれて吸われちゃ意味が無い
だから次は絶対さばくため、わたし目打ちだけは最後までとっておく
ああ、なんだか泣けてきた。でもその時の苦労があった為に今の自分がいるのだ。
「……苦労、したんだねぇ」
「ぐすっ……貰い泣きしてるあなたに言われたくないよ」
苦労は買ってでもしろ。これはきっと妖怪にも当てはまる言葉なのだろう。
目元に溜まった涙を拭い、ミスティアはふとそんなことを思う。
「でも、どうしよう。焼き鳥が駄目なんじゃ私何を出したら良いか……」
「でもねぇ、屋台をはじめようって考えて「焼き鳥」とか「おでん」とかを考えてる時点であんまり流行らないと思うよ?何かこう、意外性のあるものの方が……」
言われて、妹紅はポンと手を叩いた。
「そうだ!この豪勢なのぼりもったいないだろうし、鳥だけど鳥じゃないあれはどうかな。私の住んでるところにはたくさんいるし」
「あれ?」
「ついでに筍もあわせればそこそこバリエーションも増えるだろうし……うん、そうしよう!」
困惑するミスティアをよそに、妹紅は納得良く出来になったら教えると言い、嬉々として屋台を引いていく。
「まあ、頑張りなよ~」
妹紅の屋台が見えなくなるまで、ミスティアは手を振っていた。
「そんなことがあったのか。ミスティアには礼を言わねばならんな」
「そうだな。無事に店も出せたし。客も結構来てるし」
暗い竹林の前、月明かりの下に浮かぶ『妹紅庵』の文字。
「しかしだな、妹紅。何も私の為にそこまでやってくれなくとも」
「良いんだよけーね。私がやりたいんだ」
「妹紅……」
「慧音……」
「看板に偽りあーーーーーーり!」
二人の見つめ愛をブチ壊す様に、無粋な叫びが木霊した。
「鈴仙じゃないか。『やきとり』食ってくか」
「違う!それ焼き鳥じゃないし!兎だし!」
涙目で「兎料理禁止」のプラカードを抱えているのは、誰あろう鈴仙・優曇華院・イナバ。
何しろサイコロ状に調理され、串に通されたその食材は、間違いなく兎なのだ。
「何を言っているんだ。こんなでかい耳が耳な訳無い。これは羽だ。それにぴょんぴょん『飛んで』いるし、鳥で間違いないじゃないか」
「詭弁よ!」
妹紅の答えに激昂する鈴仙に対し、慧音は「やきとり」をつまみながら五月蝿そうに手をひらひらさせる。
「だったら、一羽、二羽と数えるのは何故だ?」
「うぐ……それは昔のお坊さんが……」
「どっちにしてもこれは「やきとり」であって焼き鳥ではない。元が何であっても今は「やきとり」と言う料理だ。看板に偽りありとは心外だな、妹紅。もぐもぐ」
「まあいいじゃないか、ほら、筍の御浸し」
「ああもう、妹紅の料理美味しいなあ」
ぺろりとやきとりを平らげた慧音に、何も言えない鈴仙。
「うわぁぁぁぁん!!」
プラカードを捨てて走り出す鈴仙。目からは滝の様な涙が月明かりに照らされ、綺麗な虹を描いていた。
「やれやれ、真面目な奴だが、あれでは苦労するだろうな」
「大丈夫、慧音はとっても魅力的だ」
「ははは。よせよせ、掘りたくなるじゃないか」
「もこ~ん///」
ひた走り十分弱。
鈴仙は能力を使っているときよりも真っ赤な目で夜雀庵に駆け込んだ。
とりあえず掛け付けにと、温燗一つにヤツメウナギの蒲焼を注文する。
「よしよし、まあ良いことあるさ。それにしても何があったの?」
「ひどいのよみすちー。兎を料理して屋台で出してる連中がいるのよ。許せないわ」
「それは酷い奴だね。顔が見てみたいよ」
「でしょ!?しかも悪どいことに「焼き兎」って名前じゃないの。なんとその名前が……」
「あ、ごめんよ鈴仙。蒲焼終わりだわ」
言い終わらない内にミスティアの一言。しかし鈴仙にとってそれは話題を転換するに十分な物だった
「ええっ!?傷心の私に何も出してくれないの!?嘘だと言ってよみすちー!」
「うーん、しょうがないなぁ。前に縁のあった娘に貰った試供品ならあるんだけど。その娘も今屋台やってるの」
「この際なんでも良いわ。食べて飲んで、辛い現実忘れたい……戦いたくない、現実と」
「名前がちょっと嫌なんだけどねー」
鈴仙の言葉を軽く流し、ミスティアはてきぱきと何かの肉を串に通す。
ネギを間に挟んだそれは、焼く前からもう美味しそうな脂をたたえていた。
「何の肉?」
「今度教えてくれるって言ってたけど、クセも少なくてけっこういけるよ。少なくとも鳥じゃないのは確か」
少量の塩胡椒の上からメインのタレを適度に塗る。
ぱち、ぱちと油の跳ねる音が実に香ばしい。
「ああ、良い匂い」
「ん、こんなものかな」
絶妙なタイミングで墨火から引き上げると、彩りも良く皿に盛り付ける。
酒と共に鈴仙の前に差し出すと、鈴仙を心から応援する笑顔で料理名を告げた。
「『やきとり』お待ち!」
共食いになっちゃう。
と、まあ面白お話でした。
妹紅がなんか良い。
「もこ~ん///」
ここでやられた
「もこ~ん///」
なんだこのバカップルww
あとなにげにえげつない話だな。このオチは結構賛否両論出そう。
わかりやすいブラックユーモア、嫌いじゃないんだけど。
しかしこのもこけーねはもうダメだ。ついでに鈴仙のその後が気になります
まあそれはおいといて、面白かったです。
ウドンゲ、それ焼き鳥とちゃう、兎や
たしか室蘭だっけかな、、、、、
そうですね、感想としては……状況が把握し難い文かな、と。始まりから終わりまで脈絡がないように感じますし。
まあ、私の読解能力が足りないせいでもあるんでしょうがw
面白かったです。
ただいきなり「ふんどし堂」という単語を使ったのはちょっといただけません。
ギャグ(ブラックですが)ssなのでそうしたのかと思いますが、それでも使うべきではなかったでしょう。
さて、後編?へ・・・
後編にいってみるかー
それは兎も角もこたんww
そりゃ「やきとり」っちゃやきとりだが。鈴仙食ったのかな?
九州圏としては竹串刺してりゃなんでも焼き鳥なんです(たとえ豚バラでもホタテでも)。
というところまで書かなかったのは良心であろう。
うどんげ「おゐこら」
てゐ「飛べねぇ兎は、ただの兎さ」
妹紅「そうか、なら飛べる兎だけにしとこう」
うどんげ「おゐこら」