~注意~
・この作品はラブラブです。
・この作品にはやや百合的表現が含まれているかもしれません。
・設定的に自分設定(口調や笑い方)などがちょっとだけ含まれて居ます。
・誤字脱字が多いかもしれません。もしあったらご報告をお願いします。
以上を踏まえた上で読んでくれると、作者が小躍りします。
太陽の畑。
誰が始めにそう呼んだのか知る者はいないけれど、私はその呼び名をとても気に入っている。
太陽とは絶対的なもの。無ければ花も作物も育たず、永遠に夜と闇の世界になってしまう。
春には優しく、夏には煌びやかに、秋は和やかに、冬は静かに…
四季折々、様々な日光でこの幻想郷を暖め、そして生き物の支えとなるもの。
自分が育てた向日葵たちが、そんな大きく強大なものに例えられて悪い気がするわけも無い。
いや、あの紅い城のお嬢様なら嫌な気もするかもしれないが、とにかく私こと風見幽香は気に入っていた。
「さて、今日もたくさんお水を飲んで立派に育つのよ」
如雨露を傾けて近くの向日葵たちに水をあげていく。
畑に対しては微々たる物かもしれないが、それでも少し位は足しになるだろう。
夏ということもあってここのところ暑い日が続いているし、いくつか弱っている向日葵もあるのだ。
地面は確かに乾いている。日陰になる向日葵たちの根元さえもだ。
「太陽の畑が太陽にやられちゃ笑い話にもならないし、そろそろ雨の一つでも降ってくれればいいんだけど」
しかし、日傘を傾けて空を見ても元気よく太陽は輝いており、雲一つ無い青空だった。
解ってはいるものの溜息の一つぐらい出したくなる。
もしも何かしらの異変ならば霊夢が動く前に私が動いて解決してやりたい…
だが、連日の快晴は異変でもなんでもない、ただ単なる天気のせいだ。
いくら私が幻想郷で最強を自負しているとは言え、こればっかりはどうしようもない。
「へぇ、ここが太陽の畑か~」
「!?」
「っと、酒の肴には似合わないけど確かに綺麗なところだね~」
声のした方を見上げれば、突然何も無い場所から現れる角の生えた少女。いや、鬼か。
あの八雲紫でさえ隙間と境界というふざけた能力を使って移動しているというのに、こいつは本当に突然現れた。
まるで最初からそこにいたかのように空に寝転がり、私の畑を見下ろしている。
鬼にあんな能力は無いはず…ならば、あれはアイツの何かしらの力だろうか――
「おや?」
「あっ…」
ふと目が合えば、思考していた私の目の前に下りてくる小鬼。
顔も赤くて酔っているのか、ちょっと酒臭い。
鬼と酒は切っても切れない縁にあるというが、昼間から酒臭いのはややうんざりするわね。
それとゆらゆらと揺れながら、私のことを見上げてくる姿はちょっと可愛いなぁ、とか思ってしまったのは秘密だ。
「初めましてかな?あんたが自称最強の風見幽香だね。私は伊吹の萃香、見ての通り鬼さ」
「私のことを知ってるの?それと、まだ幻想郷に鬼がいるなんてねぇ。とっくの昔に人間から逃げたと思ってたわ」
「にゃははは、確かに逃げたと思われても仕方ないかな。けど色々あって今は博麗神社で世話になってるんだ」
私一人だけどね。と付け加えれば、瓢箪を傾けゴクゴクと喉を鳴らして水のように酒を飲んでいく萃香。
プハァと吐く息は本当に酒臭くて、少し顔をしかめる。
しかし、こんな小鬼が神社にいるなんて何だか虐めたくなるじゃないの。
上手く痛めつければ霊夢とも戦えるかもしれないし。
あいつは異変が起こらないと殆ど戦うという気力を出さないから困ったものだ。
「なぁ、幽香聞きたいことがあるんだが?」
「あら、何かしら?」
左手に持つ日傘に妖気を溜めていく。
まずは鬼の証である角でも折れば少しは怒ってくれるかしら?
鬼のバカ力との真っ向勝負、中々に楽しめそう――
「ここの向日葵たちの大半は近いうちに枯れてしまうぞ?」
「……えっ?」
集めていた妖気が霧散してしまったが、それどころではなかった。
この小鬼や巫女と戦うよりも私にとっては大事なこの向日葵たちが枯れる。そう、鬼が言ったのだ。
鬼とは昔から嘘、偽りを酷く嫌う。それは性格ではなく、種族としての本能といってもいい。
「ど、どういうことよ!!!詳しく話しなさい!!」
「うわっ、お、落ち着いて幽香!ちゃんと説明するから、く、苦しい~」
「あっ、ごめん」
いつのまにか胸倉を掴んで持ち上げてしまっていた。
いくら萃香の体が軽いからとは言え、自分でも驚くほどに動揺してしまったらしく、力の加減を間違えていた。
すぐに手を離して萃香を降ろせば、一度深呼吸をして自分を落ち着かせる。
「鬼にも負けないような凄い力だね。で、枯れるっていったのは、この向日葵たちに圧倒的に水分が足りないからだよ」
「水分が足りないのは私だって解ってるけど、いくらなんでも数日の間に枯れるなんてことは無いでしょう?」
「…私は密と疎を操る程度の能力を持っているんだけど、此処に来る時に自分の体を疎にして霧になってやってきたんだ」
なるほど、妖気を察知できなかったのも微々すぎたからで、いきなり現れたのもその能力で納得がいく、が…
「それと向日葵たちのことと、どう関係があるの?」
「向日葵が弱っていたのが気になってね。霧になった時に体の一部を吸わせて、根っこの部分を見てきたんだ」
「…それで。」
「で、ここに密集して咲きすぎたせいで根っこが短い向日葵が水を貰えて無いんだ。このままじゃ、本当に枯れちゃうだろうね」
――ベギン!
酷い音を立てて日傘の柄が潰れた。
掌から赤い血が滲み出るが、痛いなんて感覚は麻痺している。
今年の夏が特別暑かったから、いつも以上に向日葵畑が大きかったから。
そんな言い訳をしている場合じゃない、四季のフラワーマスターと言われる私が花を枯らすなんてことは出来ない。
如雨露を持ち、萃香に背を向けて走りだす。
「そんな如雨露じゃ焼け石に水。徹夜でやってもおっつかないよ」
「だからって…だからって枯れるのをじっと待ってるなんて、出来るわけ無いでしょう!!!」
日傘を思い切り横に振り、声を荒げて萃香を睨む。
解っている。萃香の言っていることは正しい。
しかし、だからと言って私のお気に入りの向日葵たちを枯らす理由にはならない。
苛立ちを抑えながら、私はまた一つ深呼吸をして頭を冷やす。
「せっかく教えてくれたのに怒鳴って悪かったわ。けど、私は向日葵たちを枯らすつもりは無いの、今日はもうお喋りする暇はないわ」
そう言って今度こそ走り出そうとするが――
――ギャリ!
腕ごと身体が何かが巻きつき身動きが取れなくなる。
後ろを振り向けば、萃香から私へと伸びる光る鎖。
どこか困ったような萃香の顔だけれども、今の私はそんな顔を見ても苛立ちしかわかない。
「…何のつもり?邪魔をするって言うなら、虐めるどころじゃすまないわよ?」
「だ~か~ら~、落ち着きなさいって、うわ!!?」
体を縛り付けていた鎖を力でねじ切る。
手加減でもしたのか、それにしても脆すぎる。
遊んでいる暇は私には無い、日傘の先端を萃香へ向ければ、それ相応の殺気と妖気を放ってやる。
先端に集めた妖気は淡い光となって、その力を閃光として表現するだろう。
あとほんの少し力を込めれば、マスタースパーク並みのレーザーが放たれるのは誰の目から見ても明らかだ。
邪魔な鬼はここで殺す。
「鬼の鎖をいとも簡単に引き千切るか、最強って言うのは伊達じゃないね」
「萃香、さっき言ったでしょう?私はお喋りする暇も惜しんでいるの。邪魔するなら、ここで殺すわ」
「まったく、頭に血が上りすぎだよ。言ってるでしょう?落ち着け幽香。私が助けてやるからさ」
本日二度目の妖気の霧散。
目を丸くして萃香を見つめる。一瞬何を言っているのか、理解が遅れてしまう。
いや、理解はしているが、それを私は疑ってしまっている。
だって、私は幻想郷でも嫌われ者で、そんな私を頼んでもいないのに助けてくれるバカが目の前にいるんだもの。
訳が解らない。
「本当、なの?」
「鬼は嘘をつかないのさ!」
つい出てしまった言葉だったが、自慢げに小さな胸を精一杯に張って、ドンっと叩く萃香。
裏が無く、見るものを引き込ませ、こんなにも小さいのに全てを包み込むような。
まるでそう―――
――――太陽みたいに優しい笑顔がそこにはあった。
その後、すぐさま萃香が向日葵たちを助けてくれた。
雨雲を作るために密と疎を操る程度の能力を何度も使い、空の高い場所に水蒸気を集め、そして雨を降らす。
雨を降らすことなど、この幻想郷の実力者ならさほど珍しいことでも無いかもしれない。
しかし、無償で何の見返りも求めずにこれほど大掛かりなことをしてくれる者がいるだろうか。
私は空から落ちる雫から視線を外し、萃香へと向ける。
濡れるのもお構い無しに、自分が降らせた雨を見て満足気に歯を見せて笑っていた。
まるで周りの向日葵のように、雨をたくさん体に受けて嬉しそうに輝いている。
「何で雨を降らせてくれたの?」
「いや、最初は降らせるつもりも無かったんだけど、あんたがあまりにも必死だったからね」
「お情けってやつ?」
「鬼は義理とかを大事にするけどそれは違う。勿体無かったから、かな」
「勿体無い?」
「そだよ。あんたを見たのは今日が初めてじゃない。以前、霧になった時に何度か見たことがあるんだ」
「堂々と覗かれてたのね。どこぞのスキマ並みに厄介な鬼ね」
「紫と一緒はやだなぁ。ま、その時もあんたは向日葵畑にいたんだけど、その時の笑顔を思い出してね」
「えっ?」
「向日葵畑にいる時のあんたは良い笑顔をしていた。まるで太陽みたいなね。それが見れなくなるのは勿体無いだろう?」
かぁ、っと頬が熱くなる。
嘘をつかないにしても、もう少し違う表現があるだろうが。
しかも、わざわざ口に出して言うか!?
「だからさ、これで向日葵が元気になったらまた幽香の笑顔を見せて欲しいんだよね」
「…また覗くって言うなら嫌よ」
「えぇ~、せっかく雨を降らせてあげたのに~」
「それはあなたが勝手にしたんでしょ。それに覗かれるのは趣味じゃないの」
「む~、酷い言い草だね」
「本当のことよ。だから、今度はちゃんと普通の姿で遊びに来なさい!そしたら、少しは遊んであげるから」
「え………ふーん。えへへ~、幽香って照れ屋なんだね。何だか可愛いかも♪」
「なっ!?何を言ってるの!あんたの方が可愛いっての!」
「にゃははは、ありがとさん。じゃあどっちも可愛いってことだね」
「全く、って、こら!何くっついてんのよ!濡れちゃうでしょうが!」
突然飛び掛ってきたかと思えば、お腹の辺りに手を回してくる萃香。
一応恩があるから、引き剥がすのも何なので仕方なくそのままにしておいてやるけど、次はないんだから。
嬉しそうにお腹の辺りに顔を擦り付けるな、酒臭くなる!
っと突っ込もうとしたが、何か私の手をじっと見つめているので、私もそこに視線を持っていく。
「幽香~、血が出てる」
「あっ、そうだ。さっき力を入れたときに…」
「ふーん、良し。軽く消毒してやるよ。丁度酒もあるしな!」
ぐい、っと血が出ている手を引かれれば、その体からは想像できないほどの力で引っ張られ手を差し出してしまう。
どこまでもお節介な奴のようだ。妖怪はこの程度の傷は1日もすれば痕も残らないというのに。
瓢箪を逆様にして酒を傷口へ掛けられれば、かなりアルコール度数の高い酒なのだろう。
沁みる痛みに少し息を漏らすが、それも一瞬で次に生暖かい感触が…
………生暖かい?
「ぺろぺろ、ん~酒と血は合わないね。あっ、けど、幽香の手ってスベスベだね~」
「え、ぅ、あぅ、い、ぇぅ…はぁ…なっ!!?」
「ちゅ~~~、ん、はい!消毒完了!」
「な、な、な、な、な…」
「な?」
「何してんのよ!この飲兵衛がーーーー!!!!」
「うぐぅ!!!」
叫びと共に思いっきり日傘で頭を叩いてやった。
だって、雨に濡れるとかその辺の問題が問題じゃなくなったんだもん!
この鬼ってば私の手を舐めた上にちゅ、ちゅ~って、す、す、吸ってあーーーーー!!!もう!!
やるか!?もう殺と書いてやっちゃうか!?
「痛ったいな~!何するのよ!」
「こっちの台詞よ!もう言ったけど何度も言ってあげるわ!何してんのよ!」
「だから消毒でしょうが」
「消毒で舐めるやつがいるか!」
「ここにいる!」
「威張るなーーーー!!!」
数分ぐらい散々怒鳴り散らすと、しゅんと暗くなる萃香。心なしか角もしおれてるような。
そんな顔をされると、私が悪いことをしてみたいじゃない。
いや、確かに萃香は消毒をしてくれただけなのかもしれないけどね。
虐めは好き。しかし、こんな虐め方と暗い顔をされるのは好きじゃない。
「…………はぁ、もう…悪かったわよ」
「ふぇ?」
「怒鳴って悪かったわ。萃香は消毒してくれただけだもの、だから、その、悪かったわ」
「幽香、もう怒ってない?」
「怒ってないわよ。だからほら、鼻ふきなさい」
ハンカチを鼻に押し当ててやると、チーン!と思い切り鼻を鳴らし、次の瞬間にはまた笑顔を浮かべる萃香。
うん。やっぱりこいつは笑ってる方が可愛いし、よく似合う。
それにしても、どうやらこの向日葵みたいな小鬼を私は中々に気に入っているらしい。
普段ならこんなに他人に優しくすることなんて私はないはずだもの。
私は風見幽香。何よりも虐めることが好きなんだから。
「ありがと、幽香♪あっ、今」
「ん、何?私の顔に何か付いてる?」
「今の幽香、向日葵畑にいる時みたいな笑顔だった」
すぐさま自分の頬に触れると、確かに笑っていた。
無意識の笑み。誰かを怖がらせるために、挑発するための笑みじゃない。
自然に浮き上がってきた笑み。何故だがそれはとても久しぶりに感じた。
「私にもそんな笑顔向けてくれるんだね」
「あ、それは、何だか萃香が笑っていると太陽みたいで、こっちもつられて笑っちゃうからよ」
「私が、太陽?」
言った後にすぐに口を閉じ、何を言っているんだ、と自分へ突っ込んでしまう。
こいつといるとどうにも気が緩んで本音が出やすくなってしまうようだ。注意しないと。
しばらくの間、どうして太陽なの~とか嬉しそうに聞いてくる萃香がいたが、能力の使いすぎで疲れたのか、大きな岩が二つ重なって、ちょっとした雨よけになっている場所まで行けば寝てしまった。
私も雨よけに入れば、向日葵たちを改めて見つめる。
数時間前よりも生き生きとした花たちの姿。
それは此処でだらしなく寝ている小鬼のおかげ。
ふと思い出す。そう言えば、お礼の一つも言ってなかった。
寝ている萃香の顔の前でしゃがめば、無邪気なその寝顔に小さく笑みが浮かぶ。
「萃香。何で私なんかを助けてくれたのは解らないけど…萃香のおかげで、この子たちのも枯れずにすんだわ。ありがとう」
「どういたしまして」
「えっ?」
パチリと片目だけを開けて、ニヤっと笑う萃香。
「あ、あなた!起きてたの!?」
「ずっと起きてたに決まってるでしょうが。素直じゃない幽香のことだから、寝てないとお礼もいってくれなさそうじゃん?」
「な、あんたって鬼は~~~!!!!」
「にゃはははは、騙される方が悪いんだよ。っと!」
日傘を振り下ろす前に両腕を掴まれて動きを止められる。
がっしりと掴む両手は外せそうに無く、悔しいけど力を抜いて、これ以上攻撃しないということを伝える。
「次やったら魔理沙以上のフラワースパークでぶっ飛ばすからね」
「肝に銘じておくよ。っと、雨やんだね。もう少しすればお天道様も顔を出すかな」
体を跳ね起こし、岩場の上へ登っていく萃香。
私も空を飛んで岩場の上に向かえば、にっこりとまた歯を見せて笑顔を向けてくる。
ドクンと大きく鼓動を打つ心臓。
顔が赤くなるのを自覚すれば、その笑顔から視線を逸らす。
「今の、何よ一体」
「どうかしたの幽香?ほら、見なよ。いつのまにか夕暮れ時だったんだね。綺麗な夕日が見えるよ~」
その言葉に地平線を見れば、眩しいほどの朱色を放つ夕日に目を細める。
向日葵の黄色い絨毯も今だけは一斉に顔を紅く染めていた。
雫をたくさん受け止めた顔も葉もキラキラと輝いて、久しぶりに見る光景に見惚れてしまう。
「幽香」
「何よ」
「綺麗だね」
「そうね」
「幽香」
「何よ」
「私、幽香のこと好きになった」
「い、いきなり何を言ってるのよ!」
「ん?だって本当のことだよ?霊夢も魔理沙も好きだけど幽香も好きだ」
ズキン。今度は胸が痛みだす。
「萃香」
「何~」
「それは、友達として好きってこと?」
「んー、そうなるかな」
「そう」
ズキン。ズキン。痛い。
そうか、気に入ってるってさっき思ったけど、違う。
これは全然違う。
「萃香」
「何~」
「私は愛してるわ」
「ふぇ?」
「萃香の笑顔がすっごい素敵だし、私のことを対等に扱って、しかも助けてくれて、本当に嬉しかった」
「幽香?」
「だから、霊夢たちと同じような友達じゃ我慢できない」
「幽香、え、な、なに?」
「私の特別に――――私の、私の!!」
―――――太陽になりなさい!!―――――
夕暮れ時に影の唇が重なった。
紅い絨毯の上にどこまでも伸びる影法師。
数秒か数分か、時間の感覚などとうに無くて、影同士が離れれば、角の生えた影がペタンと座り込む。
日傘を持っていた影は、それを捨てて自分も同じように座り込み。
また影が重なる。
長く長く。
夕日が沈むまで、影の重なりが離れることは無かった。
「初めてだったのに~」
「うぐ」
「まさか突然口付けされるなんて思わなかったな~」
「あう」
「セクハラとして文屋に提供してみよっかな~」
「それはやめて」
「冗談だよ」
いつしか星が出てる時間。二人は肩を並べて岩に座っていた。
幽香が萃香後ろから抱くようにして、けれど主導権は萃香がもっているようだった。
「幽香」
「何よ」
「私ね。愛してると好きの違いは良く解らないし、恋人って言われてもピンとこないんだ」
「そう」
ズキン。ズキン。ズキン。警報のように幽香の心臓が痛みを持って跳ねる。
「だからさ幽香が私のことを愛してるっていうなら、教えてよ」
「教え、て?」
「そう。好きと愛してるの違いを私に教えて欲しい。それが解ったら、きっと私も幽香を愛せるから!」
雨を降らせた時みたいに、精一杯に小さな胸を張る萃香。
夜だというのに輝きがあせない笑顔。
ドクン!ドクン!ドクン!眩暈がするほどに強烈で見つめていられなくなる。
そんな幽香はすぐに顔を逸らそうとするけれど、それは鬼の手が頬を挟んで許さなかった。
「今日教えてくれたのはこれ。幽香からだけなんてずるいから、私もしてあげる。」
「~~~~ッ!!」
柔らかい唇同士が重なる。
嬉しそうに瞳を見つめる鬼と、目を白黒させながら行き場の無い手をふらつかせる妖怪。
周りは向日葵畑に囲まれて、空から星に見守られ。
いつしか抱き合って眠ってしまい、それはとても幸せそうな寝顔だった。
四季のフラワーマスター風見幽香は太陽の畑という向日葵が咲く場所が大好きだ。
そして、これからはそこに一輪の大きな花が加わる。
伊吹萃香という名の大きな大きな、フラワーマスターすらも心奪われる太陽のような花。
けれど、花はまだ蕾のようなもの。
きっとこれから風見幽香はこの花を一生懸命に愛するだろう。
いつか花が満開になって、その時本当に二人は結ばれるのだから。
~FIN~
・この作品はラブラブです。
・この作品にはやや百合的表現が含まれているかもしれません。
・設定的に自分設定(口調や笑い方)などがちょっとだけ含まれて居ます。
・誤字脱字が多いかもしれません。もしあったらご報告をお願いします。
以上を踏まえた上で読んでくれると、作者が小躍りします。
太陽の畑。
誰が始めにそう呼んだのか知る者はいないけれど、私はその呼び名をとても気に入っている。
太陽とは絶対的なもの。無ければ花も作物も育たず、永遠に夜と闇の世界になってしまう。
春には優しく、夏には煌びやかに、秋は和やかに、冬は静かに…
四季折々、様々な日光でこの幻想郷を暖め、そして生き物の支えとなるもの。
自分が育てた向日葵たちが、そんな大きく強大なものに例えられて悪い気がするわけも無い。
いや、あの紅い城のお嬢様なら嫌な気もするかもしれないが、とにかく私こと風見幽香は気に入っていた。
「さて、今日もたくさんお水を飲んで立派に育つのよ」
如雨露を傾けて近くの向日葵たちに水をあげていく。
畑に対しては微々たる物かもしれないが、それでも少し位は足しになるだろう。
夏ということもあってここのところ暑い日が続いているし、いくつか弱っている向日葵もあるのだ。
地面は確かに乾いている。日陰になる向日葵たちの根元さえもだ。
「太陽の畑が太陽にやられちゃ笑い話にもならないし、そろそろ雨の一つでも降ってくれればいいんだけど」
しかし、日傘を傾けて空を見ても元気よく太陽は輝いており、雲一つ無い青空だった。
解ってはいるものの溜息の一つぐらい出したくなる。
もしも何かしらの異変ならば霊夢が動く前に私が動いて解決してやりたい…
だが、連日の快晴は異変でもなんでもない、ただ単なる天気のせいだ。
いくら私が幻想郷で最強を自負しているとは言え、こればっかりはどうしようもない。
「へぇ、ここが太陽の畑か~」
「!?」
「っと、酒の肴には似合わないけど確かに綺麗なところだね~」
声のした方を見上げれば、突然何も無い場所から現れる角の生えた少女。いや、鬼か。
あの八雲紫でさえ隙間と境界というふざけた能力を使って移動しているというのに、こいつは本当に突然現れた。
まるで最初からそこにいたかのように空に寝転がり、私の畑を見下ろしている。
鬼にあんな能力は無いはず…ならば、あれはアイツの何かしらの力だろうか――
「おや?」
「あっ…」
ふと目が合えば、思考していた私の目の前に下りてくる小鬼。
顔も赤くて酔っているのか、ちょっと酒臭い。
鬼と酒は切っても切れない縁にあるというが、昼間から酒臭いのはややうんざりするわね。
それとゆらゆらと揺れながら、私のことを見上げてくる姿はちょっと可愛いなぁ、とか思ってしまったのは秘密だ。
「初めましてかな?あんたが自称最強の風見幽香だね。私は伊吹の萃香、見ての通り鬼さ」
「私のことを知ってるの?それと、まだ幻想郷に鬼がいるなんてねぇ。とっくの昔に人間から逃げたと思ってたわ」
「にゃははは、確かに逃げたと思われても仕方ないかな。けど色々あって今は博麗神社で世話になってるんだ」
私一人だけどね。と付け加えれば、瓢箪を傾けゴクゴクと喉を鳴らして水のように酒を飲んでいく萃香。
プハァと吐く息は本当に酒臭くて、少し顔をしかめる。
しかし、こんな小鬼が神社にいるなんて何だか虐めたくなるじゃないの。
上手く痛めつければ霊夢とも戦えるかもしれないし。
あいつは異変が起こらないと殆ど戦うという気力を出さないから困ったものだ。
「なぁ、幽香聞きたいことがあるんだが?」
「あら、何かしら?」
左手に持つ日傘に妖気を溜めていく。
まずは鬼の証である角でも折れば少しは怒ってくれるかしら?
鬼のバカ力との真っ向勝負、中々に楽しめそう――
「ここの向日葵たちの大半は近いうちに枯れてしまうぞ?」
「……えっ?」
集めていた妖気が霧散してしまったが、それどころではなかった。
この小鬼や巫女と戦うよりも私にとっては大事なこの向日葵たちが枯れる。そう、鬼が言ったのだ。
鬼とは昔から嘘、偽りを酷く嫌う。それは性格ではなく、種族としての本能といってもいい。
「ど、どういうことよ!!!詳しく話しなさい!!」
「うわっ、お、落ち着いて幽香!ちゃんと説明するから、く、苦しい~」
「あっ、ごめん」
いつのまにか胸倉を掴んで持ち上げてしまっていた。
いくら萃香の体が軽いからとは言え、自分でも驚くほどに動揺してしまったらしく、力の加減を間違えていた。
すぐに手を離して萃香を降ろせば、一度深呼吸をして自分を落ち着かせる。
「鬼にも負けないような凄い力だね。で、枯れるっていったのは、この向日葵たちに圧倒的に水分が足りないからだよ」
「水分が足りないのは私だって解ってるけど、いくらなんでも数日の間に枯れるなんてことは無いでしょう?」
「…私は密と疎を操る程度の能力を持っているんだけど、此処に来る時に自分の体を疎にして霧になってやってきたんだ」
なるほど、妖気を察知できなかったのも微々すぎたからで、いきなり現れたのもその能力で納得がいく、が…
「それと向日葵たちのことと、どう関係があるの?」
「向日葵が弱っていたのが気になってね。霧になった時に体の一部を吸わせて、根っこの部分を見てきたんだ」
「…それで。」
「で、ここに密集して咲きすぎたせいで根っこが短い向日葵が水を貰えて無いんだ。このままじゃ、本当に枯れちゃうだろうね」
――ベギン!
酷い音を立てて日傘の柄が潰れた。
掌から赤い血が滲み出るが、痛いなんて感覚は麻痺している。
今年の夏が特別暑かったから、いつも以上に向日葵畑が大きかったから。
そんな言い訳をしている場合じゃない、四季のフラワーマスターと言われる私が花を枯らすなんてことは出来ない。
如雨露を持ち、萃香に背を向けて走りだす。
「そんな如雨露じゃ焼け石に水。徹夜でやってもおっつかないよ」
「だからって…だからって枯れるのをじっと待ってるなんて、出来るわけ無いでしょう!!!」
日傘を思い切り横に振り、声を荒げて萃香を睨む。
解っている。萃香の言っていることは正しい。
しかし、だからと言って私のお気に入りの向日葵たちを枯らす理由にはならない。
苛立ちを抑えながら、私はまた一つ深呼吸をして頭を冷やす。
「せっかく教えてくれたのに怒鳴って悪かったわ。けど、私は向日葵たちを枯らすつもりは無いの、今日はもうお喋りする暇はないわ」
そう言って今度こそ走り出そうとするが――
――ギャリ!
腕ごと身体が何かが巻きつき身動きが取れなくなる。
後ろを振り向けば、萃香から私へと伸びる光る鎖。
どこか困ったような萃香の顔だけれども、今の私はそんな顔を見ても苛立ちしかわかない。
「…何のつもり?邪魔をするって言うなら、虐めるどころじゃすまないわよ?」
「だ~か~ら~、落ち着きなさいって、うわ!!?」
体を縛り付けていた鎖を力でねじ切る。
手加減でもしたのか、それにしても脆すぎる。
遊んでいる暇は私には無い、日傘の先端を萃香へ向ければ、それ相応の殺気と妖気を放ってやる。
先端に集めた妖気は淡い光となって、その力を閃光として表現するだろう。
あとほんの少し力を込めれば、マスタースパーク並みのレーザーが放たれるのは誰の目から見ても明らかだ。
邪魔な鬼はここで殺す。
「鬼の鎖をいとも簡単に引き千切るか、最強って言うのは伊達じゃないね」
「萃香、さっき言ったでしょう?私はお喋りする暇も惜しんでいるの。邪魔するなら、ここで殺すわ」
「まったく、頭に血が上りすぎだよ。言ってるでしょう?落ち着け幽香。私が助けてやるからさ」
本日二度目の妖気の霧散。
目を丸くして萃香を見つめる。一瞬何を言っているのか、理解が遅れてしまう。
いや、理解はしているが、それを私は疑ってしまっている。
だって、私は幻想郷でも嫌われ者で、そんな私を頼んでもいないのに助けてくれるバカが目の前にいるんだもの。
訳が解らない。
「本当、なの?」
「鬼は嘘をつかないのさ!」
つい出てしまった言葉だったが、自慢げに小さな胸を精一杯に張って、ドンっと叩く萃香。
裏が無く、見るものを引き込ませ、こんなにも小さいのに全てを包み込むような。
まるでそう―――
――――太陽みたいに優しい笑顔がそこにはあった。
その後、すぐさま萃香が向日葵たちを助けてくれた。
雨雲を作るために密と疎を操る程度の能力を何度も使い、空の高い場所に水蒸気を集め、そして雨を降らす。
雨を降らすことなど、この幻想郷の実力者ならさほど珍しいことでも無いかもしれない。
しかし、無償で何の見返りも求めずにこれほど大掛かりなことをしてくれる者がいるだろうか。
私は空から落ちる雫から視線を外し、萃香へと向ける。
濡れるのもお構い無しに、自分が降らせた雨を見て満足気に歯を見せて笑っていた。
まるで周りの向日葵のように、雨をたくさん体に受けて嬉しそうに輝いている。
「何で雨を降らせてくれたの?」
「いや、最初は降らせるつもりも無かったんだけど、あんたがあまりにも必死だったからね」
「お情けってやつ?」
「鬼は義理とかを大事にするけどそれは違う。勿体無かったから、かな」
「勿体無い?」
「そだよ。あんたを見たのは今日が初めてじゃない。以前、霧になった時に何度か見たことがあるんだ」
「堂々と覗かれてたのね。どこぞのスキマ並みに厄介な鬼ね」
「紫と一緒はやだなぁ。ま、その時もあんたは向日葵畑にいたんだけど、その時の笑顔を思い出してね」
「えっ?」
「向日葵畑にいる時のあんたは良い笑顔をしていた。まるで太陽みたいなね。それが見れなくなるのは勿体無いだろう?」
かぁ、っと頬が熱くなる。
嘘をつかないにしても、もう少し違う表現があるだろうが。
しかも、わざわざ口に出して言うか!?
「だからさ、これで向日葵が元気になったらまた幽香の笑顔を見せて欲しいんだよね」
「…また覗くって言うなら嫌よ」
「えぇ~、せっかく雨を降らせてあげたのに~」
「それはあなたが勝手にしたんでしょ。それに覗かれるのは趣味じゃないの」
「む~、酷い言い草だね」
「本当のことよ。だから、今度はちゃんと普通の姿で遊びに来なさい!そしたら、少しは遊んであげるから」
「え………ふーん。えへへ~、幽香って照れ屋なんだね。何だか可愛いかも♪」
「なっ!?何を言ってるの!あんたの方が可愛いっての!」
「にゃははは、ありがとさん。じゃあどっちも可愛いってことだね」
「全く、って、こら!何くっついてんのよ!濡れちゃうでしょうが!」
突然飛び掛ってきたかと思えば、お腹の辺りに手を回してくる萃香。
一応恩があるから、引き剥がすのも何なので仕方なくそのままにしておいてやるけど、次はないんだから。
嬉しそうにお腹の辺りに顔を擦り付けるな、酒臭くなる!
っと突っ込もうとしたが、何か私の手をじっと見つめているので、私もそこに視線を持っていく。
「幽香~、血が出てる」
「あっ、そうだ。さっき力を入れたときに…」
「ふーん、良し。軽く消毒してやるよ。丁度酒もあるしな!」
ぐい、っと血が出ている手を引かれれば、その体からは想像できないほどの力で引っ張られ手を差し出してしまう。
どこまでもお節介な奴のようだ。妖怪はこの程度の傷は1日もすれば痕も残らないというのに。
瓢箪を逆様にして酒を傷口へ掛けられれば、かなりアルコール度数の高い酒なのだろう。
沁みる痛みに少し息を漏らすが、それも一瞬で次に生暖かい感触が…
………生暖かい?
「ぺろぺろ、ん~酒と血は合わないね。あっ、けど、幽香の手ってスベスベだね~」
「え、ぅ、あぅ、い、ぇぅ…はぁ…なっ!!?」
「ちゅ~~~、ん、はい!消毒完了!」
「な、な、な、な、な…」
「な?」
「何してんのよ!この飲兵衛がーーーー!!!!」
「うぐぅ!!!」
叫びと共に思いっきり日傘で頭を叩いてやった。
だって、雨に濡れるとかその辺の問題が問題じゃなくなったんだもん!
この鬼ってば私の手を舐めた上にちゅ、ちゅ~って、す、す、吸ってあーーーーー!!!もう!!
やるか!?もう殺と書いてやっちゃうか!?
「痛ったいな~!何するのよ!」
「こっちの台詞よ!もう言ったけど何度も言ってあげるわ!何してんのよ!」
「だから消毒でしょうが」
「消毒で舐めるやつがいるか!」
「ここにいる!」
「威張るなーーーー!!!」
数分ぐらい散々怒鳴り散らすと、しゅんと暗くなる萃香。心なしか角もしおれてるような。
そんな顔をされると、私が悪いことをしてみたいじゃない。
いや、確かに萃香は消毒をしてくれただけなのかもしれないけどね。
虐めは好き。しかし、こんな虐め方と暗い顔をされるのは好きじゃない。
「…………はぁ、もう…悪かったわよ」
「ふぇ?」
「怒鳴って悪かったわ。萃香は消毒してくれただけだもの、だから、その、悪かったわ」
「幽香、もう怒ってない?」
「怒ってないわよ。だからほら、鼻ふきなさい」
ハンカチを鼻に押し当ててやると、チーン!と思い切り鼻を鳴らし、次の瞬間にはまた笑顔を浮かべる萃香。
うん。やっぱりこいつは笑ってる方が可愛いし、よく似合う。
それにしても、どうやらこの向日葵みたいな小鬼を私は中々に気に入っているらしい。
普段ならこんなに他人に優しくすることなんて私はないはずだもの。
私は風見幽香。何よりも虐めることが好きなんだから。
「ありがと、幽香♪あっ、今」
「ん、何?私の顔に何か付いてる?」
「今の幽香、向日葵畑にいる時みたいな笑顔だった」
すぐさま自分の頬に触れると、確かに笑っていた。
無意識の笑み。誰かを怖がらせるために、挑発するための笑みじゃない。
自然に浮き上がってきた笑み。何故だがそれはとても久しぶりに感じた。
「私にもそんな笑顔向けてくれるんだね」
「あ、それは、何だか萃香が笑っていると太陽みたいで、こっちもつられて笑っちゃうからよ」
「私が、太陽?」
言った後にすぐに口を閉じ、何を言っているんだ、と自分へ突っ込んでしまう。
こいつといるとどうにも気が緩んで本音が出やすくなってしまうようだ。注意しないと。
しばらくの間、どうして太陽なの~とか嬉しそうに聞いてくる萃香がいたが、能力の使いすぎで疲れたのか、大きな岩が二つ重なって、ちょっとした雨よけになっている場所まで行けば寝てしまった。
私も雨よけに入れば、向日葵たちを改めて見つめる。
数時間前よりも生き生きとした花たちの姿。
それは此処でだらしなく寝ている小鬼のおかげ。
ふと思い出す。そう言えば、お礼の一つも言ってなかった。
寝ている萃香の顔の前でしゃがめば、無邪気なその寝顔に小さく笑みが浮かぶ。
「萃香。何で私なんかを助けてくれたのは解らないけど…萃香のおかげで、この子たちのも枯れずにすんだわ。ありがとう」
「どういたしまして」
「えっ?」
パチリと片目だけを開けて、ニヤっと笑う萃香。
「あ、あなた!起きてたの!?」
「ずっと起きてたに決まってるでしょうが。素直じゃない幽香のことだから、寝てないとお礼もいってくれなさそうじゃん?」
「な、あんたって鬼は~~~!!!!」
「にゃはははは、騙される方が悪いんだよ。っと!」
日傘を振り下ろす前に両腕を掴まれて動きを止められる。
がっしりと掴む両手は外せそうに無く、悔しいけど力を抜いて、これ以上攻撃しないということを伝える。
「次やったら魔理沙以上のフラワースパークでぶっ飛ばすからね」
「肝に銘じておくよ。っと、雨やんだね。もう少しすればお天道様も顔を出すかな」
体を跳ね起こし、岩場の上へ登っていく萃香。
私も空を飛んで岩場の上に向かえば、にっこりとまた歯を見せて笑顔を向けてくる。
ドクンと大きく鼓動を打つ心臓。
顔が赤くなるのを自覚すれば、その笑顔から視線を逸らす。
「今の、何よ一体」
「どうかしたの幽香?ほら、見なよ。いつのまにか夕暮れ時だったんだね。綺麗な夕日が見えるよ~」
その言葉に地平線を見れば、眩しいほどの朱色を放つ夕日に目を細める。
向日葵の黄色い絨毯も今だけは一斉に顔を紅く染めていた。
雫をたくさん受け止めた顔も葉もキラキラと輝いて、久しぶりに見る光景に見惚れてしまう。
「幽香」
「何よ」
「綺麗だね」
「そうね」
「幽香」
「何よ」
「私、幽香のこと好きになった」
「い、いきなり何を言ってるのよ!」
「ん?だって本当のことだよ?霊夢も魔理沙も好きだけど幽香も好きだ」
ズキン。今度は胸が痛みだす。
「萃香」
「何~」
「それは、友達として好きってこと?」
「んー、そうなるかな」
「そう」
ズキン。ズキン。痛い。
そうか、気に入ってるってさっき思ったけど、違う。
これは全然違う。
「萃香」
「何~」
「私は愛してるわ」
「ふぇ?」
「萃香の笑顔がすっごい素敵だし、私のことを対等に扱って、しかも助けてくれて、本当に嬉しかった」
「幽香?」
「だから、霊夢たちと同じような友達じゃ我慢できない」
「幽香、え、な、なに?」
「私の特別に――――私の、私の!!」
―――――太陽になりなさい!!―――――
夕暮れ時に影の唇が重なった。
紅い絨毯の上にどこまでも伸びる影法師。
数秒か数分か、時間の感覚などとうに無くて、影同士が離れれば、角の生えた影がペタンと座り込む。
日傘を持っていた影は、それを捨てて自分も同じように座り込み。
また影が重なる。
長く長く。
夕日が沈むまで、影の重なりが離れることは無かった。
「初めてだったのに~」
「うぐ」
「まさか突然口付けされるなんて思わなかったな~」
「あう」
「セクハラとして文屋に提供してみよっかな~」
「それはやめて」
「冗談だよ」
いつしか星が出てる時間。二人は肩を並べて岩に座っていた。
幽香が萃香後ろから抱くようにして、けれど主導権は萃香がもっているようだった。
「幽香」
「何よ」
「私ね。愛してると好きの違いは良く解らないし、恋人って言われてもピンとこないんだ」
「そう」
ズキン。ズキン。ズキン。警報のように幽香の心臓が痛みを持って跳ねる。
「だからさ幽香が私のことを愛してるっていうなら、教えてよ」
「教え、て?」
「そう。好きと愛してるの違いを私に教えて欲しい。それが解ったら、きっと私も幽香を愛せるから!」
雨を降らせた時みたいに、精一杯に小さな胸を張る萃香。
夜だというのに輝きがあせない笑顔。
ドクン!ドクン!ドクン!眩暈がするほどに強烈で見つめていられなくなる。
そんな幽香はすぐに顔を逸らそうとするけれど、それは鬼の手が頬を挟んで許さなかった。
「今日教えてくれたのはこれ。幽香からだけなんてずるいから、私もしてあげる。」
「~~~~ッ!!」
柔らかい唇同士が重なる。
嬉しそうに瞳を見つめる鬼と、目を白黒させながら行き場の無い手をふらつかせる妖怪。
周りは向日葵畑に囲まれて、空から星に見守られ。
いつしか抱き合って眠ってしまい、それはとても幸せそうな寝顔だった。
四季のフラワーマスター風見幽香は太陽の畑という向日葵が咲く場所が大好きだ。
そして、これからはそこに一輪の大きな花が加わる。
伊吹萃香という名の大きな大きな、フラワーマスターすらも心奪われる太陽のような花。
けれど、花はまだ蕾のようなもの。
きっとこれから風見幽香はこの花を一生懸命に愛するだろう。
いつか花が満開になって、その時本当に二人は結ばれるのだから。
~FIN~
逆にそれが素晴らしくも感じとれました。
出来れば続きがあればいいなぁと思ったss。
脱字情報
>幽香が萃香後ろから抱くようにして
萃香『を』ですかね
これからも頑張ってください
太陽のような笑顔か……見てみたいな。
心情はころころ変わるが、必然的な変化ではないから、言ってしまえば物語としてはいらないエピソードだからそう感じるのかも。
好きだという感情が前提として存在するならばともかく、ゼロからの状態からスタートしてそれを好意まで持っていくにはそれなりにエネルギーみたいなものを高めないといけないわけで、そういう視点から見てみると、ずわっといきすぎな感じなんですよね。
ここで問題となるのは心情は論理的なつながりを有するということです。
つまりエピソードとしての量を単純に増やしても、感情の必然が高まるわけではなく、エピソード自体に必然が欲しい。
本作品ではどうかというと、変化が早すぎるせいか、どうもエピソード自体の重要性が相対的に低くなっているように感じる。
だから単調に感じる。退屈。
これに読者がついていけない場合、どういう事態が生じるかというと……、なんというか恥ずかしいですw
いやニヤニヤはできるんですけど、作者氏の妄想が暴走しているなーというのが丸わかりしてしまうのが原因でしょう。
本作品についてどうかと問われれば、若干そういう側面もなきにしもあらずです。
SSとしてはこれで良いのかもしれない可能性は留保させていただいですが、メリハリをつけると物語としてさらにおもしろくなるのではないかと思います。
文章について思ったこと。
詩的でよかったです。
まったりしてる。
アドバイスありがとうございます。
>>2のNIKUZINさんでも言われたとおり、やはり展開が不自然・急すぎるというのがあるみたいですね。そしてメリハリが弱いというのも指摘の通りかと思います。前回SSでの一貫性が乏しいというのとやや告示するところもあるかもしれません。妄想が暴走~というのは、否定できないですね。(苦笑)
まだまだ未熟な私にしっかりとしたアドバイスを授けてくれて、本当にありがとうございます。
次回があるなら、しっかりとアドバイスに繋げるように作り上げたいかと思います。
では評価をくれた皆様、コメントをくれた皆様。ありがとうございました。
ああ、もうゆうかりん可愛い。