晴天の空。眼下の湖は静かに佇み、頬を撫ぜる空気はどこまでも爽やかにすぎて行く。
そして空を泳ぐ私の視界はどこまでも遠く澄み切っていた。
「むぅ……私は何をしているのでしょうか」
思わずひとりごちてしまう。本当になんでこんな所に私はいるのだろう。
別に私たちには「有事の時以外は雲の中に居なくちゃいけない」とかそんな決まりはない。
けれど、普通の竜宮の使いであるはずの私は、そんな生活に不満は無かった。
だと言うのに、なんで私はこんな所にいるのだろう?
まあ、悩んでも仕方が無い。結局そのまま、ふよふよと湖の上を漂う。
凄く気持ちがいいし、たまにはこんな日があってもいいだろう。
そう気持ちを切り替えて楽しむことにした。
そうしてみると、これが不思議なもので今まで見えなかったものが見えるようになる。
「うわぁ……空気の読めてない家」
「それはなんとも失礼な話……と、言いたいところだけどそうとも言えなくもないのよね」
「へ、へうっ……ひあぁぁぁぁっ!」
「あら、驚かしちゃったかしら。ごめんなさいね」
びっくりした……すっごくびっくりした。とってもびっくりした。ちょっと今時を生きる娘風だと「ちょっ、まじねー。ぱねーよ」と言ってしまうぐらいに驚いた。
空気が読める程度の私の能力は、場の空気といった抽象的なものから気流といった具体的なものまで読める。つまるところ、こういう風な知らないうちに、誰かが後ろに立ってひとり言に返事をするなんてことは予想外にも程がある。
あぅ……胸のどきどきが収まらない。
こんなのだから吊橋効果なんて言葉や現象が出来てしまうんだろうな、なんて関係の無いことを考える。
そうして関係の無いことへと思考を無理やり移して自分を落ち着かせる。
そこに至って、ようやく背後の人物について考える余裕が生まれた。
「あまり驚かせないで下さい。それはあまり空気の読めた行動ではありませんよ!」
「あら。貴女が遠目にあまりにも暇そうだから、刺激を与えてあげようと思ったんだけど迷惑だったようね」
「迷惑とまでは言いませんけど、もっと普通に話しかけて下さい。人を驚かすなんて趣味が悪いですよ」
「いえね、貴女みたいにからかいがいのある相手に不足してて。悪かったわね……泣くとは思わなかったわ。ごめんなさいね」
からかいがいって……確かに総領娘様にも、真面目だから面白いとかよくわからないことを言われる。
だからといって、出会い頭にからかわれるというのが納得できるわけじゃない。
むしろ、余計に納得できない。理不尽にもほどがある。
そんな思いが表情に出てしまったのか、くすくすと笑われた。
そもそも泣いてなんていない……ち、ちょっと目にゴミは入っていて涙が滲んでいるぐらいはしていたかもしれないけど。
「わ、笑わないで下さい! これでも少しは気にしているんですからっ」
「ご、ごめんなさい。笑うつもりはなかったんだけど……可愛くって」
「なっ……!?」
か、可愛いなんて言われるとは思ってもみなかった。
本当に、地上の人たちは空気を読むということを知らない……いや、天界の人も微妙な所ではあるのだけど。
特に総領娘様なんかは「からけ? 何それ? 新手のおつまみ? おいしーの?」なんて4つもの疑問符をつけて言う始末である。
……有事以外は地上に住もうかしら?
思わずそんなことまで考えてしまう。
「いけません。私の主は総領娘様じゃありません!」
「どうしたのよ? 考え込んだと思ったら、唐突に叫んだりして」
「あぅ……な、なんでもないです。ただ、その、ちょっと天界に戻りたくないなと思っただけです」
「そう。なら丁度いいわ。館にいらっしゃい。貴女なら客人として歓迎するわ」
こちらに手が伸ばされる。
彼女は? 余所行きではない純粋な笑顔のようだ。
天気は? 青く澄んだ気持ちのいい晴れ空だ。
危険は? とりあえず総領娘様が気まぐれを起こして要石を引っこ抜きでもしない限りは無さそうだ。
空気は? 彼女からウェルカムなオーラがこれでもかと立ち上っている。笑顔が「読めよ」ってこれでもか、と語っている。
結論は……まあ、こうして考えるまでも無かったのだけど。
「では……お邪魔してもよろしいですか?」
「ええ、勿論ですわ」
「すごい。貴婦人の礼なんて初めて見ました」
「それなら、やった甲斐があるわね」
こちらへと手が伸ばされる。
意図はわからなかったが、空気は読めたのでこちらの手を彼女の手に合わせてみる。
「さあ、行きましょう? 精一杯の歓迎をさせていただきますわ」
そう言われたところで私たちは紅い館へと辿り着いていた。
私は手を引かれるのに任せて、彼女のほうを向いてた所為で気付かなかったと一瞬思ったが、距離がありすぎる。
きっと、彼女の能力でここまで連れてこられたのだろう。間抜けな顔をしていなかったが気になるところだ。
「ただいま、美鈴」
「おかえりなさい、咲夜さん。お嬢様から伝言です。『私は神社に行ってくるから邪魔しないでね! 咲夜なんて友達とイチャついてればいいのよ』とのことです」
「はいはい、承ったわ。お嬢様は霊夢が本当に好きなのねえ」
「そうですね。お嬢様は本当に大切にしてますよ」
「大切に扱われてるんですね。羨ましい限りです」
美鈴と呼ばれていた女性が何やらこちらを見てウィンクを飛ばしてくる。
きっと、『ね? この人たち可愛いでしょ?』といった意味合いだと思う。
その意見には概ね賛成だ。従者を素直に労えない主に、その主の捻くれた不器用な気遣いに気付かない従者。
総領娘様もこうだったらいいのだけれど……そうは世の中上手くいかないのよね。
困ったものですわ。
「じゃあ、美鈴。私はこれからお客様をもてなすから、あなたも仕事頑張ってね」
「了解です。ようこそ、紅魔館へ。ゆっくりしていって下さいね」
「ちょっと待っててね。今、お茶を持ってくるから」
「あ、わざわざ時を止めたりしなくていいですからね? 私は私の時間で、貴女のお茶が飲みたいです」
「もちろん、そのつもりよ。それとも私は、時間が無いように見えるの?」
きっと私が止めてなかったら、彼女の時間でお茶が用意されていたと思う。
部屋を出るときに彼女が残したウィンクが脳裏によぎる。
どことなく美鈴さんが先ほど私にしたウィンクと印象が被る。
もしかしてこの館の人の癖なのかしら?
と、いっても今のところは二人分しか確認してないのだけど。
それにしても一人で待つというのは本来暇なはずなんだけど、今に限ってはまったくもって飽きない。
家になんて普段住まない私からすれば部屋の中というだけで全てが目新しいし、何よりも紅茶が楽しみだ。
つまり、今の私は柄にも無くそわそわしている。
頭の中の総領娘様が「衣玖ってばやっぱり可愛いのよねー。普段、お姉さんぶってるから余計に可愛いわ。これがギャップ萌えってヤツね!」とか言ってこっちを指差し爆笑しているが無視するに限る。
まったく、こんなときでもあのお方は空気が読めていない。
空気読め、ってやつだ。
部屋もいいなって思う。
普段は雲をベッドに、布団に、壁にしている私。
けど、やっぱりしっかりとそこにある椅子や机。それに心地よい日の光を取り込んでる窓。キチンと整えてあるベッド。
その全てが彼女の性格を表すかのようにキチッとされている。あのお布団なんてさぞかしフカフカしていて気持ちがよさそう。
「ふぁ~っ……」
案の定、とてもフカフカとしている。干した後なのだろうか。お日様の香りも仄かにする。
思わず気持ちがよすぎて声まで出てしまった。
はぁっ……総領娘様、龍神様。衣玖は今、ものすごく幸せです。
○月×日土曜日
拝啓 竜宮の皆様。今、衣玖は麗らかな午後すぎて幸せフィーバー有頂天でねむねむです。
敬具
さいこうにしあわせなきもち~。
ガチャッ
「あら?」
遠くから声が聞こえる。なんとかしてそっちを見ようとしたけど体がいう事を聞いてくれない。
お布団の魔力がこうまで強烈だなんて思わなかった。
けれど、気持ちがいいし何よりも眠くて動く動かない以前に動かす気力が湧かない。
しかし、私の能力が猛烈に警告を発している。そして私のとった行動は間を取って声を出すというものだった。
「あにゅっ」
音は出た。本当に意味の無い寝惚けてる?的、というか完全に寝惚けた声。
能力による警告でようやく目が覚めてきたおかげで今、自分がしていたことの恥ずかしさがジワジワと押し寄せてくる。
どう考えても今の声は、お茶を持って戻ってきたであろう彼女の声で、私は勝手に彼女のベッドに寝た上、寝惚けて……っ!
あ、あああああっ! もしかして寝顔よりも恥ずかしいかもしれない寝惚けていた顔を見られたかも!?
「まったく……人のベッドを勝手に使うなって習わなかったの?」
「あうっ!」
事の重大さに気付き身を起こしたら、目の前ににやりとした彼女の笑みがあり、その事に気を取られた瞬間おでこをつつかれた。
「まあ、あれだけ幸せそうにしてくれてると怒る気にもなれないんだけどね。それにいいものも見せてもらったし」
「や、やっぱり見たんですか!?」
「ええ、ばっちり。可愛いかったわ。さっきほどカメラが欲しいと思ったことはなかったわね」
やっぱり見られてた。とんでもなく恥ずかしい姿をばっちりと見られていたらしい。
ああ、どんな顔をして彼女と顔を合わせればいいんだろう。
いや、目の前にいるんだけど。なんで、私の能力って事前回避をしないとまったく役に立たないのかしら。
うう、混乱する。今まで、こういう事は全部避けてきたからどうすればいいかまったく分からない!
「総領娘様申し訳ありませんでした……やっぱり衣玖は天界の恥です」
「いやいや、いきなり虚空に向かってあやまるのはどうかと思うわよ?」
「だってですよ。私は凄く恥ずかしい姿を貴女に見られたんですよ!?」
「ほら、お茶でも飲んで落ち着きなさいって。そんなことぐらいで落ち込んでたら身が持たなくなるわ」
その言葉とともに椅子まで連れて行かれる。
「うぅ……。今ほど消えて無くなりたいと思ったことはないです」
「そんなに恥ずかしいことかしらねぇ?」
「普通は恥ずかしいと思うのですけど……もし貴女が私と同じ立場になったらどうします?」
「見た奴の時間を無くすわ」
しれっと言われたけど、大層物騒な上にそれは隠蔽なんじゃないかと思う。
やっぱり、恥ずかしいみたいだ。よかった、私の感覚が変だったわけじゃないようだ。
「やっぱり貴女だって恥ずかしいんじゃないですか」
「そりゃあ、私だってさすがに寝惚けてる所を見られるのは恥ずかしいわよ」
「じゃあ、そんなことなんて言わないで下さい」
「よしっ。少しは落ち着けた?」
「あっ」
やられた。どうやら私は彼女にいいようにされていたみたいだ。
まあ、悔しいというよりもやられたっ!と感心してしまうほど鮮やかな手腕だ。
瀟洒と言われるのもよく納得できる。
けど、やっぱり納得しきれない部分もあるわけで。
「わざわざからかう必要は無かったはずです」
「本当に可愛いわね、貴女」
彼女に唇を指でちょんと指でつつかれる。
なんだか、微笑ましいものを見る目で見られているのは気のせいだろうか。
「ま、それはそうとお茶にしましょう?」
「むう」
なんだか納得がいかない。
「ほらほら、むくれないの。お詫びと言ってはなんだけど、お茶請けは中々食べれない希少品を使ったものよ」
「た、食べ物で釣ろうって言ったってそうはいきませんよ」
「あらあら。すっかり拗ねちゃったわね。貴女が私の料理を食べたいって言っていたから張り切ったのに」
「私の知識が正しければお菓子はそんなにすぐに作れなかったと思うのですけど」
「冗談よ。これは今朝お嬢様のために作ってたものよ。最もお嬢様はお出かけなさってしまったけどね」
「そんなものを私が食べてもいいのでしょうか?」
私のその言葉に彼女は苦笑しながら答えた。
「当然よ。それにあんまり時間が経ち過ぎても美味しくなくなってしまうから。余り物の処分をするみたいで悪いとは思うけど」
「その。そんな些細なこと、気にしてくださらなくてもよかったのですけど」
「馬鹿ね。『友達』なんだから、喜ばせるのは当然じゃない」
「ありがとうございます……っ!」
本当にこの人はどこまでかっこいいのだろうか。
総領娘様にも是非とも見習って欲しいものだ。
まぁ、彼女は彼女でいいところも一杯あるし、とても可愛い人なのだが。
それはともかく、今はお茶の時間だ。目一杯、くつろがさせてもらおう。
「ふふっ。そんなにかしこまらなくていいの。私が勝手にやったことなんだから」
「で、でも」
「じゃあ、貴女は精一杯に私のもてなしを楽しんで頂戴? それが貴女の出来る、私を最も喜ばせる嬉しいお返しよ」
そう言いながらウィンク。やっぱり、あのウィンクは癖らしい。
それにしても彼女は普通なら恥ずかしくて言えないような事をあまりにもサラリと言ってしまう。
「このあたりでは中々手に入らないクランベリーを使ったパウンドケーキよ。紅茶にミルクとお砂糖はご入用かしら?」
「いえ、結構です」
「そう。じゃあ、いただきましょうか。召し上がれ」
「いただきます」
カステラ色にクランベリーの紅がアクセントになっていて、見た目からとても美味しそうで自然と胸が高鳴る。
フォークで小さく切り分けようとしただけで、ふんわりとした感触がよくわかる。
期待に胸を躍らせ、切り分けたそのふんわりとしたその幸せの欠片を口に運ぶ。
口の中で咀嚼するたびに生地の甘さとクランベリーのほのかな甘酸っぱさが広がっていく。
生地とクランベリーのみという見た目には単純なお菓子だけにこれだけのものを作る彼女の料理はやはり噂通り、凄くいいみたいだ。
「……おいしい」
「それは重畳。こっちも作った甲斐があったというものですわ」
「本当においしいです。いくらでも食べれそうです」
「ありがとう。そんなに気に入って貰えて嬉しいわ。まだまだあるから好きなだけ食べて頂戴ね」
「いえ、そんなには食べれませんよ。それにこの前、兎に言われたことも気になってるのでいいです」
「何を言われたのよ」
「パッツンパッツン、と。やっぱりダイエットした方がいいのでしょうか。あまり運動もしていませんし……」
私の問い掛けに彼女はこちらを眺めて、一瞬眉を顰め何かを考えてためらいがちに答えた。
「……ダイエットの必要はないわね。けど、もう少し羽衣はゆるく纏った方がいいと思うわ。私の精神衛生のためにも」
「あのそんな顔をするほど、私って太ってますか?」
「いや、太ってるわけじゃないわ。ただね……女として圧倒的に負けてることがね」
「女としてって……。貴女のほうがかっこよくて素敵でスタイルもいいじゃないですか」
「貴女は少しは自覚を持ったほうがいいわ。いや……むしろ、持て。馬鹿にしてるとしか思えないわ!」
その言葉を言うと同時に彼女は私の横まで来て私の腰に手を伸ばした。
「その大きな胸にこの細い腰で何を言ってるのよ! 私に謝りなさい! 今すぐ謝れ!」
「きゃあああああっ!」
「しかもこの揉み心地……美鈴にも負けない張りと弾力。それなのに何故か柔らかい……それなのにこの引き締まったウエスト……っ!」
い、いきなり胸や腰を触られ揉みしだかれる。
な、なんでいきなりこんなことに!?
わ、私はどこで空気を読み間違えたんですか!?
「も、もうやめてください……」
「しかも何、そんなに可愛く恥ずかしがってるのよ! 涙目で力無く首をフルフル振らないでよ! なんだか私が悪みたいじゃない!」
「あ、悪です! 悪ですよ! いきなり人の腰と胸を鷲掴むなんてしませんよ、普通!?」
「それもそうね」
私の半ば自棄気味の反論に彼女は態度を一転させて私をあっさりと解放してくれる。
「ごめんなさい。私としたことが少しどころじゃなく、かなり取り乱したわ」
「……酷いです」
「まあまあ、しょげないの。のんびりとしなきゃね」
「誰のせいだと思ってるんですか、もう……」
そんな私の様子を見て彼女はクスリとまた笑いを漏らした。
まったく誰のせいだと思ってるんだろうか。
「少しは反省して下さいね」
「はいはい。そのことに関しては悪かったと思ってるわよ。けど、貴女ももう少し自分の容姿を把握したほうがいいわね」
楽しい時間とは早く進むもので、先ほどのことについて問いただしたり、お茶請けに舌鼓をうち、優雅に紅茶を飲んでみたりしているうちにすっかり日が傾いていた。
「あら。もう大分日も暮れてきたわね」
「本当ですね」
「泊まっていく?」
その言葉には正直かなり惹かれるものがあったけれど、やはり私の帰る場所は空のようだった。
「いえ、そろそろ戻ろうかと思います」
「そう。またいらっしゃいな。貴女ならいつでも歓迎するわ」
「ええ。そうさせてもらいます。今度はこちらにもいらして下さい。歓迎しますよ」
私の言葉に一瞬、彼女は面を食らったようだったがすぐに取り直した。
「そうね、それもいいわね。その時はよろしくね」
「ええ。もちろんです。私達は友達なのでしょう?」
「そうね。そんな私の友達の貴女にこれをプレゼントよ」
そう言って、彼女は私に紙袋を渡してくれた。
「これは?」
「さっきの残りを包んだものよ。帰ったらあの不良天人とでも一緒に食べなさいな。きっと今日の話をしたら拗ねるわよ」
「……お恥ずかしながらそうなると思います」
「今度会った時こそは貴女のために腕を揮うわ」
「ええ。期待させてもらいますね?」
「期待して待ってなさいな」
「では、失礼しました」
「またね、衣玖」
ああ、もう。この人は最後まで唐突に私を驚かす。
けれど悔しいことに一回たりとも本当に嫌だとは思わせていない。
だから、私もそんな彼女の期待に応えるべく勇気を振り絞る。
「ええ、また今度……咲夜っ!」
言葉とともに手を振る。
彼女も嬉しそうに手を小さく振り返してくれた。
さあ、戻ったら総領娘様にはどういう風にこのことを話そうか。
けれど、一番最初に話す事は当然――。
「あ、お帰りー。珍しいね、地上に出かけるなんて」
「ただいま戻りました、総領娘様」
「相変わらず固いなあ。そんなにかしこまらなくてもいいのに」
「そう言われましても」
「まあ、いいや。何か面白いことはあった?」
「はい」
「おや、これは珍しい。あなたが土産話を持ち帰ってくるなんて。それはその大切そうに抱えてる紙袋が関連してるのかしら?」
「関わってますね」
「もったいぶるなんて珍しい。これは余程のことね」
「もちろんです」
「――友達が出来ましたから」
そして空を泳ぐ私の視界はどこまでも遠く澄み切っていた。
「むぅ……私は何をしているのでしょうか」
思わずひとりごちてしまう。本当になんでこんな所に私はいるのだろう。
別に私たちには「有事の時以外は雲の中に居なくちゃいけない」とかそんな決まりはない。
けれど、普通の竜宮の使いであるはずの私は、そんな生活に不満は無かった。
だと言うのに、なんで私はこんな所にいるのだろう?
まあ、悩んでも仕方が無い。結局そのまま、ふよふよと湖の上を漂う。
凄く気持ちがいいし、たまにはこんな日があってもいいだろう。
そう気持ちを切り替えて楽しむことにした。
そうしてみると、これが不思議なもので今まで見えなかったものが見えるようになる。
「うわぁ……空気の読めてない家」
「それはなんとも失礼な話……と、言いたいところだけどそうとも言えなくもないのよね」
「へ、へうっ……ひあぁぁぁぁっ!」
「あら、驚かしちゃったかしら。ごめんなさいね」
びっくりした……すっごくびっくりした。とってもびっくりした。ちょっと今時を生きる娘風だと「ちょっ、まじねー。ぱねーよ」と言ってしまうぐらいに驚いた。
空気が読める程度の私の能力は、場の空気といった抽象的なものから気流といった具体的なものまで読める。つまるところ、こういう風な知らないうちに、誰かが後ろに立ってひとり言に返事をするなんてことは予想外にも程がある。
あぅ……胸のどきどきが収まらない。
こんなのだから吊橋効果なんて言葉や現象が出来てしまうんだろうな、なんて関係の無いことを考える。
そうして関係の無いことへと思考を無理やり移して自分を落ち着かせる。
そこに至って、ようやく背後の人物について考える余裕が生まれた。
「あまり驚かせないで下さい。それはあまり空気の読めた行動ではありませんよ!」
「あら。貴女が遠目にあまりにも暇そうだから、刺激を与えてあげようと思ったんだけど迷惑だったようね」
「迷惑とまでは言いませんけど、もっと普通に話しかけて下さい。人を驚かすなんて趣味が悪いですよ」
「いえね、貴女みたいにからかいがいのある相手に不足してて。悪かったわね……泣くとは思わなかったわ。ごめんなさいね」
からかいがいって……確かに総領娘様にも、真面目だから面白いとかよくわからないことを言われる。
だからといって、出会い頭にからかわれるというのが納得できるわけじゃない。
むしろ、余計に納得できない。理不尽にもほどがある。
そんな思いが表情に出てしまったのか、くすくすと笑われた。
そもそも泣いてなんていない……ち、ちょっと目にゴミは入っていて涙が滲んでいるぐらいはしていたかもしれないけど。
「わ、笑わないで下さい! これでも少しは気にしているんですからっ」
「ご、ごめんなさい。笑うつもりはなかったんだけど……可愛くって」
「なっ……!?」
か、可愛いなんて言われるとは思ってもみなかった。
本当に、地上の人たちは空気を読むということを知らない……いや、天界の人も微妙な所ではあるのだけど。
特に総領娘様なんかは「からけ? 何それ? 新手のおつまみ? おいしーの?」なんて4つもの疑問符をつけて言う始末である。
……有事以外は地上に住もうかしら?
思わずそんなことまで考えてしまう。
「いけません。私の主は総領娘様じゃありません!」
「どうしたのよ? 考え込んだと思ったら、唐突に叫んだりして」
「あぅ……な、なんでもないです。ただ、その、ちょっと天界に戻りたくないなと思っただけです」
「そう。なら丁度いいわ。館にいらっしゃい。貴女なら客人として歓迎するわ」
こちらに手が伸ばされる。
彼女は? 余所行きではない純粋な笑顔のようだ。
天気は? 青く澄んだ気持ちのいい晴れ空だ。
危険は? とりあえず総領娘様が気まぐれを起こして要石を引っこ抜きでもしない限りは無さそうだ。
空気は? 彼女からウェルカムなオーラがこれでもかと立ち上っている。笑顔が「読めよ」ってこれでもか、と語っている。
結論は……まあ、こうして考えるまでも無かったのだけど。
「では……お邪魔してもよろしいですか?」
「ええ、勿論ですわ」
「すごい。貴婦人の礼なんて初めて見ました」
「それなら、やった甲斐があるわね」
こちらへと手が伸ばされる。
意図はわからなかったが、空気は読めたのでこちらの手を彼女の手に合わせてみる。
「さあ、行きましょう? 精一杯の歓迎をさせていただきますわ」
そう言われたところで私たちは紅い館へと辿り着いていた。
私は手を引かれるのに任せて、彼女のほうを向いてた所為で気付かなかったと一瞬思ったが、距離がありすぎる。
きっと、彼女の能力でここまで連れてこられたのだろう。間抜けな顔をしていなかったが気になるところだ。
「ただいま、美鈴」
「おかえりなさい、咲夜さん。お嬢様から伝言です。『私は神社に行ってくるから邪魔しないでね! 咲夜なんて友達とイチャついてればいいのよ』とのことです」
「はいはい、承ったわ。お嬢様は霊夢が本当に好きなのねえ」
「そうですね。お嬢様は本当に大切にしてますよ」
「大切に扱われてるんですね。羨ましい限りです」
美鈴と呼ばれていた女性が何やらこちらを見てウィンクを飛ばしてくる。
きっと、『ね? この人たち可愛いでしょ?』といった意味合いだと思う。
その意見には概ね賛成だ。従者を素直に労えない主に、その主の捻くれた不器用な気遣いに気付かない従者。
総領娘様もこうだったらいいのだけれど……そうは世の中上手くいかないのよね。
困ったものですわ。
「じゃあ、美鈴。私はこれからお客様をもてなすから、あなたも仕事頑張ってね」
「了解です。ようこそ、紅魔館へ。ゆっくりしていって下さいね」
「ちょっと待っててね。今、お茶を持ってくるから」
「あ、わざわざ時を止めたりしなくていいですからね? 私は私の時間で、貴女のお茶が飲みたいです」
「もちろん、そのつもりよ。それとも私は、時間が無いように見えるの?」
きっと私が止めてなかったら、彼女の時間でお茶が用意されていたと思う。
部屋を出るときに彼女が残したウィンクが脳裏によぎる。
どことなく美鈴さんが先ほど私にしたウィンクと印象が被る。
もしかしてこの館の人の癖なのかしら?
と、いっても今のところは二人分しか確認してないのだけど。
それにしても一人で待つというのは本来暇なはずなんだけど、今に限ってはまったくもって飽きない。
家になんて普段住まない私からすれば部屋の中というだけで全てが目新しいし、何よりも紅茶が楽しみだ。
つまり、今の私は柄にも無くそわそわしている。
頭の中の総領娘様が「衣玖ってばやっぱり可愛いのよねー。普段、お姉さんぶってるから余計に可愛いわ。これがギャップ萌えってヤツね!」とか言ってこっちを指差し爆笑しているが無視するに限る。
まったく、こんなときでもあのお方は空気が読めていない。
空気読め、ってやつだ。
部屋もいいなって思う。
普段は雲をベッドに、布団に、壁にしている私。
けど、やっぱりしっかりとそこにある椅子や机。それに心地よい日の光を取り込んでる窓。キチンと整えてあるベッド。
その全てが彼女の性格を表すかのようにキチッとされている。あのお布団なんてさぞかしフカフカしていて気持ちがよさそう。
「ふぁ~っ……」
案の定、とてもフカフカとしている。干した後なのだろうか。お日様の香りも仄かにする。
思わず気持ちがよすぎて声まで出てしまった。
はぁっ……総領娘様、龍神様。衣玖は今、ものすごく幸せです。
○月×日土曜日
拝啓 竜宮の皆様。今、衣玖は麗らかな午後すぎて幸せフィーバー有頂天でねむねむです。
敬具
さいこうにしあわせなきもち~。
ガチャッ
「あら?」
遠くから声が聞こえる。なんとかしてそっちを見ようとしたけど体がいう事を聞いてくれない。
お布団の魔力がこうまで強烈だなんて思わなかった。
けれど、気持ちがいいし何よりも眠くて動く動かない以前に動かす気力が湧かない。
しかし、私の能力が猛烈に警告を発している。そして私のとった行動は間を取って声を出すというものだった。
「あにゅっ」
音は出た。本当に意味の無い寝惚けてる?的、というか完全に寝惚けた声。
能力による警告でようやく目が覚めてきたおかげで今、自分がしていたことの恥ずかしさがジワジワと押し寄せてくる。
どう考えても今の声は、お茶を持って戻ってきたであろう彼女の声で、私は勝手に彼女のベッドに寝た上、寝惚けて……っ!
あ、あああああっ! もしかして寝顔よりも恥ずかしいかもしれない寝惚けていた顔を見られたかも!?
「まったく……人のベッドを勝手に使うなって習わなかったの?」
「あうっ!」
事の重大さに気付き身を起こしたら、目の前ににやりとした彼女の笑みがあり、その事に気を取られた瞬間おでこをつつかれた。
「まあ、あれだけ幸せそうにしてくれてると怒る気にもなれないんだけどね。それにいいものも見せてもらったし」
「や、やっぱり見たんですか!?」
「ええ、ばっちり。可愛いかったわ。さっきほどカメラが欲しいと思ったことはなかったわね」
やっぱり見られてた。とんでもなく恥ずかしい姿をばっちりと見られていたらしい。
ああ、どんな顔をして彼女と顔を合わせればいいんだろう。
いや、目の前にいるんだけど。なんで、私の能力って事前回避をしないとまったく役に立たないのかしら。
うう、混乱する。今まで、こういう事は全部避けてきたからどうすればいいかまったく分からない!
「総領娘様申し訳ありませんでした……やっぱり衣玖は天界の恥です」
「いやいや、いきなり虚空に向かってあやまるのはどうかと思うわよ?」
「だってですよ。私は凄く恥ずかしい姿を貴女に見られたんですよ!?」
「ほら、お茶でも飲んで落ち着きなさいって。そんなことぐらいで落ち込んでたら身が持たなくなるわ」
その言葉とともに椅子まで連れて行かれる。
「うぅ……。今ほど消えて無くなりたいと思ったことはないです」
「そんなに恥ずかしいことかしらねぇ?」
「普通は恥ずかしいと思うのですけど……もし貴女が私と同じ立場になったらどうします?」
「見た奴の時間を無くすわ」
しれっと言われたけど、大層物騒な上にそれは隠蔽なんじゃないかと思う。
やっぱり、恥ずかしいみたいだ。よかった、私の感覚が変だったわけじゃないようだ。
「やっぱり貴女だって恥ずかしいんじゃないですか」
「そりゃあ、私だってさすがに寝惚けてる所を見られるのは恥ずかしいわよ」
「じゃあ、そんなことなんて言わないで下さい」
「よしっ。少しは落ち着けた?」
「あっ」
やられた。どうやら私は彼女にいいようにされていたみたいだ。
まあ、悔しいというよりもやられたっ!と感心してしまうほど鮮やかな手腕だ。
瀟洒と言われるのもよく納得できる。
けど、やっぱり納得しきれない部分もあるわけで。
「わざわざからかう必要は無かったはずです」
「本当に可愛いわね、貴女」
彼女に唇を指でちょんと指でつつかれる。
なんだか、微笑ましいものを見る目で見られているのは気のせいだろうか。
「ま、それはそうとお茶にしましょう?」
「むう」
なんだか納得がいかない。
「ほらほら、むくれないの。お詫びと言ってはなんだけど、お茶請けは中々食べれない希少品を使ったものよ」
「た、食べ物で釣ろうって言ったってそうはいきませんよ」
「あらあら。すっかり拗ねちゃったわね。貴女が私の料理を食べたいって言っていたから張り切ったのに」
「私の知識が正しければお菓子はそんなにすぐに作れなかったと思うのですけど」
「冗談よ。これは今朝お嬢様のために作ってたものよ。最もお嬢様はお出かけなさってしまったけどね」
「そんなものを私が食べてもいいのでしょうか?」
私のその言葉に彼女は苦笑しながら答えた。
「当然よ。それにあんまり時間が経ち過ぎても美味しくなくなってしまうから。余り物の処分をするみたいで悪いとは思うけど」
「その。そんな些細なこと、気にしてくださらなくてもよかったのですけど」
「馬鹿ね。『友達』なんだから、喜ばせるのは当然じゃない」
「ありがとうございます……っ!」
本当にこの人はどこまでかっこいいのだろうか。
総領娘様にも是非とも見習って欲しいものだ。
まぁ、彼女は彼女でいいところも一杯あるし、とても可愛い人なのだが。
それはともかく、今はお茶の時間だ。目一杯、くつろがさせてもらおう。
「ふふっ。そんなにかしこまらなくていいの。私が勝手にやったことなんだから」
「で、でも」
「じゃあ、貴女は精一杯に私のもてなしを楽しんで頂戴? それが貴女の出来る、私を最も喜ばせる嬉しいお返しよ」
そう言いながらウィンク。やっぱり、あのウィンクは癖らしい。
それにしても彼女は普通なら恥ずかしくて言えないような事をあまりにもサラリと言ってしまう。
「このあたりでは中々手に入らないクランベリーを使ったパウンドケーキよ。紅茶にミルクとお砂糖はご入用かしら?」
「いえ、結構です」
「そう。じゃあ、いただきましょうか。召し上がれ」
「いただきます」
カステラ色にクランベリーの紅がアクセントになっていて、見た目からとても美味しそうで自然と胸が高鳴る。
フォークで小さく切り分けようとしただけで、ふんわりとした感触がよくわかる。
期待に胸を躍らせ、切り分けたそのふんわりとしたその幸せの欠片を口に運ぶ。
口の中で咀嚼するたびに生地の甘さとクランベリーのほのかな甘酸っぱさが広がっていく。
生地とクランベリーのみという見た目には単純なお菓子だけにこれだけのものを作る彼女の料理はやはり噂通り、凄くいいみたいだ。
「……おいしい」
「それは重畳。こっちも作った甲斐があったというものですわ」
「本当においしいです。いくらでも食べれそうです」
「ありがとう。そんなに気に入って貰えて嬉しいわ。まだまだあるから好きなだけ食べて頂戴ね」
「いえ、そんなには食べれませんよ。それにこの前、兎に言われたことも気になってるのでいいです」
「何を言われたのよ」
「パッツンパッツン、と。やっぱりダイエットした方がいいのでしょうか。あまり運動もしていませんし……」
私の問い掛けに彼女はこちらを眺めて、一瞬眉を顰め何かを考えてためらいがちに答えた。
「……ダイエットの必要はないわね。けど、もう少し羽衣はゆるく纏った方がいいと思うわ。私の精神衛生のためにも」
「あのそんな顔をするほど、私って太ってますか?」
「いや、太ってるわけじゃないわ。ただね……女として圧倒的に負けてることがね」
「女としてって……。貴女のほうがかっこよくて素敵でスタイルもいいじゃないですか」
「貴女は少しは自覚を持ったほうがいいわ。いや……むしろ、持て。馬鹿にしてるとしか思えないわ!」
その言葉を言うと同時に彼女は私の横まで来て私の腰に手を伸ばした。
「その大きな胸にこの細い腰で何を言ってるのよ! 私に謝りなさい! 今すぐ謝れ!」
「きゃあああああっ!」
「しかもこの揉み心地……美鈴にも負けない張りと弾力。それなのに何故か柔らかい……それなのにこの引き締まったウエスト……っ!」
い、いきなり胸や腰を触られ揉みしだかれる。
な、なんでいきなりこんなことに!?
わ、私はどこで空気を読み間違えたんですか!?
「も、もうやめてください……」
「しかも何、そんなに可愛く恥ずかしがってるのよ! 涙目で力無く首をフルフル振らないでよ! なんだか私が悪みたいじゃない!」
「あ、悪です! 悪ですよ! いきなり人の腰と胸を鷲掴むなんてしませんよ、普通!?」
「それもそうね」
私の半ば自棄気味の反論に彼女は態度を一転させて私をあっさりと解放してくれる。
「ごめんなさい。私としたことが少しどころじゃなく、かなり取り乱したわ」
「……酷いです」
「まあまあ、しょげないの。のんびりとしなきゃね」
「誰のせいだと思ってるんですか、もう……」
そんな私の様子を見て彼女はクスリとまた笑いを漏らした。
まったく誰のせいだと思ってるんだろうか。
「少しは反省して下さいね」
「はいはい。そのことに関しては悪かったと思ってるわよ。けど、貴女ももう少し自分の容姿を把握したほうがいいわね」
楽しい時間とは早く進むもので、先ほどのことについて問いただしたり、お茶請けに舌鼓をうち、優雅に紅茶を飲んでみたりしているうちにすっかり日が傾いていた。
「あら。もう大分日も暮れてきたわね」
「本当ですね」
「泊まっていく?」
その言葉には正直かなり惹かれるものがあったけれど、やはり私の帰る場所は空のようだった。
「いえ、そろそろ戻ろうかと思います」
「そう。またいらっしゃいな。貴女ならいつでも歓迎するわ」
「ええ。そうさせてもらいます。今度はこちらにもいらして下さい。歓迎しますよ」
私の言葉に一瞬、彼女は面を食らったようだったがすぐに取り直した。
「そうね、それもいいわね。その時はよろしくね」
「ええ。もちろんです。私達は友達なのでしょう?」
「そうね。そんな私の友達の貴女にこれをプレゼントよ」
そう言って、彼女は私に紙袋を渡してくれた。
「これは?」
「さっきの残りを包んだものよ。帰ったらあの不良天人とでも一緒に食べなさいな。きっと今日の話をしたら拗ねるわよ」
「……お恥ずかしながらそうなると思います」
「今度会った時こそは貴女のために腕を揮うわ」
「ええ。期待させてもらいますね?」
「期待して待ってなさいな」
「では、失礼しました」
「またね、衣玖」
ああ、もう。この人は最後まで唐突に私を驚かす。
けれど悔しいことに一回たりとも本当に嫌だとは思わせていない。
だから、私もそんな彼女の期待に応えるべく勇気を振り絞る。
「ええ、また今度……咲夜っ!」
言葉とともに手を振る。
彼女も嬉しそうに手を小さく振り返してくれた。
さあ、戻ったら総領娘様にはどういう風にこのことを話そうか。
けれど、一番最初に話す事は当然――。
「あ、お帰りー。珍しいね、地上に出かけるなんて」
「ただいま戻りました、総領娘様」
「相変わらず固いなあ。そんなにかしこまらなくてもいいのに」
「そう言われましても」
「まあ、いいや。何か面白いことはあった?」
「はい」
「おや、これは珍しい。あなたが土産話を持ち帰ってくるなんて。それはその大切そうに抱えてる紙袋が関連してるのかしら?」
「関わってますね」
「もったいぶるなんて珍しい。これは余程のことね」
「もちろんです」
「――友達が出来ましたから」
なかなかに可愛らしい衣玖でしたねぇ。
恥ずかしがっている表情とかも浮かんでくるようでした。
咲夜さんとの絡み具合や雰囲気もとても良かったと思います。
面白く読めました。