まっ暗、寒いし、何も見えない
…って、もう慣れっこなんだけど
どれ位こうしてるんだっけ
あの時はたしか……ああそう、確かあの子はあの時、ママに部屋を片付けるように言われたんだわ
それであの子はどうしてか、泣いてた
多分だけど、あの子は散らかったお部屋が好きだったのね
私たちの顔がいつでも見えてないと、あの子は寂しかったのよ
でもあの子のママは、なんとかあの子に片付けるように言ったわ
それは当たり前ね、誰だって部屋を綺麗にしたいと思うのが普通だもの
でもそうやっていくら「部屋を綺麗にしなさい」って言っても、小さなあの子はすぐには聞かない、それも当たり前
そんなことじゃ、私たちを目の届かないところに押し込むことの理由にはならないわ
だからママは、とっても上手にその子を言いくるめたの
…ううん、きっと世界中のお母さんは同じことを言うんでしょうね
「お人形さんが可哀想でしょ?こんなところに放っておいたら、お人形さんはきっと泣いてるんじゃないかしら」
ママが優しくそう言ったら、その子はすぐに泣き止んだわ
これも世界中の子供たちが一緒の反応なんでしょうね
そこでママは『もう一押し!』って具合に私を持ち上げて、手をつまんでひらひらさせながらこう言うの
「『私はあなたに片付けてもらえるととっても嬉しいの!さあ、私と一緒にお片づけをしましょうよ!』」
って
ママがそうやって私を間に挟んだら、その子はすっごくいいお返事を返したわ
こういう時にこそ思うのよね
「ああ、私は人形なんだ」って
あ、まだ終わりじゃないのよ
ママはその子にしてみればきっと、すごく素敵なママだったんだと思うわ
ママはその後、優しく笑ってその子を撫でて、こう言うの
「お片づけが上手にできたら、ご褒美に新しいお人形を買ってあげますからね」
その子の顔は本当に嬉しそうだったわ
ぱぁって明るくて、今の今までグズグズ泣いてたなんて嘘みたいに幸せそう
そうしてママと一緒に、絨毯の上に散らかってる小さなイスやテーブル、車、イヌ、クマ、兵隊……最後に私
みーんな一つの箱に入れて、押入れの奥にしまったの
それでその子は約束通りに、新しい人形を買ってもらったんでしょうね
だから今も、まっ暗で寒いまま
もう慣れっこだけど
「あら?その箱、どうしたの?」
「小さい頃に遊んでた人形、押入れから出てきたの。邪魔だったから捨ててくる」
「ん……」
「あら、お目覚め?」
「スーさん…?おはよう……」
「残念、私は『ヒーさん』よ。おはよう、メディ」
鈴蘭畑のとある一角で交わされる、妙な会話
メディスン・メランコリーがきしきしと異様な音を立てて起き上がると、フラワーマスターがにっこりと微笑んで顔を覗き込んでいた
ヒーさん、とは恐らくメディが言う鈴蘭の「スーさん」に対して、向日葵の「ヒーさん」といったところなのだろう
我ながら会心のジョークだと風見幽香は思ったが、生憎起き抜けのメディには届かなかったらしい
「あれ、幽香?おはよう」
「……ええ、おはよう」
幽香の満面の笑顔は、途端にいつものような薄ら寒い笑顔に戻る
そこらの妖怪なら、この顔一つで三途に片足を突っ込むところである
「幽香、こんな朝からどうしたの?」
「少し通りかかっただけよ。それに、今はもうお昼なんだけど」
「え?あ、本当」
しかしまだ幼く純粋なメディには、風見幽香という大妖怪の強さこそ知れど、恐ろしさは理解できていない
幽香はそれが少々気に入らないが、同時にとても興味深くもあった
自身を目の前にしてもまるで気にせず辺りを見回し、太陽を真上に確認して恥ずかしそうに笑う、幼い妖怪
こんな死と隣り合わせの状況を一向に解せず無防備に体を投げ出すなど、純粋さは無知とは根本的に違うのだと、幽香は思う
「…ところで、今日は随分と寝坊なのね。いつもはあまり眠らないと思ってたのに」
メディの隣に腰を下ろし、幽香は優しく尋ねる
「ええ、少し夢を見てたの」
「あら、どんな夢かしら」
「嫌な夢だけど、なんだか素敵な夢よ」
「…そう、良かったわね」
「うふふ、ありがとう。内容はよく覚えてないんだけどね」
実は『嫌な夢』に対してのみ幽香は言ったのだが、これもメディには伝わらない
なぜ言ったのか詳しく説明したとしても、恐らく伝わらないのだろう
メディのこういうところが幽香はつまらなくもあり、面白くもあるのだった
しかし幽香もメディの幸せそうな顔に釣られ、思わず頬が緩んでしまう
純粋すぎる純粋さは、時として幻想郷随一の危険な大妖怪すら、知らずに丸め込んでしまうのだ
「ねえ幽香、『オンセン』ってなぁに?」
「オンセン?」
メディはふいにきゅ、と音を立てて首を傾げ、幽香の顔を覗き込む
唐突だったので、幽香の頭にも一瞬「?」が浮かんだ
「そうよ。この前、死神がその辺を歩いて行くのを見て『どこに行くの?』って聞いたら、『神社にオンセンが出たんだ』って言うから」
「ああ、温泉ね」
「幽香はオンセン知ってるの?ねえ、オンセンってどんな妖怪?私よりも強いの?」
メディが文字通りガラス玉のような目をあんまりキラキラさせるものだから、幽香もきょとんとしてしまって、すぐに答えが思い浮かばなかった
どうやらメディは死神の「出た」という単語から、新手の妖怪の類だと思っているらしい
まあ元を辿ればあながち間違いではないのだが
「…ま、たしかにあなたは苦手かもね」
「え、そうなの?どんな奴?」
「そうね……。高温を持って多くの生き物を誘い込み、動けなくして、さらにはあなたの毒も抜いてくるわ」
「毒を?そう…強敵ね」
嘘は言っていない
事実、メディは水に浸かると命の源である毒が流れてしまい、動けなくなってしまうのだ
それにメディでなくとも、オンセンの力は生き物をなかなか離してくれない魔性のものである
幽香は険しい顔になったメディを見てご満悦だ
いつもの笑顔にも磨きがかかる
「ええ、あの紅白巫女も白黒魔法使いも…きっと死神も温泉にやられて、大きなタンコブでも作ってるんじゃないかしら」
「う、うそ。じゃあ……もしかして、幽香でも勝てないの?」
さっきまで興味津々に、どこか楽しげにオンセンの話を聞いていたメディだったが、これには表情が曇る
風見幽香という大妖怪の力の大きさを、それこそ一度戦って純粋に強大だと知っているだけに、途端に不安そうな顔をした
幽香はここぞとばかりに視線を落とし、ふぅとなるべく大きな溜め息をついて見せた
「そうね…実はこの間、少し戦ってみたんだけど……」
「だけど…?」
ずいと身を乗り出し、幽香の鼻の先まで顔を近づける
その顔はまるで子が母親に欲しいものを懇願するかのような、力強く、しかし今にも泣き出しそうな必死の表情だった
その顔が見れただけで幽香はどこか満足して、両手を広げて鈴蘭の上にごろんと寝転んだ
「…負けちゃったわ」
「えええ!!」
メディは大きな目をさらに丸くして驚いた
純粋ゆえ、その驚きはひとしおである
ここにも一つの嘘もない
…もっとも死神のタンコブを作ったのは温泉というわけではないのだが
幽香もつい先日噂を聞きつけて、ゆっくりと温泉に浸かってきたばかりなのだった
なんでもその時は幽香の貸切だったと言うが、それはまた別の話
「そうそう、お医者の奴らもやられたとか言ってたわね」
「そ、そんな!えーりん達でも勝てないだなんて、オンセン…なんて奴なの……!」
メディは目を見開いて、ぷるぷると肩を震わせている
反面、幽香は物凄く楽しそうだ
ちなみにえーりんとは、花の異変以来何かと世話になっている天才薬師、八意永琳のことである
その天才すら犠牲(?)になったと知り、メディはあわわと口を押さえて顔を青くする
一方幽香は先ほどからニタニタと笑いが止まらなかった
その笑いは誰がどう見てもそれと解る、いわゆる「風見幽香的なヤバい笑い」なのだが、やっぱりメディにはその違いがイマイチ解らない
そのため、メディには幽香がなぜ今こうして笑っているのかが解らないのだ
「……幽香、どうして笑ってるの?悔しくないの?」
「え?」
はた、と幽香の笑みが消える
メディはというと、顔がくしゃくしゃに歪んでいる
「いや、どうしてって…」
「どうして?幽香は凄く強いんじゃないの?オンセンなんて、簡単にやっつけられるんじゃないの?」
メディはしきりに寝ている幽香の肩をゆすり、懇願する
これは参ったな、と幽香はメディのとても悲しそうな表情をぽかんと見つめた
「…幽香、私決めたわ」
「え、な、何?」
ふいにメディが立ち上がって言ったので、幽香も咄嗟の言葉に詰まってしまった
メディはぽんぽんとスカートの土をほろうと、きゅっと細い拳を握り締める
幽香は呆然とその背中を眺めていた
「私決めた!……幽香やえーりん達の仇は、私が取るわ!」
「…メディ?」
おいおいと、幽香は手を振って起き上がる
ふんと鼻を鳴らして、メディは勢いよく振り返った
「幽香、オンセンは今も神社にいるの?」
「え、ええ、いると思うけど」
「じゃあ決まりね!幽香、私行くわ」
どうしたものかと、幽香は前髪をくるくると捻った
別にメディが何をしようと幽香の知ったことではないのだが、このままでは必ず面倒なことになる
かと言って「冗談~」と止めるのも癪…いや、それ以上にこの赤ん坊のことだ、一度の嘘で「風見幽香=嘘つき」のイメージが確立してしまうのは目に見えている
そうなれば普段から竹林の連中と親しいメディはそこから「兎詐欺=風見幽香」のイメージまで勝手に生み出してしまうだろう
それはいくらなんでも嫌だ
「幽香」
「え、あ、なに?」
あれ、まだいたのか
てっきりもう飛んで行ったものかと思っていたので、多少声が裏返る
「幽香、私、とっても大事なことを忘れてた」
「大事なこと?」
この時、幽香が想像したメディの考えは『幽香はオンセンに勝てない=メディも勝てない』である
ああ、たしかにとっても大事なことだ
おや、では上手くすればこのまま忘れさせることができるかもしれない
幽香は咄嗟に、最近あった面白い事を思い浮かべてみた
何か、温泉以上にメディが興味を引きそうなこと……ううん……
「幽香、私、神社の場所を知らないわ」
かの風見幽香をずっこけさせるのも、底抜けの純粋さが成せる業である
「げ、あんたこの前来たばっかでしょ」
「失礼ね。今日は素敵なゲストがいるじゃない」
「こんにちは。お久しぶり」
「あら、こりゃまた珍しい客ね。さ、お賽銭はあっちよ」
結局、幽香はメディと一緒に来ることになった
博麗の巫女は幽香の顔を見るなり露骨に嫌な顔をしたが、隣の小さな妖怪には愛想笑いを振舞った
最近ではめっきり減った「珍しい客」になんとか賽銭を入れて貰おうという魂胆であるが、当然メディは
「お賽銭?なぁに、それ?」
である
上手く騙せば金ヅルになるかもしれないと天下の巫女様は思ったが、隣の妖怪の笑顔を見て軽く舌打ちをする
これはさすがに相手が悪い
「で、何しに来たの?たしかあんたは水、ていうか温泉には……」
「どうかしら?私達二人なら勝てるわ」
「入れない…はい?」
聞き違いではないようだ
霊夢はメディをきょとんと見つめた後、幽香をじっとりと睨んだ
幽香は笑っている
「あら、私は悪くないわよ?」
「嘘つけ。…で、なんだって?勝てる?」
「ええ、私が幽香をサポートすれば、きっとオンセンに勝てるわよ!」
こいつは何を言っているんだ
霊夢はメディを指差しながら、またしても幽香を睨む
相変わらず、幽香は優雅に微笑んでいる
「聞いたでしょう?この子は温泉を倒しに来たのよ。あなたを凌駕した温泉をね」
「はあ?いやだから、全然意味わからんってーの」
「さあ、オンセンはここにいるんでしょ?連れてきなさいっ!」
「わっ……だから、なんなのよって」
メディは小さい身体を目いっぱい使って細い腕をぶんと振り上げ、霊夢を急かす
わけがわからず、霊夢はパッパッと手を振ってメディの拳を払うポーズをしている
そこでもやはり幽香を睨みつけるが、幽香はやはり愉快そうに口に指を当てて笑っている
「…その通りよ。さあ霊夢、早くここに温泉を連れてきなさい。どうしても匿うと言うなら、先にあなたを始末するわ」
「ちょ、なによそれ!………ああ、わかったわ」
ぽんと手を叩いて、何かを閃く霊夢
メディはそれが何を意味するのかは理解できなかったが、今はただオンセンと戦うために気を高めているので気にも留めない
幽香は、満足気に頷いて見せた
「…まったく、私の勘が『やっぱりあんたが悪い』って言ってるわ。だからあんた、自分で連れて来なさいよね」
「ふん、しょうがないわね。メディ、ちょっと待ってなさい」
「ええ、気を付けてね、幽香」
「ふふ…誘惑に負けないよう頑張るわ」
ぽんぽんとメディの頭を撫で、幽香は神社の裏山へと入っていった
メディは真っ直ぐにその背中を見つめている
それを見て、霊夢はやれやれと息を吐いた
「…あんたも色んな悪い大人に囲まれて大変ね」
「悪くない。幽香もえーりんも、みんな優しいし凄いんだから」
「凄く悪いババア共じゃないの」
「悪くない!」
悪いというか、なぜこれほどまでに強大な二つの力がこんな幼い妖怪に繋がるのかと、霊夢は冷静に考えて不可解なことであると思った
幽香はまあ恐らく遊びのつもりなのだろうが
しかしフラワーマスターである風見幽香が花を介する妖怪であるメディに対し、本物の親近感を抱いているのかもしれないという考えも浮かぶ
今でこそ人間に対する恨みは閻魔や永琳のおかげで幾分薄らいではいるようだが、もしその恨みが消えず、若しくはぶり返すようことがあれば
この小さな妖怪が風見幽香の存在と重なり、いつか人間の大きな脅威となり得るのでは…と、霊夢は心の底で懸念する
「博麗?」
「え、ああ、なに?」
ハッと我に返る
メディは怪訝に霊夢の難しそうな顔を覗き込んだ
「ねえ、あなたもオンセンには勝てなかったの?」
「……う、うん、まあね」
「やっぱり博麗も負けちゃったんだ…」
むぅと俯いて、険しい顔を見せるメディ
(……ま、このチンチクリンがどう大きくなろうと、そんな面倒なことなるわけないか)
「え、なにか言った?」
「ん?ああいや、なんでも」
「そう。……オンセン、幽香は上手くおびき寄せられるかしら」
(…ていうか、こいつがそんなになる頃には私なんてとっくにあの世よね。あーよかった)
無責任こそが当代の博麗の巫女様なのである
「ふぅ、なんとか連れて来たわ」
「…幽香、オンセンはどこ?」
メディはキョロキョロと辺りを見回し、オンセンの姿を探す
霊夢は自分の予想が当たって、大したことではないがなんとなく安堵した
幽香の足元には大きな金ダライがあり、そこからはもうもうと湯気が昇っていた
「メディ、とりあえずほら、靴を脱ぎなさい」
「え、どうして?」
「いいから、オンセンと勝負するんでしょ」
「??」
言われるがまま、メディはのそのそと慣れない手つきで靴を脱ぐ
「霊夢、座布団」
「ったく……はいはい」
霊夢も言われるがまま、奥の部屋からだるそうにズルズルと青い座布団を二枚引き摺ってきて、縁側に乱雑に並べる
「ほら座って。……ええ、じゃあメディ?オンセンと戦う前に、まずは足を清めて行きましょうか」
「わざわざ清めるの?足を?」
疑問符を浮かべてはみるが、メディは足元から立ち昇る温かな湯気に興味津々だ
我ながら酷い嘘だと幽香は思うものの、相手がメディであれば問題にはならない
「さ、足をそこに浸してご覧なさい。熱いから少しずつね」
「わかったわ。よいしょ…………わぁっ?」
メディの足は膝の少し下辺りまで熱い湯にちゃぽんと浸かり、メディは自分の足をまじまじと眺めた
ぴりぴりと痺れたような感覚が、一瞬全身を駆ける
「どう?」
「う~ん…?」
メディは首を傾げ、低く唸る
足からはじんわりと熱が伝わり、それが徐々に小さな全身へと緩やかに広がっていく
なにせ生まれて初めての感覚だったので、メディはしばらく考え込んだ
幽香はその間に「ちょっと失礼」と、広めのタライの空いている隙間に、白く細長い脚をとっぷりと浸す
二人の肩が、そっと触れ合う
「あ」
「なに?」
「わかったわ幽香。今の気持ち」
「あら。で…どうかしら?」
「温かくて…それで、すごく気持ち良くて」
「ふんふん」
「ええと…なんだったかしら?」
「さあ、知らないわよ」
「でもね、わかるのよ?言葉が出てこないの」
「若いんだから、そんなことじゃダメよ」
「ううん……そう、幽香がいるから、私は嬉しいの」
「そう、それは嬉しいわ」
「えーりんもいるから、嬉しい」
「そう」
「…ううん、でも、何か違うのよ」
「もう、なんなのよ」
「嬉しいじゃなくて、温かいんじゃんくて、気持ちいいんでもなくて…」
「………ま、思い出した時にゆっくり聞くわ」
「ごめんなさい…」
「いいってば」
「さて、じゃあそろそろオンセンと決戦と行きましょうか?」
「え」
二人は結構な時間浸かっていたが、やがて幽香が大きく伸びをして言う
ついでに大きな欠伸も一つして、涙をこすりながらメディの顔を窺った
見るとメディは目で何かを訴えかけるように眉を歪め、じぃっと幽香を見つめている
幽香はきょとんとして、メディの髪をそっと撫でる
「……どうかした?オンセンが怖い?」
「そうじゃないの。幽香やえーりん達の仇は討ちたいんだけど、その…えっと」
何やら手をこまねいて、もじもじと恥ずかしそうにしている
幽香はそれを確認してニヤリと笑い、そして、尋ねた
「…メディは、もう少しこうしてたいの?」
「う…うん、もうちょっと、だけ」
「そう…じゃあ、もう少しね」
こうして毒人形、メディスン・メランコリーは結局、百戦錬磨の温泉に案の定の大敗を喫したのであった
幽香ったらひどいわよね?ずうっと騙してたなんて
あれから結局、日が暮れるまで温泉に浸かってたの
まあ、すっごく気持ち良かったからいいんだけど
…私、ずっと人間を恨んでたわ
恨んで恨んで…それで、妖怪になった
前に閻魔さまに言われたことを思い出したんだけど、こうして動いたりできるようになっただけでも、私は特別なのね
ううん、特別なんてものじゃない
これは…ええと……
……あ、思い出した
幸せ
うん、だから人間には感謝してるわ
ほんの少しだけだけど
でもこうして私が幸せでいられるのには、人間の力もたしかに必要だったのよ
ほんの少しだけ…だと思うけど
……うん、そうよ
そう、よく考えたら私も昔は「幸せ」だった気がする
人形の私は人形として、幸せな時期もあった気がするわ
色んな人間の子供の笑う顔を見て…幸せなんて感じてた頃もあった…と、思う
きっとそう
ああでも、やっぱり少しだけね
だって私の命はスーさんのおかげなんだもの
スーさんがやっぱり一番よね
昔よりも今って、閻魔さまも……
そうそう、スーさんと言えば
この間、幽香からいいこと教えてもらったの
それはね、花にはそれぞれ「花言葉」っていうのがあって、その花の性格や在り方を現してるんだって
ふふふ、知らなかったでしょ
幽香と私と…えーりんくらいしか知らないのよ、きっと
それでね、スーさんの花言葉はねぇ…
そうそう、『幸福の再来』だったかしら
意味はよくわかんないけど
でもこれからわかるって幽香は言ってたから、大丈夫よ
これからこれから
ね、スーさん
…って、もう慣れっこなんだけど
どれ位こうしてるんだっけ
あの時はたしか……ああそう、確かあの子はあの時、ママに部屋を片付けるように言われたんだわ
それであの子はどうしてか、泣いてた
多分だけど、あの子は散らかったお部屋が好きだったのね
私たちの顔がいつでも見えてないと、あの子は寂しかったのよ
でもあの子のママは、なんとかあの子に片付けるように言ったわ
それは当たり前ね、誰だって部屋を綺麗にしたいと思うのが普通だもの
でもそうやっていくら「部屋を綺麗にしなさい」って言っても、小さなあの子はすぐには聞かない、それも当たり前
そんなことじゃ、私たちを目の届かないところに押し込むことの理由にはならないわ
だからママは、とっても上手にその子を言いくるめたの
…ううん、きっと世界中のお母さんは同じことを言うんでしょうね
「お人形さんが可哀想でしょ?こんなところに放っておいたら、お人形さんはきっと泣いてるんじゃないかしら」
ママが優しくそう言ったら、その子はすぐに泣き止んだわ
これも世界中の子供たちが一緒の反応なんでしょうね
そこでママは『もう一押し!』って具合に私を持ち上げて、手をつまんでひらひらさせながらこう言うの
「『私はあなたに片付けてもらえるととっても嬉しいの!さあ、私と一緒にお片づけをしましょうよ!』」
って
ママがそうやって私を間に挟んだら、その子はすっごくいいお返事を返したわ
こういう時にこそ思うのよね
「ああ、私は人形なんだ」って
あ、まだ終わりじゃないのよ
ママはその子にしてみればきっと、すごく素敵なママだったんだと思うわ
ママはその後、優しく笑ってその子を撫でて、こう言うの
「お片づけが上手にできたら、ご褒美に新しいお人形を買ってあげますからね」
その子の顔は本当に嬉しそうだったわ
ぱぁって明るくて、今の今までグズグズ泣いてたなんて嘘みたいに幸せそう
そうしてママと一緒に、絨毯の上に散らかってる小さなイスやテーブル、車、イヌ、クマ、兵隊……最後に私
みーんな一つの箱に入れて、押入れの奥にしまったの
それでその子は約束通りに、新しい人形を買ってもらったんでしょうね
だから今も、まっ暗で寒いまま
もう慣れっこだけど
「あら?その箱、どうしたの?」
「小さい頃に遊んでた人形、押入れから出てきたの。邪魔だったから捨ててくる」
「ん……」
「あら、お目覚め?」
「スーさん…?おはよう……」
「残念、私は『ヒーさん』よ。おはよう、メディ」
鈴蘭畑のとある一角で交わされる、妙な会話
メディスン・メランコリーがきしきしと異様な音を立てて起き上がると、フラワーマスターがにっこりと微笑んで顔を覗き込んでいた
ヒーさん、とは恐らくメディが言う鈴蘭の「スーさん」に対して、向日葵の「ヒーさん」といったところなのだろう
我ながら会心のジョークだと風見幽香は思ったが、生憎起き抜けのメディには届かなかったらしい
「あれ、幽香?おはよう」
「……ええ、おはよう」
幽香の満面の笑顔は、途端にいつものような薄ら寒い笑顔に戻る
そこらの妖怪なら、この顔一つで三途に片足を突っ込むところである
「幽香、こんな朝からどうしたの?」
「少し通りかかっただけよ。それに、今はもうお昼なんだけど」
「え?あ、本当」
しかしまだ幼く純粋なメディには、風見幽香という大妖怪の強さこそ知れど、恐ろしさは理解できていない
幽香はそれが少々気に入らないが、同時にとても興味深くもあった
自身を目の前にしてもまるで気にせず辺りを見回し、太陽を真上に確認して恥ずかしそうに笑う、幼い妖怪
こんな死と隣り合わせの状況を一向に解せず無防備に体を投げ出すなど、純粋さは無知とは根本的に違うのだと、幽香は思う
「…ところで、今日は随分と寝坊なのね。いつもはあまり眠らないと思ってたのに」
メディの隣に腰を下ろし、幽香は優しく尋ねる
「ええ、少し夢を見てたの」
「あら、どんな夢かしら」
「嫌な夢だけど、なんだか素敵な夢よ」
「…そう、良かったわね」
「うふふ、ありがとう。内容はよく覚えてないんだけどね」
実は『嫌な夢』に対してのみ幽香は言ったのだが、これもメディには伝わらない
なぜ言ったのか詳しく説明したとしても、恐らく伝わらないのだろう
メディのこういうところが幽香はつまらなくもあり、面白くもあるのだった
しかし幽香もメディの幸せそうな顔に釣られ、思わず頬が緩んでしまう
純粋すぎる純粋さは、時として幻想郷随一の危険な大妖怪すら、知らずに丸め込んでしまうのだ
「ねえ幽香、『オンセン』ってなぁに?」
「オンセン?」
メディはふいにきゅ、と音を立てて首を傾げ、幽香の顔を覗き込む
唐突だったので、幽香の頭にも一瞬「?」が浮かんだ
「そうよ。この前、死神がその辺を歩いて行くのを見て『どこに行くの?』って聞いたら、『神社にオンセンが出たんだ』って言うから」
「ああ、温泉ね」
「幽香はオンセン知ってるの?ねえ、オンセンってどんな妖怪?私よりも強いの?」
メディが文字通りガラス玉のような目をあんまりキラキラさせるものだから、幽香もきょとんとしてしまって、すぐに答えが思い浮かばなかった
どうやらメディは死神の「出た」という単語から、新手の妖怪の類だと思っているらしい
まあ元を辿ればあながち間違いではないのだが
「…ま、たしかにあなたは苦手かもね」
「え、そうなの?どんな奴?」
「そうね……。高温を持って多くの生き物を誘い込み、動けなくして、さらにはあなたの毒も抜いてくるわ」
「毒を?そう…強敵ね」
嘘は言っていない
事実、メディは水に浸かると命の源である毒が流れてしまい、動けなくなってしまうのだ
それにメディでなくとも、オンセンの力は生き物をなかなか離してくれない魔性のものである
幽香は険しい顔になったメディを見てご満悦だ
いつもの笑顔にも磨きがかかる
「ええ、あの紅白巫女も白黒魔法使いも…きっと死神も温泉にやられて、大きなタンコブでも作ってるんじゃないかしら」
「う、うそ。じゃあ……もしかして、幽香でも勝てないの?」
さっきまで興味津々に、どこか楽しげにオンセンの話を聞いていたメディだったが、これには表情が曇る
風見幽香という大妖怪の力の大きさを、それこそ一度戦って純粋に強大だと知っているだけに、途端に不安そうな顔をした
幽香はここぞとばかりに視線を落とし、ふぅとなるべく大きな溜め息をついて見せた
「そうね…実はこの間、少し戦ってみたんだけど……」
「だけど…?」
ずいと身を乗り出し、幽香の鼻の先まで顔を近づける
その顔はまるで子が母親に欲しいものを懇願するかのような、力強く、しかし今にも泣き出しそうな必死の表情だった
その顔が見れただけで幽香はどこか満足して、両手を広げて鈴蘭の上にごろんと寝転んだ
「…負けちゃったわ」
「えええ!!」
メディは大きな目をさらに丸くして驚いた
純粋ゆえ、その驚きはひとしおである
ここにも一つの嘘もない
…もっとも死神のタンコブを作ったのは温泉というわけではないのだが
幽香もつい先日噂を聞きつけて、ゆっくりと温泉に浸かってきたばかりなのだった
なんでもその時は幽香の貸切だったと言うが、それはまた別の話
「そうそう、お医者の奴らもやられたとか言ってたわね」
「そ、そんな!えーりん達でも勝てないだなんて、オンセン…なんて奴なの……!」
メディは目を見開いて、ぷるぷると肩を震わせている
反面、幽香は物凄く楽しそうだ
ちなみにえーりんとは、花の異変以来何かと世話になっている天才薬師、八意永琳のことである
その天才すら犠牲(?)になったと知り、メディはあわわと口を押さえて顔を青くする
一方幽香は先ほどからニタニタと笑いが止まらなかった
その笑いは誰がどう見てもそれと解る、いわゆる「風見幽香的なヤバい笑い」なのだが、やっぱりメディにはその違いがイマイチ解らない
そのため、メディには幽香がなぜ今こうして笑っているのかが解らないのだ
「……幽香、どうして笑ってるの?悔しくないの?」
「え?」
はた、と幽香の笑みが消える
メディはというと、顔がくしゃくしゃに歪んでいる
「いや、どうしてって…」
「どうして?幽香は凄く強いんじゃないの?オンセンなんて、簡単にやっつけられるんじゃないの?」
メディはしきりに寝ている幽香の肩をゆすり、懇願する
これは参ったな、と幽香はメディのとても悲しそうな表情をぽかんと見つめた
「…幽香、私決めたわ」
「え、な、何?」
ふいにメディが立ち上がって言ったので、幽香も咄嗟の言葉に詰まってしまった
メディはぽんぽんとスカートの土をほろうと、きゅっと細い拳を握り締める
幽香は呆然とその背中を眺めていた
「私決めた!……幽香やえーりん達の仇は、私が取るわ!」
「…メディ?」
おいおいと、幽香は手を振って起き上がる
ふんと鼻を鳴らして、メディは勢いよく振り返った
「幽香、オンセンは今も神社にいるの?」
「え、ええ、いると思うけど」
「じゃあ決まりね!幽香、私行くわ」
どうしたものかと、幽香は前髪をくるくると捻った
別にメディが何をしようと幽香の知ったことではないのだが、このままでは必ず面倒なことになる
かと言って「冗談~」と止めるのも癪…いや、それ以上にこの赤ん坊のことだ、一度の嘘で「風見幽香=嘘つき」のイメージが確立してしまうのは目に見えている
そうなれば普段から竹林の連中と親しいメディはそこから「兎詐欺=風見幽香」のイメージまで勝手に生み出してしまうだろう
それはいくらなんでも嫌だ
「幽香」
「え、あ、なに?」
あれ、まだいたのか
てっきりもう飛んで行ったものかと思っていたので、多少声が裏返る
「幽香、私、とっても大事なことを忘れてた」
「大事なこと?」
この時、幽香が想像したメディの考えは『幽香はオンセンに勝てない=メディも勝てない』である
ああ、たしかにとっても大事なことだ
おや、では上手くすればこのまま忘れさせることができるかもしれない
幽香は咄嗟に、最近あった面白い事を思い浮かべてみた
何か、温泉以上にメディが興味を引きそうなこと……ううん……
「幽香、私、神社の場所を知らないわ」
かの風見幽香をずっこけさせるのも、底抜けの純粋さが成せる業である
「げ、あんたこの前来たばっかでしょ」
「失礼ね。今日は素敵なゲストがいるじゃない」
「こんにちは。お久しぶり」
「あら、こりゃまた珍しい客ね。さ、お賽銭はあっちよ」
結局、幽香はメディと一緒に来ることになった
博麗の巫女は幽香の顔を見るなり露骨に嫌な顔をしたが、隣の小さな妖怪には愛想笑いを振舞った
最近ではめっきり減った「珍しい客」になんとか賽銭を入れて貰おうという魂胆であるが、当然メディは
「お賽銭?なぁに、それ?」
である
上手く騙せば金ヅルになるかもしれないと天下の巫女様は思ったが、隣の妖怪の笑顔を見て軽く舌打ちをする
これはさすがに相手が悪い
「で、何しに来たの?たしかあんたは水、ていうか温泉には……」
「どうかしら?私達二人なら勝てるわ」
「入れない…はい?」
聞き違いではないようだ
霊夢はメディをきょとんと見つめた後、幽香をじっとりと睨んだ
幽香は笑っている
「あら、私は悪くないわよ?」
「嘘つけ。…で、なんだって?勝てる?」
「ええ、私が幽香をサポートすれば、きっとオンセンに勝てるわよ!」
こいつは何を言っているんだ
霊夢はメディを指差しながら、またしても幽香を睨む
相変わらず、幽香は優雅に微笑んでいる
「聞いたでしょう?この子は温泉を倒しに来たのよ。あなたを凌駕した温泉をね」
「はあ?いやだから、全然意味わからんってーの」
「さあ、オンセンはここにいるんでしょ?連れてきなさいっ!」
「わっ……だから、なんなのよって」
メディは小さい身体を目いっぱい使って細い腕をぶんと振り上げ、霊夢を急かす
わけがわからず、霊夢はパッパッと手を振ってメディの拳を払うポーズをしている
そこでもやはり幽香を睨みつけるが、幽香はやはり愉快そうに口に指を当てて笑っている
「…その通りよ。さあ霊夢、早くここに温泉を連れてきなさい。どうしても匿うと言うなら、先にあなたを始末するわ」
「ちょ、なによそれ!………ああ、わかったわ」
ぽんと手を叩いて、何かを閃く霊夢
メディはそれが何を意味するのかは理解できなかったが、今はただオンセンと戦うために気を高めているので気にも留めない
幽香は、満足気に頷いて見せた
「…まったく、私の勘が『やっぱりあんたが悪い』って言ってるわ。だからあんた、自分で連れて来なさいよね」
「ふん、しょうがないわね。メディ、ちょっと待ってなさい」
「ええ、気を付けてね、幽香」
「ふふ…誘惑に負けないよう頑張るわ」
ぽんぽんとメディの頭を撫で、幽香は神社の裏山へと入っていった
メディは真っ直ぐにその背中を見つめている
それを見て、霊夢はやれやれと息を吐いた
「…あんたも色んな悪い大人に囲まれて大変ね」
「悪くない。幽香もえーりんも、みんな優しいし凄いんだから」
「凄く悪いババア共じゃないの」
「悪くない!」
悪いというか、なぜこれほどまでに強大な二つの力がこんな幼い妖怪に繋がるのかと、霊夢は冷静に考えて不可解なことであると思った
幽香はまあ恐らく遊びのつもりなのだろうが
しかしフラワーマスターである風見幽香が花を介する妖怪であるメディに対し、本物の親近感を抱いているのかもしれないという考えも浮かぶ
今でこそ人間に対する恨みは閻魔や永琳のおかげで幾分薄らいではいるようだが、もしその恨みが消えず、若しくはぶり返すようことがあれば
この小さな妖怪が風見幽香の存在と重なり、いつか人間の大きな脅威となり得るのでは…と、霊夢は心の底で懸念する
「博麗?」
「え、ああ、なに?」
ハッと我に返る
メディは怪訝に霊夢の難しそうな顔を覗き込んだ
「ねえ、あなたもオンセンには勝てなかったの?」
「……う、うん、まあね」
「やっぱり博麗も負けちゃったんだ…」
むぅと俯いて、険しい顔を見せるメディ
(……ま、このチンチクリンがどう大きくなろうと、そんな面倒なことなるわけないか)
「え、なにか言った?」
「ん?ああいや、なんでも」
「そう。……オンセン、幽香は上手くおびき寄せられるかしら」
(…ていうか、こいつがそんなになる頃には私なんてとっくにあの世よね。あーよかった)
無責任こそが当代の博麗の巫女様なのである
「ふぅ、なんとか連れて来たわ」
「…幽香、オンセンはどこ?」
メディはキョロキョロと辺りを見回し、オンセンの姿を探す
霊夢は自分の予想が当たって、大したことではないがなんとなく安堵した
幽香の足元には大きな金ダライがあり、そこからはもうもうと湯気が昇っていた
「メディ、とりあえずほら、靴を脱ぎなさい」
「え、どうして?」
「いいから、オンセンと勝負するんでしょ」
「??」
言われるがまま、メディはのそのそと慣れない手つきで靴を脱ぐ
「霊夢、座布団」
「ったく……はいはい」
霊夢も言われるがまま、奥の部屋からだるそうにズルズルと青い座布団を二枚引き摺ってきて、縁側に乱雑に並べる
「ほら座って。……ええ、じゃあメディ?オンセンと戦う前に、まずは足を清めて行きましょうか」
「わざわざ清めるの?足を?」
疑問符を浮かべてはみるが、メディは足元から立ち昇る温かな湯気に興味津々だ
我ながら酷い嘘だと幽香は思うものの、相手がメディであれば問題にはならない
「さ、足をそこに浸してご覧なさい。熱いから少しずつね」
「わかったわ。よいしょ…………わぁっ?」
メディの足は膝の少し下辺りまで熱い湯にちゃぽんと浸かり、メディは自分の足をまじまじと眺めた
ぴりぴりと痺れたような感覚が、一瞬全身を駆ける
「どう?」
「う~ん…?」
メディは首を傾げ、低く唸る
足からはじんわりと熱が伝わり、それが徐々に小さな全身へと緩やかに広がっていく
なにせ生まれて初めての感覚だったので、メディはしばらく考え込んだ
幽香はその間に「ちょっと失礼」と、広めのタライの空いている隙間に、白く細長い脚をとっぷりと浸す
二人の肩が、そっと触れ合う
「あ」
「なに?」
「わかったわ幽香。今の気持ち」
「あら。で…どうかしら?」
「温かくて…それで、すごく気持ち良くて」
「ふんふん」
「ええと…なんだったかしら?」
「さあ、知らないわよ」
「でもね、わかるのよ?言葉が出てこないの」
「若いんだから、そんなことじゃダメよ」
「ううん……そう、幽香がいるから、私は嬉しいの」
「そう、それは嬉しいわ」
「えーりんもいるから、嬉しい」
「そう」
「…ううん、でも、何か違うのよ」
「もう、なんなのよ」
「嬉しいじゃなくて、温かいんじゃんくて、気持ちいいんでもなくて…」
「………ま、思い出した時にゆっくり聞くわ」
「ごめんなさい…」
「いいってば」
「さて、じゃあそろそろオンセンと決戦と行きましょうか?」
「え」
二人は結構な時間浸かっていたが、やがて幽香が大きく伸びをして言う
ついでに大きな欠伸も一つして、涙をこすりながらメディの顔を窺った
見るとメディは目で何かを訴えかけるように眉を歪め、じぃっと幽香を見つめている
幽香はきょとんとして、メディの髪をそっと撫でる
「……どうかした?オンセンが怖い?」
「そうじゃないの。幽香やえーりん達の仇は討ちたいんだけど、その…えっと」
何やら手をこまねいて、もじもじと恥ずかしそうにしている
幽香はそれを確認してニヤリと笑い、そして、尋ねた
「…メディは、もう少しこうしてたいの?」
「う…うん、もうちょっと、だけ」
「そう…じゃあ、もう少しね」
こうして毒人形、メディスン・メランコリーは結局、百戦錬磨の温泉に案の定の大敗を喫したのであった
幽香ったらひどいわよね?ずうっと騙してたなんて
あれから結局、日が暮れるまで温泉に浸かってたの
まあ、すっごく気持ち良かったからいいんだけど
…私、ずっと人間を恨んでたわ
恨んで恨んで…それで、妖怪になった
前に閻魔さまに言われたことを思い出したんだけど、こうして動いたりできるようになっただけでも、私は特別なのね
ううん、特別なんてものじゃない
これは…ええと……
……あ、思い出した
幸せ
うん、だから人間には感謝してるわ
ほんの少しだけだけど
でもこうして私が幸せでいられるのには、人間の力もたしかに必要だったのよ
ほんの少しだけ…だと思うけど
……うん、そうよ
そう、よく考えたら私も昔は「幸せ」だった気がする
人形の私は人形として、幸せな時期もあった気がするわ
色んな人間の子供の笑う顔を見て…幸せなんて感じてた頃もあった…と、思う
きっとそう
ああでも、やっぱり少しだけね
だって私の命はスーさんのおかげなんだもの
スーさんがやっぱり一番よね
昔よりも今って、閻魔さまも……
そうそう、スーさんと言えば
この間、幽香からいいこと教えてもらったの
それはね、花にはそれぞれ「花言葉」っていうのがあって、その花の性格や在り方を現してるんだって
ふふふ、知らなかったでしょ
幽香と私と…えーりんくらいしか知らないのよ、きっと
それでね、スーさんの花言葉はねぇ…
そうそう、『幸福の再来』だったかしら
意味はよくわかんないけど
でもこれからわかるって幽香は言ってたから、大丈夫よ
これからこれから
ね、スーさん
まあ、メディ話が少ないって言うのもありますけど、そう、これは数あるメディ話の中でも上位っ・・・上位に位置するっ・・・・・・!(ざわ・・・ざわ・・・)
こんな作品、書けたらいいなあ・・・ああ、妬ましい・・(パルスィー)。
どうやったらこんなほんわかな雰囲気が出せるんでしょう、いやはや脱帽です。
こんな作品、書けたらいいなあ・・・ああ、妬ましい・・(パルスィー)。
遂にメディがmugen入りを果たしたのでwktkが止まらんぜ
漢字太郎さんの作品の中だとヤマメ辺りともいいコンビになれそうな予感が。
そしてなんだかんで面倒見のいい幽香がw
ちょっと意地悪だけど、優しいお姉さんって感じが良かったです。
温泉行きてぇ……
メディいいなあメディ。
温泉には勝てません。
よかった
すごくいいです。
こんな他愛もないコメントを今更しちゃってすいません。
本当に良かったです。
やはりメディスンは最高ですな!