東風谷早苗は伊吹萃香になんとも言えない顔を向けていた。
早苗は萃香に礼を言うべきだとは思ったが、胸中を察すればそれどころではないのだろうと思い直した。
心配の種の一つは萃香にあったのだ。
一
「霊夢さん! 助けてください!」
あわただしい音とともに障子が勢いよく開いたと思えば、早苗が開けた姿勢のまま叫んでいた。
一緒にいた萃香は早苗の方に目を向けたがすぐに酒を飲みなおした。
自分に用事があるわけではないと考えたからだろう。
薄情なものである。
しかし当の早苗本人は萃香を見るや、眉をひそめてなんとも嫌そうな顔をしていた。
もしかすると、萃香がすぐに酒を飲みなおしたのには他に理由があったのかもしれない。
そんなことを考えていると冬の乾燥した冷気が部屋の中へと入ってきた。
炬燵に入れている足は温かいが、反面上半身の寒さはひどいものだ。
見るからに興奮している早苗を落ち着かせるように、博麗霊夢はさらに落ち着いて返事をした。
「とりあえず中に入りなさいよ。寒くてかなわないわ」
意図が伝わったのか、早苗は途端に勢いを落とし、雨戸を閉め、部屋へ入って障子を閉めた。
「すいません。お邪魔します」
「炬燵、はいりなさいな。寒かったでしょ?」
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて」
断るそぶりも見せず早苗は一直線に炬燵の元まで歩いて中に入った。
よほど外は寒かったに違いない。
一人で若干広い真四角の炬燵は、二人ではやや狭く、三人になるとどうしたって足があたるほどに狭くなった。
早苗の頬の赤さが外の寒さを連想させて、少し身震いしてしまう。
そういえば早苗は萃香を、まるで見ないように意識しているようだった。
山に住む者同士でなにか喧嘩でもしたのだろうか?
冬になり、炬燵が暖かいと言って萃香は博麗神社に入り浸り始めたが、もしかするとそういう裏があったのかもしれない。
炬燵に入っても早苗が話をなかなか切り出しそうになかったので、仕方なく霊夢は言った。
「萃香、ちょっと湯飲み茶碗取ってきてもらえる? あと、お茶も少なくなったから作ってきて」
「ええー、寒いよ」
「わがまま言わないの。最近入り浸っているんだから、ちょっとくらい手伝いなさい」
「うー……私だってお客さんなのに」
萃香は文句をたらしながらも、霊夢の言いたいことがわかったのか炬燵を出て台所へと向かった。
もしかすればいらぬ節介かもしれないが、何か話すきっかけとなるようなものは必要だ。
早苗を見てみればほっとしたような表情をしていた。
四角の炬燵は一度入ってしまえば中で移動がしづらい。
先ほどまで霊夢の正面にいた萃香が抜けて、左に早苗が入っているだけの不釣合いな位置関係になった。
この状態で頼みごとを聞くのはどうかと思うが、移動するのも面倒くさくてそのまま話を進めることにした。
「どうかしたの? 急に。分社なら建てないわよ」
分社はもう挨拶みたいなものだった。
「いや、そういう事ではないのですが。いや、それは建ててくれた方が嬉しいですが……」
そこで早苗はいったん言葉を詰まらせた。
霊夢に何か頼みごとがあったみたいだが、話すことの整理がまだできてないようだった。
「落ち着いてから話しなさいな」
「すいません」
早苗は照れ笑いをして頭をかいた。
しきりに博麗神社に分社を建てるようにお願いしている早苗だが、もちろん霊夢は許可していない。
早苗も常識人だから「分社を建ててください」は挨拶みたいなものと考えていて、本気で建てて欲しいと思っているわけではなかった。
そもそも他所の神社に自分の神の分社を建ててくれ、と頼み込む方がどう考えてもおかしいのだ。
それでもしつこく言ってくるのは、やはり信仰を集めるためなのだろう。
別に建ててもらわなくても、頼んだ相手には山に八坂と洩矢の神がいることが伝わる。
布教には一石二鳥の言葉と言うことだ。
断られても効果はあるのだから、ただでは転ばぬとも言うかもしれない。
それほど布教熱心な早苗だが、今日はその挨拶もなかった。
どうしたのだろうかと思いながら、霊夢は炬燵の中に入れた足を動かさないように注意を払った。
普通に二人で炬燵に入れば、足を伸ばさないと二人の足が当たることはないから気にならないのだが、位置関係的に足を闇雲に動かせば当たってしまうかもしれない。
急に足が触れては早苗に気を使わせてしまうかもしれなし、気を使われて思考を邪魔してはいけないという配慮だ。
そんな風に早苗を刺激しないように動かないでいると、やがて話すことの整理が落ち着いた早苗が話を切り出した。
「え、と、ですね。神奈子様と諏訪子様への信仰が急になくなっているんです。……今ではもう神徳は殆ど使えない状態になっていて、おそらく今日のうちに全く使えなくなる……と、思います」
一言目は冗談に聞こえてしまったが、次になって途切れて紡がれた言葉はとても弱々しくて真剣味があり、まだどこか希望の捨て切れなさを表していた。
萃香の出て行った木戸の先を見つめて、そのまま早苗は続けた。
「信仰は神様にとっては存在意義そのものなんです。幻想郷の本来の鬼にとって見れば人間を攫うことで、人間にしてみれば死ぬということです。信仰がなくなった神様は……もう、神ではありません」
白くなるほど握り締めた右手を睨むように見ながら、僅かに垂らす涙を拭いもせず早苗はそう言い切った。
霊夢はその早苗にかける言葉がわからなかった。
霊夢に何か頼みごとをする早苗は珍しいというよりおそらく初めてだった。
したことのないことをするのには誰でも何かしら躊躇いがある。
そして、したことのないことが普段考えていないものであればあるほど、その躊躇いも大きくなる。
幻想郷に引っ越して早々に喧嘩を売った相手であり、敵と言えなくもない同業者であり、そして、そんな理由があったからこそ今の今まで頼ろうとしなかった相手である霊夢に対して、頼みごとをするのだ。
そんな相手にかけるべき言葉などわからず、そして、十分に大きすぎる筈の躊躇いを振り切らなければならないほど事態は逼迫しているに違いない。
面倒なことになっているとは思ったが、そんな早苗がとても不憫に思えてしまい、煩わしいよりは助けたいという気持ちの方が霊夢の中では強くなっていった。
「お願いします。……助けてください」
だから、決心したような顔を向けて言うその言葉に対して、面倒な気も残っていたから渋々で呆れたような息を吐いて「仕方ないわね」と、肯定の言葉で返したのだった。
しかし、面倒に巻き込まれたということ以外にも返事を渋ってしまう理由があった。
「でも、何か変なのよね」
そう、何かがおかしいのだ。
「どうかしたのですか?」
早苗が白衣で目を拭ってきょとんとした顔を向けて尋ねた。霊夢が引き受けるとわかったからか、その顔からは不安の色が薄くなっていた。
「いや、急になくなっているって言っていたけど、いつぐらいからか分かる?」
「えっと……そうですね。半月ぐらい前からです」
早苗は思い出すように視線を宙に向けて答えた。
それを聞いて確信する。
やはりおかしい。
まず、信仰というのは急に変わるものではない。
信仰を増やす時は徐々に浸透させ、信仰が減る時は徐々に忘れられる。
信仰していた皆の頭の中から急になくなることなどない。
そういった意味で、信仰と不信の関係は砂時計のようなものだと言えるかもしれない。
信仰の砂が不信の砂になるためにはそれなりの時間が必要なのである。
細い管を通るには時間がかかる。
なのに今回はその信仰の砂が急になくなるという事態になった。
つまり、壊れるはずのない砂時計が壊れてしまったのだ。
それがおかしいことだとわかっているからこそ早苗は霊夢の元に来た。
だから、おかしいのだ。
早苗が博麗神社に来る必要は、本来はない。
信仰がなくなるという事態はこの幻想郷においてそれほど問題ではない。
異変は起こりやすく解決しやすいものであるからだ。
諏訪子や神奈子ほどの強大な神様の信仰がなくなる。
そんな大きな異変に、幻想郷の番人である博麗の巫女、博麗霊夢が気付かないはずがない。
早苗が来る前に既に霊夢が動いているはずなのだ。
「私、どうかしたのかしら」
思わず独り言のようにつぶやいてしまっていた。
早苗はその言葉の訳がわからないようで「はい?」と間抜け顔で返事をするのだった。
勘が働いていない。
並の人間なら勘が働かないぐらいは日常茶飯事のことだから気にならないだろうが、霊夢に関してならばそれは違う。
そしてましてや幻想郷の異変という限定されたものに対してならば、勘が働くということは日常茶飯事という次元を超えて至極当然のこととも言えるほどだった。
現人神が奇跡を起こすように、妖怪が人を襲うように、魔法使いが魔法を使うように、霊夢にとっては勘が働くことがそれらと同じなのだ。
なのに、山の神の信仰がなくなったことに全く気がつかなかった。
信仰が急になくなるという大きな異変が小さく見えてしまうほど不可解すぎて、それはもう異変と呼ぶしかない。
この異変を解決するには……。
急に沸いた二つの異変。
働かなくなったと思った勘が告げているのか、それとも勘に頼らなくとも怪しいと思わなければいけないことなのか。
霊夢は渋々ながら了承した早苗の異変に本腰をいれることにした。
「とにかく、もう少し詳しいことが聞きたいわ。信仰がなくなって神徳がほとんど使えないみたいだけど、諏訪子や神奈子は今どうしているの? 妖怪の山にいたままだと危ないと思うんだけど」
「それは……たぶん、大丈夫です。急に弱くなった信仰についていくように、妖怪も山の神社に寄り付かなくなってしまったので……」
噛み締めるように言って、早苗は続けた。
「神様というのは一緒に遊ぶ相手がいることを望んでいるんです。博麗神社に神がいないとは言え霊夢さんならわかると思うのですが、お祭りって言うのは人間と神が一緒に遊ぶことで神を認知させる行事なんです。外の世界では祭りなどは人間と行っていて、ここでは妖怪と行うことになりましたが本質は変わりません。実際、そういう信仰の形が神奈子様の望んだものだったのです。……でも、今ではもう信仰はほとんどなく、昨日までは朝から毎日いたはずの妖怪さんも今日は見かけなくなってしまいました。信仰がなくなったからこそ大丈夫だという皮肉な話ですが、中途半端にあるよりはいいのかもしれませんね」
苦笑いを浮かべながら早苗はそう言い切った。
なんとも笑えない話だ。
早苗が萃香を見て嫌な顔をしたのに合点がいった。
山に住みながら山の神社に遊びに来もしない。
そして何をしているかと思えば博麗神社の炬燵でまったりしているのだ。
嫌な顔をしてしまうのも無理はない。
信仰を失った原因の小さな一つは萃香にもあったのだ。
ただ、それは原因の小さな一つというだけであり、根本として見るなら萃香は悪くない。
いわば異変に巻き込まれた側と見るほうが良いだろう。
信仰がなくなるという異変。
怒るのであれば萃香にではなく、異変を起こした犯人を見つけてそいつに対して怒るべきだ。
それがわかっているからこそ、嫌な顔をするしかなかったのだ。
少しかわいそうだなと思った。
早苗がそこまで言うのを待っていたかのように、萃香がようやく木戸を開け部屋の中へと入ってきた。
「うー寒い寒い。私はお酒で十分なのに、わざわざ私に茶を沸かさせるなんて、全く鬼使いが荒い人間だ」
「ごくろうさん。助かったわ」
それでも不憫な早苗にこたえるように、自分でもよくわからないが少しぞんざいに返事をしていた。
「へいへい。そうだ、私は山の神からなんにも嫌なことされてないから、恨みって言うわけじゃないけど」
言いながら萃香は急須と湯飲み茶碗を炬燵の上に置くと、炬燵の元いた場所にもぐりこんだ。
もぐりこんだというのはまさしくその文字通りで、私の側から萃香の体を確認できなくなっているほどだったのだ。
もちろん炬燵の中はとても狭くなっているのだから足が当たるのは当たり前。
それに対して萃香はもうお構いなしといった風だった。
そんなだらけた萃香を見るに、つまり、茶の準備はしたからあとは自分で注げ、ということらしい。
そんな姿勢のまま萃香が続けた。
「山の神社から妖怪が居なくなったのは別に信仰心のためじゃあない。いや、信仰心のためだと言えばためだとも言えるが、直接的には関係していないよ。なんせ……」
そして驚いたことに……。
「私がそうしたんだからね」
「なっ!」
霊夢と早苗の驚きが被る。
だらけた姿勢のまま、なんと萃香は自白をしたのだ。
顔が見えないのだから萃香がどんな考えでどんな表情をしているのか全くわからなかった。
疎と密を操る能力。萃香の能力だ。
確かにそれなら妖怪が山の神社に集まらなくなった理由も簡単に説明がつく。
以前、わけもわからず皆が集まって宴会を毎日のようにしていたのは萃香の密の能力のせいだったのだ。
逆もまた然りというわけか。
「まあまあ、怒らないでくれよ。これでも助けてあげたつもりなんだから」
萃香はまだ続ける。
「信仰心がなくなっているっていうのは私も思っていてね。それだと山の神社は危ないだろう? 神社には強い妖怪だって来るんだ。信仰のない神は神徳が使えない。そして早苗は神奈子の力を借りて奇跡を行うんだから、早苗が普通の人間になる。早苗は信仰があって初めて普通じゃない特別な人間になるんだ。山に普通の人間が入るなんて普通は許されないよ。だから信仰心がなくなっても安全なように、ちょいと神社のあたりを疎にしてやっておいたのさ。」
そこまで言うと萃香は上体を起こし、得意気な顔を見せながら言うのだった。
「密度があるのならなんでも操れる。便利だろ? 私の能力は」
ごくごく、と右の肩に乗せた瓢箪を傾けて酒を飲む姿は変な格好だと思ったが、それはさすが鬼。
自分で酒飲みだと豪語するだけあって堂に入ていてよく似合っていた。
「まあ、もちろん信仰もあつめられるんだけどね」
「え! そうなんですか?」
萃香のその一言に、食い入るように早苗が炬燵に両肘とともに身を乗せて突っかかる。
「それなら山の神社を疎にするとかいった面倒なことしないで、信仰をあつめてくださいよ。萃香さんの能力ですぐに解決できるじゃないですか」
「いやいや、解決にはならないよ。それは単なる応急処置にしかならない。しっかりしていない建物は雨が降れば簡単に流れてしまうんだ。私が信仰をあつめたところで、それじゃあいつらが私の機嫌一つで強くなったり弱くなったりしてしまう。そういうのは嫌だろ? ……それにあれだ」
萃香は意地が悪そうな顔をして早苗に言った。
「私が信仰をあつめちゃったらお前の仕事がなくなるじゃないか。そんなことになったら、早苗はどこそこのぐーたら巫女になってしまうよ」
ごくごく、と萃香はまた瓢箪を傾けて酒を飲んだ。
早苗は萃香のその傍若無人な言い様にたじろいで何も言うこともできなくなってしまった。
霊夢に対して気を使おうとしているのか、ちらりちらりと様子を窺っている。
萃香にからかわれるのは日常茶飯事だった。
しかし他人にそれが日常のことだとはあまり知られたくなかったから、いつもは軽く流す霊夢も今回ばかりはつい反応してしまったのだった。
「それを言うなら萃香だってそうじゃない。いつも私のとこの炬燵でくつろいでいるだけで。……その点これでも私は一応賽銭の確認と境内の掃除ぐらいはしているわよ」
と反論する霊夢も自分で少しむなしくなってしまっていた。
なんせ賽銭は毎日が空なのだ。
今朝も諦めに近いものを感じながら一抹の期待を持って賽銭箱を開けると、もちろん中は空だった。
だから一応という言葉をつけた。
効果がないとは言っても仕事は仕事だ。
何もしないよりは良いに違いない、と霊夢は自分に言い聞かせた。
しかし、萃香は霊夢の反論を受けてにやりと勝ち誇ったように笑い返すだけだった。
その表情にはっとして霊夢は我に返り、照れ隠しにぶっきらぼうに言うのだった。
「なによ」
「ん? なんでもないよ」
ぞんざいに投げ出されたその萃香の言葉を聞いて霊夢は思い出した。
ついさっき、霊夢も萃香と似たことをしたのだ。
その頭の中の言葉を聞いているかのように萃香は霊夢の足を軽く蹴って言った。
「これでお相子だね」
萃香のにやりとした顔には、これで許してあげる、とかいているように思えた。
それを見て霊夢は負けましたと言うように頭をかいて軽く息を吐いた。
萃香は妖怪で、鬼なのだ。
萃香は幻想郷が博麗大結界で外の世界から切り離される以前から今まで生きている。
それまで何をして何を考えていたのかは詳しくわからないが、少なくとも色々な経験は霊夢より遥かに多くあるはずだ。
萃香がもし無為に生を過ごしてきたとしても、数百年と高々二十年ではその差は明白だ。
妖怪の寿命は人間のものよりはるかに長い。
霊夢が言い負かされるのは必然のことでいつものことだった。
だから普段は萃香のからかいは軽く流すようにしていたし、そうすれば負けないだろうと思っていた。
つまり今回は少し頭に血が上ってしまったらしいということだ。
他人の前では挑発に乗ってしまうと思われてしまったようで、参ったなと思った。
しばらくして霊夢が顔を上げて見てみれば、早苗はなんともいえない顔を萃香に向けていた。
早苗は萃香に礼を言うべきだとは思ったが、胸中を察すればそれどころではないのだろうと思い直した。
仕方がないと言えば仕方がない。
たとえ萃香に助けてもらっていたとは言っても、先ほどまでの心配の種は萃香にあったのだ。
そして萃香によって信仰が減ったことにも変わりはない。
早々に割り切れるものではないのだろう。怒りたくても怒れない。
そんな早苗の考えとも感情とも取れるものがひしひしと伝わってきた。
早苗を見ていてふと思い出した。
「あ、そうそう。早苗。今日からこっちの神社に泊まっていきなさい」
「え?」と早苗。「なっ!」と萃香。
対照的な二人の声が同時にした。
「だって、萃香も言っていた通り神奈子が神徳を使えないなら早苗はただの人間なんでしょ? そんな普通の人間を妖怪の山に行かせられるはずないじゃない」
「それは、そうですが」
「……」
驚きの声を上げたはずの萃香も、霊夢の正論には何も言い返すことができないで早苗を睨むように見るだけになった。
早苗も早苗でどこか当惑しているような、霊夢と萃香を交互に見ては困ったような表情を浮かべていた。
「あの、……萃香さんも神社に泊まっているのでしょうか?」
「ん? 最近になって泊まりだしたけど……それがどうかしたの?」
「あ、いやなんでもないです。仲が良いように思えたから……あ、いや、妖怪が人間のための神社にいるのはおかしいんじゃないかと思っただけで」
早苗は歯切れ悪く言葉を選んでいるような話し方をしていた。
その真意がよくわからず萃香を見てみれば、萃香は誰とも顔をあわせようとせず笑いを噛み殺している。
二人に何か通じるようなものがあるみたいに思えて、仲間はずれというそういうようなものではなく、霊夢は少しいやな気分になった。
「どうして笑っているのかよくわからないけど、まあ、もちろん萃香も泊まっていくでしょ?」
「へ? あ、う、うん。そりゃあ、まあ」
「あ、いやほらさ。早苗はここに泊り込むのは初めてなんだし、慣れている人がいると心強いなあ、と」
「うんうん、わかってるって。もともと泊まっていたんだし、遠慮せず泊まっていくよ」
ごくごく、と萃香は酒を飲んだ。
早苗と萃香を見ているとなんだか少しいやな気分になって、悔しくて気づけば萃香も誘ってしまっていた。
自分でもどうしてかはわかっている。
これは仲間はずれだからとか言うものではない。
萃香を早苗に取られたくはない。
恋とは少し違う、と思う。
長く共にいれば情が移り軽い家族のように思ってしまうという。
これも長く一緒にいたからこそ感じる、家族愛に似たものなのだろうか。
でも、それこそ何か違うような気がした。
とにかく明日からは萃香となるべく一緒にいよう。
言ってしまったからには早苗がここに泊まるのは仕方がないし、今更断ったところで急なことで泊まる当てもないに違いない。
萃香が早苗に、そして早苗が萃香に変な気を起こさせないように、明日からは萃香と仲良くしよう、と思った。
早苗はやはり突然のことで当惑しているようで。
萃香はといえば珍しく顔が赤くなるほどまでに酒を飲んでいた。
異変のせいか、それとも異変のおかげと言うべきか、どちらにせよ明日から少し変わった日常になる。
そう思うと霊夢は、不安と期待の入り混じったような感情が胸の内にあることに気がついた。
早苗は萃香に礼を言うべきだとは思ったが、胸中を察すればそれどころではないのだろうと思い直した。
心配の種の一つは萃香にあったのだ。
一
「霊夢さん! 助けてください!」
あわただしい音とともに障子が勢いよく開いたと思えば、早苗が開けた姿勢のまま叫んでいた。
一緒にいた萃香は早苗の方に目を向けたがすぐに酒を飲みなおした。
自分に用事があるわけではないと考えたからだろう。
薄情なものである。
しかし当の早苗本人は萃香を見るや、眉をひそめてなんとも嫌そうな顔をしていた。
もしかすると、萃香がすぐに酒を飲みなおしたのには他に理由があったのかもしれない。
そんなことを考えていると冬の乾燥した冷気が部屋の中へと入ってきた。
炬燵に入れている足は温かいが、反面上半身の寒さはひどいものだ。
見るからに興奮している早苗を落ち着かせるように、博麗霊夢はさらに落ち着いて返事をした。
「とりあえず中に入りなさいよ。寒くてかなわないわ」
意図が伝わったのか、早苗は途端に勢いを落とし、雨戸を閉め、部屋へ入って障子を閉めた。
「すいません。お邪魔します」
「炬燵、はいりなさいな。寒かったでしょ?」
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて」
断るそぶりも見せず早苗は一直線に炬燵の元まで歩いて中に入った。
よほど外は寒かったに違いない。
一人で若干広い真四角の炬燵は、二人ではやや狭く、三人になるとどうしたって足があたるほどに狭くなった。
早苗の頬の赤さが外の寒さを連想させて、少し身震いしてしまう。
そういえば早苗は萃香を、まるで見ないように意識しているようだった。
山に住む者同士でなにか喧嘩でもしたのだろうか?
冬になり、炬燵が暖かいと言って萃香は博麗神社に入り浸り始めたが、もしかするとそういう裏があったのかもしれない。
炬燵に入っても早苗が話をなかなか切り出しそうになかったので、仕方なく霊夢は言った。
「萃香、ちょっと湯飲み茶碗取ってきてもらえる? あと、お茶も少なくなったから作ってきて」
「ええー、寒いよ」
「わがまま言わないの。最近入り浸っているんだから、ちょっとくらい手伝いなさい」
「うー……私だってお客さんなのに」
萃香は文句をたらしながらも、霊夢の言いたいことがわかったのか炬燵を出て台所へと向かった。
もしかすればいらぬ節介かもしれないが、何か話すきっかけとなるようなものは必要だ。
早苗を見てみればほっとしたような表情をしていた。
四角の炬燵は一度入ってしまえば中で移動がしづらい。
先ほどまで霊夢の正面にいた萃香が抜けて、左に早苗が入っているだけの不釣合いな位置関係になった。
この状態で頼みごとを聞くのはどうかと思うが、移動するのも面倒くさくてそのまま話を進めることにした。
「どうかしたの? 急に。分社なら建てないわよ」
分社はもう挨拶みたいなものだった。
「いや、そういう事ではないのですが。いや、それは建ててくれた方が嬉しいですが……」
そこで早苗はいったん言葉を詰まらせた。
霊夢に何か頼みごとがあったみたいだが、話すことの整理がまだできてないようだった。
「落ち着いてから話しなさいな」
「すいません」
早苗は照れ笑いをして頭をかいた。
しきりに博麗神社に分社を建てるようにお願いしている早苗だが、もちろん霊夢は許可していない。
早苗も常識人だから「分社を建ててください」は挨拶みたいなものと考えていて、本気で建てて欲しいと思っているわけではなかった。
そもそも他所の神社に自分の神の分社を建ててくれ、と頼み込む方がどう考えてもおかしいのだ。
それでもしつこく言ってくるのは、やはり信仰を集めるためなのだろう。
別に建ててもらわなくても、頼んだ相手には山に八坂と洩矢の神がいることが伝わる。
布教には一石二鳥の言葉と言うことだ。
断られても効果はあるのだから、ただでは転ばぬとも言うかもしれない。
それほど布教熱心な早苗だが、今日はその挨拶もなかった。
どうしたのだろうかと思いながら、霊夢は炬燵の中に入れた足を動かさないように注意を払った。
普通に二人で炬燵に入れば、足を伸ばさないと二人の足が当たることはないから気にならないのだが、位置関係的に足を闇雲に動かせば当たってしまうかもしれない。
急に足が触れては早苗に気を使わせてしまうかもしれなし、気を使われて思考を邪魔してはいけないという配慮だ。
そんな風に早苗を刺激しないように動かないでいると、やがて話すことの整理が落ち着いた早苗が話を切り出した。
「え、と、ですね。神奈子様と諏訪子様への信仰が急になくなっているんです。……今ではもう神徳は殆ど使えない状態になっていて、おそらく今日のうちに全く使えなくなる……と、思います」
一言目は冗談に聞こえてしまったが、次になって途切れて紡がれた言葉はとても弱々しくて真剣味があり、まだどこか希望の捨て切れなさを表していた。
萃香の出て行った木戸の先を見つめて、そのまま早苗は続けた。
「信仰は神様にとっては存在意義そのものなんです。幻想郷の本来の鬼にとって見れば人間を攫うことで、人間にしてみれば死ぬということです。信仰がなくなった神様は……もう、神ではありません」
白くなるほど握り締めた右手を睨むように見ながら、僅かに垂らす涙を拭いもせず早苗はそう言い切った。
霊夢はその早苗にかける言葉がわからなかった。
霊夢に何か頼みごとをする早苗は珍しいというよりおそらく初めてだった。
したことのないことをするのには誰でも何かしら躊躇いがある。
そして、したことのないことが普段考えていないものであればあるほど、その躊躇いも大きくなる。
幻想郷に引っ越して早々に喧嘩を売った相手であり、敵と言えなくもない同業者であり、そして、そんな理由があったからこそ今の今まで頼ろうとしなかった相手である霊夢に対して、頼みごとをするのだ。
そんな相手にかけるべき言葉などわからず、そして、十分に大きすぎる筈の躊躇いを振り切らなければならないほど事態は逼迫しているに違いない。
面倒なことになっているとは思ったが、そんな早苗がとても不憫に思えてしまい、煩わしいよりは助けたいという気持ちの方が霊夢の中では強くなっていった。
「お願いします。……助けてください」
だから、決心したような顔を向けて言うその言葉に対して、面倒な気も残っていたから渋々で呆れたような息を吐いて「仕方ないわね」と、肯定の言葉で返したのだった。
しかし、面倒に巻き込まれたということ以外にも返事を渋ってしまう理由があった。
「でも、何か変なのよね」
そう、何かがおかしいのだ。
「どうかしたのですか?」
早苗が白衣で目を拭ってきょとんとした顔を向けて尋ねた。霊夢が引き受けるとわかったからか、その顔からは不安の色が薄くなっていた。
「いや、急になくなっているって言っていたけど、いつぐらいからか分かる?」
「えっと……そうですね。半月ぐらい前からです」
早苗は思い出すように視線を宙に向けて答えた。
それを聞いて確信する。
やはりおかしい。
まず、信仰というのは急に変わるものではない。
信仰を増やす時は徐々に浸透させ、信仰が減る時は徐々に忘れられる。
信仰していた皆の頭の中から急になくなることなどない。
そういった意味で、信仰と不信の関係は砂時計のようなものだと言えるかもしれない。
信仰の砂が不信の砂になるためにはそれなりの時間が必要なのである。
細い管を通るには時間がかかる。
なのに今回はその信仰の砂が急になくなるという事態になった。
つまり、壊れるはずのない砂時計が壊れてしまったのだ。
それがおかしいことだとわかっているからこそ早苗は霊夢の元に来た。
だから、おかしいのだ。
早苗が博麗神社に来る必要は、本来はない。
信仰がなくなるという事態はこの幻想郷においてそれほど問題ではない。
異変は起こりやすく解決しやすいものであるからだ。
諏訪子や神奈子ほどの強大な神様の信仰がなくなる。
そんな大きな異変に、幻想郷の番人である博麗の巫女、博麗霊夢が気付かないはずがない。
早苗が来る前に既に霊夢が動いているはずなのだ。
「私、どうかしたのかしら」
思わず独り言のようにつぶやいてしまっていた。
早苗はその言葉の訳がわからないようで「はい?」と間抜け顔で返事をするのだった。
勘が働いていない。
並の人間なら勘が働かないぐらいは日常茶飯事のことだから気にならないだろうが、霊夢に関してならばそれは違う。
そしてましてや幻想郷の異変という限定されたものに対してならば、勘が働くということは日常茶飯事という次元を超えて至極当然のこととも言えるほどだった。
現人神が奇跡を起こすように、妖怪が人を襲うように、魔法使いが魔法を使うように、霊夢にとっては勘が働くことがそれらと同じなのだ。
なのに、山の神の信仰がなくなったことに全く気がつかなかった。
信仰が急になくなるという大きな異変が小さく見えてしまうほど不可解すぎて、それはもう異変と呼ぶしかない。
この異変を解決するには……。
急に沸いた二つの異変。
働かなくなったと思った勘が告げているのか、それとも勘に頼らなくとも怪しいと思わなければいけないことなのか。
霊夢は渋々ながら了承した早苗の異変に本腰をいれることにした。
「とにかく、もう少し詳しいことが聞きたいわ。信仰がなくなって神徳がほとんど使えないみたいだけど、諏訪子や神奈子は今どうしているの? 妖怪の山にいたままだと危ないと思うんだけど」
「それは……たぶん、大丈夫です。急に弱くなった信仰についていくように、妖怪も山の神社に寄り付かなくなってしまったので……」
噛み締めるように言って、早苗は続けた。
「神様というのは一緒に遊ぶ相手がいることを望んでいるんです。博麗神社に神がいないとは言え霊夢さんならわかると思うのですが、お祭りって言うのは人間と神が一緒に遊ぶことで神を認知させる行事なんです。外の世界では祭りなどは人間と行っていて、ここでは妖怪と行うことになりましたが本質は変わりません。実際、そういう信仰の形が神奈子様の望んだものだったのです。……でも、今ではもう信仰はほとんどなく、昨日までは朝から毎日いたはずの妖怪さんも今日は見かけなくなってしまいました。信仰がなくなったからこそ大丈夫だという皮肉な話ですが、中途半端にあるよりはいいのかもしれませんね」
苦笑いを浮かべながら早苗はそう言い切った。
なんとも笑えない話だ。
早苗が萃香を見て嫌な顔をしたのに合点がいった。
山に住みながら山の神社に遊びに来もしない。
そして何をしているかと思えば博麗神社の炬燵でまったりしているのだ。
嫌な顔をしてしまうのも無理はない。
信仰を失った原因の小さな一つは萃香にもあったのだ。
ただ、それは原因の小さな一つというだけであり、根本として見るなら萃香は悪くない。
いわば異変に巻き込まれた側と見るほうが良いだろう。
信仰がなくなるという異変。
怒るのであれば萃香にではなく、異変を起こした犯人を見つけてそいつに対して怒るべきだ。
それがわかっているからこそ、嫌な顔をするしかなかったのだ。
少しかわいそうだなと思った。
早苗がそこまで言うのを待っていたかのように、萃香がようやく木戸を開け部屋の中へと入ってきた。
「うー寒い寒い。私はお酒で十分なのに、わざわざ私に茶を沸かさせるなんて、全く鬼使いが荒い人間だ」
「ごくろうさん。助かったわ」
それでも不憫な早苗にこたえるように、自分でもよくわからないが少しぞんざいに返事をしていた。
「へいへい。そうだ、私は山の神からなんにも嫌なことされてないから、恨みって言うわけじゃないけど」
言いながら萃香は急須と湯飲み茶碗を炬燵の上に置くと、炬燵の元いた場所にもぐりこんだ。
もぐりこんだというのはまさしくその文字通りで、私の側から萃香の体を確認できなくなっているほどだったのだ。
もちろん炬燵の中はとても狭くなっているのだから足が当たるのは当たり前。
それに対して萃香はもうお構いなしといった風だった。
そんなだらけた萃香を見るに、つまり、茶の準備はしたからあとは自分で注げ、ということらしい。
そんな姿勢のまま萃香が続けた。
「山の神社から妖怪が居なくなったのは別に信仰心のためじゃあない。いや、信仰心のためだと言えばためだとも言えるが、直接的には関係していないよ。なんせ……」
そして驚いたことに……。
「私がそうしたんだからね」
「なっ!」
霊夢と早苗の驚きが被る。
だらけた姿勢のまま、なんと萃香は自白をしたのだ。
顔が見えないのだから萃香がどんな考えでどんな表情をしているのか全くわからなかった。
疎と密を操る能力。萃香の能力だ。
確かにそれなら妖怪が山の神社に集まらなくなった理由も簡単に説明がつく。
以前、わけもわからず皆が集まって宴会を毎日のようにしていたのは萃香の密の能力のせいだったのだ。
逆もまた然りというわけか。
「まあまあ、怒らないでくれよ。これでも助けてあげたつもりなんだから」
萃香はまだ続ける。
「信仰心がなくなっているっていうのは私も思っていてね。それだと山の神社は危ないだろう? 神社には強い妖怪だって来るんだ。信仰のない神は神徳が使えない。そして早苗は神奈子の力を借りて奇跡を行うんだから、早苗が普通の人間になる。早苗は信仰があって初めて普通じゃない特別な人間になるんだ。山に普通の人間が入るなんて普通は許されないよ。だから信仰心がなくなっても安全なように、ちょいと神社のあたりを疎にしてやっておいたのさ。」
そこまで言うと萃香は上体を起こし、得意気な顔を見せながら言うのだった。
「密度があるのならなんでも操れる。便利だろ? 私の能力は」
ごくごく、と右の肩に乗せた瓢箪を傾けて酒を飲む姿は変な格好だと思ったが、それはさすが鬼。
自分で酒飲みだと豪語するだけあって堂に入ていてよく似合っていた。
「まあ、もちろん信仰もあつめられるんだけどね」
「え! そうなんですか?」
萃香のその一言に、食い入るように早苗が炬燵に両肘とともに身を乗せて突っかかる。
「それなら山の神社を疎にするとかいった面倒なことしないで、信仰をあつめてくださいよ。萃香さんの能力ですぐに解決できるじゃないですか」
「いやいや、解決にはならないよ。それは単なる応急処置にしかならない。しっかりしていない建物は雨が降れば簡単に流れてしまうんだ。私が信仰をあつめたところで、それじゃあいつらが私の機嫌一つで強くなったり弱くなったりしてしまう。そういうのは嫌だろ? ……それにあれだ」
萃香は意地が悪そうな顔をして早苗に言った。
「私が信仰をあつめちゃったらお前の仕事がなくなるじゃないか。そんなことになったら、早苗はどこそこのぐーたら巫女になってしまうよ」
ごくごく、と萃香はまた瓢箪を傾けて酒を飲んだ。
早苗は萃香のその傍若無人な言い様にたじろいで何も言うこともできなくなってしまった。
霊夢に対して気を使おうとしているのか、ちらりちらりと様子を窺っている。
萃香にからかわれるのは日常茶飯事だった。
しかし他人にそれが日常のことだとはあまり知られたくなかったから、いつもは軽く流す霊夢も今回ばかりはつい反応してしまったのだった。
「それを言うなら萃香だってそうじゃない。いつも私のとこの炬燵でくつろいでいるだけで。……その点これでも私は一応賽銭の確認と境内の掃除ぐらいはしているわよ」
と反論する霊夢も自分で少しむなしくなってしまっていた。
なんせ賽銭は毎日が空なのだ。
今朝も諦めに近いものを感じながら一抹の期待を持って賽銭箱を開けると、もちろん中は空だった。
だから一応という言葉をつけた。
効果がないとは言っても仕事は仕事だ。
何もしないよりは良いに違いない、と霊夢は自分に言い聞かせた。
しかし、萃香は霊夢の反論を受けてにやりと勝ち誇ったように笑い返すだけだった。
その表情にはっとして霊夢は我に返り、照れ隠しにぶっきらぼうに言うのだった。
「なによ」
「ん? なんでもないよ」
ぞんざいに投げ出されたその萃香の言葉を聞いて霊夢は思い出した。
ついさっき、霊夢も萃香と似たことをしたのだ。
その頭の中の言葉を聞いているかのように萃香は霊夢の足を軽く蹴って言った。
「これでお相子だね」
萃香のにやりとした顔には、これで許してあげる、とかいているように思えた。
それを見て霊夢は負けましたと言うように頭をかいて軽く息を吐いた。
萃香は妖怪で、鬼なのだ。
萃香は幻想郷が博麗大結界で外の世界から切り離される以前から今まで生きている。
それまで何をして何を考えていたのかは詳しくわからないが、少なくとも色々な経験は霊夢より遥かに多くあるはずだ。
萃香がもし無為に生を過ごしてきたとしても、数百年と高々二十年ではその差は明白だ。
妖怪の寿命は人間のものよりはるかに長い。
霊夢が言い負かされるのは必然のことでいつものことだった。
だから普段は萃香のからかいは軽く流すようにしていたし、そうすれば負けないだろうと思っていた。
つまり今回は少し頭に血が上ってしまったらしいということだ。
他人の前では挑発に乗ってしまうと思われてしまったようで、参ったなと思った。
しばらくして霊夢が顔を上げて見てみれば、早苗はなんともいえない顔を萃香に向けていた。
早苗は萃香に礼を言うべきだとは思ったが、胸中を察すればそれどころではないのだろうと思い直した。
仕方がないと言えば仕方がない。
たとえ萃香に助けてもらっていたとは言っても、先ほどまでの心配の種は萃香にあったのだ。
そして萃香によって信仰が減ったことにも変わりはない。
早々に割り切れるものではないのだろう。怒りたくても怒れない。
そんな早苗の考えとも感情とも取れるものがひしひしと伝わってきた。
早苗を見ていてふと思い出した。
「あ、そうそう。早苗。今日からこっちの神社に泊まっていきなさい」
「え?」と早苗。「なっ!」と萃香。
対照的な二人の声が同時にした。
「だって、萃香も言っていた通り神奈子が神徳を使えないなら早苗はただの人間なんでしょ? そんな普通の人間を妖怪の山に行かせられるはずないじゃない」
「それは、そうですが」
「……」
驚きの声を上げたはずの萃香も、霊夢の正論には何も言い返すことができないで早苗を睨むように見るだけになった。
早苗も早苗でどこか当惑しているような、霊夢と萃香を交互に見ては困ったような表情を浮かべていた。
「あの、……萃香さんも神社に泊まっているのでしょうか?」
「ん? 最近になって泊まりだしたけど……それがどうかしたの?」
「あ、いやなんでもないです。仲が良いように思えたから……あ、いや、妖怪が人間のための神社にいるのはおかしいんじゃないかと思っただけで」
早苗は歯切れ悪く言葉を選んでいるような話し方をしていた。
その真意がよくわからず萃香を見てみれば、萃香は誰とも顔をあわせようとせず笑いを噛み殺している。
二人に何か通じるようなものがあるみたいに思えて、仲間はずれというそういうようなものではなく、霊夢は少しいやな気分になった。
「どうして笑っているのかよくわからないけど、まあ、もちろん萃香も泊まっていくでしょ?」
「へ? あ、う、うん。そりゃあ、まあ」
「あ、いやほらさ。早苗はここに泊り込むのは初めてなんだし、慣れている人がいると心強いなあ、と」
「うんうん、わかってるって。もともと泊まっていたんだし、遠慮せず泊まっていくよ」
ごくごく、と萃香は酒を飲んだ。
早苗と萃香を見ているとなんだか少しいやな気分になって、悔しくて気づけば萃香も誘ってしまっていた。
自分でもどうしてかはわかっている。
これは仲間はずれだからとか言うものではない。
萃香を早苗に取られたくはない。
恋とは少し違う、と思う。
長く共にいれば情が移り軽い家族のように思ってしまうという。
これも長く一緒にいたからこそ感じる、家族愛に似たものなのだろうか。
でも、それこそ何か違うような気がした。
とにかく明日からは萃香となるべく一緒にいよう。
言ってしまったからには早苗がここに泊まるのは仕方がないし、今更断ったところで急なことで泊まる当てもないに違いない。
萃香が早苗に、そして早苗が萃香に変な気を起こさせないように、明日からは萃香と仲良くしよう、と思った。
早苗はやはり突然のことで当惑しているようで。
萃香はといえば珍しく顔が赤くなるほどまでに酒を飲んでいた。
異変のせいか、それとも異変のおかげと言うべきか、どちらにせよ明日から少し変わった日常になる。
そう思うと霊夢は、不安と期待の入り混じったような感情が胸の内にあることに気がついた。
ここは作品を投稿する場所であって、宣伝だけなら
自分のHPなりなんなりでしてくださいな。
内容については、もう少し改行してくれたほうが読みやすくなって
いいと思います。
メインキャストが良さげだと感じただけにちょっと残念かも
ここで書いたからにはちゃんとここで書き終わってから出そうと思ってます。
でも基本的にコピー貼り付けでここに投稿することになるのと、挿絵もないのでこちらでは読みにくいのでは。。
と思いました。
文章字体は全部載せるつもりです。
ちゃんと日本語を勉強してください。物売るっていうレベルじゃねぇぞ!!
いるので頑張ってください。
ただ、宣伝めいた後書きは、やはり気になるって人もいると思いますので、
自分のHPで宣伝して、HPへのリンクを創想話に付けるという形に
したほうがいいと思います。いらぬお世話かもしれませんけど……
東方緋想天・萃香ルートを見ればわかりますが、萃香は山に住んでいません。
寧ろできる限り近づかないようにしている状態であり、守矢の二柱の信仰には
関係が無い筈です。
この作品自体は普通に読みやすかったですよ?
続き期待してます。
> 御自身の作品であっても転載は不可です。
ご存知かもしれませんが、上は東方創想話の規定(の一部)です。
創想話に投稿→同人誌に掲載という順序なら、問題無い……のかな?
作品に関しては、まだ序章ということで評価を保留。
とりあえず、早苗と萃香の心の動きがよく理解できませんでしたけど、おいおい明かされることを
期待します。
冬コミは保留