古来からね、お酒ってのは魔法の産物なんだよ。
…は?
まぁ、魔法…とは言わないまでも、「百薬の長」ってのは聞いたことあるんじゃないかい?
あぁ、まぁな。
ふふ、なら話は早い。5月の梅雨入りくらいに申し分ない。
なに、話は簡単さ。
酒ってのは、心に効くクスリなんだよ。
あん?
気持ちが良くなる。
一見すると、ありふれている。なんでもないことのように思えるかもしれないけどね。
それはそれは、大層なことなんだよ。
祝い事の度に酒を飲み、神前で酒を飲み、戦の前に酒を飲み、死んで石に収められてからも酒を飲む。
その酒の消費量たるや、鬼の私が舌を巻くほどさ。
すぐにほどいて一緒に飲むけどね?
つったってさ、別に酔ったからって何が治るわけでもないじゃないか。
いやいや。
確かに酒飲んだからって風邪が治るわけでも筋肉がつくわけでもない。
でもな、そんなことじゃないんだ。
実際の効果なんてのは二の次なんだよ。
えぇ?
きひひひ、難しい言い草になっちまったね。
なぁに、簡単なことさ。
酒ってのはぁ、人の色々を取っ払っちまうんだよ。
取っ払う、って…何をさ。
理性とかか?そんなの、魔法どころかただの迷惑で麻薬だろ
例えば今のお前とか。
んーんーん、ちーがぁうんだなぁコレが。
ふふ、まだ十だか二十だかそこらのケツの青い生娘にゃあわからんかね。
人間んー!ってのはねぇ、いーろいろ縛っちまうのさ。
縛る?
自分を、ってことか?
そうそうそう、自分も然り、他人も然り、どころか動物だって植物だって、挙句神様だって縛る。縛り尽くす。
どこまでもどこまでも、限界ってーのはここにある。限度ってーのはここにある。
だぁーから私達人間は霊長なのです、ってね!
あー?言ってることがわからないぜ?ここは幻想郷だ、日本語でしゃべれ。
そのくせ、欲望の果てってのを夢だの希望だのと言い換えて、人間全部が束になれば満たせない欲は無い、と。
世界の中で自分達の見果てぬ場所など無い、と。
何もかもを自分のものにするまで、いいや例えできたとしても飽き足りないんだ。
…ったく、なんなんだよ、悪口言いたいだけだってんなら、帰るぜ?
まーまーまーまーちょいと、ちょこっとちょろんと待っておくれよ霧雨の!
なんだそりゃ、普段私をそんな呼び方しないくせに。
っかっかっかっか!酔っぱらい相手に普段がどうの、そんな細かいこと気にするねい!
…もともと酔ってるようなもんだと思ってたが、なるほど。確かに普段のありゃ素面だってことか。
おうおう、そんな逐一思い出せるくらい私を見てくれてるなんてぇ、
照れるねえ嬉しいねえ!これだから人間んっ!が大好きなんだよあたしらは!
あーあーもう、わかったからそう揺れるなってこら、肩組むな私まで揺れちmうぁぁぁぁ
っはっはっは!うはっはっはっはっは!ゆらゆらゆらゆら!世界がゆがんでよくわからない!
なんてきもちー、気持ち、いいんだろねうはーーーはっは、あっはっはぁーーーー!
ぐわ、うぐ、いやちょ、うええおおお…やめろ、やめろっtぐうう!この、酔っ払い鬼娘が!!!
きゃあーん突き飛ばさーれーたああぁぁぁぁぁ、あ?うおう?なんでぃ最近の地面はやーらけぇじゃねえかべらんめぇい!
…それは私のお稲荷さんだ。
えーー?うそだー、おいなりさんはもっと甘くて酸っぱくてしっとりして黒いもそもそとか入ってるよーぅ?
ウチではいなり寿司にひじきは入れん。断固として入れん。
例え紫様が朝早起きしようともそれだけはさせん。
というか、どいてくれ。それは私の尻尾だ。
あははははbっげっほげほっ!うぇっほっほ!動かさないでくれよ毛が挿入っちゃう!らめぇ気持ちいい!ぅげっほ!
ええいやかましい!私の毛並みを乱すな!酒臭くするな!
九尾の尻尾は二十歳からってなって橙が入れなくなるだろう!!
うひははははは!誰がそんなお触れを出すのさ、なぁーんだ常識人かと思ったらあんたも酔ってるじゃないか。
それに、あの黒猫の愛情がそんな法律で抑えられるものだとでも思ってるのかい?
あの子は分別のある子だが、それでも構わず飛び込んでくるさー!
むぅ!確かにそういえばそうだ!私達の家族愛は如何なルールと言えど屈しないからな!
すぅ…はぁ…すぅ…はぁ…。
ちぇえええええええええええええええええええええええええええええええええん!!!!!!!!!!!!!
ぅあぁぁぁあぁぁあああいしてるぞぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
うっきゃー尻尾がいきり立って飛ーばさーれるーーーーぅ!
…おや、おやおやぁ?近頃の大地って奴ぁー、どーにも甘ぁい香りがするねぇ?
思わず角が抜けちまいそうだよーぅ、ってか!
いっそ抜いてしまえ。そうすればウチの襖だの障子だの柱だのの被害も減るわ。
あいたぁ!こいつぁ厳しいですねぇ霊っつぁん!
誰よ霊っつぁんて、意味わかんないわよ。
というか萃香、大の字の私の脇に寝るな。私の腕枕は高いわよ?
しかもうつ伏せだしねぇ。いやいや、僥倖僥倖。
すんすん。やはり幻想郷はここにあったか…。
あのねえ。
私にも一応羞恥心ってものはあるんだからね。お腹とか太ももなら許してあげるから、
そっちに寝なさい。そっちなら自信あるわ
何を言う。
脇巫女のくせして。
ええい!角が鼻先掠めてくすぐったいってのよ!!
うきゃあー殺されないけど転がされるーぅーーー!
って、あれ?
まったくもう。
どうせだったら、きちんと真正面から来なさい。
それだったら流鏑馬よ。
つまりやぶさかじゃないのね。
…うにゅあー、霊夢のおっぱい気持ちいぃー。
あんまり気持ち良いから頬ずりしちゃーう。ぐりぐりすりすりあむあむあむ
あらあら、しょーのない赤ん坊ね。
暴れられても困るから、今夜はこのまま寝ちゃったら?
えへへへ、そぉーんな果し合い受けちまったら鬼としちゃあ断るわけにはいかないねー。
どーせ今更退く気も無い癖に。
さっすが巫女の勘、このかんっぺきな演技を見破るとは!
しかも内心まで読まれてるなんて震えちゃうねぐりぐりすりすりあむあむちゅっちゅ
ああもうもぞもぞしないの騒がないの。
…こんなに寒くちゃ、抱き枕の一つも欲しいからね。別に空気を読んだわけじゃないわ。
大きさも丁度いいし暖を取る道具になれ、ということにしておけっていうことね。
なるほどなるほど、さすが人間。欺瞞にかけちゃあ超一流だね!
何よもう、そんなの千年前に言っときなさいよ。
別に騙しちゃいないってば。
私はあんたにくっつきたい。
あんたは私にくっつきたい。
お互いの望みが叶ってるんだから、それ以外はどうでもいいでしょ。
……いやぁ、あははは。えへへへへ?
首を傾げるな、もうちょいで魔理沙の尻に刺さる。
んーぅ、だってねぇ?幸せという奴だよこれは。堪んないね!
んふふふ、えへへへへもうねもうねこうなったら宴会だよ!
とっくの昔に終わりかけよ宴会は。いいからもう、黙って意識と生き別れなさい。
うぬぬぬ、私は負けない!この、アルコールと意識と肉体のせめぎあいの中の、例外の存在となってやる!
…はぁーあ。知らないわよ。私もう、そろそろ、なくなるから、意識が。
だいじょーうぶ!わたしも八割倒れてるから!
あ、そ。
じゃあね、萃香、おやすみ。
おやすみ、霊夢ぅー。
また、夢で、合いましょ。………すぅ。
…ぐがー。
…すぅ。
…ぐごー。
…すぅ。
その晩、東風谷早苗という唯一素面の少女が、朝日が昇るまで延々と宴会の片付けをしていたことはあまり知られていない。
普段片付け役となる神社の巫女が珍しく潰れてしまったのだという。
秋深し幻想郷、妖怪の山騒動の解決したその晩のことであった。
大収穫でした、と厄を集める神様は語ったという。
萃香羨ましい…。俺も霊夢さんの腋で幻想郷を感じたい。
吹き飛びすぎな気もするけど。
個人的に藍さまとのかけあいのところが一番好きです。