Coolier - 新生・東方創想話

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2008/11/17 20:47:09
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あら、いらっしゃい
あなたも何処ぞの破れた境界からお越しになったのですね

いえいえ、言わなくても解ります
あなたも少々、自らの住む世界に退屈していたのでしょう
幻想郷は全てを受け入れますわ
あなたと同じような方々が何人も集まっておられます
どうぞ、よしなに……



あら、なかなかどうして
他の方々とは違って随分と積極的ですこと

解りました
それでは私が直々に幻想郷の素晴らしき名所をご案内して差し上げましょう

何、遠慮することはございません
如何なる場所でも、危険が迫った場合は私があなたを守ります

心配する必要はございません、私とて幻想郷では指折りの妖怪ですのよ?
さあ、快適な旅を満喫して頂く為にご用意しましたわ
外の世界で廃線になり忘れ去られた電鉄を一車両

お乗りになられましたか
それでは、先ずは最も有名な妖怪神社へと案内致しましょう
少々揺れますのでしっかりと吊り革か手すりにお掴まり下さいませ

あら、席が空いておられるのですか?
おかしいですね
私の見る限り非常に混雑……

いえ、失礼しました
そうですわね
右手の、そう
そちらの手前の席にどうぞ

それでは、出発致します
どうぞ良い旅を





皆様……と言ってもあなたしかおりませんが
右手に見えるのが、妖怪の集まる神社と恐れられている"博麗神社"でございます

神社なのに妖怪が蔓延るのは何故か……ですか、そうですね
この神社の巫女の性格は少々奇異でして
人間にも妖怪にも、如何なる者に対しても平等に接することができる寛容な心を持っておられるのですよ
それが災いしたのでしょうか、里に住む人間達からはどうも評判がよろしくないようで

いえ、勿論人間の中にも彼女を慕っている方が大勢いらっしゃいますわ
ですが何せ、この神社は幻想郷の端に建っております
人里からも距離が大層ありまして、普通の人間は参拝に訪れることが難しいのですよ
里からのんびりと歩いていては、あっという間に暗くなってしまいますのよ?
暗所は妖怪達の好む環境、何の対抗策も持たない非力な人間は間違いなく襲われてしまいますわ
それ故に参拝客は滅多に訪れることもなく、人の目に付かない建物は自然と寂れて妖怪達の住処になってしまうのです

どうして巫女が妖怪に襲われないのか気になりますか?
この神社の巫女は、幻想郷という楽園を存続させる為に必要不可欠な存在なのです
彼女がいてこそ、この郷は成り立っているのです

ええ、勿論彼女だって何時かは死んでしまうでしょう
しかし心配はいりません
彼女は転生を繰り返し、常にこの神社の巫女として過ごすのです
幻想郷というのはおもしろい程によくできておりまして、無理を通しても道理が引っ込まないように管理されているのです

さて、次はもう一つの神社へと案内致しましょう
もしかしたら、あなたの知っている神社かもしれませんわ





おや、こちらの神社は随分と賑わっている御様子で
あちらに見える緑色の髪をした女性がこの神社の巫女ですわ

ええ、鳥居を見て薄々感づいたようですね
この神社は最近まで外の世界に現存していました
いえいえ、外の世界にも未だ現存しておりますけども……

そうですね、少々語弊があったかもしれませんね
言うなればそう
奉られていた神の意思が幻想郷に向き始めた結果、このような形となって現れたのではと私は考えています

それではこの神社や彼女達は幻ではないか、そう考えるのが普通ですわね
あなたの考えも間違ってはいませんわ、何せ彼女達が幻ではないと証明することができないのですから
ですが先程も言いました通り、幻想郷は全てを受け入れます
勿論、それが幻であっても誰も疑いはしない
言ってしまえば、幻であるという証拠も無い訳ですし

いけない考えです、幻想郷で生きていくにはもっと寛容な心を培わなければ駄目なのです

それではそうですね、次は吸血鬼の住む洋館へ向かうとします
ええ、ですがあなたの想像する吸血鬼とは少し姿形が異なりましょう
そちらの世界の常識が幻想郷の常識でもあるなんてことは無いのですから





驚きましたでしょうか?

そう、あのテラスに座って紅茶の香りを楽しんでいる少女こそがこの館の主である吸血鬼でございます
そしてこの館こそ、幻想郷の人間達からも畏怖されている"紅魔館"……
恐らくあなたは吸血鬼と聞いて、漆黒のマントを纏い鋭い牙を剥き出しにした伯爵の様な姿を想像したでしょう

勿論、あの様な姿でも吸血鬼としてはかなりの力を持っていますわ
相当な年月を過ごしており非常に博識なのですが、どうにもあの姿から下衆の者にも色々と噂されているようで

そうですわね、ですがそんな噂が飛び交うということは自らの力をひけらかしていないという証拠
そう考えれば彼女の心の内が何となく理解できるのではないのでしょうか?
身近な者であればある程、そんなちょっとした配慮を理解することが難しくなってしまうというのも考えものですわね

では今度は、月からやってきたと噂される不思議な方々の住まいにでも案内致しましょうか





おや、あちらに見えるのは蓬莱の姫ではありませんか
どうやらいつもの戯れに勤しんでおられるようですわ

そうですね、あなたは竹取物語という物語をご存知ですか?
あの美しい黒髪の女性こそが、物語に現れるかぐや姫その人ですのよ

勿論、そんな簡単に信じることなど誰ができましょう
清楚な身のこなしで幾多の男性を魅了したであろう姫が、肌をあんなにも露出して血に塗れている場面を見れば誰しもそう思いますわ
ですが彼女は本物のかぐや姫、間違いありません

そうです、折角ですから少しこの戯れを傍観させて頂きましょうか
きっと面白いものが見れると思いますわ

……どうですか?
ええ、お互いにあれだけの激戦を繰り広げているにも関わらず倒れるどころか息切れすらする様子がない

あの二人は不死身なのですよ
かぐや姫の物語にあった、一口飲めば不死の肉体を手に入れることができる蓬莱の薬という代物はご存知ですか?
物語中ではかぐや姫が残した蓬莱の薬はとある山の頂上で燃やされたという記述がございます

そう、何も全てが真実とは限らないのですよ
それでは何故あの二人が不死身なのか理由を考えてみましょうか
私としては、蓬莱の薬は燃やされなかったのではないかと考えます
何故なら永遠の命を持っているかぐや姫と今対峙している方、あちらの方も蓬莱の薬を飲んだ可能性が極めて高いからです
……だってそうでしょう?
かぐや姫と対峙している彼女も先程から手や足を吹き飛ばされているにも関わらず、知らぬ間に治癒されているのですから

蓬莱の薬は燃やされなかった
もしかしたら大切に保管していたところを、何らかの原因でかぐや姫を恨んでいた者が盗んで利用しようとしたのかもしれません
だってもし山の頂上で薬が燃やされたとすれば、薬を手に入れるのに態々険しい山道を登らなければいけないのですよ
薬を燃やす為に山を登った面々はかなりの強者揃いであったと聞いています

誰から聞いたのか……ですか
そんなことはどうでもよいではありませんか

でも本当にたった一人の女性がかぐや姫への恨みだけを理由に険しい山道を登って薬を手にすることができたなら、私の考えも論破されてしまうでしょうね
ですがそんなこと有り得る訳がないでしょう
何せ薬が燃やされたと記述されている山は当時、女人禁制で山道の入口には屈強な兵士が見張りとして何人も立っていたのですから……





少々寄り道をしてしまいましたが無事到着致しました
ここが月からやってきたと噂される方々の住居、通称"永遠亭"でございます
ここには月からやってきたという方々が住んでいるからか、小間使いとして妖怪兎達が働いているのです
月に兎とは何とも安直な考えですこと、もしかしたら鼠やカンガルーが餅を突いているかもしれませんのに……

おっと、これは一本取られました
どちらも尻尾が丸い形状をしておりませんね
でも、こういった想像力を働かせるのも面白いものですよ
どうも長く生きていると退屈な時間が増えてしまうものでして

そう、実はここにも不死の肉体を持つ者が一人いるのです
その方は月に住んでいた頃から一人ずっと薬学を勉強していたとか
実は先程話していた竹取物語に出てくる蓬莱の薬、ここの薬師が製薬したのではと考えられているようですよ
そうなると、ここの薬師はかぐや姫と何らかの関わりを持っているのでしょうね

ですがここの薬師、色々と逸話がございまして……
ここで小間使いとして働く妖怪兎の頭取が大昔
妖怪兎となる前の話、幅の広い川を渡ろうとそこに住まう獰猛な和邇を騙して利用したそうです
どうやらどちらの種の数が多いか勝負しようと言って、その上を数える振りをして渡った後に逃げてしまおうと考えていたようですわね
ですがその兎はついつい渡り終えた直後に、騙していたことを口に出してしまったようで……間抜けな話ですわ
その兎を助けたのがここの薬師では無いか、という噂も少々耳に致します

おや、またそんな野暮なことをお聞きになって
どこから噂を聞きつけたかなんてどうでもよいではありませんか

それにしても、ここの妖怪兎達を見ると昔の戦いの傷跡を思い出してしまいます
……いえ、こちらの話ですのでどうかお気になさらないよう

それでは長らくお待たせ致しました皆様
次の目的地は中有の道でございます、お荷物等のお忘れなどないように……





さあ到着致しました、お降りの際は足下にお気をつけて……おっと、あなたは降りなくてもよろしいんですよ

いえいえ、私一人の戯れ言……お気になさらずどうぞごゆるりと
それでは改めまして、ここが此岸と彼岸を繋ぐ三途の川へと通じる"中有の道"でございます
ここは見ての通り活気溢れるまるで縁日の出店の様、あなたもそうお思いになったことでしょう
ですがここで商いをしている者達は人間ではございません、皆何らかの罪を背負って死んでいった……所謂亡霊でございます
どうも向こうの財政事情がよろしくないようで、地獄へと堕ちた亡霊達の贖罪も兼ねてこのような出店を開かせているらしいですわ

そして中有の道を抜けた先にあるのが外の世界でもお馴染みの三途の川でございます
この三途の川を越えた先は彼岸、生者が辿り着くことは許されぬ場所
流石に幻想郷を案内すると言いましても皆死んでしまっては元も子もございませんので、ここは後々のお楽しみ……ということで割愛させて頂きますわ

では次は幻想郷の地下に眠る名所をいくつかご案内致します





あちらをご覧下さいませ、あの橋は地上と地下を繋ぐ大切な役割を持っています
あの橋の上に仁王立ちしている女性が見えますか?
橋姫……と呼ばれておりますが、その正体は人の幸せを許すことのできない嫉妬深い妖怪でして
何をするにも妬み嫉みと……いえ、このようなネガティブな話はよくありませんね

今までの名所案内もネガティブだった……と
これは失礼致しました、あなたのお気に触ったのでしたら頭を下げましょう
ですがここまで話を聞いてくれている、ということはそこまで気になさってはいないのでしょう
非常に嬉しい限りでございます、それではここより地下深くに聳える宮殿へと向かいましょうか





さあ、ここが地下深くにある灼熱地獄の管理を任されている者の住まう"地霊殿"でございます
地獄というのも中々種類……バリエーションがございましてですね
ここ灼熱地獄や針山地獄、色々とございますが管理が完全に行き届かないらしいですわ

そう言えば、外の世界には地獄谷温泉とか言う秘湯があるとか……
今度機会があれば案内して貰いたいですわ、一体どのような拷問を施すのでしょう?

さて、あまり地獄に長居していると閻魔大王様や十王の方々に折檻を受けてしまいそうなのでこの先へ進むのは諦めて"魔界"へとご案内致しましょう

魔界は大丈夫なのか……それは杞憂なことです
泣く子も黙る閻魔大王様とは違って、魔界神様は非常に温厚で地上の者に対しても丁重なおもてなしをして下さる方ですわ





さあ、ここが地底と魔界を分ける門でございます
どうも魔界の入口を守る者がたった一人だけというのも拍子抜けしてしまいますわね
しかしあの畏怖の対象である吸血鬼の住む館ですら門番一人でしたので、幻想郷では至極当然のことかもしれません

では、魔界に来た者に是非見て頂きたい……そんな名所へお連れしましょう
目の前に見えるのが遥か昔、まだ地上と魔界が頻繁に交流していた時代に作られた大神殿でございます
そしてこの大神殿の象徴ともされるのが墮天使サリエルの彫像です

私も詳しいことは余り存じ上げておりませんが、どうもこの墮天使サリエルというのは実在した者だそうです
非常に強大な力を持っていて、その実力はあの魔界神様と並ぶ程だったとか……

おや、どうなされました……体調が優れないようですね
解りました、それでは案内は中断してあなたを外の世界に一旦お返し致しましょう
慣れない世界で動き回るのは心身共に堪えますからね、私もよく存じ上げておりますわ





さあ、到着致しました
この境界を抜けると元の世界に帰ることができますよ










……まだ帰りたくないのですか?
体調が優れないのに無茶をするものではありませんよ





大丈夫です
強く念じればまた、きっと別の境界が見えてくることでしょう






























……どうしても帰りたくないと





それでは最後に一つだけ、とっておきの場所へ案内して差し上げましょう





そこはとても素晴らしい所ですわ、美しい桜吹雪に紛れて艶やかに輝く反魂蝶……















"白玉楼"へとご案内致しましょう
          あんまり寝る前に幻想郷のことばかり考えてると、
                    隙間お化けに連れ去られちゃいますよ?




あ、あとゆあきんの聞いた噂とかは多分Wikipedia
Ph
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コメント



0.1430簡易評価
11.60名前が無い程度の能力削除
タイトルホイホイ……とはちょっと違うかな。でも思わずクリックしてしまいました。
最後に怪綺談ネタが来たのも驚きましたが、まさかサリエル様まで。
ゆかりんとデータしたあとで幽々子様や妖夢と一緒に暮らせるなら、死ぬのも悪くないなあ。
12.60名前が無い程度の能力削除
独特の雰囲気に思わず魅了されてしまうような作品でした。
紫の話し方にも、特有の胡散臭さが滲み出ていて、本来の印象を損なう事がなく、読み易い長さであり、滞りなく最後まで読ませてしまう良い意味での軽さがありました。

ただ言い回しにくどい所があったかな、と。
この長さならば、もっと色々な言い回しを使ってもよかったかも知れないと思いました。
18.90雑賀衆削除
かなり良い作品でした。次回さに期待します!
23.100名前が無い程度の能力削除
是 非 連 れ 去 っ て く れ
31.90名前が無い程度の能力削除
寝る前だけでなく始終考えていたらどうなるんでしょうか?
どうせなら迷ひ家に誘っていただきたいのですが。
34.無評価名前が無い程度の能力削除
俺も幻想郷の一員になりたい
36.90名前が無い程度の能力削除
あれ、冥界のご案内はー?
41.90名前が無い程度の能力削除
冥界に行く=死に誘われるor電車の乗員になる
なのだろうか
43.80名前が無い程度の能力削除
べっ…別にクリックしたくてした訳じゃないんだからねっ!!

…というのは別として、こういう引き込まれるような話、大好きです。
魔法の森も書いてくれればよかったんですが…まぁこれが抜けてたから酷い、という訳でもない…けど書いてほしかったかな?