Coolier - 新生・東方創想話

硬い胸の記憶

2008/11/15 01:27:14
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・本SSは、オリジナルキャラクターが登場します。
 苦手な方はご注意ください。



























「正気?」

 ――愛おしい貴女は聞いてくる。

「正気です」

 ――だから、私は万感を込めてそう返した。







 ――お前は、あいつの元にいくんだよ。



 その言葉の意味がわからないほど、私は愚かではなかった。

 元より力の弱い私だ、時勢を考えれば、言葉は悪いがていの言い厄介払いだろう。
 ……思ったのが顔に出ていたのか、或いは考えを読まれたのか。
 私にそう告げた彼女は、露骨に顔を顰める。

 その原因は何だろうか――黙して語らない彼女から、理由を読み取るのはそう難しくなかった。

 私をその方の元へと向かわせる必要性。
 そうせざるを得ない彼女自身の力不足。
 そして、私と、恐らくその方への罪悪感。

 概ね間違っていないだろう事にささやかな満足感を覚える。
 荒事に向かない私は、この争いの多い世界で生きる為、他者の心を読む術を自然と身につけた。
 何時の頃からか、その読みは確実性を極め、今ではほぼ的中させる事ができている……と思う。

 目の前の彼女は、未だ憮然とした態度を崩さない。

 その様に、少しだけ悪戯心が芽生えた。
 生真面目で通っている私だが、一度芽を出したモノはなんとも断ち切れず、遂に口から出してしまう。
 尤も、関係の近い彼女にだからこそ、そういう思い浮かんだのだが。



 私は淡々と思い浮かべた彼女の胸中を述べ、彼女もまた黙々と私の言葉を聞いた。



 話を聞き終えた彼女は、溜息を一つ零す。
 とても短い音だった筈なのに、何故か耳にこびり付いた。
 自身の小さな悪戯心に胸中で悪態をつき、取り繕う言葉を探る。

 すっ……と、手のひらを向けられた。
 制止の仕草を視認し、微かに恐る恐る彼女を見上げる。
 背は変わらない筈なのにそう感じたのは、心が咎と言う枝に絡め捕られているからだろうか。

 揺れる私の双眸を見、彼女は苦笑いを浮かべた。

「自信家め」

 呟きに、一瞬訳が分からず狼狽する。

 彼女はもう一度苦笑し、その後、私の推測が当たっていた事を語った。
 だが、では何故、先ほどの言葉を向けてきたのか。
 疑問に思っていると、彼女はそれさえも読み、応えてくれた。

「外れてはいない。けれど、全部でもない」

 胸中を全て読み切れていると思ったのだろう。
 言外に彼女はそう伝えてきた。
 だから、『自信家』なのだ、と。

 今度は私が苦笑する番だ。
 わかってはいたが、どだい、私の全てにおいて彼女に勝る所などありはしない。
 腕力でも知恵でも、闘争でも開墾でも、あらぶる力の扱いでも穏やかな力の扱いでも……全てに、おいて。

 苦笑が自嘲に変わる。

 一瞬後、ぴんっと額を中指で弾かれた。

「嫌な所ばかり似る」

「だとすれば、私は劣化した複製品だ」

 数瞬後、やはり、指で額を弾かれた。

「下らない事を考えているな」

「真っ当な判断と訂正してもらおう。私が劣っているのは明らかだ」

「ふむ、確かにその通りだ。訂正しよう」

 彼女は概ね益荒男、所により手弱女。

 ――ふいに彼女の肩から力が抜ける。
 何処かさばさばとした面持ちで笑い、そして、近づき、私を抱く。
 私と同じ色の、天をそのまま落としたかのような色の髪が、視界を支配した。

「だが、それでもやはり、全てではない。私にはできない事が、お前にはできる」

 その通りだ。まったくもって、彼女は正しい。

 だから、私の耳に、震える声を聞かせないで欲しい。
 だから、私の肩を、嘆きの涙で濡らさないで欲しい。
 だから、だから、私の体へと、憐みの力を流さないで欲しい。







「正気?」
「正気です」

「どういう事か、わかっている?」
「貴女と一つになれるなら、構いません」

「私は貴方を好いている。けれど、愛してはいない」
「積み重ねた年月で十分過ぎるほどに、わかっています」

「そう、貴方は恐らく、私の想いの欠片を解っている」
「『けれど、全部でもない』……貴女は、彼女に似ているようだ」

「――ふざけないで! 契りを交わすなんて生易しいものじゃないんだよ!?」
「神格の劣る私は、そう言う意味では、毒が満ちる貴女に触れる事すらできない。けれど、触れられる事ならできます」

「私が触れて……どうなるか、貴方も解っているんでしょう……?」
「糧に。貴女の糧になる。そうして、次の世代へと、また次の世代へと私と貴女の力が受け継がれる」

「綺麗事ばかりで括って! 確かに間違ってないよ! でも、貴方は、貴方と言う神格は消えるんだよ!?」
「彼女と同等の貴女なら、解っている筈です。私が、それでも構わないと、そう、心の底から思っている事を」

「ずるいよ……言ったじゃん……愛してはいないけど、好きだって」
「――貴女が悔やむ必要はない。私はどのみち、消える神格ですから」

「……わかってるよ。それも、わかってるけどさぁ……!」
「私は彼女のいわば半神。彼女の方が全てにおいて優れているのだから、信仰も当然、彼女に集まります」



「それが、信仰を糧にする、私達の在るべき姿、だもんね……」
「ええ――私は貴女を愛し、信仰し、そして、貴女と混ざる。半神が用意してくれた、最高の去り方です」



「……そうなる事も解っていたって? あいつが、少し、嫌いになりそうだ……」
「はは、それはいい。その分を私に回してください」

「もう、こんな時に、ほんとにふざけないでよ」
「ふざけてはいないんですが。――漸く、笑ってくれましたね」

「……うん。私も、腹を括ったよ」
「では、触れてください。私を、貴女の力にしてください」

「何か言い残す事、ある? 今なら、胸、かしてあげるよ?」
「……硬そうだ」
「煩いよ!」

「貴女は概ね手弱女で、所により益荒男ですね。謹んで、おかりしますよ」
「変な事言うからでしょ。ったく」

「……言い残す事、でしたね。元気な子を、産んでください。そして、抱いてあげてください。それから」
「……うん。貴方と混ざった後なら、大丈夫だと思う――それから?」



 ――貴女を、誰よりも、何よりも、愛しています。諏訪子。







「あーうー……」
「うぃひっく……どーしたのよ、諏訪子」

「んー、何かさ。こうやって介抱していると、懐かしい事を思い出した」
「ひくっ、何時の事? あんたの思い出なら、大概私も知ってるでしょう?」

「……さり気に恥ずかしい台詞を言っている自覚、ある?」
「恥ずかしい台詞? 早苗ーだいっすきだぁぁぁぁぁ! むにゃー」



「前半と後半と、どっちが恥ずかしいんだか。……あんたも知らない思い出だよ、神奈子」



 ――私は、確かに貴方を愛していなかった。

 ――それは、数千年経った今でも変わらない。



 ――けれど、だけど、今でも、貴方が好きだよ。大好きだよ。











                      <了>
八度目まして。

諏訪子様の旦那様ってどんなヒト? が原点なお話です。
神様だから必要ないんかなぁとも思いましたが、とりあえずお話の様に着地しました。
で、雑味を取っ払った結果、物凄く短くなりました。むしろ不安。

あと。硬いのはジャスティス。

以上
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コメント



0.680簡易評価
4.80煉獄削除
たとえ短くてもこれはこれで・・・・。
たしかに諏訪子様の旦那さんってどんな人なのか知りませんからね。
読んでて新鮮でしたね。
私は楽しめましたよ。
5.90謳魚削除
好意は旦那様にも有れど愛は全て神奈子様に行ってると切望。
ぶっちゃけ旦那様ってか愛j…げふげふん。
諏訪子様は漢気溢れる素敵な乙女さ!
11.50名前が無い程度の能力削除
 むしろ物語の奥行きを深める為にも長くして欲しかった。
 心情描写ばかりでなく、それを情景描写と絡めたりする試みを見たかった。
 文章の添削は利害の交換と同義ですが、個人的にはこの作品はもっと世界を広げて欲しいと思いました。諏訪子とその夫だけでなく、他との関わりなど、色々な場所に目を向けて、より雰囲気に合った作品にして欲しいと思いました。

 終盤の会話は二人の心情が流れ込んでくるようで、見ていて切なくなれるような気持ちになりました。いい物語を読ませて頂き、ありがとうございます。
13.無評価道標削除
そう 信じる者しか救わない せこい神様 拝むよりは

神様は信仰を得れないと救う事も存在する事もできないんではないでしょうか。
はい、此処で著名なバンドに噛みついてなんなんだって話ですね。歌自体は好きですって、ごめんなさい、もうやめときます。

以下、コメントレスー。

>>煉獄様
「早苗さんは諏訪子様の子孫」と原作にはあるのですが、それ以外の情報は一切ないんですよね。
ただ、「神奈子様が新しい神を呼び、融合させた」とあるので、ストレートにその線で考えました。
楽しんでいただけたようで、何よりです。

>>謳魚様
愛人でもないです(笑。だってそう言う意味でのお触りはネチョげふんげふん。
諏訪子様のイメージは、私の中では、概ねそのような感じです。

>>11様
ご指摘の通り、情景描写や他との関わりなど、全て切り捨てました。
それを一つの作品としてあげていますので、そのように感じていただけたのは、雰囲気を読み取っていただけたと嬉しくもあり、私自身の筆力の未熟さを悔やむ所もあり。
ですので、此方こそ、ご意見ありがとうございます。

以上