Coolier - 新生・東方創想話

蜘蛛の糸

2008/11/14 18:26:34
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「何故」



 鈴を転がすように



「毒持つモノに手を出してしまうのか知ってるかしら」



 あいつは言った































 珍しく普通に訪ねてきた紫はそう問い掛ける。
「……いや、毒に手は出さないでしょ」
「あら冷たい」
「冬だからね」
「温泉で温めておきたいわ。源泉で」
「茹でるな」
 掃除を再開する。
 落ち葉に限りはなく、いくら掃いてもなくならない。
「あら、蜘蛛」
 見れば、女郎蜘蛛が巣を張っていた。
 ……毒を持つモノ、だ。
「……あんたが出したの?」
「いやいや霊夢。さすがの蜘蛛も一瞬で巣は張れないわよ」
 それもそうか。いや、論点をずらされたような気がする。
「綺麗よね」
 黄と黒の縞模様。
 グロテスクなのに目を惹く矛盾。
 否、あれは毒を持っているという警戒色だ。
「これがさっきの答え? 手を出したいとは思えないけど」
 当然だ。
 警戒を促されているのだから手は出さない。
「だから私が出したわけじゃないってば」
 紫は苦笑する。
 疑い過ぎだろうか。
「でも、あながち間違ってはいないわね」


 蜘蛛の巣に、季節外れの蝶がかかっていた。


「ねぇ霊夢」
 紫は笑う。
 いつものように曖昧に、酷薄に。
「蜘蛛に、手を出さないと言い切れる?」
 蝶に、女郎蜘蛛が近づいていく。
「毒がある、毒は危険だと知っていても」
 蝶はもがく。
「一度綺麗だと思ったものを、無視できる?」
 蜘蛛の糸は、千切れない。




 憐れ、蝶は――――




「それで? 今度は何の禅問答?」
 箒を止めて振り返る。
 さらりと、紫は否定した。
「睦言よ」
 膝の力が抜けた。
「間違えた。戯言よ」
 どう間違えたら……
「言葉遊びね」
「遊ぶ気分じゃないわ」
 げんなりして背を向ける。
 毎度毎度――私をからかって何が面白いのか。
 ここに来ること自体、それが目的のような――っ
「………」
「霊夢?」
 背中から、抱き締められる。
「やめて」
 肩にかかる重みが、鬱陶しい。
 背中に触れる温かさが、鬱陶しい。
 耳にかかる吐息が、鬱陶しい。
 絡められる指が、鬱陶しい。
 うっとう、しい。
「こんなに冷やして……駄目よ、霊夢」
 優しさと、それに雑じる情動が、鬱陶しい。うっとうしい。
「ねぇ……霊夢」
 隠そうともしない、私に向けられる、感情が――
「やめて…っ」
 くるりと、紫が目の前に廻った。
 間近に、むらさきの瞳がある。
 吐息が、私の唇にかかる。
「ずるいわね」
 強引に唇が重ねられた。
「む、ぐっ」
「私にだけ求めさせて」
 金糸の髪が、黒糸に絡みつく。
「私が神社に来るのはあなたに逢いたいから」
 必死に否定したことを、肯定する。
「好きだからあなたが欲しいから」
 誤魔化したものを、明確な言葉にされる。
「こうして」
 逃げられないように。
「あなたを食べてしまいたいから」
 逃げ道を奪うように。
「霊夢を」
 蜘蛛が。
「愛しているから」
 蝶を絡め捕るように。

「愛してる」

 ああ。
 毒だ。

「霊夢」

 怖い。

「好きよ」

 囁かれると、動けない。

「霊夢」

 毒/愛情が四肢から力を奪う。

「霊夢」

  怖い。

 されるがままに。

    怖い。

 くちづけられる。

     怖い。

 むらさきの眼に。

      怖い。

 釘づけられる。


       怖い。


 私の常識が。



        怖い。



 打ち砕かれる。




         怖い。




 私に向けられる





           怖い





 乱暴なまでの愛情が





「や…っ」
 抵抗にもならない抵抗。
 それだけで、紫は手を離した。
 拍子抜けするほどあっさりと、体を離す。
「ねぇ、なんでいつも嫌がるの?」
「それは」
「私が嫌い?」
 言葉に詰まる。
「じゃあ、なんで?」
 出せない言葉すら、紫は汲み取る。

 嫌いじゃない。
 紫は嫌いじゃない。
 でも嫌だ。
 でも怖い。

 だけどそれは紫のせいじゃなく――
「……――だって、女同士で、おかしいもの」
 そんな、子供の我儘のような、理屈にも感情にも訴えるものの無い曖昧。
 想いを拒むには軽すぎる。
 手を振り払うには薄すぎる。
 言い訳にも……なっていない。
「………」
 怒られると、思った。
 呆れられると、思った。
 嫌われると、おもっ


 ぞっとした。


 言葉にして、初めて理解した。
 理由にならない拒絶の理由。
 それがどれだけ残酷か。
 同じ理由で、私が紫に拒まれる。
 それが――どれだけ恐ろしいか。

 顔を上げる。
 紫は、怒っていなかった。
 だけど、笑っても……いない。
 能面のような無表情で、私の腕を摑む。
「紫、痛い」
 摑む力は弱まらない。
「それは」
 体が引き寄せられる。
「不安ね」
 真正面から覗きこまれる。
「知らないから怖いんじゃない。知ってるから不安になる」
 能面の顔のまま。
「だから拒まない。だから抗う」
 私の抵抗すら肯定した。

 ……その通りだ。私はいつも、嫌がって、最後には受け入れる。
 ポーズとしての否定。
 自分に向けられた言い訳。
 紫を好きな自分を認められない矛盾行為。

「私は――」
「好きよ、霊夢」
 手を、離される。
「変わらないあなたが好き。変わるあなたが好き。全部のあなたが好き。だから」
 頬を、撫でられる。
「心配しないで。私はあなたが変わっても嫌いにならないから」
 そっと
「――うん」
 抱き締められる。




















「――何故、毒持つモノに手を出してしまうか知ってるかしら?」
「だから――」

 嵌められた。

「毒が」

 紫は

「禁じられたものが、甘露だと知ってるからよ」

 私が拒む理由を潰した










 糸を



 幻視する



「それを」



 糸が



 絡まる



「理解っているから」



 くるくる



「甘露な毒を拒まない」



 くるくると



「だから私に縛られる」















































 憎たらしい。
 紫は。
 最後に私にも責があると締め括った。
 私を甘えさせておきながら、最後の最後で私が悪いと言い切った。
 これではもう――

 ……逃げられない。







「――この、蜘蛛女」
「光栄ね、紅白の蝶」
もう憶えてる人は居ない可能性の方が高い二度目まして
ゆかれいむスキーの猫井です

ヤマメには悪いんですけど、ゆかりんにも蜘蛛がめちゃくちゃ似合うなぁと思ってできた話です
女郎蜘蛛ってきれいですよね

最後に、思いついて気に入ったはいいけど使い所のなかったゆかりんのセリフで閉めさせていただきます



「そうよ。私は紅白の蝶だけを捕らえる蜘蛛」
猫井はかま
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コメント



0.3860簡易評価
3.90名前が無い程度の能力削除
ヤマメかと思いきや……これはえろい。
ゆかれいむは俺のロード。
17.80名前が無い程度の能力削除
濃ゆい
23.80名前が無い程度の能力削除
の、農耕・・・・・・じゃなかった濃厚ですね・・・・・・
25.70無名削除
続きは夜伽で。冗談です
女郎蜘蛛と聞くと某18禁ゲームを思い出してしまう。
退廃的な雰囲気がたまらない。綺麗な者を汚す悦楽みたいな。
40.80名前が無い程度の能力削除
不覚にもおっきした
43.100aho削除
ゆかりエロい。蜘蛛大好き。素晴らしい。
50.100名前が無い程度の能力削除
蝶と蜘蛛のそんな関係
大好きです
59.100名前が無い程度の能力削除
ひゃっほう!
良い雰囲気の作品で面白かったです。
66.100名前が無い程度の能力削除
エロイ…いや、淫靡というべきか。
雰囲気が素敵。
83.80名前が無い程度の能力削除
妖々夢登場時からゆかりん=蜘蛛のイメージがあります
その時はゆゆ様=蝶のイメージだったけどなるほど紅白の蝶ですか
良いゆかれいむでした
85.100名前が無い程度の能力削除
ベネ