冷たい風の中で、訝しげな声と楽しげな声がそっと交わった。
「こんな時間に人間が出歩くなんてあるのかしら」
「あるある。前にここで見かけたのよ。無用心に歩いてるのが何人か。この辺りに住んで
る妖精からも聞いたし、間違いないわよ」
その響きは子供のよう。無邪気のジュースに一滴の残酷さを混ぜたような。
星が綺麗な夜だった。
雲ひとつ無い空に、新月を迎える秋頃である。月の光に隠れた星も顔を覗かせている。
天体観測には絶好な反面、地を照らす光には欠ける、夜歩きには向かない日だった。
もちろん、この時間帯に出歩くような人間は皆無に等しい。
夜は人間の時間ではない。妖怪の時間である。
外の世界では恐怖の闇が切り拓かれて久しいが、幻想郷ではまだ、その懐かしい恐怖は
そこかしこに満ち満ちている。心得の無い人間が迂闊に暗がりへ迷い込めば、その恐怖の
権化によって跡形も無く頂かれる。
特に、外から迷い込んで来た人間のほとんどが妖怪に喰われるのは、そうした夜の怖さ
を知らないからなのだろう。よほど運がよくない限り、救いの手が差し伸べられることは
無い。地の木も虫も、天の見えざる月も星も、冷酷に思えるほど無関心を貫いている。
それが自然の当然あるべき姿だが、当事者にとっては理不尽に思えることだろう。
そんなことだから、空に満ちる青みがかった黒は、幻想郷に生きる妖怪のように、掴み
どころの無い不思議そのものだった。
だが、妖精にはそんなことなど全く関係ない。彼女(彼)らは自然の体現なのだ。昼を
人が支配しようと、夜を妖怪が支配しようと、どちらにも縛られない。ある意味では最も
自由な存在である。
―――故に、最も軽んじられる存在でもあるが。
今宵、虫と獣の微かな声響く迷いの竹林を出歩いているのは、そんな妖精たちだ。
彼女たちはそれぞれ日、月、星から力を得ている。そのせいか他の妖精に比べて知性も
能力も高めである。あくまでも普通の妖精と比較して高いというだけで、人間や妖怪から
見ればどんぐりの背比べといったところだが、その差はあまり馬鹿に出来たものではない。
彼女たちは柱のように伸びた竹のてっぺんから地を見下ろしている。オリオン座の帯の
ように並んで浮かんでいるその姿はそれだけで幻想めいている。
名前は左からサニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイア。
名は体を表す、を地で行く響きだった。
「……今日はフォマルハウトが綺麗ね」
「うーん、この暗さ、この地形、人を迷わせるには絶好ね。新月だからそんなに力を出せ
ないのが難点だけど」
「私だって夜だからあんまり強く光を曲げられないわ。でも人間の目なんてとってもいい
加減に出来てるんだから、大した力なんて要らないんじゃない?」
「……あれはレグルスだったかなー」
地上を照らすものは遠い里の仄かな明かり、あるいは竹林の奥の屋敷の妖しき光だけで
ある。夜に生きる獣か妖怪でもない限り、見通すことは無理である。
そのとき頼りになるのは基本的に聴覚だが、彼女たちのうちルナチャイルドは音を消す
程度の能力を持っている。よって勘がいい者でも無い限り、見つけることは出来ない。
他の二人もそれぞれ自分の属性を象徴するような力がある。
サニーミルクは光をあやつることで姿を消し、また目を惑わす。
スターサファイアは星を基点として動くものの気配を探る。
どれも使い方によっては化ける能力である。少なくとも身を隠すか、人を惑わすのなら
うってつけだろう。
「……で、問題は人の姿が見えないことなんだけどね。そもそも暗いし」
「明かりつけたら?」
「それじゃあこっちが見つかるじゃない。こういう時はスターに任せるに限るわ」
「……完璧に上の空だけど?」
ただ、その有効な能力も噛み合っていなければ大して役に立たない。
ルナの呆れたような声で、サニーはようやくおかしなことに気づいた。
スターサファイアは暢気に星空を見上げて砂粒を数えていた。暗幕に透ける無数の光点
はさながら宝石を砕いて豪勢に撒き散らしたようだった。赤も青も黄も全て揃っている。
それらを数えて回るだけで楽しいのか、鼻歌まで混じっていた。
もちろん、やる気なんて見えない。
気ままな妖精らしい姿といえばその通りだった。
「ちょっと、真面目にやってよ!」
「えー」
「なんでそんなやる気ないのよ。いつもはノリノリのくせに」
間延びした不平の声を理解できない、といった風にルナは頭をふった。
確かに、いつものスターと比べればいささか覇気がない。まるでシェスタを邪魔された
直後のようだ。人の見てない場所で適当にサボるのはよくあることだが、ここまであから
さまに無気力を押し出したのはほとんど見たことがない。
調子でも悪いのかと思ったが、なにしろ今は満天の星空の下。自分やルナならともかく、
スターにそれはないとサニーは踏んでいた。昼夜問わず安定して能力を発揮できる彼女だ、
これだけの星団のバックアップがあって不調などありえない。
「だって今夜は……」
「今夜も店屋もないわよ。早く誰かいないか探しなさいってば」
ルナがせっつくと、スターは大きくため息をついて夜空から視線を移すと、
「しょうがないなあ―――でも、今夜はたぶん、失敗すると思うわよ?」
「……なんで?」
予言めいた、退屈そうな言葉をもらした。
サニーは首をかしげたが、結局のところ、今の時点で理解は出来なかった。
「やって見なきゃ分かんないわよそんなの。ほらはやく探す!」
「はいはい……あっちの方に二つ、大きい気配がありますよ」
「人間よね?」
「たぶんね」
投げやりなスターの言葉だったが、その能力は確かだった。竹林にぼんやりとした光が
歩いている。提灯を手にして足早に獣道を行くのは三名の人間。一名は女性で、その容貌
に似合わずかなり慣れた足どりで、腰まで伸びた髪を揺らしながら先頭を進んでいる。顔
は分からないが、体格からして十五にぎりぎり届くか、というくらいだろうか。
その後ろを不安げについていくのは壮年の男性だった。顔に皺を多く作っているが、体
は背を曲げることなくしゃんと伸ばして、なおかつ体格も良いので年老いた印象はない。
未だ現役、脂の乗った四十台、といったところか。ただ遠目から見ても表情は曇っている
し、時折、困惑したように周囲を見回す様子から、何か焦燥感を抱えているようだった。
そしてもう一名、十歳を越すか越さないかの少女が、壮年の男性の背に負われていた。
おそらくは娘なのだろう。彼女は眠っているのだろうか、両目を閉じたまま、服の襟首を
掴んでじっとしている。
辺りが暗いために妖精たちには分からないことだが、その顔は熱を帯びて紅潮していた。
そろそろ流感が魔の手を伸ばし始める時期だ。運悪く病魔に憑りつかれたのかも知れない。
もちろん行く先は、名医がいると評判の、竹林深くの屋敷だろう。
「いたいた。飛んで火に入る……夏はもう過ぎちゃったっけ?」
「とっくの昔よ。焼き芋あたりがちょうどいいわ。それじゃ、さっそく」
もちろん、妖精にそんな事情なんて関係ない。
意地の悪い笑みを浮かべながら、サニーとルナはさっそく、三人を迷わせることにした。
この程度、彼女たちの能力を応用すれば造作もない。周囲の音を消して気配を失わせ、光
をあやつって歩く道を歪める。これだけで、普通の人間は同じ場所をぐるぐる回り続けて
疲れ果てることだろう。
そして自分たちの姿と気配を消し、それを近くで堪能する。ひとしきり楽しんだ後は、
来たときと同じように、こっそりと帰るのだ。疑心暗鬼と疲労に憑かれて弱りきった人間
を残して。
妖精たちにとっての定番だったが、今日はなぜか、スターだけがサニーとルナから距離
をとって星空を眺めている。
先の予言めいた言葉といい、今の行動といい、普通ならなにか訝しむところなのだが、
そんなもの、先行している二人の頭からはあっさりと抜け落ちている。これから仕掛ける
悪戯のことばかりに気が向いていて、他の部分まで手が回らないのだった。
二人が能力を使って惑わし始めると、案の定、眼下の人間たちはまるで蛇行するように
ふらふらと不安定な道を辿り始めている。失敗など微塵も感じないし、気取られた様子も
ない。間違いなく成功である。
「……なんだ、別になんてことないじゃない」
「そうね。スターったらどうしたのかしら」
ふと思い出して、くすくすと笑いながらそれぞれ呟く。断定するような予言だっただけ
に不気味な発言ではあったが、外れてしまえば笑い話だ。からかえる話の種が一つ出来た、
と言ったところだろうか。
「さてと、仕上げね」
そして、このままぐるぐるとバターになるまで同じところを回らせてやろう、とサニー
が光を屈折させて、風景を一周するようにつなげようとした時だった。
「―――」
突然、先頭を進んでいた少女が足を止め、夜空を見上げた。
あまりに唐突な動きだった。後ろに続いていた壮年の男がたたらを踏んで止まったほど
に予想外な行動である。もちろん、サニーミルクとルナチャイルドにとっても。
「えっ」
「わっ」
気づかれたのだろうか、と二人は慌てて手近の笹やぶへ飛び込んで身を隠したが、その
視線ははるか遠く先、星の流れへと投射されている。
見つかったわけではないようだったが―――。
「……どうか、しましたか……?」
か細く、男の声が聞こえる。辺りを不安げに見回している姿は、柳の影に怯える子供の
ようなものだったが、少女の方はぴんと背筋を伸ばし、鋭い目で天を見、続いて立ち並ぶ
竹を睨むように見回した。
ぼそりと少女が何かつまらなそうに呟いたが、それは小さすぎて、藪に隠れている二人
の耳には届かない。
「……なんだろう」
「迷ってることに気がついたのよ、きっと。でも、もうどうしようもないわねぇ」
ルナがそんな楽観的なことを口にしたが、
「こっちだ、急ごう」
少女は早口にそう告げて男の手を取ると、なんとサニーの幻惑を無視して一直線に本来
の道へと突き進んでいった。人間の視覚の上ではまったく別の場所が映っているはずだと
いうのに、その足取りは躊躇なく、また速い。少女に比べて上背も筋肉も勝っている壮年
の方が引きずられそうになるほどの勢いだ。
「え、ちょ、ちょっと!?」
新しく光をあやつる暇もない。まごまごしている間に、三人の男女はあっさりと効果範
囲を抜け出してしまった。サニーミルクとルナチャイルドにとって全くの予想外で、また
信じられない出来事でもあった。
「なんでなんで!?」
「知らないわよ、とにかくもう一度―――」
泡を食った表情で二人は竹やぶを飛び出すと、そこで足を止めた。
止めてしまった。
夜の闇でも光っている、紅い瞳が二人を射竦めている。
サニーミルクの遮蔽は続いていた。ルナチャイルドの消音も続いていた。
だというのに、その人間にしては珍しい、鮮やかなルビー色の瞳は、まっすぐに二人を
捉えている。
偶然ではない。その証拠に二人とも、その肌にひりひりと視線を感じている。
焦点の定まった瞳が的確に物体を捉えていない限り、感じるはずのない錯覚だ。
「あ……」
息がつまる。喉が意味のない音を立てる。どちらのものか判別すらつかない。
……見つめられていたのはほんの数秒。しかし二人には数分くらいに感じられる長さの
停滞が発生している。
ようやく身動きが取れるようになったのは、紅い視線がすいっと二人から外れて、遠く
にぼんやりと浮かぶほの明かりへと消えていってからだった。
その瞬間、サニーはへたりこんで、ルナは竹に背を預けてぎしぎしと音を立てて曲げた。
「な、なんだったのよあの人間……」
「あ、死ぬかと思ったー……」
呼吸まで止めていたのか、やや荒く息をつきながら、二人は声を出した。先ほどまでの
緊張が反動になっているのか、それとも感じていた恐怖を誤魔化すためか、二人とも妙に
饒舌だった。
古今東西、突発的に理解不可能、正体不明なものと出くわした時の反応は人間でも妖怪
でも妖精でも変わらない。真っ先に感じるのは恐怖である。その次に来る感情は千差万別
だが、サニーとルナの場合は恐怖から開放された脱力感のみがあった。
正体不明―――あの紅い瞳が、二人にとってはそうだった。
悪戯をしたことは失敗も成功も含めて多々あるが、あんな風に突然、何の前触れもなく
見破られて、しかも遮蔽ごしに睨みつけられた、などという失敗は初体験である。
「ほら言ったじゃない、失敗するって。まったくもう、二人ともひどい顔ねえ」
くすくすと意地の悪い、たとえるならチェシャ猫のような笑い方で、スターサファイア
は二人を出迎えた。その目も愉快そうな輝きを秘めている。
その態度が気に食わなかったのか、サニーは、がー、と吼えるように反撃した。
「きょ、今日は相手が悪かっただけよ! ……というかその前に、こっちの妖精がなんで
『この辺りで悪戯するのは止めた方がいい』っていってたか、理由が分かった気がする。
あんなのがいたら遊ぶどころじゃないもの」
「全くね。アレはなんというか、人間というより猛獣みたいだったわ。もし襲いかかって
きたらどうしようかと思ったわ、もう……」
「人間が妖精を獲って食べるなんて今も昔も聞いたことないけどなあ。ルナったら意外と
臆病ね。食われたって一回休みになるだけ……まあ食べてもおいしくないだろうし、まあ
食べないわよきっと」
「不吉なことを言うな! ……まったく、次からは相手を選ばないといけないわね」
「そもそも場所を変えるって発想はないの?」
「ここで引き下がったら妖精がすたるじゃない」
じだんだ踏みながらうめく周囲では、竹やぶと笹以外はすでに何も無い。
聞こえるのは鈴虫の演奏だけ、見えるのは遠くに浮かぶ妖しげなほの明かりだけである。
人の気配はどう考えてもなさそうだったし、スターの知覚も同じことを伝えていた。
「仕方ないわね、今日は引き下がってまた明日やりましょ。今度はきちんと相手を見て」
「……やめた方がいいと思うけどなあ」
「またスターはそんなこと言って。なんでそんなにノリが悪いのよ」
「だって、明日まで新月で、天気予報は晴れっていってるじゃない」
「……だから?」
「分からない? だから失敗するのよ」
「知るか! 何なのよその超理論は! ……まったく、その自身がどこから出てくるかは
分からないけど、明日こそはあんたの予言がうそっぱちってことを証明してあげるわ」
「……でも一度当たったよ?」
「うーるーさーい。とにかく帰るわよ」
結局、サニーは不機嫌そうに竹林を飛び立っていった。
その後をルナが不安げに続いていく。
そしてスターサファイアは空を見上げた。
地上で起きた奇事も気に留めず、星は変わらぬ場所で光っている。
だがスターは知っている。星でさえも位置を変えていく。日々その場所は回転している。
太陽と月が巡るように、季節が巡るように、星もまた巡るのだ。
だが―――。
「……んー、やっぱりすぐには見つからないわね。貴重な天体観測びよりなんだけど」
そんなことを呟く。彼女の関心事は、今も悪戯より天体に向いているようだ。
ばいばい、と空に向かって小さく手を振ると、スターも二人の後を追った。
天に浮かぶこぐま座が、その姿を見送っていた。
§
翌日、三月精は日の入りを待って、再び迷いの竹林へと入り込んだ。
今回は可能な限りの下準備をしてある。竹林を主な住まいにする妖精から、訪れる人間
と住んでいる人間の詳細を可能な限り問い詰めて聞き出し、対策をしておいたのだ。妖精
にしてはかなりの頭脳プレーである。
聞いたところによると、昨夜に出くわした人間は想像以上に物騒だったらしい。
「不死鳥の血を飲んだ」とか「妖術を極めるあまり白髪赤眼となった」とか、胡散臭い
情報ばかりだったものの、「天狗とも互角以上に渡り合った」だの「この間は博麗の巫女
と大立ち回りをしていた」だのという部分については、今後の行動において大いに参考に
なった。主に危機回避的な意味で。
絶対に手を出してはいけないタイプの人間だ。
「……まあ、あの巫女と互角くらいなら仕方ないわよね」
「ないわね」
「そういう問題かしら……」
彼女は里のとある人物と懇意にしているらしく、ちょくちょく里に足を運んでいるよう
だった。もし狙うとすれば、その人物だろう。
そこで三人は、まず昼間にその人物の家に軽く悪戯を仕掛けた。玄関を上がったところ
に細い紐を渡して足を引っ掛ける程度のつまらないものだったが、それに加えて置手紙を
しておいた。ご丁寧にすっころんだ先で見える位置に貼りつけておいたのだ。
文面は簡潔に「今宵、この百倍の災いが訪れるだろう」とだけ記している。
ちなみにこれの執筆はなんとスターサファイアである。意外なほど達筆だった上にノリ
ノリであった。昨日のやる気のなさが嘘のように楽しそうな様子で、
「昼間なら失敗しないのよ、昼間なら」
そんなことを言っていたが、二人は首を傾げるばかりだった。
ともあれこの脅し文句は想像以上にうまくいったようで、例の赤い目をした人間は今夜
いっぱい、里に常駐して離れないことになった。念のため、ということだったが、それで
三人には十分だった。
―――盗み聞きする際に屋敷の中庭へ忍び込んだところ、危うく見つかるところだった
が。あの異常な勘のよさは、やはり普通の人間とは違うらしい。
ともあれ今宵だけ、迷いの竹林は妖精の天下である。
スターは再びやる気ゼロに戻っていたが、二人はもう気にしないことにした。
周囲の竹はぼんやりと光っている。全ての竹がそうなっているわけではないが、迷いの
竹林全体を見ればかなり明るい。今日は木気が最も強まる日のため、竹に蓄えられた霊力
が活性化しているのだ。限られた日の夜にしか見られない、貴重な光景である。
こうした光る竹は、魔法使いにとっても細工師にとっても非常に優秀な素材となった。
ある種の加工を施せば、一晩満月の光に当てるだけで約一月は光り続ける行灯となり、
また空飛ぶ箒の心材としても日本では最高級であると重宝されるほどだ。他にも錬金術の
触媒として使われたり、また普通に日用品へと加工されたりもしている。
そんなわけで、夜の危険も冒して竹林に入るものは少なくない……らしい。
少なくとも、三人はとある知り合いの魔法使いからそんな風に聞いている。
元々が大言壮語で虚言癖のある彼女だけに眉唾物だったが―――
「あ、本当にきた」
「やっぱり光る竹って魅力的なのね」
今回はどうやら本当だったようだ。顔に綺麗な年輪を刻んで、大きな籠と鉈を背負った
老人がかくしゃくとして竹林を歩いている。相当ここに慣れているのか、足取りは軽く、
またしっかりとしていた。
その様子が、二人には我が物顔でのし歩いている獲物だと映った。この辺りにすっかり
慣れて、妖精などものの数ではないという油断の染み付いた人間だ。その分、化かした時
のリアクションが一番楽しい手合いでもある。
「……さて、スター。邪魔は?」
「本当にやるんだ……仕方ないなあ。えーと、小動物以外は何もいないわよ」
ため息をつきながらも、スターはきちんとレーダーの役目を果たしている。相変わらず
視線は夜空に向けられたままで、何かしら手伝いをしようとかそういう気は見えない。
「……本当になんでやる気がないんだか。せっかくの爆笑タイムなのに」
「目の前にある小石にわざわざ足を取られに行くのかしら? まあ、ルナは普通にしてて
もつまずきそうだけど」
「やかましい!」
「あはははは、確かにそうね。でも、ありもしない小石を不安がるのもおかしいわよ?」
「……まあ、気をつけてね」
しょうがないな、という顔をしてスターは引き下がった。まるで、子供が大人の真似を
しようとして失敗するさまを眺めているような声だった。「やってもいいけど思い通りに
いかないぞ」とでも言いたげな態度である。
昨日と似たような態度だった。
「……本当に、昨日と今日のスターは変ね。まるで占い師みたい」
普段は能天気なサニーミルクも、これが二日も続けば、さすがに何か感じ取っている。
「星占いくらい古今東西どこでもやってるわよ? 私も少しなら」
「えっと、占いと予言ってどう違うんだっけ?」
「占いは当たるも八卦、当たらぬも八卦、予言は割と確実に当たる、だったかしら」
「ふぅん。じゃあ確信あっていってるの? そういうこと」
「うん。まあ、サニーもルナももう少し注意深くしてれば分かるわよ。きっと……」
「はいはい、そんなことより道に迷わせてやりましょうよ、もう」
サニーとスターがぐだぐだと喋ってるのを待ちきれないのか、ルナが苛立たしげに口を
挟んだ。先日の失敗と予言がまだ尾を引いているのか、それを早く払拭したいという意識
がありありと見えている。
―――偶然に決まっている。
ルナチャイルドはそう自分の中で結論づけていた。どうせスターも気まぐれでだとか、
月に一度、調子が悪くなる日(人間にあるらしいが妖精では不明)でも来てるからあんな
ことを言うのだろう、とまで勝手に考えている。
ただ、そうした考えがスターの言葉に宿る不安から来ているもの、という事実にまでは
気が回っていない。
「どうしたのよ、そんな深刻な顔して」
「……なんでもない。なんか、貴女の能天気さが私にも欲しいなあ」
「失礼ね、まるで何も考えてないような言い方じゃない」
「違うの?」
「違うわよ。ま、元々が出たとこ勝負だけどねー」
「……合ってるじゃない」
サニーはそもそもあまり気にしていないようだ。失敗したらその時はその時だ、などと
気楽に考えているように見える。昨日の失敗を引きずっていないあたり、ルナよりも神経
は太いらしい。
「ま、いいわ。ほら、さっさと迷わせる」
「はいはい、今日は昼の内にたっぷり日光浴しといたからいつもよりパワー全開よー」
言葉の端に自信をにじませて、サニーはさっそく自分に与えられた能力を行使した。
夜のわずかな光を曲げ、繋ぎ、屈折させる。右を左に、前を後ろに、時には九十度ほど
半回転させたように景色を見せる。それも景色が不自然に歪まないように注意を払って。
生まれた時から息をするように扱えた力だ、この程度は造作もない。
特に直接害を与えられるわけではない、出来るとするならせいぜい虫眼鏡のように光を
一点に集めて火を起こす程度の、取るに足らない妖精の力。
しかし、知覚のほとんどを目に頼る人間にとってはひとたまりもない能力だった。
目に見えているものと、実際に存在しているものが違うというのは、実質的に目隠しを
されているに等しい。人の手の入らない獣道に歩き慣れていないような人間であったなら、
数歩も歩かないうちに足を取られて転んでしまうだろう。
点在する光る竹がかえって視界を幻惑する。夜道にも獣道にも慣れているであろう老人
でさえ、サニーが能力を発動した瞬間によろめいた。
戸惑ったように足元を見て、周囲を見回して何事かと探っていたが、結局仕掛けられた
悪戯に気づかぬまま、向かっていた場所とは別の方角に歩き出してしまった。
籠の中にはぼんやりと月白に輝く竹が詰まっているから、里に向かおうとしていたのは
間違いない。しかし、今の彼は九十度ほどずれた方向に向かって歩いている。ときおり、
鬱陶しげに足を振りながら歩くのは、見えない笹が脛に当たって気持ち悪いのだろう。
「あはははは、傑作ねえ」
「見事に引っ掛かってくれたわね。そのまま朝まで見当違いの方向にゆくがいいわ!」
勝ち誇った笑い声を上げる―――その声が老人の方向まで届くことはないが。
いずれ彼も妖精に惑わされたことに気づくだろうが、どのみち破る術はない。
相手は遠巻きに見てこちらを笑っている。その姿も声も見えないのだから、打つ手など
何もない。ただ妖精どもが飽きるのを辛抱強く待つしかない。
「ほら、スターも見なさいよ。せっかく、」
笑い転げながらルナはスターの方を見て―――何故か、目が離せなくなった。
スターサファイアは空を見ていた。
笑うでもなく、退屈でもなく、ただ真摯な顔で星を見ている。
何を見ているのか。ルナもつられて空を見る。
さすがに星が多い。何を見ているかなんて知る由もない。
ないけれども―――真っ先に目に入ったのは、こぐま座に刻まれた北極星だった。
「あ、あれえ!?」
サニーが素っ頓狂な声を上げたのはそれとほぼ同時だった。
びくりと体を震わせて何事かと振り向けば、化かしたはずの老人がいつの間にか消えて
いる。実際に消えているわけではなく、ただサニーの能力で見えなくなっているだけだが、
それは本来ありえないことだ。
サニーミルクは老人の周囲の光を屈折させることで、気取られることなく道に迷わせて
いる。当然、その標的が動けば能力を使う範囲も動かすことになる。そしてそれは、空で
も飛ぶか、天狗並みの速度で突っ走らなければ抜け出すことはほとんど不可能だ。
もし、人を迷わせる光の檻が外れるとしたら。
「も、もう一度……!」
サニーはいったん、光をあやつるのを止めた。翁の位置を正確に把握しなおすためだ。
その上で、再び光を曲げて道を歪ませた。普通はここまであからさまに仕掛けるような
真似をしない。
悪戯をするとき、妖精は決して姿を現してはいけない。地力の差が歴然としているもの
だから、捕まってしまえば終わりなのだ。
「……あ」
そんな危険を冒してまで作り上げた檻が、あっけなく突破される。彼は竹の詰まった籠
の重さを感じさせず軽やかに走り、足元はただ健脚の感覚だけに任せて、視線はずっと空
を―――星を見ていた。サニーたちの力が及ぶ範囲から逃れるまで。
羽虫の合奏がうるさい。
後に残ったのは、呆然とした表情をしているサニーミルクと、何が起こったか理解さえ
出来ていないルナチャイルドだけである。
「……ど、どうして?」
もはや、何がなんだか分からない。サニーは大きな喪失感と一緒に、茶色く枯れた木の
葉のような姿でふらふらと落下して、その場にへたり込んだ。
なりふりかまわず泣き出してしまいたかった。月明かりのない暗い夜も、見通しの悪い
竹林も、状況は全部有利だったのに、二度も自分の力を退けられてしまった悔しさが涙腺
を締め上げてくる。
それをかろうじて押しとどめたのは、皮肉にもスターの感覚が捕らえた人影だった。
「……あ、やば。一人こっちに真っ直ぐ飛んでくるのがいるわよ」
「ええっ!? サニー、あなた私たちの迷彩も解除しちゃったの!?」
「え、あ……やっちゃった」
ルナチャイルドの消音効果は続いていたが、サニーが使用していた光学迷彩は、彼女の
心境を反映してか全く使い物にならなくなっていた。精神集中が途切れて、彼女たちの姿
は丸見えとなっている。
「とりあえず、痛い目を見る前に逃げましょ。……ほら、しょげてないで。別にサニーの
せいじゃないわよ。ただ今日が新月で、なおかつ晴れてたから失敗したの」
「……どういう、意味?」
「後で話すからちょっと待ってて。……ほら、しゃんとする。日頃からリーダー気取って
るんだから情けない顔しないの。三月精の頭脳は伊達じゃないんでしょ?」
「え、あ、ちょっと」
まだ力の入らないサニーを無理やり引っ張るようにして、スターとルナはなんとかその
場を逃げ切った。動き出すのは早かった。それが幸いして、紅い瞳をした追撃者は、結局
三人を捕まえられず、ただ不機嫌そうな顔をして帰っていったようだ。
ただ、しばらくの間、竹林一帯は危険地帯となった。妖怪や妖精は言わずもがな、何故
か人間にとっても危険な場所となっている。
これは余談になるが、今年に入ってから竹林で発生した小火の件数は、去年より約三倍
くらい増となった。この秋だけで。
……心底、腹の虫が据わらないような状態にしてやった。
そういう意味では、この悪戯は成功していたかも知れなかった。
§
「……助かったぁ」
「しばらくあそこには近づけないなあ。あっちに住んでる妖精には悪いけど、向こうの腹
の虫が治まるまで待たないと確実に死ねるわね」
我が家の明かりが、これほど心休まるものだとは思わなかった。
悪魔に足首を掴まれる前に逃走しきれたことを、二人は心から感謝した。
特にサニーミルクは精神的にも肉体的にも疲れきっていたので、真っ先にベッドの上へ
倒れ込んでいる。そのまま寝てしまいたかったが、まだこらえなければならない。
そうだ、謎を解かなくてはいかない。
スターサファイアの予言と、その的中についてを。
「……で、スター。望遠鏡をいじくり回してるところ悪いんだけど。なんで私たちの悪戯
が失敗したのか、それと、どうして失敗するって分かってたのか、教えてよ」
サニーの視線の先では、なにやらスターが出自不明の天体望遠鏡などをいじっている。
どこから手に入れてきたかは二人ですら知らない。どうせ盗品か何かなのだろうが、それ
を丹精こめて手入れしている姿は以前から良く見かけた。
「一応いろいろとヒントはあったんだけどね。分からなかった?」
「全然。というか、ヒントなんてあったの?」
「……新月がどうとか?」
「ルナが正解。昨日と今日、それから明日までは月の力が一番弱くなる日。月が光を反射
しなくなるから、その分だけ星の光が地上に届く。つまるところ星の力が強くなるのよ。
普段は何にも影響受けない星だけど、この時だけはもっとも力が強くなるのよ。サニーが
日の出てる間は調子がいいのと、ルナが満月の時は調子がいいのと同じ理屈ね」
「……まあ、そういう理屈だとこの三日間はあなたの力がいちばん強くなるんだろうけど、
それとこれがどう関係するのよ」
「ううん。確かに私の力も強くなるけど、それと今回は無関係。むしろ、星の方が今回は
重要だったかな。特に、道に迷いやすい人間たちにとってはね」
スターはそういいながら、望遠鏡のセットを終えた。満足の行く調整が出来たのだろう、
なんとなく笑みが浮かんでいるのが分かる。
「……? それってどういう意味よ」
「サニーは羅針盤とか、渾天儀は知ってる?」
「あー、一応は。どっちも丸い奴でしょ。何に使うんだっけ、あれ」
「方角を調べたり、星座を調べたりする道具じゃ……あ。そうか」
ルナが手を叩いて納得したような顔をした。
「それで方角が分かって道に迷わなくなったのね……って、あの時はどっちもそんなの持
ってた様子は無かったし、そもそも、太陽や月でも代用できるじゃない。東から昇って西
に沈むんだから」
「でも、一番上に来たときは方角が分からないし、そもそも今は東にあるのか、それとも
西にあるのかが分からなきゃ困るじゃない。太陽も月も、時が経つにしたがって動くから
道しるべにはちょっと不足なの」
「……でも、何で星なの?」
サニーがどこか不機嫌そうな顔で訊いた。
確かに昼間より夜は能力の精度が落ちる。けれども、だからといってただの人間が完全
に無効化できるわけではないし、そもそも昼間の日光浴でエネルギーはほぼ充電完了して
いた。どう考えても負ける要素は無かったのである。
「それは、星は動かないからよ」
「……動かないって、星座の位置は変わってるよ?」
「うん。星座は。でも、一つだけ、ほとんど位置の変わらない星があるでしょ?」
そういって、スターは天窓に映っている星の一粒を指差した。
何の気も無い、石英の粒のような点の群れ。正直いってスターの指さす星がどれかなど
分かるはずもないが、なんとなく、ひときわ明るく見えるような星があった。
「あれよ。あれが、妙見様。どんなものでもお見通しで、旅をする人に道を教えてくれる
神様よ。海の上でも、空の果てでも、変わらずに北の中心に座って、地上を見下ろしてる
星の王様。空の雲と昼間の太陽以外にはその力を遮ることも出来ないし、捻じ曲げること
も出来ないわ」
七星の先端で輝く白い光。あんなちっぽけな星が、サニーの力を消し去ったという。
「……うっそぉ」
にわかには信じがたい話だったが、神様とまで断言されてしまっていてはサニーも納得
せざるを得なかった。悔しいが、妖精ごときの力では神を退けることなど出来ない。例え
百人、千人と束ねても勝てはしないだろう。
神は自然そのものであり、妖精はその自然から生まれるものなのだから。
「……そっか、だからみんな上を見て走ってたのね。まさか上に抜け道があるだなんて。
まったくもう、そういうことは早く言いなさいよ。そうすれば失敗しなかったのに」
「だから、駄目なの。例え空を屈折させても、それが妖精の仕業だと無効化されるのよ。
いったでしょ? もともと勝ち目は無かったのよ」
「うえ……なんかそれってずるくない? 仕方ないかも知れないけど……」
不平等だとサニーは感じた。例え自分たちが妙見様を信じていたとしても、彼女たちの
願いが「人を迷わせること」であったなら、決して恩恵はもらえないのだ。妙見様が司る
ものは道しるべで、その願いとは真逆の御利益なのである。
かといって、人を迷わせるだとか、悪戯をするだとか、そういうことに特化したような
神様がいるとは思えない。
「でしょ? だから、次の夜は天体観測に予定を変更しましょ」
「……え、何で?」
「だから、不平等の是正。私たちも自分たちだけの神様を見つけようってことよ。人間の
手垢がついてない、妖精だけに味方してくれる神様をね」
そういって、スターは二人にウインクして見せた。
明日、誰か素敵な人とデートに行くような上機嫌さで。
新月三日目の夜は相変わらず静かだった。
サニーミルクとルナチャイルドはスターサファイアの言うとおり、天体観測の真似事を
やっていた。ガラス張りになった天井から、部屋の明かりを可能な限り暗くして、はるか
彼方に空を見る。さすがに望遠鏡は三台も無いので、サニーは自前で光を屈折させ拡大、
ルナは双眼鏡で代用している。本格的な道具を使っているのはスターだけだ。
「……で、まあ何を観測するのかさえ決まってないんだけど、どうするの?」
「月がないと星ってこんなに多いのね。この中から何を探すのかしら」
二人が口々にそういうと、スターは望遠鏡の調整をする手を休めて、もったいぶるよう
に語りだした。
「そうね。天体観測でやれることはたくさんあるんだけど……例えば、星座になりそうな
場所を探したり、流れ星を見つけたりとか。でも今回はどっちでもないの。探すのはただ
ひとつ……名前のない星を探すの」
「……名前のない?」
「正確にいうと、まだ名前がついてない、新しい星ね。たしか外から流れてきた星の本で
読んだんだけど、新しく星を見つけた人は、その星に自由に名前をつけていいんだって」
「それがどうかしたの」
サニーが眉根を寄せて問うと、スターは満面の笑みを浮かべた。
「だから、それと、星と、神様がぜーんぶ関係してるのよ。星の数は地面に落ちた葉っぱ
の数よりも多いし、神様の数も八百万じゃ足りないほどいらっしゃる。でも名前のついて
ない神様は形が無くて、何も出来ない状態なの。例えば昨日の北極星だと妙見様って神様
がいる、っていったわね。あれも誰かが名前をつけて、道しるべとしてありがたがった。
それであそこまで強い力をつけることが出来たの。他にも妖怪たちの神様として、明けの
明星が信仰されてるし、ずうっと西の方では四つのとても強く輝く星が幸運を呼ぶものと
して信じられていたらしいわ。……で、この星の共通点は何かしら?」
「……あー、名前があること?」
「はい、ルナが早押しで正解。どの星も名前をつけられて、幸運を呼ぶ象徴だったり神様
の化身だったり、そんな感じで信仰を受けてるから、信じる人に恩恵を与えてくれるの。
もちろん、信じてる人たちの都合がいいように―――道に迷わないようにとか、いいこと
がありますようにとか、嫌な奴が痛い目を見ますように、とかをね」
「なるほどねえ。でもそれが、新しい星に名前をつけるのとどう関係が……あ」
「はい、サニーもたぶん正解かしら。だから、私たち妖精が、星に名前をつけて、色んな
ことをお願いし続ければ、そうした星やそこに宿る神様の力が私たちにも作用してくれる。
つまり、私たちにも強い味方が出来るってわけ」
どうだ、と言わんばかりにスターは胸を張った。
「……なんか、今日のスターはすごいわね。そこまで考えてる、というか頭がいいなんて
微塵も思ってなかった」
「そうね。なんか頭でも打ったようにしか思えないくらいすごいわ」
「うん、間違いなく裏返ったわね」
「普段から何も考えてないようなことを言わない! というかサニーもルナも似たような
もんでしょ! ……まったくもう、とにかく、新しい星を見つけて名前をつけてあげれば
妖精が天下を取るのも夢じゃないのよ。だからみんなで手分けして頑張りましょ」
おー、と威勢のいい声が唱和する。
空には最後の祭りだ、といわんばかりに星がひしめいている。新月の日、周囲に余分な
光がないから、普段は見えないような星でもはっきりと見つけることが出来た。
サニーはそのかすかな光を集めながら、あれこれと星についてスターへ聞いている。
スターは生まれつきの知識やどこかで拾ってきた外の図鑑で色々と調べ、サニーへ解説
などをしていた。淡々と探すよりも退屈しないし、なにより他の二人も知識を持っていて
くれた方が効率がいいと思ってのことだ。
「人間も暇ねえ。こんなに星に名前をつけてるだなんて。ほら、記号と数字でしかないの
まであるわよ」
「文字が出来るずっと昔から星に名前をつけてたらしいわよ。……でもこれだけ区別して
名前をつけるのってすごいわね。どんな暇人がやったのかしら」
きゃいきゃいと盛り上がっている二人を尻目に、ルナは何か嫌な予感というか、根本的
な問題があるような気がしてしかたがなかった。
双眼鏡で覗いても雲ひとつない夜空だった。宝石を砕いて豪快にぶちまけたように星の
群れが光っている。これだけ綺麗なら月のない夜もたまには悪くない、と思えるほどだ。
しかし―――
「―――ねえ」
ぽつり、と出来るだけ二人のムードを壊さないように、気を使って言葉にする。
「ん、何? 何か見つけた?」
「え、何?」
幸か不幸か、二人ともルナの危惧している事実には気づいていないようだった。
それが重い。ある意味これは、残酷なことだ。それを自分の口から言わないといけない
のが一番つらかった。
でも、言わないといけない。
そうでなければきっと不毛だろう。
「ええっとね」
ルナチャイルドは躊躇しながらも、意を決して二人に尋ねた。
「新しい星、ってどうやって見分けるの?」
そんな気分になりました。言われてみれば単純なトリックですが、説明されるまですっかり見落としてました。きっちりヒントまであったのに……。
妹紅VS三月精というシチュエーションも、珍しくて素敵です。全体にながれるまったりとした雰囲気もいいなぁ。
>「方角を調べたり、星座をを調べたりする道具じゃ……あ。そうか」
を、が重なってますね。
こういう日常のなんでもない話が彼女らにはよく似合いますね。
妹紅の道案内ネタや、八百万の神様観などの原作成分もすっきりとはまっていました。
オチもさっぱりとしていて、ああ三月星だなぁ、と勝手に納得していたりw
面白かったです。背景色もいい雰囲気を作っていたと思います。
黒い背景で夜の演出、ノンビリとした流れ、各々の特徴を掴んだ、すごく『らしい』会話。 読んでいて凄く気持ちよかったです。
あと、こちらは好みの問題になりますが、行間が狭くて少し読み辛さを感じました。
それ以外はもう、なんて言うか、『車椅子の未来宇宙』でも聞きながら、ジックリと読み返してみたいと思います。
一言に纏めると、スターさいk…素敵です。
まとめも良いし、何だかひっそりと隠された宝物を見つけた気分です。
100点入れておけばよかったw
やってることは唯のいたずらなのに、なんだか素敵な文章と共にほんわかしたイメージが伝わってきます。
しかしこの悪戯、妹紅側からしてみれば、姫様に命令された鈴仙の仕業とも取れないこともないかななどとw
だからとばっちりで竹林が燃えたんでしょうか? ラストもすっきりとしていて心が洗われました。
三月精、神様みつかるといいね!
硬質な地の文が、またいい味を出していますね。