幻想郷に秋が訪れた。
秋の訪れを誰よりも待っていた姉妹は毎日、山に繰り出しては秋という季節を満喫していた。
「静葉姉さん! 秋よ! 秋なのよ! ついに私たちの季節が来たのよ!」
「ええ、そうね。穣子。ついに来たわ。秋が!」
「もう、この季節が来るのをどれだけ待ちわびたことか……!」
「そうね。約一年待ったわね」
「ええ、まぁ、そうだけど。でも、もう……もう! 一年が十年……ううん、百年くらいはあったような気がしたわ!」
「そうね、寒い冬を乗り切って、麗らかな春をやり過ごして、そして、暑い夏を凌いでやっと巡ってきたのね。私たちの秋が」
「ええ! 私たちの秋よ!」
そう言いながら、穣子が積もり積もった落ち葉のプールに飛びかかるとたくさんの落ち葉が宙を舞った。
彼女は落ち葉だらけになりながらも楽しそうにはしゃいでいる。その様子を静葉は笑みを浮かべて眺めていた。
「はあ、秋って気持ちいいわね……」
落ち葉を両手いっぱいにすくいながら穣子はふと呟いた。
「ええ、秋は気持ちいいわ。そう、ほかのどの季節よりも……」
静葉も綺麗に黄葉した銀杏の葉を拾いながらそう呟やく。そして二人が思わず空を見上げると、澄み渡った青い空にまっ白いうろこ雲が見えた。それを見た穣子は感極まった様子で目に涙すら浮かべながら大声で叫んだ。
「秋! 秋! 秋! 秋! 愛しいくらいの秋! もういっそこのまま秋に埋もれて死んでもいいわ! 私!」
「あら、気持ちは分かるけどそれはダメよ。穣子」
「え、どうして?」
「だって死んじゃったら、二度と大好きな秋を満喫できなくなってしまうわよ」
「え、それは嫌!」
「でしょ? なら、毎日きちんと生きて来年の秋も迎え入れましょう。それが私たちの生きがいなんだもの」
「うん、そうね。来年の秋も楽しみにしなくちゃね。でも静葉姉さん。その前にまず今年の秋よ!」
穣子はそう言ってびしっと指を立てる。
「ええ、そうね。まずは今年の秋ね」
「そうそう、まずは今年! 来年の話なんかしたら鬼に笑われちゃうわ」
「あら違うわ。穣子。鬼が笑うのよ」
「え、あれって鬼に笑われちゃうって意味じゃないの?」
姉の言葉に彼女は思わず動きを止めて姉の方を見やる。
「でもそれなら『鬼が笑う』じゃおかしいじゃない」
「うーん、それもそうね。一体どういう意味なんだろうね」
「そうね、こういうことは鬼本人に聞いた方が早いわね」
「そうね。間違いないわ。じゃあさっそく聞いてみましょうよ。鬼に」
「ええそうね。でも穣子。今はそんなことどうでもいいのよ」
「え、なんで?」
「だって秋だもの」
穣子は姉の言葉にしばらく口を開けてぽかんとしていたが、やがて意味を理解したかのように弾けるような笑顔を見せる。
「……そっか、そっか! 秋だもんね! どうでもいいわよね。そんなこと」
「ええ、秋だもの」
「そう! 秋なんだもんね!」
再び穣子は、落ち葉のプールへと身を沈めると泳ぐように足をばたばたとさせる。彼女が足をばたばたさせるたびに、がさがさと落ち葉同士が擦れる音があたりに響く。
静葉はその音を心地よさそうに聞き入りながら妹の様子を微笑ましく眺めていた。
「そう、秋は無敵! 秋は完璧! 秋は最高! 秋にゃ何も敵わない!」
穣子がそう叫ぶと同時に冷たい風が吹き荒れ落ち葉がいっせいに上空へと舞い上がった。
その様子を二人は陶酔した面持ちでいつまでもいつまでも眺め続けていた。
幻想郷の秋はまだ始まったばかりだ。
そして、二人の秋も……。
秋の訪れを誰よりも待っていた姉妹は毎日、山に繰り出しては秋という季節を満喫していた。
「静葉姉さん! 秋よ! 秋なのよ! ついに私たちの季節が来たのよ!」
「ええ、そうね。穣子。ついに来たわ。秋が!」
「もう、この季節が来るのをどれだけ待ちわびたことか……!」
「そうね。約一年待ったわね」
「ええ、まぁ、そうだけど。でも、もう……もう! 一年が十年……ううん、百年くらいはあったような気がしたわ!」
「そうね、寒い冬を乗り切って、麗らかな春をやり過ごして、そして、暑い夏を凌いでやっと巡ってきたのね。私たちの秋が」
「ええ! 私たちの秋よ!」
そう言いながら、穣子が積もり積もった落ち葉のプールに飛びかかるとたくさんの落ち葉が宙を舞った。
彼女は落ち葉だらけになりながらも楽しそうにはしゃいでいる。その様子を静葉は笑みを浮かべて眺めていた。
「はあ、秋って気持ちいいわね……」
落ち葉を両手いっぱいにすくいながら穣子はふと呟いた。
「ええ、秋は気持ちいいわ。そう、ほかのどの季節よりも……」
静葉も綺麗に黄葉した銀杏の葉を拾いながらそう呟やく。そして二人が思わず空を見上げると、澄み渡った青い空にまっ白いうろこ雲が見えた。それを見た穣子は感極まった様子で目に涙すら浮かべながら大声で叫んだ。
「秋! 秋! 秋! 秋! 愛しいくらいの秋! もういっそこのまま秋に埋もれて死んでもいいわ! 私!」
「あら、気持ちは分かるけどそれはダメよ。穣子」
「え、どうして?」
「だって死んじゃったら、二度と大好きな秋を満喫できなくなってしまうわよ」
「え、それは嫌!」
「でしょ? なら、毎日きちんと生きて来年の秋も迎え入れましょう。それが私たちの生きがいなんだもの」
「うん、そうね。来年の秋も楽しみにしなくちゃね。でも静葉姉さん。その前にまず今年の秋よ!」
穣子はそう言ってびしっと指を立てる。
「ええ、そうね。まずは今年の秋ね」
「そうそう、まずは今年! 来年の話なんかしたら鬼に笑われちゃうわ」
「あら違うわ。穣子。鬼が笑うのよ」
「え、あれって鬼に笑われちゃうって意味じゃないの?」
姉の言葉に彼女は思わず動きを止めて姉の方を見やる。
「でもそれなら『鬼が笑う』じゃおかしいじゃない」
「うーん、それもそうね。一体どういう意味なんだろうね」
「そうね、こういうことは鬼本人に聞いた方が早いわね」
「そうね。間違いないわ。じゃあさっそく聞いてみましょうよ。鬼に」
「ええそうね。でも穣子。今はそんなことどうでもいいのよ」
「え、なんで?」
「だって秋だもの」
穣子は姉の言葉にしばらく口を開けてぽかんとしていたが、やがて意味を理解したかのように弾けるような笑顔を見せる。
「……そっか、そっか! 秋だもんね! どうでもいいわよね。そんなこと」
「ええ、秋だもの」
「そう! 秋なんだもんね!」
再び穣子は、落ち葉のプールへと身を沈めると泳ぐように足をばたばたとさせる。彼女が足をばたばたさせるたびに、がさがさと落ち葉同士が擦れる音があたりに響く。
静葉はその音を心地よさそうに聞き入りながら妹の様子を微笑ましく眺めていた。
「そう、秋は無敵! 秋は完璧! 秋は最高! 秋にゃ何も敵わない!」
穣子がそう叫ぶと同時に冷たい風が吹き荒れ落ち葉がいっせいに上空へと舞い上がった。
その様子を二人は陶酔した面持ちでいつまでもいつまでも眺め続けていた。
幻想郷の秋はまだ始まったばかりだ。
そして、二人の秋も……。
それにしても何ともテンションの高い秋姉妹ですね。
やっぱり秋という季節を象徴する神だからこそなんでしょうね。
別に、作品の季節と現実がマッチしてる必要なんて無いですけしね。
そして、二人の秋も……。"
作者のコメントがないので何も確証はないのですが、わざと今になって秋を強調する内容を描くことで過ぎゆく秋への二人の想いが伝えたかったのではないのでしょうか。
もう現実では冬が始まるから、より彼女らの秋への執着心が垣間見える作品に仕上がっていると思います。
私はとってもとっても楽しく読ませて頂きました。
秋だからしょうがないですね。