Coolier - 新生・東方創想話

萃香、天子をしばくに助っ人を呼ぶの巻

2008/11/10 02:25:57
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(※緋想天If)



 せせらぎがうるさいくらいの源流。博麗神社の麓の川辺に、その鬼は立っていた。

「ひょっとして、貴方も宴の参加者かしら?」

 そう声をかけると、その鬼は少し考えてから頷いた。

「初めて見る顔ね。私は緋想天の比那名居天子。大地を総べる者よ」
「おー。いかにも天上人くずれって感じだ」

 何故だか、そう言って鬼は嬉しそうに笑った。
 ……世間一般の鬼のイメージに合ってるんだか合っていないんだか、妙な風貌をしている。
 ぼさぼさの髪と、それを分けるように生えた一本の角。
 どことなく粗野に見える表情に、その印象に反して驚くほど白い肌。
 胸は衣玖よりも少し大きいだろうか。正直羨まし……くはない。断じて。

「友人の頼みもあって地底から出てみたのさ。会えてよかった。じゃあ、あんたが私の目的だ」

 鬼の友人というと……まぁ、前回の主催繋がりだろうか。

「萃香から、あんたをぼっこぼこにしてくれって。一丁付き合ってくれ」
「やっぱりね。あの人たち、何度挑めば気が済むのかしら。……ちなみにあっちの鬼は今頃雲の中よ」

 鬼だからどうせ後で帰ってくるだろうし、そうでなければ衣玖が適当に回収してくれるはずだ。

「萃香が負けるってことは、結構やるんだろ? 楽しみだよ」

 けらけらと笑う鬼。

「今回の宴を説明するわ。貴方たちを一人ずつ退けて神社に着ければ私の勝ち。もし私を捕まえられれば、私を肴にして皆で宴会していいわよ」
「なんか煮ても焼いても食えなさそうだけどな。あははは」
「うるっさいわね。笑ってられるのも今のうちよ」

 緋想の剣を地面に突き刺す。

「こうやって、この剣を大地に突き刺せば……ん」

 突き刺す。

「あら?」

 突き刺す。

「……何で揺れないのよ」

 別に胸の話はしていない。

「どうした? 地震がどうかしたか?」
「え、なんで知ってるのよ」
「そういやまだ名乗ってなかったな。私は星熊勇儀。【語られる怪力乱神】だ」

 怪力乱神……。

「こっ、こンの馬鹿力っ……!!」





 ☆★☆





 別に、直接大地を操れなくても、なんとでもなる。
 選ばれた誇り高き天上人は狼狽えないのだ。

「鬼なら知ってると思うけど、私たちの一族は要石を扱うことができる唯一の家系よ」

 要石が天子の周囲を舞い始める。それは、天子の手にあるスペルカードの力だ。
 右手に緋想の剣、左手にスペルカード。周囲を跳ぶ要石。
 たとえ一つの手が封じられようと、この三つで成り立つこの布陣に、天子は絶対の自信があった。

「下がりなさい、卑しき地底の者。地の底に棲まう貴方では、地を総べる私は止められない」

 それを聞いて勇儀、んー、と唸って一言。

「ふふーん、天の上の人間はそういうハッタリが大好きと見える。でも私はそういうの好きじゃないぞ」

 と言いつつも嬉しそうな笑みを浮かべつつ、首を左右に曲げる勇儀。
 久しく動かしていなかったような鈍い音がした。

「まっいいか。じゃあ見せてあげよう天上人!」

 盃の酒を飲み干し、そして大きく深呼吸。勇儀の豊かな胸が、時間をかけて上下した。
 自慢の大盃を帯に挟み、両手を空け右足で大地を踏みしめる。その身体に込められた気が、地鳴りとなって重く響き渡った。

「――非想天からは見えない、地の底の鬼の力をね」

 また、大地が揺れる。
 それは大地の要石が鳴動する音か、それとも地底の鬼が放つ裂帛の気か。













 止まっていたのは、一秒も無かったかもしれない。

 先に動いたのは天子だった。
 緋想の剣を振ると同時に、要石が飛ぶ。それは緋想の剣の力で、勇儀の急所を確実に狙っている。

「――ふっ!」

 気合いの呼と同時に振るわれた勇儀の腕は、飛来する要石を一撃で破壊した。

「おぉりゃっ!」

 さらに続くそれを、一つ、二つ、同時に三つ。
 高速で向かってくる要石を、全て正確に迎撃して見せた。
 今まで数多の弾幕を貫いてきた要石が、一撃で割られる。
 仮にも幻想郷の大地を支える大岩の一部だ。しかも、それが激しい弾幕戦の末でならおろか、素手で。

「やっぱ……馬鹿力ね」

 驚きながらも、既に天子の目は勇儀の間合いを捉えていた。
 あの間合いは、三歩だ。

「ん? もう終わり? ならこっちから行くよ」

 要石の攻撃を蹴散らし、ゆっくりと間合いを詰めてくる勇儀。それをじっと見据えたまま、天子は考える。
 まだだ……慌てるな。
 相手は徒手空拳。三歩の間合いに入らなければ、向こうから手は出せない。
 それに恐らくは――――。相手は高速で移動することが得意ではないはずだ。
 いくら怪力乱神を操るといえど、力というものは足場が安定しないと十分の力は振るえないもの。
 ならば。

「よしっ、つかまえ  たにゃっ!?」

 天子の身体を掴まんと伸びた勇儀の腕は空しく宙を切った。
 間合いに入る寸前、天子は足下を掠める要石に飛び乗った。
 要石にはこういう使い方もある。壊されてしまうのなら、近づけなければいいだけだ。

「悪いけど、貴方の流儀に付き合う気はないわ」

 続けざまに第二、第三の要石を降らす。
 もう既に無効であるとわかっている手だが、天子には別の目的があった。
 それは動きの牽制もあるが、何よりも動きのクセを見る。
 鬼といえども腕は二本しかない。だから相手の死角から続けて攻撃すれば、防御も間に合わなくなる。そこを突く。
 戦術としては卑怯だが、まさに王道だ。鬼を相手にするには相応しい。

「数で押そうだなんて、小細工ぅっ!」

 勇儀は大きく息を吸い、気合いと共に両腕を開いた。
 その瞬間、降り注いでいた要石が、まとめて消し飛んだ。
 ……狙うなら今。

「もらったっ!」

 緋想の剣を抜き、上空から要石ごと勇儀に突撃し、押し潰す。

「――ほおあァッ!!」

 覇気一喝。
 勇儀は振るった腕の勢いそのまま宙を舞う様に身体をひねり、天子の乗った要石に回し蹴りを放った。
 地より放たれた稲妻の如き蹴りは、大きな要石を今までのものよりさらに酷く砕け散らせた。

「ぃよし!」

 しかし、その要石の上に天子の姿はいない。いや、見つけた。
 勇儀の蹴りが届く寸前、天子は要石から身を翻し、まさに今地上に降りている所だった。
 そして勇儀はそれを見て初めて、あることに気がついた。

 自分の両足が、今、

 地上から、

 離れていて。


「だから言ったでしょう。私は地を総べる者だって」


 鬼の気を限界まで溜め込んだ大地は緋想の剣に貫かれ、勇儀の真下で爆裂した。





 ☆★☆





 気脈の爆裂をまともに受けた勇儀はその名の通り星になり、一拍おいてから天子の元へ落ちてきた。

「はー。負けたー」
「……随分嬉しそうね」

 すかさず半目で突っ込みを入れる天子。

「最後に、一言言わせてもらうわ」
「何だい?」
「……私が認めてあげるわ。貴方は卑しくない。私の指す手を全て、真正面から受け止めて見せたから」

 天子はあえて勇儀を見なかった。
 そしてその言葉に、勇儀はぶっと吹き出して答えた。

「あはは、そりゃ結構だ。天上人さまが認めてくだすったぁね。あはははは」
「何、その反応。面白くないわね」

 ぷぅ、と顔を膨らませ、また会いましょう。とだけ付け加えてから天子は要石に乗って去っていった。
 勇儀は神社の方角へと飛んでいく天子を見届けて、

「はー、やれやれ。よっ……と」

 足のバネを使って起き上がり、

「たまにゃ本気で身体ぁ動かさないといけないな。ああいうのもいるってことは、地上も捨てたもんじゃないってことかい?」
「んー、どうだろ。まぁ、退屈はしないんじゃない? ……負けちゃったね、勇儀」

 傍には、いつの間に現れたのか萃香が寝転んでいた。
 勇儀は嬉しそうに微笑んで、その頭をくしゃりと撫でた。

「まぁ、人間の相手をするのも面倒だし、しばらくは地底にいるさ」
「そっか。ああ見えて地底も大変だしね」
「今はんなこといいじゃないか。持ってるんだろ? 酒」
「ん。呑もう呑もう」

 瓢箪と大盃で、二人の負けを祝って乾杯。
 その大盃には、傷一つすらついていない。





 了
 地面を手で抑えて地震を止めたなんていうヒーローがいましたが、鬼のレベルもあのレベル?

 前回の『愛情と無関心以外の何か』にてバトルシーンがあまりにもびみょんだったので習作を兼ねて緋想天IFものを。
 バトルシーンむずいよー。しかもスペカルールをどうやって描写に落とし込んだものか悩む悩む。
 そして美鈴や勇儀姐あたりの分かり易い方に逃げるというオチ。いいもん好きだから。
 では次回もよろしくお願いします。

11/10/0928 5W1Hの気になる箇所を修正。眠いからって推敲さぼっちゃいけません。
11/11/1509 指摘された誤字を修正。ありがとうございます。
Myb
http://givlog.info/
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コメント



0.660簡易評価
12.80名前が無い程度の能力削除
読みやすいし、キャラも生きてるし面白い話だと思うんだけどなー。
何でコメないんだろ。
前振りのない単発勝負だからかな。
13.60名前が無い程度の能力削除
てんこカリスマ。
バカ扱いされることが多い天子が、素直に強く描かれているのがよかったです。
あと、なにげに胸の話題がちらほらと。

誤字報告
博霊神社→博麗神社
17.100名前が無い程度の能力削除
勇儀清々しいなあ
天子は勇儀先生と友達になるべき