※若干のグロ要素あり、かも。
夢。
そう、彼女は夢を見ていた。
いつも見ていた雲よりも汚れの無い真白で虚無が覆い尽くす世界。
行く当てもなくただひたすらと。
何も無い世界を白い結晶を輝かせながら飛んでいた。
誰もいない世界から離れたくてただただ眼下を眺めて飛んでいた。
探し始めてどれだけ経ったのだろうか。
幼い彼女の精神力はとうに限界に近づいていて、瞳は涙で溜まり始めている。
いつ涙腺が破綻するか分からない状況でも彼女は泣くまいと、持ち合わせている矮小な見栄とプライドを全て動員させ辛うじて耐えていた。
そんな最中のことだ。
ふと気づくとあちらそちらに彼女の友達が立っているのが見えた。
彼女の不安と絶望感は喜びと安堵に変わる。
しかし、彼女にはどうも納得のいかないところがあった。
普段から仲良い彼女達が集まることはなく、何故か一人一人と点在している。
不思議に思えた彼女は友達の所に舞い降りることにした。
「―――」
近くにいたその内の一人に声を掛ける。
反応は帰って来ない。
筋の躍動、眼球の動き。
それらの挙動一つすらさえ感じられない。
友達の変わり果てた姿をおぞましく感じた彼女は恐る恐る手を伸ばし、触ることを試みた――
Freezin',Fearin',Nightmare
「ふふふ。とうとうにっくき大ガマをやっつける時が来た!」
大蝦蟇の池の上空で氷精が大仰にして叫ぶ。
辺りはすでに凍てついて、霊験あらたかな神水も池に浮かぶ蓮の花も凍りついていた。
冷気は周囲を満たし、白い靄が篭り始める。
木々の間から差す木漏れ日は氷で乱反射し幻想的な風景を醸し出していた。
当の氷精は凍りつかせた蛙をお手玉のように手で弾きながら主である大蝦蟇を挑発しつつ相対していた。
「一度は不意を突かれて飲み込まれたけど、今日のあたいは一味も二味も違う!」
覚悟しなさい!
そう叫ぶチルノに対して大蝦蟇は池を荒らしたチルノに怒り心頭だった。
大蝦蟇はチルノを飲み込もうと舌を伸ばす。
しかし、宙を鮮やかに舞いながら弾幕を放つチルノを捉えることはなかなか難しい。
結局のところ獲物を捕まえることが出来ず虚空を描くだけに終わった。
「あはは、どこを狙ってるのかしら」
尚も挑発するチルノに大蝦蟇は舌の動きを速める。
「うわっ!? むきー! 危ないじゃないのよ!!」
一瞬だけチルノがたじろぐものの、補足するまでには至らない。
回避し続けるチルノは気を良くし、忍ばせておいたカードを取り出す。
取り出したるは意味を持つ命名された紙、スペルカード。
「みんな凍っちゃえ――『パーフェクトフリーズ』」
スペルカード宣誓。
辺りに弾幕が展開された刹那のことだ。
全てを氷りつかせる寒波が弾幕さえ例外なく辺り一面を凍りつかせる。
氷塊となった弾幕は不規則な動きで大蝦蟇へと向かっていった。
大蝦蟇は激昂しつつも冷静に自分の方だけに向かってくる氷塊を舌で弾き飛ばす。
「――っ!?」
何度か氷塊を弾き飛ばしたところで大蝦蟇は驚愕を浮かべた。
長時間舌を出したままにした結果、長い舌は辺りの冷気にあてられ凍りついていた。
そのうえ先程の寒波で池は全て凍りつき、身動きが取れない状況にあった。
勿論のことチルノは意図してやったものではないが、大蝦蟇の状況を知らずのうちに八方塞がりに陥れていたのは事実だった。
「絶対零度以下冷気世界――『マイナスK』」
絶対零度の氷塊がチルノから発せられる。
氷塊は温度差による熱膨張で破裂し、小さな粒となって大蝦蟇に降り注いだ。
動くことも、弾くことも出来ない大蝦蟇に回避する術は無かった。
「―――!!」
甘んじて氷の粒子を体に受ける大蝦蟇。
募り募った低温の粒子は体表面の水分を凍らせ、遂には体全体を凍らせる。
氷が破裂する音だけが響く静寂の後、しばらく経っても動く気配のない大蝦蟇を見てチルノは勝利を確信した。
「あはははは!! とうとう私が勝ったわ!」
高らかに勝利宣言。
心底可笑しそうに笑い、宙を回るその様はまさに妖精。
彼女はひとえに笑い続ける。
「よし。早速あたいが大蝦蟇より強いってことをあのブン屋に伝えないとね」
ひとしきり笑った後に独りごちる。
腹いせに凍らせていた小さな蛙を投げる。
そして、池から離れようとしたところ。
「うえっ?」
急転。
この地ではご神体ともされる大蝦蟇の力は凍った中でも遺憾なく発揮された。
凍りついた大蝦蟇は自力で氷を破り、油断したチルノの足に舌を絡ませ―――
「ちょ、ちょっと止めなさいよっ うぎゃー!?」
そのまま舌を引き込み、チルノを飲み込んだ。
氷精の無残な断末魔が辺りに響き渡った。
いつしか投げた蛙は大蝦蟇を外れ、凍った池の上に落ちる。
衝撃に耐えきれずひびが入った氷はそのまま静かに割れた。
砕け散った蛙の残骸が、池の氷上にひっそりと残った。
※※※
「う、ううん……」
覚醒する。
ぼやけた視界に映るのは真白。
いくらかピントがはっきり合わさる。
が、以前目に映るのは覆い尽くさんばかりの白だけだ。
「ここ、どこだろ」
思わずそう呟かざるを得なかった。
記憶にない世界が眼前に広がり、うすら寒さを感じた。
思えば自分は大蝦蟇に飲み込まれたところまでは覚えている。
だとしたらここは大蝦蟇の腹の中だろうか。
そう思ったチルノは自身の体温を下げるも、吐き出される気配は無し。
何よりも、腹の中にしては今いる空間はいささか広過ぎる。
「…出口探そ」
地を蹴る。宙を舞う。
どうやら宙を飛ぶことに関しては問題がなさそうであった。
考えあぐねても仕方がなく、チルノはこの場を後にすることを選んだ。
飛ぶ。
ひたすらに何もない世界を飛び続ける。
最早どこが大地でどこが空かの区別もつかない中チルノは一抹の不安を抱え始める。
もしこのまま飛んでいても何もなかったら。
もしこの先ずっと白だけが続く景色だったら。
もし出口すら見つかることがなかったら。
そんなことはないとチルノは思い切り頭を振る。
しかし、不安には抗えない様子で目には少しだけ涙を浮かべている。
顔は自然と引き締まり、悲愴を募らせる。
そんな時だった。
「あ…」
眼下に広がるは彼女の親友達。
その内の一人を見たチルノはその子のもとへと慌てて降り立っていった。
笑顔を浮かべたチルノの親友。
孤独の寂しさやら悲しさはどこかへと吹っ飛んでいた。
しかし、同時にいくつか腑に落ちないことがあった。
何故彼女達は立ったまま微動だにしないのだとか、何故誰も何も発さないのかだとか。
だが、そんなことは今の彼女にとっては瑣末事にしかすぎなかった。
地面に足を下ろすと同時に親友のもとへ走って駆け寄るチルノ。
笑顔で待ってくれている親友の胸にチルノは思い切りよく飛び込んだ。
パキッ
「…え?」
飛び込んだチルノは変な音とともに受け止められることなくそのまま地面に頭をぶつけた。
しかし、問題は頭をぶつけたことではない。
確かに今までいた親友はどこへ消えてしまったのか。
そう考えた瞬間にチルノはひやりとした感触を覚える。
そしておどろおどろ先程まで親友がいた、音が立った場所に振り向く。
そこには、親友の姿などなく、
首の部分が粉々と化し、
胴体と顔が離れ離れになった、
笑顔の友人の姿があった。
「あぁ…うあぁ……」
いやいやと首を振るチルノ。
しかし目の前に広がる光景は非情である。
そしてチルノが親友を『壊した』のと同時に周りにいた親友も崩れ去っていく。
パキン、パリン、ピシッ
周りにはガラスの破片のような砕けた残骸が残るだけだった。
溢れ出る涙は止まらず、頬を当てがくがくと縮こまる。
突然の悲劇に感情のパロメーターは臨界点を容易に振り切った。
「いやああああああああぁぁぁぁ!!!!」
頭を抑えつけてうずくまる。
認めたくない世界を見たくなくて頑なに目を閉じる。
そうして彼女は意識を失った。
※※※
「…あれ?」
気が付いたら大蝦蟇の池のほとりで眠りこけていた。
辺りは先程まで凍りついていたとは微塵にも感じられず、麗らかな日和が辺りを包んでいるだけだった。
周りの様子を見てチルノは気持ちよくて今までのことが夢だったと気づいた。
「って、夢の中でもあたい負けてるじゃない」
ああぁぁ…
夢の中とはまた別の意味で頭を抱え呻き始める。
何とも情けない話だった。
「ん、でも大蝦蟇に飲まれて終わりよね。 何かもっと嫌なことが起こった気がするんだけど…」
思い返しては記憶をひねり出そうと努力する。
が、結局それ以降の記憶はうんともすんとも出てくることはなかった。
「ま、いいか。嫌なことなんだし」
嫌なこととだけは覚えている。
そんな自分の夢に疑問を覚えながらもチルノはそれ以上の追求は留めることにした。
「げこげこ」
「ん?」
起きあがったチルノの目の前に一匹の蛙が現れる。
チルノは不敵な笑みを浮かべ蛙に手をかざす。
憂さ晴らしにおあつらえの獲物を見つけたチルノはそのまま冷気を手から発そうと――
「…や~めた」
が、ふと気が変わり結局蛙を凍らすことはなかった。
チルノの前で鳴いていた蛙はしばらくの間チルノを見続けたかと思うとそのまま池の中へ、ぽちゃんと潜っていった。
「帰ろ」
しばし自分の掌を見つめていたチルノはそう言ったきり何も言わずに大蝦蟇の池を後にした。
以来、しばらくの間チルノが蛙を凍らして遊ぶ姿は消えた。
夢。
そう、彼女は夢を見ていた。
いつも見ていた雲よりも汚れの無い真白で虚無が覆い尽くす世界。
行く当てもなくただひたすらと。
何も無い世界を白い結晶を輝かせながら飛んでいた。
誰もいない世界から離れたくてただただ眼下を眺めて飛んでいた。
探し始めてどれだけ経ったのだろうか。
幼い彼女の精神力はとうに限界に近づいていて、瞳は涙で溜まり始めている。
いつ涙腺が破綻するか分からない状況でも彼女は泣くまいと、持ち合わせている矮小な見栄とプライドを全て動員させ辛うじて耐えていた。
そんな最中のことだ。
ふと気づくとあちらそちらに彼女の友達が立っているのが見えた。
彼女の不安と絶望感は喜びと安堵に変わる。
しかし、彼女にはどうも納得のいかないところがあった。
普段から仲良い彼女達が集まることはなく、何故か一人一人と点在している。
不思議に思えた彼女は友達の所に舞い降りることにした。
「―――」
近くにいたその内の一人に声を掛ける。
反応は帰って来ない。
筋の躍動、眼球の動き。
それらの挙動一つすらさえ感じられない。
友達の変わり果てた姿をおぞましく感じた彼女は恐る恐る手を伸ばし、触ることを試みた――
Freezin',Fearin',Nightmare
「ふふふ。とうとうにっくき大ガマをやっつける時が来た!」
大蝦蟇の池の上空で氷精が大仰にして叫ぶ。
辺りはすでに凍てついて、霊験あらたかな神水も池に浮かぶ蓮の花も凍りついていた。
冷気は周囲を満たし、白い靄が篭り始める。
木々の間から差す木漏れ日は氷で乱反射し幻想的な風景を醸し出していた。
当の氷精は凍りつかせた蛙をお手玉のように手で弾きながら主である大蝦蟇を挑発しつつ相対していた。
「一度は不意を突かれて飲み込まれたけど、今日のあたいは一味も二味も違う!」
覚悟しなさい!
そう叫ぶチルノに対して大蝦蟇は池を荒らしたチルノに怒り心頭だった。
大蝦蟇はチルノを飲み込もうと舌を伸ばす。
しかし、宙を鮮やかに舞いながら弾幕を放つチルノを捉えることはなかなか難しい。
結局のところ獲物を捕まえることが出来ず虚空を描くだけに終わった。
「あはは、どこを狙ってるのかしら」
尚も挑発するチルノに大蝦蟇は舌の動きを速める。
「うわっ!? むきー! 危ないじゃないのよ!!」
一瞬だけチルノがたじろぐものの、補足するまでには至らない。
回避し続けるチルノは気を良くし、忍ばせておいたカードを取り出す。
取り出したるは意味を持つ命名された紙、スペルカード。
「みんな凍っちゃえ――『パーフェクトフリーズ』」
スペルカード宣誓。
辺りに弾幕が展開された刹那のことだ。
全てを氷りつかせる寒波が弾幕さえ例外なく辺り一面を凍りつかせる。
氷塊となった弾幕は不規則な動きで大蝦蟇へと向かっていった。
大蝦蟇は激昂しつつも冷静に自分の方だけに向かってくる氷塊を舌で弾き飛ばす。
「――っ!?」
何度か氷塊を弾き飛ばしたところで大蝦蟇は驚愕を浮かべた。
長時間舌を出したままにした結果、長い舌は辺りの冷気にあてられ凍りついていた。
そのうえ先程の寒波で池は全て凍りつき、身動きが取れない状況にあった。
勿論のことチルノは意図してやったものではないが、大蝦蟇の状況を知らずのうちに八方塞がりに陥れていたのは事実だった。
「絶対零度以下冷気世界――『マイナスK』」
絶対零度の氷塊がチルノから発せられる。
氷塊は温度差による熱膨張で破裂し、小さな粒となって大蝦蟇に降り注いだ。
動くことも、弾くことも出来ない大蝦蟇に回避する術は無かった。
「―――!!」
甘んじて氷の粒子を体に受ける大蝦蟇。
募り募った低温の粒子は体表面の水分を凍らせ、遂には体全体を凍らせる。
氷が破裂する音だけが響く静寂の後、しばらく経っても動く気配のない大蝦蟇を見てチルノは勝利を確信した。
「あはははは!! とうとう私が勝ったわ!」
高らかに勝利宣言。
心底可笑しそうに笑い、宙を回るその様はまさに妖精。
彼女はひとえに笑い続ける。
「よし。早速あたいが大蝦蟇より強いってことをあのブン屋に伝えないとね」
ひとしきり笑った後に独りごちる。
腹いせに凍らせていた小さな蛙を投げる。
そして、池から離れようとしたところ。
「うえっ?」
急転。
この地ではご神体ともされる大蝦蟇の力は凍った中でも遺憾なく発揮された。
凍りついた大蝦蟇は自力で氷を破り、油断したチルノの足に舌を絡ませ―――
「ちょ、ちょっと止めなさいよっ うぎゃー!?」
そのまま舌を引き込み、チルノを飲み込んだ。
氷精の無残な断末魔が辺りに響き渡った。
いつしか投げた蛙は大蝦蟇を外れ、凍った池の上に落ちる。
衝撃に耐えきれずひびが入った氷はそのまま静かに割れた。
砕け散った蛙の残骸が、池の氷上にひっそりと残った。
※※※
「う、ううん……」
覚醒する。
ぼやけた視界に映るのは真白。
いくらかピントがはっきり合わさる。
が、以前目に映るのは覆い尽くさんばかりの白だけだ。
「ここ、どこだろ」
思わずそう呟かざるを得なかった。
記憶にない世界が眼前に広がり、うすら寒さを感じた。
思えば自分は大蝦蟇に飲み込まれたところまでは覚えている。
だとしたらここは大蝦蟇の腹の中だろうか。
そう思ったチルノは自身の体温を下げるも、吐き出される気配は無し。
何よりも、腹の中にしては今いる空間はいささか広過ぎる。
「…出口探そ」
地を蹴る。宙を舞う。
どうやら宙を飛ぶことに関しては問題がなさそうであった。
考えあぐねても仕方がなく、チルノはこの場を後にすることを選んだ。
飛ぶ。
ひたすらに何もない世界を飛び続ける。
最早どこが大地でどこが空かの区別もつかない中チルノは一抹の不安を抱え始める。
もしこのまま飛んでいても何もなかったら。
もしこの先ずっと白だけが続く景色だったら。
もし出口すら見つかることがなかったら。
そんなことはないとチルノは思い切り頭を振る。
しかし、不安には抗えない様子で目には少しだけ涙を浮かべている。
顔は自然と引き締まり、悲愴を募らせる。
そんな時だった。
「あ…」
眼下に広がるは彼女の親友達。
その内の一人を見たチルノはその子のもとへと慌てて降り立っていった。
笑顔を浮かべたチルノの親友。
孤独の寂しさやら悲しさはどこかへと吹っ飛んでいた。
しかし、同時にいくつか腑に落ちないことがあった。
何故彼女達は立ったまま微動だにしないのだとか、何故誰も何も発さないのかだとか。
だが、そんなことは今の彼女にとっては瑣末事にしかすぎなかった。
地面に足を下ろすと同時に親友のもとへ走って駆け寄るチルノ。
笑顔で待ってくれている親友の胸にチルノは思い切りよく飛び込んだ。
パキッ
「…え?」
飛び込んだチルノは変な音とともに受け止められることなくそのまま地面に頭をぶつけた。
しかし、問題は頭をぶつけたことではない。
確かに今までいた親友はどこへ消えてしまったのか。
そう考えた瞬間にチルノはひやりとした感触を覚える。
そしておどろおどろ先程まで親友がいた、音が立った場所に振り向く。
そこには、親友の姿などなく、
首の部分が粉々と化し、
胴体と顔が離れ離れになった、
笑顔の友人の姿があった。
「あぁ…うあぁ……」
いやいやと首を振るチルノ。
しかし目の前に広がる光景は非情である。
そしてチルノが親友を『壊した』のと同時に周りにいた親友も崩れ去っていく。
パキン、パリン、ピシッ
周りにはガラスの破片のような砕けた残骸が残るだけだった。
溢れ出る涙は止まらず、頬を当てがくがくと縮こまる。
突然の悲劇に感情のパロメーターは臨界点を容易に振り切った。
「いやああああああああぁぁぁぁ!!!!」
頭を抑えつけてうずくまる。
認めたくない世界を見たくなくて頑なに目を閉じる。
そうして彼女は意識を失った。
※※※
「…あれ?」
気が付いたら大蝦蟇の池のほとりで眠りこけていた。
辺りは先程まで凍りついていたとは微塵にも感じられず、麗らかな日和が辺りを包んでいるだけだった。
周りの様子を見てチルノは気持ちよくて今までのことが夢だったと気づいた。
「って、夢の中でもあたい負けてるじゃない」
ああぁぁ…
夢の中とはまた別の意味で頭を抱え呻き始める。
何とも情けない話だった。
「ん、でも大蝦蟇に飲まれて終わりよね。 何かもっと嫌なことが起こった気がするんだけど…」
思い返しては記憶をひねり出そうと努力する。
が、結局それ以降の記憶はうんともすんとも出てくることはなかった。
「ま、いいか。嫌なことなんだし」
嫌なこととだけは覚えている。
そんな自分の夢に疑問を覚えながらもチルノはそれ以上の追求は留めることにした。
「げこげこ」
「ん?」
起きあがったチルノの目の前に一匹の蛙が現れる。
チルノは不敵な笑みを浮かべ蛙に手をかざす。
憂さ晴らしにおあつらえの獲物を見つけたチルノはそのまま冷気を手から発そうと――
「…や~めた」
が、ふと気が変わり結局蛙を凍らすことはなかった。
チルノの前で鳴いていた蛙はしばらくの間チルノを見続けたかと思うとそのまま池の中へ、ぽちゃんと潜っていった。
「帰ろ」
しばし自分の掌を見つめていたチルノはそう言ったきり何も言わずに大蝦蟇の池を後にした。
以来、しばらくの間チルノが蛙を凍らして遊ぶ姿は消えた。