Coolier - 新生・東方創想話

フランと霖と一夜物語

2008/11/03 11:05:14
最終更新
サイズ
18.03KB
ページ数
1
閲覧数
2095
評価数
20/126
POINT
6750
Rate
10.67

「つまらないわ」

湖の畔に建つ紅い館の地下深く、厳重に閉じられた扉の内側で、悪魔の妹は独りつぶやく。

「つまらない、つまらない、つまらない、つまらない……」

変わり栄えのしない部屋で、変わり栄えのしない日々が、何日も何日も何日も何日も何日も続く。
同じ様な時を何年も、何十年も、何百年も繰り返すと、いい加減に退屈で、退屈で、退屈で気が狂いそうになる。
いや、もうすでに狂っているのかもしれない。
だって、気が狂っているからという理由で此処に閉じ込められているのだから。

そういえば、気が狂っているから此処に閉じ込められたのだろうか?
それともこんな所に閉じ込められたから、気が狂ってしまったのだろうか?
思い出せない。
それくらい昔から屋敷の地下室に閉じ込められている。

最後に外へ出たのは何時だったろうか?
あれは確か、何年か前に空から落ちてくる隕石を壊した時だったはず。
久しぶりに吸う外の空気は新鮮で、草の匂いが妙にくすぐったく感じた。
久しぶりに飛ぶ空はどこまでも広がっていて、どこまでだって飛んでいけそうな気がした。
むやみに使ってはいけないと言われている“ありとあらゆる物を破壊する程度の能力”を使って大きな隕石を壊したときは、とても気分が良かった。
あの時は楽しかった。
きっと、あの時の事は忘れ無いだろう。


その前に外に出たのは…………何時だっただろうか?
思い出せない。
あれ以前に外へ出た事が無かっただろうか?
いや、そんなはずは無い。
あれ以前にも外に出た事はあったはずだ。
普通に考えて、何百年もこんな所に閉じ込められっ放しなんて、あるはずはない。

もしかして、夢だった?

いや、そんなはずは無い。
確かに覚えている。
確かに私は外に出たはずだ。
確かに私は自由を謳歌したはずだ。
久しぶりに外に出る事が出来て、感動した事を。
その記憶を忘れない様にと、深く心に刻んだ事を。
確かに私は経験したはずだ。
でも肝心の、外に出た時の記憶が無い。
何があって外に出たのか? 何をしたのか? 誰がいたのか?
必死に思い出そうとしても、出てくるのは、この部屋で過した日々の記憶。
そして、わずかに存在する屋敷内から見た外の記憶。
ずっと忘れないと思っていた外のに出た記憶が、いつの間にか無くなっている。

いやだ
いやだ、いやだ
いやだいやだいやだいやだ!
このままでは、また忘れてしまう。
あの時の草の匂いを、空の広さを。
忘れたくない。
忘れていくなんて、そんなのいやだ。
……外に出たい。
もう一度、外の記憶を刻み込みたい。
それなのに、それなのに“あの女”は外に出てはいけないと言う。
自分は外に出ているくせに。
異変だ、宴会だ、と屋敷を空けるくせに……妹は何時もお留守。
自分ばっかり楽しい思いをしている。
許せない!

許せない、許せない、許せない、ゆるせない、ユルセナイ!

さあっと、カーテンを引いたように目の前が赤くなる。
憎い。
牢獄の様なこの屋敷も、私を閉じ込めている“あの女”も、私を恐れるばかりで遊び相手になってくれない使用人も全てが憎い。

イッソ壊シテシマオウカ?

理性の溶けかかった思考で考える。
この屋敷も、“あの女”も、邪魔するモノを全部、壊してしえば自由になれるのではないか?

駄目だ!
壊す事ばかり考えてはいけない。
そんな事をしては、お姉さまに叱られる。
そして益々お外が遠くなってしまう。
もっと他の事を考えなくては。
壊す事じゃなくて、楽しい事を。
たとえばそう……外の事!

この前外に出た時の草の匂いを、空の広さを思い出す。
あの時は楽しかった。
きっとあの時の事は忘れ無いだろう。
あぁ、もう一度外の空気を思いっきり吸い込み、広い空を飛びまわりたい。
その前に外に出たのは…………


思考がループする。
でも、壊れかけの理性ではそれを判断する事が出来ない。
崩れゆく理性を必死に抱きしめながら、思考の螺旋階段を降りてゆく。


アア、ソトニデタイナ。


/


コンコン

思考を中断させるドアの音。

「失礼します。妹様、深夜のお食事の時間です」

トレイを持った妖精メイドが部屋に入って来た。
いつもは咲夜が食事の準備をするというのに、どうした事だろうか?

「あら、今日は咲夜じゃないの?」
「今日、メイド長はお嬢様のご命令で出かけております。その為、今日は私が妹様のお食
事の用意をさせて頂きます」

これは、チャンスじゃないだろうか。
何を言っても、のらりくらりとかわされる咲夜じゃなくて、妖精メイドが食事を持ってくる。
あぁ、なんだか今日は楽しい一日になりそうじゃない?

「食事の準備はいいわ。それよりも私と遊びましょ?」

ベッドから立ち上がり、ゆっくりと妖精メイドの方へと歩み寄る。

「え? な、何を?」
「何? そうね……鬼ごっこをしましょう」

妖精メイドは怯えた表情でこちらを見ている。
ガタガタと震えて、まるで肉食獣に睨まれた小動物のようだ。
可愛らしい、本当に壊してしまいたいくらい可愛らしい妖精だ。

「どちらが鬼をやる?」
「あ……うぅ……」
「貴方は私に追いかけられたい?」

目に涙を浮かべ、妖精メイドは首を振る。

「そう、じゃあ私が逃げるわね」

鍵が開きっぱなしの扉を開け、部屋の外へと飛び出す。
暗い廊下を駆け抜けり、飛ぶように階段を駆け上がる。
出口は……あった。
たまたま目に付いた窓枠に足をかけ、空中に身を躍らせる。

一瞬の浮遊。


ストン


久しぶりに踏みしめる緑の絨毯。
むせ返るような草の匂い。
頬を撫でる風。
眩暈のする位高い空。
空に浮かぶ大きな月。

ああ、外だ。
夢にまで見た外。
何度も何度も何度も夢に見て、夢と現実の区別がつかなくなる位恋しかった外の世界。
さて、こんなにも広い世界で何をしようか?
まずは―――

「そこまでですよ、妹様」

暗がりから、滲み出すように一人の少女が現れる。

「あら美鈴、こんな所でサボっててもいいの? 門をほったらかしにして、こんな所にいたら怒られるわよ」
「いえいえ、これも私の仕事の内ですよ。内側に敵を入れないことだけが門番の仕事ではありません。出てはいけないモノを門から出ない様にするのも門番の仕事なのですよ」
「あらあら、私を止めるの? 貴方が? うふふ、できるかしら?」
「別に私一人で止めなければいけないとは決まってませんよ」

背後に人の気配が現れる。
振り返ると、其処には新たな少女が二人。

「早く部屋に戻る。何かあってからでは遅いからね」
「いけない子ね、フラン。お姉さまの言いつけを守れない悪い子にはお仕置きをしなくてはいけないわね」

私と同じでほとんど外に出ないパチュリーと、諸悪の根源であるお姉様が、其処にいた。

「あらあら、パチュリーとお姉様まで私を捕まえにきたの? 何時の間に鬼ごっこの鬼がこんなに増えたのかしら?」

私を取り囲むように立つ三人。
軽口を叩いてみたものの、流石に3対1ではすぐに捕まってしまうだろう。
お姉様達を傷つけるつもりなんて、一つも無い。
そんな事をしたら、悲しいだけなんだ。
だけど、私は外に出たい。
ただ、それだけ。
逃げれば、逃げ切ればいいのだ。
そぅ。
だったら、逃げ切るんだ。
あちらが3人ならば、


禁忌「フォーオブアカインド」!


こちらは4方向へ逃げるまでだ!

「「「「あはは、鬼さんこちら、手の鳴る方へ!」」」」


~☆~


私は屋敷の北のほうへ逃げ、美鈴に足止めをされた。
私は屋敷の南のほうへ逃げ、パチュリーの結界に捕らえられた。
私は屋敷の西のほうへ逃げ、お姉様に捕まった。
そして、私は妖精メイドや小悪魔を振り切り、東側から屋敷を抜け出した。

さてさて、屋敷を抜け出してみたけど何をしようか?
弾幕ごっこ?
鬼ごっこ?
かくれんぼ?
思いつくのは、どれも一人では出来ない遊びばかり。
まずは、一緒に遊んでくれる人を探さないと。
屋敷の外にいる知り合いは……
何時だったか、インタビューに来た山に住む烏天狗。
初めて弾幕ごっこをした、神社に住む巫女。
たびたび、屋敷に忍び込んで来る、森に住む魔法使い。
さて、誰の所に遊びに行こうか?

クルリと、周りを見渡す。
遠くの方に小さく見える妖怪の山。
神社のジの字も見えない東の果て。
眼下に広がる魔法の森。
考えるまでもない。

「待っててね魔理沙、今から遊びに行くからね」

建物を探しながら森の上を飛ぶ。

「子ヤギさん、子ヤギさんどこですか~♪ 綺麗な声のお母さんですよ~♪ 真っ白なお手々のお母さんですよ~♪」

しばらくすると、森のはずれに一軒の小屋を見つけた。
木と土で出来た一風変わった小屋。
こんな森に住む変わり者はそうはいないだろうし、これが魔理沙の家だろう。
家の周りには変な物がいっぱい積んである。
ガラクタ集めが趣味の魔理沙らしい家だ。

「藁の家よりは頑丈そうだけど、レンガの家ほど丈夫じゃなさそう。子ヤギさんじゃなくて子豚さんなのかしら」

小屋の前に降り立ちドアを叩く。

「こんばんは魔理沙、遊びに来たよ。弾幕ごっこの続きをしましょう。コンテニューするのは私のほうだったみたいだね」


~☆~


ドンドンドン

僕は扉を叩くような音に目を覚ました。
窓に目をやると、外はまだ暗く、夜明けはまだまだ遠いといった時間だろうか。

「こんな夜中にいったい誰だ?」

心当たりを思い浮かべ……ため息をついた。
夜中に忍び込んで来るメイド。
早朝から押しかけてくる幽霊使い。
流星群を見ると言って泊まりに来る魔法使い。
時間という概念に捕らわれたりしない巫女。
人間に限らず、夜行性の妖怪だって幻想郷には少なくない。
忍び込んで商品を勝手に持っていかないだけマシか。
そう思うことにして、店の入り口に向かう。

「はいはい、今開けますよ」

ドアを開いた僕の目に映ったのは、紅い洋服を着て、虹色の羽を背負った一人の少女だった。

「あら? 貴方はだぁれ?」

それはこちらのセリフだ。
僕の記憶が確かならば、この少女とは初対面のはず。
それをこんな時間、こんな場所を尋ねて来るなんていったい何の用だろう。
もしかして、迷子か何かだろうか?

「僕は森近 霖之助。此処で古道具屋を営んでいる。ところで君は?」
「あら、まだ名乗ってなかったわね。私はフランドール。魔理沙と遊びに来たの。ねぇ、魔理沙は何処かしら?」
「魔理沙だって?」

この少女は、僕ではなく魔理沙の客だったのか。
彼女の知り合いならば、人を夜中に叩き起すような傍迷惑な所業も納得がいくというものだ。

「生憎と魔理沙は此処は居ない。彼女の家はもっと森の奥の方だよ」
「あら、そうだったの。じゃあ魔理沙の家はどちらにあるのか教えてくださらない?」
「教えるのは構わないけど、魔理沙の家を訪ねるのは明日にした方がいいんじゃないかな。さすがにこの時間だと、魔理沙はもう寝てると思うよ」

僕の言葉にフランドールは不思議そうに首を傾げる。

「寝てる? どうして? こんな時間に寝てるのはおかしいでしょ? 」
「君は夜行性の妖怪かもしれないけど、魔理沙は普通……いや、肉体的には普通の人間だよ。人間は朝に起きて夜に寝るといった生活をしているんだ」

もちろん、この僕も夜には寝ているのだが。

「何よそれ。寝てたら私と遊べないじゃない」
「まぁまぁ。明日になって、日が昇ってから遊びに行けばいいじゃないか。別に君は日中に動けないという訳じゃないんだろう?」
「明日? 日が昇ってから? そんなに待てないわ。私はもうすぐ消えちゃうのに」

消えるとは、どういうことだろうか?

「つまらないわ。つまらない、つまらない、つまらない、つまらない、ツマラナイ……」

悲しそうに顔を伏せ、ブツブツと独り言をしゃべっている少女。
もしかして、季節の妖怪か何かなのだろうか?
そうだとしたら次の季節まで魔理沙と会う事が出来なくなる。
それは可哀想な事じゃないだろうか。
それに、僕が叩き起されたのは、きちんと家の場所を教えていない魔理沙のせいなのだ。
別に魔理沙の家を教えてしまっても良いのではないだろうか?
そんな事を考えていると、さっきまで顔を伏せていたフランドールは、僕に向かいニッコリと微笑みかけてきた。

「ねぇ、霖之助。魔理沙の代わりに私と一緒に遊びましょ」
「あ、遊ぶってなにをして?」
「弾幕ごっこ」

何故だかよく分からないが、この少女は弾幕ごっこがしたいらしい。
これはまずい。
フランドールから、有無を言わせぬ危険な雰囲気が漂ってきた。
理性ではなく本能で危険を感じる。

「いや、僕は弾幕ごっこはあまり得意じゃないんだ」
「そんなこと言わずに。こんな時間に起きている貴方は人間じゃ無いのでしょ? 妖怪なのかしら、妖精なのかしら? どちらでも構わないわ。妖怪や妖精は体が穴だらけになったり、バラバラになってもすぐに復活できるのでしょ? だから貴方は何回コンティニューしてもいいのよ」

それは暗に、僕を穴だらけにしたり、バラバラにするといっているのだろうか?
冗談じゃない。

「待ってくれ、弾幕ごっことは元々、決闘の為のルール。つまり、何かを賭けて戦う物なんだ。遊びでの弾幕ごっこなら僕は受けるつもりもないし、始まったとしてもすぐに降参してしまうよ。そんなのつまらないだろう?」
「ふーん。それじゃあ何かを賭ければいいのね。賭ける物は貴方のお家がいいかしら? それとも……」
「いやいや、待ってくれ。弾幕ごっこ意外にも世の中には楽しい事が沢山あるよ。例えばチェスや将棋なんかはどうかな? 体を動かすだけが遊びじゃないだろう」
「将棋? チェス? そんなものより弾幕ごっこのほうがキラキラしてて楽しいじゃない」

やれやれ、どうしたものか。
目の前の少女は思ったよりもずっと危険な妖怪の様だ。
こんな危険な妖怪の相手を、寝ぼけた魔理沙にさせるのは危ない。
だからといって、まともに相手をしてはこちらの身が持たないだろう。
何とか目の前の小さな暴君を、僕の話術で大人しくさせないといけない訳だ。

「まるで千夜一夜物語だな」
「ん? 千夜一夜物語ってなぁに?」

知らず知らずのうちに口に出してしまった様だ。
しかし、千夜一夜物語とは悪くないかもしれないな。
フランドールも興味を持ってくれている様だしこれで行こうか。

「千夜一夜物語とはね、今よりもずっと昔の、はるか西の国のお話だよ」
「どんなお話なの?」

よし、食いついた。
僕は心の中で喝采をあげる。
確か一夜目のお話は……

「むかし、むかし、ある所に旅の商人が居たんだ。その商人がナツメヤシの種を捨てたところ、鬼が現れた。そして鬼はこう言うんだ『お前の投げたナツメヤシの種に当たって私の子供が死んでしまった。だからお前を殺してやる』ってね」
「どうしてナツメヤシの種が当たったくらいで鬼の子供は死んでしまったの?」

予想外の質問が飛んできた。
そういうお話だから……と言った回答ではきっと納得してくれないのだろうな。

「えーっと……例えば鬼が炒った豆に弱いみたいに、むこうの鬼の弱点だったんじゃないかな」
「まぁひどい、そんなものをぶつけたの? それならその商人は殺されて当然ね」

商人ではなく鬼のほうに感情移入するとは、さすがは妖怪といった所か。

「そうだね、その商人も観念して殺される事を受け入れた。でも、死ぬ前に身辺整理をさせてくれと鬼に頼み込んだんだ。鬼もそれを受け入れて、商人は国に帰って身辺整理をした。そして再び鬼の所へ戻ってきた」
「あら、逃げなかったのね。感心感心」
「そうするとね、カモシカをつれた老人と2匹の猟犬をつれた老人と牝騾馬をつれた老人が通りかかり、鬼に対して『不思議な話を聞かせるので、商人を許して欲しい』と願い出たんだ」
「ふ~ん、それはどんなお話だったの?」
「カモシカを連れた老人のお話はね……」

千夜一夜物語。
それは妻に浮気をされ女性不振になった王が、若い女性と一夜を共に過ごしては殺していた。
それを止める為、ある女が寝床で物語を語り、王の気を紛らわせ、話が佳境に入った所で「続きはまた明日」と言って打ち切る。
続きが気になる王は、他の女を呼ばずに、毎晩その女を呼ぶ。
そのお話が千夜続いたというお話だ。
僕が今語っているのもそのお話の一つ。
それにしても、女は死の恐怖に怯え、必死に物語を紡いでいたのだと思っていたが、意外にそうではなかったのかもしれない。
目の前にいる、目を輝かせて僕の話に耳を傾ける暴君を見ると、王の相手も案外楽しかったのではないかと思える。

「―――という訳さ」
「へぇ、じゃあそのおじいさんが連れているのは商人の妾なのね?」
「さぁ、それはどうだろうね」
「教えてくれたっていいじゃない。まあいいわ、それで、二人目の老人の話はどんなものだったの?」

さて、そろそろ頃合か。

「今日はここま……おい、どうしたんだフランドール。体が透けているぞ!?」

いったいどうしたという事だろう。
いつの間にか、目の前の少女の体が淡い光を放ち、だんだんと色が薄くなっていた。

「あら、そろそろ時間切れの様ね。霖之助、今日は楽しかったわ。話の続きはまた次の夜にね」

そして、少女は一際強い光を放つ。
僕が視力を取り戻したときには少女は僕の視界から消えていた。
時間が無いと言ったのは、こういう意味だったのだろうか。

「ふぅ、話の続きはまた次の夜にだって? せっかくの決め台詞を取られてしまったな」

少女が立っていた場所には千切れたような紙切れが一枚。
これはスペルカードの一部か?
いったい彼女は何者だったのだろう。
……今度、魔理沙が来た時にでも聞いてみるか。
分からない事は考えないに限る。
僕は白み始めた空を背に家の中へと足を向けた。


~☆~


「きゅ、どかーん」

パラパラパラ……

天井の目を右手に移し、きゅっと握る。

ドカン

天井の一部が爆発する。

パラパラパラ……

爆発した天井の一部が床に降り注ぐ。

これは、何百年も前から続く私の暇つぶし。
もちろん屋敷のほうも対策は万全なようで、“ありとあらゆる物を破壊する程度の能力”を持ってしても、少しずつしか壊す事が出来ない。
数百年同じことを続けているが、天井に出来た窪みはまだまだ小さい。
後、数千年続けたとしても地上に辿り着く事は無いだろう。
屋敷の外はまだまだ遠い。
だから、これはただの暇つぶし。

「一度くらい、屋敷の外に出てみたかったなぁ」

西に逃げた私は、塀の外へ出る前にお姉様に捕まってしまった。
一人、屋敷の外へ逃げ出した私がいた様だが、本物の私が捕まってしまっては意味が無い。
そして、今はお仕置きとして部屋に閉じ込められている。
当分部屋の外へ出るのは禁止だそうだ。

「あーあ、つまらないわ」

ベッドに倒れこみ、右手に天井の目を移し―――

「よぅ、お邪魔するぜ」
「え?」

いきなり掛けられた声に目を向けると、部屋の入り口に黒いとんがり帽子がいた。

「あら魔理沙、ノックもせずに部屋に入るなんてマナー違反よ」

それ以前に、この部屋には鍵が掛かっていたはずだけど、そんなことはこの魔理沙には関係のない話だろう。

「ノックはお前が代わりに、ドカンドカンとしてくれたからいいんじゃないか?」

魔理沙は天井を指差しニヤリと笑う。

「まぁいいわ、それにしても貴方が私を訪ねてくるなんて珍しいわね。もしかして遊んでくれるの?」
「今日の私は郵便屋さんだ。香霖からのお届け物を持ってきたぜ」
「こう……りん?」
「ああ、魔法の森のはずれで香霖堂って変な店をやってる、森近霖之助って奴だけど、知り合いじゃないのか?」
「知らないわ」
「あれ? おかしいな、香霖の奴はお前を知ってたんだけどな」

私がそんな奴を知っている訳無い。
何百年もこんな場所に閉じ込められて、外の知り合いといったら、新聞屋の天狗と、紅白の巫女と、目の前にいる魔法使いくらいのものだ。

「うーん、まぁ、いいか。とりあえずお届け物だ」

魔理沙は私の前に一本の瓶を差し出した。
受け取って、瓶を良く見ると、中には色とりどりの玉が入っている。

「これはなぁに?」
「キャンディだな。それにしても最近のキャンディはいろんな色があるんだな。まるでお前の羽みたいだ」

ああ、確かに魔理沙の言うとおりだ。
これは私。
透明な檻に閉じ込められた虹色。
この屋敷に囚われた私そのものだ。
これは何の嫌がらせだろうか?
アァ、イライラスル。

「お、おい。なに怖い顔してるんだ。キャンディは睨みつける物じゃなくて、食べる物だ。いいから舐めてみろよ」

魔理沙の言葉に従い蓋を開ける。
そして一つ瓶から取り出す。
……あれ?
取り出した紅い玉。
瓶の中にはたくさんの虹色が囚われている。
一つ減ったのなんて全然分からない。
でも、指の間のには自由になった虹色の一部がある。
そうだ、こんな手もあったんだ。
私がこの部屋を抜け出そうとすると、すぐにばれてしまう。
でも、私の一部、たとえば蝙蝠一匹分位なら、この屋敷を抜け出してもばれないのじゃないだろうか?
さすがに弾幕ごっこをするには力不足だけど、お話をする位ならそれでも十分。
この部屋にずっと閉じ込められているよりは何倍も良い。

「うふふ、ふふふふふ……」
「どうしたんだフラン?」
「なんでもないの。気に入ったわこのプレゼント。送り主にはぜひお礼を言わないとね」
「ああ、香霖にはちゃんと伝えとくぜ」
「よろしくね」
「それじゃあ用事も済んだ事だし、帰るとするか」

いつもなら帰ろうとする魔理沙を引き止めるところだけど、今日はそうはいかない。
それよりも確かめておかないといけない事がある。

「ねぇ魔理沙、今日の天気はどうなの?」
「天気? 今日は曇ってたけどそれがどうしかたんのか?」
「なんでもないわ。それより魔理沙、背中にゴミがついてるわ」
「なに、本当か?」

魔理沙は背中に手を伸ばしパタパタとはたく。

「私が取ってあげるわ」

私は魔理沙の背中に手を伸ばし、そして……



その日、魔理沙と一緒に一匹の蝙蝠が紅魔館の外へ飛び出した。
その蝙蝠の羽は宝石のように紅かった。
どうも、ここまで読んでいただきありがとうございます。
半ば意地になって霖之助を出している方の久我&金井です。

このお話は、某所に投げたネタのリサイクルだったりします。
今回の初めてフランドール嬢を書いてみたのですが、狂気と無邪気を併せ持つ少女というのが中々難しい。
本当はちょっといいお話的な終わり方をする予定だったのですが、思いどうりに動いてくれず、ホラーか何かのような終わり方になってしまいました。
そんな困ったフランちゃんですが、きっと千一夜目には良い子になってくれていると信じています。(続きません?)
金井
http://j-unit.hp.infoseek.co.jp/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.4960簡易評価
27.90名前が無い程度の能力削除
面白かった。あと1000話読みたい。
28.70名前が無い程度の能力削除
久しぶりにちょっと不幸なフランを見た気がする。
もっとほんわかしたいので、続きをまた、次の晩に。
31.90名前が無い程度の能力削除
さぁ続きの999話を書く作業に戻るんだw
36.80名前を表示しない程度の能力削除
なるほど、霖之助のところに来たのは偽物だから本物は霖之助を知らないわけか。
これは残りの千夜に期待せざるを得ない。……え、続きなし?
37.100名前が無い程度の能力削除
霖之助はちっちゃい子供の相手する兄さん役が似合うなぁ(*´ω`)
40.90名前が無い程度の能力削除
千夜一夜物語の話の続きも気になった、
さぁあと999話を書いてくれ
45.80名前が無い程度の能力削除
さて、999+エピローグ頑張ってくださいw
51.90名前が無い程度の能力削除
その意気やよし!
どこまでもついていくのでさあ霖之助を書くんだ
57.80名前が無い程度の能力削除
続かない……だと?
そんな馬鹿な話があるか……ッ!?
60.100名前が無い程度の能力削除
貴重なこーりん分をありがとう!私の栄養源です。
61.90名前が無い程度の能力削除
なるほど、つまり1千夜語り終えたこーりんをフランが娶るんですね?

・・・・・・・・・・・・よし殺ろう。
66.90名前が無い程度の能力削除
>ああ、イライラスル。
イスラエルがどうした?って思った
70.100名前が無い程度の能力削除
>半ば意地になって霖之助を出している~
その意地、自分も付き合いますぜ。
久我&金井さんの霖之助絡みの話は、欠かさずチェックしております。
74.90名前が無い程度の能力削除
嗚呼、次の物語を聞くまでは、余は汝を殺すまい。
75.90名前が無い程度の能力削除
せめてもう一夜だけでも
76.100時空や空間を翔る程度の能力削除
大変だな~、
あと999話書かないとって・・・

続かないだと・・・「もったいないお化け」がでちゃうぞ!!
90.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしいフランと霖之助をありがとう
さて、残りの999話はどこかな?
ん?続かない?
何を言っているのかワカリマセーン
91.100名前が無い程度の能力削除
霖之助さんは子守り役にぴったりじゃないですかw
(ただし変態設定除くww)
92.70名前が無い程度の能力削除
※66
まったく同じ見間違いをした
109.90名前が無い程度の能力削除
さすが霖之助。
死亡フラグまで折るとは、フラクラの名に相応しい。