・・・空が明るくなり始めた頃、博麗神社に不穏な影がちらほら。
それは悪戯好きな妖精、サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイア。
三匹の妖精が持っていたのは、長い筒のような物であった。
(これで博麗の巫女をギャフンと言わせる事ができるの?)
(外の世界では、これを使って人間を驚かせるのが一般的なのよ)
スターの言葉を聞いても、未だサニーには疑問が山積みであった。
確かに霊夢を驚かせたいと言い出したのは自分だが、その為の道具調達を
スターに任せっきりにしたのが、少々不安だった。スターが持ってくる
道具の殆どが、自分達には到底理解できない品物だからだ。
(この『バズーカ』は外の世界で、主に眠っている人間に対して使われる物。
凄まじい音で相手の耳を麻痺させる。ちなみに、今私達がやろうとしている事は、
外の世界で『早朝バズーカ』という名前で知れ渡っているみたい)
(へ、へぇ・・・。外の人間って変な奴が多いのね)
やけにスラスラと喋るスター。それに圧倒されるルナ。
スターは人一倍悪戯に詳しい。落とし穴などの古典的な悪戯から
外の世界で作られた巧妙な罠まで網羅している。
が、あまりにも出来が良すぎる物は、大抵自分達が引っかかる。
まぁ、今回はスターが使い方を知っているのだから、大丈夫だろう。
3匹の妖精は、重そうな長筒を抱えて神社へと忍び込む。
霊夢や萃香に気づかれないように、細心の注意を払いながら、
ついに霊夢が眠る部屋の前までたどり着く。ここまでは予定通りだ。
(で、どうするのよ?)
(出来るだけ霊夢にこのバズーカの銃口を突き付けて。あ、向きを間違えないで)
スターの指示に従い、着々とバズーカのセッティングを行うサニーとルナ。
一方で霊夢は、枕元の妖精など気にしないくらいに、お気楽な寝顔を披露していた。
準備は出来た。サニーが筒の先端部分を持ち、中間部分をルナが持ち、
筒の後ろのスターは、バズーカを作動させる引き金に指を当てていた。
(サニー、ルナ、準備はいい?)
(大丈夫よ)
(こっちも大丈夫!スター、あの巫女を驚かせてやって頂戴!)
その声を聞き、スターは勢いよくバズーカの引き金を引いた。
夜明けの幻想郷に、一つの爆発音が響き、また静かになる。
今日も幻想郷は平和だ。平和といったら平和なのだ。
#4「活動写真ロマネスク(前)」
「まだ耳鳴りがするわ・・・これで耳に異常がなければいいんだけど」
落ち葉掃除をこなしながら、未だ耳鳴りが止まない事を気にする霊夢。
なぜなら、朝早くから耳元で爆発にも似た音を聞かされたのだ。鼓膜が破れなかっただけでもまだマシだ。
ちなみに三月精は神社の屋根に吊るされ、『反省』と書かれた札を張り付けられた上に、
霊夢による素敵な拳骨まで貰っていた。これで暫くは大人しくなってくれるだろう。
今日は雲一つない快晴。連日続いた曇天日和からは、とても予想できない程の晴天だった。
こんな日は縁側でお茶を飲むに限る。茶菓子の煎餅はまだ残っていただろうか。
「さてと。掃き掃除はこれくらいにして、お茶にしようかしら」
「あら、お茶だったらもう用意してあるわよ」
八雲紫。その声の主であり、霊夢よりも先に縁側でお茶を楽しむ神出鬼没の妖怪だ。
その上、丁寧に茶菓子の煎餅まで召し上がっているではないか。
「もう・・・。勝手に来て勝手にお茶を飲むのはやめてくれるかしら」
「来客にお茶を出すのは当然の事ですわ」
「はいそうですか。で、今日は何の用?」
渋々用件を聞く霊夢。隣にはいつもより活き活きとした紫の姿。
こんな時の紫といえば、大抵どうでもいい事を考えているに違いない。
この前は『醤油貸して』だったし、その前は『考えてたけど忘れた』だった。
恐らく今回も、これらと同じ奴だろう。霊夢はそう考えていた。
が、今回はとんでもない用件だった。
「霊夢、活動写真って知ってるかしら?」
* * * * *
話は数日前。紫が外の世界から流れ着いた、とある道具を拾った事が全ての始まりだった。
「・・・活動写真、ですか?」
「そう。あ、活動写真って言うのは動く紙芝居って事よ。動きだけじゃなくて、音も記録されるの」
自分の式、八雲藍に活動写真の説明を行う紫。知力の高い藍だが、活動写真という単語は初耳だった。
紫から話を聞かされても、脳内ではそれをはっきりと再現できない。
「それを紫様が作ると・・・。しかし、道具はあるのですか?」
「当然よ。活動写真に必要な道具は揃ってるし、本もあるわ」
そう言って、紫は藍に本を手渡す。表紙には様々な文字が書かれ、右上に『没』と判子で押されている。
中は挿絵が一切なく、それでいて小説でもない。上と下にただ文字が並んでいるだけだ。
「それは『台本』と呼ばれる本。活動写真の演者が読む為の本よ。下に書いてある台詞を読んで、
物語を進めていく。誰が何を演じるかは、冒頭部分に書かれているわ」
見ると、確かに冒頭部分に役名と演者の名前が書かれている。
「私はこの台本を参考にして、新たな台本を作ったのよ。それも人数分」
「人数分って、誰が出演するんです」
「見れば分かるわよ」
先ほど手渡された台本と同じ厚さの本を受け取る藍。表紙には『博麗の奇跡』と書かれ、下の部分に
『監督 八雲紫』と記入されている。これは元となった台本にも描かれていた。
「監督は活動写真の全責任を担当するの。それなりに偉い仕事なのよ?」
「それなりに、ですか」
次のページからは、役柄と演者が記入されていた。が、まずその演者の名と役柄が凄かった。
『博麗の巫女 博麗霊夢』
まんまだ。別段おかしい所は無い。
『囚われた可憐な少女 八雲紫』
これも別段おかしい所など・・・
「・・・紫様、間違いがあります。紫様はもう少女と呼べる年齢じゃ・・・」
「失礼ね。私は見た目からして花も恥じらう乙女じゃない。
・・・それとも藍は、私が少女じゃないって言いたいのかしら・・・?」
殺気を帯びた笑顔で藍を見つめる紫。こうなったら道は一つだ。
「い、いいえ!紫様は可憐な少女です!誰が見ても少女です!!」
「いい子ね。流石は私の式だわ」
とりあえず生命の危機は去った。藍は安堵の表情を浮かべ、再び演者の名を確認する。
『極悪非道の大魔王 レミリア・スカーレット』
・・・紫様は、あの湖の吸血鬼とそんなに仲が悪いのだろうか?
『役に立たない門番 紅魔館の門番』
いや、ここは名前で呼んであげてもいいのでは・・・
『危険な場面の身代わり 藤原妹紅&蓬莱山輝夜』
蓬莱人を身代わり扱いとは、世も末だ。
『その他大勢』
いきなり省略ですか!?
その他に何が入るのか全く分からないまま、次は活動写真の制作者達の欄に移る。
『音響担当 プリズムリバー家』
妥当だ。むしろそれ以外に任せたらいけない気がする。
『小道具・大道具担当 河城にとり』
・・・道具関連は彼女一人に任せるつもりなのか?
『場の空気和ませ担当 リリーホワイト』
そんな担当は必要ないだろう。
『撮影担当 \射命丸/\あやちゃ~ん/\あやややや/』
何故呼び名を統一出来ない!(児玉清風に)
『演技指導担当 佐藤(42)』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰?
『特殊演出担当 只<俺の出番が来たぜ!』
歩いてお帰り。
『それ以外 面倒だから藍がやって』
だが断る。
・・・もう冒頭数ページから混沌だ。次のページをめくったら、その混沌に飲み込まれてしまいそうだ。
だが、藍の中に芽生えた『それでも読んでみたい』という欲望が、次のページを開かせていた。
* * * * *
『シーン1:紅魔館地下牢』
檻の中、鎖に繋がれた紫様が、救い出してくれるであろう霊夢に語りかけるシーンだ。
紫「・・・霊夢。私をここから救い出して。この光当たらぬ暗闇から私を救いだして・・・!」
何だまともじゃないか。藍の口から出そうになったその言葉は、次の行で完全に引っ込んだ。
紫「霊夢がレミリアの××××を××××して××××した後に××してくれる事を祈ってるわ・・・」
*只今の発言の一部に、倫理上不適切な発言がありました事を心より深くお詫び致します 八雲藍
紫「そして最後は、私と霊夢が××××」
*只今の発言の一部に、倫理上不適切な発言が(ry
・・・もうこのページだけでアウトと叫びたい。いや待て、アウトなのはこの文だけじゃないか。
次の台詞はきっと、いやお願いだから倫理上大丈夫な台詞であってほしい。
紫「霊夢・・・私はあなたが来るのを信じているわ・・・」
よかった。最後は大丈夫だった。
途中の台詞は流石にお遊びだろうと信じ、次のシーンが書かれたページに目を通す。
『シーン2:博麗神社』
紫様を救い出す為に、霊夢が嵐の中で打倒レミリアを誓うシーンだ。
霊夢「・・・たとえ幾多の敵が待ち受けようとも、私は決してくじけない」
霊夢「待っていなさい大魔王レミリア!貴女を倒し、紫を助け出し、幻想郷征服の野望を打ち砕いてやるわ!」
そして霊夢が華麗に飛び立ち、シーン2が終了する。まともだ。それ以外に言葉が出ないほどまともすぎる。
2度も謝罪コメントを打ち出したシーン1とは違い、穏やかなシーン2だった。
その後も様々なシーンが展開されていくが、謝罪コメントを打ち出すような文章は特に見当たらない。
自重すべき所は自重したか。いや、出来るなら最初の部分でも自重してほしかったが。
「それじゃあ、私は演者達の出演交渉に行ってくるわ。藍、留守番よろしく」
「紫様一人で行かれるのですか?交渉事なら私もお供いたしますが・・・」
「一人で十分よ。私だって子供じゃないんだし」
そう言って、紫は自らが作り出した隙間の中に消えていった。しかし、あんな台本で演者は納得するのだろうか。藍は不安になった。
* * * * *
そして話は博麗神社に戻る。霊夢もまた、紫から活動写真とは何かを聞かされていた。
特に霊夢は主役となるべき人物なので、念入りに説明された。単に耳鳴りが煩いので何度も聞き返しただけだが。
「それで、霊夢は出てくれるかしら?」
「別に構わないけど・・・他はどうするのよ?」
「大丈夫よ。私には、絶対に承諾できる秘策があるわ」
紫が取り出したのは、大量の銀貨だった。銀貨の両面には『メダル』と書かれ、中央には星の絵が描かれている。
「これも外の世界から流れてきた物よ。銀だから資産価値は十分にあるわ。これを演者のお駄賃にするのよ。
これだけ大量にあれば、いくら出番が少なくても納得してくれるわ」
「そう旨く話が進むかしら・・・」
確かに大量の銀貨を渡されれば、活動写真という未知なる出来事に挑戦してもいい気分になるだろう。
だが、この幻想郷の住民は大量の貨幣で動かされる者はいないと思われる。
それでも紫にはもう一つ、とっておきの秘策があるというが・・・。
「撮影開始は1週間後よ。それから、シビックを山の河童に預けてもいいかしら?」
「構わないわ」
紫はその場に隙間を作り、何処かへと消えてしまった。
* * * * *
1週間後。霊夢は活動写真最初の場面である、紅魔館の地下へとやって来た。
ここは西洋の飲み物であるワインを保管する部屋があったり、フランの部屋があったりする。
地下牢は空き部屋を改装した物で、今回の撮影のみで使用される。なんとも贅沢な部屋だろうか。
撮影に使われるのは、肩に背負うほどの大きさを誇る写真機。これも外の世界の物だ。
重たそうな写真機を抱えながら、文は使い心地を確認している。
暗い部屋を明るく見せる為、板に大量のメダルを張り付けた物もあった。これは手作りだろう。
ランプを持つ妖精メイドの動きに合わせながら、板の角度を調整する下っ端妖怪。
演奏担当のルナサ・プリズムリバーは、シーン1で演奏する音楽の楽譜を眺めている。
全ての調整が完了し、監督でありシーン1の演者である紫が準備に入る。
紫が着ている服は、ボロボロになった白いドレス。これは人里の職人に作らせた特注品だ。
「それではシーン1。よーい、始め!」
紫の代わりに活動写真の指揮を執るのは藍。台本を持ち、撮影開始の合図を送る。
それと同時に文が持つ写真機が紫に向けられ、光も当たり、ルナサのバイオリンが暗い音楽を奏で始めた。
紫「・・・霊夢。私をここから救い出して。この光当たらぬ暗闇から私を救いだして・・・!」
何ともない出だしから始まったシーン1。霊夢は紫が次に言う台詞を台本で確認する。
紫「私は大魔王レミリアに捕まり、もう何日もこの牢の中に閉じ込められています。
このまま地上の光を見ぬまま朽ちる前に、霊夢・・・あなたの手で・・・」
という台詞だ。が、次に聞こえた紫の台詞は、
紫「霊夢がレミリアの××××」
*(ry
「(本当に言ったーっ!!?)紫様!?流石にその台詞は駄目ですって!!」
「えー。いいじゃないのこれくらい」
藍の猛抗議にも、紫は全く応じるつもりはない。それどころか、「早く撮影を再開しなさい」と言い出す始末。
今の台詞をそのまま流せば、抗議どころの騒ぎでは済まない。最悪の場合、閻魔が説教しにくる危険性もある。
「お願いします、どうかその台詞だけは変更して下さい!!」
「分かったわよ。まったく、藍は頑固なんだから・・・」
そう言って、台本を手にする紫。少し時間が経ち、台詞を覚えてもう一度役者モードに入る。
さっき読んだ台本は、霊夢と同じ内容の物だ。先ほどの台詞はちゃんと修正されている。
「で、では。改めてシーン1。よーい、始め!」
紫「・・・霊夢。私をここから救い出して。この光当たらぬ暗闇から私を救いだして・・・!」
紫「私は大魔王レミリアに捕まり、もう何日もこの牢の中に閉じ込められています。
このまま地上の光を見ぬまま朽ちる前に、霊夢・・・あなたの手で私を・・・」
紫「霊夢・・・私はあなたが来るのを信じているわ・・・」
「それまで!このシーン終了です!」
藍の掛け声が地下牢に響く。これで1つ目のシーンが終わった。これから何百もある内の1つ目が終わったのだ。
本当に出来上がるのだろうか。霊夢はそう思いながら、自分が出演する次のシーンの台詞を小さな声で繰り返していた。
* * * * *
・・・シーン30、霧の湖での撮影が終わった。撮影終了時には既に日も落ち、これからは夜のシーンの撮影に移行する。
が、演者達は心底疲れ切った表情をしていた。朝早くからの撮影に加え、紫が納得するまで何度もやり直しを食らったからだ。
「どこまでやらせるつもりなのかしら・・・」
「今日はこのシーンで終わりよ。霊夢だって、そろそろ横になりたいでしょう?」
既に出番を終えた紫が話す。ちなみに文面上はカットされているが、シーン3からシーン30まではこうなっていた。
* * * * *
神社から出撃した霊夢を、水晶玉から偵察するレミリア。彼女は妖精小隊を出動させ、霊夢抹殺を企む。
一方、霊夢も幻想郷の仲間達(というか魔理沙一人だけ)と共に力を合せ、妖精小隊を蹴散らしていた。
そこに現れる強大な敵と、レミリアによる非情な罠。霧の湖に辿り着く頃には、霊夢一人となっていた・・・。
* * * * *
・・・というのがシーン30までの流れである。シーン31以降の撮影は明日、紅魔館での撮影だ。
まだ半分にも達していない中、残りのシーン撮影を、たった1日で終わらせるという超強行スケジュール。
しかも紫曰く「失敗したらやり直しの効かないシーンがある」らしい。明日は地獄だ。
霊夢は一応最後のシーンのセリフまで頭に叩き込んであるが、それが本番でも生かされるかは分からない。
多くの人間や妖怪が撮影器具の後片付けに追われる中、霊夢は一人神社へと戻って行った。
・・・何か忘れてるような気がしたが・・・まぁいいか。
あ、後半に続きまーす。
がんばってください
しかもよりによって霊夢にしかけるとは、
この妖精ら、よく生きていられたな
懐かしいwwwwww
ここまですんなり霊夢やらレミリアやらが応じるとは俺は思えんぞwww
役をやらせるまでの一悶着が欲しかった。
それに台本の中身。
そうか、藍様はきっと物語的なものは読んだことが無いんだね!
だからまともに思えるのか!そ~なのか~!
いやまともじゃないとは言いませんけどねw
・・・シビック死んだな。