Coolier - 新生・東方創想話

WhiteRockの暴風

2008/11/01 23:12:18
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※オリ設定あり。



1日の仕事を終え、夜空を見上げる。
私の仕事は人里のはずれにある小さなお堂の改築であった。
私がこの仕事をやるといったとき、妻や近所の人たちがしきりに止めたのはなぜだったか。
理由を尋ねても、彼らは何かに怯えたように口を硬く閉ざしてしまうのだった。
この仕事を依頼したのは人里の新興宗派のようなもので、「威差加様」と呼ばれる神を奉っているらしい。
なんでも、冬、星が良く見える夜に黒い巨大な人影のようなものが現れ、それが「威差加様」なのだそうだ。
「それ」の目は夜空の星で出来ており、気に入ったものは浄土と見紛うような美しい土地に連れて行かれ、
この世のものとは思えない財宝を授かるのだと言われた。なぜ寒さ厳しい冬と暖かいとされる浄土が結びつくのか。
そこが里の人間が受けつけない所以なのか。私も彼らに好意は持てない。確か春告精を殺そうとして失敗したんだったか。
その妖精は賢明にも大声で暴れ、弾幕をばら撒いて自力で逃げたのだ。
それでも妻のあの怯えきった様子はそれだけではない何かが原因であるようだった。
とは言え、生活のためなので仕方がない。彼らに提示された法外な報酬は魅力的である。
たとえそれが、この仕事を引き受けたのが私以外にないことを嫌というほど教えていても。
しかし、頼まれた仕事は予想以上に大きくはかどり、最初は仕事に消極的だった部下たちも徐々に機嫌を直したようだ。



仕事終わりの一杯のつもりだったが、どうやら飲みすぎたらしい。
私はお堂で酔いつぶれている部下たちを置き去りにして、近くの小高い丘に登った。ここは星が良く見えるのだ。
あれは源氏星、あれは青星だったか?……星の名は子どもたちのほうがよく知っている。寺子屋で教わるのだろう。
そして見つけた、青く燃え上がるような2つの星。あの星の名はなんだったか。そもそもあんなところに星などあったか。
仕事に忙殺されて星の位置すらあやふやになってしまった。今度うちの子に聞いてみよう。
感じたのはそのときである。どこからか誰かに見入られているような薄ら寒い感触。
決して今の季節のせいだけではない。振り向いた先に得体の知れない人物がいて、こちらを観察しているような、
粘るような不快感だ。関わってはいけない。首を動かしてはいけない。
そう感じた私は視線の逃げ場を夜空に求めたが、さきほどの2つの星が"目"に見えてしまい、不快感を抑えられない。
「威差加様」の伝承を思い出す。ありもしない人影が現れたように見えて、首を振り、おかしな考えを追い出そうとした。
これは気のせいなのだ、点が3つ逆三角に並んだら人の顔に見えてしまいなのがちだと、あの獣人も言っていたではないか。
星は2つしかないが、きっと何かが3つ目の点になったに違いない。そう自分に言い聞かせて――――

「もし、そこの人」
「え?!」

急に話しかけられて後ろを振り向く。しまった、と思ったがそこには誰も居ない。
簡単なことだ。今日はやはり飲みすぎたようだ。早く家に帰って――――

「もし、そこの人」

とっさに視線を元の位置に戻す。と、そこには先程までいなかったはずの少女の姿が。
そのとき、物理的な気温が急激に下がったと思ったのは気のせいだろうか。……人間ではない?
早く家に帰りたい。しかし、この不思議な少女のことも気になった。こんなに寒いのにあまりに軽装過ぎないか?
もしかしたら本当に道に迷った人間かもしれない。凍死される前に家に帰さないと、最悪でもお堂に泊めよう。
私はあまりにお人よしだった。今思えば、このときにでも一目散に家路を駆け抜けていけばよかったのだが!
私は人間とも妖怪ともわからない少女に話しかけ、しばらくすると落ち着きを取り戻すのが分かった。
その少女はとても冬と言う季節が好きなようであった。

「寒くないのかい?」
「寒いほうが好きよ。私の季節ですもの」

そういうと彼女は邪気の無い笑みを浮かべ、それを一瞬でも可愛いと思ってしまった私は今、
ひどい後悔の念に駆られている。浮気を妻に咎められたからであったならどんなに良かったか。
もう全ては手遅れである。なぜなら、

「君、名前はなんていうんだい?」

なぜなら彼女は人の発したとは思われないような、歯と舌が嫌に擦れるような声でこう答えたから!

「XXXX」

その名前はあの「威差加様」を連想させるような不快な音だった。
思い出した。この少女は妖怪だ。確か名前は「レティ・ホワイトロック」だったはずではないのか?!
不意に、少女の手が伸び、私の顔に触れる。ぞっとするほど冷たい。しかしそれよりも
私の背筋を凍り付かせたのは、先程まで煌々と輝いていた2つの星が跡形も無く消え去っていたことである。
突然吹き付けた吹雪に打たれながら、そこで私の意識は一旦途絶えた。



今私は先程まで立っていた丘を歩いている。積もった雪が歩くのに邪魔なほどだが、むしろ喜ばしいくらいだ。
先程まで私がどんな目に遭っていたか、思い出すだけでもぞくぞくして、とても筆舌に尽くしがたい。
だが、強いて言うなら、私はこの世のどこでもない、しかしあの世でもない土地を延々連れ回され、
しかもその土地は極寒地獄と呼ぶのもまだ温いような、ともかく非常に寒い土地だったのだ。
そして気がつくと私はもといた丘に見慣れない装束を着せられ捨てられていた。

「『威差加様』のご利益じゃー!」

声のするほうを振り向くと、あの新興宗派の連中が大勢たむろしていた。私を見て、身包み剥ごうと構えている。
罰当たりな奴らめ。「XXXX様」は私をお選びになったのだ! その一瞬後には彼らは例外なく肉塊に変わり果てていた。
おぼつかない足取りで空になったお堂にへたり込む。あの死体はしばらく放置しよう。凍った肉のほうが、美味いからな。



幾日彷徨っただろう。どこへ向けて歩いたのだろう。気がつくと、白い翼を生やした、小人のような少女の姿が。
そのとき、物理的な気温が急激に上がったと思ったのは気のせいだろうか。

「春ですよー」

それが今の私には呪いの言葉に聞こえて、持っていた歪な形の武器でその小人を突き殺した。
この武器の名はなんだったか。そもそも私はこんなものを持っていたか。
体が熱い。今ならあの少女の言葉が良くわかる。少女、いや「XXXX様」、今一度、私を浄土にお導きくださいませ……
そこで私の意識は再び途絶え、二度と戻らない。
2作目の投稿となります。TOBBYです。
少し早いですが冬の怪。恐怖神話的白岩様になってたらいいなぁ。
TOBBY
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コメント



0.120簡易評価
3.無評価名前が無い程度の能力削除
なにか元ネタがあるのかな?よくわからん。
9.30ルル削除
イタカ、というかこの場合だと呼称はウェンディゴですね。まぁ確かに通じるものはありますな。

クロスオーバーの是非とかは置いといて、内容的にもう少し練り込んだ方がよかったかも。
話の展開があまりに唐突過ぎて読者がおいてけぼり気味になってますよ。
例えば、「威差加様」なる異形の神が、いつ頃から、どういう経緯で幻想郷にて信仰されるようになったのか。
その辺りを書き込んでおくと、より状況の把握がしやすくなり、読みやすさにもつながると思います。

あと、これは私の経験上ですが、東方界隈に限らずクトゥルフネタとのクロスはかなり読者を選びます。
ラヴ様から始まる暗黒神話体系自体、知らない人は想像以上に多いですから。
注意書きを添えるなら「オリ設定あり」よりも「クロスオーバー注意」の方が良いかもしれません。
12.無評価名前が無い程度の能力削除
題名の遊戯王自重ww
クトゥルフネタは、
分かる人の反応→ニヤリとする、または神話のイメージと合ってなくて残念に思う
分からない人の反応→?????ググってもよくわからん…
クトゥルフ神話は元ネタ理解するのにかなり時間かかったなあ。
13.50名前が無い程度の能力削除
元ネタはよくわかりませんが、雰囲気だけでも楽しめました。